-外伝『サウンドオブミュージック』-
「クソッ!ああぁ…イラつくぜえええェェッ!!」
叫びながらギターをかき鳴らす、一人の男。
一人きりのライブハウス。
スタッフも既に帰っている今なら、遠慮なく本音を叫べる。
もっとも彼が遠慮をした事など、今まで無いが。
「『ビジュアル系』…見た目で食いてえなら…
ホストにでもなりやがれェ クソがッ!!
オレは冷めたフライドポテトの次に
嫌いなんだよビジュアル系がッ!」
ファンは待っている。今更ライブを止める訳にはいかない。
しかし…。
「勝手に共演決めやがってこの『クソホール』が…
二度とココでは弾かねえぞッ クソォッ!」
頭を振り、足を踏み鳴らし、絶叫しながら弦をかき毟る。
『ッフゥン…』
小さな吐息が、彼の動きを止めた。
ゆっくりとステージにあがるもう一人の男。
「SETOォ…ッ!」
『お初にお目にかかります、ジョーイさん…』
溜め息と共に首を振る、二人目の男…SETO。
次のライブは、ジョーイとSETOのダブルヘッダーだ。
話題沸騰の2大バンド初の競演は
今のインディーズ業界のメインニュースだが…
熱狂的なファンの間では、早くも小競り合いが始まっている。
「何の…様だ…?」
『ぶしつけですが一つだけお願いしたい…
僕をビジュアル系と呼ぶのは止めて頂きたいのです
僕達のバンドはニューロック… そう呼んで頂きたい…
オールドロッカーさん?』
「テメエェ……」
『貴方の考えている事は…僕には痛いほど解る』
どちらが優れたミュージシャンなのか?
「テメエと俺じゃあ!
並び立つ事も許されねえレベルの差があるッ!!」
睨むジョーイ。見詰めるSETO。
やがて…SETOが、僅かに笑みを見せた。
『ところでジョーイさん…
まだ聞いた事が無いでしょう、僕のギターは…』
(あたりめーだこのボケクソナルガキッ!
腑抜けたギター聞くくらいなら、お経でも聞いてるぜッ!)
『一つ…聞いてみて下さいよ…ッ!』
ワンフレーズをかき鳴らすSETO。
(なんだ…?意外と…良い音出すな…)
『ッフゥン… 嬉しいですよジョーイさん
貴方に、僕の音が良いと思って貰えて…』
「誰がテメエの音なんぞ…ッ!」
ジョーイは絶句する。
ステージに立つもう一つの影。
漫画の感電シーンの様にギザギザになったスーツを纏った男の姿…
「スタンドッ!」
『!
貴方にも… 見えるのですか…
僕の音楽を誰かがリスペクトした時のみ現れる、コイツが…』
SETOは目を細め、暫しジョーイを眺めた。
『…ライブ前に一つ…勝負をして見ませんか? ジョーイさん…
本当はどちらがミュージシャンとして…スタンド使いとしてッ!
優れているのかをねッ!』
高々とギターヘッドを掲げるSETO。
「チッ…良いぜナルガキ、身の程っつーエイトビートを、
テメエのスタンドの五線譜にビッチリ書き込んでやるッ!
ブローウィン イン ザ ウィンド!」
悲鳴のようなギターの高音と共に、
現れるジョーイのスタンド。
スタンドとは精神のエネルギー…
音楽の至高を目指す精神が、スタンドとなるのもむべなるかな。
最強のインディーズギタリストを決める戦いが、今始まった。
【スタンド名:サウンドオブミュージック
本体名:SETO(本名は業界の秘密)
能力:オーディエンスの感動を吸収し無限にパワーアップする】
二人のスタンドは共に近距離パワー型。
当然、戦いは接近戦での殴り合いになるが…
押しているのは…SETOだった。
(クソ、畜生…
認めたくはねえ、いや認めねえッ!
認めねえが、コイツ…
上 手 い ッ !)
『どうしましたジョーイさん…
貴方のギター、その程度ではないはずでしょう?』
「クソ、ナルガキがァアアッ!」
打ち合わせゼロどころか、伴奏ゼロのセッションである。
…いや、ギターの話かよ、というツッコミはもっともだが、
それはしばし待って頂くとして。
打ち合わせゼロどころか、伴奏ゼロのセッションである。
脳内でドラムのビートを再生しながら、
交互にソロフレーズをかき鳴らしていく戦いになる、
のだが…。
(このナルガキ…俺のギターを…
『読みきっていやがる』ッ!)
SETOはジョーイのフレーズに対し、ジョーイ自身が
『自分ならこう返す』とイメージしたフレーズを…
更にアレンジを加えて弾き帰してくる。
それも毎回、100%確実に。
自分が一番だと信じて疑わないとはいえ、
ジョーイはミュージシャンだ。
相手とのセッションが噛み合うのならば、
相手のスキルを認めざるを得ない…。
そして、その気持ちはそのまま…
『ジョーイさんッ!感じますよ…
僕のギターへの貴方のリスペクトッ!
僕へと流れ込んでくる…ああ、なんて快感なんだッ!!』
相手のスタンドの、パワーとなって反映される。
それが故に、ギター勝負の勝敗は、
そのままスタンドバトルの勝敗となって現れるのだ。
「うおおおおおおッッ!!!」
サウンドオブミュージックの拳が、ジョーイのスタンドのボディに
深く減り込んだ。
ダメージによる、痛恨の演奏ミス。
『ジョーイさん… 演奏が止まってしまいましたね…
どうします?これで、終わりにしますか?』
ギターピックを垂直に立て、早弾きを行いながらSETOが問う。
「舐めやがってェ…ッ!」
耳をつんざく高音。
そしてジョーイは一度指を擦り合わせると、再度演奏の体制に入った。
「いいぜ、やってやるよ… 認めたくはねーが SETOッ!
テメエのギターに敬意を評してやってやるッ!
…俺のブロウウィン イン ザ ウィンドは風を操る能力…
風を操るって事は… つまりだぜッ!!」
有り得ない音。
ドラムの音が響き渡る。
『な… 風を使って仲間を呼んだのか…ッ!?』
「いいや違うぜ…
これがブロウウィン イン ザ ウィンド…
オンステージッ!!」
音とはつまり、空気の振動だ。
風を操る事が出来るのならば…
それはつまり空気を振動させ、『音』を作り出す事ができる!
ドラムに続き、ベースの音が響きだす。
『バ、バカなッ!? 有り得ない…
音楽と言うものは繊細極まりないものッ!
風を震わせて音を作りだすだと…
どれだけ微細なコントロールを行っても、できるはずが無いッ!!』
「ああ… 別に、自在に音が作れるわけじゃあねえ…
だがなあッ!
この曲は俺が吹き起こした風そのものッ!
テメエで生み出した風の流れは…
染み付いちまって取れやしねえぜッ!!」
ジョーイの作曲した中でも、一番のヒット曲。
ジョーイを今の位置に押し上げた、珠玉の一曲。
彼のスタンド名でもある…
『この曲は…
ブロウウィン イン ザ…』
「ウィィィィィィンドッ!!!」
音が、爆発した。
心に関するスタンド能力に共通する弱点…
それは、自分の心が、能力に影響を及ぼしてしまう事だ。
『な、なんというプライド…
なんという… 音楽への純粋なる心ッ!
や、やはりこの人は…僕の…』
SETOの心が、ジョーイの音楽に敗北した。
それは即ち…SETOのスタンドが得たパワーが、
失われた事を意味する!
「決ィ、めェ、る、ぜェェェェェェッッ!!!」
『おおおおおおおおおおッ!!』
「ゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴア
ゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴアゴア!!!」
超速の早弾きに合わせ、ジョーイのスタンドが拳を叩き込む!
「Go away with the wind(風と共に去りな)!!」
「起きたか、ナルガキ」
『僕は…気絶していたのか』
人気のないライブハウス。
横たわる男と、煙草を吹かす男。
『完敗ですね… 矢張り、貴方は…
僕程度が敵う相手ではなかった…』
首を振ると立ち上がり、ゆっくりと歩み去るSETO。
「オイ、ナルガキ」
『…なんでしょうか』
「明日の音合わせは13:00からだ。
遅れたら首ヘシ折るからな」
『ッ!!』
ジョーイは気付いている。
どれだけ音楽の才能があれども、
一瞬で相手のクセを読みきる事など不可能だ。
増してや、アドリブのクセを読むのであれば…。
何十回、何百回聞けば、それが可能になるだろうか?
『…ジョーイさん…
僕は貴方とライブが出来る事は光栄の極みです。
ですがそれ以上に… 今日のセッションは…
僕の一生の、思い出になります』
深々と頭を下げるSETO。
「ハッ!リスペクトなんぞ俺にゃ要らねーんだよ!」
中指を立てるジョーイ。
恐らくは、次のライブでも、彼は観客にこう言うだろう。
「Let's rock!」