花火と浴衣と彼女のお願い


今日は彼女と花火大会へ。
浴衣姿の彼女はとっても可愛く素敵だった。
綺麗な花火に気分も盛り上がり、俺は彼女と繁華街のホテルへと。
そうして男女の営みを交わしたまでは良かったのだが…。

「ちょっと待て、何でお前俺の服着てるんだ?」
「うん、これはある問題を解決するためなの」
「問題?」
「ちょっと着付けの事でね」
「なんだよお前、浴衣の着付け出来るって言ってたじゃないか」
「出来るわよ」
「じゃあ何が問題なんだよ」
「それがね私、人の着付けは出来るけど自分のは出来なくてね」
「いや、人の出来るなら自分の出来るだろ普通」
「出来ないものは仕方が無いじゃない」
「あのなぁ、じゃあどうするんだよ」
「だからあなたの服を借りたのよ」
「そうしたら俺が着るものが無いだろ、俺はどうする?」
「だから、人の着付けは出来るって言ったじゃない」
「おま、まさか」
「あなたがこの浴衣を着ればいいのよ」
「冗談言うな」
「本気よ。この浴衣、可愛くて素敵だって言ってたじゃない」
「それはお前が着てるからであって、俺が着てもキモイだけだ」
「そんな事ないと思うわ。きっと似合うわ」
「俺は着ないぞ。良いから服返せ」
「何?あなたは私に乱れた姿で帰れと言うの?」
「いや、それは」
「ね、お願い。私の為に着てくれない?」

上目使いのでのお願いポーズ。
彼女のこれに俺は弱い。
これで今までに何度も言う事を聞いてしまっている。


「う、解った」
「本当?ありがとう!」

俺の返事に嬉しそうに浴衣の準備を始める彼女。

「はい、まずはこれ」
「まずはって、ショーツまで履く事ないだろ」
「だってこれ、浴衣でもラインが出ないように選んだものだから、これも穿いてもらわないと」
「どうしても穿かないとダメか?」
「別に着物だから穿かなくても良いけど、もっと恥ずかしいと思うわよ」
「うぐ、…穿きます」

渡されたショーツに足を通す。
ピッタリと肌に吸いつく様な薄い生地に変な気分だ。
その際に彼女のショーツを穿いて俺のムスコが少し元気になったのは秘密だ。

「次は肌襦袢と裾よけね」

言うと彼女は着物の時の下着を俺に着せて言った。
ベッドインする時にも思ったが、光沢のある白いすべすべの生地は絹なのだろうか、見た目も魅力的で手触りも良かったが、こうして着て見ると肌触りも良い。

「そしてメインの浴衣だよ」

白を基調としたピンクの大花ばら柄は今年の流行らしく彼女にはとても似合っていた。
彼女にされるまま、涼しげで可愛らしさを想わせるその浴衣に袖を通しはおる。


「じゃあ、両手を開いてあげてくれる?」

言われた通りにすると、彼女は袖の両端を持って軽く引き、浴衣がキチンと左右対称に着れているか確認する。
そして今度は着丈を合わせる為に衿先から15cmくらいの所を持ち体に添わせながらくるぶしに掛かる位で合わせた。

「丈はこんなものね」

着丈が決まると前の合わせをしっかりと衿先が右腰までくるように合わせ、それから下前と入れ替える。
緩みのないようにしっかりと体に巻きつけられたので自然と背筋が伸びた。
位置が決まった所でウエストより少し下がった腰骨のところに紐を締められた。
和服は苦しいイメージがあるのだが、腰パンの様な位置なので苦しくはない。

「ちょっと手を入れるね」

今度は懐に手を入れて、紐の上に重なる様に浴衣の上部を引き首の後ろの衿にも隙間を作った。
いわゆるおはしょりと言うものだろう。
浴衣として大分形が整ってきた感じがする。

「また両手を上げてもらって良い?」

言葉に従いまた両手を開くと彼女は手に持った紐を今度は胸の位置にかけた。
前から衿をおさえるようにかけて後ろに回して交差し、また前に回してきて結ぶと、背中の皺をわきの下から両側に均等に引いて始末する。
胸に紐が通るとますますもって背筋が引き締まった。

「あとはだて締めと帯び板ね」

彼女は紐の上に帯の下に着けるらしい薄い帯を締めると、その上にメッシュの板状になってバンドが付いている物を装着した。


「さ、仕上げは帯ね」

いよいよ最後の仕上げの帯を巻くのに、赤と黄色のリバーシブルな帯を俺の右肩にかけると、長い方をぐるぐると胴にふた巻きし、折り幅を細くすると前で結んだ。
この時点で結構胸が圧迫する、男の俺は平気だが胸のある彼女なんかは苦しいのじゃなかろうか?

そんな事を思っていると、彼女は帯の長い方を蛇腹に折ると、その反対の方の中心をつまんで細くして、幅を半分に折った手先で上からくるみ、裏を通して二回ほどまいた。
余った部分は上からまいた帯と帯板の間を通して下まで引き下ろし、まいた帯の間に挟み込んむ。
そして形を整えると見事な蝶が出来上がった。
それをくるっと背中にまわし、最後にその上から飾り紐のを結ぶと立派な浴衣姿が完成した。

人の着付けは出来ると言うだけあってなかなかの手際だ。
これで自分自身は着付け出来ないと言うのも不思議な話だ。

「本当にお前の浴衣着ちゃったよ」
「うん、似合ってる」
「嬉しくないけどな」
「でも、もうワンポイント足りないわね」
「なにが?」


俺がきょとんとしていると彼女は俺の頭にパチンとなにやら付けた様だ。
何かと思って鏡を見て見るとそれは髪のボリュームを出す為のエクステだ。
エクステを付けただけで俺は随分女っぽく見えてしまっていた。

「あとこれも」

おまけとばかりにピンクの薔薇の髪飾りまで付けられる。
完全にホテルに入る前の彼女の格好と一緒だ。

「良いわね」
「あのな、ここまでしなくても良いだろ」
「いや、せっかくだからもっと完璧にしない?」
「これ以上何を」

嫌な予感がする。

「やっぱりさ、メイクは必要だと思うのよ」
「げっ」
「ね、お願い」

う、またそのお願いポーズか、そう何度も俺が折れると…。

「解ったよ、好きにやってくれ」
「やった~」

折れました。


で、結局俺はメイクまで完璧にされ、
慣れない女物の下駄でおぼつかない足取りのまま彼女にエスコートされると言う服装も男女逆転な夜の散歩をするハメになったと言う訳だ。

そしてこれは余談だが、翌年のお正月に着物姿の彼女とホテルに入りまた同じ目に会うと言うのは俺が間抜けだからなんだろうな。

一つ言える事、それは和装には気を付けた方が良いと言う事だ。


~おわり~

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最終更新:2013年04月27日 23:30