七姫士舞闘祭


 放課後、部活動に勤しむ生徒達の声は遠い。ここは生徒会室。
「くっ、私が踊りきれないなんて……『銀の姫士』以外にも、こんな強敵が」
 後手に部屋のドアを閉めて、珠坂咲音(たまさか さきね)は唇を噛む。その頬は今、高揚し、僅かに赤みがさして、可憐な美貌を引き立てていた。その精緻な、ビスクドールにも似た細面を歪め、長く腰まで伸びた赤髪をかきあげる。
 ここは、私立K聖女学院。将来の貴婦人淑女を育てる、秘密の花園。
 そして彼女は……否、彼は、その中にさらに秘密を抱える者だった。
 男子禁制の中にあって、定められた運命に従い、願いを携え挑む者……それが『姫士』と呼ばれる存在。咲音もまた、その一人。この学院に本来なら存在しない、七人だけの男だった。だが、彼を見てそれを気付くものは一人もいないだろう。それほどに彼の姿は、完璧な女子高生に見えたから。華美な制服を着こなすさまなど、堂にいったものだ。
 姫士とは、内なる乙女同士の輪舞を演じる、運命の子達。『舞闘会』と呼ばれる闘いに身を躍らせる、心は娘、身体は少年の七人。その心身に課せられた宿業は過酷だ。

 1.舞闘会は、姫士同士による1対1の戦いであり、他の者が直接助力してはならない。

 2.舞闘会は、人目につかない場所と時間に、姫士が姫士を「招待」して呼び出すことで成立する。

 3.舞闘会は、以下のいずれかによって決着する。
  ・どちらかの行動不能(意識不明含む)
  ・どちらかが口頭で「負け」を認める
  ・どちらかが武装帯(リボン)を切り落とされ、使用不能になる

 4.舞闘会の敗者に対して、勝者は以下のいずれかの事柄を行う権利を持つ。
  ・性交による挿入および射精
  ・全裸にしたのち放置

 5.4の結果、「体内に勝者の体液を出される」、もしくは「学院の無関係な生徒に男性であると知られる」ことにより、敗者の敗北が完全に確定し、姫士の資格を失う。また、前の方法の場合、敗れた姫士は肉体的にも本物の女性へと変化してしまう。

 そして先程、『緋の姫士』である咲音は、名も知らぬ『蒼の姫士』と引き分けた。
 突然の闖入者の、予期せぬ介入と『理事会』の意向によって。
「この私の剣を、ああも避ける……引き分けてなければ、今頃……」
 その手に念じて、自らの分身である武装帯、『フェイタル・ノクターン』を呼び出す。それは細かな細工に彩られ、宝石が飾られた細身の剣。静かに振れば、切っ先が撓る。
 咲音は一人、今日を踊り抜けたことに、人知れず安堵していた。
 今日もまだ、咲音は舞闘の場から弾き出されてはいない。
 咲音の願いは、切なる祈りは、まだ死んではいない。
「私は負けない……珠坂咲音、貴女は負けては駄目。あの方と真に結ばれる為に」
 そうして剣を収め、それを虚空へと消せば、今日のダメージが痛みとなって襲った。
 右肩を庇うように抑えて、そっと咲音は窓際へと歩く。
 そんな彼の背を、ドアの開く音が叩いた。
「っと、咲音か……どうしたんだい? まだ残ってたんだ」
 すらりと長身の女生徒が、両手一杯の荷物を持ちながら、生徒会室に入ってきた。その胸に抱かれてる小包の数々は、どれも可愛らしい包装が施されている。リボンで飾られたそれは、贈り主からの敬愛の気持ちが、如実に表れていた。
「あっ……文緒様」
「あ、こら。僕をそう呼ぶなって。……咲音には、そう呼ばれたくないな」
 現れたのは、ボーイッシュな風体の上級生、咲音より二つ上の三年生だ。ボブカットに揃えられた、どこか無造作な髪型をさしおいても、美少女と言っていい。健康的に日焼けした肌が、健全な色気を本人の意思とは裏腹に発散していた。
 四条文緒(しじょう ふみお)、それが、生徒会副会長の名。
 そして、咲音の最も慕い愛する、結ばれるべき相思相愛の人物だった。


 文緒はどこかうんざりといった顔色で、贈り物を生徒会室の円卓に放り出す。そうして、窓際の咲音へと近付いてきた。拒むどころか待ち望んで、咲音は両手を開く。
「全く、みんなが僕を文緒様、文緒姉様って……毎日これじゃ、疲れちゃうよ」
「それは……だって、文緒様は、全校生徒の憧れのお姉様ですもの」
「らしいね。はぁ……でもね、好きでこんな格好してる訳じゃないんだけどな」
「でっ、でで、でも……文緒様は、その……綺麗、です」
 頭一つ程背の高い、文緒の豊満な胸に顔を埋めて、咲音はそう呟いた。
「だから、様付けはよしてって。僕と君は、そんな仲かい? 咲音」
「あっ……ご、ごめんなさい、文緒様」
「ほら、また。ふふ、いけないのはこの唇かな? さあ、いつも通り呼んでごらん」
「ごめんなさい、文緒……私ったら、また、ん! んっ……んんぅ」
 クイと細い顎に指を添えられ、上を向かされた咲音は、優しく唇を奪われた。
 二人は、いわゆるそういう仲だった。
 親しい仲が交わす、挨拶のようなキスではない。心から愛し合う者同士が、互いを啜るように、貪るように吸い合う、激しいくちづけ。舌と舌が絡まり、互いの唾液が行き来し、二人は淫靡な音をたてて、粘膜を味わいあった。
「慕ってくれる娘は多いけど、僕はやっぱり……咲音、君だけが好きだ」
「ああっ、文緒……私もです。文緒は、私にはもったいないくらい、素敵……あっ」
 そっと、咲音を包む文緒の手が、スカートの中へと入ってきた。そうして、今まさにはち切れんばかりに充血し、女性用の下着からはみ出る咲音自身に触れてくる。
「こんなに固くして……うれしいよ、咲音。僕の可愛い咲音」
 文緒は、咲音が男である事を知る、学院唯一の女生徒だった。姫士を除く全ての中の。
 股間から這い上がる愉悦に、鼻から息を零しながら咲音は思う。思えばいつからだろう? 姫士として使命を理解しつつ、その動機を……勝利し勝ち残った暁の、その望みを持てず闘っていた日々。それがこうも、薔薇色に彩られたのは、いつからだったか?
 全ては、生徒会で文緒と出会い、惹かれ、解り合い……身体を重ねてからだ。
「さあ、咲音……そこの椅子に。そう、こっちにお尻を向けて」
「は、はい……で、でも、その前に、文緒――」
「うん? ふふ、まだ不安なのかい? 僕はでも、ずっと安心だよ。愛してるからね」
「嬉しいです、文緒……そう言って貰えるなら、私……何も、怖くないです」
 文緒に言われるままに、円卓の椅子を咲音は引っ張り出す。そうして、豪奢な椅子の背もたれを抱くように、膝立ちで座って、尻を文緒へと突き出した。
 文緒は咲音が男と知っても、それを誰にも告げず胸に秘め、愛してさえくれた。
 互いに周囲から羨望を持って称えられる、偶像としての扱われ方が多かったからかもしれない。もてはやされながらも、高嶺の花と諦められる、そんな日々が二人を繋げた。
「あっ、あの……文緒、私今日は……お通じが、その、まだ。洗って、ないし」
「相変わらず可愛いことを気にするね。僕がだから、綺麗にしてあげるってば」
 恥らい椅子の背もたれに、咲音はひっしとしがみ付く。そうして身体を強張らせながら、心の中では望んでいる。それを今、文緒はしてくれる。スカートの中で下着を降ろして、たわわな桃尻と男性器を露にし、そのすべすべとした表面をなでてくれる。
 その一挙手一投足に、咲音は敏感に反応して、びくびくと身を震わせた。
「僕の可愛い咲音……今、気持ちよくしてあげるからね」
 文緒はそっと屈むと、咲音のスカートの中へと頭を入れ、張りのある尻肉にくちづけ。そうして、その両の肉をかき分けると、今度は中央で窄まる穢れた菊座にも唇を寄せた。
「あっ、ん……文緒、駄目……やっぱり、今日は」
「嫌かい? 僕はでも、したいんだ。咲音が欲しい」
 文緒の言葉に、咲音は椅子へと爪を立てる。何より欲しい言葉を得た快感を、さらなる快楽が追ってくる。文緒は手を回して、咲音の男根をしごきつつ、睾丸を揉んでくる。同時に背後から、尻の穴を丹念に舌でねぶってくるのだ。
「ふあっ! あ、あっ……らめぇ、汚……けどっ、いい。気持ち、いい」
「いつでも出していいからね、咲音。ほら、こんなにゆるんで……可愛いよ」
 文緒の舌が、直腸へと忍び込み、丹念に腸壁をなめてゆく。それが引っ込んだ瞬間には、しなやかな指が一本、咲音の中へと忍び込んできた。それが前立腺をこりこり愛撫する。
 咲音は声を噛み殺しながら、文緒の手の中へと、大量の精液をぶちまけた。


 生徒会室は今、荒い息遣いが密やかに重なっていた。気付けば咲音は、肩で息をしつつ、絶頂の後の余韻に浸っていた。そんな咲音を、文緒が後から抱きしめてくれる。
「ほら、ごらん……今日も沢山出したね」
 肩越しに耳元で囁く、文緒の唇を咲音は強請り、そして吸い付き、味わう。その間も、彼が射精した白濁は、文緒の手の中で、クチュクチュと淫らな音を立てていた。
「ん、濃い……咲音の、美味しいよ。次は、僕にも、して」
 咲音から離れるや、文緒は指に遊ばせた精液を舐めながら、円卓に腰掛けた。そうして、股を開くと、スカートを持ち上げ、その裾を口でくわえる。
「文緒……」
 咲音は迷わず、露になる白い薄布を……染みに濡れる下着へと手をかける。
 文緒は咲音のもどかしい手にクスクス笑いながら、両腿でその頭を挟んで、浮かせた腰から下着を降ろした。解放された咲音は自然と、文緒の女性器を、豊かな茂みを目にして、ごくりと生唾を飲み込む。
「本当はね、咲音。僕はここに、咲音みたいな立派なのが生えてて欲しいんだけど」
「私も、文緒みたいな綺麗な……こんなに綺麗な、女の子だったらって、思います」
 そっと、茂みを指でかきわけ、咲音は文緒の秘裂へと唇を寄せた。そこはすでに、汗と愛液で濡れそぼり、陰核が充血して勃起していた。
 咲音と文緒、互いが互いに、相手を欲していた。愛する故に。
 同時に、相手の身体を、その性別を、自分に求めていた。
 咲音は、文緒のような男に抱かれる、女になりたかった。
 文緒もまた、咲音のような女と交わる、男になりたかったのだ。
「んっ、あ……上手だよ、咲音。そう、そこ……」
「文緒、私もう……さっき出したばかりなのに、こんなに」
「いいよ、おいで。一つになろう、咲音」
「文緒……いっ、挿れますっ」
 そっと口を離すや、身を起こした咲音は、自らの中心で強張る怒張を握り、それを文緒の股間へとあてがう。そして、ゆっくりと文緒を左右へかきわけ、挿入を果たした。
 二人は今一つになり、締め付けられる快楽に咲音は、強く文緒を抱いた。
「そう、いいよ咲音……僕が、したいように……僕を犯して」
「文緒……私が感じたいように、女を感じて……女の子を、見せてください」
 僅かに腰を引いて、再度強く咲音は自身を押し込む。その度に、快楽が二人の接合部から、全身に電流となって流れた。その法悦に二人は、あられもなく声をあげる。
 気付けばいつも通り、咲音は文緒を強く抱いて、激しく腰を打ちつけていた。
「あっ、あ……文緒、でっ、出ます……またっ、出ちゃいまふぅぅぅっ」
 肉の襞が執拗に絡みつく、己の中心が爆発するのを咲音は感じていた。
 二度目にも関わらず、込み上げるマグマが絶えることなく、吐き出される。
「ああ……咲音の、子宮に届いてる。子宮に、直接射精されてるぅ」
「文緒の奥に、当たって……ああっ、まだ出る、止まらないっ」
 長い長い射精が終ると、咲音はぱたりと文緒の上に倒れこんだ。そうして、優しく胸に抱かれて、両手で包まれる。繋がったままの抱擁は、文緒の中で咲音を三度固くさせた。
「いっぱい出たね、咲音。ふふ、可愛いよ……愛してる。今日は、もういいのかい?」
「文緒……ん、もう少し。次は私、文緒のお尻に、したい……です」
「いいよ、好きなだけ……でも、いいな。僕も男だったら良かったのにな」
「でも、そうだったら男と男になっちゃいます。寧ろ、私が女だったら……」
 性別は関係ないと笑って、文緒が咲音にキスをくれる。額に、頬に、首筋に……唇に。
「僕達、何で逆に生まれちゃったんだろうね」
「はい……私が女で、文緒が男だったらよかったのに」
「うん、仮に逆でも、僕はきっと咲音に出会う。そんな気がするんだ」
「そして結ばれる……その日は、私が呼んでみせます。いつかきっと」
 意外そうな顔の文緒の、その唇を今度は、咲音が奪う。
 この愛こそが、よじれた歪な形こそが、彼の闘う理由。
 姫士が舞闘会を勝ち抜き、最後の一人を倒した時……理事会が言う『聖王』の座まで登り詰めた時。一つだけ、いかなる願いも適うという。いかなる祈りも通じるという。
 ならば、咲音が望みは一つだけ……最愛の人と、性別を交換すること。
 愛し、故に闘い、辱められる……終らない三拍子のワルツは、はじまったばかりだった。

 一日は午後へと折り返し、私立K聖女学院はうららかな昼休みに賑わっていた。
 有名デザイナーの手による、フリルとレースが愛らしい、華美な制服。それを揺らす女生徒達の中に、色彩を澱ませる者が一人。モノクロームのセーラー服姿は、その胸のスカーフだけが、唯一血のように赤い。
 転校生の名は、有栖影奈(ありす えいな)。漆黒の髪を短く切りそろえ、ヘアバンドで秀でた額を大きく露にした容姿は、凶暴さを覆い隠して知的に映えた。
「ここが西棟の中庭ですわ、有栖さん。放課後はお姉様方とお茶会もしますのよ」
「あら……皆様、御覧になって、文緒お姉様がいらっしゃるわ」
「まあ、文緒様は今日も珠坂さんを。まるで、本当の姉妹のようですわね」
「お似合いの二人ですわね……あらやだ、私ったらはしたない想像を」
 影奈を案内してくれると、おせっかいを言い出したクラスメイト達。彼女達は皆が皆、きゃいきゃいとかしましく、影奈を連れ回してくれた。心からの善意にしかし、生い立ちゆえに影奈は壁を作る。拒んでしまう。
(見つけた……あいつも姫士か。これで、二人目。オレの獲物……)
 胸の奥で影奈は、込み上げる狂気じみた歓喜を、辛うじて口の中に呟き殺した。
 同時に、殺気を気取られたかのように、赤い髪の少女が……否、少女に扮した同族が、ちらりとこちらを振り向いた。長身のボーイッシュな上級生に寄り添う、儚げな美少女。
 しかし、見れば影奈には一目瞭然……同じ運命と宿業を背負う、姫士だ。
 交錯する視線を伝い、半秒にも満たぬ瞬間、二人は互いを敵と認識しあった。
「まあ、どうかいたしましたの? 有栖さん、お顔の色がすぐれませんわ」
「あらあら、いけませんわね。そうだわ、保健室に――」
 心配してくれる同級生達の、その一人が伸べた手を、影奈は振り払う。
「もういい。構わないでくれ……群れるのは、嫌いなんだ」
 鋭い眼差しが順々に、同級生のお嬢様達を切り裂いてゆく。
 そうして一人、スカートのポケットに両手を忍ばせると、影奈は肩で風切りながら、校舎へと引き返した。その瞳には、獲物を見つけた肉食獣の光が宿っていた。
 ――いまだ彼女は、否……彼は気付いていない……美しき獣を狙う、狩人の視線に。

 孤高を気取るも孤独は嫌い……そんな影奈は不思議と、人気のない旧校舎へ来ていた。
 転校してきて間もないのに、この場所だけは、まるで影奈を吸い寄せるように、彼を招き、一時の安息を与えてくれる。朽ちた暗がりの影に身を置くと、影奈は呟く。
「今のところ、獲物は二人か。珠坂とか言ったか? 奴はいい、普通だ。問題は……」
 自ら姫士であることを隠し、一人の少女としてこの学院に溶け込む。それは、影奈も同じだが。だが今日、彼は信じられない光景を目にしていた。
「武装帯も露に……水原咲良(みずはら さくら)、どんな奴なんだ?」
 姫士は皆、武装帯と呼ばれる己だけの武器を秘める。そう、秘めているのだ……それは普段、自らのイメージの中へと、ひそませている筈なのだ。優美なリボン状の姿で。
 それを、堂々と表に出し、あまつさえそのリボンで髪を結っている者がいる。
 それが水原咲良……影奈にはそれは、挑発とさえ思えた。誇らしく髪に飾られた武装帯。それは、自分が姫士だと自負しているようなもので、扇情的ですらある。
「見た感じ、普通の女子高生……ま、まあ、オレと同じ男だろうけど。でも、あれは」
 見た瞬間、影奈は感じていた。思わず殺気さえ放っていた……先程のように。
 しかし、武装帯も露な咲良は、こちらに気付きもしなかった。大物なのか、それとも。
「……ただの阿呆なのか? どちらにせよ、二人は確認した。あと四人」
 一人薄闇の中、陽光を避けるように影奈は笑う。
 舞闘会と呼ばれる儀式により、互いの性と望みを賭して闘う少年は、全部で七人。
 影奈もまた、他の六人をことごとく打ち倒し、自らの望みを叶えようとしていた。
「とりあえず、どちらから狩るか。そうだな……」
 怜悧に象られた、どこか近付きがたい印象の美少女……日本人形のように白い肌を今、影奈は僅かに朱に染め、上気させていた。
 えもいわれぬ興奮が込み上げ、闘争本能が高まる。
「とりあえずさっきの、珠坂とかいう奴から招待するか……オレの舞闘会に――」
 自らを抱くように身を閉じながら、影奈は己自身が強張り充血するのを感じていた。
 闘いを求めて、心が焦れる……魂がそよぐ。
 気付けば影奈は、下着からはみ出てスカートを盛り上げる、その強張りを握っていた。


「――っ! あ、ああ……ふう」
 昼休みの終わりを告げる鐘の音と共に、自慰に耽っていた影奈は絶頂に達した。白濁が迸り、とめどなく射精が続く。その法悦の時間に身を震わせながら、彼は飛ばした意識をかき集める。怪しまれぬよう、あくまでも一生徒として、学院では暮らさなければ。
「最近溜まってたからな、オレ……それより、そろそろ教室に戻らな――誰だっ!」
 背後で小さな拍手と、クスリと笑う冷たい声。それに振り向く影奈は、まだ萎えぬ己を急いで引き上げた下着で覆った。
「ふふ、可愛い声で鳴くのね……それに、立派なものを生やして。可愛い獲物ですわ」
 そこには、パンパンと軽く手を叩く女生徒が一人、壁にもたれて立っていた。
 影奈は瞬時に、廃屋となった教室の角に身構え、身を強張らせる。
 ――姫士だ。しかも、初めて見る。異国を匂わせる銀髪が、綺麗に縦巻きで揺れていた。それをかきあげ、クイと眼鏡のブリッジを僅かにあげる少女。制服のタイの色から見て、影奈より一つ上、三年生だろう。
「オレを今、獲物と言ったか……?」
「ええ。それも、身の程も知らず猛る、獰猛なケダモノですわ。でも、そこが素敵ですの」
「テメェ……姫士だな?」
「はじめまして、影の姫士……わたくしは西園寺いぶみ。改めて、ご招待申し上げますわ」
 いぶみと名乗った少女が、ドレスのような制服のスカートを両手でつまむ。そうして、優雅にお辞儀をするなり、廃屋の教室は周囲の時間から切り取られた。
「一曲お相手願いますわ……断る理由はないんじゃなくて? 可愛い子猫ちゃん」
「おうっ! オレを狩れると思うな……喰い千切ってやる。こいっ! 銀の姫士っ!」
 既に異空間と化した教室内で、影奈は何かを掴み取るように、虚空へと手を伸べる。
 目の前にいるいぶみもまた、姫士……それも、しろがねの武装帯を繰る、銀の姫士。
「来いッ! 『無明残月』!」
 無明残月、それが影奈の相棒にして分身。望みへと彼を導く、武装帯の名。
 影奈は何もない空間から突如、想念を凝らして、武器を引きずり出す。それは見た目、一本の黒いリボン。ふわふわと宙を舞うそれを両手で掴み、影奈は慣れた手つきで結ぶ。
 たちまち、結び目を中心に、白木鞘の日本刀が一振り、舞闘の場に顕現した。
 それを居合いに構えて、影奈は僅かに腰を落として、身を沈める。
「踊る前にお聞きしますわ……ええと、子猫ちゃん」
「影奈だ。二年の椿組、有栖影奈」
「影奈というのは、俗っぽい名前ですわね……でも、アリス。この響きは素敵」
 いぶみはうっそりと笑うと、後に手を組み、冷たい微笑を浮かべている。舞闘会へと影奈を招待しておきながら、いまだ武装帯を出す気配も見せない。
 勝てる――影奈は軸足に荷重をかける。一足飛びに踏み込めば、一撃だ。
「ではアリス……踊りましょう。互いの願いを、祈りを賭けて。闘いましょう」
「手前ぇ……この縦巻きロール眼鏡ッ! オレを……その名で、呼ぶんじゃねぇっ!」
 激昂に影奈は斬りかかった。地を這う影のように、僅か一歩で互いの距離を食い潰す。
 鞘走る刃は黒く光を吸い込み、その鋭利な切っ先は獣の牙となって吼えた。
 ――筈だった。
「おいでなさいな。……『スプリーム・コリドー』。獲物を排撃、撃滅なさい」
「!? な、なっ……」
 抜刀の刹那、影奈は見た。いぶみが宙より白銀のリボンを取り出し、それを何かへと巻きつけるのを。螺旋を描いてリボンが巻きつき象る、その武装帯が現出するや、彼は薙ぎ払われて吹き飛んだ。肋骨が軋みを叫んで、二、三本にひびが入るのを感じた。
 目の前に今、巨大な長柄の戦斧を手にする、銀の姫士が笑っていた。
「あらあら、もう終わりでよくて? わたくし、まだ本気じゃありませんのに」
 大の字に伏した影奈は、辛うじて上体を起こして、歩み寄る痩身を見やる。
 その優雅な足取りとは不釣合いな、銀の武装帯は、鈍色に光るポールウェポン。兇刃煌く、巨大な戦斧は、主の身長に倍する長さ。それを今、いぶみは軽々片手で肩にかける。
 そんな彼女が、一撃で身動きできなくなった影奈の足元に立った。
「貴方にも望みがあるのでしょう……大丈夫ですわ、今日はほんのご挨拶ですもの」
「クッ! ……犯すか、晒せっ! オレを辱めないのかっ!」
「それでは、わたくしの望みが敵いませんもの。わたくしの望みは、身を焦がす闘争」
 いぶみのそれは、手段と目的が逆だった……彼の望みは、ただ闘うことのみだった。


 姫士としての実力差に、影奈の視界が滲んで、目が潤んだ。
 そんな彼の目で、ぼやけた輪郭を刻むいぶみは、立ったまま影奈の腹を踏む。
「貴方はまだ強くなりますわ。珠坂さんとか言ったかしら? 彼もまだ」
「クッ、遊びやがったなっ!」
「それと、もう一人面白いコがいますのよ?」
 不意にいぶみはスカートの前を持ち上げ、下着をずらして男根を見せ付けてきた。
 それは勃起していたが、先端まで包皮にくるまれた、小さな小さな肉芽だった。
「水原咲良……あのお方の言葉がなくば、彼から最初に食べてますのに」
 恍惚とした表情で、粗末なイチモツをいぶみは手で包む。小さな白い手の中に、それは完全に覆われ見えなくなっていった。ただ、クチュクチュと粘膜の音だけが響く。
「御覧なさい、わたくしの粗末なものを。それに引き換え、貴方のこの昂ぶり」
「くっ、よせ……やめ、んんっ!」
 腹部を踏んでいたいぶみの脚が、そのまま下へ、下腹部を撫でて、股間を踏み抜く。
 その足元に勃起した己が圧迫されるのを感じて、ビクンと影奈は身をのけぞらせた。
「立派ですわ。猛々しい。わたくしと違って、こんなにも大きく、太く、固い」
 陶酔にふけりつつ、自らをしごきながら、いぶみは言葉を続ける。
「ごらんなさい、アリス。わたくしはでも、こっちは、ほら。あのお方の為に」
 いぶみは戦斧を、ドン! と影奈の首元……頚動脈のすぐ横へと突き立てる。
 唖然とする影奈の上で、いぶみは下着を膝までおろす。小さな肉芽と睾丸の向こう側に影奈は小さなリングを……リング状の金具を見た。それへといぶみが指を絡める。
「んふ……アリス、今日の一曲は貴方の負け。だからわたくし、貴方を犯しますわ」
「なっ……クソッ! 女になんか、なってたまるかよ! オレは――」
「勘違いはいけませんわ。まだ、貴方は姫士……もっと、強い姫士におなりなさい」
 いぶみがリングへと指をひっかけ、引っ張る。メリリと音が聞こえてきそうなほどに、彼の肛門が盛り上がり、その奥から球状の器具が引っ張り出される。細い鎖で繋がったアナルビーズが、次々と引っ張り出され、最後の一個が抜け切るや、いぶみは法悦に身を反らした。アナルが呼吸に合わせてパックリ開閉する。
「望みを叶えるとか、女にされてしまうとか……あまり興味ありませんの」
「て、手前ぇ」
「わたくしはただ、強い相手と闘いたいだけ。だから、あのお方と契りましたのよ?」
 影奈の背筋を、戦慄が冷たく走った。目の前の美少年は、狂っている。狂気そのものだ。
 いぶみは、影奈の首元に突き立つ、仰々しい戦斧に手をかけた。その長柄は、主を迎え、僅かに光るや、集束してリボンの姿へと戻る。それを手に、影奈の股間を踏み躙っていたいぶみは、屈むやたちまち、影奈の下半身を脱がしてしまった。
「本当に立派……わたくしとは大違い。早く犯したいですわ……ふふ、この匂い、童貞ね」
「やめろ! 手前ぇの中に出してやるぞ! それで手前ぇは姫士じゃなくなるっ!」
「まあ、それは困りますわ。女の子になっては、闘えなくなりますもの。だから」
 いぶみは、手にする白銀のリボンで、影奈の怒張の、その根元をきつく縛り上げた。
 痛みと快楽に、影奈は絶叫を張り上げた。
「これで射精できませんわ。さあ……わたくしの穢れた排泄孔で、犯してさしあげます」
「やめろ、オレは……オレには、好きな女がっ! 初めては、その女って決め――」
 影奈は必死に叫ぶが、身体が力が入らない。そうして大の字に横たわる、彼の股間には、主の意に反して、ヘソまで反り返る肉柱があった。いぶみがそれを手に、腰を下ろす。
「わたくしのここは、あの方の為に拡張されてますもの……これくらい、ん、んんっ!」
「や、やめてぇっ!」
「初々しいこと。あ、んっ、太い……わたくしのお尻が、貴方の初めてですわ」
 影奈は、充血した己自身が、なんの抵抗もなく肉に包まれるのを感じた。巨根とさえ言えるそれが、いぶみが完全に馬乗りに腰を下ろすと同時に、すっぽり飲み込まれる。
「あは、いいお顔ですわ……射精できないでしょう? わたくしの中、いいでしょう?」
 気付けば影奈は泣いていた。互いに初夜を迎えると誓った、思い出の人が脳裏を過ぎる。
 そんな彼が放心するのも構わず、いぶみは激しく腰を上下し、直腸で影奈のペニスをしごき上げる。ゆっくり根元まで飲み込めば、影奈の先端が、S字結腸の入り口に達し、その敏感な奥へと、こじあげながら進入してくる。
 姫士の数は減らずとも、この日、一人の姫士が暴虐の銀により、純潔を失った。

 染井克昭は、今朝の不思議な出来事を思い出していた。今思えば、夢だったのではとさえ思う。彼が見た光景はしかし、記憶だけは鮮明に、今も思惟を支配している。
 それは、理事会を名乗る、一人の少女との出会い。
(彼女が、この学院の理事長? ……そんな筈はない。俺が会った理事長は)
 克昭が教育実習生として、この私立K聖女学院へやってきたのが先週。その時挨拶した理事長は、七十を過ぎた、品のいい老婆だった。他にも何人か、理事の人間に会ったが、全て年老いた女性ばかり。
 自然と克昭は、夢ともうつつとも知れぬ追憶へと、想いを馳せた。

 それは確か、朝礼が終ったすぐ後だったと思う。克昭は突然、校内放送で理事室へと呼び出された。理事室へと歩いた記憶はある。そこで彼を待っていたのは、
「よう来たの……資格を持つ者よ。我は理事会。全なる独り、我こそが理事会よ」
 妖艶な美貌を湛える、華奢な少女が一人。その輪郭だけを逆光が象っている為、克昭は顔までは見れなかったが。あまやかに香る匂いと、典雅な声色が、すぐさまその主の姿を克昭に想起させた。見るまでもなく感じる、絶世の美少女。
「あ、あの……俺に何か。あっ、何か俺、やらかしましたか? っちゃ、まずいな」
 すぐさま克昭は、己の失態を探し、叱責される理由を自らに問いただした。
 自分なりに先週から、教員免許を取るべく奮闘してはいたが。何せ彼は、淑女の蕾並ぶ花園に、迷い込んだ一羽の蝶。この学院、唯一の男なのだから。勿論、教員も皆、女性だ。
 気をつけて接していても、多感な少女を傷付けたのではと、危惧が浮かぶ。
「そうではない。ぬしには資格がある……故の邂逅と思い、我は勝負を預かった」
「へ? あの、何かお叱りでは……資格? 資格って。そもそも、貴女は……?」
「ふむ、記憶は消えておるな。まずは重畳、して……資格について語ろうぞ」
 陽光を背にする人影が、かっと双眸を見開いた。
 虹色の瞳が輝き、その妖しげなゆらめきに克昭は思考を引きずり出された。額の奥が熱を帯び、脳裏を声が走る。

 ――願いを携え、祈りを胸に……舞闘会に踊れ、乙女にして少年、姫士達よ!
 最後の一人こそ、卒業舞闘(プロムナード)にて、虹彩の姫士とあいまみえん。
 姫士の中の姫士を倒せし者のみ、代価と引き換えに、いかなる望みも叶うだろう……
 太古より、国を変え、時代にひそみ、紡がれてきた運命の糸。
 その名は七姫士舞闘祭(プリンセスワルツ)!!
 敗れし姫士を待つは、恥辱と冒涜……勝者が望むなら、その男性の剥奪!!
 掴むのは栄光か……屈辱か?
 いざ、競い合え!!

 高らかに、歌うように響く声が通り過ぎ、呆然と克昭は立ち尽くした。何故ならそれは、克昭が最もよく知る内容。彼が創作した、現在も構想中の物語だから。
 それはいつしか、知らぬ間に思い浮かび、これから正に執筆しようとしていたものだ。
「識ったな? いや、思い出した、か……ぬしを今より『裁定者(バトラー)』に任ずる」
 虹の輝きに眇められ、左右非対称の笑みに克昭は頷き、夢遊病のように理事室を出た。
 最後の闘い、卒業舞闘に立ち会う者……それが裁定者だと、背中で甘美な声を聞いて。

 そして今、新たに一年蓮組の副担任を経験すべく、克昭は教室に来ていた。
(夢、じゃない。俺の他に、少女に扮した男の娘が七人。それが互いに闘い――)
「どうかしましたか? 染井先生。あの、自己紹介のほうがまだなのですが」
 不意に克昭は、現実に引き戻された。見れば、ずらり並んだ女生徒が、教卓前の克昭を見詰めている。学院唯一の男に興味津々の様子だ。確かに若く、ほどよく顔立ちが整った克昭は、少女達の好奇心をくすぐるだろう。隣の若い女教師さえ、そんな雰囲気だ。
 見知った顔が奥の席で手を振るのを見て、克昭は咳払いと共に一歩踏み出た。
「えー、副担任を任された、染井克昭です。短い期間ですが、よろしくお願いします」
 静かに生徒達に、ざわめきが広がっていた。どこか華やいだ、それでいて清楚な空気は、お嬢様学校特有のものだ。誰もが濡れた視線で、憧れを込めて克昭を撫でてくる。
(この中に、この学院の中に男の娘が? ……エロパロ女装スレの見過ぎだな、俺は)
 克昭はこの時、自嘲と共に件の記憶を、白昼夢として片付けようとしていた。


 副担任とは名ばかりで、ようは教室に常に居て、よく学べという配慮だった。
 午前中の授業を四時間、克昭は全て一年蓮組で過ごした。その優雅な名前が示す通り、どの生徒も花のように煌びやかだ。一際可憐で儚げな、赤い髪の美少女さえいる。
 国語に歴史、英語、数学……ただ授業の場に居るだけで、克昭は気疲れしてしまった。
 女生徒達は互いに声をひそめつつ、克昭を見てはクスクスと楽しげに笑うのだ。
「やっと解放されたか……あー、なんか疲れた。俺は珍獣かっつーの」
 足取りも重く独り言を零して、克昭は教室を出た。と、腕に抱きついてくる軽い感触。
「克くんっ、お疲れ様っ! ふふ、みんな言ってるぞ? かっこいいって」
 僅かに青みがかった髪を、蒼いリボンでポニーテールに結った少女が、寄り添い克昭を見上げてくる。彼を兄と慕う幼馴染、水原咲良(みずはら さくら)だ。
「あたしも鼻が高いな。うんうん……ねっ! 一緒にお昼、食べよ?」
 一年蓮組、その蓮の花が咲き誇る泉に、蓮っ葉な元気娘が一人。それが咲良だ。散るが美となる桜と真逆に、咲くを良しとする快活さが、僅かに疲れを癒してくれる。
 改めて愛らしい幼馴染を見て、克昭は白昼夢の出来事を妄想と斬り捨てた。
「あのな、咲良……じゃない、水原さん。一応、学院では教師と生徒だから」
「っと、ごめんごめん、克くん……じゃないっ、染井先生。お昼、ご一緒しませんか?」
 無敵のスマイルに、思わず克昭はたじろぐ。同時に、妙な違和感。
 咲良の鮮やかに蒼いリボン……それが何故か、嫌に気になった。その時、
「水原さん、染井先生に失礼です。それが師に対する教え子の態度でしょうか」
 やけに固い、固さを作った声が響いた。咲良と振り向けば、そこに三つ編みの少女。
「あ、委員長。克くんはでも、あたしの幼馴染なんだ。お兄ちゃんみたいなもんかな」
「それでもです。親しき仲にも礼儀あり……不躾です。早く離れてください」
 克昭は記憶を総動員して、今時ちょっと見ない、こしきゆかしい美少女の名を探った。
 確か、クラス委員長の鷺澤奈津芽(さぎさわ なつめ)だ。その地味で控えめな容姿はかえって華美に過ぎる制服と、奇妙な調和をかもしだしている。きっと将来は、典型的な大和撫子に育つだろう。勝気な釣り目も印象的だ。
「うんうん、水原さん、離れなさい。教師と生徒だからね。あと、ありがとう、鷺澤さん」
 この瞬間、克昭は身近に咲良がいて、つい気が緩んでしまった。
 普段咲良を褒めるように、ポン、と軽く奈津芽の頭を撫でてしまったのだ。
 失敗を察してハッとした時には、顔を真っ赤にした奈津芽は、猛烈な勢いで走り去った。過剰な反応に驚く克昭は、弾かれたように後を追う咲良を、ただ呆然と見送った。

 咲良は学校の裏庭、大きな楡の木の下で、奈津芽に追いついた。
「委員長……ううん、奈津芽ちゃん。大丈夫? 克くん、悪気はなかっ――」
「来ないで! ……いっ、今なら勝てますよ。蒼の姫士」
 肩を震わせ、奈津芽は耳まで真っ赤になって振り向いた。どこか勝気な表情が今は、涙目に瞳を潤ませている。何より、立ち尽くす彼女の……彼の股間は膨らんでいた。
「招待なんてしないよ。だってフェアじゃないし……姫士である前に、友達だもん」
「そんなこと言って……武装帯も露に、舞闘会を誘ってる」
 奈津芽の言葉に、咲良は「ああ、これ?」と小さく笑って、頭のリボンに手で触れた。
「母さんの形見なんだ。あたしんち、代々姫士なの。で、これはその誇り」
「ほ、誇り?」
「そ、あたしが世界を変えないと、このおかしなゲームは終らないから」
 普通の姫士ならばイメージに秘する武装帯……咲良がそれをわざわざ、目立つように髪に飾るのは、理由があった。少しでも早く、全ての姫士に勝利し、舞闘会を終らせる。それが彼女の望み。代々続く家系の使命。
「それより、奈津芽ちゃん。その体質、姫士だからあたし、解るけど」
「――笑ってもいいですよ。最弱の姫士、それが私。私の望みは、この体質を治すこと」
 白光の姫士、鷺澤奈津芽が抱える秘密。それは、極度の男性過敏症。姫士以外の男性に、異常に性的な興奮を覚えるのだ。それが彼を舞闘会へと駆り立てる。
「私の武装帯は弱い……私の姫士の力も。でもっ、私は勝ちたいんです!」
 三つ編みを揺らして、奈津芽が両手を頭上に掲げる。その間に光が収束して、一本のリボンが現出する。さらにそれを結べば、頼りなげな短剣が現れた。
 最弱の武装帯、『イクリプス・ミラージュ』は、刀身に午後の日を反射して光った。


「こっ、こないでください、水原さん……招待、しないで。私、勝てません」
「――怯えないで。ね? 招待しないってば」
 咲良が一歩踏み出せば、奈津芽の手の中で、短剣が二本、三本と増えてゆく。
 対して咲良は、髪に結んだリボンを解こうともしない。
「……あたしじゃ、力になれない?」
「来ないで! 刺します」
「それで奈津芽ちゃんが安心するなら、いいよ」
 躊躇わず咲良が身を寄せれば、既に両手に溢れた鋭い刃を、気圧され奈津芽が降ろす。
 怯えるような奈津芽を、咲良は幼子をあやすように抱きしめた。
「よしよし、いい子、いい子。男の人に触られると、ビックリしちゃうんだよね」
「水原、さん? どうして……好機ですよ? 私に勝てるんですよ? 招待、ん、んっ!」
 うろたえる奈津芽の言葉を奪うように、そっと咲良は唇に唇を重ねた。その頑なな蕾を優しく開かせ、舌へと舌を絡め、互いの吐息を分け合う。長い長いキスに鼻を鳴らせば、自然と奈津芽の手にする武装帯はリボンに戻り、やがて霧散する。
 二人が光の糸を引いて離れると、ようやく奈津芽も落ち着きを取り戻した。
「落ち着いた? ね、踊らないから。招待、しない。ただ、楽になって欲しいだけ」
 密かに慕う、克昭が原因だったのもある。しかし、咲良は生来、母より武装帯と共に、母性にも似た優しさを受け継いでいた。
「お、お礼なんていいません……たとえ勝ち目がなくとも、機会を見て、隙を突いて」
「うん。それは奈津芽ちゃんの好きにして。その時は、あたしも全力全開。でも」
 そっと咲良は、奈津芽の股間に手を伸ばす。スカートをめくり、ショーツを雄々しく盛り上げる、その屹立を手に取った。僅かにショーツをずらし、改めて握る。
「辛いよね? 気持ちは女の子なのに、男の人にうかつに触れないなんて」
「それは……でも、私でも勝てば。勝てば望みが叶うんです。だから、あっ」
「奈津芽ちゃん、もっと楽にして。力、抜いて……ね? あたしに、任せて」
 そっと奈津芽を、咲良は背後の巨木に押し付け、いきりたつ剛直の前に屈み込んだ。
 既に奈津芽の男性自身は、先走りに濡れて包皮を脱ぎ捨て、見事に勃起していた。
「奈津芽ちゃん、仮性なんだ。あたし、口でしてあげるね?」
「あ、まっ……」
「あたしじゃ嫌? 午後の授業もあるし。姫士同士だって、助け合ってもいいと思うけど」
 それだけ言うと、返事を待たずに、咲良は奈津芽の怒張に頬ずりした。その根元へ手を添え、パンパンに張った一対の宝玉をも愛撫する。そうして、たっぷりと焦らし昂ぶらせ、咲良はチロリと舌で亀頭を舐めた。鈴口から溢れる、透明な粘液をチロチロ舐める。
「ひゃうっ! 水原、さん……そ、そこは、んぐぅ!」
 咲良は絶妙な舌使いを駆使しつつ、ゆっくりと立派な竿を手でしごきあげてゆく。
 次第に二人の呼吸は荒くなり、肩で息をし始めた。
「元に戻るまで、絞ってあげるね。たっぷり出し――あっ」
 ほんの前戯のつもりだった咲良は、突然の、それも大量の射精に驚いた。だがしかし、優しく奈津芽を口に含むと、その白濁を飲み下し、吸い上げる。
「私、早いんです……早漏です。そ、その、ごめんなさい……」
「んぷ、ふぅ。奈津芽ちゃん、そゆ時はゴメンじゃなくて、ありがとう、だよ?」
「え? え、ええ……その、ありがとう、ございます。水原さん」
「あと、あたしのことは咲良って呼んで。……嫌? そりゃ、いつか闘うかもだけど」
 鼻先に精液を滴らせながら、いまだ萎えぬ肉柱を手に、咲良は奈津芽を見上げた。
 奈津芽は今、胸の前で手をもじもじ遊ばせながら、俯き視線を逸らしている。先程からずっと、顔は火照って紅が差し、茹で上がったように真っ赤だ。
「じゃ、じゃあ……咲良、さん」
「うん。ねえ、まだ固いよ……凄い立派。ほら、剥けた皮をこうすると」
「あぅん!」
 再び、奈津芽は絶頂に達した。咲良の端正な小顔が、白く汚されてゆく。
 しかし、咲良はただ微笑み、愛撫を続け、何度も射精を促す。
「あ、小さくなってきたね……奈津芽ちゃん、早いけど結構、絶倫? ふふふ」
「で、でも、今度は……咲良さんが。私、ちゃんと、お礼はしますから」
「律儀だなあ。そゆとこが委員長だよね、奈津芽ちゃ――あはっ、んんっ」
 こうして二人は、長い昼休みを互いにしごいて咥えあい、姫士同士ながら親密になった。

 美少女ばかりが集う私立K聖女学院でも、とりわけ生徒達に人気の乙女が四人。まずは、下級生達からお姉様と慕われる、四条文緒と、その彼女が選び側におく、珠坂咲音。次に、今まさに下校せんと廊下を歩く、西園寺いぶみだ。そして最後に――
「あっ、いぶみ先輩っ! 今、お帰りですか? そうだっ、よかったら一緒に、キャッ!」
 自分を呼ぶほんわりとした声に、いぶみは振り返った。
 そこには、何もない場所で転ぶという、特異な才能の持ち主が、尻餅をついていた。
 彼女は、二年生の八幡いぶき。ゆるい表情とは裏腹に、抜群の美貌を持つ、全校生徒の憧れの的だった。彼女を含む四人を、誰もが羨み、慕い、愛でる。
「あらあら、いぶき。どうなさったの? そんなに慌てて」
 いぶみはいつもの調子で、ほんわかと笑ういぶきに近付き、手を伸べた。
「お花をつみに行こうと思ったら、先輩が見えて。そしたら……あ、あれ?」
 いぶみの手を取る、彼女を中心に、まるでマイナスイオンでも発生しているかのような、穏やかな空気が広がってゆく。見目麗しい二人の光景に、周囲の生徒も囁きを寄せ合った。
 天然の愛嬌を秘めつつ、愛らしさに溢れた、金髪の小柄な少女が場を和ませている。
「あれれ……ふふっ、おしっこ引っ込んじゃいました」
「まあ。いぶきはいつもマイペースね。それより――」
 小さな手を引き上げて、エヘヘと笑ういぶきの耳元に、そっといぶみは唇を寄せた。
「いぶき、ご報告が……六人目の姫士を確認いたしましたわ」
 一瞬ぽわんとして、瞬きを繰り返すいぶき。しかし彼女は、笑顔を咲かせて立った。
 見るも流麗なこの光景の主役が、二人とも姫士……少年だということは、周囲の者は誰一人として知らない。唯一知るのは、同じ姫士のみ。
「やっぱり先輩、凄い凄いっ! じゃあ……二人っきりで、お話しましょう」
 柔和な笑みはしかし、星屑を閉じ込めた瞳だけが、笑ってはいなかった。

 いぶみといぶき、二人は連れ立って、人影まばらな放課後の校舎を歩く。
 誰もが振り向く、その視線を連れながら、二人はトイレへ入り、どちらからともなく、個室に相手を招いて、鍵を閉めた。
 清潔感あふれる清掃の行き届いたトイレは、豪奢で荘厳な作りゆえ、個室も広い。
 完全に周囲から遮断されるや、銀の姫士は「あのお方」と慕う者へ……従う者へと身を翻して、振り向きひざまずいた。
 まるで主君に仕える騎士のように。姫にかしづく下僕のように。
 そう、いぶきこそが、最強の姫士を従える、金の姫士だった。
「ご報告しますわ、いぶき。六人目は白光の姫士、一年生でしてよ」
 まるで当然のように、ドアに寄りかかり腕を組むいぶきの、そのベルトを外す。そして、スカートを脱がせば、クマさんパンツの股間が大きく膨らんでいた。
「そう。それで先輩、楽しく戦えましたか?」
「いえ、戦うまでもありませんわ。余りに、弱い。強くなる気配すら感じませんの」
 残念そうに呟きながらも、いぶみは静かに声を弾ませ、いぶきの下着へ両手をかけた。
 そっと降ろせば、ブルンとまろびでた巨根が揺れる。ふんわりとしたいぶきの容姿とは、余りにかけ離れた、その屹立。凶暴なまでに反り返って、血管が浮き出ていた。
「ああ、いぶき……こんなに。いつ見ても、ご立派ですわ。わたくしとは大違い」
「先輩、好きにしていいんですよ。それと、報告も続けてください」
 雄々しいイチモツに頬ずりしながら、うっとりと眼鏡の奥で瞳を細めるいぶみ。彼女は縦巻きロールの銀髪を揺らしながら、熱く脈打つペニスへ顔をうずめる。
「白光の姫士は、奇遇にも蒼の姫士、緋の姫士と同じクラスですの……好都合でしてよ」
「そう。うふふ、楽しくなってきましたね、先輩」
 うっそりと冷笑を浮かべると、いぶきは虚空へ手を伸べ、強念を研ぎ澄ませる。すると、細く綺麗な指が、空間から金色に輝くリボンを取り出した。
 それを手に遊ばせ、宙に躍らせながら、静かにいぶきは言の葉を綴る。
「やはり、七人目は見つかりませんか……それが恐らく、この舞闘会の秘密」
「ああ、いぶき……こんなに猛って。んむ、はふ、ふっ……ん、んっ」
 いぶみが夢中で貪るのを許して、その咥内のねっとりとした感触を楽しむいぶき。
 彼女は、パチン! と指を鳴らして、再び己の武装帯……リボンをしまった。
「ふふ、先輩。今日は六人目を見つけたご褒美をあげますね? さ、座って」
 妖艶な笑みを浮かべるいぶきに従い、口を離したいぶみは、洋式便器に腰掛けた。


 便器に浅く腰掛け、嬉しそうにいぶみは、スカートを両手で胸までまくりあげる。
 彼女は今、興奮に高揚して頬に朱がさし、瞳を潤ませながら主を、飼い主を見上げた。
「相変わらず先輩は可愛いですね。今日は、たっぷり可愛がってあげますから」
 いぶきは、小さな膨らみを内包した、レースの下着へ手を伸べた。いぶみが腰を浮かせ、それが脱がされる。無毛の股間に、包皮を余らせた小さな肉芽が勃起していた。
 いぶきは、股を開くいぶみの股間へ顔を近づけ、屈みこむ。
「先輩、相変わらずちっちゃいですね。それにツルツル。皮もこーんなに余って……ふふ」
 無邪気にいぶきは、いぶみ自身の先端で尖る皮を、指でつまんで引っ張る。
 びくびくと身を震わせ、いぶみは押し寄せる快楽に、鼻から喘ぎ声を漏らした。
「さ、先輩? どうして欲しいか、いつもみたいにおねだりしてください」
「わっ、わたくしのを……お口で、して……」
「あらあら? どうしちゃったのかしら。おねだりのしかた、忘れたの、かし、らっ」
 クチュクチュともてあそんでいた余皮に、いぶきは爪を立てた。短い悲鳴が響く。
「っく! あぅ……わ、わたくしの、オチンチンを……」
「そうそう、続けてください。全校生徒の憧れ、いぶみ先輩?」
「わたくしの、粗末で汚いクリペニスを、いぶみのお口で……綺麗に、して、ください」
 満足げに笑って、いぶきは形よい鼻先を、いぶみの小さな突起に近づける。
「確かに、凄い臭い……先輩、わたしの言いつけ、守ってたんですね?」
「は、はいぃ……ずっと、洗ってません。だから、皮の中に」
「皮の中に? わたしに何を綺麗にして欲しいんですか? ほら、言ってください」
「ちっ、恥垢っ! わたくしの、真性包茎のクリペニスに溜まった、臭くて汚い恥垢っ!」
 いぶきは常に、こうしていぶみを辱めることに、快感を感じていた。心身ともに完璧な、貞淑なお嬢様であるいぶみ。それが今、ずり落ちた眼鏡も構わず、淫らで卑猥な言葉で、いぶきの意のままに発情しているのだ。
「じゃあ、いつもみたいに、わたしが綺麗にしてあげますね」
 いぶきはパクリと、いぶみを咥えた。
 たちまち咥内に、強い淫臭が充満し、それがいぶきの劣情をさらに煽る。
 いぶきは小さな小さなペニスを丹念にねぶり、口だけで器用に、分厚く男性を覆った、余皮のヴェールを脱がせてゆく。
「んはっ、ふっ、くぅん……あは、凄い臭い。ほら先輩、剥けてきましたよ」
「はぁん……わたくしの、小さい小さい、クリペニス……」
「本当の女の子みたいですよ、先輩。クリトリスみたい」
 ようやく露になった亀頭は、白い恥垢がこびりついていた。それをいぶきは丹念に舌で、味わうように舐め取ってゆく。さらには、ペニスと皮の間へと舌を忍ばせる。
「本当に汚いです、先輩。ほら、こんなに……言いつけ守って、偉いですね」
「あ、あっ、そこは……そこ、指入れちゃ、んぁ! ……はぁ、はぁ」
 口を離すやいぶきは、今度は指で、ともすれば元に戻ってしまう皮を剥き、その中へと進入を果たす。そして、皮と茎の間を、コリコリとほじくり、恥垢をそぎ落とした。
「ほら、先輩。こんなに取れましたよ? はい、あーんして……」
 先走りに濡れた人差し指に、ねっちりとまとわりつく恥垢。
 いぶきが差し出すその指を、いぶみは咥えて吸い付き、自らの淫らな垢を舐めた。
「美味しいですか? 先輩。ふふ、いいお顔」
「はひ……おいひぃれふ……わ、わたくひ……」
「もう、また先輩だけ気持ちよくなって」
 瞳をあらぬ方向へ向けて、いぶみは押し寄せる法悦に震えていた。その口から指を抜き、いぶきは形よい唇を寄せた。ピチャピチャと、わざと音を立てて互いの舌を絡ませる。
 いぶきの巨大な、雄々しいペニス。
 いぶみの粗末な、稚拙なペニス。
 大小二本の怒張が交差し、抱き合いキスを交わす互いの腹部に突き立てられる。
「ん、ぷはっ! ふう……先輩、もう一つの言いつけも守ってますか?」
「はっ、はひ……」
「こーらっ! まだアヘっちゃ駄目ですよ? ご褒美はこれからですもの」
 いぶきはにこやかに、いぶみが何であるかを問う。いぶみはわななく唇で応えた。
「わたくしは、いぶみの姫士……そして、淫乱な雌豚の、肉奴隷ですわ」
 よく言えました、と微笑み、再度いぶきはキスを与え、舌をすすった。


 ガチャリと音がして、トイレに誰かが入ってきた。
 その音で、飛びそうになっていたいぶみの意識が、肉体へと戻ってくる。しかし、その唇を貪るいぶきは、まるで動じた様子もない。寧ろ楽しそうだ。
「皆様、今度の休日の予定は空いてまして?」
「そろそろ冬物を見に、街にも出たいですわね」
「あら素敵。ご一緒しませんこと?」
 かしましい声を弾ませ、続いて隣の個室に人の気配が入り込んだ。他の生徒達は何人か、鏡の前で髪をいじりながら、週末について談笑している。
「いぶき、あの……」
「大丈夫、先輩が声を出さなければ。ご褒美をつづけますね」
 声をひそめて囁き合うや、最後に深いキスをして、いぶきがいぶみから身を起こした。
「先輩、いつも声が大きいんですもの。楽しみになってきちゃった」
 こんな状況でさえ、楽しげないぶきの笑みが絶えることはない。彼女は静かにそっと、大股開きのいぶみの、その両腿をかかえる。膝の裏へ腕を通し、ぐいと持ち上げる。
 自然といぶみは、便器の上に寝そべる形で、腰を僅かに高く持ち上げられた。
「ほら、先輩。いつもみたいに自分で脚を……そう、そのポーズ」
 いぶみは主が言うままに、自らの豊満な尻を突き出した。その割れ目の中心に窄まる、穢れた排泄孔は今、栓がしてある。いぶきが与えた、特大のアナルプラグだ。
「先輩、抜きますよ? 声、出さないでくださいね」
 小声でウィンクして、いぶきがそれへと手を伸べる。
 いぶみがいきめば、ずるりと拳大のアナルプラグがひりだされた。
 それを吐き出したいぶみのアヌスは、ぽっかりと洞のように開いたばかりか、
「あはっ、相変わらず先輩、お尻ゆるいですね。ほら、めくれてますよ?」
 脱肛気味に直腸がめくれて、淫靡なアナルローズを咲かせている。
 いぶきは魔性の笑みを浮かべて、人差し指に中指を沿え、その肉感にあふれた肛門へとそれを突き出す。飛び出た直腸を押し戻しつつ、指が二本、抵抗なく飲み込まれた。
「お待たせしましたわ。ささ、皆様参りましょう」
「今ちょうど、どこのブランドから回ろうか話してましたの」
「毛皮も新調したいですわね……あら、もうこんな時間」
 二人以外の女生徒は、賑やかに声をあげながら出て行った。再び静かになるトイレの中、いぶみだけが激しく呼吸を貪り、半開きの口から涎をたらしている。
「先輩、よく声出すの我慢できましたねっ! じゃあ、これなら?」
 いぶきは、いぶみの菊門に差し込んだ二本の指を、大きく開いた。そうしてその隙間へ、更にもう片方の手の指を忍ばせる。いぶきは容赦なく、両手でいぶみをこじ開けた。
「ほんと、だらしない穴……こーんなに広がって。まあ、わたしが拡張したんですけど」
 ムニュムニュと広げられたいぶみは、言葉が声にならず、ひたすら空気を貪る。
「さて、と。最後のご褒美。……先輩、どうして欲しいか、またおねだり」
「は、はひっ……いっ、挿れて、くだ――あ、やっ……抜かない、で」
 露骨に残念そうに、意地悪な笑みで、いぶきは糸引く指を抜いた。
「先輩、そうじゃないですよね? わたし、あんなに教えたのに。さ、もう一度」
「わ、わわ、わたくしの……ケツマンコに、いぶきのオチンチン、挿れて……」
「そうよ、その調子……興奮しちゃう」
「野太いいぶきのオチンチンで、ケツマンコぐちゃぐちゃに犯し――んほぅ!」
 いぶみの言葉を遮り、いぶきは己の剛直をねじ込んだ。するりと根元まで。
「んー、相変わらずゆるいです、先輩。ほら、もっと締めてください?」
 一瞬白目をむいていたいぶみが、眉根を寄せて下腹部に力を込める。
「あは、いい感じです。でも、こうするともっと」
 締め付けを感じながらも、いぶきはベトベトになった両手で、いぶみの首を絞めた。
 途端にいぶみの括約筋が蠢き、直腸を押し広げるいぶきをきつく圧迫する。
「うんうん、いい具合……あ、なんか、おしっこ思い出しちゃった。先輩、しますよ?」
「は、はひ……わたくしは、いぶきのモノ……いぶきの、変態肉便器でひゅ」
 じょろじょろと大量の尿が、いぶみの直腸に注がれ、長時間の放尿が続いた。
 続いて絶頂に達する間際、いぶきは腰を引くと、大量の精液をいぶみの太腿へ放つ。
「はい、ご褒美終わりです。先輩、わたしのおしっこ、零さないでくださいね」
 いぶみの所有者は満面の笑みで、再びアナルプラグを捻じ込み、栓をした。

 プールサイドに腰掛け、珠坂咲音は恋人を見詰めていた。
 自慢の豪邸に咲音を招き、その片隅に備えられた広い温室プール。深まる秋の中でも、まるで真夏のように、文緒は泳ぐ。そのしなやかな流線型が美しい。
 二人きりの穏やかな時間をしかし、咲音は感受できずにいた。
 ただ、バシャバシャと脚でプールの水を遊ばせ、今日の昼休みへと思考が引っ張られる。
「うかない顔だね、咲音。何か考え事……心配事かい?」
 文緒が咲音のそばまで泳いできて、プールの底に足をついた。
「ご、ごめんなさい、文緒。何でもないんです」
「そう。ならいいけど……憂いを帯びた今の咲音も、可愛いよ」
 文緒はプールサイドに肘をつき、すぐ隣から咲音を見上げてくる。
 その濡れた手が、ピシャリと水を弾いて、そっと咲音の露な太腿へ触れた。
「それに、水着姿もいい。咲音は泳がないのかい?」
「私……カナズチです」
 一瞬、きょとんとした文緒は、次の瞬間には大輪の笑顔を咲かせた。
「ははっ、そうか、咲音は泳げないのか。学院中の上級生が愛でる、珠坂咲音が」
「も、もうっ、文緒っ! ……そんなに笑わなくても」
「いやあ、ごめんごめん。でも、水着姿は本当に可愛いよ。よく似合ってる」
 咲音は今、その白い肌も露な、きわどい赤のビキニを着ていた。選んだのは勿論文緒だ。薄い胸を覆う上は、咲音をきちんと採寸したものなので、サイズは丁度いい。薄っすらと肋骨が浮く、くびれた腰の下には、確かな膨らみを内包した、可憐な三角地帯。
「これなら、一緒に海に行っても、男の子だなんてばれないね、咲音」
「そんなこと、ないです……よく見れば、ばれちゃいますよ」
「大丈夫さ、腰にパレオでも巻けば完璧だ。……咲音、来年こそ一緒に、海に行こうよ」
「はい、文緒。その次の年も、その先も……ずっと、側にいさせてください」
 プールの中の文緒が、咲音の真正面に回りこむ。そうして、両の膝に手を置きながら、微笑み見上げてくる。咲音はその手が、膝から太腿を這い上がってくる、その感触に身を震わせた。
 自然と、今まで考え込み、危惧していたことが頭から霧散する。
「脱がすよ……腰、浮かせて。そう、いい子だ」
 するりと、水着の下が脱がされた。
 下半身裸にされた咲音は、されるがままに股を開き、その中央へ文緒を招き入れる。
 文緒は水の中に身を遊ばせながらも、咲音の股間に顔を埋めた。
「ふふ、咲音の匂いがする。いいな、僕にもこれくらい、立派なのがあればな」
「あっ、文緒……息が、くすぐったいです」
「固くなってきた。凄いね、咲音……まだ触ってもいないのに。ほら、元気になってきた」
 咲音は頬を赤らめながらも、僅かに身を反らして己の分身を見下ろした。
 楽しそうにクスクス笑う文緒の美貌と、その側で立派に勃起した屹立が見えた。
「さて、咲音。今日は僕にどうして欲しい? 何でも言ってごらん?」
 文緒はプールからその痩身を起こすと、そのまま咲音を押し倒して身を重ねる。
 水に濡れた文緒を抱きしめ、咲音はそっとその華奢な肩に触れる。ワンピースの競技用水着を、上だけ脱がせれば、豊満な乳房がまろびでた。形といい張りといい、文緒の乳は、咲音の密かな憧れだ。
 自分と文緒の性別を入れ替える……その望みがもし叶うなら。その時は自分にも、文緒のような胸が欲しい。密かにそう思っていた。
「あの、文緒……胸で、して欲しいです」
「ふふ、咲音はホントに僕の胸が好きだな。いいよ、ほら、おいで」
 文緒に言われるままに、咲音は上下を入れ替え、恋人の柳腰に馬乗りになる。
「咲音、ほら……これ、好きだろ? 出したくなったら、顔にかけていいからね?」
 文緒は、立派に強張る咲音の剛直を、己の豊かな胸の谷間に導いた。そうして両側から、自らの手で乳房を用い、しごく。同時に首を僅かにあげて、その先端へ舌を走らせる。
 咲音は、文緒の顔に覆いかぶさるように、床へと両手を突いた。
「文緒の胸、気持ちいいです……凄い、柔らかくて、温かくて、んぁっ!」
「濡れてきたね。ほら、先走りがこんなに……滑りがよくなってきた」
 いつもの文緒の巧みなリードで、咲音は絶頂に達し、見下ろす顔へと白濁をぶちまける。
 その快感に身震いしながら、一瞬飛んだ意識が、再び黙考へと沈んでいった。


 それは、すでに日常化しつつある、一年蓮組の昼休みの一コマだった。
「克くんっ、じゃない、染井先生。今日もお昼、ご一緒していいですよねっ?」
 咲音は、今日も元気溌剌、快活そのものの水原咲良を、なんとはなしに見ていた。その横には、最近親しげな、鷺澤奈津芽の姿がある。ぎこちなく克昭から距離を置いているが、奈津芽も話の輪に加わっていた。
「あのなぁ、咲良、じゃない、水原さん。あくまで学院では――」
「だって克くん、あたしがちゃんと見てないと、食が偏るんだもん」
「ふふっ、咲良さんのお話は本当だったんですね。染井先生、世話を焼かれてます」
 クスクスと可愛らしく、奈津芽が口に手をあて笑っている。
「そだよ、奈津芽ちゃん。あたしがいないと、克くんってばだらしないんだから」
「お、おいっ、こら……他の生徒にも聞こえちゃうだろ?」
「ゲームとか創作とか、夢中になると大変! 食事も洗濯もぜーんぶあたし任せだもの」
「そ、そりゃお前が勝手に上がりこんできて、勝手にやってることだろぉ~」
 克昭の狼狽ぶりに、周囲の女生徒へも、暖かな微笑が伝播してゆく。咲良はその性格故、蓮組では誰とも親しく、ムードメーカーだった。
 否、誰とでもという表現は正しくはない。
 すくなくとも、そう咲音は思っている。彼女は、心を許してなどいないから。
 咲音が心を許す者など、一人しかいないのだから。
「だって、克くんには幸せでいて欲しいもん。……普通に、暮らして欲しい、みたいな?」
 不意に咲良が、切なげな表情に顔をかげらせる。
 姫士の誰もが今や知っている……本人にまだ自覚は少ないが。染井克昭こそ、理事会が選出した、裁定者。最後の卒業舞闘を見届けるもの。
 そうなったのも、元を辿れば、咲音が咲良に舞闘会を挑んだ、その場を見られたから。
 咲良は一瞬俯いたものの、いつもの笑顔で腰に手を当て、ない胸を張る。
「だいたい、昨日も夜遅くまで……変な小説? ばっかり書いててさ」
「いや、頭に浮かんで来るんだよ。七人の姫士、舞闘会……何でも望みが叶う」
 どうやら克昭には、七姫舞闘祭が、自分の創作する物語に思えるらしい。
「兎に角、名前はまだ決めてないけど、うちみたいな学院に七人の男の娘がだな」
「……克くん? そゆ話、フツーの女の子の前で、しちゃ駄目って言わなかったかな?」
「え、あ、ああ……いや、お前の前だとつい。ゴメンな、鷺澤さん」
 手の平を合わせる克昭が、僅かに身を乗り出すと、奈津芽は後ずさりながらも微笑んだ。
 咲音はただ、そんな三人の姿を……とりわけ裁定者たる克昭を注視する。
「まったく、あたしがいないとこれだもの……」
「いや、咲良がいるからつい、気がゆるむんだと思うんだな。これがな」
「かっこつけても駄目っ。……もう、そのお話、作るのやめようよ。ね?」
「いやー、でも勝手に頭に浮かんでくるんだよ。次は、白光の姫士と影の姫士が――」
 確かに克昭は口にした。
 白光の姫士と影の姫士が、これから踊り、どちらかが敗北すると。
 確かに、どちらかが姫士の資格を失うと。
「そこまで考えたんだけど、そこから先はスレに投下してな――あ、ごめんごめん」
 克昭の言葉に、奈津芽は……白光の姫士は恐れ戦慄き、凝立している。
「ほっ、ほら、克くん! もう、駄目だぞっ! ……大丈夫だよ、奈津芽ちゃん」
「う、うん……で、でで、でも……」
 姫士にとって、裁定者の口から語られる言葉は予言にも等しい。口にした本人に、全く自覚がなくても。そして、その結果は、まだ語られずとも、咲音には明白に思えた。
「克くん! 今後、その話禁止! さ、みんなでぱっとお昼にしよ? ね? ねっ!」
 うろたえる奈津芽を庇うように、咲良は努めて明るく振舞い、克昭の腕を抱いた。
 そうして引っ張り、教室を出ようとしたところで……一部始終をただ、じっと一人で見詰めていた咲音と眼が合った。
 思わず眼を背ける咲音に、緊張感のない元気な声が浴びせられる。
「あっ、そうだ! たまにはさ、珠坂さんも……咲音ちゃんも一緒にお昼いこうよ」
「……私が? 私は、文緒と二人で食べるから」
「そっか。いいなー、あの文緒姉様に見初められるなんて。でも、咲音ちゃん可愛いしな」
「それと、あまり私に馴れ馴れしくしないで」
 馴れ合うつもりはないと言い捨てて、その時咲音は、咲良の視線を振り切ったのだった。


「はい、終わり。咲音の髪、綺麗だね。僕も伸ばそうかな……似合わないだろうけど」
「…………あっ、そ、そそっ、そんなこと、ないです。きっと」
 不意に、咲音は現実に思考を引っ張り戻した。プールで蜜月の時を過ごした二人は今、シャワールームで続きをしている。咲音の腰まで伸びる赤髪を、たった今文緒が洗ってくれたのだった。
 咲音は、文緒の手が髪をすいて、シャワーの湯が泡を落としてゆくのを感じる。
 姫士は、無関係な人間に男と知られれば、その資格を失う。
 では、男と知った相手が、ただならぬ関係の人間ならば?
 その答が咲音と文緒だった。二人はもう、無関係とは言い切れぬほどに、身も心も重ね、交わり、通わせていた。互いに肉体とは真逆の性を抱えつつ、愛し合っていた。
「それにしても、咲音は胸があんなに好きなんだもんな。さっきも……ふふっ」
「もう、文緒……だって、文緒は素敵です。私は、文緒みたいに、なりたいんです」
 背後の文緒に振り向き見上げる、咲音の本心だった。
 目の前に今、少女を脱皮しつつある、完璧な裸体が湯を弾いている。ボーイッシュな風体の長身はしかし、華美な制服を脱げば、抜群のプロポーションだった。
「それは僕も一緒さ。僕だって、咲音みたいになりたいよ」
「だっ、だから私……頑張ります。きっと、最後の一人に、なってみせる」
 咲音の言葉に首を傾げつつも、そっと文緒は最愛の人を抱きしめ、豪奢なタイル張りの壁へと押し付けた。そのまま唇を重ねて、鼻を鳴らしながら互いの呼吸を奪い合う。
 咲音も夢中で舌に舌を絡めて、丹念にお互いの唾液を混ぜ合った。
「まあでも、咲音はそこいらの娘よりよっぽど、女の子らしいけどね。……ほら」
 つつ、と文緒の指が、咲音の濡れた肌を滑る。そうして、平らな胸の先にある、小さな蕾を探し当て、指でつまんだ。
「――ぁう! あ、あっ……文緒、らめ……胸は、そこは」
「ほんと、胸が好きだよね。するのも、されるのも……ね、咲音」
 桜色の乳首をもてあそばれ、思わず咲音は唇を離した。ビクンと大きく震えれば、固く勃起した股間の怒張が、ぶるんと揺れる。文緒は構わず、糸引く咲音の唇を再度舐めつつ、その舌を柔肌へと這わせてゆく。形よい顎をなぞり、喉仏の目立たぬ喉をねぶって……
 そうして、文緒は、咲音の左右の乳首を、指でほぐしつつ交互にしゃぶりだした。
「咲音、女の子みたいだよ……乳首、固くなってる」
「ふぁ……文緒、そこっ、いいの……乳首、感じるの」
「僕もだよ……痛いぐらい固くなってる。ね、触れてみて」
 言われるままに、咲音は文緒の乳房に触れる。熱心に咲音を壁に押し当て、その胸板へ舌を躍らせる、文緒の乳首を探し当てる。確かに、その小さな突起は、形良く上向いて、固くしこりとなっていた。
 咲音がすべやかな指でそれをいじれば、文緒もあえいで身をのけぞらせる。
 二人は湯に打たれながら、互いの乳首を丹念に愛撫しあった。
「文緒、もう……胸は、弱いです、私……」
「ふふ、ふやけてきちゃった……咲音の乳首」
 ずるずるとその場に、壁を背に咲音はへたり込んだ。朦朧とする意識の中、目の前の文緒の股間が、その豊かな茂みが近付いてくる。文緒がぐいと腰を突き出してくる。
「僕もほら、濡れてる……咲音、今日もたっぷり、僕にそそいで」
 文緒に言われるままに、その秘裂へと指を滑らせれば、湯とは違った粘度の液体が、咲音に纏わりついてきた。それはクチュクチュと音を立て、その都度文緒を悦ばせる。
「文緒……挿れたいです。文緒の中に、今日も出したいです」
「いいよ、一つになろう……咲音はそのまま。僕が動くから、楽にして」
 文緒はくるりと背を向けると、咲音に腰掛けるように身を屈めた。
 自然と咲音は、目の前の腰を抱き締め、迎え入れる。
「ふふ、可愛い顔して、ここはいつも暴れん坊なんだよね。……ほら、挿ってく」
「あ、ああ……文緒、今日も凄い。し、締まるぅ……」
 柔らかな、暖かな肉路が、咲音の形に押し広げられる。
 文緒が完全に腰を落とし、その確かな重みが、下の咲音を気遣うように密着した。
 咲音自身は、文緒を深々と刺し貫き、その最奥の子宮口へと、鈴口をこすりつける。
「ああ……奥に当たってる。ふふ、今にも爆発しそうだよ、咲音の」
 湯気の中ただ、咲音は愛しい文緒を抱き締め、その中に精を解き放った。

 彼は……彼女としか形容できぬ容姿の彼は、獲物を前に気配を殺していた。ただ静かに、漲る殺気を胸に秘めた、美しき肉食獣。その牙と爪は今、二人の姫士に迫る。
(二手に別れた……どちらから狩る? ……くっ、また震えが。手が、震える)
 目の前で今、仲良く下校中だった二人は別れた。その片方が、狭く暗い路地へ曲がる。
 迷わず彼は、先だっての敗北からくる怯えを振り払い、弱者の駆逐を選んだ。
「不用意だなっ! こんな場所で一人になるな――何ぃ!?」
 ビルと塀の隙間、人が一人通るのがやっとの路地裏は、彼を迎えて異界と化した。
「ようこそ、影の姫士。気付いてました……私からご招待して差し上げます」
 影の姫士、有栖影奈は、舞闘会を挑むはずが、逆に招待された。
 白光の姫士、鷺澤奈津芽に。容易い獲物と踏んでいた、最弱の姫士に。
 刻が静止し、色彩を失った路地裏で、奈津芽が虚空より取り出すリボンだけが眩しい。
「この狭い場所で、貴女の剣が……武装帯が振るえますか? 私のように」
 奈津芽の声は、恐怖からか上ずっている。しかし彼は毅然と、白いリボンを震える手で頭上へと結んだ。たちまち現出する武装帯、イクリプス・ミラージュが刃を並べて増える。それをまるでトランプのように両手に遊ばせ、奈津芽は影奈をきっと睨んだ。
「面白ぇ……オレを招待するたぁイイ度胸だ。来いっ、無明残月っ! ――っ!?」
 意外な待ち伏せに驚きつつ、高揚感から武装帯を呼ぶ影奈の声が弾む。だが、彼が宙に黒いリボンを呼び出した瞬間、右肩へ激痛が走った。
 一本の短剣が、まるで生えてきたかのように、突き立っていた。
「わっ、私はこのまま、距離を保って、貴女を射続けます。貴女が意識を失えば――」
「ハハッ、悪ぃ……舐めてたぜ。オレとしたことが。しかし、こいつは傑作だ」
 肩からはとめどなく真っ赤な血が溢れ、モノクロームのセーラー服を濡らしてゆく。
 しかし、それに構わず笑って、影奈はリボンを結び、武装帯を顕現させる。その手に、白木鞘の日本刀が現れた。
「確かに、この狭さじゃ剣は振れねぇ……そう思ったか? お嬢ちゃん、っと」
「動かないでください! ……今すぐ、自分で武装帯を戻し、引き裂いてください!」
 奈津芽の二投目は、影奈の太腿に命中した。切れ味鋭い短剣が、白い柔肌へ食い込む。
 影の姫士、影奈の技は居合い抜き。しかし、必殺の抜刀術も、この細く狭い空間では、不可能に思われた。少なくとも、奈津芽はそう確信したからこそ、この場所を選んだのだ。
 だが、それは誤算だったと、彼女は後悔することになる。
 肩と脚との出血にも構わず、影奈は半身に構えて、頭上に無明残月を高々と掲げ上げた。右手で柄を、左手で鞘を握り、その刀身が路地に平行になるよう、奇妙な構えをとる。
「オレとしたことが、銀の姫士にやられてビビってたか……」
 ニヤリと影奈が怜悧な笑みを浮かべれば、端正な表情に影が差す。
「白光の姫士、鷺澤奈津芽。お前は最弱なんかじゃねぇ……立派な姫士、オレの獲物だ!」
「お願いです! こ、来ないでっ!」
 胸の前で交差させた奈津芽の両手に、その指の間に短剣が無数に光る。鋭い刃は全て、影奈が半歩、ドン! と踏み込むのと同時に、全力で投げつけられた。
 大地を踏みしめた影奈の脚から、鮮血が噴出す。それにも構わず彼は、縦に無明残月を抜き放った。殺到する日蝕の幻影を、放たれた衝撃波が蹴散らし、奈津芽に迫る。
「――っ! まだっ! 私は、負けたくない……最弱でも、勝ちたいっ!」
「お前は弱くはねぇよ……オレが、強いだけだ」
 続く刃の嵐の第二波を、今度は垂直に切り上げた斬撃で、影奈は殆ど叩き落す。しかし、何本かが彼を掠め、セーラー服を朱に染め、裂傷を刻んだ。
 それでも徐々に、影奈は淡々と、距離を食い潰してゆく。
「嫌……こないで。私の望みをっ、希望を奪わないでっ!」
 じりじりと近付く影奈へと、奈津芽は無数に増えるイプリクス・ミラージュを投げる。
 その大半は切り払われ、何本かがセーラー服を血に染めた。
 それでも影奈は止まらない。
「覚悟を決めな。オレは逃げも隠れもしねぇ……勝ちたきゃ、飛び込んでこいっ!」
 無明残月の切っ先が、あと数歩で触れそうな距離で、奈津芽は意を決した。真っ直ぐに影奈を見据えて、手元の短剣を一本へと練り上げる。それを突き出し、彼は地を蹴った。
「咲良さん……私に勇気を。影の姫士、有栖影奈っ! 勝負です!」
 影奈は突き出された短剣を避け、奈津芽のみぞおちへ無明残月の柄を突き出した。。
 奈津芽は意識が薄れる中、武装帯が白いリボンへ戻るのを感じた。


 ぐい、と三つ編みの髪を引っ張られ、アスファルトに伏す奈津芽は目が覚めた。
 身を起こせば、すぐ目の前に、自分の白いリボンを手にする、影奈の姿があった。
「悪いな、お嬢ちゃん。オレの、勝ちだ」
 影奈の手でビリビリと千切られ、夕暮れの風に白いリボンが舞い散り、消えてゆく。
 奈津芽は姫士として敗北し、その資格を失った。その事実を受け止め、呆然とする彼を、影奈は見下ろし、その掴んだ三つ編みを手放した。
「いい作戦だったが、オレを甘く見たな。……ん? お前……よく顔を見せろ」
「なっ、や、やめてくださいっ。離して、あっ」
 不意に、奈津芽の顔を見詰めていた影奈が、その手で細い顎を掴んでくる。既に影奈は体中の傷の止血を終えており、用意のいいことに包帯をあちこちに巻いていた。
 その手でぐいと顔を持ち上げられ、奈津芽は影奈の美貌と向き合った。
「驚いた……クソッ、舞闘会に夢中で気付かなかったぜ。お前、似てる……そっくりだ」
 そう言って不意に、影奈は奈津芽の唇を奪った。突然のくちづけに、驚く奈津芽は眼を見開く。咄嗟に彼は、咥内に侵入してくる影奈の舌へと、歯を立てていた。
「っ! ……痛ぇな。はは、気の強いとこまで似てやがる」
 影奈は奈津芽から唇を離すと、血の味をペッ、と吐き出しつつ、秀でた額を撫でた。
「気が変わった、お前を犯す。安心しな、女になる前にたっぷり、最後に楽しませてやる」
 影奈は不敵に笑うと、怯える奈津芽のスカートの中へと、手を差し入れた。
「おっ、もう勃ってるじゃねぇか。金玉痛くなるまで搾った挙句、女にしてや――お?」
 スカートの中をまさぐり、半勃ちになった奈津芽自身を握りつつ、影奈は言葉を続けていたが……不意に手の中の肉柱が固さを増したと思った、その瞬間には、びくびくと震え、白濁を吐き出した。三擦り半程度で、奈津芽は達してしまったのだ。
「あ、ああ……やだ、ごめんなさ……」
「いや、謝られてもな。まあ、早いけどまだ固いぜ? こりゃ搾り甲斐がありそうだ」
 いやらしい笑みを浮かべて、影奈は奈津芽のスカートを脱がし、ベタベタになった下着までも降ろしてしまう。人気のない路地裏で、奈津芽は狭い中、股を開かされた。影奈はその間に腰を下ろして、包皮を脱ぎ捨てた屹立に顔を寄せる。
「ん、匂いやがるぜ……おい。女になるまで、少し昔話をしてやる」
「え、むかしばな、ひっ! だ、駄目っ! 口は駄目で、んんんっ」
「……本当に早いな、もう二発目かよ。いいぜ、最後だしガンガン出しな」
 影奈がぱくりと口に奈津芽を口に含むや、その唇の僅かな圧だけで、二度目の射精。
 半ば呆れつつも、影奈は咥内にあふれ出す精液を、吸い出すように飲み込んでゆく。
「ん、ふっ……ぷはっ。ふう。昔の話だ。ある孤児院に、天涯孤独の兄妹がいた」
「兄妹……ひょっとして、それが、んふぅ! あ、また出る……はぁ、はぁ」
 言葉を紡ぎながらも、手で影奈が愛撫すれば、奈津芽はまたも絶頂に身を反らす。
「血の繋がった兄妹だが、愛し合ってた。まあ、許されざる禁断の愛ってやつだな」
 クチュクチュと音を立てて、奈津芽のペニスは、影奈の手で根元までしごかれる。
「何とか結ばれる方法はないか、って悩む内に……オレは姫士に選ばれた訳だ」
「そ、それが、貴女の……有栖さんの、望み」
「オレをその名で呼ぶなっ!」
「ひうっ!」
 影奈の指が、奈津芽の敏感な先端に、その鈴口に突き立った。そこからの痛みと快楽が電気信号となって駆け巡り、またも射精に腰を浮かす奈津芽。
「そうさ、オレは望みを叶え、妹と……ひなたと結ばれる。……筈だった」
「はぁ、はぁ……あぅ、また出て――筈? だった?」
「そうさ、オレの童貞、ひなたの処女……オレ達は純潔を交わして、結ばれる筈だった」
 瞬間、仮性の向けた皮を甘噛みする、影奈の表情が険しくなった。
「でも、オレは汚れちまった……あの女に、銀の姫士に犯されちまった」
「有栖さん……」
「オレをその名で呼ぶな。嫌いなんだ……それと、もう一つ」
 影奈は絶え間ない奈津芽の射精に、顔を汚しながらも呟いた。
「その顔で、その名は呼ばれたくねぇ」
「え? それは……は、はうぅぅ、ま、また出るっ! らめっ、止まらないぃ」
「お前は、オレの妹に……ひなたに、似てるんだよ」
 それだけ言うと、影奈は奈津芽が萎えるまで、ねっぷりとその性器を責め抜いた。


 全てを出し切り、放心状態で奈津芽は路地に半裸をさらし、天を仰いでいた。
 既に男性器は萎え、最後に透明な粘液を弱々しく吐き出した。今はもう、小さくなって包皮に包まれている。その、最後の残滓を舐めていた影奈が、顔をあげた。
「たっぷり出たな。じゃあ、もう悔いはねぇだろ……それにしても、似てやがる」
 仰向けに寝そべる奈津芽の上に覆いかぶさり、目線を並べると、顔中白濁塗れの影奈は、再度唇を重ねてきた。力なく奈津芽は、それを受け入れた。影奈の唾液に、自らが放った精液が混じり、それが自分の唾液と溶け合って、喉を滑り落ちてゆく。
「ん、ふぅ……へへ、見ろよ。オレももうこんなになってるぜ」
 奈津芽は手を影奈に取られて、その股間へと導かれる。
 スカートを盛り上げる怒張が、下着からはみ出て黒光りしていた。
「いまからこいつで女にしてやる」
「い、いや……やめ……」
「そんな顔するなって。折角の美人が台無しだぜ?」
 悪戯をしでかす子供のような笑みを浮かべて、影奈が奈津芽の腰を抱いて持ち上げた。既に下着を脱ぎ捨てた下半身を、その下へと滑り込ませる。奈津芽は身体を折り曲げられ、自然とまんぐりがえし……否、ちんぐりがえしの体勢で尻を突き出した。
 呆然とする奈津芽の目の前に、萎えて糸を引く自らの陰茎がぶら下がっている。
「綺麗な色してんじゃねぇか。こっち、初めてか?」
「え? あ、は、はい……」
「安心しな、なるべく痛くしないようにしてやる。なるべく、な」
 奈津芽の桃尻を左右に割って、その谷間の中心へと影奈が舌を這わせた。快感が伝わり、奈津芽が身を震わせれば、桜色の窄まりがキュムと締まる。しかそ、その穢れた排泄孔を、影奈の舌は丹念にねぶった。やがて、先を尖らせた舌が、固く閉ざされた菊門をこじあけ、その中へと進入してくる。
「ふあぅ……くぅん」
「何だか声まで似てる気がするぜ……いいぜ、優しくしてやる。力、抜きな」
 奈津芽は恥辱に塗れて羞恥に悶えながらも、不思議な感覚に法悦を感じていた。
 自分は今、あられもない姿で、勝者に肛虐されている。尻の穴をいじられている。
 それが不謹慎にも、気持ちいいのだ。
「指、挿れるぜ?」
「はい……んくっ!」
「ん、やっぱりキツいな。でも、ほら……ここ、いいだろ?」
「ひゃうっ!」
 影奈の指が、第一関節まで入り込んできた。そうして直腸の粘膜を撫で、汚物の出口を、これから快楽の入口となる場所をほぐしてくる。奈津芽はただ喘ぎながらも、己が徐々に弛緩してゆくのを感じた。影奈の指が更に奥へと侵入した瞬間、
「ふあああっ! そ、そこは……いっ、今すご……んくぅ!」
「ここが前立腺だ。いいぜ……もっといい声を、ひなたの声を聞かせてくれ」
 激痛が走るほど射精したのに、むくむくとまた奈津芽自身が充血してゆく。
「だいぶほぐれたな……ちょいとキツいが、挿れるぜ?」
 奈津芽の返事を待たずに、影奈が己自身の濡れそぼる先端を、菊座へと押し当てた。
 刹那、奈津芽は自分が上下左右に、影奈の形に押し開かれる激痛に絶叫した。
「わ、悪ぃ、痛かったか?」
「か、かはっ……あ、あがが……」
「大丈夫、大丈夫だひなた……すぐに気持ちよくなるからな? いい子だ、ひなた……」
 みちみちと音を立てて、影奈は己の剛直を根元まで奈津芽へ押し込んだ。そうして次は、ゆっくりと引き抜いてゆく。一番の締め付けがカリ首を捉えたところで、また挿入。
 影奈は妹の名を呟きながら、妹そっくりな顔を見下ろし、挿抜に勢いをつけてゆく。
「ああ、ひなた……オレの可愛いひなた。やっぱりひなたは処女だったな。ほら……」
「い、痛い……のに、いい。ふあ、駄目……私、初めてのお尻で……感じてます」
「血でぬめってきた、いいよひなた……うっ、出るっ! 中に出すぞ、ひなた!」
 覆い被さる影奈が、身を反らしてビクンと震えた。同時に奈津芽は、自分の中で熱量が膨れて弾けるのを感じた。同時に、涙を流す影奈への嫌悪感が、不思議と薄れてゆく。
「あ、ああ……ひなた。ようやく、一つになれた……愛してるよ、ひなた」
 奈津芽は女体化の始まった、膨らんだ胸で、倒れ込む影奈を気付けば抱きとめていた。

 昼からの曇天は夕暮れ時、冷たい秋雨を地に注ぐ。
「うわー、びしょ濡れだよ~! 克くん、ほらほら、早く入って入って」
「……俺ん家なんだが。大体、お前が鷺澤さんや珠坂さんと喋ってるから、遅くなって」
「鈍感だなあ、克くんってば。……待ってたんじゃない、克くんの仕事が終るのを」
 水原咲良は口を尖らせながらも、濡れた染井克昭の背を押す。小さなアパートの狭い玄関で、二人はバタバタと靴を脱いだ。
 咲良は今日は、克昭の世話を焼くべく、彼の帰宅にくっついてきたのだ。
「兎に角脱げ、風邪引くから。ほれ、タオル。後は、あ、これでも着とけ」
「あたし、女の子なんだけど。それ、甲斐甲斐しくお世話に来た娘に言う台詞かな」
 そうは言いつつ、咲良はタオルを受け取り、それを頭からかぶる。すでに制服は雨に濡れ、水滴が床へと滴っていた。続いて渡されたのは、克昭のワイシャツ。
 咲良は完全に妹的存在な扱いへすねつつも、克昭の優しさが嬉しかった。
 例えその身が、少女以上の可憐さでも……少女の心を内包した少年でも。
「じゃ、じゃあ、着替え借りるね。のぞくなよ? のぞいたら、メッ、だからね」
「はいはい。誰もお前の真っ平らな胸なんか、見ねぇよ」
 パソコンの電源を入れつつ、克昭はおもむろに、濡れた着衣を脱ぎだした。その程よく引き締まった背中を見て、ドギマギと咲良は脱衣所へと駆け込む。
「……克くんのバカ。全っ然、ムードないんだから」
 素早く華美な制服を脱ぎ、咲良は手近なハンガーへとそれをかける。彼の平坦な胸は今、スポーツタイプのブラがぴたりと張り付いていた。スカートを脱げば、下のレギンスまで濡れていた。
 ポニーテールを解き、渡された大きすぎるワイシャツに袖を通して、
「――克くんの匂いだ。克くんの匂いがする」
「ギコナビ、ギコナビ、っと……ん? 何か言ったか?」
 何でもないと応えて、咲良は袖を余らせながら、克昭の匂いに包まれた。
 サイズが大き過ぎて、下をはかなくても、まるでワンピースだ。
 脱衣所を出た咲良を振り返り、流石に克昭も息を飲んで紅くなった。幼馴染とはいえ、すらりと生脚も露な、美少女然とした咲良に、鼓動を速めているようだ。
 背を向けパソコンに向かう克昭を横目に、少し機嫌をなおして咲良は台所へ。
「そっ、そう言えば珍しいよな。鷺澤さんは兎も角、今日は珠坂さんも」
「え? あ、ああ、うんっ。……ま、まあ、女の子には込み入った話があるんだよ」
「あんま仲良さそうには見えなかったけどな」
「あっちは一年生のアイドル、みんなの可愛い咲音ちゃんだし」
 鷺澤奈津芽の、白金の姫士の敗北は、他の姫士達も敏感に察知していた。故に今日は、珍しく珠坂咲音から声をかけてきたのだ。勿論、馴れ合いはしないと言いながら。
「でも鷺澤さん、今日は元気なかったな。顔色も良くなかったし、何かあったか?」
 匿名掲示板を見ながらの、克昭の一言に咲良は驚いた。
 腐っても副担任、一応教育者を目指している克昭だ。咲良は思わず感心してしまう。
 しかし、それも次の言葉で、小さな失望と、軽い嫉妬に置き換わった。
「でもこう、年頃だからかな? 今日の鷺澤さん、前よりぐっと女の子っぽ――」
「あ、やーらしー! あたし達をそゆ目で見てるんだ。克くん、エッチ! 変態!」
「ま、待て! 違うぞ咲良。仮に変態だったとしても、変態と言う名の紳士だ、俺は」
 学院から解放された克昭は、いつものオタクで気さくなお兄ちゃんで。マウスをいじるその背から、再度「違うからな、咲良」と声がして、咲良はクスリと笑った。
 やっぱり、昔から親しんだ名前で、咲良と呼ばれるのが何故か嬉しい。
 しかし、今の咲良は、無邪気にほのかな恋心をくゆらしていられる程、内心は冷静ではいられなかった。友人の奈津芽が敗北し、姫士の資格を、願いと祈りを失ったから。
「やっぱり、早く終らせなきゃ。七姫舞闘祭は……こんな舞闘会の日々は」
 今日、登校した奈津芽の目は、僅かに赤く光がなかった。恐らく泣き明かしたのだろう。彼は……否、既に彼女となった奈津芽は、男性過敏症の体質を抱えたまま、大人の女へと成長しなければならない。それが辛いと、咲良の前で彼女は気丈に微笑んだ。
「奈津芽ちゃんの為にも、あたしが影の姫士を……でも、何か雰囲気変わった気がするな」
 陵辱され、肉体の性別を奪われたのに、奈津芽は小さく零した。影の姫士、有栖影奈は寂しい目をしていたと。そう言う奈津芽の瞳も、切なげに潤んでいた。
 咲良は一層決意も固く、一族に伝わる蒼いリボンを握り、窓辺から雨空を見上げた。


 強さを増す雨の音よりも、淫靡に湿った音を奏であう二人。
 閑散とした豪邸に招かれ、西園寺いぶみは今、八幡いぶきと抱き合い、唇を重ねていた。
 中世の貴族を思わせる洋館は、使用人以外に人の気配はなく、それさえ遠ざけた私室で、いぶきはソファに腰掛け、膝の上にいぶみを座らせている。
「ん、んっ……ふふ、いぶみ先輩っ、今日は何だか楽しそうですね」
「ええ。わたくし嬉しいんですの、いぶき。影の姫士は、以前より強くなってますわ」
「白金の姫士を倒し、その自信を回復したようですね。うふふ、でも」
「わたくしがまた、それを叩き潰しますの。想像しただけで、もう」
 膝の上で、いぶみは主の首に両手を回す。その顔は興奮に上気して、頬に赤みが差し、瞳はとろんと潤んでいた。それを抱き寄せるいぶきも、満足げに鼻を鳴らす。
「いぶみ先輩、言ってみてください。想像しただけで、どうなるんですか?」
「あん、いぶきの意地悪……わたくし、闘争を待ち焦がれて……勃起してしまいますわ」
「あらあら、これでも勃ってるんですか? いぶみ先輩」
 いぶきがそっと、スカートの中へと手を忍ばせる。その行き着く先に、レースの薄布を僅かに盛り上げる、小さな小さな肉芽があった。無毛の股間に、真性包茎の粗末ないぶみ自身が漲っている。それは余りにも小さく、いぶきは片手で完全に包んでしまえる。
「あン、いぶき……そこ、いいですわ」
「そこ、じゃ解りませんよ、先輩? あは、ビクンビクンしてる」
「わたくしの余った皮、真性包茎の皮。それをいじられると、んっ! そ、それより」
 ねだるような視線をからめて、いぶみもまた、いぶきの股間へと手を伸べる。
 そこにはもう、スカートを隆々と盛り上げる、巨大な肉柱がそびえていた。
「ほら、先輩。また、おねだり忘れてますよ? 何が欲しいんですか?」
「オッ、オチンチン……いぶきの、太くて固い、おっきいオチンチンですわ……」
 恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに俯きながら、いぶみが卑猥な隠語を囁いた。
「よく言えました、先輩。じゃあ、床におりて……そう、膝をついて。跪いて」
 いぶきは、己の忠実な下僕を立たせると、こちらへ向かって床に屈ませる。そうして、僅かに腰を浮かすと、スカートを、次いでクマさんパンツを脱ぎ捨てた。
 露になる怒張に、いぶみが感嘆の笑みに表情を崩す。
「先輩、これが欲しいんですか?」
「はい……いぶきの、臍まで反り返った、野太いオチンチンが、欲し、っぷぅ」
 恍惚にとろけた笑顔で、いぶみがいぶきの股間へと顔を寄せた。しかし、いぶきは突然、靴を脱ぐと、黒いタイツに覆われた右足で、いぶみの顔を踏んで遠ざけた。
「先輩、今日のご褒美はこれです。今日、わたしのクラスは体育あったんですよ」
「ん、ふっ、ふはっ! ん、んんっ」
「そう、じっくり味わってくださいね。指と指の間も、いつも通り丹念に舐めましょう」
 いぶみは、いぶきの右足を両手で包んで、夢中でその親指にしゃぶりついた。見るも浅ましく、主の蒸れた足を舐める奴隷を、満足げにいぶきは足蹴にする。もう片方の靴も脱ぐと、左足はいぶみの股間へと伸びていった。スカートをはだけて、下着の上から足が、器用に小さなペニスをしごいてゆく。
「やっぱり先輩、変態ですよね。わたしの足を吸って、こんなに固くして」
「ん、ぷはっ、あぅ……だ、だって、いぶきの匂い、興奮するんですもの」
 夢中で匂いを吸い込み、丹念に足へ舌を這わせるいぶみ。その痴態にいぶきも息を荒げ、自らの剛直を両手で握ってしごきだす。先走る透明な粘液が、クチュクチュと音を立てて雨音を塗り潰していった。やがて――
「あっ、あ……あうううっ! いぶき、いぶきっ! 凄い、匂いがきつくて……ふあっ!」
 いぶみは身を震わせて達した。いぶきの足だけで、絶頂を向かえたのだ。
「先輩っ、気持ちよかったですか?」
「は、はい……素敵でしたわ。も、もっと、わたくしをいじめて、んぐぅ」
 いぶきは邪笑とも言える妖艶な笑みで、左右の足を入れ替えた。
 ねっぷりといぶみがねぶった右足に代わって、白濁に汚れた左足が顔に押し付けられる。
「先輩が出したんですから、お口で綺麗にしてくださいね」
「は、はい……あは、わたくしの精液、濃いですわ……んふ、ふぅ、はっ」
 いぶみは夢中で、汗の香る、精液に塗れた足を吸った。
 その光景を満足そうに見下ろし、いぶきはソファの背もたれに身を沈めて天井を仰いだ。
 いぶきは容赦なくいぶみを踏みながら、自らの手淫にしばし耽った。


「ふふ、足の指がふやけちゃった」
 いぶきが左足を引っ込めると、唾液の混じった精液が糸を引いた。いぶみはまるで、甘露を取り上げられたかのように、あうあうとその足を追い、舌を這わせる。そこには、学院でも憧れのお嬢様、西園寺家の令嬢の面影はなかった。
 ただ、いぶきの飼い慣らす、闘争に狂った雌犬が一匹いるだけ。
 いぶみの舌は、足先から徐々に、いぶきの脚線美を這い上がりはじめた。
「ふふっ、くすぐったいです、先輩。ホント、すぐにトんじゃいますねっ」
「は、はひっ……いぶきの、おいひい……」
「可愛いですよ、先輩。わたしにもっと、恥ずかしい姿をみせてください」
 膝裏から内股へと舌を走らせ、とうとういぶみは、いぶきの大きく開かれた股間へと到達した。陰嚢はパンパンに張って膨らみ、その上に赤子の腕ほどもある巨大なペニス。
 甘い蜜に吸い寄せられる蝶のように、いぶみは血管が浮き出て脈打つ、見事な屹立へ舌を滑らせた。両手で握ってもなお、その長さは余りある。
「先輩、今日はどうして欲しいですか? これ、お尻に欲しいですか?」
「ほ、ほひぃれふ……はぁ、はぁ、ん、んんっ、ぷぅ」
 いぶみは既に夢うつつの状態で、いぶきを喉の奥まで飲み込み、唇で根元からしごく。
「んー、でも先輩、お尻ゆるゆるなんですよね。まあ、締まらないこともないですけど」
 クスクスと笑ういぶきは、股間に顔を埋めるいぶみの髪を、その縦にロールした一房を、指に遊ばせいらいだ。しっとりとした銀髪が、そのうるおいを手に伝えてくる。
 こうしている間も、いぶみの直腸には、巨大なアナルプラグが挿入されている。彼女はいぶきの手で開発、調教、拡張され、今やアナルプラグがなければ生活できない躯へと、完全に作り変えられていた。彼の肛門は既に、第二の性器だった。
「先輩もでも、次の舞闘会を前に興奮してるし……そうだ、あれ、しましょうか」
 れるん、と舌全体を使って、裏筋を舐めていたいぶみは、いぶきの言葉に目を細める。
 いぶきはチロリと自らの人差し指を舐めて濡らし、そっと己の鈴口へ当てた。
 ずぶりと、僅かな抵抗で肉が締め付けつつ、その指が第一関節まで尿道へ埋まる。
「ここ、欲しいですか? 先輩っ」
「あ、ああ……いぶき、わたくひ、ほひぃれふ。そこに」
「涎たらしちゃって、ふふ。わたしの可愛い猟犬、西園寺いぶみ。そのお口で言いなさい」
「わ、わたくひの、クリペニスを……いぶきの、ペニマンコに挿れたい、れふぅ」
 身震いに息を弾ませ、いぶきも興奮から視線が濡れていた。自らの尿道を、手馴れた指使いで愛撫しながら、尚もいぶみに淫らな言葉を言わせ続ける。
「いぶきのデカマラ、わたくひのオナホにしたいでふわ……搾られたくてよ、いぶきぃ」
「いぶみ、わたしは動かないですから、自分でしてくださいね」
 おずおずといぶみは立ち上がると、右手で自分の粗末なものを、左手でいぶきの脈打つものを握る。そうして、ソファに優雅に身を沈める、いぶきに覆い被さった。
 いぶみが自らの手で包皮を脱がせ、互いの先端を近づけた。
 接合……いぶきが深い息を吐き出し、いぶみの芯を飲み込んだ。いぶみはもう、言葉にならない声に喘いで、両手でいぶき自身を握って固定し、腰を振り始めた。
「ああ、いいっ、いいれふわ……いぶきのペニマンコ、締まりまひゅ」
「その調子です、先輩。もっとわたしの尿道、犯してください」
「は、はひぃ」
「外からギュッて、してください。そう、外と中から……わたし、感じちゃいますっ」
 両手で余るいぶきのペニスをしっかり握り締めて、いぶきはその尿道へと挿入を果たし、無我夢中で腰を振っていた。そのサイズ差ゆえに、いぶみは根元まで飲み込まれてしまう。
 やがて、彼はあられもない絶叫を張り上げ、知る限り最高の絶頂に登り詰めた。
「んっ、すご……わたしの中で、先輩のがドクドクいってる。逆流してくるっ」
「ふああっ! 止まらなひぃ、射精とまらなひですわ! ああ……まだ出てまひゅの」
 法悦に眉根を寄せながら、いぶみはいぶきの中に二度目の精を放った。
 しかし、それで二人のこの交わりは、終わりではなかった。
「はい、じゃあ先輩、あーんしてくださいね。二人分、浴びてください」
 ずるりといぶみの萎えたペニスが引き抜かれるや、爆発寸前の男根を手に、いぶきはソファから身を起こした。同時にいぶみは、口を開いてだらしなく舌をたれる。
 いぶきは、先程いぶみが放った白濁を、次いで自分の欲望を迸らせた。
 大量の精子を顔で、全身で浴びながら、いぶみの闘争本能は昂ぶり滾った。

 月明かりが優しく差し込む、静かな夜。
 珠坂咲音は最愛の人を抱き締め、その寝息に胸をくすぐられていた。先程の情熱的な、互いを求めて貪るような交わり……その快楽の余韻が、華奢な躯に燻っている。
 咲音は今、四条文緒の邸宅に招かれ、寝室で夜を越えようとしていた。
 そんな彼の脱ぎ散らかした制服から、携帯電話の着信音。
「この着信……水原さん」
 文緒を起こさぬよう、優しくその手を振り解いて、咲音はベッドから起き上がる。
 スカートを拾い上げ、そのポケットから携帯電話を取り出し、彼は窓辺に遠ざかった。
「もしもし」
『あっ、咲音ちゃん? 夜にごめんね、寝てた?』
 ちらりと時計の表示を見る咲音。まだ九時前、高校生が寝るような時間じゃない。
 もっとも、彼は確かに水原咲良の言う通り、"寝て"いたが……文緒と熱く、激しく。
「大丈夫だけど、何?」
 ひそめる声が僅かに尖る。咲音は同じ姫士として、咲良達とはなるべく一線を引いて接しようと決めていたから。いつか決着をつける身なれば、不用意な馴れ合いは無意味だ。
 だが咲良は、そんな咲音の作る壁を、簡単に越えてくる……そういう子だった。
『あたし、これから影の姫士に挑むの。仇討ち、って訳じゃないけど』
「そう」
『それで……その前に、咲音ちゃんにお礼言いたくて』
「お礼? 何が? 私は何も」
『この間、一緒に奈津芽と話してくれたじゃない。ありがと、咲音ちゃん』
「私は、別に……」
『奈津芽ちゃんも、気が楽になったって。それだけ……じゃ、あたし行くね』
 不思議な子だと、咲音は思う。姫士にとって、他の姫士は全て敵。その筈なのに。
「一つだけ忠告するわ。……獣の牙を封じるには、顎門を砕くことね」
『キバを、封じる……アギトを……うんっ! ありがと、咲音ちゃん! また明日ねっ』
 自分でも不思議と、咲根は呟いた言葉を反芻する。この自分が、他の姫士に、咲良に助言をするなんて。無自覚に感化されてる、しかもそれが不快でない……小さな驚き。
 通話が切れると、背後でシーツがバリバリと音を立てた。
「ふふ、咲音をたっぷり浴びたから……乾いてパリパリになってる」
「あ、文緒……ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
 文緒はその優美な肢体を起こすと、携帯電話を手にする咲音へと歩んでくる。そうして二人は全裸で、窓から月明かりを見上げて抱き合った。
「友達かい? 咲音の携帯が鳴るなんて、珍しいね」
「友達、ではないです。でも……」
「ふむ、それじゃあもしかして、僕に言えないような関係かな?」
「そっ、そんなことはっ! あ、ん、んっ」
 慌てて否定を小さく叫んだ、咲音の唇が唇で塞がれた。そのまま、言葉は絡み付く舌で優しく奪われる。ピチャピチャと音をたてて吸い合えば、自然と咲音の股間は、再び血が集まり身をもたげる。
「ふふ、咲音の珍しい表情を見て、少し嫉妬したのさ。僕だけの咲音だと思ってたから」
「私は、いつでも文緒の、文緒だけのものです」
 咲音は甘えるように、豊かな文緒の胸に顔を埋める。そうして、見上げて再度キスをねだった。先程より深く、より一層激しく、二人は唇を重ねる。自然と互いに、抱き合うその手が相手の股間へと、なめらかな肌を滑っていった。
「あんなにしたのに……また、咲音が欲しくなっちゃった」
「私もです、文緒。文緒が、欲しい」
 咲音が触れる文緒の秘裂は、既に透明な粘液で濡れていた。そしてその奥から、先程何度も注いだ、自分の精液が垂れてくる。それを指で掬えば、淫靡な音がクチュクチュと鳴った。
 同時に、文緒が優しく愛撫してくるたびに、背骨を快楽が電流となって駆け上る。
「咲音、もう少ししようか。今度はここも可愛がってあげるよ」
 文緒の手が咲音の背後に、尻に回る。そうして谷間へ指がうずまり、蕾を撫でた。
 鼻から抜けるような声をあげた瞬間、咲音はお姫様のように文緒に抱き上げられる。
 二人の夜は、まだまだ始まったばかりだった。


「名指しで呼び出すとはいい度胸じゃねぇか……来てやったぜ、蒼の姫士っ!」
 学院の屋上、満天の月明かりを背に受け、その声に咲良は振り返った。携帯をしまう、その手は翻って、髪に飾られたリボンをするりと解く。蒼みがかった髪がさらり流れて、夜風にふわりと舞った。
「有栖先輩、姫士として……あたしの招待、受けて貰えますか?」
「いいぜ……オレに逃げる理由はねぇ! こぉい、無明残月っ!」
 影の姫士、有栖影奈が闇夜に手をかかげるや、その闇よりなお色濃い、漆黒のリボンが虚空より現れる。それを結べば、たちまち彼の手には、白木鞘の日本刀が現れた。
「これで、姫士の泣く日がなくなるなら……夜夢雅導、お願いっ」
 咲良もまた、手に持つ蒼いリボンを結ぶ。それは長く伸びて、刃の連なる鞭へと顕現。
 月光に照らされ、二人の姫士が武装帯も露に、舞闘会へと踊り出した。
「蒼の姫士っ! 水原咲良とかいったか……前から手前は、気に入らなかったんだよっ!」
 影奈が身を低く踏み込んでくる。
 迷わず咲良は、文字通りリボンのように、ひらりと夜夢雅導を翻した。星明りを反射し、無数の刃が空間を切り裂き、影の姫士を迎え撃つ。夜夢雅導は七つの武装帯の中で特に、防御力に優れていた。その無軌道な曲線が、影奈の移動を制限し、機動力を奪う。
「しゃらくせぇっ! 細切れにしてやるっ! おおおおっ!」
 攻めあぐねた影奈が、空間を自在に行き交う夜夢雅導へと、手にする無明残月を抜いた。神速の抜刀術が幾重にも連続して、冷たい光を閃かせる。抜いては斬りつけ、納刀の瞬間、再び抜刀する。そうして彼は、無理矢理に夜夢雅導の制空権を切り裂いていった。
 武装帯の刃同士が、激しくぶつかり火花を散らす。
「夜夢雅導の防御が……なら、これでっ!」
「日頃から武装帯も露に、髪なんか結いやがって……今夜この場で、引き千切ってやる!」
 静から動へ、防御に徹して展開されていた、夜夢雅導が咲良の手元へ引き寄せられる。次の瞬間、彼の手から蠢く蛇のごとく、うねる一撃が影奈へと繰り出された。
「単調な攻撃だな? 攻めるのは不得意か……貰ったっ!」
 切っ先鋭い、夜夢雅導の突きを、影奈は見切って避けた。
 同時に、必殺の間合いへと踏み込み、無防備になった咲良の眼前へと迫る。
 抜刀、弧を描く剣閃が咲良を掠めて、大きく横に薙ぎ払われた。後方へ飛びのいた彼の、制服のスカーフがはらりと切り落とされる。
「ちっ、踏み込みが足りなかったか……ん? 何だ、この違和感……」
 切り払った刃を翻して、影奈は表情を固くした。
 今、確かに自分が優勢、攻めているという、圧しているという感触はある。
 それなのに、対する咲良の目に、怯えも絶望もない。
「まあいい、次で終わりだ。あっけなかったな、蒼の姫士――何っ!」
 影奈が違和感の正体に気付いた、その時には既に決着はついていた。
「牙を、封じる……顎門を、砕くっ!」
 咲良が小さく気勢を叫ぶや、握る夜夢雅導に力を込めた。それは先程の一撃を外して、長く影奈の後方、闇夜へ伸びて吸い込まれ……そこから折り返して、戻ってきてた。
 今、影奈が左手に握る白木鞘に、夜夢雅導の切っ先が、幾重にも巻きついている。
「しまった、クソォ! 剣が戻せないっ、まさかさっきの一撃はオレじゃなく」
「そう、鞘を狙ったの……背後から。影の姫士の武装帯、本体は……その鞘っ!」
 咲良の双眸が見開かれるや、姫士としての力が夜夢雅導に注ぎ込まれる。
 怒れる大蛇のごとく、夜夢雅導は身をしならせるや、巻きつく鞘を粉々に砕いた。
 同時に、影奈の右手の剣は消失し、左手にほつれたリボンが現れる。黒いリボンは、ひとりでに千切れて、夜風に舞って霧散した。
 決着……咲良は緊張から解放されへたりこみ、影奈は呆然と立ち尽した。
「馬鹿な、オレが……負けた?」
「ハァ、ハァ……咲音ちゃんが、奈津芽ちゃんが教えてくれた。居合いの弱点は鞘だって」
 姫士にとって唯一にして絶対の武器、武装帯。全ての武装帯には特性があり、それは知られ過ぎれば、弱点をさらすことにもなる。影の姫士は、今までの舞闘会で武装帯を振るい過ぎたのだ。結果、複数の姫士に、特性を見抜かれてしまった。
 もっとも、咲良は最初から、真正面からの真っ向勝負のつもりだったが。
「嘘だ……ひなた、オレ……」
 影の姫士もまた、この夜願いと希望を失った。一瞬で、永遠に。


 咲良は四肢の力が抜け、尻餅をついたまま、呆然と立ち尽くす影奈を見詰めていた。
 その手の夜夢雅導が、彼女の意思を悟ったかのように、蒼いリボンへと変わる。それで髪を結いなおせば、影奈が顔に手をあて天を仰いだ。彼は、笑っていた。
「フフフ、フハハハハハ! ……もう、終わりだ。最初から、駄目だったんだ」
「あ、あの……」
「あいつに、銀の姫士に犯され、純潔を失った時から……オレは負けてたんだ」
「有栖先輩」
「オレをその名で呼ぶな……まあいい、蒼の姫士。オレを、楽にしてくれよ」
 不意にふらりと、影奈が力なく咲良へと歩み寄ってくる。自然と咲良は後ずさり、背に屋上の手摺を背負って、身を震わせた。
 咲良に、勝者の権利を行使するつもりはなかった。彼の目的は、全ての姫士に勝利して、願いを叶えること。太古より続く七姫舞闘祭そのものを、世から消すこと。
「あっ、あの、あたし別に……酷いこと、しないですから。あ、やめ――んんっ!」
 目の前まで来た影奈が、屈んで唇を重ねてきた。
 咲良は目を見開きながらも、弱々しく影奈を押し返す。
「お前の勝ちだ、水原咲良。オレを犯せよ……」
「そんなことしないです! ……そんなことしたって、誰も喜ばない」
「オレが楽になるんじゃ、駄目か?」
「……えっ?」
 驚き見詰め返す咲良の前で、影奈は己のスカートの中へと手を差し入れる。そうして下着を脱ぐと、セーラー服姿のまま、へたりこんだ咲良に馬乗りになった。
「女になれば、ひなたへの想いも忘れられるだろうよ」
「せ、先輩? あのっ、あたしはただ……あっ」
 上になった影奈が、無表情に顔を凍らせながらも、咲良の股間を愛撫してゆく。すぐに下着の中で、はち切れんばかりに彼自身が強張った。
「あたしはっ、この七姫舞闘祭を終らせたいだけですっ! もう、誰も泣かな――んっ」
「それが、お前の願いか?」
「ふあっ、や、やめっ……はぁん」
 抗いつつも、咲良の身体は正直だった。巧みな影奈の手淫に、たちまち下着は脱がされ、スカートを盛り上げる剛直は、脈動しながら勃起していた。
「オレは……妹を愛しちまった。だから、姫士に選ばれた時、嬉しかった。でも……」
「願いを裂かれた姫士達の為にも、あたしはこのゲームを壊します! だから」
 僅かに影奈が腰をずらして、咲良の肉柱を手に、その先端を桃尻の谷間に導く。
 咲良は決意を叫びながらも、逆らうこともできずに、影奈を押し広げた。
「ん、んっ、あ……痛っ、つ……オレも、こっちは初めてだからな」
「だ、駄目……そんなに締めたら、んぁっ!」
「オレの中に出して、オレの想いを断ち切ってくれよ」
 漠然とだが、朦朧とする意識と快楽の中、咲良は察した。以前、奈津芽が言っていた、影奈が寂しそうに見えた訳が。今、彼は自ら女になることで、禁断の愛を無理矢理にも忘れようとしているのだ。
「痛ぇ、ケツが裂けちまいそうだ。……あいつも、痛かったんだろうな」
「奈津芽ちゃんは、先輩が寂しそうだって、言ってました」
「オレが……寂しい? あいつが?」
「泣いてたって……先輩、こんなの駄目です。舞闘会でみんなが泣くの、嫌ですっ」
 痛みに顔を僅かに歪めながらも、影奈は咲良の腹に両手を突いて、腰を上下させる。
 咲良は狭い肉路に屹立を搾られる、その快楽と戦いながら、絶頂感をおしとどめた。
 今果てれば、直腸に射精された影奈は女になってしまうから。
「あたしは、体が男でも、女の子に生まれて、育ってよかったです」
「お前……」
「それはきっと、先輩だって同じ筈なんです。だから」
 咲良は弱々しく、しかししっかりと影奈の手を取り、握る。そうして、我慢の限界を先延ばしにしながら、ゆっくり影奈の下で動いた。身をずらして、影奈の中から自身を引き抜く。
 間一髪、にゅるんと抜けた瞬間、咲良は大量に射精した。
 その白濁の迸りは、一滴として影奈の中を犯すことはなかった。

 鐘の音が学院の午後を告げる。一日は折り返し、未来の淑女良妻達は、昼休みを終えて授業へと各々戻ってゆく。
 だが、その流れに従わぬ者が一人、屋上で秋風に吹かれ佇んでいた。
 未だ目立つ、学校指定のものではないセーラー服。その赤いスカーフが風に遊ぶ。
 転校生、有栖影奈は今、てすりに背をもたれて天をぼんやり仰いでいた。短く切って揃えられた髪が揺れる。彼女は弱い日差しさえ眩しいかのように、ヘアバンドで秀でた広い額に、目を庇うように手の甲をかざした。
「あっ、あの、有栖先輩……授業、始まってしまいます」
 ふと声がして、影奈は目だけで屋上の入口を見やる。そこに立つ意外な人物を認めて、彼女は首を巡らし、ついで身を起こして向き直った。
「そう言う手前ぇはいいのかよ。……オレに何か用か? 鷺澤奈津芽」
 何故か、影奈の目の前に今、鷺澤奈津芽の姿があった。彼女はもじもじと視線を落とし、それでもゆっくりと影奈に歩んでくる。
「わ、私、初めて授業を……抜け出してしまいました」
「ハッ、見た目まんまの優等生かよ。で? オレを笑いにでもきたのか?」
 影奈と奈津芽。かつて、姫士だった二人。今はもう、その資格を失った二人。
 しかし皮肉にも、奈津芽の武装帯を引き千切った影奈は、その処女を奪って精を放ち、勝者の権利を行使した。結果、奈津芽の肉体は完璧な少女に転じ、以前にもまして静かに色香を放っていた。
 対照的に影奈は、姫士の資格を失ったにも関わらず、未だ少年を秘めている。
 彼に勝利した蒼の姫士、水原咲良は、勝者としての嗜虐を頑なに拒んだ。
 影奈の方から強引に、逃げるように肛虐を強いたにも関わらず。
「わっ、笑うだなんて……ただ、その。……咲良さんと、踊ったと聞いて」
「で、負けた。あの野郎、オレよりドでけぇ望みを引っさげてやがる……奴は、強い」
 影奈の自嘲気味の言葉に、奈津芽も首肯を返す。
 奈津芽の知る咲良は、彼女の親友は、強い。姫士としてではなく、その心根が強いのだ。
 そして、強いだけではなく、優しく温かい。
「七姫舞闘祭そのものを消すとよ……しかも、誰も犯すことなくときたもんだ」
「そ、それじゃあ、有栖先輩は、まだ」
「オレをその名で呼ぶな。ああ、男のまんまさ……だからこうも、胸が痛ぇ」
 すぐ目の前に来た奈津芽の、見上げてくる面影が胸の疼痛を加速させる。
「オレの望みは、妹と……ひなたと一緒になることだった。兄妹を超えた絆があるから」
「私は体質を……私、駄目なんです。男の人に触ると――でも咲良さんなら。だから」
 そっと、奈津芽の手が触れてきた。冷え切った影奈の手を、両手で包み込んでくる。
 影奈は一瞬身を強張らせたが、潤む双眸に見詰められ、そのまま手に手を重ねた。
「やっぱり。私、有栖先輩も平気」
「だから、その顔でそう呼ぶなって……影奈でいい。それと、ちょっといいか」
 小首を傾げる妹の面影が、そっくりな顔が不思議そうに頷いた。
 影奈は奈津芽の三つ編みに手をやり、静かに解いた。
「この方が、似てる。……そっくりだ。本当に、ひなたに瓜二つだ」
 奈津芽の解かれた髪は、ゆるやかにウェーブしながら風にたなびいている。
 それを軽く手で押さえながら、奈津芽は影奈へさらに身を寄せた。
「影奈先輩、寂しそうに笑うから……私あの日から、本当に乙女になってしまいました」
「奈津芽、お前……」
「私、そんなに似てるんですか? 妹さんに」
「あ、ああ。……そういう顔でオレを見る、仕草までそっくりだ」
 余りにも酷似しているので、思わず影奈は目を逸らす。
「じゃあ、妹さんもきっと、今の私と同じ気持ちなんですね」
「ひなたと、同じ? お前、まさか……」
「影奈先輩。……私を今度は、本当の意味で女にして、ください」
 俯き真っ赤になりながら、奈津芽は小さく呟いた。
「どの道私は、女になっても体質があるから……普通の男の人じゃ、駄目です。それに」
「いいのかよ、奈津芽。オレはお前の望みを断った人間なんだぜ?」
「……私、妹さんの代わりでもいいんです。せっ、責任、取ってください」
 姫士としての資格と望みを、共に失った二人の間に、新しい関係が生まれはじめていた。


 奈津芽はこの日、生まれて初めて授業を抜け出した。
 のみならず、学院を勝手に自主早退し、こんな場所まできている。それも初めて。
「何だ、見た目通りお堅いんだな。初めてか?」
「は、はい」
 煌びやかな室内には、大きなソファとテレビ。そして奥にダブルのベッド。
 奈津芽にとってラブホテルとは、既に異空間にも等しいものだった。しかし彼女は、影奈に誘われるままについて来てしまった。影奈は手馴れた感じで部屋を選んだ。
 再び二人っきりで、しかも今度は密室……それも、情事に耽る為の空間。
「今なら逃げてもいいぜ? ……オレぁ今でも、ひなたのことしか」
「…………隣、いいですか?」
 ソファにしどけなく身を沈める、影奈の隣に奈津芽も腰を下ろした。
 二時間という休憩時間、その一秒一秒を刻む時計の音だけが大きく聞こえる。
 それよりも耳に痛いのは、奈津芽自身の心臓の音だった。
「私、言いましたよね? 妹さんの代わりでもいい、って」
 そっと身を影奈にもたれ、その肩に頬を乗せて奈津芽は呟く。
「妹さんは、何て呼ぶんですか? 影奈先輩のこと」
「そ、そんなこと聞いてどうすんだよ。……お、お兄ちゃん、っていつも」
 照れるような、恥ずかしがるような影奈の声。それを聞いて奈津芽は、そっぽを向く影奈の耳に唇を寄せる。そっと囁き、同時に股間へと手を伸べる。
「……固くなってるよ、お兄ちゃん」
「おっ、お前っ――」
「お願いです! このまま、私を妹さんだと思って……」
 奈津芽は犯され女にされたあの日から、影奈の寂しげな顔が忘れられなかった。自分を犯しつつ、この胸に顔を埋めて涙を零したことも。それが今、彼女を背徳へ駆り立てる。
「……ひなたって呼ぶぜ? いいのかよ、そんなので」
「私、身も心も女の子になって、知ったんです。……初恋です」
 一生、男なんて愛せないと思っていた。初恋なんて夢だとも。
 それが姫士に選ばれ、勝てば望みが叶うと知り、奈津芽は闘いに踊った。
 ……そして破れたものの、砕けた望みの欠片を拾うことができたのだ。
 例えそれがいびつに尖って、握れば手の内で身を切る鋭利な欠片でも。
「……駄目だ、手前ぇは似てるがひなたじゃねぇ」
「どうすれば……どこが違いますか? 私に教えてください」
「どこも違わねぇよ……可愛くて生真面目で、でもお前は鷺澤奈津芽だ」
「いや……お兄ちゃん、私じゃ駄目な、んっ! ……ん、ふぁ」
 不意に影奈が唇を重ねてきた。秒針と鼓動だけのリズムに、二人の息遣いと舌遣いが、淫靡な輪唱を刻んでゆく。奈津芽は今、偽りの愛に身を委ねて、愉悦に身を震わせた。
「んふっ、ふ、ふあああっ! ……はぁ、はぁ」
「……キスだけでイッたか? 女になっても早いな、お前」
「す、すみません……ううん、ごめんなさい、お兄ちゃん」
「……いいんだ、いんだよひなた。さあ、もう一度」
 再びキスを交わして、より深く相手の呼吸を貪り、唾液をすする。クチュクチュと音を立てて、丹念に唇を吸いあう。その間も、どちらからともなく手は股間や胸へ走った。
「ちゃんと女の子になってるな、ひなた。こんなに胸が」
「お兄ちゃんが私のこと、女の子にしたんだよ。そして、今度は女に……」
「こっちもこんなに濡れて……相変わらずいやらしい子だ、ひなた」
「だってお兄ちゃんが……はぅん! んんんっ、はぁ……」
 影奈の手が股間に伸びて、下着の中の秘裂に触れた。それだけで奈津芽は絶頂に達し、したたる愛液をさらに迸らせる。既に下着はぐっしょりと濡れていた。
「ひなた、オレもの……いつもみたいに」
「う、うん、お兄ちゃん。ああ、凄い……こんなに固くなってる」
 二人は抱き合い、丹念に互いをまさぐりあいながら、徐々に裸になってゆく。
 奈津芽は今や、正真正銘の少女……ふくよかに丸みを帯びて、胸が膨らんでいる。
 対する影奈は少年ながら、華奢で線が細く、中性的な魅力を帯びていた。
「お兄ちゃん、私シャワーを……綺麗な体で抱かれたいから。先にベッドへ」
 影奈はこの時既に、奈津芽の仕草や言動が、その存在が妹にしか思えなくなっていた。


 浴室のシャワーの音が消えるのを、影奈はベッドで静かに待っていた。
「お兄ちゃん……明かり、消していい? 私、恥ずかしい……初めてだから」
 まるで、本当のひなたと初夜を迎えるかのような錯覚。
 しかし影奈はうっそりと目を細めて、枕元のスイッチを操作。照明が落ちて闇が満ち、その暗闇になれぬ目を凝らしても何も見えない。
 だが、ゆっくりと人の気配が近付いてくる。
「夢みたいだ……本当にひなたと結ばれる日がくるなんて」
 影奈は、そっと隣に滑り込んできた裸体を、抱き寄せ胸に頭を抱いた。
 まだ微かに、髪が濡れている。そのウェーブのかかった長髪が、ひなたそっくりだ。
「オレ、汚れちまってるけど……でも、ひなたは」
「ううん、お兄ちゃんは綺麗。だって、ずっと私のことだけ想ってくれてるんだもの」
 胸から見上げてくる、奈津芽の瞳から涙が溢れた。その雫をそっと指で拭ってやると、影奈は奈津芽のまなじりにキスして、その肢体を滑り降りた。
 布団をはだけ、奈津芽の全裸を下に、影奈は優美な曲線に舌を走らせた。
「ふあ、んっ……駄目、お兄ちゃん」
「ひなた、何度イッてもいいんだよ。オレの可愛いひなた……オレだけのひなた」
 奈津芽は最初こそ恥らったが、両の膝を撫でてやると、ゆっくりと股を開いた。
 影奈はその脚線美の間に顔を埋めて、薄っすらと茂る湿り気を帯びた湿地帯へキス。
「ひあっ! あ、ああ……ごめんなさい、お兄ちゃん」
 ちろりと陰核に舌で触れた、それだけで奈津芽は達して潮を吹いた。噴出した愛液が影奈の顔を濡らす。しかし、それが呼び水となって、より影奈の興奮を煽った。
「気持ちいいかい、ひなた?」
「う、うん……お兄ちゃんのことも、気持ちよくして、あげたい」
 自然と影奈は、奈津芽と上下を逆に身を沈め、二人は互いの股間へ顔を埋めた状態で重なった。おずおずと自分の屹立を咥えてくる、その稚拙さと初々しさに、影奈自身はいやおうにも固く強張った。
 同時に、幾度となく達しては潮を吹く、塗れそぼるクレパスへの愛撫に熱がこもる。
「ん、ぷはっ、はあ……お兄ちゃんの、おっきい」
「ひなたのもこんなに濡れて。オ、オレ、もう」
「うん……お兄ちゃん、私の初めてになって」
 影奈は身を起こすと、体を入れ替え奈津芽の……否、既にひなたとしか認知できぬ少女の腰を僅かに浮かす。正常位で挿入を試みるべく、影奈が膝を折った。
「ひなた、痛かったら言うんだぞ」
「平気……お兄ちゃんと一つになれるんだもの」
 その狭い肉路は、影奈の形に押し開かれるや、暖かな締め付けで迎えてきた。
 同時に、奈津芽は悲鳴を噛み殺す。破瓜の激痛が今、彼女を女にしていた。
「――っ! お、お兄ちゃんの、おっきいよぉ」
「ひなた……平気か? ひな、うっ!」
 妹を気遣った、その瞬間の噴火だった。影奈は達して、膣内に射精していた。
 放心の影奈はただ、奈津芽の胸へと倒れ込む。
「また、その顔……私、お兄ちゃんのひなただよ? ずっと、ひなたでいますから」
「奈津芽……お前、いいのかよ。こんな初めてで、オレでいいのかよ」
「望みを失った者同士、慰めあってもいいじゃないですか……お兄ちゃん」
「…………そうだな、ひなた」
 しばし奈津芽の顔を覗かせながらも、ひなたになりきり影奈を抱き締める。
 少年とは思えぬ程に、姫士と言う名の獣だったとは思えぬ程に、その身は細い。
「いつでも私は、お兄ちゃんのひなたでいてあげるね……二人の時は、いつも」
「ありがとう、奈津芽。お前がオレのひなたでいてくれるなら――」
 妹との愛に、その狂った幻想に別れを告げられる。
 そう呟いて、影奈は奈津芽の胸で泣いた。
「いつか、お前をひなたじゃなく、お前として愛せたら……」
「ううん、そんな日が来なくても、私がお兄ちゃんを、影奈先輩を慰めます」
「……ごめん。ごめんよ、ひなた」
「謝らないでください。私、好きでしてるんです。……好きになったんです」
 真っ暗なラブホテルの一室に、体温を共有する二人の嗚咽が静かに響き渡った。

 学院のトイレ、その個室はお嬢様学校だけあって、豪奢で荘厳だ。
 華美な一室に後ろ手で鍵をかけて、水原咲良は便座を上げて座る。
「ふう、克くんのバカ……気付かないんだ。裁定者になってることに」
 一人、幼馴染の染井克昭を想う。
 克昭が裁定者として定められたことは、全ての姫士が知るところとなっていた。そして、克昭は無自覚に、その責務を全うしている。即ち、この七姫舞闘祭の行く末を見守りつつ、その次なる舞闘会を占う……予知する。
 本人に無自覚で、それは創作活動という形で現在行われていた。
「結局、巻き込んじゃった……これも、運命なのかな」
 咲良は一人、俯き独り言を零す。
 彼は少女の姿と心を持った少年……姫士の一人。
 同時に、特別な姫士でもあった。特別な想いを、願いと祈りをも秘めている。
「ま、過ぎたことは仕方ないよね。それより今日も――」
 咲良は気を取り直すと、僅かに腰を下ろして下着を降ろす。
 まろび出たペニスは既に、半勃ちにぶるんと身を震わせ、その先端に粘度の高い透明な液体を纏っている。克昭を想う都度、咲良は身も心も炙られ焦がれた。
「この間、気持ちよかった……影の姫士の、影奈さんのお尻。う、ううんっ、駄目っ!」
 ぶんぶんと咲良は頭を振り、先日の舞闘会の余韻を振り払う。
 舞踏会に勝利した姫士は、敗北した姫士を陵辱し、犯す権利を得る。
 この権利に強制力はないが、誰もが好み望んで、敗者を辱め少女へと変える。何故なら、姫士自体が、舞闘会の昂ぶりに性的な興奮を覚えるからだ。互いの望みを賭けた激闘は、強烈に劣情を煽り、いやがおうにも可憐な少年達の雄を刺激する。
 だが、咲良はその勝者の権利を、自らに戒めていた。
 決して誰も犯さない……誰の少年も、奪わない。
 七姫舞闘祭の終焉を願う彼は、その過程において、誰からも少年の肉体を奪おうとはしなかった。敗者を辱めないのは、咲良が、彼だけが代々の由緒正しい姫士だから。
「さて、今日も綺麗にしなくちゃ。……他の人はお尻、どしてるのかな」
 咲良は気を取り直して、スカートのポケットから小さな物体を取り出す。
 薬局等で売っている、市販品のイチジク浣腸だ。
 彼は手際よく、自分の桃尻に手を添え、その中心の窄まりを探り当てる。右手で浣腸をそこへとあてがい、慣れた手つきで挿入し、押しつぶした。
「ふあっ、っ……冷たぁ。ふう。日課とはいえ、辛いんだよね」
 小さな愚痴を零しつつも、気付けば立派に勃起した自分を慰め始める咲良。
 彼は、彼だけは代々、姫士として生まれる宿命を背負った家系であった。
 本来姫士は、七姫舞闘祭に際して、歪んだ愛情と願望を持つものが無作為に選ばれる。勿論誰もが、年頃の少女よりなお少女らしい、可憐で愛らしい美少年達ばかりだ。彼等は選ばれるや、見えない声に告げられるまま、舞闘の場に集い踊るのだ。
 そんな中、母も祖母も姫士だったという、咲良は特異な存在とも言えた。
 代々姫士の家系……つまりは、水原家の女性は常に、舞闘に敗れ犯され、女にされた姫士だったということになる。水原家は武装帯、夜夢雅導を古くより受け継ぐ、いわば名門の姫士の家系だった。
「んっ、あ、はぁぅ……克くんっ。克くん、好き……好き、なのに」
 一人、徐々に高まる腹痛に呼応するかのように、咲良は放課後の自慰に耽っていた。
 彼の強張りは今、血管を浮き立たせて脈動しながら、先走りに濡れている。
 ぎゅるるる……下腹部が不穏な音を立て始めるや、彼は興奮に登り詰めていった。
「あふぅ、くぅん! ……はぁ、はぁ……今日もいっぱい出――あっ、こ、こっちも」
 射精して絶頂に達すると同時に、咲良は体内の排泄物を残さずひりだした。
 こうして直腸を常に清潔に保つのは、水原家の姫士の伝統でもあった。
「……他の人とか、どうしてるのかな。負けたら犯されるのに。あたしは……」
 咲良は勿論、自分の代で全てを終らせようと誓った。
 夜夢雅導を母から受け継ぎ、次代の姫士になった時に決意した。
 全ての姫士を辱めることなく倒し、七姫舞闘祭自体を世の理から抹消する。
「あたしもでも、誰かに女の子にされちゃうのかな? そうなったらでも――」
 しかし同時に、咲良は一つの淡い夢をも抱いていた。
 もしも自分が負けて陵辱され、一人の少女になったら……克昭と結ばれたい、と。


 珍しい取り合わせの三人が、放課後の夕日差し込む教室に残っていた。
「じゃあ何か? 咲良の奴はいっつも、腹ん中綺麗にしてるのか」
「家のしきたりだそうです、お兄ちゃ――影奈先輩」
 鷺澤奈津芽の声に、有栖影奈は怪訝な表情で頷いた。
 既に敗者となった元姫士の二人は、ここ最近は互いに惹かれるように、親しげに学院で会うようになっていた。それはどこか、慰めあうようですらある。
 そんな二人に興味もなく、馴れ合うつもりはない。
 ――それでも、珠坂咲音は自然と、二人と一緒の時間が増えている。
 今も彼等を待たせている、咲良の人柄が、多くの人間を結び、縁を生んでいた。
「オレか? オレは別に……最初から負ける気、なかったからなあ」
「私も……そこまで考えてなかったから。珠坂さんは?」
 不意に奈津芽に水を向けられ、咲音はむっつり黙っていた口を開いた。
「わ、私は、別に……そ、その、文緒が」
 好きな人の名を呟き、頬が火照るのを感じる。
 咲音もまた二人同様、敗者になることを考え、直腸を洗浄しておくという考えはない。
 決して驕りからではない……咲音の場合は単に、恋人の趣味も関係していた。
「そういやお前、やっぱ文緒と付き合ってんのか」
 からかうような口調で、快活に影奈が腕組みニシシと笑う。
 どこか影のあった転校生の先輩は、ここ最近は険が取れたように穏やかだった。
 その隣にいつも、奈津芽が寄り添っているから。
「珠坂さんは有名だもんね、学院でも」
「おう。先ずはこいつと三年の四条文緒だろ? あと……忘れもしねぇ、オレを汚した」
「三年の、西園寺いぶみ先輩。最強の、銀の姫士」
「ああ。学院の四大アイドルと言えば、もう一人――」
 その時、不意に教室内へと踏み込んでくる足音があった。
 突然の来訪者は、堂々と一年蓮組の教室に来るなり……何もない場所で、派手に転倒。
「いったぁ~い!」
「……思い出した、こいつだ。二年の八幡いぶき。……何でこんな奴が、なあ」
「さ、さあ……でも影奈先輩。八幡先輩はみんなに人気なんですよ?」
 何もない所で転ぶ才能の持ち主、八幡いぶきは、尻を摩りながら立ち上がった。
 その顔は今緩められて、解けたような笑みを浮かべている。ほんわりとした美少女に見えるが、彼もまた立派な金の姫士だった。
「エヘ、また転んじゃった。ええと、皆さんとわたしは、初めてお会いしますよね」
 あどけない笑顔のいぶきに対して、三者は三様に身を固くする。
 今、この場で一番緊張しているのは、他ならない咲音自身だった。
 既に敗退した二人と違い、未だ緋の姫士である彼にとって、いぶきは……敵の一人。
「あっ、そう構えないでください。わたし、今日は踊りに来た訳じゃないんです」
 咲音の尖るような気配を察してか、より一層大輪の笑顔を咲かせるいぶき。
「ええと、珠坂さん。あなたは、四条先輩の恋人なんですよねっ?」
 無言で首肯する咲音に、改めて影奈と奈津芽が小さな驚きの声をあげる。
 しかし、いぶきは意味深な笑みを浮かべたまま、口元をムフフと緩めていた。
「……それが、何か?」
「だからこう、きっと珠坂さんの望みは、それに関係してるのかなー、って思って」
 いぶきはただ、斜陽の光に長い影を引き出しながら、独特のゆったりした口調で喋る。
 影奈と奈津芽はただ、互いに黙ってことの成り行きを見守った。
「私は望みを叶える為に、八幡先輩、貴女を倒します。……きっと、あの娘も」
 咲音の脳裏を、いつも優しさで満たされた蒼い影が過ぎる。
 だが、その幻影をあえて振り払うように、彼は毅然と虚空から緋色の武装帯を取り出す。まるで血の色のようなリボンは、ふわりと空気を静かに震わせ漂い、白い指に絡まる。
「あっ、待ってください。さっきも言いましたけど、わたし踊りにきたんじゃ――」
「こっちの二人は元姫士……見られていても招待は可能よ」
「んー、待って、待ってね珠坂さん。わたし、今日はお話聞いて欲しくて」
 いぶきは金色の武装帯を出すことなく、ただ後に手を組んで一言、
「珠坂さん、いぶみ先輩と一緒に、わたしの下につく気はないですか?」
 唐突で突飛な一言に、場の空気は凍りついた。


 重苦しい沈黙を破ったのは、身を折り曲げて笑う影奈の声だった。
「こいつは傑作だ、姫士同士でつるんでどうするつもりだよ!」
「わたしの望みを叶える為です。……どうですか? 珠坂さん」
 あくまでいぶきの声は平静で、楽しげに弾んですらいる。
 それを遮り、傍らの奈津芽が止めるのも聞かず、影奈が吼えた。
「どういうカラクリかは知らねぇが、銀の姫士をけしかけたのも手前ぇか!」
「あっ、いぶみ先輩はああいう人なんです。踊るの、大好きなんですよね」
 ただ舞闘の歓喜と熱狂に、踊り続けること……それだけが、最強の銀の姫士の望み。
 では、それを手駒とする金の姫士の望みとは?
 その答は、おしげもなくあっけなく、微笑みと共に語られた。
「わたし、この七姫舞闘祭の謎が知りたいんです。……そして、ずっと続けたい、かな」
「……なっ! 何言ってやがるっ! そんな、何が面白くてそんな――」
「影奈先輩っ、駄目です。……この人、強い。姫士じゃなくなった今も感じます」
 奈津芽に引き止められて、食って掛かろうとした影奈が食い下がる。
 そんな二人を一瞥して溜息を零すと、再度いぶきは咲音に向き直った。
「負け犬には用はないです。ね、珠坂さん。わたしのお話、考えて貰えますか?」
 不用意なテンションが積み上げられて、場の空気が沸騰する。
 もはやただの美少年でしかない影奈が、怒気を荒げて端正な顔を歪めた。
 その隣では、今にも泣き出しそうな表情で、奈津芽が心配そうに腕に抱きついている。
「わたし、知りたいんです。いまだ謎の七人目……虹彩の姫士のことを」
「!? そ、それは……私だって。でも、私には私の望みが。それに、あの娘は――」
「駄目だよっ、咲音ちゃんっ! 駄目、絶対っ!」
 不意に声が割り込んできた。
 咲良だ。
 彼は今、教室の入口で、振り向くいぶきを真っ直ぐ見詰めて、揺るがぬ歩調を踏みしめ進んだ。そうして、人形然とした金の姫士に、真っ向から言葉を紡ぐ。
「先輩、お話少し聞こえてました。七姫舞闘祭は……あたしが消してみせますっ!」
「あらあら~、それは困るわ。こんなに楽しいお祭なのに」
「もう誰も泣かせない……母の、祖母の、血筋の誇りに賭けて! あたし、踊ります」
 決意の宣言にしかし、微塵も動揺を見せず、寧ろ好奇の目を輝かせるいぶき。
「そう、それも不思議なのよね……知りたいわ、水原さん。あなたの血筋、血統が」
「あたしだって解らない……どうしてあたしだけが、代々の姫士なのか。でもっ!」
「きっとそこに、七姫舞闘祭を楽しく存続させる、秘密があるのかもしれないわよね~」
 うっそりと笑みを浮かべるいぶきは、恍惚にも似た表情で目を細める。
 対する咲良は、毅然といぶきの視線を跳ね返した。
「おう咲良、まだ残ってたのか……って、今日はまた賑やかだなあ、おい」
 克昭が現れたのは、そんな緊張が臨界点に達しかけた時だった。
「まあ、お返事は急ぎませんわ。じゃあ、わたしは今日はこれで。先生、さようならっ!」
「お、おう……気をつけて帰れよー! ……ええと、誰だ? 有名な生徒だよな、あれ」
 いぶきはスカートを翻して、あくまでもマイペースで話を畳むと、行ってしまった。
 後に残されたのは、状況を全く把握できていない克昭。
 そして、四人の生徒だけだった。
「克くん……」
「こら、学院じゃ先生って呼べって。……どうした、何かあったか?」
「……ううん、何でもない」
 繰り返し、何でもないと零しつつ……咲良は克昭のシャツの袖をつまんだ。
 そうして僅かに、前髪が触れるか触れないかの距離で寄り添う。
 他の三人の目を気にしつつ、克昭は何も言わなかった。
「まあいい、オレ等は既に部外者も同然だしな。……負けんなよ、咲良」
「咲良さん、また明日。いっ、一緒に帰ろう、珠坂さん」
 影奈に連れられる奈津芽が、咲音を誘ってくれる。
 咲音は繰り返し、自分になれあう気持ちはないと繰り返しながらも、
「……ん、じゃあ、途中まで。……水原さん。決着はいずれ……いずれ、私達だけで」
「咲音ちゃん。うん、いつか。いつか、きっとね……でも、その時は……」
 言葉の続きを飲み込む咲良をあとに、咲音は教室を後にした。

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最終更新:2013年04月27日 22:46