ナイトウォッチ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――取り戻す。
 
 
 
 
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
その地はかつてイタリア・ナポリにて繁栄した古代都市。
火山の噴火による火砕流、火山灰によって壊滅を遂げた集落。
長い時を経て、19世紀に発掘された遺跡の街。
古代のローマの伝統と姿をそのまま残した外観を持つと歴史かからは称される。
規則正しい直線的な道筋と、計画的に設計された構造を持つ。
そこは「ポンペイ」と呼ばれる都市だ。
幻想郷であるはずなのに、何故かイタリアの遺跡が存在している。
冷静に考えなくても異様だと理解出来る状況だ。とはいえ、幻想郷の住民はポンペイなど知らないであろうが。
 
 
無論、『彼女』もポンペイなど知らなかった。
むしろ此処がどこなのかということにもさほど関心を抱いていなかった。
殺し合いという状況について考えることで、手一杯だったのだから。
 
 
石造りの建物の壁の裏に隠れ、化け傘を抱えながら水色の髪をした少女はガタガタと震えている。
鮮やかな紅い左目、澄んだ蒼い右目が目元に涙を浮かべながら周囲をちらちらと見渡している。
その表情に浮かんでるのはやはり恐怖。そりゃあ場慣れしてない彼女は怖くて仕方がない。
しかし、「屈しない!」と言わんばかりにグッと涙を堪えている…
 
「こ、殺し合いなんて…わ、わ、私がみんなを脅かせば…なんとかなるんだから…!」
 
化け傘を携え、少女は必死に怖い思いを抑えながらぼそぼそと喋る。
妖怪の彼女でもあんなに恐ろしい光景を目の当たりにすれば怖いに決まってる。
ただ私はみんなを驚かせようとしてただけなのに。
なんでこんな目に遭わなくちゃいけないのか。
理不尽な現実に彼女は畏れ戦くも、屈したら負けだと。そう感じていた。
それ故に彼女はグッと恐怖心を抑える。
私が他のみんなを脅かして追い払えば、きっと逃げ出して殺し合いをほっぽり出すだろう。
私がみんなを脅かしちゃえば、みんな私にびっくりして逃げ出す。そうすれば殺されることもなくなる!
そんな思考が脳裏をよぎった彼女は、こっそり隠れてこの場を通った他の参加者を脅かすことに決めた。
私なら出来る、私なら出来ると呪文のように心の中で唱える。
 
―――脅かせる根拠?そんなものはない。
現在、「何とかなるかもしれない」という気持ちと「どうにかなるわけない」という気持ちが半々。
…だけど、こうゆう殺し合いの場ってのは…殺らなきゃ、殺られる。
だったら、それと同じ。簡単なことだ―――
 
 
 
 
 
「――――脅かさなきゃ、脅かされるっ…!!」
 
 
ギュッと拳を握りしめて、唐傘お化けの少女「多々良小傘」は決意した。
 

 
みんなを脅かして、戦意喪失を狙えばいいんだ!
そうすれば殺し合いなんてわざわざやる必要もなくなる!
殺し合いの場ならみんな私みたいにビクビクして、脅かしやすくなってる!
やれる!
 
……………多分!
 
 
 
 
 
 
 
――――――そうこうしている間に、近くの通りから足音が聴こえてきた。
 
 
「…ふぁっ!?」
 
何故か小傘がすぐにびっくりしていた。
しかし声は極力抑えている。自分の存在を悟られたら意味がない。
気付かれたら脅かすことも出来ない。
そして足音は、ずんずんと私が壁際に隠れている建物の方へと近づいてきているのだ。
それは偶然なのか、はたまた私の存在の気付いているのか。
どちらかはまだ解らない。ただ、重要なことは…
早速「脅かせる相手」がこちらに近づいてきているということだ。
 
いざこの状況に直面した小傘の心臓はバクバクと鳴り続けている。
こんな異様な状況下であるが故に普段の何十倍以上も緊張している。
下手してミスっちゃったら、殺されるかもしれない。
 
 
でも、たぶん大丈夫だろうとも思っている。
私だって今まで人々を驚かしてきた実績(自称)があるんだ。
ミスさえしなければ―――いける!
GO!私、GO!このままどんどん足音はこっちに迫ってきている!
この物陰からガバッと飛び出して、通りを歩いている人を脅かせば…間違いなくビックリする!
私だってこんな状況じゃ驚くに決まってるし!だから、余裕余裕!
―――――ファイトだよ、私!!
 
 
覚悟を決めた小傘は、化け傘を抱きしめるように携えて物陰で息を潜める。
もうすぐ私の隠れている建物の傍を通り過ぎる。
その瞬間を狙って…私が飛び出して、驚かせる!このまま特攻(?)すれば、いける!
自分を信じればいける!…ような気がする!覚悟を決めればなんとでもなる!当たって砕けろ!
唐傘お化け、多々良小傘!行きます!!
 

 
 
 
そして小傘は、足音が建物のすぐ傍に来たのを見計らい。
―――傘を構え、足音の主の目の前まで飛び出すッ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――――ぎゃーーーおーーーーー!!!!!食べちゃうぞーーーーーーっ!!!!!!」
 
 
笑いながら舌を伸ばす化け傘と共に、大きな声を上げながら彼女は「足音の主」に向けて脅かしにかかる!
そう、それは――――オカルトマニアの間で囁かれているという伝説の巨大恐竜「モケーレ・ムベンベ」のモノマネ!
紅魔館の主である吸血鬼も使っていたという伝家の宝刀!
無意識の内にそのネタを使っていた、悪く言えば『パクった』ネタである。
文々。新聞に載っていたが故に知っていたという。
しかし彼女は、このネタに一瞬の命運を賭けたのである…!
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「………………………。」
 
「………………あ、あれ?」
 
――――無反応。現実は非情である。
あれ?ウ、ウケなかった…?小傘は動揺が隠せず、冷や汗が流れる。
ぽかんとした表情を浮かべながら、小傘は顔を上げてみる…
足音の主は、角飾りの着いたファーの帽子を被っている壮年の男だった。
無表情、無言のまま立ち止まって小傘を見下ろしている。何を考えているのかよく解らない。
小傘は目の前の男に対してそんな印象を抱いたのだ。…それ以上に。
なんでピクリとも反応してくれないんだろう………。
ちょっとくらい驚いてくれてもいいんじゃないかな………。泣き言じみた思いを内心抱える小傘であった。
 
 
「…おっ、驚きなさいよ!ほらっ!ほらっ!」
「…………………………。」
 
それでもめげず、小傘は携えた化け傘をこれ見よがしにブンブンと振り翳し続ける。
まだ勝機(?)はあるかもしれない。ワンチャンあるかもしれない。
微塵のアテもない根拠を頼りにしながら、少女は無意味な行動を続ける。
当然の如く、男は驚くことは愚か、ピクリとも反応をしたりしない。
流石の小傘でもちょっとばかり痺れを切らしていた。
此処まで反応がないと、何だかちょっとムカついてくる!
グッと傘を握る力を強めながら、目を少しだけ細める―――
 
 
「…というか!流石にあなたちょっとくらい何か反応を――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「やかましい」
 
 
小傘が言い終える前に、男がぼそりと呟いた時だった。
 

 
ドスリ、という鈍い音が響く。
 
直後に小傘の腹部に走ったのは、鈍痛。
 
男が小傘の腹部目掛け、力づくで蹴りを叩き込んだのだ。
 
え、と突然起こった事に小傘は全く対処も出来ず。
 
その場でお腹を押さえて何度も咽せながら、化け傘を落として…膝をついた。
 
 
 
「か、はっ……げほっ…」
 
小傘は思考が追い付かなかった。突然おなかを思いっきり蹴られた。
痛みと恐怖で先程までの思考など何処かへ吹き飛んでしまった。
脅かすことなんてもはや考えてもいない。いや、この人は脅かせない。
暴力を前にした時の自分の脆さを、ようやく認識出来た。
まるで夢から覚めて、現実に無理矢理引き戻されたような気分。
とんでもない人を脅かそうとしてしまったんだ、と。
いくらなんでも、こんな酷いことって――――
 
 
 
「飛び出してきた時は何かと思ったがよ、」
 
そんな小傘の思考も余所に、男が呟きを発する。
男は何の躊躇いも、動揺もなく。どこまで冷徹な瞳で見下ろしながら―――
再び小傘の腹部に力の限り蹴りを叩き込んだのだ。
 
「あぐっ…!?」
 
あまりの痛みに耐え切れず、小傘は堪らずその場でうずくまる。
苦痛で表情が歪み、げほ、ごほ、と何度も咳き込む。
今の彼女は痛みと恐怖以外、何も考えられない。何も感じられない。
 
やばい、やばい、やばい、やばい、やばいやばい。
痛い、痛い。とにかく痛い。怖い。苦しい。死にたくない。
 
さっきまでの小傘の必死に頑張る暢気な様子はどこにもない。
目の前の男に対する恐怖に心を蝕まれ始めている。
どこまでも冷たい氷のような瞳で見下ろしてくる男に対しての恐怖に支配されている。
苦痛に塗り潰されながら、恐る恐る目を男の方へと向けた…。
 
 
「そんなモンかよ、クソガキ」
 
 
―――やっぱり…本当に冷たい表情をしている。
 
怖すぎて、涙が溢れていた。ガタガタと震えて、気がつかない内に漏らしてしまう程だった。
とにかく怖い。私をそこらへんの虫みたいに見下ろす表情が。とことんまで恐怖だった。
嫌だ。死にたくない。死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない――――
 
小傘が踞って倒れた際に、彼女のデイパックは少しだけ開いてしまっていた。
その中から一つだけ紙が零れ落ちており、男の足下に落ちている。
震える少女を余所に、男は紙を拾い上げてゆっくりと開く…
 
「成る程、手榴弾か…まぁ使えなくもないな」
 
紙を開くと、どうゆう原理か―――その中から手榴弾が飛び出した。
それは小傘の支給品である「手榴弾×5」のセット。
小傘は殺し合いと言う状況への恐怖で、「支給品の確認」という重要なことをうっかりし忘れていたのだ。
それ故に小傘は目の前の「紙が開いて物体が出てくる」という現象には驚きを隠せなかっただろう。
対して、男は冷めた表情で再び適当に紙の中に手榴弾をしまい小傘を見下ろす。
ひっ、と声を上げる小傘。仏頂面のまま、男は少女を見る。
男は、チッと苛ついたように軽く舌打ちをして。
 
 
 
 
 
 
 
「『ウェザー・リポート』」
 

 
 
男が、静かに呟く。
直後に背後から出現したのは、己が『分身』である存在。
無数の気流が、屈強な人のカタチを形成していく。
猛々しい風を身に纏いながら、『分身』は拳を握りしめる。
それはあらゆる気象を自在に操作する力。
それは精神のエネルギーが具現化した化身。
 
 
 
―――スタンド『ウェザー・リポート』。
 
 
 
男の名は、ウェス・ブルーマリン。
 
 
 
震えながら踞る小傘を見下ろしながら、ウェスは己が『スタンド』を出現させる。
スタンド出した際、彼はふと気付いていたのだが…あの『虹』が出てこない。
オゾン層を破壊することで発動する、サブリミナル効果で猛威を振るう能力を使うことが出来ない。
そのことに気付き、彼は僅かながらも怪訝な表情を浮かべる。
参加者には制限とやらが施されているらしいが、『虹』が出せないのは制限の一つなのだろうか?
もしそうだとすれば…少々面倒な施しをされてしまったということになる。
とはいえ、あくまでただ単に「面倒」なだけ。
戦う上で手間はかかるが、まぁ何とかなるだろう。今は『ウェザー・リポート』だけで事足りる。
そう、誰かを殺す為には…それで十分だ。
 
 
 
(―――何、あれ?…何なの?)
 
ウェスの傍に姿を現した雲の集合体のような「守護霊」を見て、小傘はそんなことを思っていた。
あんなの、見たこともないし聞いたこともない。
あれが何なのか、小傘の知識では理解が追い付かない。
バチバチと雷が鳴り響くような音が何度も聴こえてきている。
周囲の「空気」が文字通り変わり出していることにも気付いた。
 
ただなんとなく解ることは、アレは目の前の男の「力」だということ。
アレを用いて…私を殺すつもりだということ。
 
それだけは―――なんとなく、理解出来た。
 
そして、スタンドは当然のように拳を握りしめる。
スタンドの右拳に暴風のような気流を纏わせながら。
怯えながらも恐怖で動けない小傘の姿を、ウェスは再び捉える。
ウェスの瞳に宿るのは、確かな殺意だった。
 
 
「死ねよ」
 
 
少女に向けて、男は冷徹に死刑宣告を言い渡す。
 
 
―――その言葉と共に放たれる スタンドの剛拳。
 
 
強烈な重圧を持つ気流を纏った拳によるストレート。
 
少女の命を奪うのには、十分な攻撃。
 
唐傘お化けの少女は、全てを諦めた。
 
もう駄目だと思った。死を悟った。
 
私みたいな「小物」がどう足掻こうとしたって。
 
全て、何もかも、無意味なんだって。
 
迫り来る拳を見て、理解した――――――――――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「―――――!?」
 
しかし、小傘は―――直後に予想外の光景を見ることになる。
気がつけば、ウェスは驚愕の表情を浮かべていたのだ。
そう。―――どこからともなく、鮮やかな『虹色の弾幕』が飛んできたからだ。
少女にスタンドの拳が届くことはなかった。
拳の一撃が叩き込まれるよりも前に――――
無数の虹色の弾幕が、ウェスとスタンドを攻撃したのだ。
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
 
 
 
「参ったなぁ、全く…」
 
小傘とウェスが接触する時よりも、少しだけ前のこと。
 
石の建造物に囲まれた遺跡の大通りを、紅い長髪を揺らしながら一人の華人風の少女が歩き続けている。
やれやれと言わんばかりの困ったような表情を浮かべつつ、そんなことをぼやいていた。
しかしあくまで「気」を張り巡らすように周囲への警戒は怠っておらず、一歩一歩確かな足取りで道を踏み頻っている。
彼女の名は「紅美鈴」。悪魔の棲む館である『紅魔館』を守る妖怪の門番だ。
朝には太極拳を舞い、時には職務中に昼寝をしたりするような…どこか暢気であり、穏和な性格の持ち主。
悪魔の館の住民でありながらも人間と親しく話すことさえあるという、そんな少し変わり者の妖怪である。
 
とはいえ、彼女自身たった一人で悪魔の館の門番を任されている身。
決して能天気なだけの人物ではなく、この異常な状況においては流石に気を引き締めていた。
 
「殺し合いなんて真っ平御免だ…って言いたい所だけど…」
 
先程名簿を確認した時に、紅魔館の住民の名前が何人か載っているのを確認した。
たった一人しか生き残ることの出来ない、殺し合いという状況。
お嬢様達がこんな下衆な殺し合いには乗らない…と、信じたい。
少なくとも、私は乗るつもりなんてこれっぽっちもない。殺し合いなんてやりたくはない。
だけど、先程の空間を見渡した限りでもとんでもない人数が「参加者」として呼び寄せられているのが理解出来た。
そうだ。まず、主催者の力がとんでもない…山の神様が一瞬で殺されたんだ。
頭部を爆破する力といい、私達を一堂に此処まで呼び寄せた力といい…どうも摩訶不思議な能力の持ち主のようで。
こうして逆らった所で、一瞬で首を吹き飛ばされるだけかもしれない。
そうなればどんな人物でも、生きる為に殺し合いに乗らざるを得なくなる。
 
もし、紅魔館の住民が…殺し合いに乗るようなことがあれば。
もし、こんなことを考えているのが私だけなら。
仲の良かった友達同士も。忠誠を誓った主従同士も。
みんな、この狂気に飲まれて…殺し合いに乗るとしたら―――
 

 
 
……………ああ、もう。辛気臭いってば、私。
 
なんとも自分らしくない。私は途中で気持ち悪くなって、そのことについて考えるのをやめた。
そんなネガティブな思考を重ねた所で何も始まらないし、いいことなんてないし。
とにかく、私は殺し合いには乗らない!
まずはそれは決まりだ。誰が殺し合いに乗ろうと乗らなかろうと、関係ない。
暢気で平和な世界の方がいいに決まってる。戦うにしても、お互いの実力を認めあう正々堂々としたものの方がいい。
ただ生き残りを賭けるだけの凄惨な殺し合いなんて、あっちゃいけない。
 
とはいえ、私程度の実力でどこまで抵抗出来るかは解らないけど…。
体術の心得や、気を使う程度の能力は一応持ち合わせている。けど、それだけだ。
主や、他の紅魔館の住民の能力に比べればちっぽけなもの。
…だけど、やれる所まではやるつもり。
勝てないかもしれないからって、ただのうのうと命運を受け入れるのも…なんだか、癪だ。
もし勝てなくても、お嬢様や咲夜さんとか。そうゆう人達と一緒に立ち向かえば、いけるかもしれない。
一人では勝ち目がなくても、全員で挑めば…もしかしたら。
 
…ともかく、誰か他に…「殺し合いに乗ってない人」を探す。
そうして一緒に協力したい。共にゲームに抵抗する為の仲間として。
さっき名簿を確認した限りでは、紅魔館の住民以外にも何人か信用出来そうな幻想郷の者は居る。
出来ればその人達にも接触出来たらいいな、と。
 
―――おっと、そうだ。支給品とかって、確認してなかったなぁ。
名簿みたく、あの不思議な紙の中に入ってるんだろうか?
とりあえずさっさと確認を――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――――ぎゃーーーおーーーーー!!!!!食べちゃうぞーーーーーーっ!!!!!!」
 
 
 
―――遠くから、変な大声が聴こえてきたのはその直後のことだった。
私は一瞬拍子抜けして…ぽかんとしたまま動きを止めてしまった。
 
…少しだけ間を置いて、はっとしたように声が聞こえてきた方を向く。
えっと…一体何が起こってるんだろう?今のって確か、モケーレ…ムベンベ?だっけ…?
お嬢様があんなことやってた気がするから、何となく覚えてる…
声を聞く限り、お嬢様じゃなさそうだけど。少なくとも他の参加者だろうし、ちょっと行ってみようかしら?
 
一先ず美鈴は、声が聞こえた方角へと向かうことにした。
その先に騒動が待ち受けていることも知らずに。
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

◆◆◆◆◆◆
 
 
 
 
 
自分が「ここに来る前」まで何をしていたのか。
 
曖昧だが、俺は大切なモノを―――『記憶』を取り戻していた。
 
その矢先に、こんな場所に放り込まれた。
 
傍迷惑もいい所だ。
 
だけど、構わない。俺はこの場に用がある。
 
殺し合いに勝ち残った暁には、『死者蘇生も可能』だと主催者は言っていた。
 
対象は、たった一人だけ。
 
―――それでいい。それだけで十分だ。
 
89人の犠牲を払って俺は頂きまで上り詰める。
 
目の前で怯えているだけのこのガキも殺して。
 
この殺し合いに優勝してやる。全員皆殺しにしてやる。
 
そうして、その末に。
 
 
 
 
 
 
俺は、『ペルラ』を生き返らせる。
 
あの時に喪われた、全てのものを。
 
――――取り戻す。
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
 
「―――何、やってるのよ」
 
時は再び、現在に戻る。
虹色の弾幕を放ったのは、先程のモケーレ・ムベンベのモノマネ…の声を聞きつけて、この場に辿り着いた『紅美鈴』。
突き当たりの道から別の通りへと曲がった際に、彼女は二人の姿を確認した。
そう。ウェスが小傘を殺害しようとしている光景を目の当たりにしたのだ。
美鈴は考えるよりも先に身体が動いていた。咄嗟に弾幕を放ち、中距離からウェスを攻撃したのだ。
今の攻撃でウェスの行動を妨害することは出来た。
―――しかし、その身に一切の傷は負っていない。スタンドが無数の弾幕を両腕で弾いたからだ。
冷めたような表情で、ウェスは美鈴の姿を確認する。
また、か。どいつもこいつも…女子供しかいないのか?此処は。そう思っていた。
 
「何を、って?…別に、このガキを殺そうとした。それだけのことだ」
 
ウェスは無感情に、冷静にそう答える。
あくまでそれが当然であるように、彼は返答していた。
対する美鈴は、彼をキッと睨むように目を細めて見据える。
 
「殺し合いに…乗るつもりなの?」
「当然だ」
「…随分きっぱりと言うのね」
「俺には、『願い』がある」
 
美鈴の言うように、男はあまりにもきっぱりと言ってのける。
彼を殺し合いに駆り立てているのは、その『願い』への執着心。
平然と人を殺そうとしていた様からか、それは美鈴にも理解出来た。
――――それ故に、彼女はグッと拳を握りしめる。
 
「…そこの貴女。出来たら、今すぐ逃げて」
「…………えっ?」
 
ずっと倒れ込んでいた小傘に、美鈴は逃げるように言う。
先程までぽかんとしながらウェスと美鈴を見ていた小傘は、惚けたように声を漏らす。
だけど、もはや呑気になっている場合ではなかった。
痛みや苦しみで立ち止まっていては、今度こそ本当に殺されるだけだ。
故に、中々動こうとしない小傘に向けて…美鈴は声を荒らげた。
 
「――――早くッ!!」
 
「え、あ……は、はいっ…!」
 
小傘は言われるがままに立ち上がり、必死でその場から逃げ始める。
腹部の痛みを何とか抑えて、彼女は走って逃げ始める。
あの赤い髪の妖怪が誰なのかは…あまりよく知らない。
でも、彼女は私のことを助けてくれた。わざわざ、逃がしてくれた。
―――とにかく、この場から離れないと…!その思いで一杯だった。
 

 
 
 
「………………。」
 
ウェスは、逃げていく小傘を無言で見送っていた。
まるで興味を失ったかのように、特に追撃することもなく。
今の彼が警戒を向けているのは、むしろ美鈴の方だ。
中国憲法の構えを取りながら、こちらを見据える美鈴を睨むように見ていた。
構えを見る限りでは…恐らく、ただの素人ではない。十二分に鍛錬を積んでいる。
先程の弾幕を放った奇妙な術といい…あのガキのような雑魚ではないようだ。
まぁ、いい。あのガキを逃がしたのも単なる気まぐれだ。
 
―――この女を殺して、追い付けばいいだけの話。
 
 
 
 
「お前も…死ねよ」
「…殺されるつもりなんて、さらさらありませんよ。私は、あなたを止めるんですから」
 
 
少女と男は、当然の如く相容れない。
男は、願いを叶える為に殺し合いに乗る。
目の前の少女を見据え、スタンドを身構えさせる。
少女は、自分の心に従い殺し合いに抗う。
目の前の男を見据え、その腕に気を纏わせながる。
それぞれの思いを抱えた二人の闘いが―――始まる。
 
 
◆◆◆◆◆◆
 
 
「あらあら、中々面白いことになってきましたわね」
 
一触即発、戦闘直前。
そんな二人の様子を、『彼女』は彼らから少し離れた地点の建物の上に座りながら眺めていた。
そこに確かに存在しているはずなのに、彼女の姿は透明になっている。
支給品である「河童の光学迷彩スーツ」を身に纏い、姿を消しているからだ。
本来ならば美鈴が気を張り巡らせることで少しは気配を察知することは出来たかもしれない。
しかしウェスと小傘の発見でそちらに意識が向いてしまい、周囲への警戒が疎かになってしまっていた。
それ故、美鈴は「彼女」の存在に気づかなかったのだ。
 
彼女は迷彩を使用した状態で手元の双眼鏡を使い、彼女は二人を見物している。
にやにやと、どこか楽しげに。先程、唐傘お化けが逃げていくのも見えたが…
まぁ、そこはどうでもいい。
気になるのはあの二人。片方は…確か、紅魔館という場所の門番だったかしら。
職務中に昼寝をしたりするような能天気な御方だと聞いていたけど、あの様子を見る限り腕は立ちそうだ。
そしてもう一人。不思議な人形を操る、あの殿方。
あの力がどうにも気になって仕方がなかった。アレは一体どんな原理で使っているのか。
どのような能力を持っているのか。そもそもアレは何なのか。
好奇心がくすぐられる。気になって仕方がない。
だから彼女は見物してみたくなったのだ。それは未知の力への興味。
 
邪仙である彼女―――「霍青娥」は、強い力に惹かれる。
そして同時に、驚くほどに気まぐれかつ好奇心旺盛だった。
興味深い力や人物には積極的に関わり、干渉する。彼女は主に強い者に惹かれる。
それは悪意や野心からではなく、邪仙としては当たり前の純粋な性質。
そんな彼女が人形―――スタンド―――に興味を抱くのは、必然だったのかもしれない。
彼女はワクワクしたように、双眼鏡で覗き込んでいた。
 
殺し合いにおいても青娥は変わらない。
ただ気まぐれに動いて、興味のあることに首を突っ込んでみる。
此処には幻想郷の住民でない者もいる。彼らに自分の力を見せびらかすのもいいかもしれない。
制限とかいうモノが少々鬱陶しいことになりそうだが、元からそこそこ実力には自信があるのだ。
私ほどの強さがあれば、さほど面倒なことにはならないはずだろう。
―――ま、ともかく。私は私らしく、動くとしましょうかね。
とりあえず今暫くはあの方達の闘いを見物、と。それでいいかな。
 
 
…あ、芳香もちゃんと探しておかないとね?
 

【B-2 ポンペイ/深夜】
 
【紅美鈴@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止めたい。
1:目の前の男(ウェス)を止める。
2:主催者に抗う為に協力出来る仲間を捜したい。出来れば紅魔館の住民達を。
3:男(ウェス)を撃退したら、さっき逃がしたあの妖怪(小傘)も探したい。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんに御任せします。
※小傘の声を聞きつけ、そちらの方へと向かった為に支給品の確認はしていないようです。
 
【ウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:手榴弾×5@現実、不明支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:皆殺しだ。
2:エンリコ・プッチは絶対にこの手で殺す。
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
 
【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:腹部や胴体へのダメージ(中)、疲労(大)、恐慌
[装備]:化け傘@東方星蓮船
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:とにかくこの場から逃げる。ウェス(ウェザー)への恐怖でまともに思考が出来ない。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※ランダムアイテム「手榴弾×5@現実」をウェスに奪われました。
※本体の一部である化け傘は支給品ではなく初期装備です。
 
【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:健康
[装備]:河童の光学迷彩スーツ@東方風神録、双眼鏡@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:美鈴とウェスの闘いを見物してみる。飽きたらその場を去る。
2:面白そうなことには首を突っ込み、気になった相手には接触してみる。先程の殿方が使っていたような「まだ見ぬ力」にも興味。
3:時間があれば芳香も探してみる。
4:殺し合い?まぁ、程々に気をつけようかしら。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
 
【河童の光学迷彩スーツ@東方風神録】
にとりの製作した光学迷彩の技術が施された服。霍青娥に支給。
特別仕様で見た目はコートに近い。これを着ること姿を隠すことが出来る。
何かしらの制限があるかどうかは後の書き手さんにお任せします。
 
遊戯開始
遊戯開始
遊戯開始
遊戯開始
 
最終更新:2014年02月06日 00:57