-外伝『模倣人』-
かち、かち、かち
「ねぇ、悩みなんていくらでも」
そう、男は言う。
どこか女性を思わせるのは、顔立ちだけが原因ではないのだろう。
かち、かち、かち
幼い頃から、誰かの真似をするのが得意で、好きだった。
真似した相手と、寸分違わぬ仕草をする事すらできた。
真似をする事に、絶対の自信を持っていた、と男は言う。
誰にも負けられる自信がない、と。
かち、かち、かち
幼稚園の頃に、物真似がうまいと周囲から賞讃された。
小学校に上がる頃には、他人の行動を寸分違わず真似できる様になっていた。
日に日に、彼の真似の精度は上昇していき…
いつしか、『物真似』は『模倣』に変わっていた。
かち、かち、がち
中学を卒業し、高校に進学。
彼の生活は変わらない。
ひたすらに『模倣』を繰り返す。
目的を持ってするのではない。『模倣』することが目的。
彼は何の疑問も持たず、これからも、そうやって生きていくのだと思っていた。
イタリアに旅行に行き、スタンドが発現した時もそうだった。
『模倣』を主成分とする自分にふさわしい『能力』だと思った。
彼の人生の『模倣』は、上手く行っていたのだ。
かち、がち、がぢ
「今の君が模倣だというなら…じゃあ、本当の君はどこにいるんだい?」
なんて、言われてしまうまでは。
答えられるはずもなかった。
自分が普通だと思っていた異常に気付かされてしまった。
がぢん
…その日から、彼の人生の歯車は正常に回転しなくなった。
ぎり、ぎり、ぎり
探した。
死に物狂いで、探した。
手を変え品を変え、模倣する相手を幾通りも、目まぐるしく変えながら。
幾通りもの方法で、『本当の自分』を探した。
模倣を繰り返し、そいつならどう探すか模倣しながら。
親にも、幼い頃の友人にも。
彼らを模倣して、考え…
そうして。
―ああ、これじゃあダメだ。
そう気付いた時には、すでに二年が経っていた。
探す方法が模倣したものなら、見つかる答えもまた模倣。
幾百の模倣を繰り返した彼の、それが答えだった。
それから、彼は『模倣』を止めた。
模倣してきた人達から、その欠片を寄せ集め、『当座の自分』を形成した。
ちぐはぐな気もしたが、他にやりようを思い付かなかった。
そうやって作った自分が、いつか『本当の自分』を見つけられると信じて。
「いつかはねェェ…見つかるだろうねェェ?」
――彼は未だ、道の途上にいる。
未だ見ぬ自分を探す、長い永い道程の。
~copy man's life~