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【17:15】

バーレルがケイと「契約」を交わし終えたそのころ……


「いい?……帰ったらあのホモに伝えてくれる?『残念ながら最近はコウのおかげでお酒は買えてないし、飲めてませんッ!!
あんたはやく体直してなッ、ばぁ~かッ!』て」

シバミが強張った笑顔にアオスジをたてサトヨシに語りかける。


「はは……はいぃ。」
ひきつりながらもサトヨシは、答える。



「あ~~~ッ、もうッ!!ムカつくゥ~~~あの変態~!!!」

地団駄を踏むシバミにザキが答える。

「おいおい、こんな事やってる場合じゃないてッ。はやくシルビアとコウを追わなきゃ……」

それにヒデエモンも続く。

「そうですぜ姉御!急ぎやしょうッ!」


「ああ~~もぅ!わかってるってぇ~~!!それじゃ私達、用があるからいそぐねッ!
『アイツ』以外の人によろしくッ!
それじゃ!……」


ザッ!

シバミ達一行は足早にさっていった。



……ィィィィンン


「フン。ご苦労……脆弱で愚かな『僕』。
さぁ出番だ、『俺』……だが、

なんという屈辱!

今は耐えよう。
この屈辱にも、今は耐えるしかない。」


ギッ

もうひとりの「サトヨシ」は唇を強く噛んだ。

そしてゆっくりと歩み始める。

「なら、
別の方向からアプローチする事にしよう。
誰も真実には、
決して到達しない。
そう、
これは『必然』なんだ、ククク……」


静まり返ったあたりに、深淵のごとき邪悪な笑い声が谺する……。

【17:16】

真っ青な空が、沈みゆく夕陽によって茜色に染まっていく。
自然が産み出す、美しき世界。

そんな世界をぶち壊す、調子っ外れな口笛が、病院の屋上に響いた。
「ヘタクソ・・・いや、『ド』ヘタクソだな。」
長身で、美しい顔立ちの人物が眉間に皺を寄せて呟く。
「えー?酷いなぁ、ハイネちゃんってば。ボク、けっこう口笛には自信あったんだけどなぁ~♪」
口笛を吹いていたポニーテールの少女は首を傾げ、再び口笛を吹き始める。

「えぇい、その耳障りな口笛をやめろッ!私といる時は禁止だッ!!解ったな、茜!」耐えきれず、ハイネと呼ばれた人物は少女を怒鳴りつける。
「え~?口笛禁止だなんて・・・ボクにサクランボ食べるなって言ってるのと同じだよ~?」唇を尖らせて、茜と呼ばれた少女が文句をたれる。

「とにかく禁止だ!・・・しかし茜、サクランボ好きなのか?」溜め息をつきつつ、ハイネが尋ねる。
「ほぇ?ボク、別にサクランボ好きじゃあないよ~?」きょとん、として茜が言う。

「好きじゃないのかよ!なんでそんなややこしい例え方をするんだッ!!」思わずツッコむハイネ。
能力の関係上、茜とペアを組んで『任務』に就く機会が多いが、いつまで経っても茜の独特なペースに慣れることが出来ない。
そしていつも割りを食うのは自分なのだ。
ハイネは、そのうち異に穴が空くんじゃあないか?と思っている。

「ハァ・・・まぁ、その件についてはひとまず置いておこう。それよりも・・・」ハイネの切長の眼が鋭く光る。
「例の『裏切り者』二人に、シバミとか言う酔っ払いとそのお供達。巧い具合に、邪魔者が居なくなってくれたな・・・好都合だよ。」クックッ、と笑うハイネ。
「ハイネちゃん、なんか悪者っぽーい?」怪訝そうな眼差しをハイネに向ける茜。
「悪かったな!どうせ私は悪者だよ!そんなことより、今が『絶好のチャンス』なんだ・・・解ってるな?茜。」こくん、と茜が頷く。 

「もしも奴らが引き返してきたとしても・・・モリーから連絡は受けていた、既に手は打ってある。」ニヤリ、と美しい形をした唇を歪ませる。
「あの程度の奴らなら、ヤツ一人で充分だろ・・・しかし」今度はハイネが首を傾げる。
「ヤツの名前、なんだったかな?」真面目な顔で、茜に尋ねるハイネ。
「やだなぁ~、ハイネちゃん。『松葉』くんでしょ。手からビームが出るの!」クスクスと笑いながら、茜は応えた。

「いや、アレはビームなのか・・・?まぁ、それはいい。そろそろ『任務』に取り掛かるぞ。」再び、鋭い目付きに変わるハイネ。
「はぁ~い、ボク、頑張りまぁ~す☆」元気一杯、手を挙げて微笑む茜。

(・・・絶対、今回の『任務』が終わったらパートナーを替えてもらおう。)
そう、心の中で誓うハイネだった。


真っ青だった空が、茜色に染められていく。
しかし、その色は何処か『歪んでいるように』観えた。


【本体:ハイネ・ヴェリオールド/スタンド名:ソリッド・カラーズ】

【本体:藤宮 茜/スタンド名:レ・ミオ・ロメン】 

【17:20】

(さてと、掃除屋も帰ったことだ。
 こちらも『ゴミ』を片付けなくては。
 少し前までは十分に役に立つ『道具』だったがね)

 ケイは電話を取ると、ダイヤルを回した。
 しばらくして相手に繋がる。
 相手はさっきまで走っていたらしく、息が上がっている。

「コウ、随分と上手いことやっているようだな」
『もちろんよ。タチバナの頭部の所持者も判明したわ』
「それはうれしい情報だな。後でその所持者について教えてくれ。
 ところで……そこに……なぜチャーがいるんだ?
 頭の所持者なんかよりもそのことについて先に教えてくれ……」
『何を言ってるの? 私が裏切り者なんかと……』
「おやおやおやおや、嘘はいけないなァ……
 神は嘘がお嫌いなんだ……
 もちろん私も……嘘を吐くヤツは大ッ嫌いなんだよッ!」
『ッ!?』

 沈黙が流れる。
 受話器から聞こえてくるのはコウの息遣いくらいのものだ。

「貴様は『何故ばれた?』と思ってるんだろうが……
 簡単なことさ。最初ッから分かっていたんだよ。
 分かっていた上で利用していたんだよ、このマヌケめッ!
 神に愛される私がッ! 貴様ごときの謀略も暴けないと思っていたのか?」
『思っていたよりも頭が回るみたいね。見直したわ。
 でも、私達は処分されないわよ』
「それはどうかな?
 せいぜい足掻くと良い。
 さすれば我らの強さを……
 神の偉大さを知ることができるだろう。
 君達の最期のために言葉を贈ろう。
 " earth to earth;ashes to ashes, dust to dust "
 現代のアダムとイブよ。
 あるべき姿に帰れッ!」

 ケイは受話器を戻すとゆっくりと立ち上がった。

(さてと……
 我らは強力な駒と手を組むことができた……
 反吐の出そうな邪魔者も確実に取り除いている。
 サトヨシ……貴様はどう出る?)

――――――

「どうやらばれていたらしいな……して、これからどうする?」
「そうね……仲間と合流したいけど……
 どうやら簡単にはいかないみたいよ?」
「なるほど。
 一難去ってまた一難……というヤツか」

「おっと……そいつはヒデェなァ……
 俺がたったの『一難』だってェ?
 せめて『二難』って評価ぐらい頂きてェよなァ。
 正直、かわいがってた自分の仲間を始末するなんて厄介で冷めてたんだがよォ……
 今のを聞いてメチャクチャ燃えてきたぜェ」

【本体:松葉/スタンド名:ウルトラソウル】 


【17:23】

燃えている敵に対して、二人はあくまで冷めていた。

「…あんまり私も気が向かないわね。
いくら『雑魚』とはいえ、時間を無駄に使うのは。
あなたもそう思わない?チャー」

「同感だ。所詮一難は一難でしかない」

その言葉を聞いて、さらに松葉は激昂する。

「誰が雑魚だってェ……!所詮一難だとォ…!!」

「ろくに『教団』の実情も知らない下っ端でしょう?
それに、私達は貴方の能力をある程度は知っている。
こっちは二人だし、負けない要素はまるで無いわね…。
それに、多分ケイは貴方を捨て駒として扱ってるわよ。
あの、八手と炬燵みたいにね?」

ひどく皮肉めいた微笑をこめて、コウは言う。
流石の松葉も……特に八手と炬燵に反応した。


こんな言い方をすれば、大概の奴は動揺するだろうに……
チャーはさり気なく、松葉に同情しながら言葉の続きを言った。

「同感だ。あの男(ケイ)のことだ、無策にお前を寄越したわけではないだろうが…正直、我輩らを始末しようなど百年早い」


コウもチャーも、決して松葉を侮っているわけではない。
しかしコウの言うとおり、松葉ではこの二人の相手は荷が重いのだ。

「具体的な勝利方法を挙げたら…そうね、ざっと四十七通り程。
私のWWWがあれば、回避計算で貴方の暴走レーザーは当たらないし。
それに、直接攻撃手段は私と相性抜群なチャーのL・Aがある。
それに…貴方が隠しているとっておきの能力があるように、
私にも秘密のとっておきがあるのよ?

不確定要素を含んだとしても、万一貴方が勝てる可能性は……ゼロね」

わざとらしく、誇張するような言い方で。
決して勝つことはないと、そう明示するコウ。


松葉も馬鹿ではない。
コウの言うことが、全て真実とは限らないとは重々承知だ。

(しかしっ!よくよく考えてみれば、俺の能力でコイツらを両方始末し切れるかっ!?
暴走による同士討ち、その隙を狙って『蒼い弾丸』を撃ち込む――
その戦法が、果たしてこの二人に通用するのかどうかっ…!?)

目の前の女に戦慄する。

熱く昂ぶった感情と冷静な思考が鬩ぎ合う。


緊迫した空気が、張り詰める。
コウと、チャーは悠然と。
相対する松葉は、途轍もないプレッシャーをかけられて。

――暫しの沈黙が、辺りを包む。 

「…ということで、提案があるのだけど?」

沈黙を破るかのように、どこかおどけた調子で。

「松葉…貴方、教団を『裏切る』つもりはない?」

コウは、突然の、意外すぎる提案を持ち出した。





「…………ハ?」


あまりにも突拍子な提案に、松葉は最初ワケが分からなくなった。
教団を、『裏切る』だって?


「聞こえなかったかしら?もう一度言うわね。
私達と同じように、教団を『裏切る』つもりはないかしら?」


段々ワケが分からなくなっていく。
この女は何を言っている?!
俺が、『教団』を『裏切るだって』?


「コウ。まがりにもコイツは裏切り者を始末を任された人間だぞ。信用はできない」

チャーが反論する。それも当然だろう。
何処の世界に、自らの命を狙う輩を引き入れる大馬鹿者がいるというのだ?
裏切り者を抹殺する者を、同じ裏切り者の仲間になれと?
そんな冗談のような提案、奇を通り越してありえない。


「信用に値するかどうかなんて、この際どうでもいいのよ。
あ、さっき『雑魚』扱いしたのは忘れてくれる? 嘘だったから。
私は決して貴方のことを過小評価しているわけじゃない」

というより、本当の雑魚だったらさっさと一蹴してるしね。
内心でコウは呟く。
松葉だってスタンド使いである以上、仲間であれば役に立つ。


「それに、私は平和主義なの。その方が楽に、効率的に済むでしょ?
私達は困らないし、貴方も無駄死にしなくて済むし。
厄介なことにもならないし。何より戦力増強は必要だからね…。
(本当は茜とハイネにも裏切ってほしいとこなんだけど)

…世界の崩壊を防ぐためにも、ね」


ある意味、この場はコウの独壇場だ。
ケイですら、この展開を予想しえたであろうか?

チャーは改めて思う。
この女が、敵でなくて本当に良かったと…。



余裕釈然にコウは、問う。

「それじゃあ、返答は如何なものかしら?

教団を裏切って、私達と一緒に抜けるか。

それとも…ここで肉体的にも精神的に社会的にも『再起不能』になるか。

『選びなさい、松葉』」


コウがあらためて、笑う。

『聖人のような邪悪な微笑(アルカイックスマイル)』を貌に浮かべて。

「ハイハ~イ。じゃあ僕裏切りま~す」

間の抜けた声と共に1人の少女が姿を現した。

「それとも僕にはお声がかかってないのかな?」

人差し指を口に当て、首をかしげる。
突然の出来事に一同はただ呆然として少女を見つめていた。

・・・な・・・なんだ?
あれは・・・茜・・・?

ハイネはその時ようやく隣に茜が居ないことに気づいた。

「ちょっと待った!
は?あんた今なんて言った?今・・・」

頭脳明晰。そう言われるハイネでも茜の常識を逸した行動に
頭がついていけていなかった。

「裏切るって言ったんだけど・・・だめかな、コウ?」

ハイネだけじゃない。
その場の誰もが茜の意味不明な行動についていけていない。
みんな時が止まったかのように硬直していた。

「え・・・」

さすがのコウも思考がついていけていない。

「ちょっと待った!なんで!!?」

「え?だっておもしろそうじゃん。2時間ドラマみたいでさ。
題名はきっと『裏切りの使徒』だね!かっくい~☆」

茜はへら~と脳天気な笑みを浮かべる。

「・・・ばんなそかな」 

「……ばんなそかな」

思わず口走ってしまったその言葉。
隠せない動揺。
コウは必死に思考を巡らせる。


「(何ッ!?読めない、この子の行動、思考、全く読めない!)」

裏切るとみせかけた二重スパイかもしれない。いや、
もしかしたら、本気で言ってるのかもしれない。

(落ち着け私、クールに考えなきゃ…)


「あなた……本気なの??私としては協力者が増えるのありがたい事、でも……茜、まだあなたを信用できないわ。
だから、あなたの……

覚 悟 を み せ て く れ る か し ら ?」

真実?、嘘?、様々な思惑の中でコウがだした答え。

チャーが口を開いた。
「コウ……、お前本気なのか??松葉に続き茜まで……リスクが高過ぎるッ!!」


「確かに、リスクが高いのはわかってるッ!
でも、

それだけの価値があると私は思ってるわ。」

「なら、我輩は専心。黙して見守るのみ……だ。」




――ハイネも動揺を隠せなかった。

「このドアホ何考えてんだッ!?正気かッ?それにあのアマも!
イカれてやがる!

考えなければ!
この場を切り抜ける、最良の選択をッ!」


ハイネの顔が強張る。

そんな中、
天衣無縫。
笑顔で茜が言う。

「~ッてコウが言ってるけどぉ、ハイネどぅする~??
僕といっしょに行こうよぉ~~」


「何ィィィィ!?
このダボはッ!
何をぬかしてやがる!

……ダメだ。
アツくなるな。
落ち着け、落ち着くんだ。
揺るぎない精神でッ!
最良の選択をッ!」


酷く重い空気、

時の経過は驚くほど
早い。


【18:20】


静かに動き始めた。 

(どうするッ、どうすれば・・・!?)
思考を巡らせながら、ハイネは『ある事』に気付いた。
(茜のヤツ・・・そうか、なるほどな。そういうことか・・・やれやれ、楽しませてくれるな!)
ハイネの視線は、茜の『手』に向けられていた。

茜がいつも肌身離さず身に付けている『手袋』が、今は外されている。
これは、茜の『合図』だった。
(今、ここでこの状況、そしてこの面子・・・)ハイネはニヤリと笑みを浮かべる。
(全く、お前ってヤツは・・・やたらと厄介で何を考えてるか解らないし、私を困らせるが、『退屈』はさせないでくれる・・・そしてこれが『最良の選択』だッ!!)ハイネは高らかに叫ぶ。

「『ソリッド・カラーズ』ッ!!」
女性型のスタンドが、ハイネの傍らに現れる。
そしてハイネは茜に向かって、ソリッド・カラーズの『銀色の右の拳』を叩きつけようとする!!

「ぬうッ!?」
「なッ!?」突然の事態に、コウとチャーは一瞬、ほんの一瞬だが反応が遅れる。

ガシィッ!!
間一髪、茜の『レ・ミオ・ロメン』が『ソリッド・カラーズ』の拳を受け止める。
「酷いよ、ハイネちゃん・・・ボク達、コンビでしょ?」悲しそうな声で茜が呟く。
「フン・・・コンビ、だと?たった今、お前は裏切ったじゃあないか・・・茜ェェェッ!!」ハイネは再び、ソリッド・カラーズの『黒い左の拳』を茜に浴びせようとする。

「させるかよ!『ウルトラソウル』ッ!!」
ドヒュ、ドヒュッ!!
松葉のスタンド『ウルトラソウル』の拳から、細いレーザーが『二発』発射された。
同時に、チャーもスタンドを発現し駆け寄ってくる。

(待っていたぞ、この瞬間ッ!!)ハイネは『右の拳』でレーザーを受ける!!


キュイン、キュインッ!
信じられないことに、レーザーは『右の拳』に反射され・・・

ズドォッ!!
そして、チャーのスタンド『L・A』と、コウの右肩に直撃したのだった。

「まっ・・・まさかッ!!」焼けついた右肩を押さえ、地面に転がるコウ。
「どうした?予想外か?・・・『WWW』でも予測できなかったようだな。」転がるコウを見下ろしながら、ハイネはクックッ、と笑みをこぼす。

「さっき『覚悟』をみせろ、って言ったよね?」茜が朗らかに言う。
「『覚悟』なら、出来てるよ・・・『裏切り者を始末する』っていう『覚悟』が、ね♪」エヘッ☆と茜が微笑んだ。 

「くっ・・・やはり、さっきのはブラフだったわけね・・・!」痛みを堪え、立ち上がろうとするコウ。
しかし、身体が思うように動かない。

「あァ、今は立てねェだろうなァ。なんたって、俺の『ウルトラソウル』を食らったんだからな・・・本体に。」肩をすくめて、おどけたように言う松葉。

「なッ・・・じゃあ、これも計算・・・!?」愕然とした表情を浮かべるコウ。

「まぁ、そういうことさ。・・・正直、茜の『合図』がなけりゃマジで裏切ろうかな?って思ったけどな。」茜の肩を叩く松葉。
「そうか・・・お前は以前、茜と組んでたんだったな・・・『合図』を知っていて当然か。」ハイネは納得して頷く。
「まぁ・・・もしも『合図』がなくても失敗する可能性は皆無だったがね。」うんうん、と茜がニコニコしながら頷く。

「松葉がレーザーを放つのは予想できたしな・・・それを見越してS・Cの右拳を銀色に変え、茜のスタンドで『鏡』に変えさせ、レーザーを反射した・・・ところで松葉。」ハイネは蹲っている巨躯の漢に視線を向ける。
「お前のレーザーがスタンドに命中すると、『暴走』するんだったよな・・・?」視線を蹲るチャーに向けたまま、ハイネは松葉に尋ねる。
「おうよ、どんな例外もなく『暴走』するぜ・・・だから、隠れるとするか。」ハイネをチラッと見る。

スッ・・・
蹲っていたチャーが立ち上がる。
「チャー・・・しっかりしてッ!!」悲鳴のようなコウの叫びも、今は届かない。
ゆっくりと、動けないコウに近寄るチャー。
『L・A』が、おもむろに拳を振り上げ・・・そして、コウに向けて振り降ろした。


【18:21】


『お客様がおかけになった番号は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため・・・』
プチッ、と通話を切るシバミ。
「どうでした?姐さんには繋がりましたかい?」心配そうなヒデエモンが訊く。
黙って首を振るシバミ。

「嫌な予感がする・・・コウ、何処にいるのよッ!!」シバミはギュッ、と携帯を握り締めた。


【18:25】 


(ハッ!? 我輩は一体……
 空はまだ暗くなっていない、時間はそんなに経っていないはず……
 そうだッ! コウは一体……)

 目の前にはL・Aの『連打』を受け弱っているコウの姿があった。

「まッ! まさか、我輩がッ!?」
「そうだよ~♪ おじさんのスタンドがやったんだよっ☆
 ホントにすごかったんだから☆ ホントにもうボッコボコ☆」
 少女は今までとは違った笑みを浮かべて楽しそうにこちらを見ている。

「貴様……これ以上我輩を侮辱してみろッ! ただでは済まさッ……」

 松葉のスタンド、ウルトラソウルの拳がめり込み、吹き飛ばされるチャー。
 ウルトラソウルは容赦なくチャーに襲い掛かる。
 チャーはL・Aのパワーで大地を隆起させ、鉄に変化させることで盾を作るが、一瞬にしてその堅牢な盾は液体となって崩れていった。

「まだ分かってないのかなぁ?
 おじさんもしかして頭悪いの?
 ボクのスタンド、レ・ミオ・ロメンは『触れた物を別の物に変化させる能力』
 もっとも、ボクがその色からイメージできるものだけどね。
 今のはおじさんのスタンドが作った鉄を水銀に変えたんだ。
 すごいでしょ?」

(未熟……結局……我輩には……誰も守れぬというのか……)

「そろそろ終わらせてもらうね☆
 早く帰ってケイちゃんにナデナデしてもらうんだ♪
 おじさんの周りの地面、夕日で真っ赤に染まってるけど……
 それを炎にすれば死ぬよね?」 

【18:25】

絶体絶命。
状況は、そんなところだ。

痛い。痛い。痛い。
私のカラダは既にボロボロ。
戦える状況じゃあ、ない。
折角の『奥の手』も携帯電話を壊されたら、意味がない。

チャーでは、あの三人は打倒出来ない。
如何なるスタンドを暴走させることが出来る、松葉。
類稀なる智略と策略で、相手を翻弄する、ハイネ。
そして、教団一『厄介』な相手かもしれない、茜。
奴らは、個々の能力は大したことがなくても。
連携によって、その真価を発揮するタイプのスタンド使い……。

『チャー、は…く、逃げなさ…』
食道から血が逆流する。上手く言葉を話すことすら出来ない。
そもそも、目の前すら上手く見えない。

「最早、これまでか……」

「そういうことだねっ!じゃあね☆バイバイッ♪」

日光が、炎に変えられる。
そうなれば、間違いなく死ぬだろう。

(死にたくない)
守れないまま、死んでいきたくはない。

未練の情を残しながら、私は深い闇の深淵に意識を沈めた。


【18:26】

奇跡というのは、時として起こるものだという。
しかし、それは間違いだ。
……いつだって奇跡を起こすのは人間であり。
起こる可能性の低い現象(行為)を、人は何でも定義したがる。

だから、その奇跡も人間が引き起こしたことなのだろう。
夕焼けに染まる茜空が、突然早々に曇ってしまい……
……一人の男が、その場に現れた。そんな奇跡を起こしたのは、人間だったのだろう。

「……そこまでだ、君達」

赤一色のフォーマルスーツを纏う、男はそう言った。

「その二人にトドメを刺そうというのなら…私は君達を止めなければならないッ!」

この上ない静謐と血の赤のような色を纏わせて。
その男は、まるで『全ての事情を知っているかのように』、颯爽と登場した。

男の名は、赤倉男平。
スピードワゴン財団、スタンド関連全般の問題解決人(トラブルシューター)!!


【18:27】


鈍色のどんよりとした空は、まるで以前からそうであったかのように広がっていた。
今にも雨が降ってきそうな、そんな『天気』だ。

(……お天気、くもっちゃった)
(……それに変な真っ赤っ赤オジサンが出てきやがったしな)
(……どうする?俺はぶっ殺せば良いと思うけどよお)

突然の来訪者は、一心に三人を見据えている。
逆も然り。三人は、『赤い男』から目を離さなかった。

【18:28】


【18:28】

「……アンタ、誰だ?」
不愉快気にハイネが尋ねる。

「赤倉男平という。SPW財団の者だ」

ハイネとチャーがその言葉に反応する。

「すぴ~どわごん財団?ハイネちゃん知ってるの?」
「SPW財団?ハイネ、どっかの会社?」

学不足な二人が、年長者のハイネに聞く。

「説明するのはメンドイから後でググれ。
…それで、SPW財団の人間が、どうしてこの騒動に参戦してやがる?
アンタ達は、基本的に世界危機に値する事態でない場合、
傍観に徹するのが暗黙のルールじゃなかったのか」

こういう事情に、ハイネは何故か詳しい。
『教団』に関る前は、世界中を放浪していたからだろう。
その知識の量は、ある意味『教団』でも役に立っている。

「今の私は、財団のエージェントではなく、一個人として事件に関っている。
この件に関しては、『ある人物』に頼まれた。
……君もよく知ってる人だ。ハイネ・ヴェリオールド。彼女から『伝言』も預かっている」

その言葉に、三人が三人とも驚愕する。
伝言? しかもハイネに!?

「『伝言』?誰から?」

「伝言を伝えれば分かるとだけ言っていた」

何故か、少し落ち込んだような表情をした赤倉は、懐からメモパッドを取り出す。
暫し待て、と言ってパラパラとページを捲る。伝言のページを探しているようだった。

「こんな伝言なんて聞かなくても、さっさとやっちまおうぜぇ、ハイネ」
(全く隙がないな、あの真っ赤っ赤オジサン。
裏切り者だけ始末して、あいつは放っておいていいんじゃねえか?)

「ハイネちゃん、誰からの伝言か予想がついてるの?」
(そうだよっ裏切者の始末が先だよう、ハイネちゃん。
それに余裕があったら、あのオジサンも始末した方が良いと思うな☆)

「まあ、聞くだけ聞いといてやるよ…その後アンタをどうするかは未定だけどな」
(まあ、何か情報を持っているかもしれない。それだけ確認して、全員始末する)

上っ面の会話と、アイコンタクトで意思の疎通を図る三人。

とりあえず、この場は膠着状態にしておく。
赤いヤツのスタンド能力は不明。
しかし、半死半生のコウがいる。三対二。
しかもアイツらはコウを守らなくちゃならない。
チャーのスタンドは、茜のスタンドで封殺出来る。
負ける要素は、一切無い。


【18:29】


赤倉が伝言のページを見つけたのか、ゴホンと咳払いをした。

「言うぞ…
『残念だけど、アナタに好き勝手されるのは私が『嫌』だから、
とりあえず、アナタとその仲間たち全てに敵対するわ。
別の都合もあって、今は直接私が行くことはないだろうけど、
私に殺される前に誰かに殺されないようにね? お姉さま(おにいさま)』」

傍目から見ても分かるくらいに、機嫌が悪くなるハイネ。
肌がチリチリと焼かれる感覚がする。

それがハイネの殺気と気付くまで、松葉とチャーは数瞬の時間を要した。
(ちなみに茜は気付くわけがない。彼女は策戦は読んでも、空気は読まない)

「……それだけか」

「『追伸・いくら万年退屈症だからって、悪党の家畜に成り下がるなんて、
私にはとてもじゃないけど出来ないわ。それじゃあまたね……この『雌豚』』
…以上だ」

この『雌豚』
この『雌豚』
この『雌豚』
コノ『メスブタ』

反響する罵倒。
リフレインする暴言。


   そのコトバの齎す、精神的屈辱を受けて――――。


「一つ教えておいてやる。
私は半陰陽だ。男でもなく女でもなく、その両方でもある。
オカマだとか男女だとかイロイロ言われたがぁ、別に今は気にしちゃいない。
だがなァ…『女』には言われたら相手を殺してもいい言葉がある!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ! !

「本当に殺すべきなのは『アイツ』だが、まあ、何だ?
……腹癒せに死に曝せやこの真っ赤っ赤モンキーがぁァァァ!!!」


   ハイネがキレた。



【18:30】(シバミチーム到着まで、あと10分) 


「あははハイネがキレてる~☆
あんまり怒ると焼き豚になっちゃうよ?」

茜はまったくをもって空気を読むことが出来てない。
松葉は今にも茜に飛び掛らんとしてるハイネを止めようとおどおどしている。
ハイネの拳は握った状態のままワナワナと震えていた。

〈まずはレバーに一発それから首筋に蹴りをそっからマウントをとって・・・〉

「うはぁハイネちゃんの熱い視線を感じるよ~♪」

「・・・頼むから黙ってくれ」

「はいは~い了解しました☆」

へらへらしながら敬礼のポーズをとる。

ゴホンッ

わざとらしい咳払いが聞こえる。
あほらしい会話に業を煮やしたようだ。

「おい、そこのクソジジィ、今雌豚っつったよなぁ
ゆるさねぇから覚悟しとけ」

「既に言ったと思うがこれは伝言だ。
私が言ったわけではない。」

ハイネの顔は真っ赤になっていた。
今にも湯気が出そうだ。
焼き豚と言う比喩もあながち間違ってはないかもしれない。

「託したのはあのクソアマかもしれねぇが言ったのはお前だろう。
あんたにも罪があるぜ。」

ソリッド・カラーズッッッ!!!!

ハイネの声が辺りに響く。
その鮮やかな色彩をしたスタンドは発現したと同時に弾けた。
一つ一つが小さな粒のようになって空間に固定されている。

「おまえら手ぇ出すなよ?
楽しませてくれよ!私を!!!!」

ハイネがそう叫んだと同時にその粒たちは1箇所に集束する。

闇・・・そのスタンドを形容するならその言葉が最も適当だろう。
いつの間にか陽は沈み、辺りには闇が広がっていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


闇。
闇があたり覆う。

視覚を封じられしその世界。


「ちょ、ハイネちゃ~~ん。やりすぎだようぅ~~」
闇の中からでも、間の抜けた声が聞こえる。

「五月蠅いッ!!すぐに片付けるから我慢しろッ!!」
ハイネの怒声が響き渡る。

「はぁぁ~~い…」


「そろそろいいかな……?」
男平が口を開く。

「うるせェェェ!!この赤モンキーがァァァァ!!ブッ殺ォォォォォォすッ!!!」


バキィッ!!
S・Cの拳が男平の顔に炸裂する。
さらに2発!3発!4発!5発……!!

ボコボコにされても男平は眉一つ動かさなかった。

恐るべし忍耐力。

15発目が打ち込まれようとした時、

ガシィッ!!

S・Cの腕を掴む男平のスタンド、
S・R・D・B!
(スーパー・レッド・ダンディ・ブルース)

「……おい若造。あんまり舐めてんじゃあねえぞ。」


ミシッ!
万力のような力でS・Cの腕を締付ける。
当然本体のハイネにも同じ痛みが伝わる。

「ギャァァァァッ!!」

その腕を握ったまま、SRDBの拳撃がめり込む。
間髪入れずに、頬、顎、ミゾオチ、に3発。
片腕だけでも十分すぎるその威力。

……グボォッ。

闇の中、ハイネが吐瀉物を撒き散らかす。
その秀麗な顔は怒りと苦しみに歪んだ。


「さぁ、立ちな。まだまだ、だぜ……。
根性みせてみやがれッ!!」

叫ぶとともに
拳を前にし、構える男平。


「グウゥゥゥ!!殺ォォす!!殺すッ!!臓物ぶちまけてやるッ!!最高の恐怖と苦しみィをを~~、与えてやるゥゥゥゥ!!」
口元を拭い、狂ったかのように口走るハイネ。




時刻は【18:35】

(シバミ一行到着まで、あと5分……。) 

『どくん』ッ。
赤倉を襲う奇妙な感覚。
(なんだ・・・この感じは・・・?)
どろり、と身体だけではなく、心すら包み込む様な感覚。
違和感を覚えた赤倉は、自分の拳を視た。

(こっ、これは・・・ッ!)赤倉の拳は、周囲を包む闇と同じ『色』に染まっていた。
同様に、S・R・D・Bの拳も。

「これは・・・君の能力か?いつの間に・・・」S・R・D・Bは、類稀な『抵抗力』を持っている。
それには、スタンド攻撃に対する鋭敏な反応も含んでいる。
しかし、先程の連打に反応はなかった。
だが・・・


じわり、じわり。
「ぐうッ!?」拳に激痛が走る。
それと共に、蛋白質が溶解する臭いが周囲に漂い始める。
「溶けている・・・?」赤倉は、拳が溶けだし、更に闇が腕にまで拡がっていくのに気付いた。

「『ソリッド・カラーズ:マイ・フーリッシュ・ハート(愚かなり我が心)』・・・」狂ったような笑みを浮かべ、ハイネが呟く。
「あのクソアマのおかげ・・・ってことになるなァ、結果的に。『新たな能力』に目覚めたぜ・・・『攻撃してきた』相手を、周囲の闇に同化させるように『溶かす』・・・ほんのチョッピリだけ『感謝』するぞッ!!」クックッ、と更に狂気じみた声を上げるハイネ。


「・・・なんかハイネちゃん、かなり『ハイ』ッてカンジだね~☆」
「あぁ・・・アイツは怒らせないでおこう・・・怖すぎる。」脳天気な会話を交す、茜と松葉だった。


「我輩は・・・なんと無力なのだ・・・許してくれ、コウ・・・済まぬ!!」拳を地面に叩き付け、チャーは嗚咽を漏らす。
横たわるコウに、反応はない。
辛うじて生きている・・・危険な状態だった。


「くっ・・・なるほど。攻撃すればする程、私は『溶けて闇になる』と言うことか・・・防御のしようがないな。」ブスブスと、煙を上げながら赤倉の腕が溶けていく・・・闇に変わっていく。
「だが、ひとつだけ・・・たったひとつだけ・・・」痛みを感じないかのように悠然とハイネに歩み寄る赤倉。
そして高らかに叫んだ!
「『攻略法』があるッ!!」

┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″┣″・・・・・ 

「今・・・なんつった?」ピクリ、とハイネが青筋を立てる。
「攻略法・・・って言ったか?赤いオッサンよォ・・・?」
「あぁ、確かに言ったな・・・君は難聴の気でもあるのか?」歩み寄る赤倉。

「フザケてんじゃあ・・・ねェェェェッ!!」更に激昂するハイネ。
S・Cの拳を繰り出すが、赤倉は構わず近寄るのを止めない。

ドゴドゴドゴッ!!

殴られる度、赤倉の身体には闇が拡がっていく・・・溶解は加速し、既に立っているのもままならぬ状態の筈だ。
しかし、赤倉はしっかりと前を視て進む。

「いくら殴られようとも・・・私は倒れんぞッ!そして『攻略法』とは・・・!」S・R・D・Bが、ゆっくりと残る拳を振り上げ・・・ハイネの身体を殴りつける!
「とてもシンプルだが・・・私が闇に溶けるより先に、君を倒すことだッ!!」
「馬鹿かッ!?私に殴られても、殴っても闇に染まるんだぞッ!?」負けじとラッシュを繰り出すハイネ。
「そうだとしても・・・私は負けん・・・『義』ゆえに!ウオォォォォッ!!」雄叫びをあげながら拳を繰り出す赤倉。
激しい殴りあいの音が、周囲に響いた。


「『俺』を狙ってきた奴らがいたようだが・・・おかげでコウを消すチャンスが出来たようだな。」闇の中に、『歪み』が発生する。
「既に死の間際のようだが・・・油断はせん。確実に・・・消す。」『サトヨシ』が、姿を現した。

「安心しろ、コウ・・・すぐ、楽にしてやる・・・」

ぐにゃり

コウの周りの空間が『歪む』。
「おやすみ、コウ・・・永遠になッ!!」


「ッ!!」周囲の『空気』が変わったのを、チャーは見逃さなかった。
直感で、何が起きてるのかを理解した。
『何者かがコウを今、殺そうとしている』と。
(させぬ・・・我が身に代えても、彼女を殺させはせんッ!!)
「ぬおォォォォォッ!!」チャーは、コウを吹っ飛ばした。


ガオンッ!!


「キャッ!・・・チャー・・・何があったの・・・?」薄れて往く意識をなんとか繋ぎ止め、チャーが居た場所へ顔を向ける。

そこには、チャーの姿は無く・・・一枚の写真・・・チャーと、その妻の映っている写真だけが遺されていた。

【本体:チャー/スタンド:L・A - 死亡】


【18:38】
シバミたち到着まで、あと、2分 - 。

(はて……?
 どういう訳だ?
 コウの存在がいまだあそこに『在る』というのは……
『ユグドラシル』を先ほど使ったはずだが……
 つまりどこのどいつかがあの女を助けた、という訳か。
 連続して使う……訳にはいかないな。
 連続使用は世界をより『歪めて』しまう。
 残念だが、ここは引くしかない……か……
 コウ、それまで君が『存在する』ことを願っているよ……
 俺が君の存在を消すその時までね)


―――――――――


 対峙する赤倉とハイネは双方ともに力を消耗していた。
 赤倉のスタンド、S・R・D・Bはその体の半分を闇に『侵食』されていたし、ハイネ自身も相手のパワーによってかなりの痛手を受けていた。

「君……実に素晴らしいスタンドの使い手のようだな。
 しかしッ!
 なぜ君ほどの使い手が世界崩壊に加担するのかッ!」
「この愚か者がッ!
 我らの指名を『世界の崩壊』だと言うのかッ!」

 問答を繰り返しながら再び拳を交える二人……
 茜と松葉は部外者にされてしまったので退屈そうだ。

「まだ終わらないのか?
 いい加減退屈なんだが……」
「そうだよね~松葉クン。
 他人がやってるゲームを見てるだけってのつまんないよね~
 あ、ていうか見えてすらいないや。
 てへ☆」
「……。
 ハイネ~、いい加減終わらせてくれよ~
 俺、胃に穴があきそう~」
「そうそう。
 さっさと真っ赤なおじさん倒して裏切り者の『二人』も片付けようよ~」

 その言葉を聞いた人間全員が違和感を感じた。

「コウともう一人の……
 誰だっけ?
 忘れちゃった☆」

 全員の記憶の中からある一人の人物が『欠落』していた。
 冷静になったのかS・Cの作り出していた闇は縮小していき、消滅した。

「ケイ様の言っていた『緊急事態』という奴か……
 このクソジジィ、今回は退いておいてやる……
 松葉ッ、茜ッ、急いで帰るぞ。
 ケイ様に報告するんだ」

 茜はポケットの中に入れていた『何か』を地面にたたきつけた。
 すると『何か』から煙が噴き出し、赤倉は視界を遮られてしまった。

「おい、クソジジィ、貴様は確実に私が殺してやる……
 覚悟しとけよ……」
「ニンニン☆」
「おい、君達ッ!
 待ちたまえッ!」

 追おうとした赤倉をウルトラソウルが発射した光線が足止めする。
 結局、煙が消えたころには三人とも消えた後……
 残ったのは赤倉とコウの二人だけだった。

「君、大丈夫かね?」
「……
 どうしてなの……?
『誰か』が私を助けてくれたはずなのに……
 どうしてその人のことが分からないの……」

 涙を流すコウは『分からない男』と女性が写っている写真を握り締めていた。

【18:39】
 シバミたち到着まで、あと、1分 - 。

喪失感だけが、残っていた。

コウも、赤倉も。
とてつもなく大きなものを、亡くしたかのように。
そう確かに、うしなった。

しかし、何を喪ったのか、それが悲しいほど、不可解なほど、分からなかった…。





その男は、存在を消され。忘れ去られてしまったと言っても過言ではない。

人は二度死ぬという。
一度目は肉体の死。
二度目は忘却の死。
チャーは哀れにも、一度で両方の死に飲み込まれた。

彼を知る者は最早いない。
存在を曲げられたと共に、周囲の記憶をも曲げられた。

ただ、コウの手に残る。
一枚の写真を残して。

それは記録。
チャーが生きていたという、記録。

たったそれだけの事実を残して、チャーは、死んだ。

最期に、たった一人の命を、身代わりに守るために。 

―くんくん


「どうしたの?茜」
茜の顔が真剣な顔つきになる
「誰か来る」
そう言って茜はコウの後方の闇を見つめた。

「え?なにもにおわないけど?」
ハイネも真似してニオイを嗅いでみるがなにもおかしなところはない。
「てか・・・フツーにおう方がおかしいだろ。
俺なんてお前らのニオイもわかんねーし」
ポンッ
松葉の肩に手が置かれる。
「だめよ、松葉。この子に普通なんて期待しちゃいけないわ。」
そう言うハイネの顔は諦めに満ちていた。

「どうする?仲間来ちゃめんどくさいし?」


-殺しとく?


茜の目が殺気を放つ。
普段は見せない茜の表情にコウ、そしてハイネと松葉までも恐怖を覚える。



-サヨウナラ



その声を最後にコウの視界は暗闇に包まれた。

【18時40分】


「確か、茜が『サヨナラ』ッて言ったところまでは覚えている。
急にあたりが真っ暗になって、
それで……。」



――シバミ一行到着。

真っ赤に染まる、コウの身体。
崩れはじめているW・W・W。



「コウゥゥーーーーーーッッ!!!」
シバミが咆哮がこだまする。

「クソッ!なんてこった……」

「……お、お嬢…。」
ヒデエモンとザキが怒りに震える。

顔に手をやり、うつむき加減で沈黙を続けるDr。


「えッ!?ちょっと待ってみんな!!
私はここにいるよッ!
ねぇッ!?
どうしてッ!!
ちょ!!
あんたもなんとか言ってよッ!!」

必死で男平に語りかける。
が、その声は届かない。


男平が静かに口を開いた。
「すまない。俺がいながら……。一瞬の事だった。アイツらが煙の中に消えたと思った、その瞬間だった…。

彼女は既に……。」


顔を俯け、背を向ける男平。


「アンタッ!!なんでッ!?どうして助けてくれなかったよォォォォ!!まだ、コウと色々やりたい事、いっぱいあったのに……。」

シバミは怒り散らし、その場に泣き崩れた。

その時、コウは全てを理解した。
今、自分の置かれているその状況を。


「そっか……。
シバミ、それにみんな…ゴメンね。
私、死んじゃったみたいだね。」 


シバミは、私の亡骸を抱き締めて・・・大声で泣いている。
ザキとヒデエモン、それとドクター、おまけに赤倉とかいう男も、沈痛な表情を浮かべていた。

皆、私の死を悲しんでいる・・・・・・。

・・・・・・このまま死ぬなんて、私には似合わないわね。
名前も、顔も思い出せないけど・・・・・・
私を救けてくれた人の為にも、そして、私の『大切な人』・・・・・・

シバミの為にも、何かを遺さなければ。


少しずつ、私の身体は透けていってるみたい。意識も、薄くなってきた・・・・・・もう、時間がないみたい、ね。

私が、最期に出来ること・・・・・・皆にしてあげられること、それは・・・・・・


もう、殆んど消えかけていた『ワールド・ワイド・ウェブ』がバチッ、と火花を散らす。
「ッ!」シバミは消え逝くWWWを視た。

WWWの火花は徐々に激しくなり・・・・・・周囲を真っ白な世界に変えんばかりの眩い閃光となって、シバミ達を飲み込んだ。


・・・・・・闇の中、横たわるコウ。
その傍らに、誰の記憶にも存在しない、巨躯の漢。

ぐにゃり。
コウの近くの空間が歪む。
漢はそれに気付いて、コウを突き飛ばした。
そして - 歪んだ空間に飲み込まれ、消滅する。

歪んだ空間が、元通りになろうとする、その向こう側 - 一人の、青年の姿が観えた。
その青年は - 。


・・・・・・シバミ、貴女に出逢えて良かった。
私は、後悔なんてしていない。
貴女と過ごした日々・・・・・・長くはなかったけれど、私の人生の中で、一番楽しかったわ。
これから先、苦難の道が待っていたとしても・・・・・・貴女なら、大丈夫。
きっと、どんな苦境でも乗り越えられる筈。
あ、でもお酒の呑み過ぎには気を付けてね。
それだけは心配だわ。

ザキ、シバミを頼んだわよ・・・・・・それと、もっとしっかりしないと、尻に敷かれっぱなしになるんですからね。

ヒデエモン・・・・・・貴方が建てる家に、住んでみたかった。
いつも見守っていてくれて、ありがとうね・・・・・・カーペンターズ、あまりコキ使っちゃダメよ?


・・・・・・もう、時間ね。
さよなら、みんな・・・・・・ありがとう・・・・・・大好きよ。


【本体:コウ/スタンド:ワールド・ワイド・ウェブ - 死亡】

「今の・・・・・・は?」誰ともなしに、呟く。
まるで白昼夢のような光景は、既に消えていた。
そして、WWWも消滅していた。


「『アカシック・レコード』・・・・・・と言うものがある。」赤倉が呟く。
「宇宙や人類の過去から未来まで、歴史の全てが記されていると言われる、一種の記録をさす概念らしい。」懐から煙草を取りだし、口にくわえて火を着ける。
「彼女の能力は、『情報を操作する』ものだったようだな。恐らく、最期の力を振り絞り・・・・・・」フーッ、と紫煙を吐き出して、赤倉はシバミを見つめた。

「最期の力を振り絞り、『アカシック・レコード』から情報を引き出したんだろう。この『場所の記憶』・・・・・・・『残留思念』を。」煙草の火を消し、携帯灰皿に入れる。
「そこまでして、彼女は君にあの光景をみせようとしたんだ・・・・・・彼女の死を、無駄にしてはいけない。」ぽん、と赤倉はシバミの肩に手を置いて励ました。

「ありがと、オジサン。」弱々しくだが、微笑むシバミ。
「オジ・・・・・・!?」軽くショックを受ける赤倉。

「それにしても・・・・・・さっきのアイツ、まさか・・・・・・」
「あぁ、まさか・・・・・・信じられないけど、あれは・・・・・・」ザキとヒデエモンは、信じられないといった表情を浮かべてシバミを見る。
「うん・・・・・・間違いない。さっきのあの顔・・・・・・アイツは・・・・・・」


「『サトヨシ』ッ!!」三人の声が重なった。
「信じられない・・・・・・信じられないけど、コウが最期に遺してくれたメッセージ・・・・・・間違ってる筈がない!」グッ、と拳を握り締めるシバミ。
「最後に観えた、コウにトドメをさしたあの女をブチのめす。それと、サトヨシに訊かないとね・・・・・・何故、コウを狙ったのか。」ザキとヒデエモンも頷く。
「あぁ・・・・・・コウの敵討ちだッ!」
「絶対にゆるせねぇ!てやんでぇ!!」
闘志を燃やす三人に、赤倉が話しかける。

「良かったら、私も手伝おう・・・・・・彼女の事は、私にも責任があるからな。」
「えぇ、ありがとう。絶対、コウの敵を討つわよッ!!」バッ!と手を突き出す。
その上に、三人も手を重ねる。

「見ててね、コウ・・・・・・私、やるわ!」シバミの瞳の奥で、炎が揺らいだ。
決意の、炎が。 

シバミ達が去った後、赤倉は以前その場所に立っていた。
 手には『矢』と『写真』が握られていた。

(まさか、彼女が『矢』の所持者だったとは……
『コレ』の存在が外部に知られるのは危険だ。
 早急に財団に届けなければ……
 それまでは、私が管理せざるをえないな。
 それれ……彼女が持っていた写真……
『確かに』一人の男性と一人の女性が映っていたはず……
 この街で、何か奇妙なことが起こっているようだ。
 こちらも調査しなければならないな……)

 赤倉は荷物の中に『矢』と『女性一人が映った』写真を入れ、その場を後にした。


――――――


「……以上です。
 ケイ様が仰られていた『欠落』が発生したので連絡のために帰還しました」
「ねぇねぇ☆ケイちゃん、ナデナデ~」

 そういわれると、ケイは自分よりも背の小さい茜の頭の上に手を置き、撫でてやった。
 しかし、その表情からは決して『愛情』だとかいう感情は見て取ることができない。

「三人とも御苦労だった。
 しばし待機、連絡は後ほど行なう」

 三人が部屋を出ると、ケイはソファーにゆっくりと座り、笑みを浮かべる。

「フフフ……サトヨシめ……
 前の世界のようにはいかないぞ。
 今の私は、前の世界のように甘くはないぞ……
 今の私は『救世主』じゃあない。
 今の私は『十字軍』
 神のためなら、容赦無く眼前敵を圧倒し、撃滅し、打ち滅ぼす。
 せいぜい、山羊を導いていい気になっているがいい……」

 歯車は『再び』動き出す。



 第12話『一意専心 ~信念に殉じた男~ 』
 To Be Continued...   ・外伝『遠い日の幻想』

                                 外伝『赤倉が酒豪』

最終更新:2008年02月01日 22:10