夜の竹林を行く

 
 
なんでこうなってしまったのか、何がどうなっているのか分からない。
 
蓮子に伊弉諾物質を見せた事は覚えてる。
サナトリウムで療養していたときに、夢を通って垣間見た地底世界。
それは神々が今も眠る別の日本の風景だったのだ。
二人で見つけようとしたのは、かつてあった神々の住まう風景だったんだ。
そう、見つけようとしたのは、こんな地獄じゃなかったはずなのに――――――
 
 
 
目が覚めたら、何処かも分からぬ見知らぬ場所。
そこで私は、荒木と太田と名乗る二人から「殺し合いゲーム」をしろと伝えられた。
それに穣子という女の子が詰め寄って行って、彼らに異議を申し立てようとしたら、彼女の頭が…………
 
 
そのときの光景を思い出したら、急に喉の奥の方から何か込み上げてくる感覚があった。
あの場では非現実的な感覚で麻痺していたけれど、今になって体が反応してしまったらしい。
 
私はその場に座り込んで、そのまま吐き出してしまった。
お昼にカフェで食べたフルーツパフェも、蓮子と一緒に飲んだハーブティも、全て嘔吐物として排出される。
吐瀉物の水っぽい音が、誰も居ない竹林の中へ消えていく。
 
 
ひとしきり吐いて、もう出てくるものもお腹からなくなってしまった。
そうしたら今度は目頭が熱くなり始めた。恐怖と寂しさとが無秩序に混じり合った感情が湧いてくる。
 
衛星トリフネに行ったときも、ウィングキャットに襲われた時は怖かった。
でもあの時は隣に蓮子がいた。私の無二の親友で、いつも引っ張っていく活動家。
それに夢を通して行った場所、夢を通ってしっかりと地球に戻ってこれた。
 
今回は違う。隣に親友はいない。帰れるかもわからない殺人ゲーム。怖くて怖くてしかたがない。
 
「蓮子、怖いよぉ……」
 
近くにいない親友の名を呟いても、だれも聞いている人なんていない。
震えるしかない。恐れるしかない。怖がるしかない。何もできない。
ただただ目から涙が零れ落ちていく。
 
 
 
 
「お嬢ちゃん、蹲ってどうかしたかね?」
 
 
 
不意に声の聞こえる方向に振り向いた。
そこには、派手な色彩のシルクハットを被った口髭の男性が立っていた。
 
 
 
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「あの、先ほどは情けない恰好で、その……」
「かまいやせんよ。お嬢ちゃんみたいな若い子が、いきなりこんな場所に放り込まれたら参って当然」
 
溢れていた涙も、今はもう流れてこない。泣いたことで、気持ちが幾分スッキリしたみたい。
でもその分、初対面の男性にさっきの姿を見られたという事実に、耳が赤くなるのを感じる。
『穴があったら入りたい』って言葉はこういう時に使うのかしらね。落とし穴でもいいから何処かにないかしら。
 
 
「レディ相手に自己紹介が遅れてしまったのぉ。わたしの名はウィル・A・ツェペリ。
 気軽にツェペリとでも呼んでおくれ」
「マエリベリー・ハーンです。でも友達からはメリーって呼ばれてます」
「メリー君か。君はこの殺し合いにはのるつもりはなさそうだが、これからどうするつもりかね?」
「…………」
 
 
ツェペリさんの問いに、私はすぐに答えられない。
確かに殺し合いなんて、まっぴらごめんだ。
今までそんな事したことないのに、いきなり出来るわけもない(今までにしたことがあるのは大問題だけれど)。
 
それに、人殺しをした血まみれの手じゃ、きっと蓮子も手を繋いでくれないだろう。
私だって、蓮子の手が血で汚れるようなことになったら、人生の全てを無碍にしてしまうかもしれない。
 
けれど、だからってあの荒木と太田と名乗る二人に立ち向かう事も出来ない。
境界の見える眼を持って、夢を通してトリフネにも地底にも行ったけれど、それは不思議を求めるため。
戦う力も方法も、普通の女子大生をしていた私が持ち合わせているはずもなく――――――
 
 
 
「えっと、その……」
「すぐには決められんか。まあ無理もない」
 
 
そう言いながらツェペリさんは、自身のデイパックの中をゴソゴソと探り出した。
 
「あったあった。ところでお嬢ちゃんは名簿って確認した?」
「あっ、そう言えば……」
 

 
さっきまではデイバックの中身を確認する余裕もなかったっけ。
ツェペリさんと一緒に名簿を確認しようと、私もデイパックを漁る。
程なく、二人とも名簿を発見した。デイパックの中身が殆ど紙だったのは気になるけれど……
 
 
名簿をめくり、中に書かれた名前を一つ一つ確認する。
殆どは知らない名前だったけれど、その中でも3つのよく知る名前を確認できた。
私の名前、さっき出会えたツェペリさんの名前、そして――――――
 
 
 
 
『宇佐見蓮子』
 
 
 
 
「蓮子……」
嫌な予感はしていたけれど、やっぱり蓮子も参加させられていたのだ。
 
一緒にデンデラ野に冥界探しをして、ヒロシゲ36号で共に東京へ旅行し、
夢を通してトリフネまで冒険に行って、伊弉諾物質で神様の世界を見ようと約束した
――私の親友
 
蓮子もこの狂ったゲームに参加させらていたんだ。
 
 
 
そう考えていたとき、不意にツェペリさんが呟いた。
 

 
「どういう事なんじゃ、これは?」
 
 
「どうかしたんですか?」
「名簿を見てみるんじゃ、メリー君。わたしと同じツェペリの姓を持った人物が二人も書かれておる」
 
そう言われて、名簿を再度確認する。
確かに、『シーザー・ツェペリ』『ジャイロ・ツェペリ』という名前が書かれている。
けれど、兄弟とか子供とかなら同じ姓になるんじゃ……
 
 
「わたしにも息子はいるが、シーザーもジャイロも聞いたことがないわい。
 それだけではないぞ。わたしの知り合いにジョジョ……ジョナサン・ジョースターがおるのだが」
 
ツェペリさんは名簿に書かれた『ジョナサン・ジョースター』という名前を指さしながら続ける。
 
「下の方を見てくれ。同じジョースターの姓を持った人物が書かれておる」
 
私の名簿でも確認すると、そこには『ジョセフ・ジョースター』と載っていた。
 
「同じ『ジョースター』……兄弟じゃないとすれば、一体誰なんでしょう」
「分からん。じゃがこれで当面の目的は出来たわい。
 ジョジョやスピードワゴン君だけでなく、彼らにも出会って何者なのか確認する必要があるのぉ」
 
 
 
そう言われて私はふと考える。
蓮子は無事なのかしら。ツェペリさんに出会える前の私みたいに、一人ぼっちなのかしら。
普段の行動的な彼女からは想像も出来ないけれど、怖くて震えてるのかもしれない。
 
そう思い始めたら、自然と言葉が口に出てきた。
 

 
「ツェペリさん、お願いがあるんです」
「急にどうしたんだね、メリー君?」
 
「私には、宇佐見蓮子って言う友達がいるんです。
 一緒に秘封倶楽部として活動してて、いつも私を引っ張ってくれる子で。
 けれど、あの子もこの殺し合いに参加させられてて、もしかしたら怖がってるかもしれなくて……
 私、蓮子に会いたいんです」
沈黙するツェペリさんに、私は話し続ける。
「けれど、私いままで戦った事なんてないから、怖くて怖くてしかたがないんです。
 だから、その……」
 
 
 
 
 
 
「分かった。一緒に探そう」
ツェペリさんの言葉に、一瞬茫然とした。
 
「メリー君の友達への思いは分かった。安心したまえ。わたしも蓮子君の事を探すのを手伝おう」
「ツェペリ、さん……」
「なぁに、先ほども言った通り、わたしも人を探さねばならんのでな。
 ついでにお嬢ちゃんの友達探しをするぐらい、わけないわい」
 
出会った時から、飄々として掴みどころがないと思っていた。
けど違った。この人は、まるで父親が子に接するように優しい人だったんだ。
そう思えたら、なんだかまた目頭が熱くなるのを感じた。
 

 
「それでは今後我々の方針として、先ずは人探しからじゃな
 ……とは言え、この竹林は一筋縄ではいかなそうじゃわい」
「そうですね。何処も同じに見えて、方向感覚が狂いそう」
 
 
夢の中で来たことはあるけれど、あれも夢から覚めて出て行ったようなものだし。
この竹林をどう抜け出せばいいのか、と考えていると、ツェペリさんはデイパックから1枚の紙を取り出した。
 
 
「しかし、アラキもオオタもわしらに紙ばかり持たせてどうするつもりなんじゃ?」
そう言いながらツェペリさんは紙を開く。
「サバイバル用品を渡すって言っていたはずなんですけれど、この紙に何が……」
 
 
 
紙の上には、大きな朱塗りの盃が『出現した』。
そうとしか形容できない。今までなかったものが紙の上に鎮座しているのだ。
 
「驚いたわい。紙を開くと物が出てくるのか。一体どうなっておるんじゃ!?」
「不思議……もしかして他の物も」
 
私も確認するために、自分のデイパックから紙を1枚取り出す。
開いてみれば、そこにはペットボトルに入った水が数本出てきた。
 
「もしかして、紙の中にサバイバル用品が入っているのかしら」
「うむ、そうとしか考えられん。だが、これなら嵩張らず重くもない。
 これは便利かもしれんのぉ」
 
そう言いつつ、ツェペリさんは二枚目の紙を開く。
中からは私と同じようにペットボトルが数本出てきた。
 

 
「水に杯か。これならこの竹林でも、人探しは出来そうじゃな」
「水に杯で? 一体どうするんですか?」
「まぁ、それは実演しながら教えよう」
 
 
そう言いながらツェペリさんはデイパックを背負い直す。
片手に大きな盃を持ってどうするのか。
と、ツェペリさんは私に尋ねてきた。
 
 
 
「ところで嬢ちゃん、この『ビン』の栓抜きって持ってなぁい?」
 
……ツェペリさんってペットボトル知らないのかしら?
 
 
 
 
【C-6 迷いの竹林/深夜】
 
【マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:健康、精神はだいぶ落ち着いている。
[装備]:なし
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。
1:蓮子、今会いに行くから待っててね。
2:ツェペリさんの仲間や謎の名前の人物も探そう。
3:……なんでツェペリさん、ペットボトルを知らないんだろう?
[備考]
参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。能力の制限は不明です。
これからツェペリとともに何処に向かうかは、皆様にお任せします。
ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
ツェペリがペットボトルを知らない事、ツェペリやジョナサンと同じ苗字の人物もいる事に疑問を感じています。
 
 
【ウィル・A・ツェペリ@第一部 ファントムブラッド】
[状態]:健康
[装備]:星熊盃@東方地霊殿
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョジョやスピードワゴンと出会い、主催者を倒す。
1:波紋レーダーで人のいる場所を探そう。
2:ジョジョ達だけでなく、メリーの友達も探そう。
3:……ところでこのビンどうやって開けるの?
[備考]
参戦時期はウインドナイツロッドの入り口のトンネルを抜けた直後です。
メリーと宇佐見蓮子の情報を共有しました。
自分やジョナサンと同じ苗字の人物がいることに疑問を感じています。
 
『星熊盃』
星熊勇儀が持っている朱塗りの杯。一升入る大きさ。
鬼の名品であり、注いだ酒のランクを上げる(普通の酒が注いだ瞬間純米大吟醸になる等)不思議な盃。
ただし注いだ酒の質は時間経過と共に劣化するため、注いだら早く飲まないと損をする。
さすがに水の質を高める効果はないと思われる。
 
004:硝子に映り込んだ夢を
遊戯開始
遊戯開始 012:彷徨える魂、巡り会う者達

 

最終更新:2014年02月06日 00:58