「何だ、こりゃァ―――ッ!? "おれの『スタンド』が『変化』している"ッ―――!!?」
……一体、どういうことだ、これは。
「古泉ィ――ッ!! この、おれたちの『ネコ化』は!
『精神にまでは影響しない』はずじゃあなかったのかッ!?
だが、『スタンド』が変化してるって事は!
おれたちは、『精神までネコになりつつある』って事じゃあねえかッ―――!?」
「バカなッ――! そんなはずはない!
涼宮さんが『ぼくらが心までネコになる』なんて事を求めるわけがないでしょうっ!?
いや、しかし! さっきから、ぼくらの行動はおかしい!
泥のついた足を、平気で舐めたり、耳に突っ込んだりしているッ! 無意識にだッ!」
「ちょっと―――ッ!! あんたたち、静かにしろ!
この『スタンド』は、『黒ネコ』が出しているのッ!?」
キキィ。と、耳障りな音を立てて、車体が揺れる。
どうやら、『森さん』が、どこかに車を停めたようだ!
エンジンは切らないまま、運転席から腰を上げ、森さんが、俺たちの居る後部座席を振り返る!
まずい、このままじゃあ―――俺たちは、『敵』だと認識されてしまう!
「ごっ、『ゴッド・ロックゥ』―――! 一度戻れッ!!
森さん――!! 違う、おれたちは、ちゃんと『おれたち』なんだ!
今の『スタンド』は、『攻撃』しようとしたわけじゃあないっ!」
「ニャアニャアうるさいッ!
さっき、あんたたちは、あたしの言葉を『理解』してたわね!?
知能の高いネコの『刺客』……ありえない話じゃないわ!
もっと警戒するべきだった……!」
そう言いながら、森さんが何かを取り出す……『拳銃』だァ――ッ!?
まずい! 森さんが『スタンド』を出したなら
こちらから『スタンド』で話しかける事も出来る!
しかし、森さんの『スタンド』は戦闘向きでない!
「三匹とも『スタンド使い』と見たほうがよさそうね……
しかし、『鶴屋さん』は確かに、ネコになってしまった三人を見ているし、スタンドで確認もしている!
三人が隠れている間に、あんた達が入れ替わった……そう言うことかしら?
『スタンド』は出すんじゃないわよ!
出した瞬間、『撃つ』! いい、私の質問に、さっきのように『行動』で答えなさい!」
やばい。完全に眼がマジだ。
チクショウ、ありえねえだろう、そんな超展開!
ハルヒの能力で、俺たちがネコになってしまいました! そんな時に都合よく、ネコの『敵スタンド使い』なんぞが現れるかよォォ―――ッ!!?
「ダメです、いくら突拍子のない話でも!
事実として、姿の変わってしまった『ゴッド・ロック』を、彼女は見てしまった!
彼女がぼくらを、『見知らぬスタンド使い』だと認識してしまった以上、警戒を解くはずはない……!」
全身の毛を逆立てながら、古泉が、小声で言う。
チクショウ、確かに! 普段のロックと今のロックとの共通点なんか、全身が黒いって事くらいだ。
更に、ロックには、そいつを見せればロックだと分かるような『能力』もない。
……或いは、朝比奈さんや古泉のスタンドなら?
俺は、朝比奈さんをちらりと見る。
……なんてこった、ぼんやりと寝そべってやがる!?
この状況が分かってないんですか、あなたは!?
「……鶴屋さんの言っていることは確かだったわ。
つまり、あの三人が『ネコ』になってしまっているのは間違いない!
なら、何故、この車に、あの子達が乗っていない?
……あんたたちが『摩り替わっ』た、それしかありえない!
あの三人をどうしたってのよ、あんたたちは!
まさか……『殺した』わけじゃっ、ないでしょうねッ!? そのスタンドで!」
「ちが」
「肯定なら、尻尾を三回! 否定なら、二回振りなさい!」
……ダメだ、言葉は通じないってのは、なんて不便なんだ、畜生!
せめて、『マシンガンズ』を! あの強烈個性爆発スタンドを、一瞬でも森さんに見せることが出来れば!
憶測でしかないが、人型でないマシンガンズなら。
変化があったとしても、どこか面影が残っているはず……
しかし、今。俺たちには、『銃口』が向けられている。
スタンドを出した瞬間に、頭をブチ抜かれちまうかもしれない……
「うう……うーん……」
不意に車内に響いたのは……朝比奈さんのうめき声だった。
目を覚ましたんだろうか?
いや、しかし……何か妙だ。さっきから感じていたが、今の朝比奈さんは……
ただ、眠たいだとか、そういうのとは違う。
何か……何か、妙なんだ! よくわからんが、俺の直感が、何か妙だと騒いでいる……
「……早く、答えなさい!!
あんたたち……あの三人を! キョン君と、古泉と、朝比奈みくるを、どうしたのよ!」
「あ……私……」
! また、朝比奈さんが、何かを呟いた……
さっきまで、シートにうつ伏せになっていた朝比奈さんが
なにやらおぼつかない足取りで立ち上がる……!
「あっ、朝比奈さん! 動かないでください、今はまずいんだ!」
「古泉くん、な、なんか、あたし、さっきから変なんですよう……」
な……何だ、この人は……この状況が、まったく眼に入ってないのか?
ゆったりとした動きで、朝比奈さんは、古泉に近寄る、そして―――
なにやら、古泉の胴体に、顔面をこすり付け出したッ!?
「ちょっと、待てッ! 動くなって言ってるのが分からないのッ!?」
「うーん……はあ……」
森さんが怒声を発するのにも構わず、朝比奈さんは、その、謎の行為を続ける……
「動くなって―――」
! 森さんが、銃口を朝比奈さんに向けた!
古泉と朝比奈さんは、シートの中央! 俺は左側のドア寄りに居る―――こうなれば、一か八かしかない!
「『やれ』ぇ―――ッ!!」
「ッ!?」
俺の体から、森さんの、銃を持つ手に向かって!
まっすぐに、獣の姿の『ゴッド・ロック』をシュートする―――
その『手』に、喰らい付く!!
「なっ!」
バス。……車内に響き渡る銃声! しかし、その一瞬前に! 『ゴッド・ロック』の突進によって、森さんの手、その銃口の矛先は!
朝比奈さんと古泉から逸れて、後部座席の右側のシートに向けられている!
弾丸がブチ抜いたのは、無人のシートだ! そして、『二発目』は『撃たせない』!
「『セックス・マシンガンズ』ゥゥゥ―――!!」
古泉が吠える! しかし―――古泉の体からは、何も『飛び出さない』!!
やはり、『マシンガンズ』も! 変化していた―――!
「―――フニ゛ャァアッァァァオウ!!!」
……その声は、古泉の体から発せられた声だ。
気のふれたネコのような、ケバついた声。
それを発したのは―――"古泉の体に現れた『セックス・マシンガンズ』"!!
古泉の肩の上に、小型の『発射台』が現れ
小型の『ガトリングガン』の砲身が、前方に向かって伸びている。
そして、その砲身の真下、古泉の頭の真上に!
まるで、帽子の鍔のように突き出した、あの『口』が付いている!
「『クイモノ』だ、『マシンガンズ』――ッ!!」
「アギャァァァァオ!!」
『マシンガンズ』を構えた。いや、『装着』した古泉が、森さんの手に飛び掛かる!!
「くぅッ!?」
そして、『口』が、喰らい付く――その『拳銃』を、食ったァ―――ッ!!
いや、しかし! このままじゃあ、ただ、俺たちが森さんを『攻撃』したようにしか見えない―――
『マシンガンズ』は、おそらく、人語を話せなくなってやがる!
だったら―――後は! 『森さんにスタンドを出させる』しかない!
「『ゴッド・ロック』!! ―――『ブッ壊せ』ェー!!」
俺の声と同時に、『ゴッド・ロック』は、座席を駆け登り、運転席へと襲い掛かる!
「くッ、何をッ―――!?」
「『やれ』ェ―ッ!」
銃を失った以上、ロックが森さんの攻撃を受ける心配はない。
ロックは、運転席に上半身を突っ込むと―――前足を振り上げ!
まず、『ハンドル』を殴り付けた!
今のロックに、どれほどの『パワー』があるかは分からなかった。
しかし、どうにか、それを『破壊する』だけのパワーはあったようだ。ハンドルは、根元からへし折れた!
俺の視界と、『ゴッド・ロック』の視界が交差する―――次は、座席の下! 『アクセル』だ!
「―――げぇっ!? こ、古泉! どれが……『どれ』が『アクセル』だッ、このペダルはァ―――ッ!?」
「えっ……い、一番右ですッ!! ……ちょ、ちょっと待った、まさかッ!?」
危険は承知だ、チクショウ! しかし、これしかないんだよ!
見ろ、この状況。俺の目の前に、森さんが迫ってるんだぜ?
両手で俺に掴みかかろうとしてるらしい。 このままじゃ―――『絞め殺される』んだよォ―――――ッ!!
「踏めええええ!!」
『ゴッド・ロック』の前足が、三つあるペダルの内、もっとも右のペダルを、目一杯に踏み込む!
当然、俺たちの乗っている、この車は―――動き出す!! ただ、前方へと、我武者羅に!!
「何ぃ―――ッ!!?」
間一髪、俺の脆弱な体に、森さんの両手がたどり着く、寸前に! 森さんが、フロントガラスを振り返った!
ハンドルは無い、アクセルはひたすら踏み続けられる―――
この状況で、森さんが取る行動は、一つしかない―――
「くッ―――『箱船(ヘブンズ・ドライブ)』ゥゥ―――ッ!!」
―――その言葉が、聴きたかったんだぁ―――ッ!!
ぐおん。……ハンドルを失ったはずの車体が、進行方向を変え、車内の俺たちの体は大きく揺らぐ。
背筋に感じる、覚えのある『スタンド反応』。
間違いない―――像は無いが! 森さんのスタンドは、発動している!
「森さん―――!! 聴いてください、おれなんです!
ここに居るのは、間違いなく、おれと、古泉と、朝比奈さんなんだァ―――!!」
俺が発した声は、『ゴッド・ロック』の口から、音ではない声として放たれる。
その瞬間。フロントガラスへ視線を向けていた森さんが、こちらを振り返る―――『届いた』!!
「な……何? 何ですって? 今のは、キョン君の……」
「森さん、聞こえているんですね?
ぼくです、古泉一樹です! お願いします、事情を話させてください!
『ヘブンズ・ドライブ』を解除しないでください!
どこかへ停めて、ぼくらの話を聞いてください!!」
続けて、古泉が、小型化された『セックス・マシンガンズ』を介して叫ぶ。
『スタンド』を介した声は、俺たちの本来の声色で発せられる。これなら……きっと!
「あんたが、本当に『古泉』……ッ!?
ちょっと待て! この『スタンド』はどう説明するのよ!?
あんたのスタンドは、あのやかましい『マシンガンズ』……
まっ、まさか、それ……『その頭に乗っけてるの』が、『セックス・マシンガンズ』だっての!?
でもっ、鶴屋さんは、あんたたちの『スタンド』は、いつも通りだと言ったのよ!?
その『スター・ウォーズ』の世界からちょろまかしてきたみたいな『スタンド』の
どこがいつも通りの『セックス・マシンガンズ』なのよッ!?
なら、この黒い『スタンド』が
キョンの『ゴッド・ロック』だとでも言うわけッ!?」
だから、その説明をさせてくれと言っているんじゃねえかァ―――ッ!!
こうなったら、とにかく経緯だけでも、手早く――――伝えようとした、俺よりも一瞬早く。古泉が、叫んだ。
「――『森園生』!
ぼくの上司で、年齢は29歳! 独身、みずがめ座!
三つ下で、現在二股中の弟がいるっ!!! 父方の実家は『和菓子"もり家"』だッ!!」
「なッ―――!?」
「好きな歌手は『鈴木雅之』!
好きな食べ物は『酒盗』と『豆腐よう』
そして毎晩欠かさない『酒類全般』!
ただし『ジン』だけは飲めないッ!!
『週刊ヤングジャンプ』を、毎週、森田まさのりの『べしゃり暮らし』を読むために購読している!
あれ、早く捨ててください、居間がヤンジャンだらけで邪魔なんですよッ!!
初恋は小学四年の時、二学年上の『ノリアキ君』!!
ファーストキスは高校一年生の時! 相手は部活動の先輩で、そのとき舌を――――」
ガシャン。
……突如として語られ始めた、その奇妙に偏ったプロフィールは
始まりと同じく、『突如』に終わった。
車内を揺さぶる衝撃と、それに伴って響き渡った轟音によって、無理矢理に掻き消されたのだ。
「……もうっ、わかったわ! 理解したわよ、あんたは間違いなく『古泉一樹』よッ!!
だから、それ以上喋るなァ―――ッ!!」
少々時間を要したものの、俺はどうにか、その状況を理解することが出来た。
先の古泉の言葉に気をやっていたために、気づかなかったが。
いつの間にか、俺たちを乗せた車は、先ほど停止した位置から移動していた。
『ゴッド・ロック』の目で、車のバックを振り返る。
……ゆですぎて縮れてしまったラザニアのようにひしゃげたボンネットと、灰色のビルの壁が、視界に映った。
「……わかっていただけて、光栄です」
間一髪、バックガラスが砕け散るほどの勢いで無かったために難を逃れた。
もしガラスがブチ割れていたならば、今頃俺たち三匹は、ガラスのシャワーを浴びていたところだ。
荒く息をつきながら、顔面を真っ赤にした森さんが、古泉に掴みかかる。
まるで、そのまま絞め殺さんかのような勢いだ。
「だけどっ、どういうことかはさっぱりわからないわよッ!
アンタたちの『スタンド』に変化はないって聞いてたぞ、アタシは!
古泉、あんたが『その心配はない』と言ったと
アタシは鶴屋さんから聴いてるのよッ! どういうことか説明しろっ!!」
「おっ、落ち着いてください森さんッ!!
それがぼくに説明できるなら、この世にぼくらは必要ないッ!!」
自らの存在をえらく軽視した古泉の発言。しかし、それは正しい。
俺たちのスタンドに変化が現れた。
それはつまり、俺たちの『精神』にまで、ハルヒの力による『ネコ化』が及んでいるという事だ。
そして。その『ネコ化』は、まだ留まっていない!
「ハルヒは、今どうしてるんだ?」
「そ、それだ! 森さん、『機関』に連絡を……
涼宮さんはどうしてますかッ!? まだ、学校にいるんですかッ!?」
古泉の言葉が終わるよりも早く。
森さんは、古泉の体を掴み上げた両手を開放し、携帯電話を取り出し、耳に押し当てた。
……しばしの静寂。数秒か、十数秒ほどだったろうか?
その短い時の間に、森さんの眉間に、徐々に皺が寄せられていく。
「……なんで出ないのよッ!? 涼宮ハルヒの状況よッ!?
『監視室』にかけてるのよ!? この時間なら、間違いなく、校内を監視してるヤツがいるはずでしょッ!?」
校内を監視。機関が、日ごろから……
特に、この『スタンド』事件が勃発して以来、より強固に、ハルヒの動向を逐一監視していることは聞き知っていた。
が、久しく還れていない常識に基づいて考えて見れば
そいつはどうにも奇妙で、ある意味恐ろしいものでもある。
校内を監視しているのなら、当然、俺たちや、ハルヒとはほぼ無関係な連中の行動までもを、常に見ているものがいるわけだ。
しかし。俺の背筋に、嫌な予感が奔る。
『それは、今、この瞬間も、問題なく行われているだろうか?』
「ッ! やっと出た……おいッ、何やってんだ監視ぃッ!!
『絶対に監視室を空けない』のが、アンタたちの仕事じゃ……」
……次の瞬間。森さんの携帯電話から毀れ出た、電話口から発せられた、その『声』を。
俺と。そして、おそらく、古泉の耳とが。はっきりと捉えた。
『……ウギャーォ……』
「なッ……何ィィ―――――――ッ!?」
車中に、俺たち三人(厳密には、二匹と一人……ああ、もうどうでもいい。三人だ)の声が、折り重なって響き渡る。
「おいっ、監視、ふざけてんのかッ!?
アタシは今テメーらの冗談に付き合ってるほど……」
『フギャーッ!!』
……今日、何度目だろうか。変わり果てた姿となった古泉と、目が合う。
「んな……ウソでしょォオオッ!? なんで……『監視』が、『ネコ化』してるってのッ!?
説明しろ、古泉ィ――――ッ!!」
「おっ、落ち着いてください、森さっ……」
携帯電話をシートに叩きつけながら、森さんが再び叫ぶ―――そして、次の瞬間だ。
どうやら、俺は古泉よりも一歩遅れて。その『異変』に気づいたらしい。
「これが落ち着けるかッ! どうして監視が『ネコ化』してるのよッ!!
アンタの推論は、どこから間違ってたってーのよッ!?」
……目の前で、見る見る姿を変えてゆく森さんを見つめながら。
俺はため息を付き、とりあえず―――『ゴッド・ロック』を解除した。
これで、『ネコ』と『人間』との間の、言葉の隔たりなどに悩む必要もなくなったわけなのだから。
「……な、何よ、アンタたち……ッ! ちょっと待て……何か、何かおかしいわよッ!?
何が? これは……どうなってッ、まさか―――――――ッ!?」
「森さん、学校に……すぐに『ヘブンズ・ドライブ』で、ぼくらを学校に連れ戻してくださいッ!!
わからない、何がおきているのか、さっぱりわからないが……
もしかしたら、これはやはり『スタンド攻撃』なのかもしれないッ!
そうでなくても―――ぼくらが学校を離れるのは、何か『まずい』!
はやく―――フロントの上に『飛び乗って』ください!!
でなけりゃ、その姿じゃ『前が見えない』だろうッ!?」
……意外なことに、かわいらしい小柄なアメリカン・カールへと姿を変えてしまった『森さん』に。
古泉が、体毛を逆立てながら叫ぶ。
やがて、状況を理解したらしい。
森さんは、まだこなれていない足つきで、助手席、フロントへと飛び移り、立派な事故車と化した車体を動かし始めた。
……俺はというと。先の古泉の言葉にあった、『スタンド攻撃』の単語を、脳内で転がしていた。
『ゴッド・ロック』の像は引っ込めたが、『探知能力』は問題なく機能している。
森さんが『ヘブンズ・ドライブ』を発動させる瞬間も、確かに感じることができた。
そして、やはり。あの時、俺たちが『ネコ化』した時、校内に『スタンド攻撃』などは存在しなかったはずだ。
なら、この状況は一体どういうことか。
……それが分かったなら、世界に古泉も長門も朝比奈さんも、岸辺露伴も
スタンド使いのイタリア人も、必要ないだろう。
「ああっ、クソッ! 『スタンド』だけで手一杯だってのにッ! ハルヒは一体何がしたいってーんだッ!」
「あなたも、落ち着いてください!
とにかく、原因が『学校』にあるのは間違いないんです!
学校を監視していた監視室の人間が『ネコ化』したのも説明が付く……
これは、『ウィルス』だ!
『人をネコへと変えるウィルス』!!
何故、学校にそんなものが発生したのかわからない、けれど、そうとしか考えられない!」
俺の口から零れ落ちた愚痴を拾い上げた古泉が
知らぬ間へグリーンへと変わって行ったエメラルドの色の瞳を俺に突きつけながら言う。
「『ウィルス』だって? ちょっと待て、学校にそんなものが発生してるってのか?
それも、学校を監視しているやつらまでもに感染するような
『ネコ化ウィルス』だってのか?」
いや、それどころか。もし、古泉の新たな『仮説』が真実であれば。
『ネコ化ウィルス』に感染した人間と、電話越しに会話した森さんまでもが、そのウィルスに感染してしまった。
それほどに強力な『ウィルス』。だとしたら――――
"『今、北高はどうなってしまっている』というんだ?"
「――っ、森さん、急いでくれ!」
フロントに向かって叫ぶ古泉。その視線の先で、四足で立ち
フロントガラスを見据えるアメリカン・カールが、こちらを見ないままに声を返す。
「言われなくても、急いでいるわ……古泉。あんたの『仮説』は
今度こそ正しいかもしれないわ……
でも、同時に『間違って』もいる……
今、この状況は、あんたが思っているよりもずっと『酷い』かもしれない」
先ほどの激昂を忘れてしまったかのように、落ち着き払った、森さんの声。
そして、そこには落ち着きと同時に、聴くものの背筋に伝達するかのような、冷たく重い『緊張』が有った、
「不思議なのよ……一昨日を思い出すわ。アタシは『急げている』の……
どんどん中心街の方へと向かっているっていうのに
『信号待ち』をくらったりも、スットロい前車にイライラさせられたりもせずに!
その代わりに……道路のそこらじゅうに、不自然に『停まっている車』や!
異様にそこらをうろついている『野良ネコども』を避ける羽目を食らっているけどな……!」
「何だってッ……?」
……ネコという生き物は、足の裏からしか汗をかけないという。
しかし、俺は、森さんの言葉を聴いた瞬間。自分の額から
汗の粒が流れ落ちてゆくような錯覚を感じた。
背中の皮膚が縮み上がるかのような、ジリジリとした感覚。
「『ネコ化』は既に! 北高以外にも及んでしまっているのかッ!?」
森さんの言葉を疑う余地もない。助手席の背もたれの上へと飛び乗り、車窓の向こう側を覗くと……
そこには、つい一瞬前、俺が脳裏に浮かべたような光景が、現実に存在していた。
人気のひとつもない街並み。そしてその代わりに
あちらこちらで、うろたえるように周囲を見回している『ネコ』たちの姿……
しかし、その光景よりも―――俺の左胸の鼓動を速めているのは、その光景とは別の事象だ。
森さんの声を聴いた時、感じた『緊張』……しかし、それはただの緊張ではない。
今もなお、俺の背筋を蝕み続けている、この感覚……
森さんが『ヘブンズ・ドライブ』を進め
俺たちが北高へと近づくにつれて、徐々に強まってゆくこの『感覚』は!!
「『スタンド』だ……北高に、『スタンド』がいるッ!!
『スタンドの気配』が、北高から伝わってくるんだ、古泉、森さんッ!!」
「―――何だってッ!?」
その声は、二人分のものだ。まったく同じ言葉が、古泉と森さんから、俺に向けて投げつけられる。
「これは『スタンド』だ!
おれの『ゴッド・ロック』が、北高からスタンドの気配を感じ取っている!!
さっきまでは……おれたちが学校を離れるときまでは、感じられなかったものだッ!
だが、今、はっきりとわかった! やはり、この『ネコ化』は『スタンド能力』なんだ!」
「ちょっと待ってください……話が矛盾している!
あなたはあれほど、ぼくらの『ネコ化』はスタンドではないと……
学校内に『スタンド能力』はないと、繰り返していたじゃあないですかッ!
……まさか、この騒ぎだってのに
それとは無関係に『敵スタンド』がやってきたとでも言うのですかッ!?」
「違う! このスタンドは間違いなく『ネコ化』なんだ!
何故さっきまでは感じられなかったかわからない……
しかし、今なら感じ取れる!
『ネコ化』したお前たちや、そこらの通行人たちからも感じる……
北高から感じるスタンドにやられた『気配』を!」
頭に浮かぶ物事を、そのまま口から垂れ流す。頭の中で整理をしている余裕など、今の俺にはない。
背筋に、全身に、神経に、『ゴッド・ロック』に伝わってくる、確かな気配。
それは、紛いなき『スタンドの気配』。しかし、その気配は―――
「こいつは、おれの知らない『スタンド』じゃない……いや、違う!
このスタンドは、おれのよく知っているスタンドと、とても『似てる』……
おれは、この『スタンド』を知っている! この『スタンド』が、いったい誰の……いや」
全身から湧き上がるかのように。俺の頭の中で、いくつものピースが嵌ってゆく。
パチリ、パチリと、その一つ一つが、音を立てるかのように、はっきりと!!
「これは―――『学校のスタンド』だッ!!
古泉……お前は、言ったよな!?
"北高は、ハルヒの力によって、『自意識』を持ったパワースポットになっている"と!
こいつはその『自意識』だ……ハルヒの能力によって生まれた『自意識』が! 『スタンド能力に目覚めた』んだッ!!」
俺の言葉と同時に。こちらを見据える二対の瞳に、はっきりとした驚愕の色が浮かび上がった。
本体名 - 西宮北高等学校?
スタンド名 - 不明 … 能力:人間を『ネコ化』させるウィルスを発生させる?(仮説)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョン(♂)
体長/体重:174cm/62kg → 32cm/3.2kg
品種:カラスネコ(日本猫・黒ネコ)
毛色:ブラック
目の色:赤みがかったゴールド
スタンド:『ゴッド・ロック』 変化:人型・体長2m→猛獣型・体長1.5m
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
古泉一樹(♂)
体長/体重:179cm/67kg → 35cm/3.6kg
品種:ロシアンブルー
毛色:グレー
眼の色:エメラルドグリーン
スタンド:『セックス・マシンガンズ』 変化:銃器型・全長0.84cm→装着型
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
朝比奈みくる(♀)
体長/体重:152cm/?kg → 30cm/2.8kg
品種:日本猫・アルビノ種
毛色:ホワイト
目の色:右目…ヘーゼル 左目…ブルー
スタンド:『メリー・ミー』 変化:未確認※現在、原因不明の意識不明瞭状態であり、スタンド発動は不可能?
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
森園生(♀)
体長/体重:163cm/53kg→30cm/2.5kg
品種:アメリカンカール
毛色:セーブルティックドタビー
目の色:カッパー
スタンド:『ヘブンズ・ドライブ』 変化:特になし
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
to be contiuend↓
最終更新:2014年06月05日 01:34