番外編「キーボードクラッシャーナガト」(前編)

 その日俺が部室の扉を開けるとハルヒ、古泉、はおらず、いるのは何やら漫画を読んでいる花京院と、
メイド姿でお茶を注ぐ朝比奈さん、
そしていつも通りの無表情で、ただし紙に印刷された活字ではなくパソコンの画面を眺めている長門の三人だった。
「キョン・・・遅かったですね」
「谷口に付き合わされてな・・・ハルヒは?」
「今日はまだ来てないみたいです~」
  ちゃちゃちゃっちゃーちゃっちゃっ
花京院が読んでいた漫画の単行本から目を離してこっちを向いて言ってくる。
それに返事を返しながら我らが団長のハルヒの所在を尋ねたところ、
朝比奈さんが俺の質問に答えてくれる。古泉については聞かないのかって?・・・ヤロウの事なんて聞いてどうする。
「どうぞ~」
俺がそんな事を考えながら空いてる席につくと、朝比奈さんが俺にお茶を淹れてくれた。
うーむやっぱりメイド服似合ってるな~。眼福眼福。
「一樹が来てないんですけど、キョンは何か知ってますか?」
  ちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃっちゃー
ずずーっとお茶を啜っていると再び漫画から目を離して俺の方に顔を向けた。
どうでもいいけどコイツは古泉の事をファーストネームで呼ぶ。
超能力者どうしの共感ってやつだろうか。
「知らないな・・・何か用事でもあるんじゃないか・・・」
ひょっとするとまた何所か不機嫌ななったハルヒのせいで生まれた閉鎖空間の後始末に追われてるのかもしれない。
まあどうでもいいが。

「これの続きを貸す予定だったんですけどね・・・」
っと言うと花京院は読んでいた漫画の背表紙を見せくる。岸辺露伴の「ピンクダークの少年:星屑十字軍編」だ。
現在、少年ジャンプで好評連載中の漫画で、俺もちょくちょく読んでる。
そういえばハルヒも好きだって言ってたな。朝比奈さんは絵柄が嫌いらしいが。
「・・・古泉って漫画なんて読むんだな・・・」
「かなり好きみたいですね・・実は結構オタクかも知れません・・」
  ちゃっちゃっーちゃっちゃっーちゃちゃちゃちゃっちゃっ~
古泉がオタクかぁ・・・あの「爽やかボーイ」なイメージとまるで似合わんが・・でも最近は隠れオタクっていうのも多いって話だが。
って・・・なんださっきから流れてる妙なBGMは。
音の方向を見るとパソコンのモニターを凝視して、キーボードをせわしなくカタカタと操作している。
顔はいつも通りの無表情だが、どこか真剣というか、切羽詰っているような雰囲気を出している。
あまりにも常態から外れた長門の様子に、一瞬面食らってしまう俺だったが、
気を取り直して長門の見ているパソコンのモニターを横から窺う。すると・・・
「・・・・・マリオワールド・・・・?」
「そう・・・・・」
なんと長門がやっているのはあの懐かしのマリオワールドだった。
そういえば俺も小さい時にやったなぁ・・・・。
個人的にはマリオコレクションの方が好きだったが・・・んっ?何かこれおかしくないか?
何でこんなにブラックパックンが多いんだよ・・・ってうわ、こんな所に隠しブロックおいたら通り抜けできな・・・
  ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いや、これイロイロとおかしいだろ・・・難易度とか・・・
というかマリオワールドにこんな面あったか?
「ああ・・・それ僕が作ったんですよ・・・」
いつの間にか俺の背後まで移動してきていた花京院が笑いながら言う。
「作った?」
「ええ・・・最近の電子機器の性能はすごいですからね・・・
マリオワールドのデータをベースに僕が改造したオリジナルマリオです」
「難易度がおかしいぞ」
「普通のマリオなんかしたって面白くないじゃないですか」

花京院が不思議の国のアリスのチェシャ猫みたいな意地の悪い笑みを浮かべる。
またか。コイツの悪い癖だ。ゲーマーとして普通じゃない領域に踏み込んで
すでに三千光年ぐらいの距離に到達してしまっているコイツは、
俺達(谷口、国木田など)に「これ、面白いですよ」とか和やかな微笑みを浮かべながらフツーに
「星をみるひと」とか、「シャドウゲイト」とかシステムとか、バランスとか、
難易度とかが色々と狂ったゲームを貸し付けてくるの。
そんでもって翌日に「何だあのクソゲーはっ!」と怒鳴りつけてやると、
まるでしてやったりというような悪戯に成功した餓鬼みたいな顔をする。
本当に性格が悪い。
「大丈夫ですよ・・・クリアはできます。一通り僕がクリアしてますから」
お前は家でいったい何をしているんだ?そーとーな暇人だな。
そのくせコイツはテストとかで平然と学年上位に食い込んでいるから本当に腹が立ってくる。

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

      • また一人のマリオが散ったようだ。
長門の方に目をやると、早々とコンティニューし直して凄まじいスピードでやり直しをしている。
いつぞやのコンピュター研の時以上に真剣な眼差しだ。
長門がここまで熱くなっているのを見るのは初めてじゃないか?

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

おっ、また死んだらしい。それにしてもここまで長門を苦戦させるとは・・・
花京院、なんてものを作ってるんだオマエは・・・

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

また死んだらしい。そう言えばコイツ自分でクリアしたとか言ってたな。
    • 長門にもクリアできない奴をどうやってクリアしたんだよコイツは・・・

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

      • また死んだようだ。何か死ぬペースが速くなってきていないか?

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

おいおいまた死んだぞ。まさか長門にかぎって集中力が切れるなんてことは・・

ちゃらちゃらちゃらちゃらちゃっちゃっ

      • 心なしか長門の表情に影ができたような気がする。・・・ヤヴァイ。
すごくヤヴァイ、何だか知らないがとても嫌な予感が・・・・

ちゃらちゃらちゃらちゃ・・・ ド グ シ ャ ア

      • 何か変な音がしたな。恐る恐る目をやると、
めちゃくちゃになったキーボードに、それにめり込んだ長門の指が見えた。

(後編続く)

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最終更新:2008年02月05日 20:33