僕がこの県立高校に進学したことに、別に深い理由はなくただ単に家から距離が近いという、
本当に他愛のない理由からです。いや、本当のことを言うと、別に自慢するつもりはありませんが、
自分の学力ならばもう少し上の高校を狙うこともできたかもしれません。ただ、中学三年の冬、
とある事情から成績が芳しくなくなり、安全策を取ってこの高校への進学を決めました。
最初は両親も驚いていたようですが、中学時代の友人が多く通っているからと、説明したところ、
小さいときは友人がほとんどいなかったこともあってか、それならばいいと納得してくれました。
両親の嬉しそうな顔を見た時、少しばかり良心の呵責も感じましたが。というのも
、成績低下の原因というのがまた実につまらないことだからなのです。勉強の休憩がてらに、
とあるゲームをやっていたのですが、これがまた中々難しくやりがいのあるゲームでして、
自分の中のゲーマー魂に火が付いて、ついついやりこんでしまい、学業がおろそかになってしまったというわけです。
まったく僕としたことがこんなくだらないことで・・・・・。やはり受験期に「たけしの挑戦状」を、
ほとんど攻略情報なしでやるなどという無謀なことをするべきでは無かったのか・・・
 とまあ、そんな事を考えながら、高校へと続く無駄に長い坂道を登っています。
それにしても長いですねこの坂道。すでにちょっとしたハイキングです。もしここに昔の「友人」がいたらそう・・・・・
「やれやれだ・・・」
そう「やれやれだぜ・・・・」と・・・って、えっ?
驚いてまわりを見渡しますが、当然の事ながら“彼”の姿は見えません。
と言うより、もし彼がこのあたりにいたならば50メートル先からでも解るでしょう。
“彼”は身長がかなり高く、しかもハンサムだったのでかなり目立つ人でしたし。
なによりも声が違います。周りには他にも高校へ向かう生徒がいっぱいいて、
誰が例の言葉を言ったのかはわかりません。
なんだか入学式当日から妙な気分にさせられますね・・・。
今思えば、この日から始まった僕の奇妙な高校生活の予兆だったのかもしれません。



さて入学式になったわけですが、それにしても男子はブレザー、女子はセーラー服という組み合わせはなかなか珍しいですね。
個人的にはガクランが良かったんですけども。まあ、実にフォーマルで退屈な入学式で、話される面白くもない校長や来賓の
長話を右から左に聞き流しながらそんな事を考えていると、ようやく入学式は終わった模様です。
僕のクラスは一年五組のようで、おそらくこれからクラスメイトになるであろう他の生徒たちと教室へ向かったのでした。
 担任の岡部とか言う教師は実に作り物じみた無意味にハイテンションな笑顔を浮かべながら、やはり無意味にハイテンショ
ンで自分が体育教師であることや、ハンドボール部の顧問をしている事などを一通り話し終えた後、
僕たちに自己紹介を促しました。出席番号にそって、それに合わせて男女交互になった席順の通りに自己紹介をしていく他の生徒たち。
カ行の僕は割と早めに来た自分の番を無難に消化しながら、他の生徒たちの自己紹介に一応耳は傾けていました。
そして、サ行も中頃になった時、さきほど坂道で聞いた声とそっくりな声が耳に入ってきたのです。
驚いてその人の顔をうかがうと、そこにあったのはまあ、私の“友人”とは似ても似つかぬ平平凡凡な顔でした。中肉中背、
顔立ちはさっきも言ったように平凡ないわゆる普通の顔で、
強いて特徴を挙げるとすれば目が細めな事ぐらいでしょうか。自己紹介の内容もいたって普通。
見るからに個性的な“彼”とはある意味対称的でした。無論実はそうなのは外見と第一印象だけで、
その内面は意外に“個性的”とわかるのはそう遠くないことなのですが、この時はそんなことも知るはずもなく、
僕はすぐに興味を失って、彼が着席すると同時に目線をそらしました。
しかし、数秒後にはまたその方向を見る羽目になります。
なぜなら、彼の後ろの席にいた人間こそ・・

           「東中学出身、涼宮ハルヒ」

              そう彼女こそが

「ただの人間には興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」

        涼宮ハルヒに他ならなかったのですから




一瞬何が起こったか分からずに、ほとんど脊髄反射で彼女方向に視線を向けました。
そこには、黄色のカチュシャーをした意志の強そうな顔の少女がいました。
長い黒髪を揺らしながら仁王立ちをし、その意志の強そうな瞳で教室を睥睨し、
最後の彼女の真前に座っていた“彼”のポカンと口を開けた間抜け顔を睨みつけて、
そのまま何事もなかったのように着席したのです。
一瞬、冗談抜きに「何を言っているのかわからない・・・イカレテいるのか、この状況で・・・」
といいそうになりましたが、何だか知りませんがとても“ヤヴァイ”予感がしたので、心の中にとどめました。
彼女、涼宮ハルヒが入学当日早々に起こしたこの“非常事態”から、
この一年五組が立ち直るのにはしばらくの時間が必要でした。名状しがたい沈黙が教室に流れること一分弱。
一瞬新手のスタンド使いの攻撃かと勘違いしてしまうような異様な空気は、
何とか再起動した岡部教諭によって何とか正常化したのでした。

これが、彼女“たち”と僕の出会いでした。
今思えば、“彼ら”との出会い以来の運命の転機だったように思えます。

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最終更新:2007年11月20日 21:11