病室の彼女

俺の親友──松崎 智也(ともや)──智也が事故に遭ったと聞いて、俺は急いで病院へ駆けつけた

「よう、智也、元気か?」

 夕方、智也は近所のスーパーへ買い出しに行っていたらしい、その時急に歩道に突っ込んできた車があった。
智也を狙ったのか、他の車を避けようとして、車道側へ寄ったのかは知らない。
 だが、警察は運転手からアルコールが検出された事から、よっぱらい運転が招いた事故として取り扱っているらしい。
幸い、智也は生きていた。足や腕は折れている物の、なんとか、生きてくれて居た。
 だが、彼の開口一番で、俺はひどく傷ついた。まるで、死刑宣告を目の前でされた気分だった。

「お兄さん、誰ですか?」

「え?……と、智也?俺の事、覚えてるよな?」

智也は、申し訳なさそうに首を横に振った。
それが俺には痛く、耐えられなかった。

「お、俺だよ、真司(しんじ)。加藤真司。ほら、ちっさい頃からよく遊んだだろ?」

「加藤…真司…?」

「そ、そう!加藤真司!お前と同じ歳の幼馴染、お前と同じ高校1年生の加藤真治!」

「あ、真司じゃなくてさ!いつもみたいに真ちゃんって呼んでくれよ、そっちの方が俺はさ」

「すいません……。そんな名前の人、知らないです……。」

「第一、僕達が顔を合わせる事自体今回が初めてですし……。」

 この時、俺の世界は真っ白に染まった。今まで積み上げてきた、友情、信頼、努力。
全てがぶち壊された。
 この時は、智也は記憶喪失で、智也に関わった全員を忘れたのだと思った。いや、そう思いたかった。
 だが、智也の両親はこう言ったのだ。「そんなはずはない。確かに頭には打撃はあったが、何も異常はないと医師に言われた。」と。
確かに智也の両親が言った事は本当だった。俺の他に智也のクラスのクラスメートがお見舞いに来た時は、まったく問題なかった。
他愛ないクラスの現状を話あったり、テレビの話を言い合ったり、その時の智也は、事故の前の智也だった……。
 ただ、俺一人の記憶がすっぽり智也から抜けたのだ……。それが、俺にはとても耐えられなかった。
 そして、意識がある時はずっと智也の事だけを考えていた。今日はどうやって思い出して貰おうとか
何か、智也が俺を思い出してくれるくらいの智也と俺の思い出は無かったか、とか。
 だが、どれも無駄だった、結局何も通用しなかった。何も
──だから、俺は──智也と新しい関係を築く事にした──



「あ、真司くん、いらっしゃい!」


智也は笑顔で俺を迎えた。だが、智也が迎えるのは、「真ちゃん」としての昔の俺じゃない。
「真司くん」、つまり、今の俺だ。
コイツにとって俺は彼氏、そして智也は俺の、義理の「彼女」という事になっている。
もちろん、智也は男だ。中学の頃はサッカー部のエースだったくらいに運動ができた。
 だが、智也は童顔で、優しくて、肌は白くて……まるで、女の子の様なのだ。
証拠に、俺の目には、今、智也はショートヘアーの女の子に見える。俺に優しく微笑んでくれる女の子。

「おう、智美(ともみ)、リハビリはどうなんだ?順調か?」

「うん、大分うまくいってるよ、最近ではね、ぼく、自分で着替えができるようになったんだ」

──智美。智也と俺で二人だけの時に名乗らせてる名前だ。
設定としては、智也は本当は女の子で、智美という名前を持っていた。
 だけど事故の影響で彼女は記憶喪失になり、智也として記憶をすり替えられ、恋人である俺の記憶をなくした。
という感じである。我ながら、痛々しいのは分かってる。これが自分の傷口を広げる行動だと言う事も分かってる。

でも、俺は………。

「そうか、智美。これさ、入院お見舞い、はい。」

「え?真司くんがぼくに?ははっ、なんだか珍しいね。」

「あぁ、ちょっと見てみてくれ。」

元の智也なら、恐らく、俺は変態と罵られ、縁を切られていただろう、それほどにひどい物を俺はお見舞いの品に選んだ。

「うわぁ!綺麗なワンピース!これ、僕にくれるの!?」

俺が見舞いに選んだのは、白のワンピース。智也の綺麗な肌に合う、白色だ。

「なぁ、智美。このワンピース、ここで着てみないか?」

「い、今ここで……?ちょっと恥ずかしいかな……。」

「ぼく、下着とか男物のだし……。真司くん、ぼくの事嫌いになっちゃうよ……。」

「ははっ、そんな事心配してたのかよ。」

「そ、そんな事ってなんだよ!ぼ…ぼくにとっては大事な事なの……。」

「大丈夫、ちゃんと女性用の下着も入れておいた。ほら、見てみろよ」

「あ……本当だ!真司くん、ありがとう!」

「ははっ、気にすんなよ。」

「それより、着て、見せてくれないか?お前のワンピース姿」

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最終更新:2013年08月28日 22:22