承太郎の背後から瞬現したスタンド、スタープラチナが長い鬣に白金の燐光を散りばめながら
頭上から迫る紅世の少女、マリアンヌに向けて素早く対空迎撃の構えを執る。
「せぇいッッ!!」
「オラァッッ!!」
 マリアンヌは清廉な声で眼下の承太郎に向けて、半身の回転による遠心力を加えた
打ち下ろしの長衣(ストール)の閃撃を。
 承太郎は猛々しい咆吼で眼上のマリアンヌに向けて、片膝を落とした反動による捻りを
加えたスタンドの対空抉撃(けつげき)を同時に放つ。
 閃撃と抉撃とがブツかり合う瞬間、承太郎は意図的にスタンドの拳を
逆回転して引き抜き、同時にその動作に連動したスタンドの爪先で
足下のリノリウムを罅割りながらバックステップで背後に高速で飛び去る。
「!?」
 不意を付かれたマリアンヌが放った閃撃は、目標を失って宙を泳ぎ
最終的には硬く冷たい質感のリノリウムの床の上に着弾した。
 ヴァガァァァァァッッ!!
 リノリウムの床がけたたましい号音と共に爆砕され、
階下に突き抜けバラバラになった床の破片と粉々になった土台のコンクリート、
そして長衣(ストール)に編み込まれた不可思議な力によって合成が解除されたのか、
大量のコルクの粉塵が白い空間に舞い上がる。
 承太郎はその目の前の怪異に意識を奪われず、冷静に状況を分析する。
(やっぱりな……曾祖母サン(こう呼ぶと怒るがな)の「首帯(マフラー)」と同じで
あの「長衣(ストール)」にはジジイの「波紋」みてーな何か妙な力が
滞留しているようだな。十分に水を吸わせた木綿の襷(たすき)は
撃ち方次第で丈夫な樫の木でも砕いちまうらしいがコレはそんなモンとは
レベルが違う……しかしどうやら威力がバカデカいだけで
”触れただけでどーこーなる”とかはなさそうだ。やれやれだぜ)
 状況分析を終えた承太郎はフル稼働させた脳細胞と交感神経とを宥める為、
学ランの内ポケットから煙草を取り出して火を点けた。


 昨日の花京院との戦いで承太郎はDIOの配下の者達の
戦闘に於けるその狡猾さに気がついていた。
 それは、逆説的だが『自分が優位に立っていると想った時ほど危ない』という事だ。
 現に昨日も、圧倒的優位に立っていた状況から、
花京院の必殺の流法(モード)輝く翡翠の魔連弾。
『エメラルド・スプラッシュ』によって戦況はいともアッサリと逆転したのだ。
”相手が勝ち誇った時、そいつは既に敗北している!”
 何故か脳裏に昔ジョセフが自分に言った言葉が甦る。
(やかましい!テメーに言われなくても解ってンだよ!クソジジイ!)
 その祖父の言葉に承太郎は心の中で毒づいた。
「以外に臆病なのね?星躔琉撃?そんなにご主人様の創造なされた”宝具”
が恐ろしかったの?」
 その純絹のように艶やかな肩口を承太郎に向けながら、
マリアンヌは顔だけで振り向き横目で彼を見た。
「相手の能力も解らずに懐に飛び込むバカはいねーぜ」
 承太郎はその挑発を意に介さず細い紫煙を口唇の隙間から吐き出す。
「テメーはオレの能力を知ってるがオレはテメーの能力を知らねーんでな。
でもまぁ良い。今ので大凡の事は解ったぜ。オレのスタンドとの「相性」は
そんなに悪くはねぇようだ」
「その憶測が正しいかどうか試してみるのね!」
「上等だッ!来なッッ!!」
 承太郎は半ばまで灰になった煙草を吹き、マリアンヌに向けてスタンドを念じ、
そして繰り出した。
 カタパルトで射出されたように超高速で自分へと迫るスタープラチナに、
「はあぁぁぁッッ!!」
マリアンヌは踏み込んだリノリウムの床にミュールの軸足を反転させ、
発生した遠心力を宿した煌めく長衣(ストール)の左廻しの一閃をスタープラチナの
側頭部に向かって鋭く撃ち出す。

「オラァッ!!」
 足下でリノリウムを爆砕して踏み込んだスタープラチナは、
白金の「幽波紋光(スタンドパワー)」の燐光で覆われたその豪腕で閃撃を
廻し受けで素早く弾き飛ばす。
 白金と白色の火花がバチッ!と互いの中間距離で爆ぜた。
(キレはあるが……定石(セオリー)通りの動き……
「競技」ならともかくな……ッッ!!)
 承太郎目の前の状況を具(つぶさ)に分析しながら更にスタンドを念じ、
その精神の集中に呼応したスタープラチナはすぐさまに足下の床を蹴り砕いて
マリアンヌの懐へと飛び込む。
「!!」
 その無駄のない、あまりの踏み込みの速さにマリアンヌはその双眸を見開く。
 まるでその存在自体が巨大なプレッシャーの塊のような、
途轍もない威圧感を放つスタンドの両の眼が超至近距離でマリアンヌを傲然と見下ろす。
(「攻撃」はともかく「防御」がまるでなってねぇよ!
生身のタイマンじゃあ急所に一撃喰らっても
怯まず前に出てくる男(ヤロー)もいるんだぜ!
動けなくなった人間ばっか相手にしてやがる紅世の徒(テメーら)
には想像もつかねぇだろうがなッ!)
 承太郎は心の中でそう叫ぶと
「オッッラァァッッ!!」
 回避の予備動作は疎かガードすらも上げていないマリアンヌの無防備の「水月」に
目掛けてスタープラチナは瞬速のボディーブローを撃ち放った。
 しかし、意外。
 ソレが命中する瞬間、マリアンヌは変わらない清らの微笑を
その淡い色彩の口唇に浮かべた。
 そしてその微笑みに呼応するように、長衣(ストール)が何かの引力に引っ張られた
かのように高速で動き、そしてスタープラチナの鋼鉄の鋲が無数に埋め込まれた
特殊な形状のオープンフィンガーグローブで覆われた拳を包み込んで衝撃を吸収し、
打拳の動きを停止させた。
 再び火花が空間で弾け宙を舞う。


 そしてその火花の飛沫すらもマリアンヌの躰に触れる瞬間、
長衣(ストール)が大きく扇状に拡がって全て吸収した。
(何……ッッ!?)
 今度は承太郎がスタープラチナと同時にその双眸を見開く。
 マリアンヌは別段何の動作も行っていない。
 防御や回避の「初動」はどこにも見られなかった。
 一度エリザベスに全身を微動だにせず強烈な一撃を放つ
帯術の極意を見せてもらった事があるが、ソレは曾祖母のような達人レベルの領域に
なって初めて使う事が出来る絶技だ。
 防御の基本も出来ていない目の前の少女にそんな「能力」があるとはとても想えない。
(能力……?)
 頭蓋の奥で閃きが走った承太郎は純白の衣が絡みついたスタンドの拳を強引に引き剥がし、スタープラチナを自分の傍まで引き戻した。
「テメーのその長衣(ストール)の能力……”透明になる”だけじゃあねぇな。
相手の攻撃に反応して「自動的」にテメーの身体をガードをしやがるわけか」
 鋭い視線で承太郎はマリアンヌの躰を包む純白の長衣(ストール)
紅世の宝具”ホワイトブレス”を逆水平に構えた指先で差す。
「御明察の通りよ。フフフフ。ご主人様が攻撃強化の他に
様々な防御系自在法をこの長衣(ストール)に編み込んで下さったのよ。
他にも色々とね。この”ホワイトブレス”は様々な自在法を編み込んで
溜め込んでおく事の出来る、いわば超軽量のタンクのようなもの。
そして編み込む自在法によってその性質を千変万化させる事が出来る「宝具」よ」
 そう言ってマリアンヌは一度言葉を切り、その麗しいパールグレーのベリーロングの
髪を清廉な仕草でかきあげる。
「ソレによって攻撃・防御・の二つを『同時に行う事』が出来る。
だから私は安心して攻撃だけに専念することが出来るというわけよ」
 そう言ってマリアンヌは再び長衣(ストール)を大らかに構え直すと
「さぁッ!!この”ホワイトブレス”をさっきみたいに
封殺出来るのならやってみなさいッ!」


 挑発的な笑みを浮かべてそう叫び足下のリノリウムの床を踏み切って、
真正面から堂々と承太郎の射程圏内へと飛び込む。
「ハアァァッッ!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
 一直線に突っ込んできたマリアンヌの直突の一撃をスタープラチナは紙一重で
避わすとその華奢な躰に向けて音速の多重連撃を一斉射出する。
「フフフッ……!おバカさん……!」
 マリアンヌが微笑を浮かべると同時に純白の長衣(ストール)が先刻同様、
否、ソレ以上に素早く拡散して羽根吹雪のように捲き上がり空間を舞い踊って
スタープラチナの音速拳の連打を全て吸収、防御する。
「チィッ!「コレ」すらも防ぎやがるのか!」
 音速の動きにすら対応する「宝具」の潜在能力に戸惑いながらも、
承太郎は反撃に備えてスタープラチナのバックステップで距離を取る。
 しかし彼が背後に飛び去るよりも速く、マリアンヌの長衣(ストール)が再動。
(ッッ!!)
捲き上がって収斂し、正面のあらゆる角度から豪雨のようにスタープラチナへと降り注ぐ。
「クッ!」
 承太郎は咄嗟に十字受けの構えでスタープラチナ防御体型を執らせ、
顔と首筋を腕の中に埋めさせると、やや前屈の構えで腹部の面積を減らし
更に左足を上げて脇腹を防ぐ。
 ズギャギャギャギャギャギャギャッッ!!
 流麗に煌めくその神秘的な外見とは正反対に、
まるで引き絞るように凶暴な炸裂音と共に
純白の長衣(ストール)から繰り出された多重閃撃が
スタープラチナの全身を撃ち抜いた。
「グッ!?」
 苦痛に顔を歪める承太郎の脇をマリアンヌが白い封絶に煌めく
パールグレーの長髪を揺らしながら華麗に飛び去っていく。
 連撃でガードを抉じ開けられさらに衝撃で背後に弾き飛ばされたスタープラチナと、
そのダメージの影響を受けた承太郎の学ランの両腕部がまるで鎌鼬にでも
遭ったかのように引き裂かれ同時に生まれた擦過傷によって鮮血が空間に飛び散る。


承太郎は自分とスタンドの蹴り足で何とか体勢を立て直し、
リノリウムの床の上に急ブレーキをかける。
 しかしその眼前に再び微笑を浮かべたマリアンヌが長衣(ストール)を
巻き上がった気流にはためかせながら迫る。 
(クッ!?向かえ討つのはマジィ……!アノ長衣(ストール)の「能力」で
こっちの「攻撃」が全部”カウンター”になっちまう……!)
「せえぇぇぇぇいッッ!!」
 マリアンヌは手練の手捌きで閃光の三連撃をスタープラチナの
「聖門」「秘中」「水月」に向けて撃ち出してくる。
「オラオラオラァァァッッ!!」
 スタープラチナはその精密な掌の動きでその閃撃を全て迎撃する。
 急所に向かって撃ち出された長衣(ストール)はスタープラチナの胴体に
掠る事もなく全て撃ち落とされる。
(「コレ」は……見切れる……!)
「ハアァァァァァッッ!!」
 地に足を着いたマリアンヌは、その直進の動作で発生した力を殺さずに
軸足を滑らかに反転させ、まるで円舞のように流麗な動きで身体を回転させながら
遠心力の乗った巻撃の連続攻撃をスタープラチナに向けて繰り出す。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
 その動作に妖艶な体捌きに幻惑される事なく攻撃にのみに集中力を研ぎ澄ました
承太郎はスタンドで次々に自分に迫る長衣(ストール)の側面を弾き
胴体と顔面に向かって放たれた攻撃を全て弾き落とす。
 円を描く死の踏(ステップ)が12回転を終えた所でマリアンヌは演舞を終えた
巫女のように両腕を交差し片膝を床についてその顔を俯かせる。
 舞い上がって散らばった煌めくパールグレーの髪が
静かに引力に引かれ周囲の空間を撫ぜる。
 華麗さこそ極まるが戦闘中には完全に自殺行為と言って良いその無防備な挙動。
 並の戦闘者なら「機」の誘惑に負けて反撃に撃って出るところだが、
承太郎はあくまで冷静に対処した。


(……完全に隙だらけ……!だが違う……!「罠」だ……!)
 防御体勢を保ったままマリアンヌの目の前で停止するスタープラチナ。
 その眼前で捲き上がって気流に靡く長衣(ストール)が一迅、
煌めきを増したかと思うと更に勢いをつけて再動。 
 マリアンヌが腕を動かしていないのにも関わらず、またも純白の長衣(ストール)は
ソレ自身が意志を持ったかのように拡散し、変幻自在の軌道で
高速でスタープラチナに襲いかかった。
(今はこっちから攻撃してねー……!「防御」にも反応しやがるのか……!イヤ……!)
 瞬く間もなく襲いかかる白撃の乱舞に承太郎は思考は
中断するのを余儀なくされた。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
 再度羽根吹雪のように縦横無尽に舞い狂う長衣(ストール)の連撃を
スタープラチナは迎え撃つ。
 その弾幕のような帯撃の一斉掃射をスタンドは精密な動作で対角方向に迎撃していく。
 しかし。
 死角の位置から両腕の隙間に、まるで絡みつくようにその鉄壁のガードの
内部に進入した長衣(ストール)の先端が、そこで一瞬力を矯めるかのように停止すると、
 ズギャッッ!!
 素早く発光して獲物に鎌首を擡げた白蛇のように
スタープラチナの左胸の位置に伸びて鋭く撃ち抜く。
「ガッッ!?」
 再び背後に弾き飛ばされたスタープラチナと承太郎はリノリウムの床に足裏を
滑らせ派手なスキール音を立てながら片手を床につき前屈の構えで停止する。
 革の焦げた匂いが周囲に漂った。 


 閃撃のダメージは左胸から背中にかけて突き抜け着弾箇所が熱を持って痺れている。 
 承太郎の口元から細く血が伝った。
(クソッタレが……ッ!あんな布っ切れが当たっただけなのに
まるで鉄のシャベルでも胸にブッ込まれたみてーだ……!!
オマケに競馬場のハズレ馬券みてーにヒラヒラ空中を舞ってやがるから
動きが読み難くてしょうがねぇぜ……ッッ!!)
 心の中で毒づきながら承太郎は口元の血を拭う。
(アノ女の攻撃自体は見切れない動きじゃあねー……
だが、問題はその後の「追撃」だ……!)
 不意を突かれた事に苛立ちながらも承太郎はその鋭敏な頭脳で戦況を分析する。
(アノ女の手の動きとは全く無関係に『長衣(ストール)自体』が動く……!
つまり攻撃の「起点」がねぇから『全部動体視力と反射神経だけで』
防がなきゃあならねー……!だが……ッ!
無数に撃ち出される帯撃の、その一発一発がとんでもなく速くて強ぇ……!) 
 異質な相手の能力に奥歯を食いしばる承太郎の、その10数メートル先で
悠然と校舎内に佇む異界の美少女。
 紅世の王”狩人”フリアグネの従者、マリアンヌ。
 その幻想的なパールグレーの瞳で静かに承太郎を見つめていた。
 獲物をつけ狙うまさに”狩人”の僕そのままの視線で。
「ウフフフフフフ……!失礼。星躔琉撃?どうやら少々説明不足だったみたいね?」
 調律の狂ったプリペアドピアノのような、奇怪なトーンの声が
人気のない廊下に木霊した。


「この”ホワイトブレス”に編み込まれた「攻撃」「防御」の自在法の中には
無数の「操作」系自在法が組み込んであるのよ。
自在法の名手として名高いご主人様御得意のね。
つまりアナタは今、私とご主人様の二人を同時に相手にしているようなモノ。
自分の置かれている状況がどれだけ絶望的か理解出来たかしら?
ウフフフフフフフ……!」
 そう言って瞳を綺麗な笑みの形に綻ばせ口元を覆いながら頬笑む。
 純白の、危険に煌めくその異界の長衣(ストール)で。
 その背後に、彼女の最愛の主の嘲笑が透けて視えるような勝利を確信しきった表情で。
 攻・防・技。神速の三位融合。
 戦慄の”狩人”秘蔵の聖衣。
 紅世の”宝具”
『ホワイトブレス』
創者及び法者名-”狩人”フリアグネ
破壊力-B スピード-A(自在法発動時) 射程距離-C(最大7メートル)
持続力-C 精密動作性-A(自在法発動時) 成長性-なし


 マリアンヌの口から告げられた事実に承太郎の憤りはさらに激しさを増す。
(チッ……!”自在法”……!一昨日シャナがやってたヤツか……!
ブッ壊れた街と人間を元に戻したのにも驚かされたが……
「戦闘」に「使う」となるとこんなに厄介な代モンはねーぜ……ッ!)
 衝撃の余波で裂けた額から伝う血を手の甲で拭う。
(それにその”操作の自在法”とやらをあの”ホワイトブレス”とかいう
長衣(ストール)に練り込んだ”フリアグネ”とかいうヤロー……
花京院のヤツの云う通りそーとー「良い」性格してやがる……!
多量の目眩ましの帯撃の中に「本命」の一撃を紛れ込ませる……!
それも意識が前方に集中している相手(オレ)からは完全な「死角」の位置から……!
幾らスタープラチナの「眼」でも『見えてねぇ部分』には
その精密動作も空回りするしかねぇ……!)


心の中で毒づきながら承太郎は口に溜まった血の混じった唾を廊下に吐き捨てる。
 しかし苛立ちは持続せず、すぐに彼は彼本来の冷静さを取り戻す。
 無益な愚行と周囲には想われていた幾多の争いの日々が、
彼に合理的な戦闘の思考を密かに育んでいたのだ。
 そして、目的を持たない暴力の無意味さも虚しさも同時にまた。
(さて……どうする……!?)
 自分が護るべき人間。
 スタンド能力を持つ『自分にしか護れない』多くの人間の姿を
脳裏に浮かべながら承太郎は次に打つべき「手」を模索し始めた。
(理想としてはこのまま攻防を繰り返すとみせかけて防御と牽制とに徹し、
あの長衣(ストール)の内蔵エネルギーを無駄遣いさせて
切らしちまうってのが上策のようだが……)
 彼の脳裏にふと一人の少女の姿が浮かぶ。
 黒寂びたコート。
 文字通り燃えるような炎の髪と同質の色彩を携えた真紅の双眸。
 その中に燃え上がる灼熱の使命感。 
 そして、その小さな肢体の左胸に照準を合わせる、死神の弾丸が装填された
”フレイムヘイズ殺し”の「拳銃」
(……やれやれ……どうやらグズグズしてる暇はねぇみてぇだぜ……!)
 戦法を長期戦から短期戦へと移項し承太郎の頭脳は
新たな戦略を生み出すために始動を開始する。
 脳裏で紡がれる幾つもの布石の中、承太郎は先程からのマリアンヌの
「行動」から類推出来る彼女の戦闘パターンを解析した。
(アノ女はさっきからスタープラチナにばかり意識がいっていて、
「本体」である「オレ」は眼中に入ってねぇ……
このオレをスタープラチナの「付属物」或いは「消耗品」だとでも考えていて
「司令塔」だとは想ってもいねぇみてぇだ……
つまり……『人間の力を侮っている』)
 その事実に怒りが再び内部から迫り上がってきた。


(舐め腐りやがって……!そうやって人間を軽くみてやがるからその生命も
虫ケラみてーに簡単に喰い潰すことが出来るってわけか……!いいだろう……
紅世の徒(テメーら)が甘くみてやがるその「人間」の力……!
この空条 承太郎がテメーに思い知らせてやるぜ……ッッ!!
マリアンヌッッ……!!)
 決意と共に心の中で叫び承太郎は襟元から垂れ下がった長鎖を
腕から滴ってきた血で塗れた右手で力強く掴む。
 承太郎が攻撃してこないのを諦めと受け取ったのかマリアンヌは
「どうやら万策尽きたようねッ!ではコレで終劇とさせてもらうわッッ!!」
そう叫びミュールの軸足で足下のリノリウムを踏み切り長衣(ストール)を揺らしながら再び真正面から突っ込んできた。
 華麗なるその容貌と手にした宝具の背徳からまるで死の天使の如く
承太郎に迫るマリアンヌ。
(勝負は……一瞬……!)
 スタンドを正面に出現、配置させ、同時に「覚悟」を決める承太郎。
 ソレが彼の神経を極限まで研ぎ澄ました。
「コレでお別れよッッ!!”Au revoir(オ・ルヴォワール)!!”
空条 承太郎ッッ!!」
 最後の言葉と共にスタープラチナの顔面に向けて
白く煌めく閃撃が鋭く撃ち出された。
 そのとき。
「オッッッラァァァッッ!!」
 激しい喚声が挙がった。
 スタープラチナではなく『承太郎自身の口から』 
 突如その声の方向から真横に延びるように撃ち出された
白金に輝く閃光がマリアンヌの手を、艶めかしく絡みついた純白の長衣の上から
打ち据える。
「…………痛ッッ!?」
 ソレによって閃撃の軌道が逸れ長衣(ストール)はあさっての方向に流された。
 いつのまにかスタープラチナの左斜めの側面、接近しているマリアンヌからは
完全に死角の位置から承太郎が攻撃を放ったのだ。


その手に握られた、普段は学ランの襟元から垂れ下がり済んだ音を奏でている
白金の鎖(プラチナ・チェーン)によって。
「ま、まさか!?ひ弱な「人間部分」が攻撃してくるなんて!?」
 マリアンヌは驚愕でそのパールグレーの双眸を見開く。
 その刹那。
 雷・光・疾・走(はし)るッッ!!  
『攻撃したのが承太郎なので”ホワイトブレス”の「攻撃目標」は
「自動的」にスタープラチナから空条 承太郎へと変更される』
 その情報の変遷によって一時停止状態に陥る宝具ホワイトブレスの、
その一瞬の間隙を縫ってスタープラチナが乾坤一擲の一撃を
マリアンヌのその麗しい顔に向かって発射する。
 人智を越えた超常の力を携える、波紋戦士やフレイムヘイズを初めとする「超能力者」
のなかでも『スタンド使い』にしか使えない
「幽波紋(スタンド)」と「本体」による超高速連続攻撃融合技。
 名付けて。
【タンデム・アタックッッ!!】


承太郎のライトグリーンの瞳とマリアンヌのパールグレーの瞳が重なる。
 ゼロコンマ一秒の世界で、互いの思惑が交錯した。
(このチェーンはオレのケンカの奥の手だ……
多人数に囲まれた時と相手が光モン抜いた時しか使わねーがな……)
(そ、そんな……!?”宝具”でもないただの「鎖」がなんで……!?)
(『ただの鎖じゃあねーんだよ……』曾祖母サンから貰ったコレには
特製の「波紋」が練り込んである……ついでにジジイのヤローも
騙くらかして波紋込めさせたから相乗効果で強度が半端じゃあねー事に
なってんだよ……オメーの一撃程度なら弾き返せる位にな……)
(ただの人間が……!!紅世の徒であるこの私の動きに着いてこれる筈が……!!)
(昔、ガキの頃曾祖母サンに帯術の基本だけ教わった……ジジイには秘密でな……
テメーの得物(エモノ)は威力こそデケーがその使い方がまるでなっちゃいねー……
スピードとキレはあるがその軌道は直線的だ……
曾祖母サンの帯捌きに比べれば止まって見えるぜ……ッッ!!)
(ク……ッッ!!)
(スタープラチナにばかり目がいって本来一番警戒するべき人間!
この空条 承太郎から意識が逸れたのが敗因だったな!
マリアンヌ!オメーの負けだぜッ!!)
 承太郎のそのライトグリーン双眸が何よりも気高く輝き、
マリアンヌのパールグレーの瞳を鋭く貫いた。
 熱く。激しく。燃え尽きるほどに。


←PAUSEッッ!!

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最終更新:2007年09月23日 15:10