ヒメガミ(非・女神)
クィンテット子爵家の末っ子であるディアが、初めてその"女神"を見たのは、20歳を迎えたばかりの春の、とあるお茶会でのことだった。
およそ社交的ではないディアだが、その日は両親に厳命されて仕方なく晴れ着に着替え、あまり親しいとは言えないボラレアス伯爵家が主催するアフターヌーンティーパーティーに顔を出したのだ。
ボラレアス伯爵家は、武をもって王国に仕える家柄だけに、その邸宅は華美とは程遠かったが、同時に建国以来の貴族の家柄らしい落ち着いた品格に満ちていた。
また、パーティーに集まっているのも貴族の若手子女が中心で、本格的な夜会と異なりあまり肩肘の張らない雰囲気ではあった。
しかしながら、やや口下手なうえ、うら若い令嬢が好む流行事やゴシップにも、青年貴族が興じる闘技や賭博事にも疎いディアは、幾人かの顔見知りに会釈をする程度で、基本的には半ば進んで"壁の花"役に収まっていた。
(もっとも、自分なんかが"花"を自称するのもおこがましいのでしょうけど……)
やや自嘲気味に己れの貧相な体を見下ろすディア。
と、その時、人々のざわめきが一段と大きくなった。
何事かとパーティー開場の入り口の方に目をやった所、頭の中が真っ白になるほどの衝撃がディアを襲った。
その女性は、まさに大輪の白い薔薇だった。
まず目を引くのは、満月の光を結晶させたかのように見事なプラチナプロンド。
「雪花石膏(アラバスター)のような」とは、女性の肌の白さを誉めそやす定形文だが、その修辞に偽りのない実例をディアは初めて目にしていた。
非のうちどころなく整った、意志の強さを感じさせる顔だち。
中でも、その翡翠色の瞳は、深い海を覗き込んだときのような神秘を感じさせる。
やや砕けたこの宴の場にふさわしく、彼女が着ているのはふくらはぎまでの丈の、白いカクテルドレスだったが、それでもその優雅さ優美さは僅かなりとも損なわれていない。
「──皆様、本日は我がボラレアス伯爵家の催しました茶会にお越し戴き、誠にありがとうございます……」
澄んだよく通る声には、ただの貴族のお嬢様にはない凛とした気概が感じられる。
白状するとディアは、この女性――おそらくは、このボラレアス家のご息女、ゲルトルード嬢に、ただのひと目で心を奪われてしまったのだ。
だから、その後の一連の事実──知己の青年ルーセントの紹介で彼女に引き合わされたときも、彼女に試すような目で見つめられたときも、親しげな口調で話しかけられたときも、ほとんど夢見心地だった。
そしてあろうことか、後日、彼女から個人的に内輪のお茶会への招待状が届いたとき、ディア――ディアブラス・ルゥリィ・クィンテット青年は、これが何らかの陰謀か悪戯ではないかと勘繰ったものだ。
まして、そのまま彼女と親しくなり──と言うより彼女に一方的に気に入られて、「おつき合い」が始まり、あれよあれよと言ううちに内々で婚約まで決まってしまうとは……。
ディアとしては「スプライトに化かされた」という表現がピッタリの心境だ。
恋人となった当初も、そして今も、自分のどこが2歳年上のゲルトルード嬢のお気にめしたのかサッパリわからない。
彼女の父のように武技に優れ、国軍の統制に貢献しているわけではない。
彼女の長兄のように気さくで、そのクセ非常に頭が切れる上級官僚というわけではないし、家を出たと聞く彼女の次兄のように一流冒険者として名を馳せているわけでも、自由闊達な気概を誇っているわけでもない。
凡庸で気弱な青年。それが、彼の自己認識だ。強いて言うなら、それなりに整った顔だちはしていると言えるかもしれないが、ディア自身は母親譲りの己の容貌があまり好きではなかった。
大抵の人からは「女の子みたい」と言われるが、成人男性にとって、それは決して誉め言葉ではないだろう。
体つきも小柄な両親からの遺伝か、成人男子の平均身長はおろか女子の平均に届くかどうかといったところ。さほど大柄とは言えないゲルトルード嬢と殆ど同じくらいの背丈で、向こうがヒールの高い靴を履けば確実に見下ろされる。
もっとも、単なる「婚約者」から寵愛を受ける「愛人」へと昇格(?)したあと、自分が選ばれた理由に遅まきながら気づくことになるのだが……。
* * *
伯爵家を訪問したディアは、いつも通り彼女とその両親から歓待を受けたのち夕食をご馳走になり、今日初めて屋敷に泊めてもらうことになった。
元々、「そういうこと」には疎いタチなので、食後に彼女付きのメイドが来て、手紙を差し出した時も、手紙を読むまではその内容に思いいたらなかった。
<日付が変わる頃、我が寝室に来られたし ゲーティ>
「さぁさ、早く部屋に入ってください、ルリ」
ゲルトルード……ゲーティは、彼をファーストネームの"ディアブラス"でも、愛称の"ディア"でもなく、母方に由来するミドルネームで呼ぶことを好む。
「その方が貴方には似合ってますから」と言うのが理由だったが、今夜ようやく、彼女の思惑をディア――いや、ルゥリィも正確に理解することとなった。
「うーん、相変わらずお肌スベスベですわね~」
「え、えーっと……」
「さっ、こちらへどうぞ」
口を開く前にテキパキと鏡台の前に座らされてしまう。
「ウフフ……やっぱり。間近で見ても、肌は真っ白ですし、おめめもぱっちり。最高の素材ですわ。ささ、無粋なモノは脱いで!」
「あの……」
ゲーティの有無言わさぬ独特のテンポに巻き込まれ、ほとんど抵抗できないまま、上着を脱がされてしまう。代りに手渡された衣類を見てルゥリィは固まった。
「あのぅ……これって女物、ですよね?」
「ええ、見ればおわかりでしょう?」
戸惑うルゥリィをよそに、コルセット、ショーツ、胸当て、パニエといった下着から、ダークブルーのドレス、さらにイヤリングからハイヒールまで、女物の衣装一式が押しつけられる。
「あ、あのゲルトルードさん。ボクはちょっとお話に来ただけで……」
「まぁまぁ、そう遠慮なさらないで。ささ、着替えちゃいましょ」
「いや、遠慮じゃなくて、ちょっと…あの、あっ……」
瞬く間に上半身を裸に剥かれてしまう。魔法か奇術でも見ているような気分だったが、つぎに気がついたときには、ディアはあっさりとボトムスのベルトまでも外されていた。
「ウフフフフ♪」
「あ、や、やめ……」
何とか死守しようと気張るルゥリィの努力も、ゲーティの手が触れた次の瞬間、呆気なく敗北した。
「はい。脱げましたわ」
ゲーティはにっこりと微笑みながら、ルゥリィのスラックスとパンツをポイッポイッと背後に放り捨てる。
「うぅ……」
許婚者とは言え、うら若い美女の前で裸でいる恥ずかしさに、ついルゥリィは内股で前かがみになる。
「ん~本当は補正用の器具もつけたほうが見栄えはいいんですけど……今日はかわいい下着だけにしておきましょう」
「ええっ? いや…あの……」
「さ……腕を通してくださいな」
「は、はぃ……」
ゲーティの迫力に負けたルゥリィは、渋々女物の下着を着始める。全裸のままでいるよりは、多少なりともマシだと思ったからだ。
慣れないことなのでもたついていると、ゲーティが手際よく手伝ってくれ、瞬く間に下着とドレスの着付けが進む。
「ここのリボンは前結びですわ。ある程度膨らみを持たせて結ぶと、ホラ、可愛いでしょう? ん~、コルセットはもっとキツく締めた方がいいかしら。それからお化粧も……」
そう言えば、世の若い女性の中には、妹や弟を着せ替え人形にしたがる者もいる、と聞いたことはあった。
(やっぱりボクって、ゲルトルードさんからは弟代わりくらいにしか見られてないんだ……)
落ち込むルゥリィは、為されるがままでいた。
「ふぅ、できましたわ。さ……ご覧なさい」
しばしの後、自分の「仕事」に満足したように「ふぅ」と息をついたゲーティが、姿見の方にルゥリィを向かせた。
そこには……見たこともないような、可憐な少女が立っていた。
「こ、これが…ボク……?」
ついお約束な台詞まで漏らしてしまう。
「フフフ、可愛いでしょう? やはりわたくしの目に狂いはなかったのですね。 貴方と初めて会った時から、わたくし、ひと目で「ピン!」と来ましたの。
きっとこのコは、絶好の「美少女」になるって」
ゲーティが楽しげに話し続けているが、ルゥリィの耳にはほとんど入っていない。
確かに、ドレスを着てうら若い少女の格好をしたルゥリィの姿は、女としてかなり……いや滅多に見られないほど可愛らしい部類に入るものだった。
(ほ、ホントにボクなの?)
元々、体毛が薄く、体つきも貧弱で、それがルゥリィのコンプレックスにもなっていたのだが、まさかその体型がこんなふうに化けるとは、夢にも思っていなかった。
無意識のうちに、そっと右手を頬に添えてしなを作り、女らしいポーズを取っている。
「たしかに、かわいい……かも」
変声期を迎えても、ほとんど子供時代とピッチの変わらなかった声は、そのままでもメゾソプラノの女声に聞こえる。
「うふ。このわたくしの見立てですもの。当然ですわ。では……」
しなやかなゲーティの手が背後から伸び、ルゥリィの肩を掴んだ。
くるりと半回転させられ、そのまま彼女の両腕に抱き寄せられ、口づけされる。 「!」
決して、激しくも荒々しくもないキス。それなのに、その行為でルゥリィは「唇を奪われた」と感じる。彼女との初めてのキスは、知らず知らずのうちに、ルゥリィの中に受け身でいることの快感を刻みつけていった。
「げ、ゲートルードさん……」
「あら、ダメですよ。ふたりきりの時は……そうですね、「お姉様」とお呼びなさい」
倒錯的な言葉使いを強要されても、ぼんやりと霞かかかったような頭は拒否することを思いつかない。言われるがままに「妹」として彼女の指示に従い、その行為を受け入れていく。
強く抱きしめられ、肩や背中を優しく愛撫され、唇や耳、首筋などにキスされて喘ぐ。 全身の肌がふだんの何十倍も敏感になっているようだ。
「んんんんっ…!!」
とどめとばかりに、ゲーティの舌がルゥリィの口腔内を蹂躙し、その舌にからみつき、甘い唾液を注ぎ込む。同時に、体中の絶妙なポイントを這い回る彼女の手に快楽のツボを刺激され、ルゥリィは、ビクンビクンと全身をこわばらせてのけぞった。
ルゥリィの局部はピンと固くなってはいたが射精はしていない。それどころかそこに手さえ触れられていないのに、キスと体への愛撫だけで、女のように軽く「イッて」しまったのだ。
くたっ、とルゥリィの体から力が抜けたのを確認すると、ゲーティは優しくその頬を撫でる。そしてもう一方の手は……スカートの中へ。
ただし、前にではない。
「──ひゃっ!」
ゲーティの手は、ルゥリィのお尻に伸びて、ショーツ越しにそのお尻を優しく撫でていた。
「あぁん……」
無意識にルゥリィの口から、とても男とは思えぬ艶めいた嬌声が漏れる。
「ルリのお尻、キュッと引き締まったいい形をしてますわね。それに――とっても触り心地いいですし」
ゲーティの手が優しくルゥリィの肌を撫で回す。先程までの興奮の余熱で身体が汗ばんでいるせいか、彼女の掌はルゥリィのお尻にピッタリと吸い付く。
ほどなく、お尻の肉を愛撫していた指が、するするとショーツの中に伸びて来て、ふたつの山の中心部にたどりついた。
「ちょ、ちょっと待ってください、お姉様! そこは……あっ!!」
──チュッ!
首筋に軽く甘噛みしながら、キスをするゲーティ。
「そこは、なぁに?」
「や、やめて……!」
「あら、イヤなの?」
「えっ、そ、それは……」
「ウフッ。ウ・ソ・ツ・キ。ルリ、オンナノコなのに……ココを、こんなにおっきくさせてたら、説得力はありませんわよ?」
クスリと妖艶な笑みを浮かべるゲーティ。その笑みに、ルゥリィは魅入られ、動けなくなってしまう。
いったん体を放したゲーティは、優しげな笑みを浮かべながら、残酷な命令をルゥリィに下す。
「さ、ルリ、スカートの裾を持ち上げなさい。そしたら、わたくしがショーツを脱がせてせて差し上げますから」
「え……?」
彼女の言葉の意味を理解して、戦慄するルゥリィ。
しかし、ここに至って「逆らう」という選択肢は、彼に残されていなかった。
「は、はい……」
ルゥリィはプルプル震えながら、足首近くまであるドレスの裾を恐る恐る摘む。
「ウフン、握ってるだけじゃ駄目ですわよ。キチンちゃんと持ち上げなさい」 「………(真っ赤)」
まるで初心な少女のように(いや、見かけは勿論、心根の点でもあながち間違いではなかったが)首筋まで紅潮させながら、ルゥリィはノロノロとスカートの裾をまくりあげた。
「こ、これぐらいですか…?」
完全にショーツが見えるくらいまで、スカートの裾をめくる。
「ええ、良く出来ましたね。偉いですよ」
──チュッ、チュッ!
真っ赤になったルゥリィの頬に、愛しげにキスをくり返すゲーティ。
それだけで、ルゥリィのモノは反応してしまう。
「あらあら、キスする度にピクンピクンと動いて……感じてしまいましたの?
フフッ、鏡に映ってるのは可愛いオンナノコそのものですのにね?」
「……!」
反射的に鏡を見ると、鏡の中には、スカートをめくって快楽に喘ぐ少女が、背後から成熟した美しい女性に抱かれながら、うっとりとしていた。
「あ……」
その光景のもたらす興奮が、熱を持ってルゥリィの脳内を埋め尽くし……程なく「彼女」は、完全に自らの信奉する淫らな女神の手中に堕ちてしまった。
「く……あ…ハン、や、やぁ……」
服装を乱したまま、ベッドに横たわるふたり。
ゲーティの人差し指が、露わになったルゥリィの菊門全体をほぐすように、ゆっくりと刺激する。繊細な指先が、お尻のすぼまりに触れるたび、ルゥリィの口から甘い呻きが漏れた。
「やっぱり。感じているのですね。さすがわたくしの可愛いルリ」
それならば、とゲーティはそのままルゥリィの菊門をさらに揉みほぐす。
菊門がヌルリと体内から漏れ出る液体でぬめってきたころを見計らって、ゲーティは指に代わって、枕元から取り出した細い棒状のモノを其処にグイグイ押しつけた。
「ウフフ……女の子でも、こちらの穴のほうが好きという人いるそうですわ。 ――あら、失礼。ルリはリッパなオンナノコでしたわね」
笑いながら、ゲーティのもう片方の手が、はだけられたドレスの襟元からルゥリィの胸へと滑潜り込み、胸当ての中へと伸びてくる。
指先で軽く乳首をいじられ、軽く摘まれただけで、体内を駆け巡る衝動が、よりいっそうの熱気を帯びる。、
(う、ウソ……ボク、男の子なのに…オッパイで感じてる……?)
その自覚は、ルゥリィの"男"としての自覚を壊すのに十分なだけの衝撃を持っていた。 鏡を見れば、そこには顔を真っ赤に染め、スカートを持ち上げたまま身体を震わせるオンナノコの姿がある。
「……凄くエッチな顔、してますわね?」
「!!」
「ホラ、瞳を潤ませて、口を開けて舌を突き出して……欲情してるエッチな女の子の顔ですわ」
「はぅんっっ……」
言葉でいじめられるだけで、ルゥリィの体内の快楽の波はますます熱く昂る。
――顔を隠したい/ずっと見つめていたい。
――手を離して欲しい/もっと続けて欲しい。
――もうこんなことはやめて欲しい/ずっと朝まで抱いていて欲しい。
相反する思いがルゥリィの中で交錯し、徐々に後者の感情が優勢になっていく。
「フフフ。女の子になる準備が……整ったようですわね」
フッと耳に熱い吐息を吹き掛けられた瞬間、ルゥリィの全身から力が抜けた。
その機を逃さず、黒い張り型がついに「彼女」の体内へとズブリと侵入する。
「ああっ!!」
「ダメよ。力まないで。そのままゆっくり息を吐いてみなさい」
「は、はい……」
「彼女」が息を吐くのに合わせて、さらに深くゲーティの指が体内に差し込まれる。
ルゥリィは堪えきれずに再び声をあげた。 苦痛ではない、未知の感覚に戸惑い、声をあげずにはいられなかったのだ。
身も心もゲーティの与える快楽に支配されているような気がした。
自分のモノよりひと周り太いが、よく似た形状の人造物が自分の中を掻き回すように動いている。
固さと弾力を兼ね備えた不思議な素材によって形造られたソレは、ひと突きごとに「彼女」の穴に馴染み、掻き回されるほどに、ルゥリィはその感触に溺れていった。
お尻をくねらせつつ、ルゥリィは懸命に声を抑えたが、生憎、目の前の情人には(ミストレス)には、すべてお見通しだった。
「ふふふ、素直に声を出していいんですのよ?」
ルゥリィのわずかな抵抗を見越したかのように、ゲーティは耳元で熱く囁いた。
涙目で無言のまま首を横に振るルゥリィを愛しげに眺めると、張り型がルゥリィの「体内」にある「スイッチ」に触れる。
と、同時に、「彼女」の理性のタガはあっけなく弾け飛んだ。
「あああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
激しい快感に襲われたルゥリィは我を忘れ、尻を高くあげくねらせつつ、切なげに身悶える。
「うふ、ここが気持ちイイんですの?」
身悶えするルゥリィの反応を確かめつつ、ゲーティは激しくその部分を攻める。
すでにショーツは完全に脱がされ、脱いだショーツが前のモノにかぶせられ、その上からゲーティの左手がやさしく包み込んでいた。
体内に打ち込まれた太いクサビの硬さと、自らの分身を包むもの柔らかい暖かさに、ルゥリィの頭の中が真っ白になっていく。
発情した少女そのものの喘ぎ声をあげながら、お尻を自分からくねらせる。
頭の中は快楽でいっぱいになっていった。
「だめ、もうイく、イっちゃう!」
「いいわ、イっておしまいなさい!!」
ゲーティがより一層右手に力を込め、「彼女」の最奥部を突く。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっ!!」
反射的にルゥリィの菊門は、偽りの男根を食いちぎらんばかりに締め上げた。
その瞬間、「彼女」の脳裏で何かが弾けた。
──ドックン!
全身が震える。そして、次の瞬間。
──どくっ、どくん、びゅっ、びゅくっ、びゅくっ!
大量の白濁液を噴き出しながら、倒錯した悦楽を極めつつ、ルゥリィは絶頂を迎えるのだった。
「どうも、わたくしの嗜好はいささか特殊みたいですの」
初めての情事のあと、軽く汗を拭いて着替えたのち(ちなみに、案の定、ここでルゥリィに貸し与えられたのは、シルクのネグリジェだった)、ふたりは並んでゲーティのベッドに横たわりつつ、話をしていた。
ゲルトルード曰く、別に男嫌いとか男性恐怖症と言うわけではないのだが、少なからず同性愛の気があるようで、普通の男性を伴侶とすることが、どうもピンと来なかったらしい。
「それで……ボク、ですか?」
「ええ、ひと目見たときから、貴方なら、と思いましたの」
普通なら、これほどの美女に言われて嬉しいはずの台詞だが、そういう事情があると知っては、やはり素直には喜べない。
「お嫌でしたかしら? もしどうしても、と言うのなら、婚約解消も……」
「あ、いえ、全然。そんなことないです!」
多少特殊な嗜好を持っていたからと言って、ゲーティがルゥリィ、もといディアにとっての「女神」であることに変わりはない。
女顔だからこそ彼女のハートを射止められたというのなら、この顔に生まれた幸運を素直に喜ぼう。
「では……以後、末長くお願いしますわね」
至近距離からニッコリ微笑まれてボウッとなりつつ、慌ててカクカクと首を振るディア。
「は、はい。こちらこそ」
故に彼は気づかなかった。
(よーし、これで大義名分は立ちましたわ。これからは、この子で色々着せ替えが楽しめますわね~。次はキモノがいいかしら? わたくしと色違いでお揃いのドレスもいいですし……。あ、東方風のエキゾチックな民族衣装とかも捨て難いですわね)
目の前で薄く微笑む女性が"女神"なんかじゃなく、"女悪魔"にほかならないことに。
1ヶ月後。
無事に結婚式をあげたふたりは、新婦の父たるボラレアス伯爵が用意した郊外の別荘で、しばらくラブラブな新婚生活を送っている……はずなのだが。
そこには、美しき女主人と、メイド服に身を包んだ可憐な少女がいるだけで、新妻の夫たる男性の姿を目にしたことのある者は、近隣には存在しなかった。
こと此処に至って、ようやくディアは、自分の選択に疑問を抱いたと言う。
結婚から3年後、「そろそろ孫の顔が見たい」と伯爵夫妻がせっついたことにより、妻の方も妊娠することを決意したのだが……。
すでに「彼女」の「穴」──いや、全身は散々に開発し尽くされ、射精(だ)すどころか、勃(た)つことさえなしに、絶頂を極められるようになっていた。
そのため、大量の強精剤と尻穴を激しく突かれることで、無理やり絞り取った精を、注射器で妻の体に注ぎ込むという手立てを取らざるを得なかったのは、自業自得と言うべきか。
結局、ルゥリィは一生童貞のままであり、またゲーティも本当の意味では処女のままだったが、夫婦仲は極めて睦まじく、可愛いひとり娘にも恵まれて、幸せな生涯を送った。
まぁ、幸せなんてのは人それぞれなのである。
最終更新:2013年04月27日 22:17