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-外伝『不光の世界』-



誰にだって、不運は付纏うものだ。

それが原因で、心を閉ざす者も少なくない。


彼の場合がそうだった。

旅行中の不慮の事故で、両親と…光を失った。

運びこまれた病院で治療を受け…

彼は一命をとりとめた。


最初は疑問だった。

何故僕が

どうして僕だけ

日の大半を、そんな疑問に費やした。

次は憤り。

やり場のない怒りに身を焼き、虚しさに涙する日々。

唯一遺体のみつからなかった愛犬に思考を割く時間はなかった。

そうして、彼が絶望に身を沈めるまでに、そう長い時間は必要なかった。

病院のリハビリ室で。

退院した日の道端で。

ようやくたどり着いた、既に他人の手に渡った家の前で。

日々の糧を得ようと声を掛けた人々に。

―薄汚れた、スラムのような路地裏にたどり着いた時には既に、

彼はからっぽになっていた。

無感動に流れてゆく日々。

川底を転がる石のように。

日に日に、彼は磨り減っていった。

感情も記憶も。

心の奥底に沈めていった。





―くぅん

そんなある日、彼の足下に犬がすり寄って来た。

彼の触覚は、汚れた体毛の感触を感じていた。

不意に、犬が顔を舐める。

彼は振り払う。

それでも、犬は執拗にじゃれついてくる。

―からっぽだった心が、何か訴えていた。

「…マニエル?」

自然と、言葉が零れていた。
彼らの、いや、今では彼の、白いふさふさした毛を持った、優しい顔の愛犬。

事故のあと、行方の知れなかった、彼の友人。


―ばう!

ぴちゃぴちゃと、嬉しそうに顔をなめる感触。

永い月日を経て、ようやく主人を探し当てた、白い。

唯一失う事のなかったこの愛犬は、

この日から、彼の唯一無二の家族になった。


「…ああ、何と言うんだっけ、この気持ち」


見えぬ瞳から溢れる雫。

記憶の深いところを探す。

父のこと。母のこと。友人たち。あんなにも、眩しかった『僕』の『セカイ』…!

彼は泣いていた。

磨り減ったはずの、からっぽだった心が、何か思い出せないもので溢れていた。


汚れた白い犬は、その顔を舐めた。

―くぅん


ふさ、と、彼の頭を優しい暖かさが撫でる。

失ったもの。

得たもの。


どちらも掛け替えのない、彼の色彩。

…涙は止まっていた。

その表情には、『絶望』とは違う何かが宿っていた。


「…そうだ、『嬉しい』と呼ぶんだっけ」



―彼は歩き出した。
光のない世界で、
新たに得た、白き光と共に。



―後日。
彼は『スタンド』と呼ばれる能力を身に着け、激動にその身を投じる事になるのだが―。
それはまた、別のお話。



~The Blind and White dog~

 

外伝『7話外伝』

最終更新:2008年01月31日 12:43