「ん……」
シャナはまぶしい陽光に目を刺激され、目を覚ました。
(あれ……私……どうしたんだっけ?)
休止中の思考回路を徐々に働かせながら、シャナは自分が部屋の中、
そして布団の中で毛布に包まって寝ていたことに気づく。
(そうだ……あのデカブツが家に引き入れて、私は部屋、アイツは廊下で寝させるつもりだったっけ……)
シャナは横向きから仰向けに移行し、うっすらと目を空ける。
視界には雲ひとつない、スガスガしい蒼穹が広がる。
(綺麗な空……そら? あれ? ……なんで部屋の中なのに青空が……?)
それがキーだったのか昨日の惨劇が一気にフラッシュバックし、
シャナは布団から跳ね起きる。全て思い出したらしい。
部屋の有様は……とにかく酷い有様だった。
例の障子は全て粉々に破壊され、壁、床から押入れまで
台風が過ぎ去ったかの如くめちゃめちゃに切り刻まれ、
破壊の限りを尽くされていた。天井には一つ、何かが落下してきたようなぽっかりと丸い穴が開いていた。
正しくはスタープラチナが拳を突き上げた痕だったわけだが。
あの後……世にも恐ろしい大乱闘はアラストールの必死の説得と承太郎の
(まずい……これ以上やったら家が破壊されるッ!)
という危機感によって承太郎が一応折れ、形式上の和解でなんとか最悪の事態まで発展せずには済んだ。
しかし前述の通り室内はもはや廃墟同然だった。おまけに争った際、
シャナは封絶を展開しなかったため直すこともできなかった。
ここまで大騒ぎして今更別の部屋に移動するのも癪だと互いに思ったらしく
シャナは承太郎のジャージに着替えて(承太郎が小学生のころに着用していたものだったが、
それでもシャナには大きすぎてどう見ても着せられていた)
部屋の奥で布団に包まり、廊下と部屋の境目に突き刺された贄殿遮那(障子がふっとんだので一応)
を挟んだ廊下側で承太郎が寝袋を使って寝ることにした。
そして冷静さを取り戻したシャナ達は、この破壊活動で家の人々や野次馬が集まり
シャナの存在がバレることを危惧して脱出しようとしたが、
承太郎は「なあに、いつものことだ。どーせ誰も来やしねえ」とさらっと言ってのけ、
事実しばらくしても本当に誰も来なかったため流れで家にいることとなった。
修復等ややこしいことについてのことは後回しということで、とりあえず今日は就寝することにした彼らだが、
承太郎は毛布越しから伝わる殺気のせいで眠ることの出来なかった。
もっとも破壊された部屋のリフォームについてこいつらからどうやってリフォーム代を引き出すか
策を練るなど考えることはいくらでもあったのであまり苦にはならなかったが。
一方のシャナは、承太郎に裸を見られ、あまつさえ暴言を吐かれたことをまだ怒ってはいたが、
先ほどの戦闘に力を費やしすぎたのか、疲れが徐々に襲い結局一時間経つか経たないかのうちに眠ってしまった。
眠りに入る寸前、意外にも彼女が抱いた感覚は羞恥でも憤怒でもなく『温かみ』だった。
それは久々に温かい布団(奇跡的に無事だった)で寝たためか、
承太郎の手を介してもらったホットミルクの効果かは、定かではなかったが。
「まぁ……元はといえばアイツが悪いわけだし、別にいいよね……アラストール」
「知らん」
さすがのシャナも少々罪悪感を覚えたのか独り言のようにアラストールに尋ねた。
アラストールの答えはシャナの求めたものではなかったが、シャナはそれを肯定と解釈し
さっさと布団を畳んで押入れ――と呼ばれていた戸棚にしまう。
ギシッという足音に振り向くと既に学ランをバッチリ着込んだ承太郎が立っていた。
シャナは表情から今の感情を読み取ろうとしたが常にポーカーフェイスな承太郎に対しては無駄なことだった。
「やっと起きたか……家の連中が来る前にさっさと失せな。
それと俺の周囲20m以内では絶対着替えるなよ。これ以上の破壊はうんざりだからな」
「あ、あんたが離れなさいよこの変態――ッ!!」
シャナはこの男に一瞬でも罪悪感を抱いたことを後悔した。
To Be Continued→
承太郎→部屋のほかに、コンポと久保田利信のCDが全て破壊されたことに再度激怒
部屋については修理工を呼んでリフォームさせる予定。代金はシャナらに弁償させる予定
シャナ→物的被害はないが、精神的被害を負い、ついでに承太郎との亀裂をを互いにさらに深めた
近所の住人→「また空条家のドラ息子が暴れてるよ」と我関せずな態度
空条家使用人→ほぼ上と同じ
ホリィ→プリンスの新譜を自室でヘッドホン大音量で聴いていたので存在に気づかなかった。
最終更新:2007年06月25日 16:30