不意に、背後で轟音。
 シャナに両断された首玉が、二つに分かれて砲弾のように飛んできた。
 振り向き様にスタープラチナとシャナの強烈な前蹴りが打ち出される。
 真反対からの強烈な刺突を受けた首玉は、あらぬ方向に弾き飛ばされた。側のレス トランと携帯ショップを砕いて、まためりこむ。
 シャナは承太郎を一瞥すると、蹴りの反動で路面に刺さった軸足を抜き、濛々と土 煙を上げるレストランに向けて歩き出す。
 承太郎は学ランのポケットから煙草を取り出して火を点けた。
 「わざわざ確認する間でもねぇんじゃねーのか?」
 「おまえは黙ってて。」
 シャナは背を向けたまま、すげなく言う。
 その背後から人影が飛んでくる。人影は承太郎の広い背を狙って手を伸ばす。
 シャナが振り向き様、刀を一閃する。
 承太郎の首筋すれすれを、横薙ぎの斬撃が通り過ぎる。
 これら四半秒もない時の流れの中で、誰かの悲鳴が上がっていた。
 「っぐぎ!ぐあぁっ!!」
 背後で何かが路面に落ちた。
 承太郎の足下に、女性のものらしい、切り落とされた腕が転がっていた。
 その腕はさっきの巨大な人形同様、薄白い火花となって消える。 
 更に上部で金髪の女性が目を見開いたまま空中で停止していた。
 その脇腹にはスタープラチナの裏拳が深々とメリ込んでいる。
 妙に無機質な顔を苦痛に歪め、女性は路面に落下した。
 「フン、『逃げるにしてもせめて一太刀浴びせていく』ってわけか?」
 承太郎は銜え煙草のまま、 
 「こんな簡単に釣れちゃうと、返って拍子抜けしちゃうわ。」
 シャナは笑みを含ませて、傲然と言い放つ。
 「なかなか悪くねぇ「読み」だったぜ?『シャナ』」
 自分で言ったことだが、初めて面と向かって呼ばれた名前にシャナは、 
「うるさいうるさいうるさい。図体デカイから囮に利用しただけよ。」
 と、頬を紅潮させてそっぽを向いた。

 先程シャナは自分の意志を最大限、瞳に込めて承太郎を見た。
 承太郎はその意図を一瞥しただけで理解した。瞬き一回に満たない、刹那の視線の 交差。
 戦闘の天才同士のみによって可能な、高度なアイコンタクトだった。
「『炎髪と灼眼』・・・・・・アラストールの『フレイムヘイズ』か・・・・・・そ・・・・・・それ  に・・・・・・そっちの人間は・・・・・・
 まさか・・・・・・まさか・・・・・・!?『天目一個』!?馬鹿なッ!確か討滅されたはずッ ッ!」
 「もうしゃべるな。話が噛み合わねえ。」
 承太郎が吐き捨てる。
 「お、お前達・・・・・・!私のご主人様が黙っていないわよ・・・・・・!」
 陳腐な脅し文句に、承太郎とシャナは鼻で笑って返す。
 「フン、なるほどな。このフザけた玩具はその『ご主人様』とやらのもんか?
  だがもう二度と遊べないようにたたっこわしてやるぜ・・・・・・・・・・・・」
 承太郎は逆水平に構えた手で金髪の女性を指差す。
 「ご主人様の顔面の方をな・・・・・・・・・・・・」
 「でも、今はとりあえず、お前の断末魔を先に聞かせて。」
 シャナは片手で刀を大きく振りかぶった。
 「ぎゃああっ!!」 
 美女の絶叫が紅い空間に響き渡った。

 一切の躊躇もない、左の肩口から腹にかけての袈裟斬り。
 斬り裂かれて仰け反って倒れる美女、その火花散る中から、小さな人形が飛び出し た。
 「ちいっ!」
 舌打ちするその人形は、茶色い毛糸の髪、青いボタンの目、赤い糸で縫われた口と いう粗末なもの。
 靴も指もない肌色フェルトの脚が路面を蹴って、低く後ろに下がる。
 これを追おうとしたシャナと承太郎は、しかし、胸元のアラストールから叫びを受 ける。
 「後ろだ!」
 背後で埋もれていた半分になった首玉が再び二人を狙って、瓦礫の奥から砲弾のよ うに飛び出してきた。
 「オラァッ!!」
 「はあぁッ!!」
 一閃。
 神速の右ストレートと直突きが首玉を貫く。
 拳と剣に串刺しにされた首玉はしばらく生き物のように蠢いていたが、
 やがて動かなくなり大量の火の粉となって爆ぜ、消えた。
 そしてこの間に、人形も何処かへと去っていた。
 不意な静けさが、人々の小さな残り火と破壊の傷跡を残す街路に訪れた。
 それをシャナの声が破る。
 「あの『燐子』の言い方からすると、案外大きいのが後ろにいそうね。」
 それに答えるアラストール。
 「久々に『王』を討滅できるやも知れぬ。」
 「うん。それにしても、」
 承太郎は黙って二人のやりとりを聞いていた。
 聞きたい事は山ほどあったが、状況から判断して今、
 その疑問を口にしてもきっと自分が満足するような解答は得られないだろう。
 二人(?)の会話が一段落した後、アラストールに問いただすのが合理的なやり方 だと思った。
「・・・・・・おい?おまえ?」
 いつの間にかシャナが目の前にいた。


 『本当に目の前にいる』
 その身体は宙に浮いていた。
 灼熱の光を点す瞳と髪が急に迫り承太郎の目に焼き付く。
 「アン?何か用か?」
 今更、特に驚く事でもないので承太郎は普通に返す。
 「気が進まないけど・・・・・・」
 シャナは小さく呟く。
 「アラストールが『見えるように』してやれって・・・・・・」
 頬も触れあうような、その近さ。
 シャナの視界の隅に承太郎の両耳のピアスの煌めきが映る。
 鼻にかかる、熱い火の香りと、仄かで柔らかな匂い。
 その小さな口唇がすぼめられ、承太郎に鋭く息を吹きかける。
 いきなり承太郎の全身が激しく燃え上がった。
 「・・・・・・!!」
 思わず声を上げそうになるが、熱さを全く感じないのでその必要がない事に気付  く。
 火は消えていた。大事な制服には焼け焦げ一つ付いてない。
 しかし、その事を確かめた後に眺めた風景に、
 (・・・・・・なんだ?)
 ぽつん、と点る小さな光が紅い空間、元の街の中そこかしこに点在していた。
 蛍の光のような、しかし今にも消え去りそうな弱々しい色彩の光。 
 (・・・・・・人間?いや、人間の命の残り火・・・・・・か?)
 直感以上の確信。
 それを目の前の少女に訊く。
 「何しやがった?あっちこっちに妙な光が見えるぜ。」
 が、シャナはもう遠くの方に行っていた。

 「さっきの見た?あの『燐子』ちゃっかり手下が集めた分、持ってっちゃっ    た。」
 それにアラストールが、嘆息混じりに答える。
 「うむ、抜け目のない奴だ・・・・・・が、あの者が『徒』に引けを取らない事が解った だけでも
 よしとすべきだろう。討滅自体はいつでもできる。」
 「・・・・・・どうだか、ね。」
 シャナは呟いて右の人指し指を天に向けて突き立てた。
 周囲で光が弾け、承太郎は思わず身構える。
 路面にまばらに散っていた、まるで人々の名残のようだった小さな灯りが、
 ふ、と幻が湧くように、人の形を取り戻していた。
 (無事だったのか!?)
 一瞬、希望を抱いた承太郎はしかし、棒立ちの彼らの胸の中心に、
 先程の今にも消えそうな弱々しい灯りが点っているのに気付いて愕然とする。
 その灯りは、最初に怪物に人々が襲われた際、燃え上がった炎と同じもののように 思える。
 (だが・・・・・・さっきは身体全体を包んでいた。
 しかし、今は喰われた分減っちまったみてーだぜ・・・・・・)
 突然、承太郎の体をおぞ気が走り抜けた。
 理由は解らないが、その光に底知れない邪悪な意志を感じ取った。
 その存在。その概念に。

 「『トーチ』はこれでよし、と。『直す』のに何個か使うね。」
 「うむ・・・・・・それにしても、派手に喰いおるわ。」
  言う間に、幾人かが、再び一点に凝縮された。瀕死の蛍のようになったその灯は宙を流れて、
シャナの突き上げた指先に宿った。
 瞬間、灯は一斉に弾け、無数の火の粉となった。
 それらの火の粉は、この陽炎の壁に囲まれた空間の中に舞い散ってゆく。
怪物や自分によって壊された所に触れると、火の粉はそこから持てる暖かさを染み透らせるように微光を宿らせ、
周囲へと広げる。
 「・・・・・・!」
 承太郎が眺める先で、微光を宿した全ての箇所が、ゆっくりと、無音で、テープの逆回しのように、壊れる前の姿へと戻っていく。
 砕けた敷石がひびを霞ませ、割れたショウウインドウが張り直され、落ちたアーケードが持ち上がり、
折れた街灯が伸びる。黒い焼け跡や、薄く澱んでいた煙さえ、消えてゆく。
 修復の終わった場所からは微光が失せ、光景はどんどん元通りになる。 
 この空間に囲われた人々が、胸に灯を点した以外は。
 シャナの指先で火の粉となって散った人間が、欠けている以外は。
 やがて、修復が全て終わる。それは、時間にしてほんの十秒ほど。
 シャナが、おもむろに告げる。
 「終わり、と」
 光と衝撃が湧き起こった。 

 「・・・・・・!」
 承太郎は反射的に手で光を遮る。
 次の瞬間、承太郎は雑踏の喧噪に包まれていた。 
 視界を覆っていた手をどければ、そこには、血のように赤い夕焼けに染まる繁華街と、
ざわめく人の流れがあった。
 周囲を覆っていた陽炎の壁も、足下に描かれていた火線の紋章も、全て掻き消えている。
 異変が起こる前の状態に、完全に戻ったのか。
 (・・・・・・違う)
 承太郎は、その違いをはっきりと感じていた。
 自分と一緒にあの妙な場所に囚われた人々は、まだ弱く薄い灯を、胸の内に点していた。
 シャナの指先で火の粉となった人間も、いない。
 なのに、誰もそのことを言わない。当たり前のことのように、みな、気にしない。
 (・・・・・・いや、気付いてねーんだ。オレの幽波紋(スタンド)が他の人間に見えねーのと同じように・・・・・・)
 やがて、灯を胸の内に点す人々は、雑踏の中に、どこか弱々しい足取りで散っていった。
 「おい?ちょい待ちな。」
 承太郎は胸に薄い光を宿した若い男の肩を掴んだ。
 「・・・・・・・・・!」
 ゾッとするほど生気のない顔をしていた。目の前にいるのに存在感は虚ろそのもの。
意志も、感情も、気配すらも感じられない。
 男は承太郎と一度も視線を合わせずに背を向けて雑踏に消えていく。それが去るのを黙って見ていた承太郎は
自分の前にシャナが立っていることに、ようやく気付いた。髪と瞳は元の艶のある黒色に戻っている。
 そうやってシャナを見下ろしていた承太郎は、やがて自分こそが、周りの注目を集めている事に気づいた。
 視線がいつの間にか鋭くなっていたので、所謂『ガンをつけている』状態になっていたのだ。
 周囲の人間には大柄な男が少女に因縁をつけているように見えたのだろう。 
通り過ぎる人間が足早に去っていく。
 「フン・・・・・・」
 承太郎は鼻を鳴らすと学帽の鍔で目元を隠し、シャナと共に歩き出した。

 黄金色に輝きながら黄昏の終焉を迎えつつある繁華街で、派手な学ランに身を包んだ長身の美丈夫と、
黒寂びたコートを着た小柄な美少女の組み合わせは、その身長差も相まって恐ろしく目立った。 
 相乗効果によりその存在感が歯車的砂嵐の小宇宙と化した為、二人が歩むにつれて人込みが旧約聖書の十戒のように割れていく。
 周囲から無分別に寄せられる好奇の視線や言葉。中には映画か何かの撮影と間違えてテレビカメラを探し出す輩までいた。
それらを一切気にも止めず、承太郎とシャナは人の波を切り裂いていく。  
 「・・・・・・早いとこ説明してくれるのを期待してるんだがな」
 承太郎の呟きにシャナはいきなり冷淡に告げた。
 「アレはもう「人間」じゃない、ただの「物」よ」
 「・・・・・・なんだと?」
 再び視線が尖る承太郎にシャナは更に冷淡に告げる。
 「本物の『人間だった存在』は、『紅世の徒』に存在を喰われて、とっくに消えてる。
アレはその存在の消滅が世界に及ぼす衝撃を和らげるため置かれた『代替物』、『トーチ』なの」
 端的な言葉を、承太郎はその超人的な判断力ですぐさまに分析し、そして理解する。
シャナもそれを見抜いた上で話していた。 
 「トーチ?代替物だと?・・・・・・・つまりアレは喰われた人間の成れの果て、
『残り滓』ってこと、か?」
 追い討ちかけるようにシャナが続ける。
 「そうよ。理解が早くて助かるわ。周りにぞろぞろ歩いてるのも見えるでしょ?
そいつらもみーんな、喰われた残り滓。この近くに、さっきみたいに、
『存在の力』を集めて喰ってる『紅世の徒』の一人がいるのよ。その犠牲者ってわけ。
別に珍しくもない、世界中で普通に起きてることよ。」
 承太郎は今度は黙ってシャナの言葉を聞いていた。
 途中一度、周りの『トーチ』を見渡すと、視線を落として俯く。
 何も言わず、表情は伺えないが怒りに震えているのが解った。

 「そんな大事が起こってんのに誰も気がつかねーのは、さっき周りにあった赤い壁みてーなやつの所為か?
確かそこのジジイが『封絶』とか言ってやがったな?」
 そう言って承太郎は顎でアラストールを差す。
 「!?・・・・・・おまえ、意外と鋭いわね。」
 「・・・・・・我の事は『アラストール』で良い。」
 シャナが驚きの声を上げるのと、アラストールが珍しくムッとした声を上げたのはほぼ同時だった。
 「正確には、あの壁の中の空間。あそこは世界の流れ、因果から一時的に切り離されるから、
周りに何が起こったかを知られることはない。それに『存在それ自体』を喰うから、
喰われた人間は『いなかったことになる。』後には痕跡すら残らないわ。」
「誰にも見えねえし、解らねえか。その点じゃ幽波紋(スタンド)と殆ど変わらねえな。」
 シャナが立ち止まった。
 目の前にタイヤキの売店があった。
 シャナは店員に言って、ホットプレートの上にある分を全部買う。
袋に詰めてもらうのを待ちながら、世間話でもするように、軽く言う。
 「でも、ただ食い散らかしていると、急に存在の空白を開けられた世界に歪みが出る。
だから、全部は喰わずにトーチを残して、空白が閉じる衝撃を和らげるのよ。」
 シャナはタイヤキで一杯になった袋を受け取る。
 「・・・・・・・・・さっきテメーがやってたアレか?残された人間の光を使って壊れた場所を修復してたな。」 
 「当たり前じゃない。薪がなければ火は燃えないでしょ。元になる力が無いと、
物は直せない、人も治せない。」
 「・・・・・・そうだな・・・・・・」
 少し考えた後、承太郎は学帽の鍔で目元を覆いながら言った。
 「・・・・・・それだけ?おまえなら「直すのに人間を使うなんてフザけるな」とか言うと思ったけど?」
 それに対する反論はもう既に頭の中に出来ていたので、承太郎の意外な態度にシャナは肩透かしをくらったような気分になる。 
 「それしか手がねーんだろ?まさかブッ壊れたまま放っとくわけにもいかねーしな。
なら何も言いようがねぇ。テメーが殺したわけじゃあねーからな。」
 一度死んだ人間は、もうどんな能力を使おうと戻らねぇ、そう小さく呟いて承太郎は押し黙った。

 「フン、似たようなものよ。」
 なんだか擁護されたみたいで面白くないシャナはわざと突き放すような言い方をした。
 「あ、ちょうどいいわ。見なさい、おまえ。」
 シャナが空いた方の手で指差した。
 「今、正面から歩いてくるトーチ、もうおまえには見えるでしょ?」
 人込みに頼りない足取りで混じる、印象の薄い中年の男。その胸の内に、小さな灯がある。
それが、ふと、消えた。燃え落ちた。
 男もいつしか、消えていた。それがなんでもないことであるかのように。
 周りを歩く人々は誰も、そのことに気付かない。いや、気にしない。
承太郎も、言われなければ注意を払わなかったかもしれない。それほどに、男の『存在感は薄かった』。
 「今のが、燃え尽きるって事か?もうさっきの男の事を覚えてるやつは、オレ達以外、誰もいない?」
「そ」
 シャナは簡単に答えて、また歩き出した。袋からタイヤキを取り出す。
 やらないわよ、と横に鋭い視線で訴えるが、承太郎は何か別の思索に耽っていて自分の視線には気づいていないらしい。
 結果的に無視された形になったシャナは、なによ、とムクれてタイヤキの上半身に噛みついた。
 承太郎はスタープラチナで周囲を見渡した。シャナの言うトーチになった人々を探す。
・・・・・・・血のように紅い夕焼けに染まる人込みの中、弱々しい灯を内に宿す、その『人の代替物は』、
街中に嫌になるほど目についた。
 「!」
 その視界の端で、また一人、灯が燃え尽きた。
 ランドセルを下げた小さな子供が、消えた。
 傍らには、母親らしき中年の女性がいた。 
 しっかりと握られた二つの手。
 その目の前で、鞄も、服も、靴も、余韻すら残さずその子は消えた。
まるで宙をたゆたうシャボンのように。 
 しかし母親はその事に気づかない。 
 人込みは変わらずに、流れている。
 承太郎の犬歯がギリッと軋んだ音を立てた。

 母親を喰われた子供は、母の帰りをずっと待つのだろう・・・・・・
 子供を喰われた母親は、息子の帰りをずっと待つのだろう・・・・・・
 化け物に殺された娘や兄弟の帰りを、家族達はこれからもずっと待つのだろう・・・・・・
 『自分が待っているという事にすら気がつかないまま』・・・・・・・・


 爪が皮膚を突き破るほど、強く拳を握りしめた承太郎の心情を敏感に察知したアラストールが、
タイヤキを頬張り始めたシャナの代わりに言った。
 「・・・・・・そう憤るな。我ら『紅世の徒』の中にも、この世の存在を無闇に喰らうことで世界のバランスが崩れ、
それが我らの世界『紅世』にも悪影響を及ぼすかもしれぬと危惧する者が数多くいる。」
 承太郎はシャナの胸元で揺れるペンダント、アラストールを睨んだ。 
 「我ら?アラストール。テメーもそのグゼとかいう・・・・・・さっきの化け物共の仲間なのか?」
 「貴様が出会ったのは、『燐子』という、我ら『徒』の下僕に過ぎぬ存在だが、
まあ、人間の視点で言えばそのようなものだ。ともあれ、その災いが起こらぬように、
存在の乱獲者を狩り出して滅す使命を持つのが、我ら、『フレイムヘイズ』というわけだ。」
 声を発するアラストールの上でタイヤキを頬張ったシャナが年相応に目元を緩ませている。
 「・・・・・・やれやれ、それはまた随分と頼り甲斐がありそうだな。」
 その『フレイムヘイズ』の少女を剣呑な瞳で見ながら承太郎は言った。
 こんなに幼い子供が何故そんな異様とも言える戦闘組織に属しているのか、
気にはなったが承太郎は聞かなかった。無闇に他人を詮索するのは趣味じゃない。
 承太郎はシャナとアラストールの話した内容をもう一度反芻して理解した後、核心に入る。
 自分自身の、核心に。
 「最後の質問だ。」
 そう言って人差し指を立てた。

 「テメーらが追ってるその『紅世の徒』とかいうヤツらと、『DIO』との関係は一体なんだ?」
 DIO。
 その名前に周囲の空気が一気に重くなる。
 重苦しい沈黙を破るようにアラストールが言った。 
 「・・・・・・我らにもあの男の概要はよく解らぬ。元は桁外れの器をその内に蔵していた人間であったらしい、
という事以外はな。ただ、最近『紅世の徒』の多くが彼の者の僕となった事が判明した。
世界の存在の強烈な『ゆらぎ』によって・・・・・・・・・・・・」
 シャナはその時の感覚を思い起こした。
 脳裏に最初に浮かんだ言葉は、魔王。
 しかしそんな陳腐な表現ではとても足りない、世界の要石に楔が穿たれたかような途轍もないプレッシャー。
その存在の力はかつて討滅した『紅世の徒』など比べものにもならない。
  それが、DIO。
 「彼の者はその強大な力を以て『紅世の王』にすら勝利し支配する。
その存在はまさに『王の中の王』。かつて己が潜血より数多の魍魎を生み出したという事から、
『幽血の統世王』と我らは呼んでいる」
 アラストールの言葉にシャナが補足した。 
 「それでフレイムヘイズとして王を討滅するなら、ジョセフと共に行動した方が良いってアラストールと相談して決めたの。
どうやらおまえの血統はあの男と関わりが深いようだしね。」
 「・・・・・・それじゃあ、さっきのもDIOのヤローの差し金か?」 
 「うむ。そうみるのが妥当であろう。我らの入国とほぼ同時に、この界隈で『封絶』が起こったからな。
偶然にしては出来過ぎだ。配下に敷いた『徒』から、我らが仇敵、ジョースターと盟を結んだ事は伝え聞いていようしな。」
 「悪党は悪党同士連みやがる、か」
 便所のネズミも反吐をブチまけるようなドス黒い気分が、承太郎の心の内に広がっていく。

 「残された時間は限りなく少ない。彼の者はこうしている間にも下僕を増やし、
人間を喰らい、その力を増大させている。現世の真の帝王となるためにな。
そしてその手始めとして承太郎よ。まずは貴様が狙われるはずだ。」
 脳裏に写真の男が思い浮かぶ。
 その視線。この世のどんな暗黒よりもドス黒い邪悪な眼光。
 その男のせいで関係のない人々が大勢死んだ・・・・・・
 何の脈絡もなく、唐突に、理不尽に、虫けらのように、
 何も、何もわからないまま・・・・・・
 その存在すら消し飛んだ。 
 「・・・・・・野郎・・・・・・DIO・・・・・・!」
 怒りで承太郎の眼輪筋が震え出す。
 空間まで蠢くようなその気配に、前方を歩いていたシャナが振り返った。 
 「おまえ・・・・・・?」
 (舐め腐りやがって・・・・・・!上等だッ・・・・・・!わざわざ待つ間でもねー。囲ってやがるその『徒』諸共・・・・・・
この空条 承太郎がじきじきに出向いてテメーをたたむッッ!!)
 倒すべき宿命。
 消し去るべき因縁。
 承太郎の碧眼に決意の炎が燃え上がった。
 熱く。激しく。燃え尽きるほどに。

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最終更新:2007年05月20日 12:04