GUILTY CROWN

 
 
 
 
―――新しい時代の幕開けの時には必ず立ち向かわなくてはならない『試練』がある。
 
―――試練には必ず『戦い』があり『流される血』がある。
 
―――試練は『強敵』であるほど良い。
 
―――試練は『供えもの』。立派であるほど良い。
 
 
 
◆◆◆◆◆◆
 

 
 
「―――改めて言わせてもらおう。『久しぶり』だな、Dio」
「…少し前に『殺し合っていた』相手から言われる言葉じゃあないな」
 
 
そこは幻想郷の霧の湖の傍に立つ緋色の洋館「紅魔館」の一室。
吸血鬼の館であるが故、部屋に窓は殆どと言っていい程存在していない。
恐らくこの館の主人がくつろいでいた部屋だろう。それなりの広さであり、本棚も幾つか置かれている。
家具や内装は小綺麗できっちりと整えられており、使用人による手入れが行き届いていることが解る。
そんな一室にて、二人の男は部屋の真ん中でテーブルを挟んで向かい合うように椅子に座っていた。
 
「Dio、お前は理解しているだろう?この異常な状況を…」
「ああ、…さっきまで俺とお前は殺し合っていた。そして戦いの末に、二人共車両から落下…。
 そのまま線路に激突したと思ったら―――あの場に放り込まれていた、と。異常としか言い様がない」
「フン、やはりお前もそうだったか」
 
互いに警戒をするような表情を浮かべつつ、会話する二人の男達。
その片方、壮年の男は第23代アメリカ合衆国大統領『ファニー・ヴァレンタイン』。
強大な力を持つ「聖人の遺体」を手に入れるべく、合衆国横断レース「スティール・ボール・ラン」を利用した大統領。
そしてもう片方、鋭い眼光を持つ若い男の名は『ディエゴ・ブランドー』。
スティール・ボール・ランにおいての優勝候補であり、遺体を手に入れ社会の頂点に立とうとした男。
この殺し合いの場に呼び出される前―――
二人は、完成した『聖人の遺体』を巡って熾烈な争いを繰り広げていた。
血で血を洗う壮絶な死闘の末に、二人は汽車の車両から落下した。
そのまま線路に激突し、二人は共に死を向かえる――――はずだったのだ。
(正確に言えば、大統領だけが『助かる』はずだった)
しかし彼らは、生き延びた。『殺し合い』という凄惨な催しの場に召還されることで。
 
「――90名もの参加者によるバトル・ロワイアル。
 優勝者にはあらゆる願いを一つだけ叶える権利を与えられる…『生還』という席の奪い合い。
 だが、Dio。聡明な君ならば理解出来るだろう?」
「…たった一人で生き残ることは困難、とでも言いたいのか?
 こうして俺と話す場を設けている時点で薄々と勘付いてはいたけどな」
「その通りだ。この殺し合いを一人で勝ち残ることなど到底不可能だろう。
 しかし…情報、戦力、判断―――仲間がいることで得られるモノは多い」
 
――少し前に、彼らはこの『紅魔館』という施設の内部で真っ先に出会ったのだ。
それは運命か、引力か、それとも必然か。
答えは解らない。ただ一つだけ確かな事実は、二人がこうして再び邂逅したということ。
そして大統領は、ディエゴに『対話』を持ちかけたのだ。
突然の提案に警戒心を解かずにはいられなかったディエゴだが、結局はこうして彼の誘いに乗ることになった。
わざわざ堂々と姿を晒してきたことから、恐らく此処で仕掛けられることはない。と…そう推測したのだ。
 
「それ故に、だ。―――私と手を組め、Dio」
 

 
――真っ直ぐにディエゴを見据えながら、大統領ははっきりと同盟を持ちかけた。
対するディエゴの表情はどこか怪訝な様子であり、僅かに目を細めながら大統領を見る。
少しだけ間を置き、ディエゴが口を開いた。
 
「…これから滅び逝く自分の『延命』の為に、か?」
「我々が来るべき時までに『生き残る』為に、だ。間違えないでほしい。
 本来ならば我々は敵同士だが、今回は事情が違う。異常極まりない状況を前にして、因縁など気にしている場合じゃあないだろう?
 一先ずは生還の為に、そして主催を撃破する為に手を組むべきだ」
「成る程、ね。確かに俺も…あの主催者の東洋人共は気に食わないと思っていた所さ。
 だが、遺体を巡って争いを繰り広げたお前と呉越同舟のまま信頼しろとでもいうのか?」
「何、わざわざ『信頼』などしてもらう必要はないさ。『主催者を倒すまでの一時休戦』と思ってくれて差し支えはない」
「………………。」
 
ディエゴはその場で、少しばかり思考をする。
確かにこの異常な状況下において、『仲間』は欲しい。
殺し合いで生還し、あの主催者の下へ辿り着くまでの戦いで『大統領』は大きな戦力となるだろう。
あれ程までに厄介で強力なスタンド能力を保持しているのだ。
だが、それと同時に面倒で『優秀』な男でもある。いつ俺の隙を狙ってきても不思議じゃあない。
一先ず、この男への警戒は怠っては駄目だ。
とはいえ、大統領も俺と組むことに『利益』を感じているはず。ならば…『利用』する価値はあるだろう。
 
「…一つ条件がある、大統領。俺は支給品を全て開示する。その代わり、お前も開示しろ」
「何…それならば構わんよ。元より同盟を組む上で、最低限の手札は知らねばならんからな」
 
条件を呑み、大統領はゆっくりと頷きながら答える。
その直後に、大統領のデイパックから取り出された支給品がテーブルの上に一つずつ置き出された。
それは陰陽のマークが描かれた奇妙な二つの球体。
ランダムアイテム『通信機能付き陰陽玉』だ。それぞれに通信機能があり、遠距離で無線としての使用が可能である不思議な道具。
そしてもう一つは「暗視スコープ」。赤外線による暗所の視界を確保する為の装置だ。
 
「説明書きがあったが、この2つの球体…「陰陽玉」は互いに通信機能を持つらしい。
 一つをお前に渡すことにする。そうすれば、遠距離に離れた際にも互いに連絡を取り合うことが可能だからな」
「…成る程ね。便利な道具があるもんだ」
 
軽くぼやくようにそう呟きながら、ディエゴがテーブルに置かれた陰陽玉の一つを受け取る。
思ったよりも大したものを持っていなかったとでも思っているのか、さほど興味を持ってる様子でもない。
だが確かに便利だ、遠方での連絡が可能になっているのだから。内心はそう思っていたようだ。
そして自らの支給品を開示した大統領は身体を前に軽く屈め、ディエゴを少しばかり覗き込むように見る。
 
「さて、Dio…お前の番だ。開示してもらおうか―――」
「大統領」
「……………ん?」
 
唐突に声をかけてきたディエゴを見て、軽く言葉をこぼす。
ほんの少しの沈黙の直後のこと。
そうして、ディエゴは少しばかり口元に笑みを浮かべながら…デイパックから『とある書物』を取り出した。
 

 
「俺の支給品には、『面白いもの』がある。その代わり、たった一つだけだがな」
「ほう…?」
「『幻想郷縁起』という書物だ。お前と会う前に中身を拝見したモノだ。
 この本にはなかなか興味深いことが記されている…
 ――幻想郷。妖怪や神々の住まう地。外の世界に追いやられた幻想の、最後の楽園。」
「…楽園?」
「そう、楽園だ。この書物にはその地に住まう妖怪について事細かに書かれている。
 妖精、亡霊、魔女、果ては吸血鬼―――まさに『何でもアリ』ってワケだ」
「胡散臭さすら感じる程だな」
 
どこか不敵とも取れるような笑みを浮かべながらディエゴは語り続ける。
対する大統領は、まだディエゴの意図が読めないのか皮肉るような言葉でそう吐き捨てる。
 
「そして、俺はそこで気付いたことがある。幻想郷には『レミリア・スカーレット』という吸血鬼がいるらしい」
「…おい、名簿でその名は見かけたぞ」
「そう、名簿に載っているんだ。それに俺たちの現在位置…どうやら地図によれば『紅魔館』という施設だそうだ。
 そして、このレミリアという吸血鬼は『紅魔館の主』と記載されている」
「何…?」
 
目を細めつつ、大統領が短く声を漏らす。ディエゴの言葉はそのまま続く。
 
「そう、幻想郷の『住民』と『施設』がこの会場に存在しているんだ。
 他にも参加者と同じ名を持つ妖怪、そして地図に記された施設の名が本の中で幾つも見受けられている」
「………………。」
「そして名簿に記載されていたものと同じ名を持つ妖怪は、ほぼ『人間の少女』の姿で描かれている。
 覚えているか、大統領?あの最初の会場のことを」
「…何とかな。見渡す限り、やけに少女が多かったのが疑問だったが…」
「そう、少女が多いんだ。それにあの主催者は『妖怪』や『神』という言葉を口にしていた。
 あの見せしめの少女も『八百万の神である』と言っていたしな。…つまり、だ」
 
大統領は意図を理解したように唸るような声で頷いた。
幻想郷。数多の妖怪が存在する地。参加者と同名を持つ妖怪達、そして複数の施設。
本に記された、少女の姿をした数多の妖怪達。そして最初の場において不自然なまでに多かった少女達…
そして主催者二人が口にしていた『妖怪』『神』という言葉。
そう、この催しはあまりにも『幻想郷』と結びつくものが多いのだ。
―――だが。ふと大統領は、僅かに表情を顰めながら…あることに気付いた。
あの荒木と言う男が言っていた何気ない一言を、思い出したのだ。
 
「――――成る程な、Dio。お前が『あの主催者共は幻想郷と何らかの関わりを持っている』と言いたいことは解った。
 だがあの荒木と言う男の言動を覚えているか?『幻想郷じゃ、丁寧に説明している相手に喧嘩吹っかけるのが挨拶なのか』と。
 見せしめとなった少女に向かってそう言っていただろう。些細な言葉だが、まるで幻想郷についてさほど詳しくは知らないかの様な言動だ」
「………ふむ、確かに…それもそうか。だが、あの男達は少なからず幻想郷と関わりがあるのは間違いないと思っている。
 そうでもなければ、此処まで殺し合いに幻想郷のことを持ち込むことがあるか?
 …それに、どちらか片方だけが深い関わりを持っているという可能性も十分にあるからな」
「…あの太田順也、という男の方か?」
「そうだ。まぁ、長々と話しておいてなんだが…これらの推測がどこまで『正しい』かはまだ解らない。他の参加者や、あの主催者共に会わない限りには」
「………だろうな。」
 

 
情報。そうゆう点において、ディエゴの支給品はある意味ではアタリだった。
彼らにとって完全に未知の領域である『幻想郷』や『妖怪』についての知識を得ることが出来たのだから。
―――だが、まだ疑問点は幾つも存在する。何故SBRレースに関わりと持つモノが5人召還されているのか、ということもある。
それに名簿に幾つも見られる『ジョースター』『ツェペリ』『ブランドー』の名…。何か関係性があるのか。
少なくとも、ディオ・ブランドーという男をディエゴは知らなかった。
情報を交換し、支給品の名簿を確認することでそのことを互いに認知する。
そして、これは口には出さなかったのだが…大統領が内心抱いた疑問の一つ。
ジャイロ・ツェペリに敗北し死亡したはずの『リンゴォ・ロードアゲイン』の名が記載されているということ。
何故死亡したはずの人間の名が記載されている?奴の死体は私の部下が確認したはずだ。
死者蘇生?それとも私のように平行世界、もしくはそれに準ずる時空から呼び寄せた?
…そもそも、あの主催者共は一体どんな力を持っているというのか?
―――――『遺体』が絡んでいる可能性?いや、それはおかしい。『遺体』はスデに女神“ルーシー”を選んでいるハズなのだ。
疑問は尽きないが、今は情報がまだまだ足りない。
 
「…さて、Dio。互いに出せるだけの情報は出したな?疑問点も含めて」
「ああ、十分すぎる程に」
 
「では此処で、我々の盟約を改めて言わせてもらおう。
 コレはこの殺し合いに勝ち残り、生還する為の同盟だ。互いに利用し合う…全てはこの地で生き残る為だ」
「……………。」
「―――あくまでこれは『一時的な共闘』だ。『味方』になるワケではない。
 だが、少なくともこの殺し合いの最中においては協力をしてもらう。今はもはや『遺体争奪戦』どころではないからな…
 全てはあの荒木飛呂彦、太田順也から、全ての謎を聞き出し…抹殺するまで。この同盟は続くモノだと思って頂こう」
「わざわざ同盟を持ちかけて頂き光栄の限りだ、大統領閣下殿」
 
慇懃無礼な態度で軽く皮肉るようにディエゴは笑みを浮かべ、そう口に出す。
―――やはりこの男は信用出来ない。だが、利用出来る価値は十分にある。
私はお前を『優秀』だと見込んでいるのだからな。ハングリーで、狡猾で、どこまでも野心的。
そういった人格を持つこの若造は使える。大統領は内心そう思う。
 
 
「―――解った。その提案を受け入れよう。この戦いで生き残る為の同盟を、な」
「感謝するぞ、ディエゴ・ブランドー。…では、」
 
 
すると、大統領が懐から何かを取り出す。―――そう、ワインボトルだ。
何故かご丁寧にグラスまでしっかりと持っている。…どこから持ち出したんだ、こいつは?
ディエゴがささやかに疑問を抱くも、大統領はそれに気付いてないのか気付いているのか解らない。
ともかく、少し呆気に取られるディエゴを見つつ…ワインを二つのグラスに手早く注いだ。
 
「この酒はこの館を探索している時に見つけたモノだ。あまり深いことは気にしなくてもいい。」
「…………。」
 
 
「さて、Dio。―――乾杯をしないか?」
「…一体何に…だ?いずれ滅び逝く絆であろう…俺たちの同盟に…か?」
「それでは縁起が悪いだろう?我々がこの杯に捧げるモノは、もっと違う」
 
 
口元に笑みを浮かべながら、大統領はグラスを摘み――軽く持ち上げつつ、言う。
 
 
「『立ちはだかる試練を乗り越える我々に』」
 
「試練、ね………。なら、俺からも二つ程言わせてもらおうか」
 
 
そう言いながら、ディエゴもまたワインの注がれたグラスを指で摘むように持ち上げる。
 
 
「『栄光を掴み取る俺たち』に、そして『俺たちの勝利の礎となる88人の生け贄の為』に」
 
 
 
「―――乾杯」
「乾杯。」
 
 
祝杯の言葉と共に、互いのグラスが小気味よく触れ合う音が静かに響いた。
 
本来ならば敵同士の二人。―――だが、今回は事情が違う。
 
荒木飛呂彦、太田順也。あの主催者達を打ち倒すべく、再び手を組んだ。
 
だが、その過程や方法は凄惨な血に塗れたものになるだろう。
 
―――彼らは、己の目的の為には一切の手段を選ばないのだから。
 
88の犠牲を乗り越え、主催者の下へ向かう。それこそが目的。
 

 
 
 
だが、その先に見据えるモノは互いに違う。
 
ディエゴは内心、主催者の力をも利用しようと算段していた。
いっそ優勝を狙い、願いを叶えることもアリかもしれない。そう思ってすらいたのだ。
使えるものなら何だって利用してやる。俺が頂点に立つことが出来るのならば、尚更だ。
ともかく、あの主催者共の利用価値を見極める限りには何も始まらない。まずは様子見だ。
――――場合によっては、大統領を隙を突いて殺害すればいい。
少々厄介だが…この場においては参加者の能力に『制限』がかかっているそうだ。
俺の能力もどこまで手が加えられているかは解らないが故に、慎重に行かなければならないだろうがな。
 
共通しているのは、互いに向けられた偽りの信頼。
目的の為に互いを利用し合うという腹の底に秘める禍々しき魂胆。
彼らの往く果てにあるモノは、栄光か。崩壊か。今はまだ、誰も知らない―――――
 
 
 
【C-3 紅魔館/深夜】
 
【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
2:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
3:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
 
【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:紅魔館のワイン@東方紅魔郷(現地調達)
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、暗視スコープ@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:同盟者であるDioを利用する。だが決して信用はしない。
2:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かす。最終的には抹殺。
3:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
 
【幻想郷縁起】
ディエゴ・ブランドーに支給。
稗田阿求並びにその一族が代々書き記している書物。
元々は人間の為に妖怪の弱点や対策法などを記した本だったが、
現在は幻想郷が平和なこともあってか妖怪紹介本としての趣が濃くなっている。
参加者を含めた妖怪の情報が詳細に記されているが、膨張表現や推測で書かれた箇所も多々あるという。
 
【通信機能付き陰陽玉×2】
ファニー・ヴァレンタインに支給。
地底の異変の際に八雲紫が霊夢に渡した通信機能付きの陰陽玉。
2つセットで支給されており、それぞれの陰陽玉と通信することが可能。
 
【暗視スコープ】
ファニー・ヴァレンタインに支給。
夜間や暗所において視界を確保する為の装置。
 
遊戯開始
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最終更新:2014年02月06日 00:55