-外伝『裕』-
毎日が平和に過ぎていく、それは、僕が望んだ世界
バイトも終わり、帰路に着く
今日は昨日買った『ザ・サラリーマ』を最後まで読むつもりだ
主人公は、冴えないサラリーマン
でも本当は世界の驚異と戦い平和を守る秘密組織の人間で、日夜正義の為に…
…駄目だ やっぱり読めない
「はぁ、これは最後まで読めそうだと思ったんだけどなぁ。」
しおりを抜き、本を閉じて棚にしまう
真夜中の0時
辺りは静寂に包まれている
「…散歩でも行こうかな。」
あれから裕は、不思議な虚無感にさいなまれていた
自ら望んだ 平和
だけど…
「…ん?あれは?何してんだろ。」
公園をさしかかり何気なく中を覗くと、奇妙な人影が見える
いや、この時間に人がいても問題は無いか。
だが、違和感が裕を離さない
「なんか、、嫌な空気」
さっさと移動しよう
そう、思った瞬間!
…ィィイイイ
小さいが空気を裂く様な音が響く
同時に木々が、風もないのにざわめく
そして…
「うあぁぁ!」
青年が耳を押さえて苦しみだした
「これは、まさか…!」
スタンドを失って、もうその存在は見えないが、かつてそうだった僕にはわかる
彼は、スタンド使い! そして今 攻撃を受けている!!
に、逃げなきゃ…
アボガドスキーはもういない
今行っても、僕に勝ち目は無い
なのに
「…おい!大丈夫か!?」
自分でも驚きだ。僕は、、青年へと駆け寄っていた
「うッ…」
「君は…『神城』!?」
ザワ ザワ
キイィィイ…
またあの音だ!マズイ!!
僕は戦えない!
だけど…どうする!!
そうだッ!
「 誰かァッ!!火事だァァ!! 」
これで少なからず人の興味はひける
思惑通り、周囲の人々がこちらをのぞき込む
音が止んだ…
「火事なんてないじゃないの!たちの悪い悪戯ね!」
視線が痛い でも、今はそんな事気にしていられない
「君は、1組の神城静夜だろ?大丈夫?」
「き、君は…?」
「5組の裕。今は人が見てるから攻撃してこないみたいだ。このまま、人が多い所に移動しよう。タクシーを呼ぶよ。」
神城は驚いて僕を見る
「君も…スタンド使い?」
「…話すと長くなるけど、元ね。あ、すみません、タクシー呼びたいんですが。はい、場所は…」
タクシーはすぐに来た
何処へ行こう?何処でもいい、人が沢山いる所 深夜でも開いてる…
そうだ、僕のバイト先!
「ザ・テバサキに行って下さい。」
人がいればスタンド攻撃が止むかどうかは賭けだったけど、深夜に戦うって事は、目撃されるのを嫌がってるって事
この手の心理学の本なら昔に読んだ。本当、読んでてよかった
問題は、、これからだ
あぁ、こうなるのが嫌でスタンドを消して貰ったのに、、僕は何やってるんだろ
でも、不思議と虚無感は無いや
しばらくしてザ・テバサキに着いた
店長には嘘の事情を話して休憩室に入る
「…ありがとう。えと、裕…さん?」
「裕でいいよ。同じ学校だし。」
救急セットで、簡単に応急処置を施す
「でも、どうして僕の事を知ってたんですか?君とは面識がない…はず。」
「僕が一方的に君を知ってたんだよ。君のお祖父さん、本出してるだろ。」
「あ。」
静夜は納得した
「だけど、あの本はそんなに有名な物では…」
「それ、それだよ!なんであの本がもっと評価されないんだろ?面白いのに!本屋ではもう取り寄せてくれないしさ。あぁ、復刻版でないかなぁ。君もそう思うよな!」
「は、はぁ。」
「それにしてもあの出だしは最高だよね。なんたって…」
「あ、あの…」
「あ、ごめん。」
「僕の事を知っていた件については納得しました。でも、さっきの、君が元スタンド使いっていうのは…」
神城の表情が鋭くなる
確かにちゃんと説明しないとな
僕もなんで神城が戦ってたのか知りたいし
――――――
「…じゃあ、今はもう能力は使えない、と。」
「うん、あの時止めて貰えてなかったら…そう思うと、これでよかったと思う。僕自身、自分の能力が怖くなったしね。」
あの時のことを思い返す
進入してくる黒い感情
わき上がる殺戮衝動
そのどれもが新鮮な情報で、そして本物だった
能力せいとはいえ
あの感情は紛れもなく 僕の感情だ
あのまま、依存していたら…そう考えるだけで、恐ろしい
「それでも…やっぱ能力が無くなったのは寂しいけどね。でも、いいんだ。今日、君に会ってから、わかったんだ。僕…」
キィイイイ
!?
や ば い!まさか!!
「ぐぁッ!」
「神城!!」
苦しむ静夜
やっぱりこれは『音』の攻撃!?でも…僕には小さな耳鳴りにしか聞こえない!
バリン!
窓ガラスが 割れていく!
その向こうには…
「ば…化け物!」
尋常じゃないでかさの…蝙蝠!
いや!蝙蝠のスーツを着た…人間ッ!
「人混みに逃げ込んだからって、安心しちゃいけないなぁ…。部屋に入ってしまえば…個室ッ!フクククッ、邪魔な奴らは、扉の向こう側だからなぁ!」
「ッ!スレイヤァーッ!」
神城が攻撃を仕掛ける
だが、『音』でうまく狙えないのか…外れたみたいだ
敵は窓をぶち破って入ってくる
「フクハァァハッハァーーッ!当たらねぇよ、そんな鎌!俺の『バッド・マッド』の超音波の前ではなぁ。知ってンだろッ!?蝙蝠は超音波でモノを見る!この完璧なセンサーの前では…俺に攻撃を当てるなんて 不 可 能 !」
僕にも見えるスタンド!?分からないけど…スタンドを着ているのか!?
「おい!裕!!なんだ今のガラスの音!?」
店長だ!助かった!!
人がくれば、奴もまた姿をくらますだろう。なにせ、『見える』スタンドなんだ
僕は扉を見た 影が近づく
ノブが回るかと思った瞬間
「さ せ る か よ」
身体が宙に舞った 地面が頭の方にある 右足が…痛い!
「うわぁぁぁああ!?」
蝙蝠が僕の右足をつかんで店から飛び出し、そのまま空中にほうりなげたッ!!
やばい! 落ち…!!!
「スレイヤー!!」
右手が何かに拘束される感触
見えない感覚が僕を引っ張って、地面への衝突は免れた…
が、以前状況は変わらない
木の上に落ちたのはいいが、枝が数本刺さっている
そして、目の前には 例の蝙蝠
「お前、邪魔ばっかするからなぁ。スタンド使いでも無いくせに…うぜぇんだよ。ここで死んどけ。」
そう言って爪を立てた足を振り下ろす!
「…ッッ!!」
あれ、何も、ない?
「か、神城!?」
「てめェ!」
いつの間にか追いついた神城が僕の前で攻撃を防いでいた
「裕さん!すみません…!巻き込んでしまって!」
「うぜぇんだよ!このガキが!『クレイジーソニック!』」
キィィィィイイ
「うあぁッ!」
またあの『音』!
「逝っとけッ!!」
危ないッ!
このまま 僕はこのままでいいのか? やっと分かったんだ
僕が感じてた 虚無感
それは…あの時戦う事からを背けた事への、罪悪感! 後悔!
もう、逃げない! だから、神城!!
「ウワァアァーッッ!!!」
「な、、にぃ!」
見えるか見えないか 触れるか触れないか そんなの関係ない
僕は、蝙蝠のコスプレをした 『本体』 を突き飛ばした
「裕さん!」
「裕でいいよ、神城。 僕も…戦う!もう、逃げない!! さっき休憩室で話してくれた君のスタンドの特性。 それを利用すれば…」
神城は、僕を見て、笑う
「…分かりました。僕らで、奴に印籠をわたしてやりましょう。」
奴は地面には落ちない
「…ッ!やりやがったなァ、おいガキ!スカイダイビングさせてやるぜ!パラシュートは…ねぇがよッ!!」
そう言うと蝙蝠は空高く舞い 突進してきた
「いきますよ!裕。」
「ああ!」
「 スレイヤァー!! 」
神城がスタンドを、振りかざす
「きかねぇっつってんだろ!『バッドソニック』ッ!」
「ぐぅッ!」
「フクハァッハーッ!残念だったな、死ねェ!!」
サク
「…な、、ん」
スレイヤーが蝙蝠の背中に突き刺さる
「馬鹿な、俺は確かに よけた…!それに!今のお前に俺が狙えるハズがッ!!」
「 神城は 攻撃してないよ。 」
「 ああ、僕は『貸した』だけ…。 スレイヤーは、取り憑いて行動する事が可能だからね。 僕が上手く扱えないなら… 」
「 お前の超音波が効かない僕が…!スレイヤーを繰ればいい! 喰 ら え ェ!! 」
神城のスレイヤーを繰り 刃を旋回させる
「な、よけ…!」
「 お前は勘違いしてる。 蝙蝠は確かに超音波でモノを認知して飛ぶ。だからこそ、鎖の様な流動的で不規則、かつ向かってくる動きを認知する事は難しいんだ。知らなかったのか?本にも載ってる事なのに…。」
スパァァアンッ
スレイヤーが月明かり照らす闇に舞い、翼の生えた獣は…バラバラになった
後日
「神城!今日は遊びに行っていいだろ!?」
「いや、裕。今日はちょっと用事が」
「えぇー、せっかく本が一杯読めると思ったのになぁ。」
僕は神城を見送る きっと、また戦いがあるんだ
僕は…やっぱり戦えない。能力無しでは、どうしようもならないし。
それに、わかったんだ
僕は僕に出来る事をすればいい。それが共に戦う事になるんだって。
また今度遊びに行くからな。 得意の料理を作ってやるよ。
だから、勝って帰ってこいよな。 神城。