「とってもお綺麗ですよ」
長い拷問のような時間が終わって鏡を見る。
そこにいるのは鮮やかなピンクの振袖を着た美少女。それが自分だという事実が、今更ながら死にたいような気分になる。
「綺麗」という言葉を素直に喜んでいる自分もいて、なんだか凄く自己嫌悪。
本来なら、今年の成人式はスーツ姿で出るはずだった。
自分のスーツ姿……想像しようとしてみて、最初に浮かんだのがタイトスカートの女子姿。「私も結構悪くないかな」と一瞬考えてしまったことに、頭を抱えてしゃがみこんでしまいそうになる。
女装で生活し始めて3ヶ月目でこれだ。僕は本当に普通の男に「戻る」ことが可能なんだろうか?
「おお、これは我が愛しの婚約者殿」
諸悪の根源が扉を開いて登場。視線で人が殺せたらいいのに、と思いつつ精一杯の不快感を込めてにらみつける。
「凄い綺麗になったな。私も鼻が高いよ」
視線を馬耳東風と受け流し、顎を指でつまんで突然口付けしてくる。
生理的嫌悪感から逃れようと精一杯力を込めるものの、いつの間にか回された手がそれを許してくれない。
嫌で嫌でたまらないのに、気持ち悪くてたまらないのに、段々と身体から力が抜けていく。
何故かむくむくと頭をもたげ始めた僕の股間のものが、(下着をつけてないので)木綿の肌襦袢に直接すられてなんだかとても変な気分になる。
最終更新:2013年04月28日 00:40