「そういえばキョンは、涼宮さんに前に話かけてたことがありましたね」
「なんだカキョーインいきなり・・・ひょっとして涼宮に気があるのか?やめとけやめ・・」
「違いますよ、谷口君。ただ、純粋に彼女という人間に興味を持っただけです」
「・・・・とゆーより気になるのは何で谷口が“君”付けで、俺が呼び捨てなんだ・・」
「まあそれはキョンですから」
「まあキョンだからな」
「うんキョンだからね」
「お前ら・・・」
何て会話をしているのは、昼休み時間に机をくっつけて一緒に昼食をとっている、
僕と、涼宮ハルヒと同じ東中出身の谷口、何故か本名で誰にも読んでもらえない×××、通称“キョン”、
そして彼と同じ中学出身の国木田の四人組です。
“昔の”僕を知っている人間なら誰かと僕が机を並べて弁当を食べているなんて聞いたらきっと信じはしないでしょう。
まあかつての僕なら静かに誰とも話さず一人もくもくと食事をしていたでしょうけど。
“生まれ変わってから”は人とのつながりを大切にしようという考えから、前に比べれば積極的に他人と交わるようにしています。
今のところ、僕の“本当の姿”を認識できる人間とは会っていませんが、それでも前みたいな“一人ぼっち”はもうたくさんです。
まあ、僕を認識できる人間が周りにない現状での僕もある意味 “一人ぼっち”なわけですが。
そんな話は置いといて、なんでこういうメンバーで食卓を囲んでいるかというと、
僕がキョンに興味を持って接近し、そこにたまたま谷口と国木田の二人がいたというわけです。
例の口癖が気になってこちらから近づいて行ったわけですが、いささか同年代の少年少女に比べて枯れた精神構造をしている点を除けば
(実はこの認識は的外れだったわけですが)、いたって普通の少年でした。しかし何故か僕はこの少年が興味深く思えて、
ふと気づけば彼の友人も輪の中に入っていたというわけです。
「それはそうとカキョーイン、涼宮について知りたいならキョンより俺に聞いた方がいいぞ。なんせ同じ中学で三年間クラスも同じだったしな」
「へえ・・・それじゃあイロイロ知っているわけですね」
「アイツに奇人っぷりは常軌を逸してる。高校に入ったら少しは落ち着くと思ったんだが・・・・」

そういうと谷口は涼宮ハルヒについて話しだした訳なのですが、
すると出るわ出るわ。校庭での落書き、屋上にペンキで星マークを描いたり、
学校中にお札を張ったり、教室の机を全部廊下に出したり、妙にモテたり、
彼氏をとっかえひっかえしたりと実に多様な話が出てきました。
これが普通なら「それは半分ぐらい貴方の脚色でしょう」となる訳ですが、
涼宮ハルヒに関しては、それが百パーセント事実であると確信していました。
何故かときかれても別に確証はありません。ただ、彼女ならばきっとそうするだろう、
いやそうするのが当たり前、といった奇妙な確信があったのです。
彼女が奇行をするのは「コーラを飲んだらゲップをしてしまうくらいに」確実だっ!というわけです。

まあそんな事を話していたら昼休みも終わりに近づいていました。
「次、確か教室移動だったよな?」
キョンがそんな事を言います。確かに次は物理の時間だったはずです。
「そろそろ行った方がいいよね」
国木田が時計を見ながら皆に言います。僕らはそれにうなずくと、
とりあえず弁当をしまって次の時間の準備にかかりました。

物理室へと向かって四人連れ立って階段を上ります。そんな時です、上から一人の少女が階段を下りてきます。
小柄で童顔の美少女です。小動物を思わせるようなかわいらしい雰囲気を持っていて、どこか気弱そうな印象を受けます。
「ウホッ!いい女!」
少女を見るや否や谷口がうれしそうなにやけ面をして口に出してそんな事を言います。
それを聞いた美少女は、ビクッと肩を震わせて急いで階段を降りようとします。
キョン、国木田、僕の視線が谷口に集中します。谷口はしまったーというような顔をしています。
どうやら少女を見た瞬間、思わず本音がポロリと出てしまったようです。
そんな時でした。ふと少女の方に目をやると、少女は急いで階段を降りようとしたせいか、
思わず階段を踏み外していました。転びそうになる少女。
その姿を見た瞬間。僕の足もとから緑色の“蔦”のようなものが目にもとまらぬ速さで飛びだし、少女の足に巻きついて落ちるのを防ぎます。
そして、階段の上でたたらふんだような体勢になった所で、中空を掴んでいた彼女の手を素早くつかんで転げ落ちるのを防ぎました。
はた目から見れば僕が彼女の手を掴んで転ぶのを“自然に”防いだように見えたでしょう。
少女を引き上げて僕は
「大丈夫ですか?」
と、彼女に問いかけます。何が起こったかわからないようでポカンとした表情しています。
しばらく待っていると再起動したようで、あわわわわと顔を真っ赤にしながらあわて始めました。
「す、すすすすす、すいません。あ・・あの・・・わ・・・わたし・・・」
「危ないですから気を付けてくださいね。それじゃあ」
「は、はい・・・・あ、ありがとうございます」
顔を真っ赤にしながら頭をブンブン下げている。正直言えばかなりかわいらしかったのでもう少し見ていたかったのですが、
時間があまりなかったので振り返って再び階段を上ろうとします。振り返った先では、谷口、国木田はほっとしたような、
そしてうらやましそうな表情をしていました。ここで僕が気になったのはキョンの表情でした。
キツネにつままれたというか、UFOでも見てしまったかのような妙な表情をしていました。
「どうしましたか・・・キョン?」
「いや・・・・何でもない・・・時間がないし早くいった方がいいな」
そう言うと一人階段を上っていきます。谷口と国木田は顔を見合せて不思議そうな表情をしましたが、
すぐにキョンの後を追います。僕も、彼らの後を追おうとして・・
「・・・・気のせいだよな・・・目の錯覚だ・・・」
というキョンのつぶやきが聞こえました。一瞬ハッとする僕。まさか・・・見えて?
「・・・いや・・・それはありませんね」
キョンに限ってそんなことはないでしょう。何せキョンですし。
そう考えなおして僕は三人の後を追うのでした。

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最終更新:2008年02月04日 15:50