──私立K聖女学院。
 中高一貫教育をうたって昭和初期に創設され、また近年、初等部と大学部も併設された名門女子校である。
 K聖卒業者は「良妻賢母予備軍」として、あるいは「良識と教養を兼ね備えた淑女」として、各方面で引く手あまた。また、出身者によるネットワークも侮れないものがある。
 しかし。
 そんな「乙女の園」に潜り込んだ七人の「男の娘」たちがいた!
 「彼女」らは、昼間は他の女生徒たちの群れに紛れ、何食わぬ顔して学院の生徒として振る舞いつつ、夜は人知れず戦いを繰り返す。
 「姫士(きし)」と呼ばれる彼女達同士の1対1の戦いは「舞闘会(ワルツ)」と称され、いくつかのルールに則って行われる、厳正にして神聖なるもの。
 無論、偽物(まがいもの)の姫たちの頂点に立てるのは、ただひとりの聖王(キング)のみ。
 舞闘会で敗れた者は、姫士の資格と、同時に「男」としての存在も喪い、無力なただの娘(おんなのこ)へと成り下がる。
 掴むのは栄光か……屈辱か?
 いざ、競い合え!


 「……って話はどーだろう?」
 幼馴染(と言っても、向うの方が4歳ほど年上だけど)の微ヲタ大学生の戯言を聞かされて、あたしは溜息をついた。
 「また、妙な妄想展開して……いい歳こいて、克くん、ネットに駄文投下すんのやめたら?」
 「だ、駄文ぢゃない! オリジナルSSだ!」
 いや、せいぜい妄想の垂れ流しでしょ。
 「はいはい。それにしても、その話、どう見たって「F●te」のパクリじゃない」
 「だ、断じて違うぞ! そもそも「7人が最後のひとりになるまで戦う」というコントセプトを、すべて「Fa●e」と即断するのはだな……」
 「じゃあ、「プリンセスワルツ」? そう言えばネーミングも微妙にカブってるわね」
 「え、影響が皆無とは言わんが、断じてパクったわけではない。格調高くオマージュと言ってもらおうか」
 そんなご大層なモンか。
 しかし、これ以上追及すると、SAN値の低い(精神安定的な意味で)この男は、簡単に取り乱してふてくされるだろう。それはそれでウザい。
 「で、その舞闘会とやらはどうやって戦うの?」
 「うむ、それはだな……」
 仕方なく相手をしてやると、「よくぞ聞いてくれました」とばかり嬉々として自分設定を語り出す。


 1.舞闘会は、姫士同士による1対1の戦いであり、他の者が直接助力してはならない。

 2.舞闘会は、人目につかない場所と時間に、姫士が姫士を「招待」して呼び出すことで成立する。

 3.舞闘会は、以下のいずれかによって決着する。
  ・どちらかの行動不能(意識不明含む)
  ・どちらかが口頭で「負け」を認める
  ・どちらかが武装帯(リボン)を切り落とされ、使用不能になる

 「武装帯って何よ?」
 「あ~、類似作品における宝具とかドレスとかジュムみたいなモンだ」
 いや、だから類似作って認める時点でどーなの?

 4.舞闘会の敗者に対して、勝者は以下のいずれかの事柄を行う権利を持つ。
  ・性交による挿入および射精
  ・全裸にしたのち放置

 「は、はなもはじらうおとめのまえで、しゃせーとか言うなぁ!」ガスッ!!
 「い、いや……乙女は普通………照れ隠しにリバーブロー…放ったりしない……」←悶絶中

 5.4の結果、「体内に勝者の体液を出される」、もしくは「学院の無関係な生徒に男性であると知られる」ことにより、敗者の敗北が完全に確定し、姫士の資格を失う。また、前の方法の場合、敗れた姫士は肉体的にも本物の女性へと変化してしまう。


 「なんつーエロゲ向けの企画……そもそも克くん、幼馴染とは言え、コレ、女の子に語るべき話じゃないと思うよ」
 「なに、気にすることはない」
 その台詞を言っていいのは空気王だけだよ! 少しは気にしろ!
 「はいはい、で、そもそも何でその男の娘たちは戦ってんのよ?」
 あきらめ顔で、そう聞くと、以外にも彼は難しい顔をして眉をしかめた。
 「そこなんだよなぁ。願い事がひとつ叶うとかは流石にアレだし、かと言って「生徒会長」とか「学院長」の地位ってのもしっくり来ないし……」
 「いや、むしろそれこそがストーリーの根幹でしょ。アマチュアとは言え、物書き目指すなら、キチンと考えようよ」
 うーうーうなって頭抱えている幼馴染を部屋から追い出す。
 まったく……あんなのが先週から教育実習生としてウチの学校に来てるんだから、日本の教育界はどっか間違ってるわ!
 けど……。

 「ヤバいなぁ。記憶、完全には消せてないみたい」
 克くん──克昭の語った「設定」は絵空事じゃなく、ホントのお話。
 つまり、あたしも本当は「女」じゃない。もっとも、家族以外でこの事を知ってるのは、舞闘会をとり仕切る「理事会」くらいで、幼馴染の彼でさえ、あたしのことを女だと信じて疑ってないだろう。
 「どうやっても巻き込まれる運命なのかな?」
 「蒼の姫士」であるあたしと「緋の姫士」の戦いを目撃されたため、一時舞闘会を中断し、彼の記憶を消す処置をしたはずなんだけど……。
 彼はなぜか「自らの妄想」という形で、その記憶を取り戻しているみたい。
 「理事会」は、彼を「裁定者(バトラー)」にしたがってるみたいだけど、あたしは反対。克くんには、せめて幸せな表の道を歩んでほしいのだ。
 「まぁ、もし万が一、あたしが負けたら、お嫁さんにしてもらおうかな♪」
 無論、やすやすと敗退するつもりはない。そう、自らの夢のためにも!

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最終更新:2013年04月27日 22:32