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眼前を横切る、『転がる物』。

反射的に口を開き…転がる物を、丸飲みした。

エネルギーが体に広がる。

意識が覚醒する。

そうだ、私は――



"ネオ・ユニバース"。



【スタンド名:ネオ・ユニバース
 本体:既に死亡、スタンドも滅ぶ運命
 能力:光速移動、物質透過、強力なパワーとスピード】



何故こうなった。
何かがあったのだ。
覚えているのは、レッドが自分のコントロールを失った事。
そして、本能的に逃げた背後で、石か何かが転がった事…。

ネオ・ユニバースの行動は、
三つの魂に支配されている。

カンベエ…神に会いたい。

ナガセ…スタンド使いを殺したい。

そして…

どういう経緯で彼がレッドの仲間になったのかは判らない。
だが、ジャンケルビッチの戦っていた理由…それは。


この世でただ一人の、肉親に、会う事。

会ってどうしたいかは判らない。
この状態で、会ったらどうなるのかも判らない。

――判らない事ばかりだ。

自分が後どれだけ存在して居られるかも。
物質や人に取り付くタイプのスタンドでない自分が、
長く存在できない、それは判っている。

残り少ないこの命が終わるまでに…
巡り会えるのか?

――判らない。

しかし…
強いのだ。

カンベエの、ナガセの願望よりも…
ジャンケルビッチの願望は、遥かに。

彼の肉親に会わなくてはいけない。

そして…あの『神』にも。

それから…スタンド使いを…殺さなくては。


思考を纏める事は、それには出来ない。
元々自律型のスタンドでは無い上、
三つの強い精神が、混ざり合ってしまったのだから。


…不意に疑問が浮かぶ。


――先ほど丸飲みしたもの…
人間の、『下腹部』――?

まあ――私には関係ない、か。



虚ろな思考で、それは動く。
残り僅かなエネルギーの最後まで、
自らを形取る三つの魂の、願いの為に――。

3つの精神が混ざりあい、

スタンドでも人でも幽霊でもない、
何か別の「モノ」となった。
この世に存在しているが、存在していない。


一番強かった、ジャンゲルビッチと呼ばれていた男の「精神」

この「モノ」を構成する核であり、行動の全てである。


細く張り詰められた糸にも似た、絶妙な均衡を保ちつつ、
その「モノ」は歩み始める。


「ガがが、会イ だ イ… あ …」


。。。
そのさまを見ていた人間が一人。

「!?なんだあれは…?
人…いや生きているかすら怪しい「モノ」だ。信じられない。

いや、これは試練だ。神が僕に与えもうた試練なんだ。

僕は今試されている。
【信仰】を力に変えるんだ…。」

彼の名は「ケイ」

※本体:ケイ
スタンド名:ゴスペル・オブ・シン

「サァ、イクンダ…ケイ。引キ下ガル事ハ許サレナイ。」


彼は胸元で十字を切ると、何かをブツブツと唱えゆっくりとそれに向って歩みだす。


その歩みに迷いもためらないもない。


「僕の意思は神の意思!
僕の肉体は神の肉体!

僕が僕であるために。神が神であるために。

…ハレルヤ!」

「死んでもらう……僕は彼に、そう言ったのか?」

サトヨシは椅子に腰を掛けて、
両手で顔を覆ってうなだれている。


一度アトリエに戻り、
一行はそれぞれに行動を開始した。

能力の相性が抜群に良い杏子とアルジスは、
二人でタチバナの残りの部位を捜しに、

佐藤先生はドルチと共に、
タチバナの代わりを務めてくれている。

まだまだなぞの多い男、ソマは独自に行動しているが、
タチバナの部位を集める協力を約束してくれた。

隣に立てかけてあるタチバナの上半身は、
アトリエにおいては美術的なオブジェクトに見えて、
本人も満更ではなさそうだ。


スタンド能力を奪って廻っているのは、
一人でも多くの命を救う為だった。

結果多くの命を救っている裏で、
たくさんの命が失われた。
それが他人であっても、ましてや敵であったとしても、
見て見ぬフリはできない。

誰かが死んで、自分が無関係だとしても、
心を痛めずにいられなかった。

「僕が命を奪おうとしてどうする!」

サトヨシの能力は確実に彼の信念を捻じ曲げている。

その証拠に、生きがいみたいに絵を描き続けていた彼の、
サトヨシの前に広がるキャンパスには、
何も描き込まれてはいなかった。

「描けないんだ…
以前までは素直に描けたものが、今は描けない。
以前みたいな絵を描こうという邪念が邪魔して、
純度の低い線を引いてしまう」

それは嘘の介入してしまった、見せ掛けの作品になる。

「ソレハ、君ガ本物デアリ、美シイガユエノ苦シミダ…」

床には不自然に曲がった筆や画材が散らばっている。


気になるのは土星という男だ。
派手に暴れていた私のことはともかく、
ずっと行動を控えていたサトヨシの能力を
奴は異常に理解していた。

サトヨシの能力に執着しているようにも見えた。
何故だ?

「土星さんは未来人なんだって本人が言ってた」
などと馬鹿なことを杏子が言っていたが……。

まさか、サトヨシの能力を目当てに
タイムスリップしてきたとでも?

タイムマシーンなどとは、突飛な話だ。
SFやファンタジーでは無いのだから…。

……。

しかし、このままいけばスタンド能力を知られず、
絵描きになるハズのサトヨシの能力を何故知れたのだ?

もし土星が未来人ならば、サトヨシのスタンド能力が
未来に多大な影響を与えるということの証明ではないだろうか?

そしてスタンド使いを殺ス理由は
……駄目ダ、コレ以上ハ脳ガナイト。


「最近、ヨク君ノ夢ヲ、見ルヨ…悲シイ夢ダ」

それはタチバナがサトヨシと殺しあう夢。

その悪夢を幾度となく見るので、
優しいサトヨシを怒らせる自分は、
きっととんでもない悪事を働いたのだろう、
そう考えたものだ。

私は人間を醜く思い、憎悪し、
いつ殺す側に回ってもおかしくないのだから。

キミと出会わなければ私はレッドのやり方に賛同して、
手を貸していたかもしれない。

キミと出会わなければ。

もし、土星を呼び寄せるような名の残し方を未来にするなら、
サトヨシに最悪の悲劇が起るのではないだろうか?

「安心シテクレ、
モシ、君ガ変ワッテシマッタナラ、
僕ガ命ニ代エテモ、君ヲ止メヨウ」

もし、世界を守ろうとしているキミが、世界を壊そうとするなら、
一度は世界を壊そうとした私が、キミを殺して世界を守ろう。

キミの為に。

その後、私も自らの命を絶つよ。


何故か、サトヨシの力だけが
ドルチの能力では消すことができない。


「さあて、皆ががんばってくれてる時にクヨクヨもしてられない」

「……ソウダナ」

「とにかくタチバナ、キミが生きていてくれて本当に良かった……」

今度は僕の為に涙を流すのか?
忙しい奴だな。

しかし、キミの為に捧げる命なら、
それが私の天命だと疑いはしない。

-神-

その存在を近くに意識したとき、僕はまだ幾許も無い年のときだった。気づいたら、神は具現化して僕の近くにいた。
それが僕の背後にいるスタンド「ゴスペル・オブ・シン」


だが、僕は疑問がある。


破壊しかできないものを神といえるのか。
生があり、死があり、そしてまた生まれ変わる。その通過点を一方的に絶つ存在。


それが神と言えるか


否。言えないかもしれない。しかし、信者である僕には遥か遠い答え。

「主よ。貴方の御心のままに・・・」
「WRyyyyyyyyyy」

速い。確かにこいつの攻撃は速い。だが単調だ。

「主よ……迷える魂を救いたまえ」

ケイは攻撃を予め読んでいた。160kmの剛速球を投げるピッチャーでも、コースさえ分かればホームランにできる。


「アーメン!」


ドグシャアァァァァァァァァ


「まずは一発……」
「キィィィィィィィィィィ!」
「!」

予想外の攻撃。運悪く腕に当たってしまう。
だが、これぐらいならまだ戦える。逆に、近寄ってきたことでチャンスが生まれた。

「……隙ができたな。これで何発か拳を当てれる」
「グルル……」


ヒュン ヒュン ヒュン


おかしい!今確かに拳を三発当てたはず。だが、拳が突き抜けたように……空を切る!

「当たって……いないだと!?」
「ヘヴィ……神に……あああああああああああああうううううううううう!!!!」

今度は自分が隙を作った番だった。
今までの動作とは違うくらい精密に、ユニバースはケイの心臓一点を狙う。

「神よおおおおおおおおおなぜ私を見捨てたのですかあああああああああああああ!!!」

ケイは絶叫した。神こそ自分の心の支え、それに自分は裏切られた。死への恐怖よりも、そっちのほうが辛かった。

「神なんて……信じるだけ無駄よ」
「……?」
「聞いてる?」

自分の目の前に女性がいる。そして少し離れたところに小さな箱が転がっている。

「貴方は……?」
「私?いいから目の前のことに集中しなさい。もうすぐ箱が壊れるから」


バキン バキン バキン


箱が壊れてユニバースは再び姿を現す。ケイは先ほどまでの自分の大罪を後悔した。そして、再び気持ちを立て直した。

『神は私を見捨ててはいなかった!』



少しはなれたところでD.M.Qは呟いた。
「やっぱ困っているボウヤを放ってはおけないわよね。シンとデュカはどうしてるかしら?」


いつの間にか日は傾いていた。

(この女、“ふざけた”存在だな)
ケイにとっての神は、死んだ場合“Armageddon”のその日まで生き返らせることをしない。
死んだもの全ては、審判にかけられるまで死んでおかなければならない。
「どうしたの僕?」
怪訝そうな顔をしてこちらをみている、だがこちらの意図を読まれるわけには行かない
「いえ、霊…を見たのは初めてですので」
失礼ね、と言いたげな顔でD.M.Qは答える。
「…そう?たくさんいるわよ…あれもその一部ね」
何かわからないモノは弾丸のようにケイに突っ込んでくる
(…ふん、こいつも、か)
何か分らない“モノ”から、神の敵へと考えを改める。

負けるわけにはいかない。

「その、動きッ!単調すぎるぞッ!
ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス!!」
これで9発!
攻撃を突っ込んで受ける、無効にすることもできないようだ。
「これが貴様への福音だ、Ohhhhhh!Happyyyy!!Daaaayyyy!!」
だが、最後だけは違った。


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・・・・ 
(な!なんだこの…動かない!!!)
まるで、時が止まったかの様に、ケイの動きが止まる。
ゆらり、と殴られた体を揺らし、ネオ・ユニバースがケイの顔を覗き込む。
「おまええええああはあああああああ、ちがうなああう」
160kmの球は打てても、光速の球は打てない。
D.M.Qの顔も覗く、だが反応は同じだった。
そして、背を向け去っていく。
5mほどはなれた所で、体が自由になる
(な、なんだ今の感覚は、まるで時が…)
ハッ、として振り向く。霊が敵になるとも限らない。
しかしそこには、何もいなかった。
「ヤツラモスベテコロサナケレバ、オレタチハイキノコレナイゾ」
カルネアデスの板、最後まで生き残れるのは“神に愛された者”
「分っているさ、…ん」
携帯に、着信があった。
「…どうした?
ああ、そうだ今また新しいスタンド…いや、スタンドとも違うが危険な存在が現れた。
矢の管理をしっかりな」
『…サトヨシのことはどうしますか?』
「ふん、“自称最強”にぶつけるのはあの二人がいいだろうよ」
『シンとデュカですか?茜とハイネですか?』
「茜達だ、シンとデュカはまだ放っておけ」
『わかりました、それとこれは情報なのですが、スタンド使い達の間で女帝と呼ばれる存在がこの街へ入ったようです。』
「理由は何だ?」
『…家出中の孫娘を探しにきた、そうです』
「では放っておけ」
『わかりました“I loose contlore”』
「“I have control”」


病院から少し離れたところで携帯を切る。
「どうしたの?」
「いえ、なんでもないですよシバミ」
「そう?今日はどんなお酒のむー?コウ」
楽しそうにシバミは笑っている。


*****

夕暮れの中、息を切らして走り続けてる
それでも逃げられない。
どうして、あの方は私の前にすぐに回りこめるのッ!
行き止まり!!
どうして、一人で買い物をしているときに会ってしまうの。
これが、スタンド使いは惹かれあうっていう事なの?
突風が吹く。
これは、あの方の!!

「“ブローウィン インザ ウインド”」
風に護られながら、ジョーイが降り立つ。
「やましいことがないんだったら、逃げる必要はねえよなあァ。
こっちはよう、少し話を聞かせてほしいんだってぇのをわかってくんねーかな。」
一歩、また一歩と近づいてくる。
そのたびに壁が高く感じる。
「ひ、平伏しなさい!」
「あん?」
ジョーイは気にせず近づいてくる。
「廃マンションでの殺人事件は知っているか?
シン・秀丸・デュカ・レッド・モティ・剛士の名前に覚えはあるか?
さっきから聞いてんのは、それだけだろうが!答えろ!」
私は、言えない。
バーレル様にもお爺様にも止められているから。
「答えません、わ」
「あん?じゃぁ、すこし痛めつけさせてもらうしかないな。
逃げ道はねえぞ」
寒い。
嫌々ながら、なのだろうこの方も。
だけどしなければならない理由がある。
寒気がどんどん強くなる、まるで空気自体が白んできている気もするほど。
苦い顔をしながら、ジョーイは腕を振り下ろす。
突風が体に痛みを伝える。
まるで鈍器に腹部を殴られたような。
ああ、嫌そうな顔をしておられる。
ジョーイの顔は本当に嫌そうな顔をしていた。
「答えろ」
「答えません…」
また、風が集まってきている。
後方から、声が聞こえた。


「そこまでで、おやめになられたらいかがですか。殿方」
ジョーイが振り向いた先には、上品そうな老婆がいた。
「…失せろ」
老婆は笑いながら
「そうもいきません。家出中とはいえ、その娘は私の孫ですから。
もしも聞いてもらえない、となると実力行使しかありませんがよろしいですか?」
「お婆様…?」
先ほどまで追いかけていた相手が声を上げる。
だが、ここで手がかりをなくすわけにはいかない。
あの婆さんにも少し眠っていてもらうしかないな。
「ブローウィン……」
足が、固定されているッ!?
この婆さんもスタンド使いなのか!!
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ・・・・・・ 
「実力行使がよろしいのですね」
スタンドが掴んでいたモノを投げ飛ばしてくる。
あれには、当たれない!
「風よ!腕に巻きつけ!」
足は動かせないが、あの程度の大きさのものなら粉々にッ!
モノは腕にコークスクリューにあたる直前で液体へと変わる。
「ッ・・・・・!だが、四方に散らせ!」
そこから、おかしかった。
腕で弾き飛ばした液体は、腕の周りで固体へとかわっていき、右腕と地面を接合させてしまった。
この冷たさは、氷ッ!? 

「……
舐めやがって…え?婆さん……
この俺を…舐めやがってるんだろうッ?」

ジョーイの右腕を固定する氷が、軋む。
内側から生まれる、風によって。

「この俺が…
『右腕ごとき失う覚悟も出来ていない』と…。
そう思っているからこそ、テメーはわざと
ガードできる攻撃をしやがったッ!
違うか、婆さんッ!!」

右腕自体が凍り付いているとすれば、
氷を破壊した衝撃で右腕が砕け散るだろう。
それでなくても、無理に引き剥がせば
右腕に致命的なダメージが残るのは間違いない。
だが…

「右腕だァーッ!?笑わせるんじゃあねえぜッッ!!!
ようやく出会えた手掛かりにッ!
このジョーイが、だぜッ!
右腕『なんぞ』……


惜しんでられるかってんだァァァッ!」


「お待ちなさいッ!」


鋭い静止。
ジョーイは、思わず動きを止めた。

「覚悟が、おありなのですね?
どんな事でも受け止める、覚悟が…」

「お婆様ッ!?」

林檎の声に、老婆はゆっくりと首を振る。

「男の覚悟の前には、静かに道を空ける…
それが、淑女の務めなのです。いいですね?」

「ンな事ァどーでも良いんだ…
じゃあナニか?
テメーは知ってるっつーのかッ!

あ の 時 の 事 件 の 犯 人 を ッ !」

「もう一度問います……」

真っ直ぐジョーイの瞳を見詰め、
老婆は静かに声をかける。

「どんな事でも受け止める覚悟が、貴方におありですね?」

「勿 論 だ ッ ! !」

ジョーイは絶叫する。
その叫びに、何故か林檎が顔を歪める。

「やはり…いけませんッ!」

「いいえ。
この人は受け止めると、わたくしに約束したのです。
紳士との約束は守るのが、淑女の掟…

わたくしは、とある一連の事件を追っておりました…
この世界に不幸をもたらす、
邪悪なる意思によって行われた、一連の事件…

その中で、貴方達の悲劇を知ったのです」

「いいから犯人を…ッ!」

「貴方達です」


……………。


「ハァ?」



「あの時、貴方もあの場に居たのです、ジョーイ…
強制的に成長させられたスタンドのパワーを抑え切れず、
貴方達は意識を失ってしまった…
そして暴走し、殺し合いを始めたスタンドが…
あの事件の、犯人です」

「…………ハ」





『ずっと聞いてたンだぜ!アイツの叫びをッ!助けてくれって叫びをッッ!!』





『助けてくれ、ジョーイッ!

皆を助けてくれよ、お前ならできるだろジョーイッ!

ジョーイ……? ジョーイッ!

ッ!!!

……助けてくれよ、なあ……

お前はスーパーヒーローだろ?なあ……

助けてくれッ!!ジョーイィィィィィィィッッ!!!』





「嘘だァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!」





ジョーイの絶叫が夕日を割るのではないかと思いながら、
林檎は顔を逸らした。
反響した声が消えた時にも、夕日は今まで通り、
ゆっくりと沈んでいく最中だった。

暮れるゆく夕日の中、
ジョーイは崩れ落ちた。叫ばずにはいられなかった。

ありったけの声で。


「ウォォォォァァァァァァッ!!!」

憎しみ。
怒り。
哀しみ。
不安。
恐怖。
安堵。

ジョーイの咆哮にはあらゆる感情が詰められていた。
およそ常人には理解できないであろう、その魂の叫び。

「お祖母さま……」

林檎が懸念そうな顔で口を開いた。

「いいですか。淑女たるもの、何時如何なる時も毅然とおありなさい。」


老婆のその表情は「冷静」そのものであった。
その姿から林檎は、彼女が幾百、幾千もの困難を乗り越えてきた事を悟った。



「ッッじゃあよォ、これから俺はどうすりゃいいんだよォォ!!」

行き場ないジョーイに老婆は穏やかに語りかけた。

「あなたは全て受け止める『覚悟』を決めたのでしょう。
なら、どうすればいいかじゃなく、どうありたいか、を考えなさい。過ぎ去った事は変えられません。
けど、これから先の事はいくらでも変えていけるはずです。」



老婆に諭され、ジョーイは冷静さを取り戻す。
ついさっきまで戦おうとしていた相手に諭される。


普通なら不愉快だと感じるかもしれない、

しかしジョーイには何故だか全くそのような感情が沸かなかった。
「……ッッ!!」


ジョーイの中で
何かが動き出した。


暗闇の中、
微かな光を見つけたかのように。



夕日は殆どその顔を隠し、あたりは少しずつ闇に包まれていった……

サトヨシは活き活きと絵を描いていた。

「ムム…距離感ガ、イマイチ掴ミカネマスネ」

「いいよ、そこは僕がフォローするから、どんどん描いて」

サトヨシの隣で、同じキャンパスに絵を描くタチバナ。

その上半身を支えているのはソマ。

ソマは先ほど回収してきたタチバナの左目を通して
彼の描く位置に合わせて移動していた。
「しかし、これは結構な重労働だな…」

「タチバナ、衰えてないね、やっぱりキミの絵は凄い!」

キャンパスに筆をつけることができなかったサトヨシが、
無邪気に笑っている。

その即興の絵はついにキャンパスを塗りつくして、
壁に広がり、ついには部屋全体を塗りつぶすに至る。

ソマはそのタチバナの目から見える光景の美しさに感動していたが、
同時に、自分にはモノクロにしか見えない事実に絶望もしていた。

ソマは全盲だが、スタンド能力のおかげで

誰の目からでも、どこからでも物が見える。

しかし、それが色を持つことは無い、
ソマが見る景色は全てが無彩色。

その不公平感から彼は、世界を呪いさえしている。

全ての人間が盲目ならいい……。
私の能力でそれができるなら、そうしてやろう……。

それが、私の生きるヨスガだ。

「それで、さっきの話だけど」サトヨシが話を戻す。

「今回の事件には確かに全て関連性があるけれど、まったく別の目的で、
複数の人間がこの状況を利用しているということが分かったのだな」

絵を描きながら遊んでいた訳ではない。
必要な情報を整理していたのだ。

「そして、それは別の目的で動いている複数の団体だ」

レッドの組織、対立した土星の組織。
ソマはそのいくつかの戦いを観察していた。

タチバナに興味を持ったのも、
その戦いの多くを目にしてきたからだ。

レッドの目的は「自分以外の全人類を殺す」こと。

そして、土星の組織。
その目的は「スタンド使いを皆殺しにする」こと。

ここで目的にレッドとの明確な違いが出てくる。

「ここまで整理して…え~と、何だろう?
決定的な違和感を覚えるんだ」

「この両者に「スタンド使い」を増やす理由がない、ということだな」
ソマが冷静に指摘する。

「そうかな?
レッドはスタンド使いが増えて便利なんじゃ?」

「いや、決定打にかける。
最終的に全人類がいなくなるなら、
相当なスタンド使いは死ぬだろうし、
なによりキミらみたいな邪魔者が増える」

「なるほど…」

「そこで不可解なことだが、
レッドの組織を壊滅させる為に土星が動き出したのが数年前。
ならばレッドの組織はそれ以前からあっただろう。
しかし、ムーンライダーを生み出した事故が起きたのはごく最近」

「僕らがスタンド使いが増えていると、
異変に気がついたのもここ最近の話だね」

「つまり、人類を滅亡させる計画も
スタンド使いを皆殺しにする計画も何年も前からあったが、
スタンド使いが増え始めたのはここ最近、
そして前者の二つの組織には、スタンド使いを増やす動機が無い」

それらの結果から、当然
「何らかの目的の為にスタンド使いを増やしている人物」
が別にいることが推測できた。

「そう、前者の組織は後者の動きが活発になったことで、
行動が明るみになったと考えるのが自然だ」

そして、土星はサトヨシたちが活動を開始する前から、
サトヨシ、タチバナを計画に組み込んでいたということだ。
「僕のスタンド能力が目覚める前から
行動を開始しているアイツは、
未来を知っていたことになる」

「未来人説ガ信憑性ヲ持ッテキマシタネ……」

「いっそ預言者だと言った方が信じる覚悟もできるがな……。
まあ、気をつけることだ、土星は死んだが、組織は生きている。
そして、スタンド使いを増やしている奴、コイツが不気味だ」

ソマは、もう此処を去る気でいた。
こんなカラフルな世界に自分の居場所があるハズがない……。

「ソマ、キミは本当に頼りになる!
驚いたよ、ありがとう」

「……ああ」

「だから、去ろうなんて思わずに、
僕たちに力を貸してくれないか?」

「……え?」

ソマはそれを口になどしなかったのに。

「しかし、私はキミたちとは住む世界が違う、
私はこんな芸術を作ることなど考えもつかない種類の…」

しかし、サトヨシは屈託のない笑顔で言うのだ。

「キミの立ち位置、感性、努力、
キミが介入した世界だからこそできた三人の世界観、
これはもう三人で作った作品さ。」

「残念デスガ、ソレガ事実デスネ」

ソマが部屋を見渡す。

白い空、白い海、そして白い犬。

白い部屋。

「キミにはこのカラフルな絵がまっ白く見える
かもしれない、でもこれは僕らが作った白夜だ。
キミの目にも、光って見えるロシアの空だよ」

私の能力は誰よりも多くのものが見える…。
私の能力は誰からでも光を奪う…。

しかし、なんだこの男の全てを見透かす心は……。
なんだ…私の暗闇を照らす光は!?

こんな世界があることを私は知らなかった!
こんな居場所があることを!!

彼らはこの少人数だけで、無尽蔵な悪意に立ち向かう。
希望はこんなにも小さい。

「……いや、、こちらから頼みたい、
私に、キミを助けさせてくれ」

もう、けして光を失ってたまるものか。

「何らかの目的の為にスタンド使いを増やしている人物」
その動向の一部を、矢の在り処をソマは掴んでいる。

日が完全に落ち、ヤミがあたりを染める頃
「ええ、そうです、バーレル様。
林檎さんは私と一緒にいますので、気になさらず…では」
電話をお借りし、バーレル殿に連絡を取る。
ジョーイ殿といえば、先ほど合流したD.M.Qさんと話をされているようだ。
恐らくは彼女が彼の“仲間だった”のだろう。
スタンド、その人知を超えた力を手に入れたとき、その力の大きさに心が負ける者がいる。
自身の力を過信し、世界を我が手にしようとするものもその一つだ。
それはどこにでもおきる。
なぜならスタンド使いというのは、群発的に現れる。
そう考えているからだ。
あるところでスタンド使いが暴れだすと、そのスタンド使いを倒すもの達が現れる。
そして、正常化するとまた違う地域でスタンド使い“達”が現れる。
なぜだかわからないが、その流れは確実に存在する。
この街も今、その流れに入っている。

「婆さん…、電話は終わったか?」
話が終わったのだろうか?
少し元気の無い(まぁ、しかたが無いのだろう)ジョーイ殿がこちらへ話を振る。
「はい、ありがとうございました。」
落とさないように、しっかりと電話を渡す。
ふと、視線を感じてそちらの方を向く、そこには何かがいた。
あれは…?

ド ド ド ド ド ド ・ ・ ・ ・
(…レクイエムタイプ?)
いや違う、違うが近い。
攻撃の意思は無いようだ、こちらを一瞥するとまた闇の中へと溶け込んでいった。
正直、今こられたら勝てる気がしない。
レクイエムタイプとはいえ勝てないわけではない(2度ほど撃退している)だが、今は無理だ。
状況が悪い。
「婆さん、レクイエムがどうした?」
「…なんでもありませんよ」
この街は危険だ。

「お婆様!!右ですわッ!!」
右?
「オ マ ア エ エ ノ カ オ ミ セ ロ オ オ オ オ オ オ オ・・・」
これは先ほどのッ!なぜ今ここに…!?
先ほどの疲れで、反応ができなかっ―――。





ふん、なるほど。
今のあいつは何かを探しているだけ、か。
離れた場所からケイが見ている。
だからこそ攻撃するかしないかだけを見ていた老婆には反応できなかったのだろう。
(反撃する意思はあるのだろう、先程のように)
来るべき“Armageddon”のその日まで神の尖兵を送り続ける。
神の尖兵として恥じない能力を与えて送る。
その使命が私にはある。
アレは私が後一撃加えるだけで全てが消滅する。
今は気にすべきではない。
ケイは歩き出す。
やるべきことが自分にはある。
それは神の為に動くこと。
私は死ねない、いや死なない。
私は神の愛により、常に生き残る。
カルネアデスの板。
それは神が――――。
片方だけでも生き残らせる為に、最後に残した愛の形。 

それは焦っていた。

――エネルギーが、足りない。

先ほどの戦闘で、消耗したせいか。
それとも、やはり時間切れなのか?

もう……私は、消えるしかない。


だが、最後まで…この魂は、私を突き動かすだろう。

私は、その場に居る全員の顔を、眺めようとする。

……スタンド使い。

エネルギーが、足りない。

スタンド使いは……。

エネルギーが…。

スタンド使いは、殺さねば。

------------------------------

殺すッ!殺す、殺すッ、殺(サツ)コォロォォスッ!
スタンド使いどもォォォォ…
テメエらを抹殺して抹殺して抹殺して抹殺してッ!
必ずや俺はッ!『真実』に到達してやるッッ!

ナガセ……とか、言ったか?
お前の無念、俺も『理解できる』ぜ。
だがな、もう時間切れなんだよ……。

うるせェッ!
テメーにこの俺の無念が、解るだと…!
解るってのか、テメーごときにッ!
俺の、この、真っ暗な……
独房の中の白骨のごとき『絶望』がッ!!
テメーごときにッッ!!!

まァ待てや、ナガセ。
ジャンケルビッチ。お前今…
『理解できる』と言ったのか?

ああ。
一歩間違えば、『俺はナガセだった』。
『俺達は、ナガセ達だった』んだ。

ンだと…?
一体どういう……
……………ッ!!

『理解できた』か?
ナガセ……カンベイも。

なるほど、な…。
よォ、ナガセ。
ここは……任せてみねえか。
お前の、無念をよ。

任せるッ!?
ふざけてンじゃあねぇぜッ!!
コイツに任せた所で、
どうせコイツも俺と同じッ!
消えちまう……
消えちまうんだッ!!
無念のまま、
消えちまう運命じゃあねえかあああああああッッ!!!

……違うぜ、ナガセ。
俺はよ。『見つけた』んだ。

!!

悪いな、カンベエ……
俺の願いが叶い、
ナガセの思いを受け継がせる事ができても…
おめえの願いだけは、消えちまうな、こりゃ。

クク、全く損な役回りだぜ。
ま、いいって事よ。
俺の願いは、あの時一度、叶ったんだからな。
ナガセ。これで良いか?

チッ……
どォせ他に手はねーだろーが。

安心しろよ、ナガセ。
アイツなら、必ずやってくれる。
だってアイツは、

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――信じられない。偶然なのか……。
それとも、これが……『惹かれ合う』という物なのか。

間に合った。

私の虚ろな思考、
せめぎ合う三つの魂が、今、

一つの意志に任せられる。

「ジ……」

私は――彼になる。

彼は――俺になる。

俺は、ゆっくりと、『唯一、肉親と呼べる男』……
『最高の仲間』の、名前を呼ぶ。

「ジョー、イ……」

「何だテメーは…」

ジョーイの握り締める拳に、スタンドの幻像が重なり、
そして風が纏わりつく。

「動物もスタンドも俺のファンかもしれねえがなァ……
こっちは狼のスタンドなんぞに知り合いはいねーんだよッ!」

「相変わらず、だな、ジョーイ……
キメが半音下がるのも、相変わらずか?」

それは、ジョーイの初めてのライブの時。
緊張の為、認めたくないことではあるが…
ジョーイは、致命的なミスをした。
コアなファンでも、知っている者は少ないミスだ。
そして、それを何時までもからかい続ける男が…
一人だけ、居た。
メンバーの内の一人。
あの時、行方不明になった男。

「ジャンケル……ビッチ?」

ジョーイの言葉の響きから、何かを感じ取り…林檎が一歩、後ろに下がった。
林檎の静かな動きに目を細めながら、トメも一歩下がる。

「俺はもう行かなきゃならねーからよ、簡潔に言うぜ?」

「おい…なんだよお前その格好?
行くって…どこ行くっつーんだよ、テメエ…
やっと会えたんだぜ?
色々…いいか、この俺がだ、
この俺がわざわざ、言いたい事があるっつーんだぜ?
ナニてめーは、勝手な事をッ」

「俺はもう、行く時間なんだ」

静かな友の声。

ジョーイは、顔を歪ませ、
……やがて小さく首を振り、口を閉じた。

「すまねーな、ジョーイ。
そんでよ、お前に頼みがある。
俺達と……そして、もういっこ。
俺の中に居る、ナガセってヤツの敵を……討ってくれ」

「正直奇妙な話、だがよォォ、
俺はナガセなんだ。
ナガセは俺なんだ。

だからなんつーか、

俺の願いつーかよォ、
だから

頼む……ジョーイ」


薄れゆくその意識と肉体の中、ジャンゲルビッチは必死でそう語った。


背を向けたまま
ジョーイが静かに口を開いた。

「俺は風だ。
何者にも囚われず、何者にも縛られない、
すきに生きて
すきに吹いて来た。

そうやってきた。




でもよォォ、
テメーとつるんでる時、スゲー満たされてたんだ。
たまには『吹かない風』ッてものアリだと思えた。


……サヨナラは言わないゼ、ジャンゲルビッチ。」


「……ジョー…イ」


「フンッ!あくまで俺の『意思』でナガセをヤった野郎をヤるんだからな、俺は別に――」

どもるジョーイ。

「へッ、最後まで憎まれ口たたきやがって……、
そろそろ時間…みてェ、だ…

ジョー…イ…

プレ…ゼントをくれて、やる。
『あのハウス』の親父ンとこ…いきな…。

うま…く…
使え…よ。


それ……じゃァ、な。」

「!?
おいッ!!

ジャンゲル……」


ジョーイがそう叫ぼうとした時、


「ォォォォンン……」
ネオ・ユニバースのボディがサラサラと崩れ落ちていった。

混ざりあっていた3人の魂はほどかれ、

天へと吸い込まれるようしてに消えていった。

「……。」

ジョーイは何も、
言わなかった。

あたりを穏やかで温かい風が包みこむ。

林檎と老婆はそれを肌で感じ、ジョーイの気持ちを悟った。

「いきましょうか、林檎……」

「はい……お祖母さま。」


2人は静かに、見守るように去っていった。



―――後日、ジョーイは例のライブハウスへ向った。
はじめてジョーイ達がステージに立ったそのライブハウスへ。

ギィ……
ゆっくり扉を開く。

「アンタかい、預かりもんがある。来な。」
現われたオヤジに奥へと案内される。


「コイツだ……。」


でてきたのはハードケースに納められた、
ギターだった。

『ギブソン・レスポール』

裏には
『ジョーイへ』と書かれていた。



ケースからソイツを出し、構える。

ジョーイは何も言わず、ただ ただ
ギターを掻き鳴らした。

あたりに哀しくも美しい音が響き渡る。



涙を流しながら、
指から血を流しながら、

それでもジョーイはただ ただ
ギターを 掻き鳴らした。

今まで私の友人は、足元で私に身を預けている
白い犬、マニエルだけだった。

だから携帯電話など一度も持ったことはないが、
いま手元には誰一人として番号を知らない、
真新しい携帯電話がある。

しかし仲間ができた以上……。
フフっ、何をニヤケているんだ私は。

用件が済んだらサトヨシに番号を教えよう。
連絡は取れた方がいい。

そして思惑通り着信音が響く、
誰も番号を知らないハズの携帯が鳴っている。

「はい、どちら様かな?」

『しらばっくれないで……見ているでしょう』

「ああ、見ているよ」

キミからの電話を待っていたんだ。

『いい趣味ね』

電話の相手はコウ、
携帯を端末に直接声を送ってきた。

この女を初めて見たのは、
タチバナの監視をしていて、
彼に近づいてきた時。

その時の彼女はまだ
スタンドの意味すら知らなかった。

それがどういうことか?

『アナタ、自分が優位なつもり?馬鹿らしい、
私にも分かるのよ、アナタの所在や、能力くらいは』

「まったくすぐれた能力だ、感嘆の意を禁じえない。
しかし、サトヨシたちは自力で真相への扉を叩き初めている、
だのに、その力を持つキミがいながら、何故シバミたちは
何一つ成果を挙げることができないでいるのかな?」

そう、この女はすぐに目当ての
暴走族壊滅事故の犯人に行き当たった。

例の「矢を使ってスタンド使いを増やしている人物」にだ。

そして、何があったか知らないが、
彼女は彼に従うようになった。

「単刀直入に言おう、
キミに駅ビルでの戦いを監視させて、
矢を預けた人物。
ケイとはいったい何者なのだ?
そして、何が目的なのかな?」

コウは黙る。

「おっ?」

『……何?』

「いや、以前にもキミと
電話で話したことがあるような
そんな錯覚を覚えただけだ、
デジャヴというヤツだな」

携帯電話など持ったこともなければ、
初めて会話を交わす相手だというのに。
不思議なものだ。

『アナタは私を監視しているがいい、
その代り、アタシもアナタを監視している。
忠告しておくわ、
少しでも私たちの邪魔をするような素振りをしてみなさい。
アナタは相応の犠牲を払うことになるわ』

「それは恐ろしいね」

突然携帯が爆発する。

「くっ!?……やれやれ、新品だったのに」

さて、警戒すべき相手を牽制してやったことだし、
ジョーイとか言う男も目標をナガセの仇、
つまりケイに切り替えた様子だ。

全ては一つに収束しつつある。

あとはタチバナのパーツだが……、
確かジョーイと一緒にいた女。

『お婆様、その大きな荷物は何ですの?
見せてくださいまし』

『コレ、やめておいた方が身の為ですよ』

少女が老婆から取り上げた荷物は、タチバナの下半身だ。

『きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

『……今後の為にこれは持ち主に
返しに行かなければいけないね』

どういう訳か老婆は
事情を知っていて、協力的なようだ。
ありがたい。

さて、
コウはしばらく自分に釘付けておけることだろう。
隙を作ってうまく敵の内情を知れるといいが…。

先日まで世界を滅ぼすくらいの心持でいたのにな。

「なあマニエル、世界はまだ
私を見放してはいなかったのだな……」

マニエルはクゥンと返事をした。

「私が趣味で絵なんて描き始めたら、笑うかい?
この戦いを私の手で一刻も早く終わらせて、
サトヨシに習ってみようかと思うんだが」

こんなに清々しい気持ちは初めてだ、
生まれ変わった私を悩ますことと言えば、

「誰かに殺される夢を繰り返し見る」

ということくらいか、
それは、たかだか夢の話。
戦いを前に緊張でもしているのだろう。

そう、たかが夢の話だ。



第9話『絶望に挿した光』

To Be Continued...   外伝『9話外伝』

                               外伝『灰色の光』

最終更新:2008年07月09日 22:27