昼と夜のあいだに
夕方のラッシュが過ぎて、まだ少し混雑の残る電車の中
残業にくたびれたキャリアウーマンと、部活上がりの女子高生
これから夜の街へ出勤する夜の蝶たち
そんな女性専用車両の隅っこに僕はいる
多くの女性は無関心で、怪訝な目で見るオバサンが少し
前に抱えた大きなリュックの中から、僕はおもむろに化粧ポーチを取り出した
この段階では誰もこれを化粧ポーチだとは気付いていない
眼鏡をポーチにしまって、代わりにファンデを取り出す
チューブに入ったリキッドファンデーション
男の僕が持つのだから、ニキビ対策の医薬品にしか見えないだろう
指先に少量取って、肌を持ち上げるように塗っていく
下地はすでに作ってきている
そこにファンデがのって、徐々に肌の凸凹が消え、落ち着いた艶をもつようになる
どうやら隣に座るOLはこれがニキビ薬ではないことに気付いたようだ
チラチラと視線を感じる
隠し事が露呈した瞬間だ
視線を感じるたびに胸の鼓動が高鳴ったが、僕は気付かないふりをして化粧を続けた
チークを入れ、ベースメイクが終わるころには向かいの席の女子高生を気付いていた
死にたいほど恥ずかしいはずなのに、僕の手は慣れた手さばきでテキパキを化粧を続ける
眉を描いて、アイラインを引き、少しラメの入ったシャドウを入れる
盛り盛りの付けまつ毛と、控え目にリップを仕上げたら顔が完成
乗車口を挟んだ斜め向かいには、同じように車内で化粧をする水商売らしき女性もいた
自分のほうが丁寧だとちょっと調子に乗ってみる
次は髪だ
後ろで少しだけ束ねていた髪をほどくと肩くらいの長さになる
もともとの猫っ毛もあって、泡の整髪料でくしゅっとすると簡単エアリーボブの出来上がり
これで首から上は完成した
このあたりで周りの様子がどよめきに変わる
「えっ、マジやばくない?!」
「ありえないんだけど!!」
向かいの女子高生はひそひそ話から会話の内容が聞き取れるボリュームになった
化粧をしていた女性は僕の髪質に嫉妬しているのが顔に出ている
隣のOLは集中する視線を避けるようにじりじりと僕との距離をとる
これが中年女装変態オヤジだったらそうはいかないだろう
完全にその筋の人と思われなければ、たちまち締め出される
このときばかりは女顔に生んでくれた両親に感謝を覚える
一般女性ならここでメイクは終了
いや、髪まで車内でやる人は中々いないか
ともかくここで完成しているはず
でも僕はまだ終われない
最後に『服装』が残っている
リュックを足元に置くと、首まで上げたチャックをゆっくりと下す
中からは、ややゴスっ気のある、ふりふりな服が現れた
ノースリーブで、背中も胸元も大きく開いた、肌の露出の多い服
女子高生の言葉が小さな悲鳴に変わった
「~~次は~~、南神台~~、南神台~~、お出口は~~」
車内アナウンスを合図に僕は立ち上がると、リュックへ手を伸ばす
最後の仕上げに取り出したのは、服と色彩を合わせたふわふわの布
それにスッと足を通して腰で止めるとスカートの出来上がり
もう皆あっけに取られている
瞬く間にかわいい女の子が出来上がったのだから
でも、これではまだ未完成
電車が止まって、ドアの開く直前
僕はミニスカートの上からベルトの金具を緩める
そして素早くズボンとパンツを同時に下ろして、スニーカーごと脱ぐとリュックへと詰め込む
一瞬車内が悲鳴とどよめきに包まれたが、あらかじめ出しておいたサンダルに履き替えると
私はもう電車から飛び出していた
外で順番待ちをしていた人たちの視線が痛い
車内のように奇異なものを見る目ではない
かわいくて、露出過多な女の子へと奪われた視線
私が奪った視線
私は改札への階段を駆けるように降りる
フリフリの揺れるスカートが
ノースリーブからのぞく二の腕が
ふんわりエアリーボブが
揺れる胸(パッド)が
ミニスカートから伸びる足が
次々と視線を集めていく
私を私にしてくれる
改札を抜けて、駅の南口から外へ出ると
私は足を緩めて呼吸を整えながらゆっくり歩いた
夜のにぎわいを目前に迎え、ざわつく駅前広場
昼間よりちょっと大胆なカップルや、飲み会へと向かうサラリーマン集団
そんな広場の中央で僕が言った
「でもまだ未完成」
僕はポケットから黒いパンティを取り出した
私はそれを受け取ると、サンダルから足を離して、ゆっくりと、確実に、つま先を通していく
その様子に目をつぶっていても周囲の視線が集まっていくのがわかる
腰をくねらせながらパンティを上げていき、ちょっとお尻をサービスして後ろを上げる
大量の視線が私を犯し、私もまた感じている
ミニスカートの中でアソコはやけに雄々しく大きくなっていた
パンティを伸ばしてかぶせようとすると、お尻にキュッと食い込みアナルを刺激する
「でも、ここも大事な部分なの、しっかりしまってあげないと、ね」
小さめサイズのパンティをいっぱいに伸ばして、ようやく届いた先端にパチンとゴムがかかる
「ひうっッッ!!!?」
半分露出した亀頭にレースの素材がこすれ、快感が一気に爆発する
「あ……、あはぁ……a&」
黒いパンティを白く汚し、立ったまま果てた
その汚れをふき取ることもなく
ガクガク震える膝に、恍惚とした表情で立ち尽くす
これでやっと『完成』
男の子が嫌なわけでも、女の子になりたいわけでもない
どっちも僕で
どっちも私
でも「どっちか」じゃあない
昼と夜の境目のようにあいまいな、私と僕がないまぜになる瞬間
僕は
私は
オトコノコ
最終更新:2013年04月28日 00:20