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外伝『アルジスの手紙』

はぁ、はぁ、はぁ……ッ

杏子は、暗闇の中を走っていた。
タチバナが居る筈の、病院を目指して。

はぁ、はァ……ッ!
(早く……早くしないと……アルジスさんが!!)
杏子は、自分を逃がす為に敢えて『敵』に立ち向かったアルジスの事を思っていた。
『敵』とは顔見知りだったようだが、いきなり攻撃を仕掛けてくるような相手だ。急いで病院に助けを呼びに行かなくては……!

「ッ!?」
杏子は急停止した。
目の前に、人影が躍り出てきたからだ。
そして人影の顔を、街灯が照らした。
杏子は息を飲み、そして安堵の溜め息を漏らし、人影に駆け寄る。
「のりこ姉ちゃん……!!」

人影……『のりこ』は、微笑みを浮かべながら、従姉妹に歩み寄る……

【本体:のりこ/スタンド:スイート・ノベンバー】



「……そう怖い顔をしないでおくれよ、『アルジス』。」
高級なスーツに身を包んだ、上品な顔立ちの青年はアルジスに話しかける。
「気安く呼ばないでくれる?……まさか貴方にまた会うなんて、思わなかったわ。」キッ、と鋭い視線を青年に向ける。

青年は苦笑しつつ、敵意がない事を示すために両手を広げる。
「……僕は、君に会いに来たんだよ。……やり直したいんだ、アルジス。」芝居がかったキザったらしい口調。
それが、とても勘にさわった。
「今更!……それに、今日の目的は本当は違うんでしょう?」
「違わないさ。僕がこの任務を引き受けたのも……対象が君だったからさ。」胸に手をあて、微笑みを浮かべる。

アルジスは、かつてこの微笑みに騙され……そして深く傷ついた。
今更、そんなことを言われても嬉しいどころか、憎さ百倍だ。
「やっぱり……貴方も『神の尖兵』ってヤツなのね?『サルヴァトーレ』。」


【本体:サルヴァトーレ=チャン/スタンド:モンキー=ビジネス】


「……ま、そう言うことになるかな?」髪を掻き上げながら、サルヴァトーレはさらりと応えた。
「それで?私と杏子を狙って……どうするつもりだったの?私たちには、貴方達のボスをどうこう出来る力は無いわよ?」
「君たちには、ね……でも、僕たちには利用価値がある……『人質』としてのね。」微笑を浮かべ、アルジスに歩み寄る。
「あまり手荒な真似はしたくないんだ……愛する君には特に、ね。」その背後には、サルヴァトーレのスタンド『モンキー=ビジネス』が既に控えていた。

「……つまり、『矢』をもう一度射すと、スタンドがパワーアップする……ってこと?」裕は、『矢』をしげしげと見つめながら神城 静夜に訊ねる。
「うん……お祖父ちゃんが遺していた文献と、トメお婆ちゃんから教わった事。それと……僕自身が『体験』した事。」静夜は『矢』をギュッ、と握りしめた。

「そして、正確には『矢』で『スタンド』を射すんだ……僕は、自分の指をうっかり切った時にその『片鱗』が見えたから気付いたんだけどね。」そう言って、『赤い宝石』が填められた『矢』を見つめる。

(この『矢』でスタンドを射せば……スタンドの『先』が見えるんだと思う。でも、それは確実じゃあない。だけど……)考えながら、これまで出会ってきた敵味方を含めたスタンド使い達の顔を思い浮かべる。
(この……悲しみの連鎖……繰り返される歪んだ世界を正常にするために。やらなければ……全ての人のために。失われてしまった人達の、意志を継いでいくんだ……世界を『先』に進めるために!)

スッ、と腰かけていた椅子から立ち上がる。
裕は、静夜の表情を見て頷いた。
その顔は、決意に満ち溢れていたから。


……危険な賭けかもしれない。
それでも、この世界をこれ以上歪ませない為に……何より、『サトヨシを救いたい』という思いの為に。

愛するものを守ろうとする度に、歪んでしまう哀しい『力』。
その『力』から解放してあげたい……サトヨシだけではなく、この歪んだ世界に囚われている者達を解放してあげたい。

いや、やらなければならない。
それが、祖父の望みだった筈だ。
そして、祖父は自分にその望みを託した……今では、そう考えるようになっていた。


瞳を閉じて、深い溜め息をつく。
既に左手には『矢』が、右手にはスレイヤーが握られている。
「『矢』よ……僕の想いに応えてくれッ!!」


ドギュゥゥゥゥゥッ!!
『矢』は、スレイヤーの刃を貫き、そして眩い閃光が闇の帳を吹き飛ばす……!!


「!なんだ、今の光はッ!?」
神城邸に向かっていたジョーイは、凄まじい閃光を目にした。
「悪ィ感じはしねぇが……とにかく気になるな。急がねぇと……」気を取り直し、ジョーイは静夜の元を目指した。

「人質……ね……
 ずいぶんと物騒じゃない。
 縄で縛ってしょっ引いて行くつもり?」
「おいおい、勘弁してくれよ。
 人質とは言ったけど可能な限り客人として扱わせてもらうつもりだよ?
 それにそんなものじゃ君を縛れない……」

 チャンは一呼吸おくと今まで以上に芝居がかった口調で話し始めた。

「君を縛れるのは荒縄?
 違う。
 網?
 違う。
 鎖?
 違う」

 チャンは荒縄や網、鎖をどこからか取り出し、捨てることを繰り返していた。

「君を縛れるのは僕の『愛』だけ……
 そうだろ?」

「……」

「おいおい、せっかくの殺し文句なのに無視かい?
 恥ずかしがり屋さんめ。
 まぁ、それならしょうがない。
 実力行使と行こうか」

 そう言うとチャンは持っていたジュラルミンケースを開け、中から大量の札束を取り出した。



懐かしい記憶が、蘇る。


貴方と過ごした日々。
貴方に貰った沢山のプレゼント。
貴方はいつだって、私を愛して。
貴方を愛した、私は。





「……貴方はいつも、そうだった」


アルジスがうたうように、静かに口を開く。


「何もかもをお金で買えると思ってる。手に入ると思ってる。
……それは何ら可笑しいことじゃないし、時にお金は愛のカタチをを表現することだってある。
それを私は真っ向に否定しないし、疑うこともしない。
だって、私と貴方との間で、確かにそういう愛が成り立っていたのは真実だから」


何処か、遠くを見たままに。
アルジスは言葉を続ける。

「でも……貴方こそ酷いじゃない。
こういうとき、私を愛で縛るんだったら、お金なんて持ち出さないで欲しかった。
私が貴方に求めたのは、些細な『愛を通じ会わせること』(ラブ・トーク)だったのに。
貴方はいつだって、悲しいくらいな『一方通行な取引』(モンキー・ビジネス)だったもの」


今から思えば、それは本当に愛だったのか。
今から思えば、それは真実に恋だったのか。

アルジスには、わからない。


「何もわかってなんていなかったんだわ。私も、貴方も。
きっと、二人とも幼すぎたのね」


微笑みは、まるで愛惜しむかのように。

アルジスは、眼前の男に話しかける。



愛ってどういうものなのか。
恋ってどういうものなのか。
お互い、知ったようなふりをして。
お互い、ちぐはぐなまま噛み合わなくて。

本当の答えなんて、わからなかった。
それだからか、答えを出すのも、容易だった。
心の整理など、とうに済ましていたからか。

不思議なまでに落ち着いていた声で、アルジスはその言葉を言った。

「愛していたわ、チャン。
でも今の私を、お金で買えると、思わないで」




決別は、かくも穏やかに。
彼女は、男に縛られることを拒んだ。






「………………なぜだ」

チャンは、呆然とアルジスを見る。
いや正確には、その視点はアルジスの姿など捉えてはいない。


「どうして、僕の『モノ』にならない……アルジス……。
これだけの愛なのに……これだけの金なのにぃ……!!
モンキー=ビジネスっ!! これだけのカネがあるんだっ!!
早く彼女を、アルジスを!
僕の『モノ』にするんだァァァァァ!!!」


「無駄よ。商売の原則は双方が納得しない限り成立しない『契約』だもの。
……それも、貴方が教えてくれたことよ!」

唇に、ルージュをひく。
躊躇うことはない、目の前にいるのは、かつての恋人である前に。

敵だ。

「警告するわ、チャン。
死にたくなかったら、其処をどきなさい。
自分の命は買えないでしょう!」



アルジスが奔る。
かつて愛した男を、この手で倒すために。

「大体あたしは、モノを大切にしない人って論外なの!」
アルジスは一輪のバラを取り出しキスをする。
「そして、この子達もあなたの事が大嫌いだって!!」
意志を持ったバラは刺をチャンに剥けて飛ばす。
勢いよく飛んだ来るトゲにチャンは余裕の笑みで居た。

「モノを大切にする?バカバカしい、お金があれば幾らだって買えるんだ。昨日買って10キロ走った車を、今日乗り換えたって良い。この世界の仕組みはそうだろ!?モンキー=ビジネス!?」
ビジョン化した商売人が黒いアタッシュケースを開ける。
「支払イ、先」
そう言って手を伸ばす商売人にチャンはキャッシュを支払う。
「ほら、払ったから僕に使える道具をおくれ!」
商売人から渡されたのは袋に入った粉だった。
「これをばらまけば良いんだね??」
袋に入った粉をばらまくとチャン。
するとバラの刺はあっという間に枯れていった。
「なるほど…これは枯れ葉剤かぁ。相変わらず危ないモノを提供するね?モンキー」
「キキッ」
微笑むチャンにアルジスを嗤うかの如く鳴き声で答えるモンキー

「さぁて次はどうするんだい?アルジス。もう諦めて僕とこれからの人生に関する商談を纏めても良いんじゃないかい??」
余裕のチャンの言葉にアルジスは怒れる事もなく、また余裕だった。
「あなたはいつもそう。負けず嫌いのクセに努力をしない。お金でどうにかする陰湿な人。そんな貴方に教えてあげないといけない事があるんだけど…知りたい?」
アルジスは微笑みながらチャンに近づく。
「ほほぉ…それは世間では当たり前の事かい?」
チャンも余裕で近づくアルジスを迎える。
「そうよ、当たり前の事…とても当たり前。所でチャン?あなた今いくら持ってるの?」
そう言って、アルジスはチャンの目の前で止まる。
「ん?幾らってざっと3000万円ぽっちかな。モンキーは何でも売ってくれるけど割高なのでね。」
「あらそうなの。じゃあ、本題に戻ろうかしら…教えてあげるわ。お金は人を裏切るの。」
アルジスは妖艶な微笑でチャンに言う。
「あなたの3000万も例外じゃないわ…。お金をみてごらんなさい」
「なっ…!!」
慌ててアタッシュケースを開けると仲のお金の大多数が粉々にちぎれていた。
「な、なぜだぁぁぁぁぁッ!?!?!?!?」
絶叫する、チャンを見ながらアルジスは話し始める
「あなたがモンキーにお金を渡すときに、あたしはあなたの3000万に投げキッスをしたわ。投げキッスじゃ、反抗意識を持つ子も多いけど、3000枚もあるならあたしの為に自ずと破れてくれる子も多くなるわよね。」
チャンがきっとアルジスをにらむ
「アルジス………!!!!」
にらむ視線をさらりと交わしアルジスはそよ風の囁きの様にそっと静かに、そして冷たく呟いた。
「だから言ったでしょ?お金は人を裏切るって。」

チャン、残金750万
モンキービジネス平均売価150万。

杏子は、『偶然』出会った従姉妹の『のりこ』を信じられないといった眼差しで見つめる。
「どうしたのよ?杏子……久しぶりに会ったって言うのに。嬉しくないの?」クスッと笑みをこぼして、歩み寄るのりこ。
その背後に控えるは、彼女のスタンド『スイート・ノベンバー』。

「どうして……のりこ姉ちゃんが!?」まさかの攻撃に、杏子は動揺した。

- いつも、一緒に遊んでくれていたのりこ姉ちゃん。
優しくて、いつでもアタシの味方だったのりこ姉ちゃん。
それなのに -

信じていた人に、裏切られた……攻撃による肉体へのダメージよりも、ショックによる精神的なダメージのほうが深かった。

呆然とする杏子に止めをさす一言を、のりこは言い放つ。
「ごめんなさいね、杏子。私……『神の尖兵』なのよ。」ピィー……♪。
口笛を吹きはじめるのりこ。
『スイート・ノベンバー』は口笛を合図に、『脂肪』を『分解』して様々な形態に変化、相手を翻弄させる攻撃を得意とする。

(杏子は、私がスタンド使いだという事を知らなかった。
逆に、私は杏子の能力を熟知している……)
スイート・ノベンバーは、その能力で腕を巨大なハンマーへと形状を変え、そしてそれを高々と掲げる。

(しかもあの子は今、ショックを受けて動揺している。
私が負ける要素はない……悪いけど、ケイ様の為にもあんたを倒す!)
「スイート・ノベンバー!やりなさい!!」
のりこの命令を請け、スイート・ノベンバーはハンマーを一気に降り下ろした!!

(ま、殺すつもりはないから安心して、杏子……私は、あんたを動揺させる為に選ばれただけなんだし。)のりこは、心の中でほくそ笑んだ。

「……んで?」
ボリボリと、頭を掻きながら訊ねるジョーイ。
「いえ、それが……」ちらり、と静夜のほうを視る裕。
やはりショックを隠せないようで、ガックリと肩を落としている。
あまりに気の毒に見えて仕方ないので、裕は声をかけられないでいたのだが。

「おい、静夜ッ!いつまでボケーッとしてやがるッ!!」ボカッ!と失意の静夜の頭を殴り付けるジョーイ。
「なっ、何してるんですか!」裕が慌てて制止しようとする。
「邪魔すんなッ!……ったく、ガキのクセに背伸びして、自分一人でなんでも背負おうとしてるんじゃねぇよ。」煙草に火をつけて煙を吐き出す。

そして、諭すように静夜に語りかけた。
「俺たちはよ……『コンビ』組んだんだろ?それなのに、テメーは一人で勝手に動きやがって……」スッ、としゃがみこみ、俯いたままの静夜の顔を自分に向けさせて怒鳴り付ける。
「挙げ句の果てには、勝手に自分のスタンド『出せなく』しやがってよ!」

バキッ!!

再び、ジョーイが静夜をブン殴る。
床に倒れたまま動かない静夜を助け起こし、裕が避難の声をあげる。
「何するんですかッ!少しは静夜を励ましてあげても……」

「甘ったれてんじゃねェッ!!」
空気が震える程、ジョーイは吼えた。

「お前は一人じゃねぇだろうッ!」
裕に助け起こされた静夜は、まだ俯いている。

「俺がいる!婆さんがいる!いけすかねぇバーレルの野郎もいる!林檎もいる!そして……そいつもいるじゃねぇか!」ジョーイは尚も声を張り上げる。

「シンとデュカの事を忘れたのか!?アイツらみたいなのを、もう出したくないって言ったじゃねぇか!」
静かに震える静夜。

「お前は、一人で闘ってるんじゃない……だから、全部背負おうとするな。お前の背中はまだ小さいんだからよ。」煙草を消し、肩を叩く。

「背負いきれない分は、俺たちが背負ってやる。だから……」
手を差しのべて、ジョーイは微笑む。

「だから、立てよ……『静夜』。」

フ……フフッ……

「……あ?」

「フフフ……アハハハッ!!」顔を上げ、大声で笑う静夜。
「……まさか、ジョーイさんに説教されるとは思いませんでしたよ。」
「なッ、テメッ……」「でも……」静夜は、差しのべられた手を握った。

「ありがとうございます。お陰で目が覚めました。……僕は、一人じゃない。」いつもの、笑顔。
それを見て、ジョーイと裕も笑顔を浮かべた。

のりこの姿が変化したことを杏子は見逃さなかった。
 体が全体的に細くなり、代わりにスタンドの片腕だけが太くなったのだ。
 杏子はそこからのりこのスタンド能力が『脂肪を操る』ものだと理解した。
 経験は少ないとはいえ、スタンド使いとの戦いが彼女に『判断力』を備えさせていた。

 それでも杏子が攻撃を躊躇うのには訳がある。
 従姉妹ののりこが敵であることも当然あるが、
 それ以上に彼女の強さが判断できないことが大きく影響していた。
 まず、彼女のスタンド能力がどれほどの性能を持ち、その能力の制限が分からない。
 もしかしたら脂肪を硬質化させることで威力を高めることができるかもしれないし、
 もしかしたら弾丸のようにそれを撃ち出せるのかもしれない。
 また『脂肪を操る』という能力から、脂肪の絶対量が威力に寄与することは明らかだ。
 その点、彼女はその要素を持っている、いや『持ちすぎている』
 彼女の前ではカレーすら飲み物と形容し得るのだから当然といえば当然のことなのだが
 いわゆる『かなり太め』の体系に属している。
 いくら脂肪とは言っても大きな質量で殴られたのではたまらない。

「しばらくは……様子見ね……」

 杏子はスウィート・ノベンバーの攻撃を避けながら対抗策を練った……



――――――――――



「あぁ……せっかく……君のために用意したのに……
 後で行くドライブに使う車を買うようなお金や……
 君が着るドレスを買うお金もあったのに……」

 チャンは細切れになってしまった大量の札束を見ながら呟いた。

「どいて、チャン。早くしないと一文無しになっても知らないわよ?」
「お金は人を裏切る、か……それが世間一般の常識なのか……
 ……
 だが……
 君はビジネスの常識は知らないみたいだねッ!」

 今までの様子と打って変わってチャンは言葉を荒げ、残りの金をすべて取り出した。

「使えなくなる前にッ! 使ってしまえば良いッ!
 ビジネスの世界には『前払い』というシステムがあるんだよッ!
 しかも、『前払い』を行えばッ! 割引が利用できるのがビジネスでは一般的ッ!
 当然僕のモンキー・ビジネスも例外ではないッ!」
『キキキ! 3%引キデゴ奉仕サセテ頂クゼェ』

「とりあえず、よおく分かったわ。
貴方はやっぱり手段を選ばないってことがねっ!!」

物陰から声をあげる。
アルジスは今までになく憤然していた。

「お金でどうにかする……っていうか力ずく?!
元恋人に銃を向けるとか、冗談にもなりゃしない!!
世間一般の常識っての無視しすぎ!!」

チャンの手に握られたのは、H&K・MP5K。
9mmパラベラム弾使用、装弾数40。小さくも列記とした殺人武器。ちゃっかりサイレンサーまで付いている。

「大丈夫、弱装弾だ。当たり所が悪くなければ死ぬことはない。
まあ、一発でも当たったら骨折は免れないだろうけどねえ」

「貴方の銃の腕で当たり所が良いわけないじゃない!」

デートでチャンにハワイの射撃訓練場に連れて行ってもらったことがあるアルジスからすれば、それは充分保障できる。
精確性など皆無。只管にばら撒かれる弾幕に計画性などない。

パパパパパパパパパパパパパパパパパパ……。

サイレンサーで消音された銃撃はまるで玩具のよう。
近距離パワー型スタンドならば防ぎようがある攻撃も、アルジスにとっては少々堪える。

距離をとっては、ラブトークの真価を発揮できない。
秒間に吐き出される数十の銃弾に意志など持たせられない。

そもそも、アルジスの能力は戦闘向きではない。
そう、杏子でもいない限りは、積極的な攻撃など……。


(――――そういえば、杏子は?)

ふと、アルジスの思考にそのことが過る。


もう病院に着いているとしたら、今ここに誰か助けが来ていてもおかしくはない。
――それが、現実にそうなっていないということは。


(杏子が、危ないっ!)



――――――――――――――――――――

「ちょっと出かけてきますよ、酒ビッチ」

「ちょ、ちょっとっ!皆がダメージ受けて動けないのに。
アンタ何勝手なこと言ってるのよ!」

「無礼ですね、久しく出番がなかった私に対して。
敵はあなたがいれば、まあなんとかなるでしょう。
それと、傷ついている方達に何か薬酒でも作ってあげなさい」

「――薬酒ね、アンタにしては良い案じゃない?
で、どこに行ってくるの?」

「黙れ酒ビッチ……失礼。
何、貴女よりかは礼を尽くしてくれた彼女達を迎えに行くんですよ」

「へえ、アンタがね。そんなお洒落しちゃって行くなんて。
いったいどこの誰なんだか?」

上下は一張羅のキャサリンハムネット。
サングラスはジャンポールゴルチエ。
フレグランスは少しあざとくエゴイスト。

先程の戦いとは装いを新たにキメて。
かくして、ムトウタチバナは優しく微笑む。

「決まってるじゃないですか、恩人ですよ。
無力だった私を今まで守ってくれていた、ね」




―尖兵

たしかあの人もそうだって言ってた。

彼女が最初に私の前に姿を現したのはいつだったろうか。



―ねぇ、あなたには大切な居場所ってある?




そっか。彼女はいつも私が迷った時に来てくれるんだ。

その時私は自分を見失っていた。
私は何をしたいのか。
何をすべきなのか。



「何をボケーっとしてるのよ!」

のりこのスタンドの拳が振りかざされる。




―私にはあるわ。絶対に失いたくない所。

へらへらしながら殺すとか言ってたくせに
いきなり恐い目をして説教してきた変なやつ。

でも・・・

彼女が去った後もその言葉は私の心で響いていた。



―私の居場所



「あばよッ!アンコ!」

目前に拳が迫る。




私は今ならハッキリ言えるわ。

自分の居場所をしっかり守れたって。


―好きよ。タチバナさん。
あなたがゲイでも露出狂でも変態でも
あなたのことをもっと知りたいって思う。
あなたのことを守りたいって思う。

だから力をかして?

「茜さんッッッ」



ボクヘェェェッ



のりこが派手にふっとぶ。

杏子のそばにはいつの間にか男が立っていた。

「タ・・・タチバナさんっ」


「僕と言う人がいながらどこかのビッチに助けを呼ぶなんて
まったくもって心外ですね。」


――――――――――――――――――――




聖堂の中。

一人の男が神を見上げている。

後ろに気配がする。

「茜・・・」


『好きだよ?ケーちゃん。』


「知ってるよ。そこにつけこんでいたんだ。」










また失ってしまった。俺の大切な人・・・

「お…お…」
言葉が出ずにタチバナを見つめる杏子
「どうしたんですか?もしかして、それもスタンドの…」
言いかけた所で大声で杏子は泣き出した
「うわぁぁぁん…お、王子さまが迎えに来てくれたあぁぁぁ」
タチバナは絶句する
「な、何を言い出すのですか…。ま、全く。私は女性に毒リンゴを渡す魔女にはなれてもキスで救う王子にはなれませんよ…杏子」
突然の言葉に焦ったタチバナの言葉はしどろもどろだ。
「どうも、貴方とはやり辛い…。さぁ、そこで倒れているビッチ…失礼。起きあがりなさい」
向き直ると一生懸命起きあがろうとするビッチ…筆者も失礼。のりこが居た。
「痛い…脂肪を盾にしといて良かったわ…大したダメージにならなかった。。」
のりこは起きあがりタチバナに目を向ける
「痛かったわ、今の一撃。でもあたしは負けない!」
口笛を吹くのりこ、曲調に合わせて脂肪が変化しだした。
「突撃兵の型!これで決めてあげるわ!」
大きな槍と大きな盾に変形した脂肪を見て顔をゆがめるタチバナ
「醜い…なんて醜いビッチなんだ…。」
頭痛が…と言いつつ頭を抑える後ろで不意に声がする
「本当だ…こりゃポークビッツ…失礼。ポークビッチだな」
振り向くタチバナと杏子。そこにはDrERが立っていた。
「人のまねをするのは関心出来ませんね先生。どうしたんですか?こんな所まで」
ERは軽く笑いながら言った。
「いやいや、すまないね。君も、私の患者みたいなモノだからねタチバナ君。復帰祝いに手伝おうかとね。そして、物真似がダメなら私風に言わせて貰おうか。けしからん脂肪だ。全くけしからん。」
ERは指をびっと指してのりこに言った。
「君の脂肪、そのままではいかんね。最近のダイエット…ビリーなんとかの代わりに、けしからんブートキャンプでもいかがかな?講師はこのタチバナ先生だ。」
タチバナはやれやれと続けて喋る
「勘弁して下さい、こんなポークビッチ…失礼。私は相手にしたくない。美しくなれないモノは嫌なんです。」
二人の会話はのりこの逆鱗に触れる。のりこは全力で怒りをあらわにして走りだした。
「こ…この!!生きて帰さない!絶対に!絶対に!!」
これは参ったなぁと言いながらERはタチバナに
「じゃあ、僕は知り合いに会いに行くよ。金に溺れた僕の学友にね…。この肥満患者は君に任せるよ。タチバナせんせ。」
と、言って背を向けた。
やれやれ…と言った具合に額に手を当て片手を出すタチバナ
「B.D.M!あの醜い槍と盾を分解して差し上げなさい!」
無謀にも突っ込んでくるのりこへB.D.Mの拳が入る。
連続で拳が入れられ次々と分解されていく脂肪。そして、それは地面に落ちていった。
「さぁ、これで貴方の武器はなくなりました。次はどうしますか?」
余裕のタチバナを見てのりこは更に怒り狂う!
「まだ!まだ終わらないわ!」

……『脂肪』を『分解』する時、そこには『エネルギー』が生まれる。
その『エネルギー』を利用し、肉体を変形させる……それが『スイート・ノベンバー』の能力。

今まで『脂肪』を『分解』して得た『エネルギー』は、総て『変形』だけに使っていた。
しかし、スタンドの能力で増幅された『エネルギー』を『攻撃力』へと『変換』すれば……?


ジュワァ……

B・D・Mにより『分解』された『脂肪』が、一気に燃焼し『分解』される。
立ちこめる異臭に、流石のタチバナも顔をしかめた。
「これは……なるほど。『脂肪』を『分解』し『エネルギー』に変換した後、爆発的な攻撃力を持って私を攻撃する……といったところですか。」眼鏡をクイッと動かし、薄く笑みを浮かべる。
「いいでしょう……かかってきなさい。いつまでも、その醜い脂肪の塊を観ていたくはありませんからね……美しく、ない。」
更なる挑発の言葉に、怒り心頭なのりこ。
「テェェェメェェェッ!調子に乗ってんじゃねェーわよッ!!お前も『肉ダルマ』にしてやるわッ!!」

発生したエネルギーを取り込み、凄まじいパワーを得たのりこ。
それを悠然と見据えるタチバナ。

数秒間の睨み合いの末、のりこが先に動き出した!

「ハァァァァァッ!!」限界まで脂肪を分解したのりこは、俊敏な動きで攻撃を繰り出す。
「フッ……雌豚にしてはやりますね。」完全に回避することは出来ないまでも、ダメージを最小限に抑えるタチバナ。
更に、火に油を注ぐ一言を放つ。
「しかし、限界までパワーアップしてもこの程度ですか?期待外れもいいところだ……所詮、貴女は『ポークビッチ』なんですよ。」

プツゥゥーーーンッ!!
完全にプッツンしたのりこが、吼える!!
「ブキィィィィィィィィィィッ!!もう殺すッ!!今殺すッ!!スグ殺スッ!!」
自身の肉体を変化させ、巨大な拳を造り出すのりこ。
さすがに、この拳の一撃を喰らえばタチバナでも粉々に消し飛ぶだろう。

「タチバナさんッ!」叫ぶ杏子。
フッ……と微笑み、優しく名前を呼ぶ。
「心配要りませんよ、杏子。次で終わりにします。」
「あっ、でも……」
「解っています。貴女の従姉妹なのでしょう?殺したりはしませんよ。」その言葉に、ホッと胸を撫で下ろす杏子。
「なに会話してんのよッ、このホモ野郎ッ!!」突進してくるのりこ。
不適な笑みを浮かべて、タチバナは構えた。

「Buukyyyyyyyyyyyッ!!」
巨大な拳を高速で繰り出すのりこ!!

「『ブルース・ドライブ・モンスター』ッ!!」負けじと攻撃を繰り出すタチバナ。

ラッシュが宙空で激しくぶつかり合い、大気が震える!!

ガッ!

「くっ!!」のりこの拳が、こめかみをかすめる。
かすっただけでも、意識が刈り取られそうなほどの威力を秘めた拳。
しかしタチバナは意に介さず、更に攻撃を加速する!

「は……早いッ!?なんでよッ!パワーもスピードも、今は私のほうが上のハズッ……!?」狼狽えるのりこ。
徐々にタチバナの手数が増え、少しずつだが圧され始める。
「どうしてよッ!?どうして私がッ……」
「そんなことも判らないのですか?ビッチ……失礼。」闘いの中でも優雅に、そして華麗に振る舞うタチバナ。

ピッ、とのりこに指を突きつけ、言った。

「私が美しいからに決まっているでしょう……さぁ、これで終わりですよ!!」叫ぶと同時に、B・D・Mの拳が、今まさに振り降ろされんとしていたのりこの拳に集まる『脂肪』を『分解』する!!
「あっ。」
あまりに一瞬の出来事に、怒りも忘れてポカンとするのりこ。
その隙に、タチバナのラッシュが繰り出された。

ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴォッ!!!

ドッグァァーーーンッ!!
「うっぴゃぁーーーーっ!?」最後の一撃を喰らい、吹っ飛ぶのりこ。

拳を振り抜いたまま、タチバナはビシィッ!と姿勢を正して決めゼリフを言った。
「Vete al infierno!」

「のりこ姉ちゃん!」
襲ってきたとはいえ、相手は仲の良い従姉妹だ。心配しない筈がない。
杏子は慌ててのりこに駆け寄り……そして変わり果てたその姿を視て、呆然とする。

「タチバナさん……どうしてッ!?」
杏子の叫びに、タチバナは沈黙する。
「どうして……どうしてこんなッ!!」意識の無いのりこを抱き起こし、杏子が叫ぶ!


「どうしてこんなに、スリムになってるのよォォォォォッ!?」
背中を向けていたタチバナの肩は、僅かにだが震えていた。



【本体:のりこ/スタンド:スイート・ノベンバー】- 急激なダイエットで卒倒。再起可能。


一言で述べるならば膠着状態。
アルジスは容易に物陰から出れば、銃弾の餌食となり。
チャンは容易に距離を詰めれば、口付けの虜となる。
どちらも決定打を欠いている以上、それは免れない。

「ねえ、チャン。退く気はないの?」

「無論、退く気も逃す気もない」

「……何の為に神の尖兵になったのかは知らないけど、
こんな状況自体が無意味だと思わないの?」

「いいや?機を読むことに関しては僕のほうが上だ。
隙を狙って君をこの腕で掴まえる事に、別に何の問題もない」

その言葉を聞いて、アルジスは少しだけ笑った。

「……ねえ、私が貴方に送った手紙、読んでくれた?」

「読んだに決まっているじゃないか」

「……そっか。あれを読んだ上で、貴方は私に銃を向けるのね」

「……騙したつもりなんて、ないんだがね」

「結局、貴方は勝手なのよ。
いつだってそう、勝手すぎるの。
だから私は貴方を絶対に許さないし、もう二度と靡かない」


アルジスが、姿を現す。

「決着をつけましょう、チャン。
どうせ、銃はとっくに弾切れでしょう?」

チャンは何でもないガラクタのように、銃を捨てる。

「ああ、気付いていたのか?」

「ううん何となく。そう思っただけ」


アルジスが、自らの右手の甲に口付ける。
ルージュの跡が残った右拳を、かつての恋人に向ける。

「愛していたわ、チャン。
貴方のことはもう大嫌いだけど、その過去自体は何のウソじゃない。
だから、貴方を私以外にはやらせない。
貴方を再起不能にするのは、私以外には赦さない」

「今も愛しているよ、アルジス。
君の事は僕が守る。最後まで苦痛を背負うのは、僕だけで充分だ。
だから、君を僕以外にはやらせない。
何が何でも、君を僕のモノにしてみせる」

チャンが札束をじかに握り締める。
その額は僅か百万円程度。それでもチャンには充分過ぎる。



互いの距離は僅か。
相対する両者は視線を交わし。
逡巡する思考は交わることがなく。

そして、両者が地を蹴って。

「ラブトーク!!!!」
「モンキー=ビジネス!!!!」

スタンドを、発現させる。








その近くで、一人の少年が哂っていることなど知る由もなく。 

 


瞬間刹那の攻防は、まるで悠久のような時間にも感じられた。
崩れいく、チャンの網膜に鮮明に残る映像。
それは口紅の残った右拳ではなく。

それを回避し切ったと、確信したところに迫った。
白い肌の輝きを映えさせる、無垢な左の拳。

それが自らの右顎に炸裂したことを半ば不明瞭に感じるものの。
背後に忍び寄る影を、彼は見逃さなかった。
上半身だけの少年の姿をした、スタンド。

そして、その傍らに。
両サイドを刈り上げた不思議な髪形をした。
幼げな子供、いや――――。



魔王。



疾駆飛来する上半身が。
アルジスの背後へと襲い掛からんと疾駆飛来する。


それを避けようとアルジスを突き飛ばす。
身を挺して、アルジスを守らんと。

そして、ぐしゃりと。
自らの骨と肉が断ち切れる音を聞きながら。
臓腑を突き破るスタンドの腕の一撃に耐えながら。

『モンキー=ビジネス!!』

現在ある金額で購入できる最大火力の兵器を購入。
携帯対戦車兵器。パンツァーファウスト。
力の入らない片腕で、購入した兵器を肩に構え。

撃つ。
黒色火薬が発火し、成形炸薬弾頭を放つ。
放射線を画き、魔王『噴上瑠獅覇』へと疾駆飛来し。

爆発。
爆風が巻き上げる煙が、仕留めたか否かを確認させないまま。

血を、吐いて。
崩れ落ちる、自らの身体を呪いながら。
チャンは、斃れた。

痛覚などとうに無く。
死の自覚すら追いつかない中。

最後にアルジスが驚き、涙を流す光景を見て。
チャンは酷く優しい笑みを浮かべ。
最期に、彼女に――――――――を手渡した。

最後のプレゼントを。
最期のプレゼントを。




辺りを劈くような爆発音が響き、杏子とタチバナは音のした現場へと駆けつける。

「大丈夫!?アルジスさん!」

「一体、これは……何があったのですか……?」

かつての恋人が斃れる傍に、アルジスは膝を立てて崩れ落ちていた。
アルジスの手には、白と紫の花々。

季節外れのライラック。
その花言葉は、純潔と。


初恋。


「……馬鹿じゃないの。貴方って人は」

花なんて貰って、喜ぶ女だと思って。
それも、私が一番好きになれないヤツ。
貴方で五番目の恋だったのよ。

初恋なんかじゃなかった。
貴方にとってそうだったとしても。
私にとっては、五番目の恋。
そんな私に、ライラックなんて似合わない。

「こんなときにまで格好付けて。
スタンガンでも持ち出すかと思ってたのに」

本当、女心が分かっていない。
好きじゃないって、いってるのに。
最後の最後まで、貴方は勝手で勝手で勝手で。

嫌になる。厭になる。イヤになる。

「ばか……チャンの、ばかぁ…………」

涙が止まらない。
段々と体温を失っていく恋人の身体は。
遠い昔に感じた温もりですら、掻き消していくようで。


その事実を求めたくないが故に、アルジスは無力な娘のように、ただ泣きじゃくった。


本体:サルヴァトーレ=チャン
スタンド:モンキー=ビジネス
噴上瑠獅覇の手により、死亡。


魔王『噴上瑠獅覇』消息不明。



(とととというかですね?
さっき私を助けに来てくれた時に言ってくれた事って・・・
もしや・・・タチバナさん杏子にラブですか?
うはぁ参ったな"私の杏子(はぁと)"だなんて!)

メメタァッ

タチバナのチョップが杏子の頭部に減り込む。
痛そう。タチバナなんか照れてるし。なんだこいつ。

「そんな事言ってない。」

杏子は頭を押さえてうずくまる。
それを見下ろしているタチバナはなんだか嬉しそうだ。

「人の心の声を勝手に聞かないでください!」

タチバナとアルジスは互いに顔を見合わせる。

「駄々漏れだ。」
「駄々漏れですよ?」

この二人が羨ましい。
私達ももう少し素直になるべきだったかな?

「結婚の日取りはいつにします?」

にこにこしながら杏子はタチバナの後をついて行く。

「お前が死んだ後だ。」

タチバナはそっけない態度でそう言う。
嬉しいくせに。

「えーじゃあデートくらいしてくださいよー。」

「考えておく。」

・・・チャン

「アルジスさん!聞きました?今の言葉!
私しっかりケータイに録音しときましたからね。
証拠は十分にそろってますよ。」

「そうね。裁判でも勝てるわね。」

この二人は幸せになって欲しいな。

「何の話だ。」




―おい!

向こうから女の声がした。

「あいつは・・・」


―ハイネ


「知り合いですか?タチバナさんの」

その人は私達の前まで来ると息の整わないままタチバナに詰め寄ってくる。

「何ですか、暑苦しい。
求愛ですか?この前言ったでしょう。
あなたみたいなビッチは・・・」

こんなイキナリの状況でもタチバナはいたって冷静だな。
さすが。

「サトヨシってのはどこのどいつだよ!」

その女はタチバナの胸倉を掴む。
すごい形相。

「あのスタンドはそのサトヨシってやつのなのか!?
お前の知り合いか?どこにいる!知っていることを全て話せ!」

「 - でね?でね?……もう、タチバナさんッ!聴いてるんですかッ!?」腕を絡ませたまま、タチバナの顔を覗き込む杏子。
「……よくもまぁ、次から次へとくだらない話を続けられますね。やはり女と言うものは……」疎ましげな口調とは裏腹に、口元には微笑。

現在、杏子とタチバナはデートをしている。

明日をも知れぬ闘いの日々。
束の間の休息を楽しむため、意外にもタチバナから誘ったのだ。

しかし、休息を楽しむ筈だったのだが……

どうしても、気にかかることがあり、それが頭から離れずにいる。

- あの日、突如現れた謎のスタンド。
そして、サトヨシとの関係。

世界に終わりが近づいているにも関わらず、まだ理解できていないことも多々ある。
本当は、こんなことをしている場合ではないのだ……

むにっ。

不意に、杏子がタチバナの両頬を横に広げた。
「……いっらい、ろういうつもひでふか?」
「タチバナさん、さっきから眉間に皺寄せちゃってますよ?……今日は楽しむって、自分で言ったんでしょ?」タチバナの心配など全く意に介さず、屈託の無い笑顔を見せる杏子。

その笑顔を見ていると、何故か……

何故か、安心する自分がいることに、最近気が付いた。



「あら、ハイネじゃん。そんな血相かいてどうしたのよ?」昼間から酒くさいシバミに、ずずい、と詰め寄るハイネ。
「な、なによいきなり……ま、まさかアンタ、私に惚れたとか……」
「違う。が、私もお前の傍にいることにした。」

ハイネの突然の告白に、思わず酒瓶を取り落としそうになるシバミ。

「……え?どゆこと?」目が点になる。

「茜を殺したスタンド……ヤツは、サトヨシと関わりがあるのは間違いない。」
「はぁ……そうねぇ。」何を言いたいのか解らないシバミは、無難な相槌を打つ。
更に、真剣な眼差しでハイネは続ける。
「サトヨシを倒す為に闘うなら……ヤツもまた姿を見せるだろう。恐らく……いや、絶対にな。」

回りくどい話に、ついイラッとなったシバミは、ハイネを急かす。
「うん、それは解ったから……結局、何が言いたいわけ?」
そう訊ねられ、急に赤面するハイネ。しかもモジモジしている。
「つ、つまりだな……」頬がすっかり紅潮している。

「わ、わた、わたた、……私も……お前達に協力することにした。」

「……ハイ?」
今度こそ、シバミは酒瓶を取り落とした。

「ねぇ……タチバナさん?」
「なんですか?」

川沿いを並んで歩く二人を、夕日が紅く染める。

「全部、終わったら……また、デートしてくれますか?」
前を歩いていた杏子は、クルッと振り向いてタチバナを見つめる。
「フン、くだらない……何を言い出すかと思えば……」プイ、と視線を外してスタスタ歩き出すタチバナ。
頬を膨らませて、追いかける杏子。

「くだらなくない!アタシには、重要な問題だもん!!」パタパタと足音がついてくる。「くだらないですよ。」スタスタと、歩みを進めるタチバナ。
「全く、くだらない……約束することがくだらない。」
「なんで!くだらなくないもん!!」プンスカ怒りを露にする杏子。
漫画なら、頭から湯気が出ているところだろう。

ピタッ、と立ち止まるタチバナ。
「約束などする必要がないんです……最初から、そのつもりだったから。」

振り返り、言葉の意味をまだ理解していない杏子を抱き寄せる。


沈み往く太陽が、世界を紅く染める。
紅い世界の中、重なる二人のシルエット。

まるで、時が止まったかのように抱き合う二人。
永遠に続くかと思われた甘いひとときも、吹き抜ける風が流していく。

重ね合わせた唇を放す。
「タチバナ……さん……。」破裂しそうなほどに、心臓がドキドキしている。
「……寒くなってきましたね。行きますよ、杏子。」着ていたジャケットを杏子に羽織らせる。
衝撃の展開続きに、思考が鈍っていた杏子だが……理解すると同時に、満面の笑みを浮かべ、タチバナに抱きつく。
「はい……はい!帰りましょう!二人の愛の巣にッ!!」
「まだそんなものないでしょう。まったく……」微笑を浮かべつつ、タチバナは杏子の肩を抱いた。



サトヨシ……キミの障害になるヤツラは、ボクが排除してあげるからね……

ボクは、キミを護る為に存在するんだから。

だから、心配しないで、キミの思うようにしていいんだ……。

さぁ、みんな。
もうすぐ、『終わり』が『始まる』よ……



第16話『終わる愛、始まる愛』

To Be Continued…   外伝『秒読み』

最終更新:2008年02月01日 22:37