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外伝『太陽』

雨が、降っていた。

「・・・まったく」

包帯と絆創膏だらけの体を壁にもたせ掛け、ERはつぶやいた。

「・・・長続きする雨は、嫌いなんだ」

頭上の表札には「ザキ/シバミ/ソバサイ」とある。

病室には、泣き崩れるシバミと、ヒデエモンの姿があった。
そして、シルビアが持っていた「頭」も。
恐らく、何らかの方法でシバミのところに送りつけたのだろう。
確か、今日の朝方にシバミ宛に小包があったはずだ。
すでに、上半身と融合し、後は下半身を残すのみとなった。


三日三晩。
シバミは泣き続け、泣き疲れると眠る、といった生活を送っていた。
立て続けに仲間を失った悲しみ。
食事どころか、酒すらも断っている始末だった。


ERも、普段ほどの軽薄な振舞いが出来る気分ではない。
仮にも、自分の患者だったのだ。

「・・・ケガ人の癖に、ムリをするからだ」

思わず、悪態が口をつく。

「あまり口が悪いのも、考え物ですわよ、医科の先生?」

見ると、品のよさそうな老婆がたたずんでいた。
トメである。

「・・・・なんだね、君は」

「こちらのシバミさんに、少し御用があるのですが。」

「当人があの調子だ。刺激することは勘弁してくれたまえよ」

「承知しておりますわ」

優雅な足取りで、トメは病室へと進んだ。






『ソバサイ』
ケイの、尖兵。
偶然とはいえ、シバミ達と同じ病室に入ったため、ケイから監視を命じられていた。

「・・・・・まずいな。パーツが、揃う」

仕切りに囲まれたベッドで、ソバサイは爪を噛んだ。

・・・どうする?
まず、あのトメという婆さん。女帝の二つ名を持つ、手熟れのスタンド使い。
シバミは、過去にムーンライダーというヤツを屠っている。
ヒデエモン。先だって、ブルースとかいう刺客を倒している。
・・・侮れない。
そして、病室の外にいる、Dr.ER。戦闘能力はそれほど高くないと思われるが・・・
能力を把握し切れていない。危険だ。

どちらにせよ、こんな狭い空間で4対1では、自殺をしにいくようなものだ。
・・・どうする?
ソバサイは・・・・おもむろに携帯に手を伸ばした。

「……お嬢……」

虚ろな目で外を眺めるシバミ。
そんな姿を見てヒデエモンは声をかける事すらできなかった……。

「少し、よろしいですか?」

中を窺う様にシバミの居る仕切り越しに声をかけるトメ。
しかし、シバミは答えない。

「すまねぇ……お嬢は今話せる状態じゃあ……」

見かねたヒデエモンが返事を返す。
しかし、トメは構わず仕切りの中へと入る。

「ばーさん、聞こえなかったのかい?お嬢は……」
「失礼、私はシバミさんに話をしているのです」

穏やかな声ではあるが妙な迫力にヒデエモンは押し黙る。

「シバミさん……?何時まで塞ぎ込むおつもりですか?」
「……誰だか知らないけれど……ほっといてよ……
 もう、嫌だ……何も知らないし関わりたくも無い……」

無気力な目をしたまま、うわ言の様に呟くシバミを見てスッと近付くトメ。

 バ シ ィ ー ッ !

「なッ!?ばーさん!?」

驚くヒデエモンを余所にシバミはいたって平然としていた。
……いや、平然と言うより何も感じていない様だ。




――――――――――――――――――――――――――――――――

「ねぇねぇハイネ、ソバサイへのお見舞いは何が良いかな?かな?」

陽気な声で花屋の前で色々と見て回る茜がハイネに声をかける

「どれでも良いだろ……」
「こう言うのはちゃんとしてないとダメなんだよ~?」

む~っと頬を膨らませて抗議する茜に背を向けてメールを確認するハイネ。

「んっと……じゃあ、コレでいいかぁ~」
「おい、それは……いや、それでいい……
 その花が丁度いい様だ、逝き遅れのばあさんにはな……」

メール見ていたハイネがニヤリと笑う……
それを見て茜は首をかしげる。

「ばあさん?ソバサイはおばあちゃんじゃないよ?」

「気にするな」と答えてハイネは病院へ向かう。
不思議そうに後を追う茜の手には輪菊と小菊の花束が握られていた……。


トメはシバミに語りかける

「貴方が哀しみにくれるのは無理もありません。しかしながら、その終わりのない様な深い闇の中でいつまでも悲観にくれているのは、『淑女』とはいえませんわね。」

「、、、。」


シバミは顔を上げない



「、、貴方には、もうすこし期待していたのですが、残念です。先立つものに対して深く哀しみにくれてやる。これが先に旅立った者達への貴方なりの、『手向け』という訳ですか。」

「…ッ!」


トメの目を見るシバミ その目は赤く腫れている
しかし、その目には先程と少し違う 感情 が宿っていた


「違う、、ッ!」


その目には 怒り 


「ふふ、、まだ、感情は死んでないのね。シバミさん、、、。だったら、しっかりなさい。辛いでしょうが、貴方を想う人々、想って逝った人々は、、貴方のその姿がもっと辛いのです。」

「、、、わかってるわ。 でも、、『悲しい』のよ、、!どうしようもなく、『悲しい』のッッ!! コウにも、ザキにも!もう会えないッ! もうッ、二度とッッ!」

「…。」


トメは黙ってシバミを見守っている



「、、ついこの前なんだよ? コウが生きていて、いつもみたいに私にお酒の事を注意してきて、、。 ザキも、義手の調子が良くなってきたって笑って、、、」





『 シバミ! また飲んでるんじゃないでしょうねー?? 』

『 だんだん調子出てきたよ。 どう、結構なじんでるだろ? 』





「私、、ずっと一緒にいられると、、思ってて、、、」





『 、、もう。 身体が万全になったら、みんなでお祝いに飲みに行くから、今はガマンなさい。 』

『 怪我が回復したらさ、今度、祭りに行かないか? 俺、射的なら負けないからさ。 』





「ずっと、、」





『 シバミ、、貴方は、よく笑うわね。 』

『 変わんないスよね。その性格。 』





「、、、ッう、うぅー、、!」





『 貴方のそういう所が、好きよ。 シバミ 』

『 シバミ。 これからも、、よろしくな。 』





「うぅ、、、。どうしてなのよォッ!! どうしてッ!?コウ!ザキ!!」








『貴方は 笑ってる顔がよく似合う』

『お前は 笑ってる顔がよく似合ってるよ』









「 コウの、ザキの、、、馬鹿野郎ゥゥーーーーーーーーッッ!!!! 」



シバミは泣いた 声をあげて 

三日間泣き続けて乾いたはずの瞳から、大粒の涙が止めどなく溢れる

嗚咽が止まらない

感情が抑えられない



でも、もうその涙は失意で染まった涙ではなかった



心に感じる 愛しい者達の想い
 
こんなにも、愛されていた

こんなにも、愛していた



『答え』は、胸の中で確実に鼓動し始める





「 失意を知らない者は、諦めを知る。悲しみを知らない者は、愛を失う。 でも、それを乗り越えた者には、光り輝く道がまってるものですよ。 シバミさん。 そして、、タチバナさん。 」





ヒデエモンは、声を挙げて泣いているシバミを見て、泣いた。


(もう、お嬢は大丈夫。 コウの姉貴 ザキの旦那、見守っててくだせぇ)









空から 少し光が指してきた

こん、こん。

時間が止まったような雰囲気が、ノックの音によって壊される。

こんっ……こ、ん、っ……。

……決定的な何かが訪れる時、
事前に気づく人間が、時々居る。
気づく事が幸せなのか?不幸なのか?
それは解らない。

シバミがそのノックの音で理解したのは、

『その時が来た』

と言う事だった。

ドアを開く。
誰もいない。

床に落ちている、菊の花。
包み紙に『塗られた』手紙。

『拝啓、女帝殿、並びにその他雑魚共。

天気が荒れる日が続く中、いかがお過ごしでしょうか?

しぶとく生き残っておられるようで、
こちらとしては、非常に邪魔だと感じる次第です。

本日はお日柄もよく、これを気に
老人も病人も纏めてお相手差し上げたく考えております。

待合室で、お待ち申し上げます。

         ハ イ ネ & 茜』

「あ か ね … … ッ ! ! !」

記された名前に、シバミが震える。

「行くわ」

短く宣言し、シバミは病室を出る。

「あ、俺っちも…」

「お待ち頂けますかしら?」

トメが柔らかく、しかし強くヒデエモンを止める。
無視して部屋を出ようとするヒデエモンの前に、

「お 待 ち 頂 け ま す か し ら ?
私は、そう申し上げたのです…。
淑女の言葉を無視するとは、紳士としていかがなものかしら?」

トメが立ちふさがる。
笑みを絶やさぬ相手に、ヒデエモンは内心苛立ちを覚える。

「どきやがれィ、ばーさん!俺っちだって、コウの敵を…」

「お気持ちは酌んでおります。

ですが…

お仕事を請けて頂きたいのですわ、ヒデエモンさん。

貴方にしか出来ない仕事が、あるのです。
カーペンターズと、貴方にしか…」

絡み合う…視線。

ヒデエモンは知る。
相手の視線の重みを。

自分の気持ちを止めてまで頼まねばならぬ仕事…。

その、重みを。

「…く…っ。

て や ん で え ッ ! !」

ヒデエモンは、強く壁を一度殴った。

その感情は怒り。

復讐心よりも勝ってしまう、
己の仕事に対する誇りへの、怒り。

「…俺っちァ大工…大工が家を作るってェのは…

人を守る物を作ること。
人の安らぎを作ること。
人の宝を、作ること。

仕 事 に ゃ 私 情 は 挟 め ね え ッ !」

大丈夫。シバミなら、自分の分まで想いを乗せて、
戦ってくれる…。

あの二人なら、必ず敵を討ってくれる。

「…で!
なんなんでい、仕事ってのは?」

「ええ。
待合室と…それから、この部屋に。
できるだけ、誰も足を踏み入れられない様、
早急に改築して下さい」

「おお!合点承知ッ!」

それならば、待合室にカーペンターズを二人送れる!
カーペンターズが4人揃わなければマキナは使えない。
自分がこの場に残るのであれば、的確な指示は出せない…。
だが、それでも。
カーペンターズ二人だけでも現場に居れば、
少しはシバミ達の手伝いが、できるかも知れない。

「しかし、何でまた、この部屋も封鎖するんでィ?」

「ケイさんがいらっしゃると、厄介なのでね…



 ね え 、 ソ バ サ イ さ ん ?」



ソバサイは戦慄する。

バレている…ッ!

歩くシバミ。
重なる足音。

「…何も聞いてない、よね?」

「ええ。誰かが大声で泣き叫んでいた以外は、何も。
おや?瞳が赤いですよ?
もう酔っ払っているのですか、ビッチ?」

「絶対改めてアタシがバラバラにしてやる…ッ。
って言うかアンタ、『失礼』すら言わなくなったの?」

「おやおや、そうですね…
ええと……おや?
なるほど、理解しました。
どうやら、貴女相手に失うべき礼の
ストックを切らしてしまったようですね」

「もったいぶった挙句偉そうに言うなそんなことッ!
久々だから体が上手く動かなかったら大変でしょ、
準備運動してあげようかッ!?」

「無用ッ!酒ビッチに心配されるほど、ヤワな人生は送ってないッ!」

「酒ビッチって何だッ!」

喚きながらたどり着く、待合室。

「ねえねえハイネちゃん、あの二人、ボク達よりらぶらぶっ」

「「「黙れ」」」

三人の声が、ハモった。


「少し予定が狂ったがまぁ いい。
誰がどうこうしようが『殺す』という事実には変わりはないからね……。」

「ハハ~~ン、ハイネちゃん乗り気だねぇ~んじゃあ、僕もがんばっちゃおっかな☆」


不敵の笑みを浮かべるハイネと茜。



「正直、アンタにこんな事頼みたくないけど……協力して。タチバナ」

「フッ。何を言い出すかと思えば……


『断る』


と、言いたいところですが、まぁ酒ビッチにしては評価に値しますかね。

いいでしょう。

それにあの『男』は私の美学に反していますからね。

実に醜く、卑しい。」


二人の目には覚悟が宿っていた。
およそ常人には理解などできないほどの
「覚悟」

背負っているものの重さがまるで違う。



「どうしたのぉ~~かたまっちゃったのかなぁ~??」

茜のその言葉にハイネが制止する。


「茜……、もうはじまってる。」


まるで、塞き止められていたかのように何かが一気に流れだした。


張り詰めた、なんともいえぬ空気。

その時、確かにそこはただ待合室では無くなっていた。

伊達に修羅場くぐり抜けてきていない二人だ、一瞬にしてそれを察知した。


「ハイネちゃ~ん」


「……茜。構えろ」


「………はぁい。」


「お前らも構えたらどうだッ!!」


ハイネの声が響き渡る。


タチバナ・シバミはいっさい動じない。


無言の重圧。


しかしその瞳は確実に訴えている。


『お前を確実に、的確に、殺すッ!』と。




カチ、カチ、カチ、カチ、………


時計の刻音だけが確かに聞こえている。


長き沈黙が続き、


そして、


動きだしはじめた。


「運命の歯車」


「いょっしゃ、完成でぇい!」

「アイカワラズ」
「イイ仕事シテルゼ親方!」

「申し訳ないけれど…はしゃいでいる場合ではなくってよ?」

施工完了にはしゃぐヒデエモン。
いたって冷静なトメ。

そして…

(マ ズ い ッ !)

絶対的窮地に追い込まれた、ソバサイ。
すでに病室は下界から隔離され、部屋には四人。

逃げ場は、ない。


「…後で直せよ」

ERも巻き込まれていた。

「お…おう、てやんでぃ」

二人に応え、ヒデエモンは身構える。
残り二体のカーペンターズは、待合室に出張中なので、マキナは使えない。

対して、トメは自然にして優雅。
淑女という言葉を形にしたような、そんな立ち姿である。
所作の一切に乱れもなく。
女帝に相応しい風格。


一方、ベッドの上で身を起こしたソバサイ。
先の使命で傷を負い、ようやく自由に動けるようになった程度。

全快には遠い。


―冷や汗が背を伝う。

そもそも、自分のスタンドは単体での戦闘に向かない。

それどころか、情報収集を専門に自分は活動してきた。

単体戦闘を行った場合の結果が、この現状だ。


「・・・準備はよろしくて?」

「・・・せっかちな女は嫌われるぜ、婆さん」

「余裕ですのね?」

「でもないさ。」

「正直な殿方は嫌いではありませんわよ」

呑気に会話を続けながらも、ソバサイは思考をめぐらせていた。

(このままじゃ、オレに勝ち目はねぇ・・・。犬死にも、ゴメンだ。)

押し黙る。

「さて、お話はここまでに・・・・」

「待った。」

トメの言葉を遮って、ソバサイは静かに口を開いた。

「・・・・・・仲間に、なってやる。」

「な・・・?信じられるかってぇんだ」

思わず、ヒデエモンが口を開いた。
ERも冷たい視線を送る。

ソバサイは、額に脂汗を浮かべながら苦笑を浮かべ。

トメは、いたって冷静だった。

「冷静に、ヒデエモン様。・・・どういう思惑で?」

「・・・このまま戦っても、オレは犬死にだ。」

「・・・私達に見返りは?」

「オレはの好物はな、『情報』なんだよ」

「情報……!?」

かつてコウが得意としていた物にヒデエモンが反応する。

「あぁ、俺が知っている情報はすべて話そう……な?」

そのソバサイの態度に苛立ちを覚えるヒデエモンを制しながらトメが答えた。

「はてさて……どんな素敵な口説き文句が聞けるのでしょう?」

皮肉なのかトメはにっこりと微笑みながら話を促した。

「……そうだな、まず何から話そうか?今日の日の入り時間とかどうだ?」
「おうおうおう!こちとらテメェみたいな奴に手間どれねェってんだ!ふざけるのもいい加減にしやがれィッ!」
「ふざけてなどいないさ……君達にとっては貴重な情報なのだがね『日の入り時間』と言う物は……」

先程の様子とは違い、不適にニヤつくソバサイ。
そんな態度に業を煮やしたヒデエモンは動き出す!

「もう我慢ならねェ!カーペン……!?」

攻撃しようとしたヒデエモンの体が急に止まった……?

「オヤカタァァッ!カ、体ガッ!」
「オ、重イッ!」

ヒデエモンだけではなくER達にも異変が起きていた。

「もしや、スタンド攻撃ッ!?」

重さに耐えられず、膝を付くERが叫ぶ。

「影が伸び、繋がることで一つの影となる……
我がスタンド、ムーンライト・シャドウは任意に一つの影に強力な重力波を発生させることが出来るッ!
どうだい?『自らの影に縛られる気分』はッ!?」

しかし強力な重力波の中、凛とした姿で立っている姿があった……

「貴殿のスタンド能力……それが有益な情報なのですか?」
「な、なんだとォッ!?この重力波の中立っているだとッ!?」

その異様な光景にソバサイは叫ぶ。

「老婆心に助言させていただきますと、女性を力ずくで……と言うのはいただけませんよ?」

そこから更に、少しずつ近付いてくるトメの姿をみてソバサイは格の違いを感じる……

とぉるるるるる!

その時ソバサイの携帯が音を立てる……急いでメールを確認するとニヤリと笑うソバサイ……

「ばぁさん、悪いがあんたは俺に攻撃できないッ!」

「ジュール&カロリー…
空気中の水分を凍らせ『鏡』を作り、
影の呪縛から逃れさせて戴きました…

ソバサイさん。攻撃出来ないと仰いましたが…
次はどうされます?
ただ…『次の次は無い』…と認識して頂きます」

ソバサイは肩を竦める。

「なあ女帝さんよ…念には念を入れるあんたのやり方ァ、
スゲー読みやすかった…慎重さが命取り、だな。

『もしあんた一人が俺と当たってたならァ、
俺達の作戦はパーだった』…」

3人は、同時に感じた。
この雰囲気…ハッタリでは無い。
己の命を覚悟している…『スゴ味』があるッ!

「…何を言いたいのかしら?」

「過小評価…あるいは認識ミス…それってさァ~、
一回やっちまうとなかなか直せねーんだよな?
策士策に溺れるってェ、良く言うよな…」

何かミスがあったのか?
いや、ケイを封じる完璧な布陣…
彼はここには来られない、はず…。

「あなたは何を…」

「ヒントやるよ」

ソバサイは自分を知っている。
スタンドは近距離パワー型だが…能力は、サポート向けだ。
この人数を一度に相手にするには、やや厳しい。
だが、自分がすべき事は…もう、終わっている。

我々の勝ちは決定している。
後は、離脱できるか、だ。

「今日ここに居る神の尖兵は…俺と茜とハイネェ…

だけじゃあねえ」

トメは戦慄する。
ケイは…既に来ているッ?

「フフ…


アハハハハハハハハハハハハハハッ!!


そ れ だ よ ッ ! 」

ソバサイは手を打って笑う。

「それが認識ミスッ!みーんなァ解ってねーの。
10発殴ったら弾け飛ぶとかさあ…

弱 い よ 、 マ ジ で 。

時が操れるオマケがつこうがァ…
もっと頼れる奴が居るっつの!」

トメは思考する…
相手の狙いは、何だ?

『オヤカターッ』
『オヤカタ キイテクレヨーッ』

「なんでえッ、仕事してから物言えェッ!
何かヤッベエから、
早くイチヒコとニスケを呼び戻せっつってんじゃあねぇかィッ!」

…?

『サッキカラハンノウガネーンダヨォー』
『アイツライウコトキイチャイネーッ』
『マルデ』

…!
トメが目を見開く。
ソバサイの笑みが深まる。

『ボウソウシチマッテルミタイダッ!』

---

窓の外。
ソバサイの視界に、病院から離れていく一人の男の姿が入る。
ソバサイにメールした男…松葉が呟く。

「俺のウルトラソウルは…暴走させる『衝動』を指定できる。
破壊本能と帰巣本能を暴走させてやれば…
さあ、見つけて壊せ、お前等のHOME、ってな…」

---

「いけないッ!すぐに脱出を…」

「おっと!ゆっくりして行けよゥ、女帝~ッ…」

ソバサイが腕を振り上げる。
その影が全員の影を繋ぎ、全員がその場に縫いつけられた。

どこからか…軋む音が…聞こえる…。

強力な重力に逆らい、ERが顔をあげる。

「待て…せめて病人達を…」

「もう逃がしてあるぜ?
俺や松葉は好きくねーからなァ、
無駄に巻き込んじまうのは…」

天井を見上げながら、ソバサイが答える。

「時間ン、かな…
ほんじゃま、」

窓を叩き割るソバサイ。

「あ、ばァ、よ!」

そのまま、窓から飛び降りる。

壁面に映る己の影に重力場…『引き寄せる力』を乗せ、
ブレーキをかけながら壁を滑り落ち…

「イャァァァッホォォウ!」

能力をオフ。スタンドで壁を蹴り、飛ぶ。
手を伸ばし、影を伸ばして、能力をオン。
街路樹へ…
オフ。
街灯へ…
オン。
隣のビルへと、渡って行く。


【ソバサイ:ムーンライト・シャドウ…帰還】

---

ソバサイが離脱する瞬間、全員の呪縛が解ける。

「ブラッディ・クロスッ!」

ERが己の血を吹き上げ…

「ジュール&カロリーッ!」

トメがそれを凍らせ、柱とする。

「うぉぉぉッ!
サブロータ、シヘエッ!
突貫工事だッ!」

その柱を軸に、カーペンターズがシェルターを作り始め…

『ムリダヨッ オヤカター』
『フタリジャパワーガタリネエッ!』

「ガタガタ抜かすねェッ、とっとと…」

亀裂。

「「「ッ!!!」」」

振動。


落石。




そして…







崩 壊 。



【トメ:ジュール&カロリー
Dr.ER:ブラッディ・クロス
ヒデエモン:カーペンターズ

生 死 不 明】

ドゴォッッ!!


B・D・Mの剛腕がハイネを捕らえる。


「(は、速いッッ!!予想していたよりも何倍も……!!しかもこの威力……クソッ!アバラ2、3本はもっていかれた…!!)」


「その程度なんですか。あなたには実に腹立たしさを覚えるッ!醜く雌と雄の匂を混濁させておきながら、さらにその程度の実力しかないなんて……、フンッ。時間の、『無駄』ですね。」
嘲笑するタチバナ。



ビキ……
ハイネの顔が歪む。

怒り?
そんなチャチなもんじゃない。
これは……『憎悪』


「ギィヤァァァァァァァァッッッ!!
テンメェェェェェェェ殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥゥゥッ!!

徹底的にィィィィ残酷にィィィィッ、

殺してやるゥゥ!!
内臓ぶちまけろォォォォッッ!!

ソリッド・カラーズ/マイフーリッシュハートォォォォッ!!」


タチバナに、全く驚いた様子はない。
むしろ楽しんでいるようにさえ見える。

「フンッ!醜さにも拍車がかかったみたいですね。 だが、先程よりは実に、『良い』

倒し甲斐ッてものがありまよ……。」


あたりを昏き闇が包む……

「ビッチ!!こっちはこっちで忙しいので、そっちはそっちで勝手にやってなさい。」


「五月蠅いッ!言われなくてもわかってるッ!!(それにしてもアイツさらに性格悪くなった気がするなぁ)」
シバミは、一呼吸おいて茜に告げた。


「いっとくけど、容赦なんて絶対しないからね……!!」


「アハッ☆ハイネちゃんもおっぱじめちゃったし、僕もやっちゃおっかなぁ~~ッ」

どこか余裕のある態度の茜。
しかし茜の放つ殺気は本物……。


「アハッ☆これ何かわかる―??
そうでーすッ!薔薇でーすッ!!
さっき病室から頂いたちゃった!
それにしてもスゴい数だよねぇ、
ところで、これどーなると思うぅ??」


シバミに向けて無数の薔薇の花束を投げ付ける…。


『レ・ミオ・ロメンッッ!!』

バアァァァァァァン


一瞬にして真紅の薔薇は、燃え盛る業火となった。

「ッ!?なんで薔薇がッ?」


一瞬躊躇してしまったシバミ……。

確かに、薔薇が火になるなんてありえない事だ……だが、茜にはそれが可能なのである。

「ハハッ♪どんどんいくよぉ~~ッ!」

ポケットからパチンコ玉を取り出し、一気にシバミへと投げ付ける。パチンコ玉は無数のナイフに変わって、シバミを襲うッ!!


「クッ!!シバミティア―ッッ!!」


ガン!ガン!ガン!

辛うじて急所は守ったものの、いくつかナイフが身体に食い込む。
さらに、

いまだ燃え盛る炎。


「クッ!ヤバい……。
どうするッ!!
どうすればッ!?」


と、その時。
偶然なのか、必然なのか。
茜の放った炎に火災装置が反応し、スプリンクラーが水を起こす。

シャアアァァァァッ!

「(コウ…、ザキ…、ゴメンね。やっぱりアタシにはこれしかないや…。)」

その水の一部をアルコールに変え、
降り注ぐ酒を、
浴びるように飲み干すシバミ。



「……ハァァァァァァッッ!さぁて、本領発揮よッッ!!」

「溶けて無くなれ・・・・・ホモ野郎!」

タチバナに、闇が迫る。

「すぐには殺さない。じわじわと、苦しめて溶かす!!」

激昂するハイネ。闇が広がってゆく。

対するタチバナ――――――――余裕の笑み。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「やっぱり・・・・・・・効くわね、お酒って。」

シバミの頬に赤みがさしてゆく。

すでにスプリンクラーは止まり、場に残るは濡れた女、二人。

「酔っ払ったオバちゃんに、勝ち目はないよねッ☆」

声と共に、飛来するパチンコ球。

それらは中空でナイフへと姿を変え・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ふふふ・・・・・・・・気付いていませんでしたか。低脳な」

闇が迫る中、タチバナは呟く。

「余裕ぶっこいてれるのも、今のうちだ」

更に、ハイネが、闇が、迫ってくる。

「・・・ブルース・ドライブ・モンスター。」

「スタンドなんか出しても意味ねぇんだよッ!!!」

ソリッド・カラーズの拳が繰り出される。

「一つ、教えて差し上げよう。私は、今の今まで」

BDMに、拳が

「『分解』していないのですよ」

跡形もなく、拳が消え去った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

床に、ナイフが突き刺さる。

「ウソッ?!」

シバミが、視界から消えている。

「酒の力を、舐めんじゃないわよ」

背後から、シバミの声。

・・・・酒臭い。

・・・・酒?アルコール?

「お酒って、燃えるのよね」

すでに、茜の体は酒浸し。

衣類が吸った水分が、余すところなくアルコールになっている。

シバミの手には、一箱のマッチ。

「マッチ、好き?」

しゅぼ、と。シバミはマッチに火をつけた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「うあ・・・!うぉぉぉッ?!」

ソリッド・カラーズに伴い、ハイネの左拳が消滅している。

そこに纏っていた闇さえも。

「さて、どちらが優位か。これではっきりしましたね。」

悠然と、タチバナが迫る。

「・・・・分子レベルまで分解してくれましょう、ブタ野郎。」

ハイネは、『覚悟』を決めた。

「酔っ払いってさぁ……すぐヘドブチ撒くから嫌いなんだよねェ……『キタナイ』から」

追い込まれた茜が低い声で言い放つ。

「悪いけど、私は過去の一度も吐いた事はないわ……」

マッチを持ちながらじわりじわりと駆け寄ってくるシバミ。

――――――――――――――――――――――――――――――

「優位……確かに貴様の方が圧倒的に強い……つまり、逆説的に弱いという事だ……」

『覚悟』を決めたハイネは先程とは違い顔に冷静さが戻っていた。

「ここまで追い詰められながら、まだ勝てる見込みがあると?……強がりにしか聞こえませんね」

ジリジリとタチバナが間合いを詰める。

その時、ハイネと茜の背中が合わさる。

「でも、同じ事よ……今から貴女は『キタナク』無残に死ぬことになるんだから……」
「強いからこそパートナーは必要としない……故に、『連携』に関しては『弱い』ッ!
だから、確実に貴様『達』を『殺す』……」

「「私達の連携でねッッ!!」」

二人の声が重なる。
それと同時にハイネのカラーズが床に『黒い丸』を着色、
その後茜のレ・ミオ・ロメンが『黒い丸』を『穴』に変える。

その穴に入り込むハイネと茜。
その連携の早さにタチバナ達は反応が遅れた。

「……ブタ野郎とアバズレが組んだ所で私が負けるとでも?」
「……負けるさ……『確実にね』」

穴は段々広がり部屋全体をを飲み込む……
部屋は穴に包まれ光が無くなり真っ暗になった。

「これじゃあ、何処に居るか解らないわね……」

シバミが先程のマッチに再度火をつける……

ゴゥッ!!

その時いきなりマッチの火が炎へと膨れ上がる!

「クッ!?」

熱風でシバミは飛ばされる!

「アハッ♪凄いマッチだね~?」

わざとらしく挑発する茜。

「闇の中では光は一層際立つ……例えマッチの火であっても例外じゃあない……」
「つまり、火の周りの『赤色』を『火』に変えちゃった☆」

ハイネ達の声が所々でするため位置は把握できない……。

「そして……先程蛍光色を付けさせてもらった……貴様等の位置は手に取るように解る」
「まるみえだね~☆」
「さぁ、このまま闇に飲み込まれるのか……」
「さっきみたいに火を付けて燃えちゃうか☆」

 「 「 ど っ ち が い い ? 」 」

「くッ!」

(まずい。奴らがどこにいるかわからない上に、このままだと攻撃をくらう一方!なにか、、策は、、!)

シバミは息を呑んだ。敵の攻撃をかわす俊敏さと攻撃を繰り出す妙技をもっていても、敵の場所が分からなければどうしようもない。アルコールに炎を引火させるという策も、茜の能力で逆にこちらがダメージをおってしまう。

(、、右手と腕に軽い火傷、これくらい、、シバミディア!)

シバミディアで腕にしたたっていた酒を更にアルコール度数の高い物に変える。

スゥゥ


「なるほど、アルコールの気化熱で治療、、ですか。少しは知恵が回るみたいですね。ビッチにしては上出来な発想です。」
「いちいちうっさい!!」

タチバナはシバミの側で構えを崩さない。が、状況はタチバナも同じ事。二人は闇の中で警戒を続ける。

「、、、あんた、服、光ってるよ。」

「あなたもでしょう、アバズレ。蛍光塗料ですよ。ブタ野郎の話を聞いてなかったのですか?本当に情けない。」

「わかってるよ!知っててあえてツッコんで……ッッ!」


シバミとタチバナの近くを何者かが通る
そして、、蛍光塗料が散布された場所へと、何かが触れた。

「クスクス、楽しくおしゃべりだなんて余裕だね☆でも、そんな暇すぐに無くなるよ~♪」

「なッッ!!?」


蛍光塗料の黄緑色が、炎と化して二人を包む

「綺麗~♪花火みたい★ なにも『赤』だけが炎じゃないんだよ。あはは!」
「まだはしゃぐには早いぞ、茜。 奴らはしぶとい。 見ろ。」



シュウウゥゥ

「はぁ、はぁ、、ッ!」
「くッ、、!」

スタンドで、無理矢理からだの炎を消化し、尚も構える二人。

「ふふ、だが、、必ず殺すがな、、。」
「いつまで、もつかなぁ♪」

闇の中で微笑むハイネと茜。 闇は、ゆっくりと確実にシバミ達を浸食しつつある。


「ビッチ、このままでは埒があかな、、」
「あんた、分子レベルまで『分解』・『再生』出来るんだよね?」

タチバナが言い終わる前に、シバミが尋ねる


「、、、、ええ。可能ですよ。」
「じゃ、『水』頼める?いや、正確にいうと、『水蒸気』。」

タチバナをまっすぐに見つめるシバミ。 その瞳には、覚悟があった。『コウの仇を討つ』という、覚悟が。


「ふむ、どうやら私達の考えている事に同じ様ですね。しかし、防御手段まで考えてあるのですか?」

「アルコールランプになるわ。」


「、、、なるほど。良いでしょう。ビッチにしてはいい覚悟だ。」
「あんた、いちいち言い方ウザい、、。」

「なにこそこそ話してるんだッ!そろそろ終わりにしようぜ!! ソリッド・カラーズ!!」
「レ・ミオ・ロメン!!」

闇の中に銀の線がいくつも描かれる!
その銀の線は瞬く間に白銀の槍へと姿をかえて襲いかかる!!

「無駄です! ブルース・ドライブ・モンスター!!!」
「シバミディア!!!」

飛んでくる槍をスタンドで耐える

「ふふ、だが、いつまで続くかなッ!!」

次々と様々な物が二人を襲う、なぜなら元となるものは『色』!故に無限!!



  ズガガガガガガガガ!!!


「まだなの、、? ホモ。」
「気安くいってくれますね、このビッチ。、、もう少し。」

「それそれェッッ!!」
「いい加減に観念しちゃいなよ~。僕達に勝とうなんて無理なんだよ。あの犬死にしたお姉ちゃんみたいにね♪」



     

     『コウ』
     

「ッ! 貴様ァァーーーーーッッ!!」

一瞬!シバミの中に押さえきれない感情がうねる!!
シバミは声のした方へ飛び出し、シバミティアの拳を繰りだした!

が、、!


「あはは、あたらなーい!」
「これで貴様も終わりだ、マイ・フーリッシュ・ハート。」

「、、ッ!!」

背後から身体が溶ける感覚、、まずい!






「やれやれ、、いきなり飛び出して、美しくない。 もう少し自制心というものがないんですか。」


 ポタ ポタ


「 、、まぁ、死者の存在をたやすく口にし、侮辱する、そこのビッチに怒りを覚えるのは当然の事ですがね。それに関しては、私も貴方と同じ気持ちですよ。反吐がでます。」


 ポタ ポタ 


「 待たせましたね、シバミ。 貴方の覚悟、魅せて貰いますよ。 」



シバミの身体から、大量の水分がしたたり落ちる!

「、、!? な、こいつ、、いつの間に!!」

「、、感謝するわ、ホモ。 いえ、タチバナ。 そして、覚悟するのね! ハイネ!茜ェーー!!」


シバミは自らの身体に火を付ける!

「な、狂ったかッッ!?」 「何考えてるの!?」

炎に包まれるシバミ、だが、その足は止まらない!!

「あんた達には、コウの命の代価をはらってもらうッ!ハァァァアアアーーッ!!」
「レ、、レ・ミオ・ロメン!!」


茜が炎の周りの『赤』を炎に変える、が、、

「そんな炎、熱くないわ、だって。燃えているのは、私の周りの、空気。 そう、蒸発したアルコールだけだもの!」


「空気だけは着色出来ませんからね。自由に分解できましたよ。まぁ、時間はかかりましたが。水素と酸素から、大量の水を結合し、シバミに与えた、、。 」


「ランプってのは、アルコールに浸っていれば、芯は決して燃え尽きない。逆に、気化熱が奪われ、温度は下がるのよ。 水分をシバミディアでアルコールに変えた。 そして今!私からはあなた達がよく見える!」


「ッッッ!!」
「 捕 ら え た !! くらえェーーッッ!!!」


シバミの燃えさかる拳が、茜にヒットする!

茜は壁まで吹き飛ばされ、力無く崩れ落ちる。

「…殺さなかったのですか。
あなたのスタンドなら、あのまま胴を貫く事もできたハズ…」

タチバナが、シバミに問う。
…何故あの一瞬、拳の勢いを殺してしまったのか?
自分でも、解らない…。
シバミは俯く。

「何故殺さなかったのです?親友のかたきを…
怒りが冷めてしまいましたか?」

「ち、が…ッ」

タチバナの方を振り返り…。
シバミは、…きょとん、とした。

タチバナが僅かに、笑っている。
それは普段見せる冷笑ではなく…
何か『美しいもの』、『暖かいもの』を見たとでも言うような…

「フ…ま、どうせ酒でも回って脚が滑ったのでしょう」

笑みを消し、タチバナは続ける。

「誰だったか…そう、バーレ、ル…?
彼がドルチを連れてくる手筈になっています。
それまでに、もう一人の不快なアレも、動けない様に…」

グジィアァッ!!

「……え?」

シバミが、理解できぬまま声を漏らす。

「…茜…?」

呆けた様にハイネが呟いた。

『ネンノタメコロシテオイタヨ…』

その場の誰も見たことのないスタンドが、
茜の頭を踏み潰していた。

『ヤッカイダロウ?マンガイチフッカツシタラサ…』

アンバランスなスタンドだ。
人間の下半身から、頭だけが生えている様な…。

『…オマエラ、ドッチモ、サトヨシノテキナンダロ?
マア、セイゼイコロシアッテヨ…』

悠々と…そのスタンドは、離脱しようとする。

「何で殺したッ!!」

叫び声を上げたのは…シバミだ。
ハイネは、凍り付いたまま、動かない。
目の前の光景を、未だ理解できずにいる。

「何で、殺したのッ!!」

叫びながらシバミディアが、そのスタンドに殴りかかるが…
そのスタンドの形が、変化する。
無数の足跡の様な形に変化し、バラバラになって、
シバミディアの攻撃をかわす。

ソウル・ステーション…『スウィッチ』。
ルシファーのスタンドの、半身。

『ダカラサ…サトヨシノ、テキナンダロ…?』

からかうような声を残し…そのスタンドは、逃げていく。

「待てェッ!」

「待つのは君ですよ、酔いどれビッチ」

鋭い制止。

「戦闘中は…目の前の敵を、優先しなさい。
何があろうとも…」

視線は、ハイネを向いている。

ハイネは、無残な茜の死体に、ゆっくりと手を伸ばしていた。
それが茜である事を確認する為に何度か触り、
それが死体である事を確認するために、十秒ほど眺めた。

……。

「…ふ、フフ、ハハハハ…
ハハハハハハハハハハ…」

ハイネが笑う。
呆れたとでも言いたげに、右手で額を抑え、天を仰ぐ。

「そーかぁ、茜死んじまったかぁ…
何やっても死ななそうな奴なのに…あっけねーモンだ。
もうこれで…あいつの変なテンションに振り回されて、
イライラする事もなくなるって訳だ…
肩の荷が降りたよ、ホント…」

その言葉にシバミは、激昂する。

「アンタッ!自分の仲間が…」

「こ の 糞 ビ ッ チ ッ ! ! 」

B・D・Mが、シバミディアを突き飛ばし…
代わりにソリッド・カラーズの下段蹴りを貰う。

「分解しろ、ブルー…ッ!?」

蹴りを貰った足に、茜色が塗られていた。
その色は床にも広がっている。
まるでタチバナを描いた絵の脚の部分に、
絵の具をこぼしてしまった様だ。

そして…、
床と溶けあった様に…脚が動かない。

「クッ!
私の脚を分か…」

「遅え」

そのスピードは、B・D・Mを圧倒的に上回っていた。
両肩に連撃。バランスを崩させ、顎への蹴り上げ…
そのまま、踵落とし。地面に引き倒される。
更に…

「アアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

蹴りのラッシュ。
B・D・Mは、その体の8割を茜色に塗り込められ、
もはや分解の為に腕を動かす事も、スタンドを戻す事も出来ない。

「…闇に溶かす必要なんてなかった…
もっとシンプルに考えれば良かったんだ…

塗 り つ ぶ し て や る 。

ソリッド・カラーズ… Die from dyeing(染死【センシ】)…」

静かに、ハイネはシバミを見る。

「倒れてる男の言う通りだ。戦闘中は、目の前の敵に集中しろ…。


泣くのは後で良い。

あのスタンドを追うのも、後で良い…


今はてめーらを、綺麗にムラなく、上塗りしてやるよ。

…茜色に…!」


「ああ……やってみなよ。ハイネ、染殺すんでしょ。」

シバミは至って落ち着いていた。

タチバナの警告によって目を覚ましたのか。
火は消えているが、
まわりの空気が歪んで見える。
静かなる闘志がシバミを動かしている。


「ハイネ……引く気はない?」

「……は!?お前はここで死ぬんだよォォ、何余裕ぶッこいてんだ…?」

「だろうね。。。
残念だけど、もう『覚悟』は決めた。
当然だと思うけど、アンタ…『殺される』ッていう覚悟もあるよね……」


「(クッ、身体が……油断しましたね。
それにしてもビッチ。実に、らしくない態度ですね。
だが、『それ』でいい。でないとアナタじゃ勝てないですから)」

「染殺すゥゥゥ!!」

あざやかな蹴りのラッシュがシバミを襲う。
「……シバミティア」

紙一重でハイネの蹴りを避けるシバミ。
ほんの少し左肩をかすり、茜色に染まる。


「まだ…いける。」


確かにハイネの蹴りは速いッ。しかし、
シバミの反応速度も徐々に増してゆく。
むしろ速すぎるくらいに……。


「見える。
アイツの軌道が。
少しだけど、
アイツの蹴りが、
予測できる!!


『シバミティア・千酔ッ!!』

(※アルコールの力を昇華させ、感覚神経・思考能力を限界まではね上げる。)

瞬。


ハイネの蹴りを掻い潜り、シバミの拳がめり込む。


ドギャアァァァン!!
しかし、
ハイネにはあまりダメージは感じられない。
「全ッッ然、効かないぞォォォォ、

ヲ……ッ!?

ゴボォッッ!!」

両の足で身体が支えられない。
突然ハイネが倒れ、嘔吐し、もがき苦しむ。

「なッ……は…!?」

呼吸はどんどん荒くなり、ハイネの顔がみるみる青ざめていく。


「アンタ……お酒弱いでしょ。思ってた以上にまわりが速いわ。
シバミティアでアンタの体内の水分をアルコールに変えてたわ…。
急性アルコール中毒よ。」


「こ、んな……」

ドサッ


意識を失うハイネ。


シュゥゥゥゥゥン


茜色に染まっていたタチバナの身体が元に戻っていく。


「どうやら、決着ですね。
……ッ!?
ビッチ!!何をやってるんですか!?」


ハイネを担ぎ、運ぼうとするシバミ。


「まだ、間に合う。
ちょうどここ病院だし、すぐに処置すれば……大丈夫よ。」

外伝『Intolerant of die!』 

「痛ったぁ…」

額に脂汗が浮かんでいる。
あんな無茶をすれば当然だろう。
そこかしこが痛い。

「大丈夫か?」

背後から、声。

「よぉ…松葉ちゃんじゃん」

「ちゃん付はやめてくれ、ソバ。」

街外れの廃屋。
人目のないこの場所で、ソバサイと松葉は落ち合った。

「ナイスタイミングだったぜ」

「そりゃどうも。あのバァさんたちは?」

「知らね。生きてんだろ?アイツら、しぶとそうだったし」

苦笑。
その口調に、嫌味の様なものは一切感じられない。

実際、松葉もソバサイも、彼らが死んだとは思っていなかった。
本心では、苦手なのだ。人死には。
ゆえに、あまり死傷者が出る事をしない。
今回の事も、ヒデエモンがあの場にいたために強行策に出ただけの話。
ヒデエモンの能力なら、死にはしないだろうという、ソバサイの予測に基づいての行動
だった。

「ところで、ソバ。」

「ああ、茜とハイネな」

「茜は、残念だった」

「…本当に死んじまったのな、あのお転婆」

「・・・正体不明のスタンドにやられた」

松葉は、病院でハイネ達の戦いを覗いていた。
シバミの一撃で昏倒した茜にとどめをさした、あの不可解なスタンド。
周囲に本体は見当たらなかった。
遠隔操作型なのか?

「ハイネは?」

「生きてるみたいだよ。病室に運ばれるとこまでは見た」

「悪運強いね、あの子」

そう言うソバサイの顔は、弔辞の表情。
仲間を失うのは、いつだって辛いものだ。

松葉はうつむいたままだった。

二人は口を閉ざし―

少しの間、散って逝った仲間の冥福を、祈った。




「……松葉ちゃん、タバコない?」

沈黙を破ったのは、ソバサイだった。

「…そう言うと思って、買ってきた。」

ソバサイは無言で、口に咥える。

松葉も倣う。

火をつけ、一息。

ソバサイは目を細め。

松葉は咳込んだ。


「無理して吸うから」

「…げほっ…五月蠅いな、分かってるよ」

松葉は、タバコを吸わない。

「ハイネはどうする、松葉ちゃん?」

「回収してやりたいが…」

「のこのこ出てく馬鹿もいないな」

「ああ…追々、引き取りにこよう」


どんな意図があるにせよ、奴等は茜を殺そうとしなかった。ハイネを殺さなかった。
この先、ハイネが殺されるとは考えにくい。

ならば、万全になってから迎えに来ればよい。


「…まあさ、オレ達がまだ、生きてれたらの話、だあね」


悲しげに呟いたのは、ソバサイだった。


空は、茜色に染まっていた。



【松葉・ソバサイ:ケイの元に帰還】

「ホントに、お前は飽きないな……
 いきなり奇怪な行動したり……
 いきなり死んだり……
 いきなり目の前に現れたり……」

(やー、僕もびっくりだよぉ)

「……で?お前は『茜本人』なのか?『私の記憶(茜)』なのか?」

(んー?それはちょっとムツカシイ問題だね☆)

「まぁ、どっちでも良いか……」

(だねー☆)

「…………」

(…………)

「……何だよ……何か言いに来たんじゃ無いのかよ?」

(んー……忘れちゃったからいいや☆)

「……ック……ッハッハッハ!」

(笑う事なくないッ!?)

「ックック……いやスマン、普通こんな時って大事なメッセージとか残す物だろう?それを忘れたなんて……」

(むぅ……でも、ハイネちゃんが元気そうで良かったよ……)

「……やっと、ウルサイ奴が居なくなったんだ……元気も出るさ」

(あれ?僕のことそんなに嫌いだった?)

「……すっげーキライだった」

(うぅー、化けて出てやる)

「ハハ……じゃあな!」

(えぇ!?普通、消えるのって僕じゃないの!?
 ……ま、いいか☆じゃあね~♪)



目を覚ますと病室のベットの上に居た。
周りを見渡しても茜は居なかった。

「……キライってのは……逆説的に好きだって事なんだぜ……」

ポツリと呟くハイネ。

その頬には熱い何かが流れていた……。

「女帝が再起不能か。上出来だ」

そこは神に最も近い部屋。
ソバサイと松葉は、ケイへと今回の戦闘を報告していた。

「ま、しっかり確認したわけじゃァ、ねーけど」

ソバサイが内心を押し殺し、気楽な声でケイに肩を竦める。
詳しい情報は掴めていないが、
『どうやら』トメとヒデエモンのダメージは大きく、
戦闘に参加するのは難しい、という事のようだ。

「ま、実際どーなってるかァ、知らねーけどッ」

ソバサイの言葉は、いつも軽い。
…松葉は、無言でケイを睨んでいる。

「そして…ハイネが失踪か」

ハイネは音信不通だ。
携帯も全く繋がらない。

「茜の事でショックにやられてたからなァ、多分、
茜を倒したスタンドを追って…」

「それはないだろうな」

ケイは首を振る。

「誰かにそこまで執着する事は、奴のプライドが許さない。
おそらくもう、我々の件に関与する事はあるまい」

ソバサイは唸る。
確かにあの女…いや、その…アイツは、
心の中で誰かを自分より上に置く事を良しとしないだろう。
例えそれが真実でも、事実でも、否定するだろう。

「ハイネと茜はクツケイを確実に仕留める為の最適手だったのだが
こんな所でしくじるとはな。
難しいものだな、駒を動かすのも、賽を振るのも…」

「…そんだけかよ?」

松葉が、小さく、聞く。

「何か?」

「茜への言葉はそんだけか、って聞いてんだよ俺はッ!!」

「おい、松葉ちゃん…」

制止するソバサイの手を振り切り、
松葉はケイの胸倉を掴む。

「そんだけかァッ!テメエの、茜への言葉はッ!」

「そうだな…」

ケイは一度目を伏せる。
その態度に、松葉はゆっくりと手を離した。

「神の為に闘った彼女は、神の御許へと向かえるだろう」



激昂。



次の瞬間、ウルトラソウルが、右手をケイへと構えている。

「テメエエエエエエエエッッ!!!

茜はな… 茜はッ!!!

ずっとテメエの為に、テメエのためだけに、
闘ってたんだろうがァァァァッッ!!!!」

「そうか。




私欲のために人の命を奪うものは、地獄へと落ちるだろう」




「「ッ!!!!」」




ウルトラソウルが右手から光を放つよりも速く、
松葉の体は己の影へと引き倒される。

「ムーンライト・シャドウ…
松葉ちゃん。そりゃやっちゃァ、いけねーことだぜ」

ケイは、微動だにしない。

「今の件は…何も無かったと思おう。
下がりたまえ、ご苦労だった」

「テ、メ、エエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!」

「ぁぃょー…」

怒髪天を突かんばかりの松葉を、
テンション低くソバサイが引きずっていく。



己一人しか居なくなった部屋で、
ケイは一枚の写真を眺めていた。

---

「落ち着いたか?」

「……落ち着けねーよッ!!」

壁に逆さに貼り付けられた松葉が、
ソバサイへと怒鳴る。

「頭の血は下がったか?」

「頭に血が下がってんだろうが、どう見てもッ!
…もう解ったから降ろしてくださいお願いします…

グエッ」

べちゃり、と床に潰れる松葉。

「…何やってんだろうねェ、俺ら」

「…世界、救おうとしてんだろ、俺ら」

「…救えんのかな。世界…」

「…少なくとも、ケイならサトヨシを倒せる。
逆に言えば…俺達じゃ絶対ェー無理だな、
あんなバケモノ」

実際にサトヨシと戦った松葉は、
吐き気を抑えながら首を振る。

「…俺らだけでも救えりゃいーのにな、世界」

「そんな簡単じゃねーだろ、世界…」

ソバサイが、煙草に火をつける。

「…簡単ならいいのにな、世界…」

---

ケイが、写真を指で弾く。
写真は、醜く弾けた。
そこに何が写っていたかは、もう解らない。

【茜:レ・ミオ・ロメン…死亡
ハイネ:ソリッド・カラーズ…戦線離脱(リタイヤ)?】


第15話 『帰る者、去る者、帰らぬ者』

To Be Continued...   外伝『信頼』

最終更新:2008年02月01日 22:33