第二十六話「キリング・ザ・ドラゴン③」

勝負は決した。Dioの勝利で。レースの興奮冷めやらぬ中、ぼくは言った。
「……これで全レースが終わった。もう帰ろう」
勝者インタビューなんて聞く気にはなれない。一刻も早く離れたかった。しかし、古泉が驚いた様子で言う。
「何を言ってるんですか。わざわざ譲ってくれたというのに、お礼も無しに帰るなんて。いくらご友人でも、礼儀がありますよ」
全くの正論だ。ぐうの音も出ない。ぼくは特に反論する気にもなれず、車椅子に体を預けた。
……嫌な気分だ。単なる嫉妬だろうか。あるいは、奴への嫌悪感か。どちらとも言えなかった。
ここの所の騒がしい日々では感じる事の無かった思い。単純な気持ちではない。
光に影が射すような……。この前の夢といい、この頃の出来事は一体何なのだろう?
手足を縛られ、取り囲まれていくような……嫌な気分だ。
そんな事を考えていると、ふいにドアが音をたてる。ノック……にしては乱暴すぎる。体ごと体当たりしているような、鈍い音だ。
様子がおかしい。そう思ったが、些細な違和感はドアを開けようとするキョンを止めるには十分ではなかった。
それは模型のようにじっと立っていた。しかし、驚くべき事にそいつは生きている。
考えられない事だ。しかし、鱗の光沢といい、鋭い牙といい、作り物ではない。
本物だ。本物を見た事があるはずもないのに、そう確信させるだけのリアリティを放っていた。
恐竜。馬鹿馬鹿しいとしか言いようが無いが、それが目の前にいるのだ。

本物の恐竜が目の前にいる。余りの現実感の無さに、咄嗟に動く事が出来なかった。
「マッガーレ!」
静寂を古泉が破った。赤の光弾が恐竜を襲う。しかし、レーザーが焼いたのは後方の壁だった。
忽然と恐竜の姿が消えていたのだ。呆然としていると、空気を切り裂く音が耳を突く。
見ると、恐竜が天井近くまで飛び上がっていた。予備動作は無かった。その状態からあそこまで飛んだっていうのか!?
この近距離で「マッガーレ」を見切った事といい、地球上の生物を遥かに超えている!
驚いているうちに、恐竜が落下を始める。その落下地点は……!間に合わない!
呻き声を上げながら古泉が倒れる。恐竜が飛び掛かったのだ。地上最強の生物が生み出す衝撃に耐えられるはずも無い。
くそっ、早すぎる!助ける暇も無い!後ろ足で体を抑えつけられた古泉に、大型のサバイバルナイフのような爪が迫る。
「あの距離で余裕でかわすとは、恐ろしい『動体視力』……僕の『マッガーレ』のスピードはトップクラスだと思っていたんですがね……自信無くしますよ。
ですが、僕の能力は体を『光弾』に変える能力でしてね……」
恐竜の動きが止まり、やがて蛮声を上げながら大きくのけぞった。
見ると、ちょうど恐竜が抑えていた部分がまるまる光弾に変わっていた。体を離した恐竜に、すかさず長門が蹴りを見舞う。
サッカーボールのように蹴り上げられた恐竜は、壁に叩きつけられると動かなくなった。
「ゼロ距離なら、避けるも何も無いという事です。長門さんナイスアシストでした」
「これは一体?」
長門は気を失ったらしい恐竜を見ながら言った。古泉も合点がいかない様子で首を捻る。
「恐竜が現代に復活したというニュースは聞いていませんね」
「じゃあ『スタンド』だって言うのか?だが、これは俺にも見えてるぞ」
キョンにも?とすれば、少なくともこれはスタンドの像ではない。
スタンド使いではないキョンにはスタンドの像は見えないのだ。はっと気が付き、ぼくは長門に言った。

「長門、君にも見えたようだし、触っていたよな?」
そうだ。長門も正確にはスタンド使いではない。情報操作の能力だ。
しかし、この前の億泰の「ザ・ハンド」の時、彼女はあたかもスタンドが見えたかのように行動していた。
「……私にもスタンドは見えない。でも、エネルギーの変化は読み取れる。それにより、疑似的にスタンドを見る事は出来る。
でも、触る事だけは出来ないはず。だからこれはスタンドじゃない」
驚きの長台詞だ。出来れば別の時に聞きたかったが。長門は恐竜にほんの少しの間触れると、驚いた様子も無く言った。
「骨や内臓など、各種機関の存在を確認。これは本物」
荒唐無稽だが、長門にそう言われては信じるしかない。と、ここで不意に疑問が沸く。
なぜ誰も来ない?ここはVIPルームだ。警備員が詰めているし、他の部屋にも要人のボディーガードがいるはずだ。
その中で恐竜の耳を突んざく咆哮と、格闘による騒音が鳴り響いたのだ。誰も様子を見に来ないなんて考えられない。
いや、それ以前に……静かすぎる。レースが終わって間も無いはずだ。それなのに、窓の向こうからは以前のような熱気が無い。
何が起こっている?窓の外を見て頭が凍り付く。ぼくは震える指で外を指差した。
「皆、見ろ……!」
そこはまるで出来の悪い合成映画だった。最新鋭のオーロラビジョン、電光掲示板、手入れの行き届いた芝生……。
そこを恐竜が闊歩している。それも、無数の。さっき目撃したばかりの圧倒的な強さを持つ生物が。
それらを認めた古泉が苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「……奴ら、本気のようですね。これまでは涼宮さんへの悪影響を懸念してか、襲撃の対象は僕達だけでした。
こんな攻撃をするという事は、相手も手段を選べなくなってきたという事でしょうか」
ここで言葉を切り、思い出したように言う。
「そう言えば、涼宮さんですが」
視線の先にはこんな状況にも関わらず、ぐっすりと眠る少女。長門がそれに答える。
「少し眠ってもらう。心配は無い……多分」
多分か。かなり不安だが、古泉はぼくをよそに素晴らしいと言って微笑んだ。キョンが焦れたように言う。

「これもスタンドだとして、一体どんな能力なんだ?」
古泉は小孝した後に重苦しく口を開いた。
「材料が少ない今、断定は危険です。『少なくとも恐竜を出現させられるスタンド』程度に考えておきましょう」
断定は危険。その通りだ。「黄の節制」、「運命の輪」、「チューブラー・ベルズ」。
これまで戦ってきたスタンドの中には、一つの能力で多くの事をする物があった。
目の前の恐竜だけで襲撃者のスタンド能力を考えては、木を見て森を見ずという事になりかねない。
確かな事は少ない。しかし、ぼく達がすべき事は一つしかない。
「あの数じゃあ、いくら何でも勝ち目が無い。本体の位置もわからないんだ。ここは逃げるしかない」
三十六計逃げるに如かずってね。悪いけど一般市民の保護なんて到底無理だし、現状では最も優れた作戦だ。
古泉も同意見のようで、ニヤリと笑う。
「話が早くて助かります。そうと決まれば行きましょう。朝比奈さん、涼宮さんを運んで下さい。
あなたの『マドンナ』なら楽に---どうしました?」
返事が無いみくるさんに古泉が訝し気な視線を送る。みくるさんは聞いていたのかどうか、良くわからない返事をした。
「……すみません、何だか寒くて」
言いながら、七分ほどまで捲ったカーディガンを手首まで戻す。
落ち着いて振る舞ってはいるが、やはり本調子ではないのだろう。キョンはみくるさんを心配そうに見ながらおずおずと言った。
「朝比奈さんには悪いが、早く行こう。恐竜なんてスクリーンの中だけでたくさんだ」
「ちょっと待ってくれ」
止めたのはぼくだ。キョンがムッとした視線を向ける。
「ぐずぐずしてる暇は無いぜ。一匹来た以上ここもヤバい。早く行かないと」
「大事な事なんだ。奴ら……恐竜の事なんだよ」
ぼくは考えながら口を開いた。
「恐竜が出た時の事を思い出してくれ。一番近くにいたのはドアを開けたキョンだった。
でも、実際に襲い掛かったのは恐竜から遠い古泉。……なぜだ?」

ぼくにはその理由がわからなかった。怪物の思考を考えるなど馬鹿げているかもしれないが……。
もしかすると、この小さな疑問が突破口になるかもしれない。考えもしていなかったのか、キョンが眉を寄せながら言う。
「……さあ。古泉が攻撃したからか?」
その可能性はぼくも考えた。しかし。
「じゃあ、攻撃されるまでつっ立ってたのは?隙だらけの姿を晒した理由は?」
そうだ。あの時恐竜は凍り付いたぼく達に先手を取る事をしなかった。古泉の攻撃を受けて初めて反撃したのだ。
再び考え込むキョン。長門が独り言のように言う。
「……恐竜は動かない物を認識しない?」
微かに上げられた語尾は疑問形である事を示していたが、ぼく達を驚かせるには十分だった。
あの時、ぼく達の殆どは余りの出来事に動けなかった。例外は古泉だけ。状況はぴたりと当てはまる。
「そんな馬鹿な。あの動体視力ですよ。長門さん、あなたも見たでしょう?」
「あり得ない事ではない。ある種の生物は動く物しか認識出来ない。恐竜も生物なら、そのような習性を持つ事はあり得る」
「しかし……いや、失礼。さっき断定は危険と言ったのは僕でしたね。確かにそう考えれば納得出来ます。可能性としては高い」
落ち着いた声で言う古泉とは対照的に、キョンの口振りは明るい。
「おいおい、ジョニィ。本当なら、この発見は値千金だぞ」
断定は出来ない。試してみる必要があるが、その価値はある。
「次に会ったら確かめよう。……時間を取らせた、出発しよう。歩けるか?みくるさん」
とは言ったものの、どうやって逃げる?確か、ここは六階だったっけ。
エレベーターと階段。どっちを使っても恐竜と鉢合わせする可能性はあり、その狭い空間内で出くわしたら危険は数倍にも膨れ上がる。
悩むぼく達に長門が思い立ったように言った。
「逃走経路なら、考えがある」

「本当か?それはどういう……」
キョンの質問を待たずに長門は窓に歩み寄り、拳を一閃。騒々しい音と共に分厚いガラスが割れる。
「き、君ッ!何をしてるんだッ!?」
長門はぼくを無視して窓の端にあった布を広げ、階下に落とした。
あれにはぼくも見覚えがある。この手の施設には付き物の防災器具の一つだ。防災スライダーって言うんだっけ。
飛行機によく取り付けられている物で、地上に向けて広がった布が滑り台状になり、滑り降りる事が出来るという装置だ。
通常なら細かい調整が必要なのだろうが、情報操作のお陰か綺麗に広がった。なるほど、つまりこれで降りようと?
第三のルートって所だが、はっきり言って正気の沙汰ではない。ターフには恐竜が腐るほどいるのだ。
そこに飛び込むなんて自殺行為以外の何物でもない。ぼくは声を荒げて長門に抗議した。
「長門、君の狙いはわかった。でも、見てわからないのか!?あそこは危険すぎる!」
「心配無い」
長門は短く言うと、設置されていたテレビモニターをスライダーに置いた。手が離れたそれはころころと傾斜を転がっていく。
転がり落ちたそれに恐竜が集まる。わざわざ誘き寄せて、どういうつもりだ。
「長門、君は何を?」
「…………今」
長門が呟いた瞬間、場内に激しい爆発音が轟いた。スライダーの先に黒煙を上げる金属片と、
無惨にも倒れた恐竜達の姿があった。
「情報操作でモニターの回路を組み換えて爆弾にした。時間が無い。早く滑って」
「……貴方、案外派手好きなんですね」
全部わかればいい策だけどさ……先に説明してくれよ。首を捻りながらもぼく達は滑り降りた。

降りてみると、辺りの恐竜はすっかり気絶していた。生きてはいるようだが、この惨状からすると爆弾の威力は相当な物だったらしい。
「……少し、火力を強くしすぎたかも」
「爆弾とか、お前はセガールか」
キョンのぼやきを金属音のような鳴き声が遮る。これは……しまった!ぼく達は致命的なミスを犯したのかもしれない。
「みんな、このままだとまずい!恐竜が爆発を聞き付けたんだ!急いで逃げよう!」
「いえ、その必要はありません。なるほど、長門さんの策がわかってきましたよ」
古泉がのんびりとした口調で言う。この危機的状況で何を言っているんだ。
「……全員、そこで止まって」
長門がみんなを見据えながら言う。自己主張が少ない長門にしては強い口調だ。
「でも……」
食い下がるぼくを古泉が宥めた。
「まあまあ。長門さんを信用して下さいよ。第一、これはあなたの発見に基づいての物なんですから」
ぼくの発見?あの「恐竜は動かない物は見れない」って奴か。
「でも、あれはまだ確実な事じゃないだろ?」
「ですから、そこは長門さんを信じましょう。純粋な観察力なら長門さんがこの中で一番上です。彼女なりの勝算があるんでしょう」
それにしても説明をちゃんとしてほしい。抗議しようとする声をキョンが遮る。
「ヤバい、来るぞ!」
騒々しい足音と共に恐竜がなだれ込んで来た。くそ、これで動くわけにいかなくなった。
恐竜が群れをなしてこちらへとやって来る。あの数!気付かれたら勝ち目は無いぞ!
見えていないなら、助かるが……。そう思った矢先、恐竜たちが歩調を緩める。
(おい、動きが止まりそうだぞ!バレたんじゃないか!)
(落ち着いて下さい!爆弾の残骸を見付けて用心深くなってるだけです!)
慌てそうになるキョンを古泉が宥める。ぼくはというと、それに加わる余裕すら無かった。
ゆっくりと歩く恐竜が、ついにぼく達の横に差し掛かる。キョロキョロ辺りを見回しながら。
その視線が合う。まさか、気付いたのか?背中を冷や汗が走る。

ぼくは動いていないはずだ。それこそ瞬きさえ。来るな……!
願いが通じたのか、恐竜が脇をすり抜けて行く。そのまま爆心地へと。キョンが安堵の息をつく。もちろん小声で。
(行った……)
(でも、危機が去ったわけじゃないぞ。まだ奴らはあそこにいるんだから)
釘を刺すぼくをよそに、長門が指先だけを軽く曲げて爆心地を指す。
恐竜の群れの隙間に何か黒い物が見える。爆弾の残骸か?不思議に思っていると、長門が呟く。
「…………今」
爆発音。……もう一個仕掛けてたのか。動けなくなった恐竜を片目に古泉が言った。
「よし、行きましょう。……これで『恐竜は動かない物は見えない』という事が確信できました。
シートンではありませんが習性を知っただけ、優位に立てましたよ」
それにしたって、あんな「だるまさんが転んだ」はもう勘弁だ。一刻も早くここから離れたい。
ぼくは長門が直した車椅子に乗り込むと、連れ立って出口へと向かった。
まず目指す先は恐竜が出てきた場所。さっき奴らが出てきたぶん、手薄になっているだろうからだ。
改めて見ると、どうやら馬の入場口らしい。足を止めないまま、キョンが話し掛けてきた。
「なあ、ジョニィ。俺達ってまだ一人も人間と会ってないよな?死体も含めて」
「……食べられたのか?」
あまり想像したくはない。脳裏をよぎった陰惨な光景に顔を歪めながらぼくは言った。キョンが首を振る。
「骨の一本も残さずに?……人間はどこに行っちまったんだ?」
「…………」
ぼくが答えを見付けられずにいると、先頭を行く長門が足を止めた。
「待って。中に何かいる」
そして、警戒しながら足を踏み入れる。ぼくらは様子を見ていろという事だろうか。
それに応えて後方から内部の様子を窺う。すると、部屋の隅で影が揺らめいた!
「長門、柱の陰だ!そこにいるぞッ!」
長門がそこに注意を向ける。それと同時に、影がゆっくりと姿を現した。
「まだ人がいたのか……ジョニィ。しかも君か」
Dio……!生きていたのか!?

ぼくの姿を認めると、Dioは笑顔を浮かべながら歩いて来た。古泉が安堵の息をつく。
「良かった、生存者がいましたか……」
そう言って、歩み寄ろうとする古泉の腕を掴んだ。
「待て、古泉。……君、まさか保護するつもりじゃあないだろうな?」
驚きの声をあげたのはキョンだった。
「おいおいっ!放置しとくって!?」
「……あなた、本気ですか」
古泉が非難と軽蔑の入り混じった視線を浴びせる。だが、怯んではいられない。
「彼は信用出来る人間じゃあない。……生まれで差別するわけじゃないけど、彼は貧民の出だ。そんな彼が競馬で成功したんだ。
とりわけ金がかかる乗馬ってスポーツで!しかも未だに身分制の残り香が根強い英国でだ!
才能や努力だけではこの歳でこんな成功は出来ない。……彼が何をしたかぐらいわかるだろ?
彼は『餓え』てる。それを癒すためなら何でもする。まして、この状況だ。そんな人間は信用出来ない」
「……なぁジョニィ、聞こえてるぞ」
ぼくの熱弁は唐突に遮られた。その「日本語」の声に全員の視線が引き付けられた。
「Dio、日本語が話せるのか?」
Dioはフンと鼻を鳴らしながら返事をした。
「あぁ、まあな。それより酷いんじゃあないか?下らないゴシップを信じるなんて。
俺の成功は幸運に恵まれただけだ。それを妬む連中の言葉なんて、でたらめもいい所さ」
子供のワガママを諫めるような口調。そして、白々しい笑顔を周りに向ける。
「恥知らずが!何と言おうと君を連れてく気は無い!通報ぐらいはしてやるから、このまま……」
「ジョニィ君、止めて下さい。……少し、失望しました。あなたが彼と過去に何があったか知りませんが、
この期に及んでそんな事を言っている場合ではないでしょう」
冷えきった古泉の視線にぼくは敗北を確信した。古泉はDioに向き直り、丁寧に言った。

「失礼しました。ここは危険です。僕達なら多少は保護が出来る。ついてきて下さい」
「保護?武器でも持ってるのか?」
「……ええ、そんな所です」
目の前でDioの同行が決定されていく。考えてみれば、受け入れられるはずが無い説得だった。
正義の味方になるつもりは無いが、助けられる人がいるなら助けたい。ぼくに限らず、みんなそう思ってるだろう。
見捨てるという行動がプラスに受け取られるわけが無い。感情的な口調で主張されたらなおさらだろう。
さっきから古泉は目を合わせようともしない。彼の目には嫉妬として映ったのか?影さえ踏めない場所に行ってしまったライバルへの。
奴が言う通り、黒い噂なんて事実無根なのかもしれない。……そうだとしても譲れない。
ぼくはDioに聞こえないように、小声で古泉に言った。
「……同行は認める。でも、今さら言うまでも無い事だが、スタンドやハルヒの力は絶対にバレたくない。
君が何と言おうとDioはそういう力には目が無い奴だ。絶対に欲しがる」
古泉の態度は素っ気ない物だった。
「当然です。一般人には教えません。……無駄話をしている暇は無い。行きましょう」
……嫌われたもんだ。今となっては遅いが、部屋を譲られた時の不遜な態度もまずかったのかもしれない。
古泉ほど露骨ではないものの、キョンやみくるさんもどこかよそよそしい態度をとっている。
気まずい思いを抱えながら古泉についていっていると、長門がぼくに歩調を合わせている事に気付いた。
「……長門、君は反対しないのか?」
何とはなしに言ったぼくに、いつも通りの抑揚の無い声が答えた。
「彼を信用する材料は無いし、助ける義務も私達には無い。でも、ここで一番避けるべきは私達の分裂」
確かに、これ以上強硬に主張しては仲違いを起こしかねない。腹が立つが我慢するしかないようだ。
Dioの動向には目を光らせておかなくてはいけないが……幸い、出口は近い。
少しの間、見張っていればいい……ぼくは自分にそう言い聞かせ、ともすれば爆発しそうになる感情を抑えた。

ぼく達は警戒しながら出口へと続く廊下を進んでいった。が、その道のりは拍子抜けするような物だった。
なんせ、恐竜と一度も出くわさなかったのだから。全ての恐竜がターフ内に集まっていたのか?……そんなはずは無いな。
とてもそんな安易な考え方は出来ない。じゃあ、なぜだ?
考えているうちにかなりの距離を歩いていた。曲がり角に差し掛かったところで、Dioが興奮したように言う。
「……よし、ここまで来ればほぼ安全だ。この角を曲がればロビーだからな」
「静かに。気付かれます」
厳しい口調で古泉が注意する。Dioはそれを無視して角を曲がろうとする。古泉はその肩を引っ掴んで引き寄せた。
「何をする!?」
抗議するDioを無視して、古泉は注意深く角の先を覗き込んだ。その顔がみるみる曇っていく。
「やはり……。出口を固めていましたか」
苦々しく呟く。廊下に恐竜がいないわけだ。古泉はぼく達に目を向けた。
「駄目です。敵が多すぎる。長門さん、もう一度爆弾を作れますか?」
長門は首を振る。
「何も無い状態から作るのは負担が多すぎる。媒体となる物が要る。大規模なら尚更」
さっきのモニターのような物か。しかし、探している時間があるのか?
ターフにいた恐竜もずっと寝てはいない。それでも見つかればいいが、もし見つからなかったら目も当てられない。沈黙を破ったのはキョンだった。
「別の出口を探したほうがいいんじゃないか?」
「そうですね。あの包囲網を突破するのは無理でしょう。他の出口があるはずです」
「……そうは思わない。敵の量にもよるが、これ以上歩き回るのはリスクがある。ここを突破するのがベスト」
ここに来て意見が割れた。しかし、長門と古泉のどちらの言い分が正しいとは言いきれない。
極力隠してはいるが、ぼく達の疲労はピークに達している。
みくるさんに至ってはかなり前から一言も言葉を発していないし、顔色も優れない。
体力的にも時間は無いのだ。早く脱出しなければならない。しかし、一歩間違えばこの強硬突破は蛮勇だ。よく考えなければならない。

長門と古泉は互いに意見を譲らない。当然だ。生死がかかっているのだから。
ぼくは議論を続ける二人を尻目に歩を進めた。出口を固めているという恐竜を確認するためだ。
見たからどうなる事ではないかもしれない。しかし、小さな発見が突破口になる可能性もある。
とにかく今は情報を集める事だ。ぼくは車椅子を壁際に止めると、上半身を傾けて覗き込んだ。
……多い。十匹以上いる。ぼくはVIPルームで見た恐竜の身体能力を思い出した。
古泉の光弾ですら軽々とかわしたのだ。そんなやつらが十匹以上と考えるとぞっとする。とても勝負にならない。
まともに戦うのは無理。しかし、長引かせるのも危険か……。確かにここを突破できればベストなんだけど。
どうすれば……?脱出の間だけでも奴らの気をそらせないだろうか?そう思った瞬間だった。
目の前の景色が急に動き出していた。……違う。ぼくが動いているんだ。
顔だけを出していたはずなのに、今ではほぼ全身が角の先に出てしまっている。
つまり、恐竜に姿を晒しているのだ。恐竜の鈍く光る目がぼくを睨む。なぜだ?なぜ姿を晒している?
勝手に車椅子が動いた?あり得ない。床は傾いていないし、車椅子は固定していた。
……まさか。気付いた時にはもう遅かった。
「……グッバイ、ジョニィ」
耳に嫌らしい声がまとわりつく。その次の瞬間、車椅子が猛烈なスピードで前に走りだした。
そうか。「気をそらすもの」。あいつの……Dioの考えそうな事だ。
恐竜が集団で飛び込んで来る。ぼくにはもう後悔する時間すら無いようだった。

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古泉と長門の議論は平行線だった。俺はそれには加わらず、横で見ていた。
もちろん、俺なりに考えはある。一刻も早くここから逃げるべきだ。
俺達は疲れている。肉体的にも精神的にも。前々から調子が悪かった朝比奈さんはもちろん、古泉もだ。
さっきのジョニィとの口論。……ま、俺もジョニィがあんな事を言ったのはショックだったが、普段なら古泉はあんな言い方はしないだろう。
その後の刺々しい態度もアイツらしくはない。ジョニィも冷静さを欠いている。このまま極限状態に晒され続けるのはヤバい。
しかし……それは本当に正しいんだろうか?ただ単に俺はビビってるだけなんじゃないか?
すぐに逃げ出したいって気持ちをそれらしい理屈で誤魔化してるんじゃないか……。
そんな考えから俺は口を出せなかった。結局、俺は一般人だ。こういう決断は修羅場慣れしてる二人に任せたほうがいい。
そう思ったのだが、結論はなかなか出ない。これには少し不安になってきた。
……そうだ、ジョニィはどうした?ジョニィも議論には加わっていない。
見ると、壁際に車椅子を止めて出口を覗き込んでいた。その後ろに……ええと、Dioだったか、がいる。
車椅子を押さえているのか。最初はそう思った。しかし、俺はすぐに異変に気付いた。
ジョニィの体が壁の陰から完全に外れている。あれじゃあ恐竜からは丸見えなんじゃないか?
注意しようとしたその時、それは起こった。ジョニィが乗った車椅子が走りだしたのだ。
悲鳴一つ無くジョニィの姿が消え、恐竜の鳴き声がそれに続いた。
「……あ……あ……」
自分の口から言葉にならない声が漏れ出ていた。通り過ぎる影。長門だ。助けに行ったのか。
数秒の間、恐竜の悲鳴が辺りに響いたが、それもすぐに無くなった。
「……何て事だ……。あれでは生きてはいない」
沈痛な表情でDioが言う。だが。だが、俺は見ていた。

ショートした思考回路が修復されるにしたがって、起こった事が頭にしみ込んでいく。
こんな状況だというのに、俺は声をあげずにはいられなかった。
「Dio!お前……!」
恐竜の事など頭から消えていた。頭に血が昇り、舌がうまく回らない。
気が付けば俺はDioに掴みかかっていた。落ち着いた表情を崩さずにDioが言う。
「おい、静かにするんだ。ショックなのはわかるが、彼らの犠牲を無駄にするなど」
「ふざけるなッ!……見たぞ……俺は……!」
「見た」という俺の言葉を聞いた瞬間に、Dioの表情から急速に温かみが失われた。
Dioはフンと鼻を鳴らすと吐き捨てるように言った。
「……何だ、そうか。だが、それが何だっていうんだ?あんな歩けもしない奴、足手纏いになる。
それなら、最期に役立ってもらったほうが」
言い終わるのを待たず、俺はDioに殴りかかった。しかし、その先にDioの姿は無く、代わりに綺麗なストレートが俺を迎えた。
頬に食らい、膝をつく俺をDioが怒鳴りつける。
「馬鹿が!俺は一流のアスリートだぞ!ただのガキが、不意を突いたからといって殴れるとでも思ったか?」
「……どういう、事ですか」
豹変したDio。呆然とした表情で古泉が言う。俺は呻きながらも懸命に訴えた。
「こいつが……ジョニィの車椅子を押した。こいつなんだ!ジョニィを殺したのは!」
口の上手そうなこいつなら誤魔化す事も出来ただろうが、俺にとっては幸いな事にDioは完全に開き直っていた。
「フン!君ならわかるだろ?脱出する時に歩けないジョニィは邪魔になる。処理しておこうってわけさ」
こいつ……!最初の紳士ぶった態度は仮面だ。今のこの姿が醜悪な素顔。
平和な人生を歩んできた俺でもわかる。これが悪ってヤツなんだ。俺は立ち上がりながら叫んだ。
「人の命を何だと思ってやがる!……長門も死んだ。お前は、お前の事だけは絶対に許せねえ!」
俺はDioに掴みかかろうと飛び掛かろうとした。が、その前に羽交い締めにされていた。
「こらえて下さい。ここで冷静さを失えば恐竜に気付かれてしまう。全員が死ぬわけにはいかないんです」

古泉が真剣な口調で訴えた。Dioが嘲笑の笑みを浮かべる。
「そうだ。静かにしていろ。俺は必ず社会の頂点に立つ。そのためなら他人の命など、取るに足らん」
俺は歯軋りしながら、羽交い締めにする古泉を振り払った。
朝比奈さんやハルヒもいるんだ、恐竜に気付かれるわけにはいかない。だが……睨む俺にDioは得意顔で言った。
「フフ、理解できたか。良かったな?お利口な友達を持って」
歯噛みする俺を制止しながら古泉が言う。
「言っておきますが、無事に出られると思わないで下さい。許しを乞う資格など、僕にはありませんが……。
この状況なら、人一人が消えても誰も気にかけないという事をお忘れなく」
口調は丁寧だが、目には激しい怒りが宿っている。そうだ、古泉だって腹が立たないはずが無い。
しかし、そんな古泉にもDioは高飛車な態度を崩さない。
「フン、この俺を?お前らごときが出来ると?いいか……ウザい態度はもうやめとけ。
本来ならお前らなど、俺の影も踏めない存在だ。さあ、行くぞ。恐竜が早めのディナーをすませる前にな」
言い放つと、Dioは歩き出そうとする。しかし、それを止める人間がいた。
「……?何だ、君も不満があるっていうのか?日本女性は男を立てるんじゃあないのか?」
俺ではない。朝比奈さんだ。Dioの腕を掴んでいる。Dioは振り払おうとするが、見た目よりずっと力が強いようだ。
衰弱しきっていると思っていたが……。始めは余裕を見せていたDioも、離そうとしない朝比奈さんについに業を煮やした。
罵倒の言葉と共に拳を振り上げたのだ。これ以上の乱暴は許せない。俺は声をあげた。
「おい、待て!」
が、止めるまでもなかった。次の瞬間、地面に伏していたのはDioだったのだ。
Dioの拳が到達するよりも、ずっと早く朝比奈さんの手がDioの首を捉え、そして力任せに床に叩きつけていた。
「な……!?こ、こいつ……!?」
Dioの呻き声ももはや頭に入らなかった。そうか。競馬場に人がいなかった理由。人は、「消えた」んじゃなかった。「変えられた」んだ。
愛らしい目は鋭さを帯び、白い肌には鱗が走り……朝比奈さんは、恐竜になっていた。

「こ、こいつ、恐竜になっているだとッ!」
俺にも敵のスタンドが少しずつわかりかけてきた。「人を恐竜に変える」。だから人と出会わなかったんだ。
「古泉ッ!ヤバいぞッ!俺達も恐竜に変えられちまう!」
叫びながら見る。青ざめた表情。
「……いえ。どうやら、『既に』なっているようです……!」
弱々しい声を出しながら腕を押さえている。その手の隙間からヒビのようなものが覗いていた。
あそこは……!確か、最初の恐竜に組み敷かれた時に傷がついた場所だ!
全容は、わかってきた。だが。だが、もう!
「……む、無念だ……」
古泉が崩れ落ちる。遅すぎた。もう、何もかも。ここには俺しかハルヒを守れる人間はいない。
でも、俺に何が出来る?ただの人間にすぎない俺に、何が。
「おいッ!何をしてる!恐竜が迫っているぞッ!助けろ!」
地面に押さえつけられたままのDioが叫ぶ。見ると、恐竜達は完全に俺達に気付いたらしい。とっくに包囲されていた。
「う、うう……」
口から情けない声が出た。どうすれば……!どうすればいい!?
俺がパニックに陥りかけたその時だった。
「……騒がしいな。今日は記念すべき日だ。飛び入りのゲストは歓迎出来ない。粗暴なら尚更だ」
落ち着き払った声が聞こえた。見ると、上等な服を着た男が恐竜の群れに囲まれて立っていた。
生存者……!?いや、そんなわけはないか。男は俺達が見えていないかのように歩を進め、朝比奈さんだった恐竜に話し掛けた。
「さて、朝比奈みくる君。良くやってくれた。やはり君を恐竜化させたのは正解だった」
そして、朝比奈さんが引き付けたままのハルヒに視線を向ける。
「この少女が……。今、目の前の少女がそうだとは。信じ難いが、同時に直感でわかる。ついに私達の悲願が果たされるのか」
こいつ、やはり「機関」が敵対してる奴らの人間か!?本体が現れたってのはチャンスかもしれない。
しかし、逆に考えれば絶対的な自信があるからこそ姿を現したとも考えられる。
そして、その自信の根拠も俺にはわかっている。この恐竜達だ。俺を八つ裂きにする事など容易いのだろう。
「……お前が本体なのか……!?皆をよくも……!」
もう大勢は決した。俺が言った言葉は恨み言にすぎない。しかし、意外にも男は反応した。

「君は……そう、『キョン』。そう呼ばれている少年だな?鍵の少年か」
俺をじっと見る。少し思案してから男は口を開いた。
「こんな状況とはいえ、私の方から礼節を欠くのもなんだな……。
自己紹介をさせて頂こう。私の名は『フェルディナンド』。地質学・古代生物学者だ。『フェルディナンド博士』と呼べ」
異様な態度だ。こんな事をしておいて……。
「三年前、我がスタンド、『スケアリー・モンスターズ』を身に付けた。
まず群集に紛れて朝比奈みくるを恐竜化。そして、虫なども利用しながら徐々に感染させたんだ」
「黙れ!そんな話、聞きたくねぇ!何人も殺しておいて……!」
我慢出来ずに叫んだ俺に、フェルディナンドがピクリと眉を上げた。
「殺す……?ああ、勘違いしているのか。安心しろ、誰も死んではいない。
恐竜化しているだけだ。解除すれば元に戻る。もっとも、君の仲間の解除はしばらく出来ないが」
何だと?じゃあ二人も生きているのか?そう思った時、恐竜の群れの中から呻き声が聞こえた。
ジョニィ!生きてたのか!?しかも、人間の姿のままで。フェルディナンドが感慨深そうに言った。
「君らの中でも二人は特別だ。鍵だからな。涼宮ハルヒの精神状態に少しでも悪影響を与えないため、
目的を遂げるまで生きていてもらう必要がある」
目的だと?それがすんだ後は?疑問を代わりにジョニィが言った。
「……ハルヒを使って何をする気だ。ハルヒがお前らの野望を叶えてくれるとでも思うのか?」
フェルディナンドが顔をしかめる。しかし、それも一瞬。すぐに不思議そうな顔になった。

「野望、か。古泉から教えられていないのか?……いや、古泉も知らないのか。
お前が涼宮ハルヒに近付いた理由は何だ?その脚か?私達のはそんなちっぽけな理由なんかじゃあないぞ……。
『理想の世界』だ!彼女の能力は!いいか、彼女の能力は正しく、崇高な目的に使われるべきなんだ!」
興奮しながら言うフェルディナンド。しかし、対するジョニィの態度は冷ややかだった。
「正しいだと……?イカれてる。お前らがやっているのはテロじゃあないか。それで正義を謳うなんて、テロそのものだ」
吐き捨てるジョニィに、フェルディナンドはみるみるうちに顔を赤くした。
「意気がるなよ、ジョースター……!お前が地上最強の生物に囲まれている事を忘れるな。鍵は一人でもいいんだ」
そうだ。もう勝負は決まった。残念だが、俺達二人ではどうしようもない……しかし、それがわかってない奴がいた。
「お、おい!待て!お前達、何を言っている!?『スタンド』……?それに、その女が何だっていうんだ!?
いや、それよりだ。フェルディナンド、俺を助けろ!俺は政財界にも繋がりがある。
俺ならお前らの望みを叶えてやれる!助けるんだ!」高飛車な態度を崩さないまま命乞いをするDio。深い溜め息をつくフェルディナンド。
長い長い溜め息が終わると、汚物を見るような視線をDioに送った。
「……ふう。私は先程『殺さない』と言ったが、それには君は含まれていないんだよ。
つい、興奮してしまって話しすぎてしまったのでね。それに、君のようなゲス者にはヘドが出る」
そして、Dioに近付くと押さえつけたままの恐竜朝比奈さんに一声かけた。
「やれ」とでも言ったのだろうか。Dioの顔がみるみる紅潮していく。
「こ……こんな……!やめろ、俺に近寄るな……!この、このDioがこんな所で……!」
恐竜の朝比奈さんが手……今は前足か……をDioの首にかける。
「この光り輝く道への船出を汚さないでもらおう。さよならだ、ディエゴ・ブランドー」
地に這うDioを見下ろしながらフェルディナンドが言う。顔が紅潮しているのは息苦しさからだけではない。
僅かに残る息を使い、Dioが叫ぶ。
「俺が……!このDioが……!嫌だ……!勝つのは俺のはずなんだッ!
WRYYYYYYYYYYY!!『世界』を掴むのは俺のはずなんだッ!」

辺りに絶叫が轟く。それが気分を害したのだろうか。フェルディナンドが軽く上げた手を下げた。
同時に恐竜の朝比奈さんが空いた手を頭に振り下ろす。う……!広がるであろう凄惨な光景に俺は目をそらす。静寂。
やがて、俺は視線を戻す。……!?何が起こった!?目の前に広がっているのは予想通りの凄惨な光景だ。
しかし、倒れているのはフェルディナンドだった。腹に刳り貫かれたように大きな穴が空いている。
目は虚ろで、もう残された時間は少ないという事は俺にも見て取れた。うわごとのようにフェルディナンドが言う。
「きょ、恐竜が……!ディエゴ・ブランドー、貴様……貴様まで……!」
恐竜?俺は立ち上がったDioの足元の人影に目を向けた。朝比奈さん!恐竜化が解けている!
朝比奈さんだけじゃない、周りの恐竜も人間に戻っている!フェルディナンドが死にかけてるからか?
Dioが薄ら笑いを浮かべたままフェルディナンドを見る。……もう動かなくなった。
「Dioッ!き、君……。何をしたんだ!?まさか……今のはッ!?」
ジョニィが叫ぶ。……この顔……!?怯えている……!?
フェルディナンドにも強気の態度でいたジョニィが!?対照的にDioは余裕たっぷりに言い放った。
「フフ……すまないが、今日はこれで失礼するよ。予定が詰まってるんでね。
特に、これからは忙しくなりそうだ。……何、すぐに会えるさ。また会おう、ジョニィ」
悠々と出口へ歩き出していく。俺は慌ててジョニィに言った。
「お、おいっ!行かせていいのか!?」
ジョニィは黙ったままだった。Dioの姿が見えなくなった時、ようやくジョニィは口を開いた。
「……止めるべきだったと思う。ただ、出来なかった。……手を出せなかった」
ジョニィはそれ以上何も言わなかった。すぐに呼ばれた救助が進んでからもずっと。
問いただす古泉にも曖昧な返事を返すだけだった。そして、俺も同じくロクな返事を返せなかった。
Dio……。あいつは何者なんだ?ジョニィが前に言ってたような奴なのか?
ただ一つ……ヤバい事になったって事は違いないだろう。

スタンド名「スケアリー・モンスターズ」
本体名「フェルディナンド」……死亡

To Be Continued……

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最終更新:2010年01月09日 22:34