アットウィキロゴ

サトヨシは活き活きと絵を描いていた。

「ムム…距離感ガ、イマイチ掴ミカネマスネ」

「いいよ、そこは僕がフォローするから、どんどん描いて」

サトヨシの隣で、同じキャンパスに絵を描くタチバナ。

その上半身を支えているのはソマ。

ソマは先ほど回収してきたタチバナの左目を通して
彼の描く位置に合わせて移動していた。
「しかし、これは結構な重労働だな…」

「タチバナ、衰えてないね、やっぱりキミの絵は凄い!」

キャンパスに筆をつけることができなかったサトヨシが、
無邪気に笑っている。

その即興の絵はついにキャンパスを塗りつくして、
壁に広がり、ついには部屋全体を塗りつぶすに至る。

ソマはそのタチバナの目から見える光景の美しさに感動していたが、
同時に、自分にはモノクロにしか見えない事実に絶望もしていた。

ソマは全盲だが、スタンド能力のおかげで

誰の目からでも、どこからでも物が見える。

しかし、それが色を持つことは無い、
ソマが見る景色は全てが無彩色。

その不公平感から彼は、世界を呪いさえしている。

全ての人間が盲目ならいい……。
私の能力でそれができるなら、そうしてやろう……。

それが、私の生きるヨスガだ。

「それで、さっきの話だけど」サトヨシが話を戻す。

「今回の事件には確かに全て関連性があるけれど、まったく別の目的で、
複数の人間がこの状況を利用しているということが分かったのだな」

絵を描きながら遊んでいた訳ではない。
必要な情報を整理していたのだ。

「そして、それは別の目的で動いている複数の団体だ」

レッドの組織、対立した土星の組織。
ソマはそのいくつかの戦いを観察していた。

タチバナに興味を持ったのも、
その戦いの多くを目にしてきたからだ。

レッドの目的は「自分以外の全人類を殺す」こと。

そして、土星の組織。
その目的は「スタンド使いを皆殺しにする」こと。

ここで目的にレッドとの明確な違いが出てくる。

「ここまで整理して…え~と、何だろう?
決定的な違和感を覚えるんだ」

「この両者に「スタンド使い」を増やす理由がない、ということだな」
ソマが冷静に指摘する。

「そうかな?
レッドはスタンド使いが増えて便利なんじゃ?」

「いや、決定打にかける。
最終的に全人類がいなくなるなら、
相当なスタンド使いは死ぬだろうし、
なによりキミらみたいな邪魔者が増える」

「なるほど…」

「そこで不可解なことだが、
レッドの組織を壊滅させる為に土星が動き出したのが数年前。
ならばレッドの組織はそれ以前からあっただろう。
しかし、ムーンライダーを生み出した事故が起きたのはごく最近」

「僕らがスタンド使いが増えていると、
異変に気がついたのもここ最近の話だね」

「つまり、人類を滅亡させる計画も
スタンド使いを皆殺しにする計画も何年も前からあったが、
スタンド使いが増え始めたのはここ最近、
そして前者の二つの組織には、スタンド使いを増やす動機が無い」

それらの結果から、当然
「何らかの目的の為にスタンド使いを増やしている人物」
が別にいることが推測できた。

「そう、前者の組織は後者の動きが活発になったことで、
行動が明るみになったと考えるのが自然だ」

そして、土星はサトヨシたちが活動を開始する前から、
サトヨシ、タチバナを計画に組み込んでいたということだ。
「僕のスタンド能力が目覚める前から
行動を開始しているアイツは、
未来を知っていたことになる」

「未来人説ガ信憑性ヲ持ッテキマシタネ……」

「いっそ預言者だと言った方が信じる覚悟もできるがな……。
まあ、気をつけることだ、土星は死んだが、組織は生きている。
そして、スタンド使いを増やしている奴、コイツが不気味だ」

ソマは、もう此処を去る気でいた。
こんなカラフルな世界に自分の居場所があるハズがない……。

「ソマ、キミは本当に頼りになる!
驚いたよ、ありがとう」

「……ああ」

「だから、去ろうなんて思わずに、
僕たちに力を貸してくれないか?」

「……え?」

ソマはそれを口になどしなかったのに。

「しかし、私はキミたちとは住む世界が違う、
私はこんな芸術を作ることなど考えもつかない種類の…」

しかし、サトヨシは屈託のない笑顔で言うのだ。

「キミの立ち位置、感性、努力、
キミが介入した世界だからこそできた三人の世界観、
これはもう三人で作った作品さ。」

「残念デスガ、ソレガ事実デスネ」

ソマが部屋を見渡す。

白い空、白い海、そして白い犬。

白い部屋。

「キミにはこのカラフルな絵がまっ白く見える
かもしれない、でもこれは僕らが作った白夜だ。
キミの目にも、光って見えるロシアの空だよ」

私の能力は誰よりも多くのものが見える…。
私の能力は誰からでも光を奪う…。

しかし、なんだこの男の全てを見透かす心は……。
なんだ…私の暗闇を照らす光は!?

こんな世界があることを私は知らなかった!
こんな居場所があることを!!

彼らはこの少人数だけで、無尽蔵な悪意に立ち向かう。
希望はこんなにも小さい。

「……いや、、こちらから頼みたい、
私に、キミを助けさせてくれ」

もう、けして光を失ってたまるものか。

「何らかの目的の為にスタンド使いを増やしている人物」
その動向の一部を、矢の在り処をソマは掴んでいる。

日が完全に落ち、ヤミがあたりを染める頃
「ええ、そうです、バーレル様。
林檎さんは私と一緒にいますので、気になさらず…では」
電話をお借りし、バーレル殿に連絡を取る。
ジョーイ殿といえば、先ほど合流したD.M.Qさんと話をされているようだ。
恐らくは彼女が彼の“仲間だった”のだろう。
スタンド、その人知を超えた力を手に入れたとき、その力の大きさに心が負ける者がいる。
自身の力を過信し、世界を我が手にしようとするものもその一つだ。
それはどこにでもおきる。
なぜならスタンド使いというのは、群発的に現れる。
そう考えているからだ。
あるところでスタンド使いが暴れだすと、そのスタンド使いを倒すもの達が現れる。
そして、正常化するとまた違う地域でスタンド使い“達”が現れる。
なぜだかわからないが、その流れは確実に存在する。
この街も今、その流れに入っている。

「婆さん…、電話は終わったか?」
話が終わったのだろうか?
少し元気の無い(まぁ、しかたが無いのだろう)ジョーイ殿がこちらへ話を振る。
「はい、ありがとうございました。」
落とさないように、しっかりと電話を渡す。
ふと、視線を感じてそちらの方を向く、そこには何かがいた。
あれは…?

ド ド ド ド ド ド ・ ・ ・ ・
(…レクイエムタイプ?)
いや違う、違うが近い。
攻撃の意思は無いようだ、こちらを一瞥するとまた闇の中へと溶け込んでいった。
正直、今こられたら勝てる気がしない。
レクイエムタイプとはいえ勝てないわけではない(2度ほど撃退している)だが、今は無理だ。
状況が悪い。
「婆さん、レクイエムがどうした?」
「…なんでもありませんよ」
この街は危険だ。

「お婆様!!右ですわッ!!」
右?
「オ マ ア エ エ ノ カ オ ミ セ ロ オ オ オ オ オ オ オ・・・」
これは先ほどのッ!なぜ今ここに…!?
先ほどの疲れで、反応ができなかっ―――。





ふん、なるほど。
今のあいつは何かを探しているだけ、か。
離れた場所からケイが見ている。
だからこそ攻撃するかしないかだけを見ていた老婆には反応できなかったのだろう。
(反撃する意思はあるのだろう、先程のように)
来るべき“Armageddon”のその日まで神の尖兵を送り続ける。
神の尖兵として恥じない能力を与えて送る。
その使命が私にはある。
アレは私が後一撃加えるだけで全てが消滅する。
今は気にすべきではない。
ケイは歩き出す。
やるべきことが自分にはある。
それは神の為に動くこと。
私は死ねない、いや死なない。
私は神の愛により、常に生き残る。
カルネアデスの板。
それは神が――――。
片方だけでも生き残らせる為に、最後に残した愛の形。 

それは焦っていた。

――エネルギーが、足りない。

先ほどの戦闘で、消耗したせいか。
それとも、やはり時間切れなのか?

もう……私は、消えるしかない。


だが、最後まで…この魂は、私を突き動かすだろう。

私は、その場に居る全員の顔を、眺めようとする。

……スタンド使い。

エネルギーが、足りない。

スタンド使いは……。

エネルギーが…。

スタンド使いは、殺さねば。

------------------------------

殺すッ!殺す、殺すッ、殺(サツ)コォロォォスッ!
スタンド使いどもォォォォ…
テメエらを抹殺して抹殺して抹殺して抹殺してッ!
必ずや俺はッ!『真実』に到達してやるッッ!

ナガセ……とか、言ったか?
お前の無念、俺も『理解できる』ぜ。
だがな、もう時間切れなんだよ……。

うるせェッ!
テメーにこの俺の無念が、解るだと…!
解るってのか、テメーごときにッ!
俺の、この、真っ暗な……
独房の中の白骨のごとき『絶望』がッ!!
テメーごときにッッ!!!

まァ待てや、ナガセ。
ジャンケルビッチ。お前今…
『理解できる』と言ったのか?

ああ。
一歩間違えば、『俺はナガセだった』。
『俺達は、ナガセ達だった』んだ。

ンだと…?
一体どういう……
……………ッ!!

『理解できた』か?
ナガセ……カンベイも。

なるほど、な…。
よォ、ナガセ。
ここは……任せてみねえか。
お前の、無念をよ。

任せるッ!?
ふざけてンじゃあねぇぜッ!!
コイツに任せた所で、
どうせコイツも俺と同じッ!
消えちまう……
消えちまうんだッ!!
無念のまま、
消えちまう運命じゃあねえかあああああああッッ!!!

……違うぜ、ナガセ。
俺はよ。『見つけた』んだ。

!!

悪いな、カンベエ……
俺の願いが叶い、
ナガセの思いを受け継がせる事ができても…
おめえの願いだけは、消えちまうな、こりゃ。

クク、全く損な役回りだぜ。
ま、いいって事よ。
俺の願いは、あの時一度、叶ったんだからな。
ナガセ。これで良いか?

チッ……
どォせ他に手はねーだろーが。

安心しろよ、ナガセ。
アイツなら、必ずやってくれる。
だってアイツは、

------------------------------

――信じられない。偶然なのか……。
それとも、これが……『惹かれ合う』という物なのか。

間に合った。

私の虚ろな思考、
せめぎ合う三つの魂が、今、

一つの意志に任せられる。

「ジ……」

私は――彼になる。

彼は――俺になる。

俺は、ゆっくりと、『唯一、肉親と呼べる男』……
『最高の仲間』の、名前を呼ぶ。

「ジョー、イ……」

「何だテメーは…」

ジョーイの握り締める拳に、スタンドの幻像が重なり、
そして風が纏わりつく。

「動物もスタンドも俺のファンかもしれねえがなァ……
こっちは狼のスタンドなんぞに知り合いはいねーんだよッ!」

「相変わらず、だな、ジョーイ……
キメが半音下がるのも、相変わらずか?」

それは、ジョーイの初めてのライブの時。
緊張の為、認めたくないことではあるが…
ジョーイは、致命的なミスをした。
コアなファンでも、知っている者は少ないミスだ。
そして、それを何時までもからかい続ける男が…
一人だけ、居た。
メンバーの内の一人。
あの時、行方不明になった男。

「ジャンケル……ビッチ?」

ジョーイの言葉の響きから、何かを感じ取り…林檎が一歩、後ろに下がった。
林檎の静かな動きに目を細めながら、トメも一歩下がる。

「俺はもう行かなきゃならねーからよ、簡潔に言うぜ?」

「おい…なんだよお前その格好?
行くって…どこ行くっつーんだよ、テメエ…
やっと会えたんだぜ?
色々…いいか、この俺がだ、
この俺がわざわざ、言いたい事があるっつーんだぜ?
ナニてめーは、勝手な事をッ」

「俺はもう、行く時間なんだ」

静かな友の声。

ジョーイは、顔を歪ませ、
……やがて小さく首を振り、口を閉じた。

「すまねーな、ジョーイ。
そんでよ、お前に頼みがある。
俺達と……そして、もういっこ。
俺の中に居る、ナガセってヤツの敵を……討ってくれ」

「正直奇妙な話、だがよォォ、
俺はナガセなんだ。
ナガセは俺なんだ。

だからなんつーか、

俺の願いつーかよォ、
だから

頼む……ジョーイ」


薄れゆくその意識と肉体の中、ジャンゲルビッチは必死でそう語った。


背を向けたまま
ジョーイが静かに口を開いた。

「俺は風だ。
何者にも囚われず、何者にも縛られない、
すきに生きて
すきに吹いて来た。

そうやってきた。




でもよォォ、
テメーとつるんでる時、スゲー満たされてたんだ。
たまには『吹かない風』ッてものアリだと思えた。


……サヨナラは言わないゼ、ジャンゲルビッチ。」


「……ジョー…イ」


「フンッ!あくまで俺の『意思』でナガセをヤった野郎をヤるんだからな、俺は別に――」

どもるジョーイ。

「へッ、最後まで憎まれ口たたきやがって……、
そろそろ時間…みてェ、だ…

ジョー…イ…

プレ…ゼントをくれて、やる。
『あのハウス』の親父ンとこ…いきな…。

うま…く…
使え…よ。


それ……じゃァ、な。」

「!?
おいッ!!

ジャンゲル……」


ジョーイがそう叫ぼうとした時、


「ォォォォンン……」
ネオ・ユニバースのボディがサラサラと崩れ落ちていった。

混ざりあっていた3人の魂はほどかれ、

天へと吸い込まれるようしてに消えていった。

「……。」

ジョーイは何も、
言わなかった。

あたりを穏やかで温かい風が包みこむ。

林檎と老婆はそれを肌で感じ、ジョーイの気持ちを悟った。

「いきましょうか、林檎……」

「はい……お祖母さま。」


2人は静かに、見守るように去っていった。



―――後日、ジョーイは例のライブハウスへ向った。
はじめてジョーイ達がステージに立ったそのライブハウスへ。

ギィ……
ゆっくり扉を開く。

「アンタかい、預かりもんがある。来な。」
現われたオヤジに奥へと案内される。


「コイツだ……。」


でてきたのはハードケースに納められた、
ギターだった。

『ギブソン・レスポール』

裏には
『ジョーイへ』と書かれていた。



ケースからソイツを出し、構える。

ジョーイは何も言わず、ただ ただ
ギターを掻き鳴らした。

あたりに哀しくも美しい音が響き渡る。



涙を流しながら、
指から血を流しながら、

それでもジョーイはただ ただ
ギターを 掻き鳴らした。

今まで私の友人は、足元で私に身を預けている
白い犬、マニエルだけだった。

だから携帯電話など一度も持ったことはないが、
いま手元には誰一人として番号を知らない、
真新しい携帯電話がある。

しかし仲間ができた以上……。
フフっ、何をニヤケているんだ私は。

用件が済んだらサトヨシに番号を教えよう。
連絡は取れた方がいい。

そして思惑通り着信音が響く、
誰も番号を知らないハズの携帯が鳴っている。

「はい、どちら様かな?」

『しらばっくれないで……見ているでしょう』

「ああ、見ているよ」

キミからの電話を待っていたんだ。

『いい趣味ね』

電話の相手はコウ、
携帯を端末に直接声を送ってきた。

この女を初めて見たのは、
タチバナの監視をしていて、
彼に近づいてきた時。

その時の彼女はまだ
スタンドの意味すら知らなかった。

それがどういうことか?

『アナタ、自分が優位なつもり?馬鹿らしい、
私にも分かるのよ、アナタの所在や、能力くらいは』

「まったくすぐれた能力だ、感嘆の意を禁じえない。
しかし、サトヨシたちは自力で真相への扉を叩き初めている、
だのに、その力を持つキミがいながら、何故シバミたちは
何一つ成果を挙げることができないでいるのかな?」

そう、この女はすぐに目当ての
暴走族壊滅事故の犯人に行き当たった。

例の「矢を使ってスタンド使いを増やしている人物」にだ。

そして、何があったか知らないが、
彼女は彼に従うようになった。

「単刀直入に言おう、
キミに駅ビルでの戦いを監視させて、
矢を預けた人物。
ケイとはいったい何者なのだ?
そして、何が目的なのかな?」

コウは黙る。

「おっ?」

『……何?』

「いや、以前にもキミと
電話で話したことがあるような
そんな錯覚を覚えただけだ、
デジャヴというヤツだな」

携帯電話など持ったこともなければ、
初めて会話を交わす相手だというのに。
不思議なものだ。

『アナタは私を監視しているがいい、
その代り、アタシもアナタを監視している。
忠告しておくわ、
少しでも私たちの邪魔をするような素振りをしてみなさい。
アナタは相応の犠牲を払うことになるわ』

「それは恐ろしいね」

突然携帯が爆発する。

「くっ!?……やれやれ、新品だったのに」

さて、警戒すべき相手を牽制してやったことだし、
ジョーイとか言う男も目標をナガセの仇、
つまりケイに切り替えた様子だ。

全ては一つに収束しつつある。

あとはタチバナのパーツだが……、
確かジョーイと一緒にいた女。

『お婆様、その大きな荷物は何ですの?
見せてくださいまし』

『コレ、やめておいた方が身の為ですよ』

少女が老婆から取り上げた荷物は、タチバナの下半身だ。

『きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『……今後の為にこれは持ち主に
返しに行かなければいけないね』

どういう訳か老婆は
事情を知っていて、協力的なようだ。
ありがたい。

さて、
コウはしばらく自分に釘付けておけることだろう。
隙を作ってうまく敵の内情を知れるといいが…。

先日まで世界を滅ぼすくらいの心持でいたのにな。

「なあマニエル、世界はまだ
私を見放してはいなかったのだな……」

マニエルはクゥンと返事をした。

「私が趣味で絵なんて描き始めたら、笑うかい?
この戦いを私の手で一刻も早く終わらせて、
サトヨシに習ってみようかと思うんだが」

こんなに清々しい気持ちは初めてだ、
生まれ変わった私を悩ますことと言えば、

「誰かに殺される夢を繰り返し見る」

ということくらいか、
それは、たかだか夢の話。
戦いを前に緊張でもしているのだろう。

そう、たかが夢の話だ。



第9話「絶望に挿した光」

To be continued...

最終更新:2007年06月30日 18:45