-外伝『レモンハート』-
薬の臭い。静かな空間。
誰が言わなくても病院だと分かる。
「馬鹿なことしたなぁ……何で俺の行動はいつも裏目に出るんだよ……」
男が一人、呟く。名はザキ。
ムーンライダーと戦い、大怪我をして病院に運ばれた。命に別状は無いが、片腕を失った。
「別に不便は無い。義手もできるし、スタンド能力もある」
ただ一つ不満なこと、それは……
『俺ともう一度戦えええぇぇぇ!』
『院長!また902号室の患者が抜け出しました!』
『またか!早く取り押さえろ!!』
『院長!また心霊番組から取材が……』
『やっと妙な噂を断ち切ったと思ったのにッ……』
『院長!』
『院長』
『院』
『』
『俺は院長を辞めるぞおおお!』
『院長が狂ったああああ』
なんだこの病院は……。養生できないじゃあないか。
しかもあれか。何で隣の病室から破壊音と振動が伝わってくるんだ?
「俺が引くのは全部貧乏くじかよ……」
そう言わずにはいられなかった。射的で景品を手に入れたことは多々ある。
しかし、【くじ引き】【おみくじ】運任せの物は一度も当たった記憶が無い。
「虚しくなってきたな……段々」
「腐るな腐るな♪」
「そう言ってもな……ッ!?シ……シバミ!?」
「はろ~♪お見舞いに来てやったぞ~。感謝して敬え~」
「どうせ近くの飲み屋から、ついでに来たんだろ……」
「な……何故分かったの!?まさかザキはサトラレ!」
ば……馬鹿だ。酒の臭い臭いを漂わせて、ロレツが回っていない時点でバレバレなのに……。
「で、本当は何をしにきた?」
「だ・か・ら・お見舞いって言ってるじゃん」
「言っておくが、ここには酒はおろかマキロンすら無いぞ」
「私はそこまでアル中じゃないわよ」
じゃあ酒の何でボトル持ってんだよ。
「分かったから帰れよ。酔っ払いの相手をするほど暇じゃ無いんだ」
「酷いわねぇ。分かったわよ。帰るわよ」
シバミはプイッと病室を出ていった。
「全く……誰のせいでこうなったと……ん?」
机の上にシバミが持っていたボトルが置いてある。
よく見ると、不器用な結びのリボンまで付いている。
「まさか……これ」
ボトルの下には手紙があった。いつの間に置いたのだろう。
『助けてくれてありがと。今度飲みに行きましょ。(おごってね♪)』
綺麗に、ハッキリとした字で書いてある。
最後の一行で台無しだが、よく見ると下に消した後がある。
「あな スィ? なんじゃそりゃ……」
手紙の解読を諦め、ボトルを見た。レモンハートと書かれている。
しかし、俺は酒をあまり知らない。だからこれがどんな酒かは知らない。
「飲んで良いのかな……」
ゆっくりとグラスに注ぐ。綺麗な色をしていて、それだけで幸せに包まれるような気がした。
「いただきます」
このときザキは気がつかなかった。いや、知らなかった。レモンハートはスピリタスが登場するまで世界一のアルコール度数(約76℃)だったことに……
「$§@℃≠<@♂±!?」
遅かった。ザキはストレートで、しかも一気に飲んでしまった。
『死ぬ!熱い!口が焼ける!!』
急いでザキは近くにあった水を飲み干す。だが……
『こ……これも酒だとぉぉぉ!?』
ザキはそのまま、意識を失った……。
シバミに悪気は無かった。酒は百薬の長、ザキに飲んで欲しかっただけなのだ。いずれ飲むように、周りの液体全てを酒にしていた……。
「ザキは喜んでくれたかしら……うん!喜んだわよ。店員さ~ん。生5つ!」
レモンハート。
一時の恋の味を貴方に、そして地獄のような二日酔いも貴方に……。
「シバミ……おぼえ…ガクッ」
-外伝『レモンハート』終わり-