硝子に映り込んだ夢を

 
 
 
「人間と妖怪は手を取り合うことが出来る」
『あの人』がいつも言っていた言葉だ。
 
私は博麗の巫女や白黒の魔法使いと出会ってから、頻繁に地上に顔を出すようになった。
とは言っても、いつもふらふら、あちこちをうろつくだけ。
無意識を操る程度の能力を使って、誰にも気付かれずに散歩する。
時折…というかしょっちゅうお姉ちゃんから心配されるけど。
のんびり、のびのびとしていて。そんな毎日も結構楽しかった。
心を閉ざしてからも、楽しめることはあるんだなぁと。
 
そんな私にも、最近は地上で変わったことがあった。
とある尼僧さんから、お寺に来ないかって誘われた。
名前は聖白蓮って言うらしくて、何となく私はその人に着いて行ってみたんだ。
『あの人』はすごく優しくて、暖かい人だった。
人間だろうと。そうじゃなかろうと。
等しく手を差し伸べて、力になってあげる人だった。
最初は不思議だったし、何でそこまでするのか解らなかったけど…
気がつけば、私もなんとなく『あの人』に惹かれていた。
聖の教えを信じてみるのも悪くないかなって、思っていた。
 
 
――――ねえ。人間だろうと妖怪だろうと、みんな解りあえるんだよね?
――――たとえこの世界が、血で血を拭うような…殺し合いの場でも。
――――お互いに、手を取り合えるのかな?
 

 
 
 
 
 
 
周囲一体に広がるのは、だだっ広い向日葵畑。
時折冷たい風が靡き、向日葵達は静かに傾くように揺れ動く。
此処が殺し合いの場でなければ…のんびりと眺めていたくなるような美しさだ。
そんな花畑の中。大の字になって、仰向けになって倒れているのは…
黄緑色の髪を持つ、一人の少女。
地霊殿の主、古明地さとりの妹『古明地こいし』。現在は命蓮寺の在家信者。
彼女は今、なんとなく…空をぼーっと眺めて、考え事をしたかったのだ。
 
 
「…お姉ちゃん…、聖…」
 
 
ぽつりと漏れた一言。
記憶の底から浮かぶ、地霊殿のみんなのこと。命蓮寺のみんなのこと。聖のこと。
―――そして…お姉ちゃんのこと。
 
夜空のお星様を眺めながら…私は、迷っていた。
この状況で、どうすればいいのか。何をすればいいのか。
私にはまだ、解らなかった。
支給品の刃物を手に取った時、殺し合いというものを実感した。
そして名簿には見知った名前が幾つもある。
会いたい。出来ることならば、今すぐ会いたい。
今は、怖くてたまらない。あの二人の男が、怖い。
あんな恐ろしい人間達を前に、ちっぽけな私に何が出来るのか。
不安で、怖くて仕方がない。
――どうしようもない恐怖が抑えられない。誰か、傍にいてほしかった。
 
『孤独』で在り続けた私が、『孤独であること』に心細さを感じた瞬間。
なんでだろう。今まではいつも独りでも、何とも思わなかったのに。
こんな状況だから?お姉ちゃんやみんなのことはやっぱり頼りに思ってるから?
…わかんない。でも、とにかく…今の私は…なんだか、寂しい気持ち。
 
 
 
最近の私は…なんとなく変だと思う。
さっきの山の神様が死んじゃった時だって…私は。
怖い、ってだけじゃなくて。何となく、哀しい気持ちになった。
前の私なら…きっと「どうでもいい」って思ってたと思う。
でも、今は違う。あそこで山の神様が死んじゃって。
哀しい…って、思ってる。
 

 
…たぶん、聖が言っていたからかな?
命蓮寺の信者になってから、私は聖の教えを何度も聞いた。
 
殺生は良くないって。人が死ぬことや、殺し殺されることは…とても哀しいことだって。
聖はその上で、それは妖怪でも同じ…って。
妖怪が死ぬことも、彼らが迫害や偏見の末で命を落とすことも。
それは、とても哀しいことだって。
でも人間と妖怪は解りあうことが出来る。
幻想郷の在り方のように、受け入れることが出来る。
お互いを理解し、共に生きることが出来る。
―――人も妖怪も平等に、手を取り合うことが出来るって。
聖は、そう言っていたんだ。
正直言うと、私にはよく解らなかった。
 
 
「私達」の能力は周りから疎まれていた。『心を読む』と言う能力を、忌み嫌われていた。
周囲の人達は、心を読める私達を自然に遠ざけていた。
人間だろうと、妖怪だろうと…関係なく。地霊殿に住むようになるまでは、この有様。
だから私は耐え切れなくなって、この『第三の目』を閉じたんだ。
もう二度と誰かに嫌われないようにするために。
私は人間や妖怪に避けられて、こうなったんだ。
 
人間も妖怪も、本質は同じだって思う。
それは『お互い解りあえる』とか、『どちらにも想う心がある』とか、そうゆう意味じゃない。
 
 
結局は…自分達に理解できないものや、都合の悪いものを。
疎んで、忌み嫌うだけの。狡賢くって、意地悪な存在だっていう意味。
 
 
そう思っていた私には、人間と妖怪が解りあえるだなんて全く思っていなかった。
 
 
でも、聖の言うことは凄いと思う。
妖怪を守ったことで人間から迫害されて、封印までされたのに。
復活してからも…妖怪だけじゃなくて、人間にも手を差し伸べて。
そうやって今もああして、命蓮寺の住職として誰かの為にがんばっている。
人間と、妖怪。どちらの為にも精一杯がんばっている。
…ほんとに、すごいって思ってる。嫉妬するくらいに…輝かしい。
たぶん私は、聖を真っ直ぐに見ることが出来ない。実際そうだ。
 
とはいえ、私は聖のこと自体は大好きなんだろうって。
そう思うんだ。…まぁ、お姉ちゃんほどじゃないけど。
すごく優しくて、心を閉ざした私にも理解を示してくれて。
本当に、聖人君主ってああゆう人のことを言うんだと思う。
…でも、どうしても直視は出来ない。
聖は言うなれば光だ。『心の瞳』を閉ざした私には、あの人は眩しすぎる。
あんなに綺麗なヒトになることは出来ないんだろうなぁと。
私にはなんとなく理解出来る。
 

 
 
 
だけど。私は、ちょっとずつ変わってるのかもしれないって…何となく思ってたんだ。
あの寺の信者になってから、度々行事とかの手伝いに言って。
…まぁ、まだまだ新入りだし雑務も多いけども。
みんなと一緒に頑張って。聖から教えを聞いたりして。
地霊殿のペットたち以外で、初めて友達や仲間が出来たような。
そんな気持ちだった。あの人達は、信じられる人達だった。
 
 
 
心を閉ざした私にも、信じられる。
命蓮寺のみんながそうゆう人達だったからこそ。
私はほんの少しでも、『人も妖怪も平等に生きられる世界』を信じてみようって…思えるようになったんだ。
私も、聖のような人になれるのかなって。
 
 
 
 
 
でも、この世界では…どうなんだろう?
平和も平等も無く、あるのはただの絶望だけ。
人間も妖怪も…死ぬのが怖くて、殺し合っちゃうのかな?
私も、生きる為に誰かを平気で殺しちゃうのかな?
そうすれば、多分。
お姉ちゃんや聖は、悲しむと思う。
だけど。―――だったらどうする?
死ぬのは怖い。お姉ちゃんや聖たちを裏切りたくもない。
でも、抵抗なんて出来る?
あの恐ろしい人間二人を前に。
逆らえばすぐに殺されるだけ。
命の手綱を握り締められた私達に、何が出来る?
…………解らない。
今はただ、解らない。
 
 
そうして、みんな恐怖に引きずり込まれて。
その手を血に染めてしまうのかもしれない。
こんな世界でも…みんなは、解りあえるのかな?
 
 
 
 
 
 
「…そんな所で寝転がって、どうしたんだい?お嬢さん」
 
 
私の思考に割り込むノイズのように。
向日葵を掻き分ける音と共に、どこからか唐突に声が聞こえてきた。
ふと、仰向けに倒れたまま顔をそちらの方へと向けた―――
 
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
少しだけ時間を遡る。
 
 
「面倒なことになったな…」
花畑の中を歩きながら、ぼそりと私はつぶやく。
真っ先に私が抱いたのは、そんな感情。
予め言っておくと、私の名は『エンリコ・プッチ』。神父を職業としている。
私はあの緑色の赤ん坊と融合し、『天国へ行く方法』を実行すべく刑務所を出た。
あの時、私の首筋に生まれたアザは確かに共鳴していた。運命に導かれていた。
私の傍に、『彼』―――『DIO』の血縁が存在していることを認識していた。
そのまま私は導かれ、彼らと出会う……はずだったのだ。
 
気がついた時には、私はスデにあの場にいた。
東洋人の2人組が「殺し合いをしろ」と私達に言ってきた。
最初は悪い冗談かと思ったが…主催者に食って掛かったあの少女が虫を捻り潰すように殺されたのを見て、この殺し合いが本物だということを確信した。
やれやれ…厄介な催しに巻き込まれてしまったものだ。
私はこんなことをしている場合じゃあない。天国へ行く方法を実行しなければならないのだ。
さっさと此処から抜け出したい所なのだが…
名簿を確認し、私はとある名前の存在に気付いた。
 
 
―――ディオ・ブランドー。DIOの名を、名簿で確認したのだ。
 
 
馬鹿な。彼は数十年前に死んだはずだ。
何故彼の名が名簿に?それだけではない。仮死状態のはずの空条承太郎の名も載っているのだ。
そして名簿に見受けられる幾つかの『ジョースター』の名。
あの一族も、この場に何人か居ると言う。数名は聞いたことも無い名前だが…
どうゆうことなんだ?DIOが生きていると言うのか?いや、そもそも何故空条承太郎がいる?
私が此処まで「連れてこられた」記憶が無いということと言い、不可解な現象が多すぎる。
主催者達は、やはり何らかのスタンド能力を持っているのだろうか…?
 
推測と思考を重ねながら、向日葵畑を掻き分けるように進んでいた時だった。
向日葵の隙間から、一つの影が見えたのだ。
仰向けになり、空を眺めている…一つの影が。私の場所から少し離れた地点にいるのが解る。
暗くてよく見えないが…どうやら少女のようか?
…ともかく、何かしらの情報が得られるかもしれん。接触をしてみるか。
 
そうして、私は少女の方へと歩み寄って行く――――
 
 
 
「…そんな所で寝転がって、どうしたんだい?お嬢さん」
 

 
 
 
 
 
 
「……えっと……神父、様?なのかな…?」
 
私の姿を見て、仰向けに倒れていた少女はぽかんとしたように声を上げる。
ゆっくりと上半身だけ起こして、きょとんと私の出で立ちを眺めている。
なんだか見知らぬものを初めて目にしたような、そんな感じの反応だ。
 
「ああ、その通りさ。私は神父をやっていてね。
 …君は、一人で此処で寝転がっていたのかい?あまり良いとは言えない行為だね。
 好戦的な参加者に見つかれば危険だし、うっかり風邪を引いてしまうかもしれないぞ?」
 
ぼんやりとこちらを眺めている少女に対し、私はあくまで柔和に接する。
見た所、随分と幼い容姿をしている。ただ単に巻き込まれただけの哀れな一般人かもしれないが…
DIOや空条親子、そしてこの私など…名簿にはスタンド使いの名が数多く見受けられるのだ。
一応、彼女から話は聞き出しておきたい。
 
「別に、大丈夫だよ。私妖怪だし、人間みたいにヤワじゃないよ」
 
……妖怪?
聞き慣れぬ言葉に、私の心の中に疑問符が生まれた。
いや、正確には少し前にその言葉は聞いた。あの荒木という男が口に出していたことだ。
奴は『妖怪』という言葉を口にしていた。さも当然の如くこの場にいるかのように。
最初の見せしめの少女は『神の一柱』であるらしいが……
奴らの言っていることがどこまで真実かは解らない。
しかしこの少女は、自らを妖怪だとはっきり名乗っている。
吸血鬼である『彼』が存在する以上、妖怪がいたって不思議ではないかもしれない。
彼女の言葉は、真実なのだろうか?
ほんの少しだけ、彼女に興味が湧いた時だった。
 
「ねぇ、神父様」
「……何かな?」
 
 
 
「ちょっと、お話したいんだけれど」
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
 
私の前に現れたのは、神父様だった。
本物は初めて見たけど…なんとなく、お洋服から神父の人だってことは解った。
神父って言えば、尼僧の聖と同じようなものだよね?
神仏を敬って、人々に教えを説くような。そうゆう感じだよね。
―――人々のために力になってあげるような、そんな存在だよね?
ちょっと不安だけど、そう考えるとなんとなく信じられる気がしてきた。
なんとなく、だけどね。だから、脈絡も無いけど…
この人にも、聞いてみたくなったんだ。
 
 
 
 
 
 
「人間と妖怪って、本当の意味で解りあえると思う?」
 
聖ならはっきりと「ええ、解りあえます」と肯定する質問だ。
…同じ聖職者の神父様は、なんて答えるんだろう?
少しばかり気になった。この人が何を言うのかを知りたかった。
かつては人からも妖怪からも嫌われて、心を閉ざした私。
でも、色々と変わって…聖と出会ってから、このことが気になって仕方無かった。
 
 
 
神父様は、ちょっとだけ咀嚼するように暫く黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
 
「…そう考えるに至るようになったきっかけを、教えてはくれないか?」
「…うん」
 
 
 
神父様に問われて、私は全てを話した。
自分と姉が『心を読む力』で人間、妖怪問わず嫌われていたことを。
そのことがきっかけで自分が心を閉ざし、無意識を操る能力を手に入れたことを。
他人と、姉とすら距離を置いていたことを。
…そんな中、二人の人間と戦ってから少しずつ変わっていったことを。
姉やペットと少しずつ関わるようになり始めたことを。
―――そして、聖白蓮と出会ったことを。
聖との出会いで、私は教えを説かれたんだ。
「人間も妖怪も互いに解りあえる」って。聖は、地霊殿のみんなと同じくらいに信じられる。
でも。…このことは、本当なのかなって。
人間も妖怪も、私達を嫌って疎んでいたように…本当は醜いのが本質なんじゃないかって。
こんな殺し合いの場では、手を取り合うことも忘れて殺し合うんじゃないかって。
そんな思いがよぎっていたということを、私は神父様に吐き出したんだ。
 
 
 
何故か知らないけど、さっきまでの不安は殆どなくなって。
不思議な安心感があった。…質問を切り出した時点で、『無意識』に神父様のことを信用していたのだろうか。
そして神父様は、きっぱりと答えてくれた。
 
 
 
 
「そうだな…」
 
「………」
 
「―――私は、『解りあえる』と思う。」
 

それは慰めの言葉とか、気を使ってくれての発言とか。
そうゆうのじゃなくて。
「そうであって当然だ」と言わんばかりの、確かな確信を瞳に宿していたのが解った。
少しばかり驚いていた私をよそに、神父様は言葉を紡ぐ。
 
 
 
「私には、DIOという親友がいたんだ」
「…DIO?」
「当初は知らなかったのだけどね。彼は、吸血鬼だった」
「…………。」
「―――彼は私の人生に大きな影響を与えてくれた。
 人は生涯に何人の人と出会うか。生き方に影響を与えてくれる人物とは、一体どれくらい出会うのだろうか?
 私にとってのそれは、吸血鬼であるDIOだった。
 彼がいなければ今の私はいなかっただろう、とさえ思う。そうゆう意味では恩人だ。
 …そして、彼は無二の親友だったんだ。彼ほど話していて落ち着く者はいなかった」
 
 
語り続ける神父様の表情や言葉は、私にはとても穏やかに見えた。
昔の友達のことを話しているんだから、きっと当たり前なんだろうけど。
懐かしむような思いと共に、過去を話してくれている。
 
 
 
「吸血鬼である彼も妖怪の定義に当てはめるのならば…
 私は胸を張って『彼と解りあえた』と答えられる。
 そう。人であろうと、そうでなかろうと。何かを願い、想う心があれば。
 私は…種族の壁を乗り越え…誰とでも解りあえると思うよ。
 現に、君と聖という人物は『解りあえた』。…違うかい?それが何よりの証拠さ。」
 
 
 
穏やかな笑みを浮かべながら、神父様は語りかけてくれた。
紡ぎだされるその言葉は、暖かくて。優しくて。
私は、自然に聞き入ってしまっていた。
心の中で、感銘を受けていたんだ。
 
「…神父様…。」
「君の想いは尤もだ。心ある者は、必ず誰かを疎み妬んでしまう…
 だが、あくまで心ある者の本質はそうではないと思う。
 私とDIOのように…互いを知れば、必ず心を通わせることが出来る。私はそう信じてるよ
 ―――君も同じだ。皆と同じように、誰かと手を取り合えるんだ。」
 
全てを話して、こうして諭してもらって…私はすぐに気付いた。
この人は…何となくだけど、雰囲気が聖に似ているって思った。
 
こんなに真面目に、私の話を聞いてもらえた。
こんなにも真摯に、諭してくれた。
 
初めて会った時の聖と同じだ。
私の中で、「この人は信じられる」っていう気がしてきた。
そう思ってしまえるような、優しいものがあった。
 
 
―――神父様は、いい人なんだろうって。
 

◆◆◆◆◆◆
 
 
彼女は、感動したような、心酔したような瞳で私を見上げていた。
―――今まで、数え切れないほど見てきた『表情』だ。
他者の懺悔や告白に耳を傾け、神父としての教えを説く。職業柄、こうゆう行いには慣れている。
あの刑務所で働くようになってから、常にやってきたことだ。
囚人達からもこうやって信頼や仰望の眼差しで見られてきた。
まぁ、さほど興味は無かったが…神父としての職務を全う出来ているのはいいことなのだろう。
 
かつての私ならばこうして誰かの力になれたことを喜ぶのだろう。
しかし、生憎だが今の私からすればこうして信用された所であまり心に響くものは無い。
他者を神の教えの下に諭すことは出来ても、真に救済することは出来ないからだ。
本当の意味で人を救うのは『天国』―――『未来への覚悟』だ。
口先の言葉だけで人は救われないし、変わることは出来ない。大切なのは確固たる意志と行動。
私はそれらを握り締め『天国』を目指しているのだ。
 
それに…彼らと人間が解りあえるかどうかなど、知ったことではない。
私とDIOには『引力』があったからこそ親友になれたのだ。
 
彼はそこいらの有象無象の妖怪“バケモノ”共とは違う。
人間は神の下に平等だ。だがあくまで平等なのは「人間」。
DIOのような崇高な存在以外の「人ならざるもの」は、所詮神に淘汰された悪しき種族に過ぎないのだ。
そんな種族と人間が解りあうなど、考えようとも思わない。
 
とはいえ、彼女の話そのものは興味深い。
他人の心を読む力を持っていたことで、人間からも妖怪から疎まれたという姉妹。
嫌われることに耐え切れず、己の心を閉ざした彼女。
そんな君と聖が出会ったことも、そうゆう疑問を抱くようになったのも。
それは一つの引力なのかもしれない。そう考えると面白いものだ。
だが、人間と妖怪が手を取り合えるかという話に関しては別だ。
解りあえるのは『引力によって導かれた者同士』だと私は思う。
 
とはいえ、この少女の信用を勝ち取れたならばそれはそれで良いことだ。
殺し合いに乗るかは兎も角、保身の為に使うことは出来るかもしれない。
『無意識を操る能力』…暗殺には最適かもしれないな。十分に利用価値がある。
まぁ…もう暫くは様子見と洒落込むつもりだけどな。
彼女の扱いをどうするかは、これから考えていけばいい。
 
 
きっと『手駒』以上の価値は無いであろう。
だが安心するといい。どんな悲惨な運命が待ち受けようと、覚悟を決めれば幸福になれるのだから。
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
「……ところで、こいし。君は名簿を確認したかな?」
「うん。ちょっと前に一応見たよ。…私の知ってる名前が、何人もいた」
 
こいしの返答を聞き、神父は内心「やはり」と思っていた。
DIOに、空条親子、エルメェス・コステロ、フー・ファイターズ、ウェザー・リポート…
名簿には神父にとっても見覚えのある名前が幾つか見受けられたのだ。
そしてこいしにも姉や聖を始めとした親しき者たちの名が名簿に見受けられる、と…
どうやらあの主催者、幾つかの「関係者同士のグループ」をゲームに巻き込んでいるらしい。
確かに、全く見知らぬ者同士で殺し合いをさせるよりはそちらの方がいいのだろう。
神父やジョースター、こいしや地霊殿の住民…など。
因縁のある者同士の対立、親しき関係者同士の潰し合い。彼らが望んでいるのはそれかもしれない。
あくまで推測に過ぎないが…これが当たっているとすれば、奴らは紛うことなき悪趣味な連中だ。
 
「私も、この場に知り合い…いや。さっき話した、親友のDIOがいるらしいんだ。私は、彼を捜したい」
「…ねぇ、神父様。私も…着いていっていい?」
「ああ、構わないよ。独りでは心細いだろうからね。…君の知り合いにも、会えたらいいな。」
「うん。どうすればいいのか解らないけど…とにかく、みんなには会いたい。
 でも、こんな殺し合いの場だし…独りだとどうしても不安だから…とりあえず、神父様に着いていきたいんだ」
 
妖怪と言えど、流石にこのような異常な状況下では不安感を抱く。
先程までのこいしの瞳は無感情に見えたが、神父に諭してもらったことで少しだけ光が籠ってはいるが…
その表情を見る限りでは、あくまで不安そのものは残っている様子。
殺し合いという状況において、独りでいることの恐怖を『無意識』に抱いていたのだ。
自分が信じられる、誰かの暖かさを求めていた。
 
「…解った、君の知り合いと会う時まで…この私『エンリコ・プッチ』が君の支えになろう。安心してくれ。
 ――では、そろそろ行くとしようかな?」
「…うん!」
 
神父の呼びかけと共に、こいしは立ち上がってすたすたと着いてくる。
太陽が並ぶような向日葵畑の中を、神父と少女は共に進んでいく。
――後ろから着いてくる少女を尻目に、神父は少しばかり思慮をしていた。
 
 
 
 
 
 
 
(…さて。あの少女…少なくとも、当分は私のことを信用するだろう。
 どこまで『使える』かはまだ解らないが、まぁ同行させながらそれを見定めていけばいい。
 もしもの時は、私のスタンド『ホワイトスネイク』を使わざるを得ないかもしれないが…
 その時はその時だ…―――ともかく、今は早急にDIOと会いたい。)
 
 
彼の脳裏に浮かぶのは、数十年前に死んだ親友のこと。
邪悪の化身『ディオ・ブランドー』。
彼と再会し、共に天国を目指せるということがあれば…それこそ最上だ。
彼と共に理想を追えるだなんて、夢のような話だ。
知らず知らずのうちに、神父は内心高揚していた。
こいしのことなどさほど気にかけてはいない。今はとにかく…親友と会いたい。
―――向日葵畑を進みながら、彼はただ…そう思っていたのだった。
 

 
 
 
 
【E-6 太陽の畑/深夜】
 
【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:健康、主催者への恐怖
[装備]:なし
[道具]:ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくないけど…私はどうするべきなんだろう…?
1:今は神父様に着いていこう。神父様は信じられそうだ。
2:地霊殿や命蓮寺のみんな、特にお姉ちゃんや聖に会いたい。
3:DIOってどんな人だろう…?
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近づけば近づくほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。
 
【エンリコ・プッチ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIOを探す。『天国』へ到達する。
1:さて、どこへ向かおうか?地図には「DIOの館」という場所が記載されていたのが気になるが…
2:あくまで保身を優先。殺し合いに乗るかはまだ保留。
3:ジョースターの血統は必ず始末する。
4:古明地こいしの価値を見定める。場合によっては利用する。
5:主催者の正体や幻想郷について気になる。
[備考]
※参戦時期はGDS刑務所を去り、運命に導かれDIOの息子達と遭遇する直前です。
※緑色の赤ん坊と融合している『ザ・ニュー神父』です。首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※古明地こいしの経歴を聞き、地霊殿や命蓮寺の住民について大まかに知りました。
 
003:夜の竹林を行く 005:おてんば少女、出会う
遊戯開始
遊戯開始
最終更新:2014年02月06日 00:48