店内が騒然としていく中、一人目を閉じている女性が居た。
「……そろそろね」
彼女がそう呟くと店内が一気に暗闇に変わり非常ベルが鳴る!
「か、火事です!お客様速やかに店から出てください!」
同時に店員の叫び声が店内に響き渡る。
店内の人達は一斉に出口へと駆け出した。
「うおッ!」
その人波に弾かれ裕はムトウ達と距離が離れる。
目を閉じていたコウにはそれを確認する事が可能ですぐさま行動に移る。
「こっちよ!」
いきなりの暗闇の中困惑しているムトウに呼びかける聞き覚えのある声……。
(なんて名前だったか……。まぁ、ビッチでいいか……。)
などと考えつつもムトウは考えを巡らせていた。
(もしや、罠なんじゃあないか……?)
声の方向からは煙が立ち込めている。
そんな思いをドルチは見抜いたのかニャアと鳴き声の方へと歩き出す。
(フム……罠では無いようだな……)
ムトウは煙を吸い込まない様に胸ポケットからハンカチを取り出し、口に当て声の主を探した。
「その必要は無いわ、これは私の能力……」
煙の中には数時間前、喫茶店で話していた女性……コウが立っていた。
「……やはり『スタンド使い』だったのですね……しかしビッチ……失礼、能力を曝け出すのはいただけませんね?」
「能力を明かしたのは貴方を信用させる為、そしてこの危機を脱する為よ」
ムトウの見下す様な視線を物ともせず凛とした目で説明をするコウ。
「私はね……面倒事には関わりたくないの」
店内の人がすべて非難したのを確認してシャッターの操作パネルを操作しながらコウは続けた。
「でも、弱者を……ましてや女性をッ!いたぶる奴を無視する事などは出来ないわッ!」
そう言い終ると同時に店のシャッターが閉まる。
「私の『スタンド』は直接的な『攻撃』はできないわ……だから、『協力』して欲しいのだけど?」
煙が晴れてお互いの姿を確認する。
その時、コウは異変に気付く。
「ッ!?一緒に居た女の人は!?そ、その腕はもしや……」
黙って聞いていたムトウがため息と共に口を開く。
「アバズレにしてはなかなか『熱い想い』を持っている、嫌いじゃあ無いですね……」
ムトウは能力を解除する。
シバ美の身体を呼び寄せる為にッ!
「これが私の能力です……女性は嫌いなんですが、ビッチ……失礼、協力しましょう」
その瞳を見つめて確信したコウは笑顔を見せる。
「奇遇ね……私も男性は嫌いなのよ」
******
ジリリリリイリリイリイイリイリイリイイイイィィィィ
グァシャン!!!
「、、、、。」
裕は火災報知器を殴り、その音を止めた。が、まだ店内は暗闇のままだ。
「ち、、。煙は見えるが全然火の気が無いじゃぁないか、、。騙しやがってッッ!!」
いきなり店内が真っ暗になったと思えば、あの男が消えやがった。
、、、そういえば、あいつ、不思議な事をやってのけてたな。
いきなり、女の肩を、、、
そう、『取り外した』
あれは、、「能力」なのか、、?僕の、「アボガドスキー」の様な、不思議な能力。
それに、あの女も、、。酒を水に、、、、、。
いや、重要なのはそこじゃない。
あいつらが俺みたいに不思議な力を使えるとか使えないとか、そういうのは全然問題ない。
重要なのは、逃げられたという事!
男がいなくなったから、まずは片腕の取れた、、、あの、、俺が殺そうとしているにも関わらず、片腕がいきなり無くなったのにも関わらず、、!ボケっとしてるあの酔っぱらいを殺ろうって思ったのに!!
「割ったグラスでメチャメチャに刺し殺してよろうと思ったのによぉ!畜生!!どこ吹っ飛んでいきやがったッ!!」
不思議だ、、。
裕は自分の気持ちが異様に高まっているのに気付いた。最近読んだ本、、あれが関係してるのか?読んでみろっていきなり変わった奴に勧められて、、、、。
全然面白そうな本じゃ無かったけど、、むしろ、その手のジャンルはあまり好きではなかったし、、でも、ページをひらく度に、なんか、、どす黒いゾクゾクしたものが体中に入り込んできて、、
最初は確かにびびった。なんか胸がズキズキするし、、見ちゃぁいけないモノだって分かった。
だけど、、クセになるんだ、、!読む事を拒めば拒むほど、興味が、どんどん湧いてくる、、!!拒めない!!読むのを、止められないッッ!!!!!
新しいジャンルを発見した時、人は好奇心からすぐ夢中になるだろぅ?あれと一緒だ。そしてハマったらドンドン盲目的になる!続きが読みたくなる!『実践』してみたくなるッッッ!!!!
分からない、、。ただ、わかるのは、、、今!!
気 分 が い い って事だ!!!!!
「逃げられた、、確かに逃げられた、、。
だがそれはつまり、これから追いかけて殺す楽しみが増えたって事だよなぁぁぁ。
楽しみだ、、追いかけて追いかけて、恐怖しやがれ、、。そして最期に、俺がその恐怖でひきつった顔をめちゃくちゃにしてやるぜ。もちろん、普通には殺さねぇ、、芸術的に、、なぁぁ。」
いけ好かない男、酔っぱらいの女、そして、逃亡を手引きした奴、、いるのは分かってるんだ。声がしたからなぁ。何人いるのかはわからないが、、いや、何人いても構いやしない。
能力を使えようと使えまいと、、俺は今気分がいいんだ。出てくる奴はみんな、、、皆殺しだ!!
******
コウとムトウがいる場所は飲み屋が入ったビルの裏口、火災報知器の効果で客や従業員は正面出口に集まっていることだろう。
実際に火災が起きた訳ではない以上、誤作動を疑いすぐに人がビルに足を踏み入れるに違いない。
彼女がこの能力を得たのはごく最近、スタンドなんていうこともムトウに聞くまで知らなかったくらいだ。
コウのワールド・ワイド・ウェブはあらゆるコンピューターの操作端末といえる能力、コウはそれを使い情報を集め、最近になって能力が関連してると疑わしい事件が頻発していることに気がつく。
そしてあの事件、『暴走族全滅事故』を調べている時にある想像が過ぎった。あの事故は人為的に起こされたもので、35名が死亡した中でたった一人生き残ったナガセはそれがきっかけで能力に目覚めたのではないか?
そう、この一連のスタンド使いの急増は誰かの差し金である可能性が高い!
そして、スタンド能力者同士の殺し合いが始まるにつれて、いずれ自分も殺される危険への不安を拭えずにいた。そこで他のスタンド使いとは違う目的意識を感じさせる行動をとる猫と男にたどり着き、コンタクトを取ることにしたのだ。
自分の身を守るために。
ムトウ「アナタの言う通りこの一連の騒ぎが誰かの思惑によるものであるとしたら少々軽率ですね、もし私がなんらかの目的で暗躍する首謀者であった場合、アナタみたいな人間を真っ先に消すでしょうからね」
コウ「とにかくほおっておけないのよ、ムーンライダー、殺人鬼、判断はつかないけど、増やすのが目的の割には減らすことを念頭においているような…」
ムトウ「増やしておいて、殺す…さっぱり要領得ませんね」
コウ「だから私は身を守る、戦わない為に誰か、少しでも事情を知っている人間の協力が必要だった」
当面、あのスタンド能力に過剰反応して『殺人の衝動』に駆られた少年も能力者で、その首謀者とやらの計画の一環である可能性は、「そうではない」ことよりずっと自然だ。
ムトウ「シャクですが、アナタがワタシに行き着いた手腕は確かなようですね。堕落した雌どもとは違い普段から美しくも訓練を怠らず、心身ともに美しく一流で、どんなことも一流のアスリート並にこなす、この美しい私に助力を頼むのは当然のこと」
ムトウは知らない、祐は今「黒人の瞬発力」「マニュアルのような格闘技術」「完璧な殺人術」「猟奇殺人犯の心」を持っていることを…。
「アナタは(人格的に問題があるけど)頼りになりそうだし、彼女なんでしょ?ムーンライダーを倒したのは…?」コウの言葉をムトウの舌打ちが遮る。
ブルース・ドライブ・モンスターで分解したものは、解除と共に惹かれあい接触することで元に戻る。シバミの腕を持ってきたムトウが分解を解除した時点で、シバミはこちらに引っ張られるハズなのだ。
ムトウ「くっ、あの豚!中で柱にでもしがみついているのか、どっかに引っかかっていやがるとでも言うのか!?愚かな!これだからアル中の雌はっ!!」
コウ「中に戻るしかないわね…」
ムトウ「このままではすぐに人が入ってきてしまいます。お手数ですがビッチ、このビルに火を放って大火事にしてください、人を遠ざけて消防車が来るまでにあのアバズレを回収します」
コウ「正気なの!?」
ムトウ「敵のスタンド使いとの戦いも人に見られたくはないのでね」
ムトウが壁を「分解」して中に入ると、まるですり抜けたように壁は元に戻る。
そこには一人残されたコウの姿。ドルチはいつの間にか姿を眩ませている。
コウ「ちょっと、一人にしないでよ、私のスタンドは直接攻撃能力無いんだから!?」
コウは慌てて裏口の扉へ向かい、ムトウを追いかける。
その様子を見ていた男がいた「聞いたぞ、聞いたぞぉ、能力を消して回ってるだって?そいつは許せんよなぁ?さて、居酒屋の彼に興味は無いけど、協力してやるかな。俺のこのカーペンターズは建築物内じゃあ、無敵だぜぇ」
『ヒデエモン/スタンド名:カーペンターズ/能力:建物内のどんな物でも、直したり、操る事ができる』
******
「どこにいやがる阿呆共……そして何故だ……どんどん道が変わっていく……」
居酒屋の内部はまるで侵入者を拒む意思を持ったように、次々と形を変えていく。
祐は居酒屋をさ迷っていた。しかし、それはムトウとコウも同じだった。
「まるで臓器だな……汚らわしい」
「なぜ私がここまで苦労しなければいけないのだ……いや、これも彼のためだ」
「あのビッチはどこだ?まさか殺されたのか?」
ムトウはひとしきり呟いた。右に曲がろうとしたら行き止まりになり、左に行こうとしたらいつの間にか右曲がりになる。
分解しようにも、分解した後の道まで変わってしまい、意味がなくなってしまう。
『黙っておこうかしら……私のWWWで調べたら……近くに【もう一人スタンド使い】がいる』
『でも敵意は無いみたい……』
『シバミを見つけてからのほうがいいかしら……』
コウは黙っていた。自問自答を繰り返しながら、黙っていた。
これはヒデエモンなりの配慮であった。いま出会えばシバミの一部を抱えるムトウは100%やられる。
実際、曲がっているように見えるが、全部まっすぐシバミへ進むように誘導していた。
逆に祐の方はどんどん遠ざけて行った。
彼今行っている方向は無い。厨房をグルグルと回っている。
「ったくよー。世話がかかりやがるぜ……。カーペンターズ、しっかり働けよ!」
「へイ!オヤカタ!」
「ガッテンダ!」
「マカセヤガレッテンダ!」
「オレタチニマカセトケバアンシンダ!」
そのころシバミはというと……
「片腕が無いと不便ねぇ……そういえばザキはどうやって生活してるのかしらぁ?」
シバミは懲りずにビールを飲んでいた。
これから起こることなどまったく考えていないシバミの姿がそこにあった。
******
「胸騒ぎがして来てみれば…」
シャッターをぶち破って入った居酒屋の中は、荒れ果てていた。
「タチバナは…無事なのか?」
仮にも彼の『生徒』であり『友人』なのだ。
心配しない要素などない。
―――ふみゃぁ。
「ドルチ?」
立ち込める埃の中から歩み寄って来る猫を見つける。
『スタンド能力を消す』猫。
数週間前。
そう、一例のスタンド事件が始まった頃、ふらりと現れた猫。
人為的な『スタンド使い』の増加で荒れそうなこの町を正常出来るかもしれない『鍵』。
「無事なようで何よりだよ、ドルチ。…タチバナは?はぐれてしまったのかい?」
―――にゃぁう。
一鳴きして、埃が舞う店の奥を振り返るドルチ。
「このドグサレがーッッ!!」
「この私への攻撃はッ!」
割れたビンやグラスを振り回す青年…いや、確か「裕」という名前だったか。
そして、流れるような動きと、スタンドによる『分解』で、攻撃を躱すタチバナ。
「ウバシャアアァァァッ!!」
「そんな醜い攻撃はッ!通用しないと認識していただこうッッ!!」
がむしゃらに攻める祐と、華麗に躱し続けるタチバナ。
それはまるで――
「―美しい」
舞踏会の一場面の様だった。
「…無事アトリエに戻れれば、描くことにしよう。」
思わず、佐藤は呟く。
「…うわぁ、驚いた」
尻餅をついたまま、シバ美はそう漏らした。
カウンターにしがみつきながら、なんとかビールを干していたとき、後ろから割れたグラスで襲いかかってきた裕と。
辛うじて避けた勢いで突っ込んだ壁から、突然現れたタチバナ。
…私を抱き留めて、「手間を掛けさせないでください、ビッチ。…失礼。」とか言ってたけど。
そうしたら、二人が争い始めたのだ。何故か守ろうとするタチバナと、何故か殺そうとする裕が。
「ん。先生か」
不意に、タチバナが呟く。
攻防は泥沼。
攻める祐、流すタチバナ。
流麗に、延々と繰り返す。
「クソッ!!大人しく死ねッッ!」
「いいタイミングです。…『ブルース・ドライブ・モンスター』」
タチバナにふりおろされた裕の両腕は身体から分解され、彼のスタンドの手の中で垂れ下がった。
「両腕がなくては、暴れようもないでしょう。そして…任せましたよ、先生。」
…呆然とする裕に、『オールラブ』の拳がめり込んだ。
******