「そのために、ここでお前に逃げられる訳にはいか……ねぇ」
「死に損ないが……今度こそ息の根を止めてやるッ!」
渾身の力を振り絞りナイフを投げるバーレル。
しかし、サトヨシはいとも容易く弾き落とす。
「まだ解らないかい?圧倒的な力の差をッ!?」
ナイフを投げ続けるバーレルに対し余裕を見せ付けるようにゆっくりと近付くサトヨシ。
力尽きたのか一本だけ取り出したナイフを突き出し動きを止めるバーレル。
「ハッ!もう諦めたのか?じゃあ、これで……」
「ただ、闇雲に投げてるだけだと思ったか?」
「はぁ?」
「俺の能力は『分ける』そして『戻す』ッ!そして貴様が今居る位置はナイフが戻る『絶対領域』ッ!!」
その時、揚蝶はバーレルの背中に一人の女性の姿を見る。
「「平伏せぇぇぇぇッ!サトヨシィィィィィッッ!!」」
それは幻聴だったかもしれない……
しかし、揚蝶は確かに聞いた……バーレルと……林檎の声を
そして、それは揚蝶だけでなく……バーレルの耳にも届いていた。
咄嗟の事で反応しきれていないサトヨシは上半身を守るのが精一杯だった。
数本のナイフを足に受け体勢を崩すサトヨシ……
それは奇しくも平伏したようにも見えた……。
「貴様ァァァァァァァァァァッッ!!」
「すまない……林檎……俺には少し荷が重すぎた様だ……」
戻ったナイフの反動で後ろへと倒れるバーレル。
「後は……頼んだぜ……」
倒れ行く身体を支える人物にバーレルは望みを託す。
「アイツに今度メロンバーを買ってやらなくちゃいけないんだ……
可笑しいだろ?アイツはメロンバーを食った事がないんだぜ?
……だから、世界を救ってくれ……タチバナ……」
タチバナは静かに頷いた。
バーレル 林檎との想いをタチバナに託し 死亡
・外伝『掃除屋』
「can you feel that you're going down?
This is the end. This is end of you.」
落ち着いた声が辺りに響く。
「なにを言っている、クツケイ!」
それとは正反対のレッドの逆上した声。
彼は完全にクツケイの作る世界にのまれていた。
「死―それは何だと思う、レッド。
それは終焉?それとも始まり?」
クツケイの瞳はただ、静かにレッドを捕らえていた。
「なにを言い出す!」
「死後の世界など本当にあるのか。
人に魂などあるのか。
見ての通りあんたは私に対して怒りを顕にしている。
しかし、それはあんたに心が、魂があるからか。」
英雄―そう呼ばれた男は静かに続ける。
「そうあんたが思っているのなら、それは甚だしく勘違いだ。
あんたが放つ言葉、表す感情は、全てあんたの記憶から作り出される、
反射神経みたいな極めて機械的なものなんだぜ?」
「だからなんだと言うんだ!
くだらない御託並べてねーでささっとかかってこいよ雑魚がァッッツ」
「そう。死とは終焉だ。
死後の世界は生きている者のみにしかない。
だったらあんたのスタンドはなんだ?
死んだ存在を呼び寄せる?
存在してないものを存在させるっていうのはおかしくねーか?」
レッドに戸惑いの色が見える。
傍らにいる狼の輪郭がぼやける。
―精神的敗北
雑魚だなんてとんでもない!
この人はなんて大きいんだ・・・
神城は広がっていくクツケイの世界を感じてそう思った。
「終わりだ。レッド」
ハイブリットレインボウの左手が静かに動く。
右手首のカバーがスライドする。
虹色の軌跡を残し、その拳はL'arc-en-cielを吹っ飛ばした。
「どうして、ここに?」
サトヨシはタチバナの存在に戸惑っていた。
「私を誰だと思っているのです。」
タチバナはサトヨシへと歩み寄る。
「君には正直、失望しました。」
そして、君を更正させることができると思っていた私自身に。
「タチバナッ?」
「私は・・・」
やめろ・・・タチバナ・・・
その先を言うな・・・私は・・・何のために今までッ!
「あなたが嫌いです。」
ブルースドライブモンスターの拳がサトヨシめがけて振り下ろされる。
生暖かい肉の感触、滴る血の音。
タチバナは目の前の光景に呆然としていた。
「なに・・ボケーっと・・・してやがる。
前の・あんた・・はそんなんじゃ・・・なかった・・
簡単に・・諦めちまうような・・・やつじゃぁな。」
「ハイ・・・ネッ?!!」
サトヨシを貫くはずだったその拳は、ハイネの胴体に風穴を開けていた。
「覚え・・・てる・・か・・・?
あ・・あんたが言っ・・た言葉。
忘れた・・なんて・・言わせない・・ぜ?」
シバミ、ハイネ、聞いてください。
もし・・・もし私が"曲がって”しまったら、その時は・・・
「言った・・ろ?
私が・・繋ぎ止める・・・って」
茜、待っていろ・・・
もうすぐ・・行くから。
ハイネはそのまま意識を失った。
タチバナはハイネの体から手を引き抜くと、それを地面に横たえた。
ハイネを見るその目には確かな光が宿っていた。
「揚羽君?」
少年が顔を上げる。
戸惑いの表情。
僕はどうしてここにいるのだろう・・・なんのために?
「そう・・ですねぇ・・・
駅前にしょー平という名前の変な銅像があったでしょう?
私の銅像はやはりその横がいいな。」
なにを言っているのだろうこの人は。
仲間を傷つけて気が滅入っているのだろうか。
そんな揚羽の心配をよそにタチバナは話を続ける。
「杏子が気に入ってたんです。」
そう言って揚羽の方を振り向いたタチバナは微笑んでいた。
気が滅入った?
その正反対だ。
彼は今、希望に溢れている。
この絶望の中で、彼だけが輝いて見える!!
「さようなら。」
壊れた世界の再構築。
それが出来るのは私だけだ。
「ニャアウ」
揚蝶の背後で、一鳴き
「ドルチ?」
揚蝶とドルチの眼が合う
ドクン
「え…?」
突然ドルチの体が輝き出し、それに呼応するように揚蝶の体も輝き始める
「ふ…ふはは…タチバナぁぁ…
始 ま っ た ぞ …
世界は…過去へと戻る!」
「…!」
「貴様らは過去へ記憶を持ち越せない…
俺の勝ちだ…タチバナ!」
揚蝶は苦しそうに声をあげる
「ぐああ…ああああっ」
「ドルチは揚蝶のバタフライ・キッスの一部を取り込み、新たな成長の可能性を手にした
…それは、起こるべくして起こる出来事」
突如、空間が裂け、クツケイと静夜が現れる
「貴様…クツケイ!」
「ドルチは『相手のスタンド能力を飛躍的に高める』という能力を得、
それを揚蝶に発動する…」
「あああああああっっっ!!」
揚蝶を中心に、辺りが黄金の輝きに包まれていく
「それは、今まで幾度と無く繰り返されてきた『決定事項』だった」
「それを唯一お前だけが理解していたわけか…」
「やあサトヨシ…そしてお久しぶりです、タチバナ先輩」
「誰ですか…?先輩などと呼ばれる筋合いは…」
「そうでしょうね…この世界では
…だが今はそんなことはどうでも良い
揚蝶の覚醒だけでは不十分…
静夜」
「はい。レッドから刈り取った『ネオ・ユニバース』を…解放します」
五行の力を得たスタンドが、スレイヤーの柄から解放される
「何をしようとも無駄だッ!
世界は戻る!それは変わらない!俺の勝ちだ!!!
そうだ…記憶を持ち越せるクツケイ…貴様さえいなければ!
今ここで消してやる!
ユ グ ド ラ ――
ッ!?」
サトヨシの動きが止まる
「これはッ…」
「『ソリッドカラーズ』…茜色を上塗りした…身動きは取れない…ぜ…」
「この死に損ないがああーーーッッ」
射程距離外のクツケイを消すことはできない
「タチバナ先輩!『するべきこと』はわかっているはずだ!
…さあ!」
「私のするべきこと…」
タチバナはブルース・ドライブ・モンスターを発現させ、そして…
「『モンスターC.C』」
ブルース・ドライブ・モンスターが、ネオユニバースと融合する
「この能力は単純…対象と自らを分解して再構築…それだけだ
一定時間が過ぎれば、スタンド自体の『拒否反応』で融合は解除されるが…
このわずかな時間があれば、それで良い
揚蝶…」
「うああ…タ…タチバナさん…」
バタフライ・キッスとの融合
そして最後に
「…サトヨシ」
「く…くそっ近寄るなタチバナ…!
うおおおお 近 づ く な ァ ァ ァ ァーーー!!!」
体を上塗りされ固定されたサトヨシは動けない
ブルース・ドライブ・モンスターが、BUMP OF CHICKENと融合する。
ガタッ
瓦礫の山からゆっくりと立ち上がるその男は、赤倉男平
「凄まじい光景だな…これは
世界の終わり…いや、始まりなのか」
その昔、聖人と言われた人々…
彼らは、きっと民を愛したのだろう
だからこそ、様々な奇跡を起こし得た
愛は、あらゆる力の源だから。
時に愛は悲しい現実を生み出すけれど、希望もまた、愛から生まれる。
そう、愛を知る君達ならば、誰もがゴールドマンへと成り得るのだよ
絶望の暗闇を照らす、希望
その源は、愛
黄金の光が、世界中へ広がり続ける
「そしてタチバナ先輩…
最後の1ピースを…あなたに伝えます」
「最後の…?」
「人には、理性がある
それは物事を論理的に解釈・思考する力…
繰り返される世界…それは本来起こり得ないことだから、理性はそれを認識しない
自らの世界に『秩序』を与えるために、繰り返される前の経験を放棄する
だが…その経験は『魂の記憶』として刻まれている!
人が自らを理性から解放し得たなら…そしてそれを受け止める精神力の持ち主であるなら…
魂の記憶を認識することができる…
それは俺じゃあダメなんだ…タチバナ先輩…あなたしかいない…!
『教団』は、この戦いをとうの昔に予知していたんだろう
彼らはある合言葉を後世の者に残した…
『I loose control』… 」
「理性の…解放…」
タチバナは少しだけ間を置き、改めてその言葉を口にする
「『I loose control』」
オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ
世界中が眩い黄金の輝きに包まれ、全てが見えなくなっていく
「うああああああああああああッッッッッ」
タチバナの頭の中に全ての記憶が流れ込む
あらゆる記憶を受け止めるには、それに耐えうる精神力でなければならない
耐えられるのか?この私が。
そんな広い背中を持った人は、今まで一人しか見たことが無い…
消え行く意識の中、タチバナはその人の名を呟いた
「佐藤先生…」
何度も何度も繰り返してきた世界
だが、今回の回帰はそれまでのものとは違う
五行の力
奇跡を呼ぶ力
その二つは互いを高め合い、
無限の再構築の力として集約する
ただの回帰ではなく、その円環を抜け出すための回帰
未来を手にするための回帰
世界は溶け、粒子となってタチバナの中に入り込んだ。
黄金に輝く世界の中で、タチバナは一人苦しんでいた。
渦巻き、吹き荒れる記憶の奔流は、彼を翻弄し、叩き伏せた。
その衝撃に、ともすれば失いそうになる意識を必死に繋ぎ止め、集中する。
記憶の中で、何度も何度も繰り返す世界。
その中でタチバナは、ある時はサトヨシの味方として世界を崩壊へと導き、
またある時はサトヨシの敵となって彼の行く手を阻んでいた。
他のものも、そうだ。
敵となるもの。味方となるもの。
サトヨシの能力によって消し去られたものもいれば、
それを埋め合わせるかのように新しく能力に目覚めたものもいる。
クツケイ、隕鉄のように、途中で新たな能力に目覚め、記憶を持ち越すものも。
何度も何度も繰り返す、世界。
そのあまりに膨大な記憶と想いに、タチバナは圧倒された。
……ふと、その記憶の中に、ちらちらと瞬く光が見えた。
小さな小さな光は、しかし、消えることも、輝きを変えることもなく
星の光のように、そこにあり続ける。
タチバナの意識が、薄れていく。
圧倒的な記憶の奔流に押され、彼の心は散り散りになり、消え去ろうとしていた。
瞬く光が、何であるのかもわからぬまま。
彼の意識は、消滅する。
その、直前。
「諦めんな、ホモ野郎ッ!」
彼の腕を掴み、シバミが叫んだ。
「酒ビッチ……?」
意識が覚醒し、タチバナは目を見開いた。
「アンタはこのくらいでへこたれるタマじゃないでしょ。
さっさとやっちゃえッ!」
ああ……そうか。
「……アタシも、手伝ってやるから」
記憶の中で輝く小さな光の正体に、タチバナは気付いた。
小さな小さな、脆弱な光。
しかし、無数の記憶の中で、たった一人だけ。
記憶を持ち越しもせず、しかし一度も立場を変えなかった人間。
だからこそ、この記憶の世界でも、彼女は形を保っていられる。
「いいでしょう。…まあ、私一人でも問題ないのですが」
「やっぱムカつくわ、アンタ」
一人じゃない。
それが、これほどの力を与えてくれるものだと、かつての彼なら思わなかっただろう。
サトヨシと出会い。佐藤と出会い。
シバミたちと……そして杏子と出会い、彼の世界は広がった。
そして、タチバナは悟った。
愛とは、受け入れること。
世界の記憶を御する必要は無い。ただ、全てを受け入れればいい。
それだけの話だったのだ。
「私は…世界を愛します」
かつては呪い、忌み嫌ったこの世界を。
醜く、汚らわしいと断じたこの世界を。
今のタチバナは、美しいと思えた。
「…これを受取ってくれませんか、シバミ」
タチバナは、光り輝く球体を差し出した。
「いいわよ」
シバミは気軽にいい、それを受取ると躊躇わずに自分の胸に押し込んだ。
BUMP OF CHICKEN。それはサトヨシと表裏一体の存在。
どちらかを消してしまえば、もう片方も消えてしまう。
しかし、残しておけば、世界は再び崩壊への道を辿るだろう。
だが、シバミなら、捻じ曲がってしまわずに、それを扱う事が出来る。
そう、タチバナは感じていた。
鋼のような信念を持つサトヨシやタチバナとは違う。
シバミが持つのは、海のような、全てを飲み込み、受け入れる心。
海はけして曲がらず、侵されない。
「まあ、あなたのような自堕落なビッチは大嫌いですけどね」
「アタシだって、アンタみたいなホモ野郎はお断りよ」
ニヤリと笑みをこぼしあい、手を合わせる。
男女の情とは違う、しかし、確かに存在するそれもまた、愛。
人と人との絆。
「さあ、とっとと世界を直して、呑みに行くわよ!」
タチバナは少しだけ後悔した。
一人の少年が、アトリエで絵を描いている。
黄金に輝く、大きな樹の絵。
そのアトリエに、一匹の猫が入り込んだ。
少年はそれに気付き、振り返って微笑む。
「やあ。どこから入ってきたんだ? 腹でも減ってるのか?」
猫はケホンと咳をすると、口から一匹の蝶を吐き出す。
蝶は一度、二度羽ばたくと、大気に溶けるように消えた。
まるで、世界に染み入るように。
少年の頬を、涙が伝った。そっと、猫を抱き締め、囁く。
「……おかえり、ドルチ」
第20話 『さあ、愛の賛歌を奏でよう』
第三部、完 エピソードへ