「丸太のような両足」が、石の敷き詰められたような道を踏みしきる。
道の両脇には幾つもの灯籠が立ち並び、英国には存在しなかった風流な和の雰囲気を感じさせる。
逞しく大柄な体格の青年―――「ジョナサン・ジョースター」が、夜の微かな明かりに照らされたその施設の庭を歩きながら見渡していた。
その足取りはどこか堂々としているようにも見えるが、決して周囲への警戒は怠ってはおらず隙を感じさせぬ雰囲気を纏っている。
しかしその瞳に浮かんでいるのは緊張だけではなく、どこか好奇心に近いような感情も多少ながら滲み出ていた。
「此処は…。」
地図や周辺の様子を確認する限り、自分の現在位置は「E-4」地区の「命蓮寺」という施設らしい。
(地図は東洋で使われているという「漢字」で記載されているが、何故か自分はその言葉を「読む」ことが出来た)
辺りに広がる光景や目の前の建造物を見渡してみる限り、此処は東洋で言う「寺院」の類いだろう。
庭の道を暫く歩いた所で立ち止まり、目の前に存在する大きな寺院の本堂を見上げて彼はそう認識する。
「命蓮寺」という名前の時点で、何となく感づいてはいたが…英国の貴族家系出身である彼にとって、それは生まれて初めて直に目にする物。
存在は知っているが、せいぜい話で聞いたことのある程度。
初めて見る東洋の木造建築である寺院を前に、彼の好奇心は少しばかりくすぐられていたのだ。
とはいえ、それにばかり気を取られてはいけない。
此処は―――殺し合いの場だ。いつ、どこから、誰が襲ってくるか全く解らないのだ。
決して警戒を解いてはいけない。目の前の寺院をゆっくりと眺めてみたい気持ちもあったが、この場における危険を忘れてはならない。
荒木飛呂彦、太田順也。あの二人が自分たちに言い渡したのは「生き残りをかけた殺し合いのゲーム」。
会場を見渡した限りでは老若男女、人種を問わず実に何十人もの人物がこの場に呼び寄せられているようだった。
そしてあの場での人々の響めき、主催者に反抗し見せしめにされた少女…。
恐らく、参加者は皆「強制的に参加させられている者達」なのだろう。
自分も気がつけばあの場にいたのだ。タルカスを撃破し、
ポコの町へと向かっていた途中だったのだが…そこからあの場に至るまでに記憶が無い。
まるで記憶からその部分だけが抜け落ちたかのように、急に会場に呼び寄せられたのだ。
他の者達のあの場での様子から察するに、他の参加者たちもそうして此処に無理矢理呼び出されたのかもしれない。
戦いを望まぬ者達の生殺与奪すらも握り、凄惨な殺戮を強要する…
そうならば、尚更あの主催者達を許すことが出来ない。只ならぬ怒りを胸に、彼は決意する。
こんな残酷な催しなど、あってはならない。この「殺し合い“バトル・ロワイアル”」を止め、荒木飛呂彦と太田順也を倒す。
その過程で無力な者たちは保護し、殺し合いに乗っている者は倒す。
ジョナサン・ジョースターの思考は至ってシンプルだ。自分の正義を信じ、真っ直ぐに突き進む。
太陽のような輝きを持つ「黄金の精神」は、例え殺戮の場であろうとも変わらなかった。
しかし、気になることが幾つか存在する。名簿には何人か見知った名前が見受けられた。
一つは「ロバート・E・O・スピードワゴン」。共にディオと戦ってきた仲間の名だ。彼のことは早いうちに探さなくてはならない。
そして「ブラフォード」「タルカス」の名…。彼らはこの手で倒したはずの屍生人だ。
何故彼らの名が記載されている?波紋によって完全に消滅した、彼らの名が。
いくら屍生人といえど波紋による攻撃を受けて復活できるはずがない。
…それだけじゃない。「ウィル・A・ツェペリ」の名が、記載されていたのだ。
自身に全てを託し、散っていった――――波紋の師。
彼の名前までもがこの名簿に書かれている。そう、「死者を蘇らせた」かのように。これは…どうゆうことなのだろうか?
何かしらの意図があって、死者の名前を記載しているだけなのか?
それとも、主催者は本当に死者すらも蘇らせる力を持っているというのか?
波紋で消滅した屍生人たちすら蘇生させることが出来るとすれば…とんでもない力だ。
ともかく、真偽を確かめたい。彼らがこの場で本当に蘇っているのかどうかを。
それ以外にも、名簿には「ジョースター」「ツェペリ」の姓が何人も見受けられた。「ブランドー」という姓の人物もいる。
ジョースター家の血族は既に自分以外は存在しないはずだが…同姓の人物がいるだけなのか?
それにしても妙だ。「ツェペリ」という姓も複数存在することから、単なる「同姓の人物」とは思えない。どうにも引っかかる。
彼らとも一度会ってみたい。一体何者なのだろうか?
そして――――
「ディオ…」
そう。名簿には「DIO」という名も載っているのだ。
何故か英語表記が先に書かれており、フルネームは括弧内に付け足されてるかの様に表記されている。
スピードワゴンらが参加させられているのだから、彼がいても決して不思議なことではない。
ディオ。父を殺した邪悪の化身であり、自身の宿敵であり―――そして、奇妙な友人。
凶悪な吸血鬼と化した彼は、恐らく…いや、確実にこの殺し合いに乗るだろう。
目的の為には手段を選ばない吸血鬼であるディオならば、十分に有り得る。
吸血鬼には波紋法以外の有効打がない上、屍生人を増やされれば尚更厄介なことになる。
彼には日光と言う弱点も存在するが、拠点となる隠れ家を早い内に見つけ出す可能性だってある。
――――それに、殺し合いに乗ろうと乗らなかろうと…ディオは倒さなくてはならない。
彼は多くの人間を苦しめた。罪もない者達を次々と、自分の私欲の為に殺してきたのだ。
元々僕の旅は吸血鬼と化したディオを倒す為のものだ。
どちらにせよ、僕はディオと戦い…倒さなければならないのだ。石仮面が生み出した争いを、この手で断ち切る為に。
決意を改めて固め、彼は寺院の本堂の入り口へと歩み出した。一先ず、目の前にあるこの寺院の内部を調べてみたい。
これほどまでに立派な建築物だ。誰か参加者が中で身を潜めているかもしれない。もしそれが無力な者だったら、護らなくては。
そうして、意を決して本堂の中へと入ろうとした…――――その直前のこと。
「おい、そこの人間」
背後から自身を呼びかける声が聞こえてきた。その声は唐突に、まるで突然誰かが後ろから姿を現したかのようだった。
声色を聞く限りまだ少女のようだったが。
しかし、何か妙だ。ピリピリするような…妙な感覚が自身の全身を駆け巡っている。
得体の知れぬ奇妙な胸騒ぎを感じつつ、僕はハッと振り返った…。
―――――僕の後ろに立っていたのは。青みがかった髪を靡かせる、幼き少女。
歳は下手をすれば十にも満たない。背も自分よりずっと小柄だ。
しかし、少女の吸い込まれるような紅い瞳は外見不相応なまでに妖艶に感じられた。
その笑みを浮かべる表情は、幼い少女とは思えぬ程奇妙な余裕に満ち溢れている。
何よりも、背中に生える一対の翼。そして、不敵な笑みを見せる口から覗いている『モノ』――――
そう。吸血鬼のような『鋭い牙』が、彼を強く警戒させていた。
「…君は、何者だ?」
ゆっくりと身構えつつ、僕は目の前の少女に問いかける。
理由は解らないが、得体の知れない警戒心が僕の胸の内に広がっていた。
この幼く可憐な少女に、僕は僅かながらも奇妙な「不信感」のような感情を抱いていたのだ。
何故だ。いったい何故なんだ?――――それは確かに感じることが出来るのに、その不安の正体が解らない。
対する少女の方は、怪訝そうな表情で眉間を僅かにしかめている。
「随分身構えてるわねぇ。それに、最初に話しかけたのは私の方なんだけど…まぁいいか」
ふぅ、と溜め息を吐くように少女は言葉を漏らす。
しかし、さほど気にかけてもいない様子ですぐに調子を戻し…
「で、まぁ…私のことだっけ?聞いてるの」
「ああ…君はその気配を隠しきれていない。そこいらの者とは明らかに違う、異質な気配を」
「そもそも隠す気もないし」
「……………」
少女はさっきから何とも飄々とした態度で喋ってくる。
外見不相応なまでに傲岸不遜で余裕を崩さず、口元には不適な笑みさえ浮かべているのだ。
その様子や雰囲気、そして翼や牙を持つ出で立ちからこの少女はただの子供ではないことは一目で分かっていた。
そんな僕の警戒をよそに、少女はふっと口元を吊り上げる。
「ま、いいわ。自己紹介くらいならしてやるわ、人間」
「私は紅魔館の主、レミリア・スカーレット。『吸血鬼』よ」
―――僕の心中で抱いていた不穏な予感は、あっさりと「確信」へと変わった。
バチバチと、輝きを見せるかの如く両腕を光らせる。
吸血鬼。少女の口から出てきた言葉に反応し、すぐさま「波紋の呼吸」を行ったのだ。
◆◆◆◆◆◆
「―――吸血、鬼…!」
「あら、…何か光ってるわね?へぇ、面白そうじゃない」
波紋の呼吸を行ったジョナサンを見る少女の表情は、警戒や敵意というワケではなく…「好奇」と「興味」。
一言で言って、そんな感情が滲み出ているのが分かった。
未知の力を目の当たりにし、好奇心をくすぐられたかのような表情。
反応から察するに、この少女は「波紋」の存在を全く知らないようだ。
そう出なければ波紋を前にここまで余裕でいられる訳がない。そもそも、波紋の呼吸を前にこんな反応を見せている時点で解る。
彼女は波紋そのものを初めて目にしたのだろう、と。
吸血鬼。ジョナサンにとって、非常に因縁の深い相手だ。
太古より存在するという石仮面によって人間を超越した怪物―――
幼なじみのディオ・ブランドーも、石仮面を被り邪悪な吸血鬼となった。
彼は己が野望の為、数え切れぬ程の人間を犠牲にし踏みつけている。
目の前の少女は、そのディオと同じ存在…!
その事実だけでも、ジョナサンを戦闘態勢に入らせるには十分なことだった。
当然だ。―――彼は吸血鬼を「倒すべき敵」として認識している。
ましてや幻想郷のような「人と人外が共存している世界」など、知りもしないのだから。
レミリアはそんなジョナサンの認識を余所に、指をクイクイと曲げて挑発をする。
単なる好奇心故か、敵意を初めて見せたのか。
「 少しくらいは、遊んでやろうかしらね」
相変わらずその余裕綽々な態度は崩れない。口元には不敵な笑みを浮かべ続けている。
そして少女の左手には、紅い霧のようなオーラが集い始めている…。
それと同時に、彼女の身からこちらへの明確な「敵意」が剥き出しに放出されたのだ。
――「波紋を知らない」という推測が当たっているのか、やはり先程から波紋を警戒する様子を見せない。
それならば、吸血鬼である彼女の不意をつけるかもしれない。
そう、あの「ランダムアイテム」を使えば…更に。
ツェペリさんによれば、波紋は「水」に伝導しやすい。ならば―――
ランダムアイテムに仕込まれた「これ」に波紋を流し込めば…「波紋を伝導する飛び道具」になるだろうッ!
僕は迷わず、「予め両手に嵌め込んでいたランダムアイテム」で両手を擦るように構えた―――!
「波紋の―――!」
バチバチとジョナサンの両手が光るッ!それは波紋の光!
両手の「液体」に深く染み込まれた太陽の輝きッ!
ジョナサン・ジョースターの呼吸から生み出された波紋が練られたのだ!
「―――シャボンだッ!!!」
そして両手から放たれたのは、幾つものシャボン玉!
波紋を流し込まれ、練り出された『それ』は目の前の吸血鬼へと向かっていくッ!
「…シャボン玉?」
少女はこちらの方へと向かって来るシャボン玉を見て、ぽかんと呟く。
そう、ジョナサンに支給されたランダムアイテム―――それは「シーザーの手袋」。
彼は知らないことだが、波紋の師匠であるウィル・A・ツェペリの孫であるシーザー・A・ツェペリが身につけていた手袋だ。
手袋には特殊な石鹸水が仕込まれており、それを使うことで「シャボン玉」を作り出すことが出来る!
ジョナサンは会場に送り込まれた直後、支給品を確認した際にこれを両手に嵌めていたのだ。
球状の液体と言ってもいいシャボン玉ならば「波紋」を使う際に利用できることに気づき、迷わず身につけていたのだッ!
次々と周囲を対空するかのように飛び交うシャボン玉。
それを目の当たりにした吸血鬼の少女は、少しばかり驚いたように目を丸くしたが…すぐさま右手の爪を突き立てる。
フッと口元笑みを見せ、周囲のシャボン玉をなぎ払うように自らの爪で引き裂こうとしたが――
シャボン玉に触れた右手に―――バチバチと、電流の如く瞬間的な「熱」が走る。
「―――――――ッッ!!!?」
レミリアの表情が、予想だにしなかった驚愕と痛みによって歪んだ。
吸血鬼の再生能力で苦痛には慣れているはずだが、これほどまでに直接的な「痛み」を感じるとは思ってもいなかったのか。
バッとシャボン玉に触れた右腕をすぐさま引きつつ、その場から咄嗟に後方へ下がりシャボン玉を回避する。
シャボン玉に流し込まれた波紋を受けた右手には、まるで太陽で焦がされたかのような『火傷』を負っていたのだ。
ジョナサンはすかさずその手に再びシャボン玉を形成し始める。
このまま更に波紋による追い討ちをかけるッ!
そして、その両手に無数のシャボン玉が形成される―――!
「まだまだ行くぞッ!波紋のシャボン―――――」
「必殺『ハートブレイク』」
少女が呟いた―――瞬間。
「――――!?」
ジョナサンが追撃でシャボン玉を放とうとした直前だ。
レミリアの周囲に滞空していた無数のシャボン玉が、凄まじい勢いで「消し飛んだ」。
暴風のような衝撃波に吹き飛ばされたかのように、消滅する。
そして――ジョナサンの頬を鋭い「刃」が掠め、微量の紅色の血を吹き出させる。
それはレミリアの形成した『真紅の槍』。少女達の必殺技とでも言うべき「スペルカード」。
左手に集わせていた霊力を使い、すかさずスペルを発動したのだ。
レミリアの手から投擲された真紅の槍は、彼女の周囲に滞空する無数のシャボン玉を刃と霊力の衝撃波で消し飛ばしたのだ。
そのまま槍はジョナサン目掛けて飛んでいき―――こうして頬を掠めた。
「槍、ッ…!?」
ジョナサンは衝撃で体勢を崩して怯み、驚きを隠せぬ様子で口に出す。
形成した真紅の槍を、素早く強力な飛び道具として使った。同じ吸血鬼とはいえディオには見られなかった技だ。
ディオの気化冷凍法のような独自の能力を持っているのか――――
思考し、行動しようとしていた矢先。
「遅い」
怯んだ隙を突いたレミリアが、翼をはためかせて瞬時に『ジョナサンの至近距離』まで接近していた。
ジョナサンが対応する間もない。まるで疾風のような、凄まじい瞬発力だ。
優位に立った少女は、不敵な笑みを口に浮かべる。
そして滞空しながら、ジョナサンの首筋に素早く己の鋭い爪を突き立てた。
―――ジョナサンも同時に、咄嗟に右手をレミリアに向けていた。
「…へぇ」
「く、っ…!」
ギリリと歯軋りをしながら屈強な右腕をこちらに向けるジョナサンを、レミリアは面白そうに見る。
その右手は太陽にも似た光を放っている。そう、先程の「波紋」だ。
これを叩き込まれれば、恐らく先程シャボン玉を喰らった右手のように少女の身は焼き焦がされるだろう。
とはいえ、彼は爪を突き立てられているのだ。普通ならばこんな大胆な行為には出ない。
しかしジョナサンの腕は「レミリアの行動とほぼ同時に行われた」。
その咄嗟の瞬発力、そして判断力は大したものだと…レミリアは内心で評価する。
そしてレミリアは…爪を突き立てながら、静かに笑みを浮かべる。
「やるじゃない、お前」
「………………。」
少女の言葉に対し、ジョナサンは何も答えない。
その反応に、少しばかりつまらなそうな表情を見せたが。
「私ほどではないようだけど…うん、中々使えそうね。」
「………どうゆう意味だ?」
「ん?そのままの意味に決まっているじゃない」
レミリアが発するどこか意味深な言葉にジョナサンは眉を顰めながら問いかける。
とはいえ、レミリアは飄々とした態度を崩さずに笑みを浮かべており。
―――そして、唐突に爪を突き立てていた手を下ろした。
「何、そう難しいことではないわ。貴方にも悪いことじゃあないしね?」
「――――私と、手を組みなさい」
それは、突然の持ち掛けだった。
その唐突な発言に、ジョナサンはぽかんとした表情をせざるを得なかった…
◆◆◆◆◆◆
◆◆◆◆◆◆
先程の一時の争いから、暫くした後のこと。
そこは命蓮寺本堂の客間。
襖に床の間、敷き詰められた畳などジョナサンにとっては初めて見るものばかりだ。
その落ち着いた彩りは西洋にはない、和の風流な雰囲気を彼に感じさせる。
とはいえ、部屋の中央には少々洋風にも見える机が置かれている。人里で手に入れたものかもしれない。
この寺院そのものが立派なだけあって、客間自体がそこそこ広く立派な作りをしている。
そして――――机を挟んで、座布団に座った「二人」が向かい合っていた。
「…レミリア。」
―――ジョナサンは礼儀正しく正座をしながらレミリアを真っ直ぐに見ている。
さながら見合いのようにも見えるのが少々滑稽だが、その姿勢は彼の生真面目さを表している…のかもしれない。
対するレミリアは…懐から取り出した漫画を読んでいる。ジョナサンにはたまに目を向ける程度。
支給品である「ピンクダークの少年」というタイトルの漫画にどうにもハマっているようだった。
右手には波紋による火傷を負っているが、特に意に介しておらず。
「それで、私に対して質問って…何かしら?ジョジョ」
ちらっと漫画を読みながらジョナサンに目を向ける。
この客間に訪れる前に、既にお互いに名前は聞いたのだ(ジョナサンはいつの間にかあだ名で呼ばれている)。
彼女が協力を持ちかけてきたことで、ジョナサンも一応は話を聞くことにした。
最初は当然の如く警戒をしたが、戦闘を自ら止めてわざわざ話を持ちかけてきたのだ。
あくまで友好的に接しようとしているのかもしれないと判断し、とりあえずこうして客間で話をすることにしたのだ。
客間に訪れた直後、二人は名簿を開き互いに「知り合い」や「信用出来る人物」、そして「危険人物」など最低限の情報交換を行なっていた。
互いに事前に名簿を確認はしていたので、さほど時間をかけずにその情報交換は終わったが。
…ともかく、ジョナサンには気になることがあった。少女のことについてだ。
彼女もまた、石仮面で吸血気になった存在なのだろうか?
どこでそれを入手のだろうか?と。
「…君は、石仮面を被って吸血鬼に?」
「何それ」
「!? …レミリア、君は石仮面を知らないのか?」
「初めて聞いたわよそんな仮面。センスの欠片もなさそうな名前ね」
初っ端から予想もしなかった返事が返ってきたことにジョナサンは驚く。
そう、彼女―――レミリア・スカーレットは「石仮面の存在を知らない」と言うのだ。
普通なら有り得ない。石仮面以外に吸血鬼化の方法があるとでも言うのか…?
「そもそも、石仮面って何よ?」
「…僕が以前、考古学の分野で研究を重ねていた不思議な仮面だ。
誰が何の為に作った物かは全く解らない…だが、ある事件をきっかけに解ったことがある。
『その仮面を被った人間の脳を骨針で刺激し、吸血鬼に変化させる』ということだ」
「道具一つで吸血鬼を生み出すだなんて、随分安っぽい製造法だこと」
石仮面のことを聞き、レミリアが皮肉混じりにそう言う。
彼女の表情に浮かんでいたのは、ほんの僅かな興味。
そして、何とも言えぬ不快感のような…そんな微妙な表情だった。
「そんなインスタントみたいな方法で吸血鬼を生み出されるなんて堪った物じゃないわねぇ。
ま、私は生来の吸血鬼。そんな安物の連中とは違うわ」
「…生来の、吸血鬼?」
「生まれつきってこと。解るでしょ?」
「石仮面にも頼らず、道具も用いず…生まれた時から吸血鬼だったのか?」
「そ。 ま、昔のことはあんまり覚えてないけどね。どうでもいいし。」
漫画を読みながらそう語る彼女に、ジョナサンは何ともいえぬ表情を浮かべていた。
石仮面を用いていない生まれつきの吸血鬼。そんな存在がいるとは知りもしなかった。
彼女は自身の出自を「あまり覚えてない」と言い、過去について詳しく語ろうとはしていない。
これは推測だが…『石仮面で生まれた吸血鬼同士の交配で新たな吸血鬼が生まれる』ということもあるのだろうか?
それで彼女のような生来の吸血鬼も生まれる、ということはあるのかもしれないが…
―――そもそも、彼女は何とも奇妙な吸血鬼に思える。
特にこちらの隙を突こうともせず、本を食い入るように見て楽しんでいる。
一応会話はしてくれているのだが…こうして何とも暢気な態度を貫いている。
飄々としているのは確かだが、ディオのような凶暴性は殆ど感じられない…。
出会った当初は、吸血鬼の例に溺れない邪悪な存在なのかと思ったが…
…いや、あれは自分の過失だ。あの時攻撃してしまったのは完全に僕の早とちりだった。
「―――というか、もしかして…貴方って『外の世界』の人間?
幻想郷だと『生来の妖怪』なんて別に珍しくも何ともないのだけれど」
ジョナサンが思考をしていた最中、レミリアが問いかけてくる。
彼は疑問を抱いたように彼女の顔を見た。
「…幻想郷?」
「あ、やっぱり外の人間ね。…いいわ、話してあげる」
聞き慣れぬ単語に疑問を抱いたジョナサンだが、それを見たレミリアの反応は「予想通り」と言わんばかりだ。
そして彼女は、ゆっくりと『幻想郷』について語った。
極東の国の山奥、巨大な結界によって隔離された『楽園』。
文明の発達した現代社会(『外の世界』と称するらしい)の裏で人間、妖怪、神が共存しているという郷。
外ではとっくの昔に廃れている『幻想の力』が当たり前のように存在している世界。
それが『幻想郷』だ、と。彼女によれば、この会場は『幻想郷そのもの』に見えて少し違うらしい。
そしてレミリアは、外の世界から幻想郷に流れ着いた妖怪…とのこと。
―――人間と、人ならざるものが共存する地。ジョナサンの常識ではとても考えられない世界だ。
吸血鬼もまた、その世界では平穏に暮らしているのだろう。
そう思っていた最中、レミリアが少しばかり何か思い出したかのように顔を上げる。
「まぁ、こんな所かしら。…さて、質問は特にないわね?」
「ああ、今の説明で理解したよ。」
「宜しい。」
レミリアはニコリと微笑みながら短くそう言う。
どこか尊大にも見える態度をしていたかと思えば、少女のような笑みを浮かべている。
そんなレミリアの様子に、ジョナサンは彼女のことをどことなくつかみ所がないようにも思えた。
「さて、それじゃ説明は終わりと。それで…私の方針、言わせてもらうけど」
「…ああ。」
「私はねぇ。人間の血は吸うけど、何もこんな殺戮までするほど血には飢えちゃいないわ。
それに『殺し合いをしてもらう』ってのが気に入らない。完全に上から目線だもの。
この私に向かって「こうしろ」だなんて指図をしてきてるのよ?アイツら。ムカつくったらありゃしないわよ。
…ま、要するに殺し合いに乗るつもりなんてない。むしろ『荒木』と『太田』を徹底的に叩きのめしてやるつもり」
ようやく読んでいた漫画を机の上に置き、両腕を組みながら彼女は自らの意思を告げる。
「主催者が気に入らない」、それ故に「反抗する」。
レミリアの方針はある意味でジョナサンと同様、至ってシンプルなもの。
『永遠に紅い幼き月』はいつだって傲慢だ。指図されて黙って従うわけはない。
「それで共闘を?」
「そうゆうことよ。さっきは少しばかり茶番に付き合ってやったけど…
見なさいよ?貴方から受けた傷、けっこー痛いんだから」
そう言って少女は右手の傷をぶらぶらと見せびらかす。
指や掌の広い部分が黒く焼け焦げている。先程よりは治っているようだが、やはり波紋による負傷。
彼女は平然としてはいるものの、通常の傷よりも治癒はかなり遅いようだ。
そのことを改めて認識し、ジョナサンは申し訳なさそうな表情を浮かべ…深々と頭を下げた。
「レミリア。先程は、本当に申し訳無かった…。
君の話を聞こうともせず、僕の安易な思い込みで攻撃してしまって…」
「え、あー…いいのよ別に。そこまで謝んなくても…」
ジョナサンの律儀な謝罪に少しばかり驚いたのか、レミリアがそれを制止する。
彼女辛すれば少しからかった程度のつもりだったのだが、どうにも彼は生真面目な性格のようで…。
幻想郷の連中は嫌味や皮肉混じりに会話する奴が多いだけに、こうも真面目に返事を返されるとちょっとばかし調子が狂う。
「ま、まぁとにかく…そうゆうわけだから。
こうして私の話を黙って聞いてるってことは、貴方もこのゲームに乗るつもりはないんでしょ?
なら話は早い。―――手を組みましょう、ジョジョ。」
フッと口元に笑みを浮かべながら、少女が目の前の青年に小さな手を差し出してくる。
ジョナサンは思う。
――目の前の少女は『吸血鬼』。ディオと同じ種族だが、彼とは違う。
幻想郷という地で、彼女は平穏に暮らしていたという。
こんな殺し合いに乗るつもりもないことも、はっきりと宣言した。
そして、僕に対し協力を求めてきた。共に主催と戦う為の、協力関係を。
…正直に言って、最初は吸血鬼である彼女のことを少しばかり疑っていた。
こうして飄々と様子を伺い、隙を突いて攻撃してくるのではないのか。そう思っていたのだ。
「吸血鬼である」という理由で警戒し、最初は攻撃すらも行ってしまった。
しかし…彼女と話し、その事情などを聞いて僕は気付いたんだ。
彼女のことはきっと信用出来る、と。
共に主催者を倒す為の力になってくれる、と。
ジョナサンは、心で理解したのだ。
それ故に、彼は逞しい手を差し出したのだ。
「―――あぁ、解った。君を信用しよう。そして…これから共に闘おう、レミリア・スカーレット!」
「ふふ…感謝するわ。ジョナサン・ジョースター。」
互いに握手を交わし、ジョナサンとレミリアは共闘を誓う。
呼吸から生み出される太陽の波紋で戦う「波紋戦士」。
闇の力を振り翳す夜の支配者「吸血鬼」。
本来ならば相容れぬはずの二人が、殺し合いという現実を前に共に手を組んだのだ。
二人の行く末は「殺し合いの打破」か。
それとも「絶望の最期」を迎えることになるのか。
―――その結末は、今はまだ…誰も知らない。
◆◆◆◆◆◆
「ほらレミリア、本ばっかり読んでないで行くぞ?」
「えー、今いい所なのにー…ほんのちょっと。あとほんのちょっとだけ」
「…本は後で、な?」
「…もー、仕方無いなぁ…」
先程の会話の後、客間でちゃっかりピンクダークの少年を再び読み始めようとしていたレミリア。
しかし寺から移動しようとしたジョナサンに咎められ、ぶーぶーと文句を垂れながら漫画を閉じてデイパックにしまった。
漫画を読破している場合じゃないぞ、お嬢様。
【E-4 命蓮寺/深夜】
【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:左頬に掠り傷(処置済)
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:レミリアと共に行動。彼女はきっと信用出来る。
2:スピードワゴンらと合流する。レミリアの知り合いも捜す。
3:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
4:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷について大まかに知りました。
【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:霊力消費(微小)、右手に軽い波紋の火傷(行動及び戦闘においての大きな支障は無し)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部~3部全巻@ジョジョ第4部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者共を叩きのめす。
1:ジョジョ(ジョナサン)と行動。
2:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
3:自分から積極的に仕掛けることはしないが、敵対するなら容赦なく叩き潰す。
4:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
5:…ピンクダークの少年の作者の岸部露伴って、名簿にいたわよね?
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋のダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
<シーザーの手袋@ジョジョ第2部>
ジョナサン・ジョースターの支給品。
波紋戦士であるシーザー・アントニオ・ツェペリが身につけていたグローブ状の手袋。
特殊な石鹸水が仕込まれており、手袋からシャボン玉を精製することが出来る。
シーザーは自らの波紋をシャボンに伝導させ、飛び道具として用いていた。
<「ピンクダークの少年」全巻@ジョジョ第4部>
レミリア・スカーレットの支給品。
漫画家・岸部露伴のデビュー作にして代表作である少年マンガ。
サスペンス・ホラー風の作品で、1~3部の巻がセットでエニグマの紙の中に入っている。
グロテスクなシーンが多々あるものの、個性的でスリル溢れる作風に加え登場人物の特徴的なポーズや擬音が魅力である。
人によってはっきりと好き嫌いが分かれるマンガであるが、レミリアは割と楽しんで読んでおり続きが気になっている。
最終更新:2014年02月06日 00:56