ブチャラティは自分の取った行動に、少しだけ驚いていた。
ついさっきまで、自分を殺そうかと思案していた女を助けたのだ。
無意識に体が動いた、に近いのかも知れない。
(つい、スタンドを発現させてしまったが・・・)
スタンドは通常、普通の人間には見えない。
無論、種類によっては人の目に見え、触れることも出来るスタンドもあるにはあるが、
ブチャラティの“スティッキィ・フィンガーズ”は前者のタイプである。
つまり、普通の人間には見えないはずなのだが、目の前の女はおそらく、いや、
ほぼ確実に“普通の人間”ではない。
こういうタイプの“人間”に会うのは、ブチャラティとしては初めてのケースだったので、
ブチャラティは、見た目とは裏腹に内心緊張していた。
(もしも・・・、もしも俺のスタンドがこの女に見えていなかったのならば、その時は、
自分の首を絞めていた手首が粉々になってふっ飛んで行ったという疑問に対して、
ある程度説明しなければならないだろうが・・・、それでもまだ誤魔化しようはある。
問題なのは・・・、俺のスタンドが見えていた場合の方だ!
もしも見えていたら、色々と面倒くさいことになる・・・)
ブチャラティは女の目を再び見た。
(どっちだ!!!)
女は、首を擦りながら、ゆっくりと立ち上がると、口を開いた。
「・・・何をやったかは分からないけど、とりあえず助けてくれたことには感謝するわ・・・。
・・・本当は、今すぐそのしてやったり顔を一発殴ってやりたいくらいだけどね!」
(見えていない・・・のか?)
だが、この女なら見えていたのに、それを敢えて口に出していない、という可能性もある。
(取り合えず、今すぐにスタンドのことを説明する必要は無さそうだ・・・。それに・・・)
ブチャラティはすぐに周囲に気を張った。
(あの骨野郎はまだ死んでいない・・・。この周りのフィールドがまだ解けていないことが
それを証明している)
ブチャラティはふと何かを考えた。
「おい、女」
「・・・何よ?」
「おやおや、随分と素直じゃねーか、我が沈黙の火山、マージョリー・ドー!!」
女はこの状況下で、ブチャラティや本の発言にいちいち突っかかることはしなかった。
「あの骨は何なんだ?簡単に説明しろ」
「あの骨は“徒”と言って・・・」
「俺は“そんなことを聞いているんじゃあない!!”」
「じゃあ、何を聞いてるのよ!!」
流石に女も、これにはイラッと来たようだった。
「あの骨は、“殺せるのか?”・・・いや、普通ゾンビ映画だと、ああいった類の奴は
殺しても死なないのが定石だからな」
「!!・・・・・・ええ、殺せるわよ。奴はただ骨の形をしているだけで、
何かが生き返ってるワケでも、ましてやゾンビなんかでもないわ」
「それだけ聞ければOKだ。もうそれ以上聞くのはご免だ。俺はお前らともうこれ以上、
関わり合いたくないんでね」
そう言うと、ブチャラティは軽く空を仰いだ。
先ほどまでの、ランチタイムにぴったりな、いい天気の空・・・とはまるで何もかも違う、
まるで煉獄のような色合いの空。
(もうこの空を見ているのは、流石に飽きたな・・・)
ブチャラティはこの茶番を終わらすことを決心した。
その時、正にその一瞬を狙っていたかのように、骸骨が現われ、何かを発した。
突然の攻撃に、流石のブチャラティも対応が遅れた。
ブチャラティは光に飲み込また。
やがて、光が消えると、ブチャラティもその姿を消した。
後に残るのは、骸骨の耳障りとしか言えないような、腹の底に響く高笑いだけであった。
それは本当に一瞬の出来事であった。
先ほどまで、自分を偉そうに見下ろしていた男が、徒の放った謎の光を受けると、
まるで最初からいなかったかのように消えてしまったのだ。
「奴は一体何をしたのっ!?」
「さあな!だが、あの光は食らっちまうと不味いみたいだぜ!」
「そんなの、言われなくても分かってるわよ馬鹿マルコ!!」
マージョリーは完全に、相手の徒を雑魚と見くびっていたらしい。
そのことが生んだ油断・・・、そのせいで僅かだが体が遅れ、奇襲を防げなかった。
「グアーーーハッハッハッハAAAAAAAA!!やった、やったぞOOOOOOOO!!」
骸骨の気味の悪い笑い声が響き渡る。
「食ってEEE、食ってやりたかったがAAA、あんなムカツク奴UU、消してやったぜEEE!!」
マージョリーはすぐに歌を放つとそれは、骸骨に直撃しふっ飛び、バラバラになったが、一瞬で元の姿に戻った。
「なっ!?」
「無駄無駄無駄AAAA!!!!お前じゃ俺を殺し切れねEEEEEYO!!」
「・・・やるじゃない、久々に本気でやりたくなったわよ!」
マージョリーはそう言うと、一瞬で炎の衣『トーガ』を纏った。
「灰にしてやる!!!」
マージョリーがそう言ったのか、マルコシアスがそう言ったのか、どちらともつかない声が響くと、
強力な炎のようなエネルギーの塊を放出した。
しかし、徒は俊敏な動きでそれを避けると、先ほどあの男を消し去った光を放った。
「食らうかッッ!!」
見た目より俊敏な動きで、マージョリーはその光を交わす。光が当たった地面は一瞬の内に沸騰し、爆発した。
マージョリーは、徒を真正面から見据えた。
「捉えた!!死ね!!!」
「ま、待てEEE!!俺はお前の知りたいことを知ってるUUU!!いいのかAAA!?
お、俺を殺せば、それが聞けなくなるZOOOOOOO!!」
「なっ!?」
その言葉で一瞬、マージョリーの反応が遅れると、それを見逃す徒ではなかった。
「KAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「!!しまっ!!」
徒の放った光がマージョリーを飲み込んだ。
「・・・生きてる?」
マージョリーは体が動くことを確かめると、ゆっくりと上体を起こした。
すると、目の前にあの徒が気味悪い音を漏らしながら、こちらを見下ろしているのが見えた。
「ヒャーハッハHAHHAHHA!!傑作だZEEEE!!」
「くっ」
「フレイムヘイズにこんな手が通用するとはなAAA、やってみるもんだNAAAA!
お前は馬鹿だなAAAA、ハーッハッハHAHAHA!!」
マージョリーは自分でも、馬鹿だと思った。
徒を見た目で雑魚と判断し、おまけに囚わた復讐のせいで墓穴を掘る。これが馬鹿でなくて、何と言うのだろう?
マージョリーは、いっそのこともっと笑って欲しかった。もっと惨めになりたかった。
一瞬、あの偉そうな男の顔が浮かんだ。
(アイツなら・・・、きっと私をもっとむかつかせるようなことを言ってたでしょうね)
いつの間にか、『トーガ』が解除されていて、マルコシアスも何処かに消えていた。
マージョリーは、吐き捨てるように言った。
「何故、殺さないの?」
徒は即答した。
「俺はなあAA、甚振るのが好きなんだよOOO!!特にお前みたいなのをOOO!!
甚振って甚振ってEEE、陵辱して陵辱してEEE、それから殺してやるよOOO!!」
「本当に心の底から見下げた下衆野郎ね!」
マージョリーは、何とか反撃の機会を探したかった。
今殺されるわけにはいかない、しかもこんな奴に殺されたくは無い、
そんな思いが、窮地に立たされた彼女の心を支えていた。
「とりあえず、その顔OOOO!そこから甚振ってやるUUUUU!!」
徒が襲い掛かって来るのに、マージョリーの体は動かない。
(糞!!ここまでかっ!?)
そう思った瞬間、再び“それ”は起こった。
「な、なあああAAAAA、またかAAAAAAA!!?」
徒はそう言うと、目の前から数メートルをバウンドしながらふっ飛んでいった。
(な、何が起きたと言うの!?)
マージョリーは、その時奇妙なものを目にした。
それは、自分の腹がパックリと裂け、そこからあの憎らしい程偉そうな男が身を乗り出す、
その姿であった。
最終更新:2007年05月22日 19:52