この世の根底にあるものは――
根底にあるべきものは『愛』だ
私はそう信じて疑わない
だから私は全ての存在を愛する
最近この街に起こる様々な事件…
死人が何人も出ている
人々が『愛』を忘れているから…悲しい事件は起きるのだ
この私、佐藤は学校で国語の教師をやっている。
放課後の仕事を終え、学校から帰る途中に狭い路地を抜けようとしていた。
そこで私は見てしまった。
血に濡れたナイフを持つ男。
横にはたったいま、この男に刺されたのであろう『誰か』が倒れていた。
カンベエ「なんだァお前は…見たのか?ここで何があったのかお前は見たのか?」
『カンベエ/スタンド:へヴィー・クライ』
カンベエ「そして今何を見ている?見えているのか?この俺の背後にいる『存在』が…
見 え て い る の か ?」
ああ見えている…見えているさ…
精神エネルギーが作り出すそのヴィジョン…
『スタンド』ッッ!!
佐藤「…この際…そんなことは問題じゃあないんだ…
重要なのは…ここで最も重要なのはッ!
お前がたった今!
人を刺し殺したということ…」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
カンベエ「そうかァ~~…それを見られちゃあ…
生かしておけねえなァ~~~~ッッ」
佐藤「 更 生 さ せ て や る
『オール・ラブ』ッッ!!」
『佐藤/スタンド:オールラブ』
カンベエ「やはりッ!お前も同じような能力の使い手ッッ!
『へヴィ・クライ』ィィィッッッ!!!」
******
佐藤とカンベエの2人が戦いを繰り広げている戦場にもう1人、
スタンド使いが接近していた。
2人は目の前の敵に意識を集中させていたため、その存在に気づいていなかった。
だがもう1人が彼らに攻撃を仕掛けることはないだろう。
なぜなら・・・
自分がスタンド使いであるということを気づいていないスタンド使いだからだ。
彼の名前は・・・「神城 静夜(カミシロ・シズヤ)」。
『神城 静夜/スタンド:スレイヤー』
ト”ト”ト”ト”ト”・・・・
――遡ること数時間前・・・――
街の郊外の木々が生い茂る洋館・・・そこが神城静夜の家だった。
父・祖父がともに考古学者の家系で神城静夜は生まれ育った。
そのためか、周囲からは静夜も考古学者になると思われていたが、彼自身もそうなることが当たり前だと思っていたし、そうなりたいとも思っていた・・・
現在この洋館で静夜は1人暮らしている。
祖父は数年前、友人のイギリス人考古学者とある街へ研究で赴いたときに事故で、
父も1年前にローマの地下遺跡に研究に行ったきり消息を絶っていた。
神城静夜の家族関係は薄幸だったが、2人からたくさんの『愛』を与えられていた。
2人のことを思い出すといつも指先の傷が疼く・・・
勝手に入った祖父の書斎で静夜は「何か」で指を切り、
それが直接の原因かはわからないが、42度の高熱を出し数日間意識を失っていた。
目を覚ましたとき2人が目の前に座っていた。
その後、医者からどちらか一方は寝ずに自分を看病してくれていたという事実を聞かされた。
静夜は確かに『愛』を与えられていた。
それは彼の心の中の『思い出』が証明していた・・・
学校が終わり、帰ってきた静夜は窓を開けた。
吹き抜けてくる風が髪をなで、鳥のさえずりや木々のざわめきが耳をくすぐった。
ふと下を見ると・・・
塀の上で悪趣味な服を着せられた奇妙な猫がうたた寝をしていた。
静夜は窓際のいすに腰掛けて買ったばかりの雑誌を読み始めた。
たわいもない噂話ばかりが載っているこの雑誌を静夜は気に入っていた。
読み終わった後にパラパラとページをめくると、ある記事が目に飛び込んできた。
―切り裂き魔―
深夜にある町で度々出没する怪人の話だった。
記事「巨大な鎌を持った怪人が夜な夜な出没し、住人を恐怖のどん底に陥れている。― 奇妙なことにこの切り裂き魔は毎回違う姿をしていて男性だったり女性だったり老人だったり子供だったりした。」
静夜はこの記事を見て驚愕した。
「切り裂き魔」の想像図の横に載っているもう1つの写真はこの町のものだった!!
このような場合、普通の人は恐れおびえるものだが、静夜は違った。
2人から与えられた『愛』は強い正義の意志となって残っていた。
だがこの「切り裂き魔」に関してはそれ以上に別の『何か』が彼の心を占めていた。
静夜「・・・この切り裂き魔に会わなければいけない。・・・そんな気がする。」
そう呟いた静夜を見届けると塀の上の奇妙な猫は鳴いた後、塀から飛び降りて町のほうへ消えていった・・・
数時間後、静夜は出会うことになる。
2人のスタンド使い、そして切り裂き魔に・・・。
******
「『へヴィー・クライ』ィィィッッッ!!!」
カンベエのスタンド、『へヴィー・クライ』の豪腕が、うなりを上げて
佐藤に襲い掛かる。
その一撃を受け、佐藤はのけぞるようにして吹き飛んだ。
「誰にも邪魔はさせねぇ……この俺が!
犯罪を犯すのはなァ~~~~!」
「……なるほど」
佐藤は、ゆっくりと仰け反った体勢を戻す。
「君のその『スタンド』……
スピードとパワーに優れた、非常に強力な『力』のようだ」
落ち着いた所作でカンベエを見つめるその顔には、傷一つ無い。
スタンドの腕だけが佐藤を囲むように発現し、カンベエの一撃を防いだのだ。
「私は、この世の全てを愛している。自然も、動物も、人間もだ。
だが、嫌いなものが、三つだけあるんだ。
一つ目は……暴力。相手がどんな悪人であろうと、私からは決して
攻撃しない。
二つ目は、日本語の乱れ。『犯罪を犯す』は重複表現だ。
『罪を犯す』なら正しい」
「国語の教師かオメーはよォォォォ!」
再び佐藤に襲い掛かる『へヴィー・クライ』
「その通りだ。だから、嫌いなものの三つ目は……聞き分けの無い生徒なのだよ!
『オールラブ』! 既に! チョークを『頭上高く打ち上げている』ッッ!」
ガガガガッ!
『オールラブ』の放ったチョークが、『へヴィー・クライ』に降り注ぐ。
質量こそ少ないものの、高速で落下する無数のチョークは弾丸の様に
『へヴィー・クライ』を貫く……はずだった。
「『素通り』しただと……ッ!?」
チョークは『へヴィー・クライ』をすり抜け、すべて地面に落下していた。
驚愕する佐藤の鳩尾に、今度こそ『へヴィー・クライ』の拳が突き刺さった。
「無駄無駄。俺の『へヴィー・クライ』は無敵だ……
どんな攻撃もすり抜けちまうんだからなァ~ッ!
もし俺を倒し、罰せるものがいるとするなら! それは『神』だけだ!
アンタ、『神』じゃあないようだなぁ……先生ヨォ~!」
「……確かに、私は神なんかじゃあない。しがないただの一教師だ……
だが! 『神』であろうと、倒せる可能性があるというなら!
『無敵』というのは、正しい日本語じゃあないな……」
「講釈はそれまでだ。テメェの脳髄、ブチ撒け……ハッ!?」
佐藤に止めを刺そうとするカンベエの腕が、ぴたりと止まる。
ト”ト”ト”ト”ト”・・・・
「何だ……? これはッ! 『いつ』!
てめぇ、『いつ』付けやがったァー!」
いつの間にか、『へヴィー・クライ』の腕に、白い線で絵が描かれている!
「『オールラブ』……チョークで落書きを描いた。
1秒間にきっちり線を一本ずつ、全部で10本……描かれている線は5本!
どうやら、その能力……5秒ほどしか持たないようだな」
「だったら何だってんだァ~~~~~ッ!
その5秒間で、お前をブチ殺してやるぜッ! 『へヴィー・クライ』ッ!」
凄まじい速度でラッシュをかける『へヴィー・クライ』
スピード、パワー共に、『オールラブ』を上回るその攻撃に、佐藤はじりじりと
押されていく。
『オールラブ』はスピードで劣る分、精密な動きで的確に防御していくが、ダメージは
少しずつ蓄積していく。
だが、佐藤には勝算があった。
(5……4……3……2……!1……!)
『 た っ た 一 撃 』!
『 た っ た 一 撃 入 れ ば 』!
「ゼロッ! この一撃で、お前は更正するッ!」
『へヴィー・クライ』の効果時間が切れる、その瞬間。
『オールラブ』は初めて、その拳をカンベエに叩き込んだ。
二つの影が交錯し、そして……停止する。
「何……だ、と……!?」
カンベエは、驚きに目を見開いた。あまりの衝撃に、スタンドで攻撃することさえ出来ない。
そして、それは佐藤も同様だった。
「……何だこれはァーーッ!?」
声と同時に、ぼとぼとと辺りに血が飛び散る。
カンベエがナイフで殺した……いや、殺したと思っていた男。
瀕死に見える、その男の持つ鎌の刃が、佐藤の腹から飛び出していた。
******
| 大丈夫です。心配ないですよ。 この病気が悪化するなんてことまずありえません。例えば、例えばですよ?飛行機でテロをおこそうと爆弾を持って乗る狂人。そんな狂人が二人もいる便にのりあわせるくらい確率が低いですよ。 そう言って医者は笑った。 俺も笑った。 そして2週間後、、、泣いた。 これは3年前の話。そう俺の兄貴は3年まえに死んだ。初めはなんてことのない病気だった。ただ、、、その病気が予想外の行動を起こし、予想外の結果を起こしたってだけだ。この世に偶然はない。兄貴の死は必然だったのだろう。 たまに、昔兄貴の言っていた冗談を思い出すことがある。 いいか、純。お前も飛行機に乗っていたら爆弾を持ったテロリストなんかと一緒の飛行機に乗ることがあるやもしれん。そんなことやだろ?うん、俺もいやだ。そこでだ!絶対に爆弾魔と一緒の飛行機に乗らずにすむ方法があるんだ。どうすると思う? 先に自分が爆弾を持って飛行機に乗ってしまうんだ。一人なら爆弾魔はいるかもしれんが、同じ飛行機に爆弾をもった人間が二人も乗ると思うか?確率的にありえんよな?これで自分は大丈夫ってわけだ!どうだ!? そう言って兄貴は馬鹿みたいに笑っていた。 俺もつられて笑ってしまった。 二人で馬鹿みたいに笑っていたんだ。。 兄貴の主治医にこの話はしていない。だが、医者は兄貴の死ぬ2週間前にこの話と似たようなたとえ話をした。 なかなか面白い確率だな。いや、、面白くはない、、、な。 この3年前の事をきっかけに、俺のまわりでは次々に普通なら「ありえない」ことが続いた。 親友の死、恩師の失踪、学校のガス爆発、などなど。俺が金持ちと間違われ誘拐されるってこともあったな。そして、、、兄貴に続き両親との永遠の別れ。。。 これらの事件のおこりかたはすべて普通の交通事故なんてレベルではなかった。 まわりが(俺も)普通なら「ありえない」と言ってしまうないような内容だった。 爆弾をもった二人のテロリストと同じ飛行機に乗るような確率みたいに。。。 このようにどういうわけか俺は呪われているようだ。 俺のまわりでは「ありえない」ことがよくおこる。 偶然って言葉が嫌いになるくらいな。 俺のまわりの災厄、これはもう必然だ。 運命なんだろうもう、、、慣れた。。 こんな俺だ。この後どうなるかわかるだろ? そう、俺は出会っちまったんだよ。あの惨劇の場に。。。 俺の名は揚蝶 純。普通の・・・普通の学生さ! |
******
フ…
場に蝶が舞った…
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド…
大怪我をした男に腹を貫かれた男…
その表情は狂気に満ちており、自分の腹が貫かれたことに驚いているようだった。
また、その男と向かい合う男は何が起きたのかわからずに一歩退いた。
死体はどういうわけか漆黒の鎌を持っており、顔は青ざめ呼吸もなさそうだ。
揚蝶「どう…なっている?」
狂気の男は驚きの顔を急に戻し、無心のような顔つきになった。
そして自分の腹を貫いていた鎌を取る。
カンベエ「…cut…」
ボソっと口からこぼすと自分と向かい合っていた男に切りかかった。
佐藤「ッ!!!」
向かい合っていた男はただならぬ殺気を感じギリギリでかわす。
オレは何がなんだかわからなかった…がいままでもこんなことばかりだった。慣れた。
やたら蝶が多い…そう思ったくらいだ。
カンベエ「cut・・・cut・・・cut・・・cut・・・cut・・・!」
狂気の男は鎌を振り回す。
オレはそんな状況を見ていて自分でも驚いた。
『一歩踏み出した』のだ。
…ありえない…
狂気の男の殺気を感じ取ったのか・・・?
それとも向かい合う男を救わなきゃと思ったのか・・・?
否
何か…そう…『無造作にッ』一歩踏み出したのだ。
場の空気が…変わった。
******
佐藤(なんだ?今の一瞬の出来事はなんなんだ?
私の『オール・ラブ』が拳を叩き込んだと思った刹那……
鎌の刃が私の腹から飛び出していた
ここまでは…ここまでは理解できないことはない…
ナイフで刺され死んだはずの男は実は死んでおらず、鎌を持って私を襲った…
何故、彼が私を襲ったのかはわからないが…『事実』としてそういうことも起こり得るだろう
だが…
次の瞬間
その鎌は私に傷を与えず、今まで私と戦っていた、奴のドテッ腹に突き刺さっていたッッ!!)
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
佐藤の頭にふと、一つの言葉がよぎった
『量子トンネル効果』
量子トンネル効果とは、量子力学の分野において通常ではエネルギー的に乗り越えられるはずのない障壁を、ある一定の確率で粒子が通り抜けてしまう現象である。
さらに噛み砕いて言えば、壁に向かって投げたボールがその壁を破壊することなく通り抜けてしまう可能性があるということだ。
佐藤(例えば、『量子トンネル効果』によって鎌が私の体をすり抜けたとしたら…
だが…実際にそんなことが起こり得るのか?
普通に考えたとしたら有り得ないよな…
しかし…『可能性』が…存在するのなら…?)
佐藤は気づいていなかった。彼の周りに舞う一羽の蝶に。
そして佐藤の思考はそこで中断された
カンベエを鎌で突き刺した男の体は再び崩れるように倒れ…
カンベエ「cut!cut!cut!」
カンベエがその鎌を振り回し暴れ始めたのだ
その眼に宿る闇はカンベエのそれとは違っていた
佐藤「こいつ…さっきまでとは雰囲気が違うッ
これは…能力だ…『スタンド能力』ッッ
まだ…潜んでいるのかッ…他の『スタンド使い』がッッ」
カンベエの振り下ろす鎌を佐藤がギリギリでかわした瞬間だった
辺りが無数の輝く蝶に包まれる
ハッとした二人の動きが一瞬止まった
そしてその輝く蝶の群れの中から…
一人の少年が現れた
******
揚蝶「どう…なっている?」
「偶然」通りかかった暗がりの路地。
揚蝶は恐ろしい光景を目撃した。
目と鼻の先で「何者」かが争っていた。
刃物で殺された(ように見える)死体。
傷を負ったスーツ姿のサラリーマン風の男。
こちらに気づいたらしくその男が揚蝶に向かって何かを叫んでいた。
その男の近くで腹部からおびただしい血を流した男が、
虚ろな瞳で何かを呟きながら手に持った巨大な漆黒の鎌を振り上げてゆっくりと向かってきた。
その鎌にべっとりと塗られた血は月の光に照らされて妖しく輝いていた。
揚蝶「ウ … ウ ア ア ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ーーーーッッ!!!」
揚蝶は物凄いスピードで走り出した。
揚蝶「目の前で 殺 人 が起きた!!!早く安全な所へ!!!」
「あいつら…一体何なんだ!?あのそばにいた幽霊みたいなものは…!?」
「もしや…俺のまわりに現れる『蝶』と何か関係があるのか?」
「この『蝶』は一体…」
「 何 な ん だ !?」
揚蝶は一種のパニックに陥っていた。
彼が走っていった通りは…
民家の少ない郊外へと向かうものだった。
佐藤「マズい…… 早く追わなければ…… あの少年も…… 殺されてしまう……!」
佐藤は壁を支えにしながら2人を追った。
******
『マズい』……
『彼』は、焦りを感じていた。
『スタンド』同士の戦い。特殊な能力を持つものとの戦いは、これが
初めてではない。
今まで何度か戦いを潜り抜けてきたし、その中で「強敵」と感じる相手と
戦ったこともある。
しかし! 今、この状況は!
今まで経験したことのない、未曾有の『マズい』事態だッ!
一体、何が起こっているんだ!?
前を走る背中を追いかけながら、彼は胸中で叫んだ。
『 一 体 こ れ は 何 な ん だ ッ ! ? 』
『スレイヤー』は絶叫した。
「宿主」は腹部から血を失っているというのに!
体温はどんどん上昇し、身体中にボツボツと発疹が出来ている。
身体の操作が次第に鈍り、全身が鉛のように重くなっていく。
自分自身が痛みを感じるわけではないが、『感覚』として、スレイヤーは
それを感じていた。
スレイヤーは、『スタンド』を支配する『スタンド』だ。
本体である神城 静夜に、『スタンド使いを近づけさせず、平穏な暮らしをさせる』
ただその為だけに存在している。
隙をつけば、今支配しているカンベエのようにスタンド使いであろうとも
支配できるし、「スタンド使い」と「スタンド」の『絆』を断ち切って
スタンドを刈り取ることも出来る。
それが故に、「スタンド攻撃」への感覚の鋭敏さは、人間の持つそれとは
段違いに鋭い。
そして、スレイヤーの『感覚』は、この「宿主の不調」を……
『 ス タ ン ド 攻 撃 に よ る も の で は な い !』
と感じ取っていた。
(とにかく……このままではマズい! 『宿主』を変えなければッ!)
『理解不可能』な『宿主の不調』……それが、スレイヤーを焦らせた。
「cut! cut! cuuuuuuuut!」
カンベエの手を離れ、スレイヤーは強引に揚蝶 純との距離を詰めると、
その刃を一気に振り下ろした。
******
「ウワァァァァァッ……!?」
身体を刃が駆ける感触に、揚蝶は思わず悲鳴を上げた。
しかし、「刃が通り抜ける感覚」はしたにもかかわらず、痛みは全くない。
「また…… 妙な事が……?」
何かにぶつかったはずなのに、怪我は無い。
……今まで、そういうことは何度かあった。
のっていた車や電車が事故に遭って、自分だけが無傷で生き残ることも。
そんな時、決まって周りにこの蝶がいた気がする……
ふと、揚蝶が周りの蝶に目を向けた瞬間。
『全ての蝶が崩れ落ち、目の前に浮かぶ鎌に吸い込まれるようにして消えた』
途端、揚蝶の背中を、ぞくりとしたものが駆け抜けた。
先程までは、異常な事態に驚きつつも、どこか恐怖心はなかった。
根拠は無いが、『自分だけは助かるんじゃあないか』
そんな思いが、心のどこかにあった。
しかし! 今、揚蝶の心は完全に『恐怖』が支配している!
何か『頼るべきもの』が! 失われてしまったような『感覚』!
時間が、いやにゆっくりと感じられる。
まるで水の中にいるような動きで、目の前の鎌がもう一度その身をもたげ、
一気に揚蝶に向かって振り下ろされ……そして、両断した。
「……『運命の女神』ってヨォ~~~~。言うじゃねえか」
低い声が、辺りに響くのを、揚蝶は耳にした。
「『運命』……言い換えればそれは、『必然』だとか……
あるいは、『偶然』とも言うのかも知れねぇ。
だが、どっちにしろ……もしそんなものを、操れる『力』があるとしたら!
……それは、『神』と呼ばれるものなんじゃあねぇのかぁ~~~~!?
さっき『偶然』! アンタの能力に気付いちまった。
操られてても意識はあったからなぁ~~!
『ヘヴィー・クライ』! 『他人』も『素通り』させられるとは、
『偶然』だったぜ!
何せ今まで、他人を守ろうなんて考えたこともなかったからなぁぁぁ!」
揚蝶の目の前には、振り下ろされた鎌。そして、鎌を睨みつける
カンベエの姿があった。
「この『鎌』……どこのどいつのスタンドかはしらねえが、
俺の手から離れたのは失敗だったな……
それにしても、ひでぇ体調だ……こりゃあ『はしか』か?
『偶然』病気にかかった、って、そう言う事か?
しかし、それが結果、アンタを助ける事になったわけだ、『神様』よ」
カンベエは揚蝶ににやりと笑いかけた。
『スレイヤー』の誤算。それは、スタンドであるがゆえに、
「人間の病気」というものを知らない、という事だった。
『たまたま眠っていたウィルスを偶然活性化させる』のは『攻撃』ではないし、
病気によって引き起こされる諸症状も、『スタンド攻撃』ではない。
しかし、その『理解不可能』な事態が、宿主から離れるという致命的な『ミス』を
スレイヤーに発生させた。
「c……cut! cu……」
「二度も同じ手を食うか! 『ヘヴィー・クライ』ッ!!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラァァァァァ~~~~~~ッッ!」
凄まじい威力の拳が、凄まじいスピードでスレイヤーに叩き込まれる。
一瞬にしてスレイヤーは粉々になり、消え去った。
消え去るスレイヤーを見送り、カンベエはいつもの言葉を口にする。
「……てめぇも神じゃあなかったようだな」
******
カンベエはいつも考えていた。
この世に『信じられるもの』はあるのか?と。
俺は今までまるでハキダメのような生き方をしてきた。生きるためならなんでもやった。「自分以外を信じない」「法を破る」それが生きることだった。
産まれてこの方
親なんて「物」を見たことがない。仲間?そんな「物」あるとも思わない。信じられるものなんてありゃしなかった。そんな存在を信じてなかった。ただ……ただ、一番欲しいものだったのかもしれないが。。。
そんな人生に絶望しきっていた二十二歳の時(現在から八年前)。カンベエにある奇跡が起きる。。。
いつものようにカンベエは獲物の目星をつけた。目星を付けたのは金持ち風でヒョロイ体格のスーツの男だった。半殺しにでもして金を分取ってやろう。そんなことを軽く考え近づいた・・・
が、目を付けた相手が悪かったようだ。相手はヤクザだったのだ。初めは一人だけだったがカンベエが男に殴りかかるとすぐに周りには仲間がズラリってわけだ。
おいおい、そんな男ばっかで何する気だい?
そんな皮肉を言う暇もなく男達にボコボコにされる。
あぁ、死ぬな。。。
カンベエは思った。死ぬのも悪くない。ヤクザにボコられて死ぬのも俺らしい。そう思った・・・と、次の瞬間。何かにささったのか右手に鋭い激痛が走る。殴られ、蹴られ続けているのにその痛みはさらに強烈だった。
「オマエ シヌキカイ?シンジラレル モノ モ ナイママ」
******
頭に声が響く
幻聴か?そう思った。思った瞬間、さらにありないことが起る
スカッ!
俺を殴りつづけていた男の蹴りが空を切る。
次の男も、さらに次も、、、男たちは気味悪がりカンベエから距離をおく。
そのすきにヨロヨロと立ち上がるとカンベエの横には見たこともない奴が立っていた。
カンベエにも何者かわからない。わからないが、ある種の確信はあった。
あぁ、こいつなら少しは「信じられる」と
数分後、カンベエの周りには肉塊が横たわっていた。
ことが終わり、カンベエはいきなり現れたものを見る。これが噂に聞いてた「神」ってやつか?・・・いや、違う。それはわかっていた。だがこれは「神」に与えられた力なのだろう。神に選ばれた俺につかえる「天使」なんだろう。
「神」ってのはこいつよりすげ~んだろうな。会ってみて~な。「神」なら、、、神なら心のそこから「信じられる」のでは?
神に会いたい!
このときからカンベエの暴走は続く・・・揚蝶に出会うまで。
――――――――――――――――――
「へへ、やっと出会えたぜ。『神様』よ~。あんたに会うために俺は今まで生きてきたんだ。あんたに会うために『罪』を犯してきたんだ。あぁ、うれしいね~。
ただ、、、脇腹の傷のせいかな?はしかもあるしな、体がすげ~だるいんだ。目も、、見えにくくなってやがる。だがよ~そんなのはどうでもいいんだぜ。なんたって俺は『神様』であえたんだからよぉぉぉ。」
揚蝶は目の前の男の状況を見て思う。この人の状況はヤバイ、と。
「ぼ、僕は神なんかではありません。「普通の」学生です
それにあなたは『偶然』という言葉を使いすぎです。もし神がいるなら偶然なんてものは、、、」
揚蝶が言い終わるのを待たずカンベエの意識はすでになかった。。。
カンベエ リタイア!
******
カンベエの最後の攻撃で「スレイヤー」は破壊された…
また揚蝶の周りには蝶が舞いはじめた。
揚蝶「この蝶…『何かが起こるとき』ッ!そう…『何かが起こるとき』にはいつもいたような・・・『気がする』ッ…なのになぜか…何故か確信を持って言える…!兄さんが死んだときも父さんや母さんが死んだ時も…
あの時も!あの時も!あの時も!あの時も!あの時も!」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ! ! !
佐藤「・・・ッ!」
ようやく佐藤は追いついたがカンベエは既に生き絶え、そしてその遺体の前で蝶を見つめ息を荒げる揚蝶がいた。
揚蝶「おれ以外には見えない『蝶』ッ!小さな頃から…「珍しい蝶がいる」って捕まえようとしても絶対に捕まらず、兄さんに言っても見えていないようだった…」
佐藤「・・・精神の像(ヴィジョン)・スタンドという…」
佐藤は揚蝶の独り言を遮るように口を開いた。
揚蝶「スタ・・ンド…」
揚蝶はようやく佐藤に気付く。先ほどの「向かい合っていた男」だ、と。
佐藤「私の『オールラブ』…そしてこの殺人鬼の『ヘヴィー・クライ』といっていたもの…先ほどの『鎌』…。それが『スタンド』だ。」
揚蝶はうん、うん、とうなずくでもなく黙って聞いている…
程なく先ほどの場にいた青年がそこを通りかかった。
神城「・・・」
『スタンド』・・その概念が彼の心の中をかき回すようにぐるぐる
回った…
ギョンッ!!
ぐるぐる回ったと思ったら先ほどの『漆黒の鎌』が再び現れたのだ。
神城は驚きしりもちをついた。
佐藤は気付いた「『鎌』の本体はこの青年である」と。
そしてこの青年もまた、「無意識のスタンド使い」であると。
鎌は佐藤に向かって切りかかろうとした。が・・・
がしィッ!
神城が鎌を掴んだのだ。これは鎌でさえ…神城でさえも予想だにしなかっただろう。
「特に意味は無い行動」を人は取ることがある。
神城の今の行動意識は「その程度のレベル」であった。
鎌は神城を宿主にしてしまう。
神城の表情は変わり、怯えや恐怖・不安といった表情が薄れていく。
神城「これは僕の『スタンド』。そういうものなんだろう?『スレイヤー』。昔からそんな名だったんじゃないかな。『絆』を切り裂く、スタンドだ。」
神城は確かな愛を与えられいた。本人もそれを認めていたし周りから見ても明らかであった。しかしこの『絆』を切り裂くスタンドは神城の何処から生まれたものであろうか…。
二面性・・・神城の陰陽の如く別れた二面性からである。
「愛と正義」の心を持った神城静夜が「出来心から勝手に入った」祖父の書斎。その「出来心」は神城の中では小さいが「確かな悪」でありそれは『スレイヤー』として神城と共に成長し、今では神城の「愛と正義」の心と対を成すまでに大きくなっていた。
神城「『こっち側』に出てきたのは初めてだよ。フフっ…今までは『この男』を守るための存在だったけど…もう『自分』を守るために闘えるんだね。」
佐藤と揚蝶は身構えた。目の前の男が発する殺気は、殺人鬼のそれと近しいものになっていた。
蝶が舞う。
揚蝶「『バタフライ・キッス』僕が付けたんじゃァない。この蝶達が伝えてきた。全ての蝶には『自我』があるようだ。しかし『別々のこと』を考える事はない。全てが同じ目標を見据えて行動する。」
佐藤は考えた。この少年は『正義と悪』の『両極』を持っている。自分のスタンドで更正させる事ができない。と。
再起不能にできるのか・・・・自分に若者の未来を摘み取れと言うのか…
揚蝶という青年。神城という青年。間違い無くどちらかの未来が摘み取られてしまう。
佐藤が悩む間に神城は動いた。
神城「ハッハァーー!『スタンド使いが僕だけになれば』間違い無く僕は安全だよねェェェェェ!!!?」
佐藤に切りかかる神城。
佐藤「くそッ!『オールラブ』ッ!『チョーク・ブレッド(チョーク弾)』ッ!!」
ガガガガガガガガガガガガガ!!!
チョークで足止めし、距離を取る佐藤。
揚蝶「この『バタフライ・キッス』…自分で操作ができないッ…?」
揚蝶がスタンドに自分の精神力を削れば削るほど蝶が増えつづける、良く見ると妖精の様でもある。
動き回る佐藤と神城にそれは次々に触れる。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! ! !
天気の良くなかった空から雷鳴が鳴り響く。
ガァァァァァオォォォォォン!!!
神城「ぐああああああああああああああああ!?」
雷が神城に落ちた。
神城「ぐ…お・・・お・・・。」
生きている・・雷が落ちたこともそうならば、生き残ったこともまた『バタフライ・キッス』の能力。
バタフライ・キッスは「何者にも味方しない」気まぐれなスタンドあった。
******
倒れている神城の傍に、生徒手帳が落ちていた。
佐藤をそれを拾い、目をやる。
佐藤「神城 静夜…大人びて見えるが、まだ中二か…何より一番の驚き…私の学校の生徒じゃあないか…」
神城「ああ…僕はあんたのこと知ってるぜ佐藤先生…」
そう言いつつ、神城は再び立ち上がろうとする。
佐藤「やめろ。雷の直撃を受けたんだ…今それだけの元気があるだけでも奇跡的だ」
神城はその言葉を聞かず、スレイヤーを握り立ち上がった
神城「うるさい…殺してやる…」
佐藤に切りかかる
反射的に佐藤は一歩退いてかわす
佐藤「聞き分けの無い生徒だ…
ところで…そこの君、名前は?」
神城を見据えつつ、佐藤は揚蝶に話しかける
揚蝶「え…俺ですか…揚蝶 純ですが…」
佐藤「ふむ…なら純と呼ばせてもらおう…
純、君のスタンドを何とかしてくれないか?どうも…先ほどから起こる『有り得そうもない』出来事は、このスタンドの能力としか思えないのだが…
このままでは何が起こるかわかったもんじゃあない」
佐藤はさらに切りかかってくる神城をいなす
揚蝶「佐藤先生…だっけ?
このスタンド…『バタフライ・キッス』はおれにもどうしようもないんだ…制御できないんだッ!」
佐藤「やれやれ…未熟な生徒が多いな…」
揚蝶「み…未熟?生徒?」
佐藤は険しい顔の中に少しだけ笑みを浮かべた
佐藤「お前学生だろ?私の目に映る全ての学生は私の生徒なのさ…フフ…」
神城「死ねッ」
落雷のダメージが残る体で、さらに神城は切りかかる
だがそれまでのようなスピードはもはや無い
佐藤はなんなく避ける
佐藤「スタンドは精神エネルギー…
そのスタンドを操れなかったり、逆に操られたりするってのは、
まだまだ精神が『未熟』ってことだ…
純…神城…二人とも
もっと『成長』しなきゃあな…」
辺りを舞うバタフライ・キッスを眺めて揚蝶はつぶやく
揚蝶「『成長』…?」
その時だった
大型トラックが三人のいる場所に突っ込んできたのだ
佐藤「なッ…!!」
揚蝶は思った
こんな道に大型トラックが突っ込んでくるなんて普通は有り得ない…が、それもこの『バタフライ・キッス』の能力のせいなんだろう
そして自分はここで死ぬのだろう…
目の前が真っ暗になった
しかし、再び揚蝶が目を開けると、目の前にさきほど自分達の場所に突っ込んできたはずのトラックが煙をあげて停止していた
横には自分と同じように呆けた顔で尻餅をついている神城がいる
揚蝶は気づいた
トラックが三人を轢く寸前、佐藤が神城と揚蝶を突き飛ばしたのだ
そして、トラックのすぐ傍に佐藤は倒れていた
地面を真っ赤に染めて
佐藤「私の生徒を死なせるわけには…いかないからな…ハハ…」
弱りきった佐藤が力なくつぶやいた
神城「そんな…そんな…僕を…助けるなんてッ…」
神城は泣いていた
本来持っていた正義の心が、涙を流していた
神城の握る『スレイヤー』は漆黒から銀白へ、その色を変えていた
揚蝶「佐藤先生…俺のせいだ…俺の…」
佐藤「純…良いんだ…お前はまだ生きなきゃあならない…
お前のその能力は必ずお前の力となる…『成長』しろ…そして幸せな人生を歩…め…
そして神城…お前も…闇に飲まれちゃあいけない…正義の心を持っ…て……」
最後の言葉を語る前に、佐藤の眼が静かに閉じた
揚蝶「うあ…
うああああああああッッッ
だめだッ佐藤先生!死なないでくれッ!
死んじゃだめだァァァーーーーーーーッッ!!!」
揚蝶が叫んだ瞬間、あたりを自由に飛びまわっていた『バタフライ・キッス』が揚蝶の元に集まりだした
揚蝶「バタフライ・キッスが低い確率の事象を起こすというのなら!
『佐藤先生が助かる確率』だって少しはあるはずだッッ!
『バタフライ・キッス』よ!佐藤先生を助けてくれェェェーーーーッッッ!!!!!」
『バタフライ・キッス』は佐藤を取り囲み、輝きを放つ。
数十秒…いや、数分経っただろうか
あるいは何秒かほどだったのかもしれない
バタフライ・キッスが姿を消し
ゆっくりと佐藤は眼を開いた
神城「はッ!先生ッッ!」
揚蝶「佐藤先生ッッッ!!!」
佐藤「お前達…事故車両からはできるだけ離れたほうがいいぞ…火災の危険があるからな…」
佐藤は二人に笑みを見せた
『バタフライ・キッス』は極めて確率の低い事象を現実のものにするが、その事象の決定は揚蝶の意志には関係なくアトランダムである
だが、『偶然』に本人の意志とその『事象』が一致する確率は、極めて低いながらも存在していた
しばらくして救急車やパトカーが通報を受けて事故現場に到着した
そしてそこには、泣きながらも笑いあう二人の生徒と、一人の教師がいた。
第2話『神と鎌』
To Be
Continued... ・外伝『月影蝶夢』