お嬢様といっしょ


 森の奥の大きな館。
 夜になれば通いの使用人も居ないので、中には旦那様とお嬢様、そして庭師である父と、
その子のわたしだけになります。
 明かりのない長い廊下は昼間でも怖いわと侍女が震えていましたが、こちらに長く仕え
るわたしは迷うことなく進みます。
 膝より長いメイド服の黒いスカートも、慣れてしまえば邪魔にはなりません。むしろわ
たしにとっては…とても助かることがあります。
 薔薇の装飾が施された扉をノックすれば、鈴の転がるような声が…今夜は返ってきませ
ん。
「お嬢様、失礼しますよ」
 部屋に入れば、なぜか慌てた様子でわたしの主が駆け寄ってこられました。
 陶磁器人形のような白くなめらかな肌に腰までの長い銀色の御髪がフワフワとなびかせ
た、それはそれは美しい妖精さんです。
「ち、違うのよっ!眠っていたのではなくて、あなたがあまりにも遅いから、意地悪で黙
ってただけなのよっ!」
 菫色の瞳が眠たげなので、お可愛らしい嘘はすぐに分かりました。
「まあ、お嬢様ったら」
 小柄なお嬢様を苦もなく受け止め、わたしは思わず噴き出してしまいます。
「それでは今夜は、お一人でお休みになりますか?」
「…もう!あなたなんか嫌いよ!……嘘、好きだからまた、お話の続きを聞かせてね」
 くるくると表情を変えると、お嬢様は化粧台の前にちょこんとかけられました。
 御髪を梳く間、鏡の中でお嬢様が私と目を合わせます。
「お父上のお加減はどう?」
「おかげさまで、今年もお嬢様のお好きなピンクの薔薇をたくさん咲かせるのだと今から
張り切っておりますよ…旦那様が良いお医者様を呼んでくださいましたから」
 後半の方便がバレてしまわないよう、わたしは急いでリボンを結び「できましたよ」と
促します。父は先日仕事中に足を滑らせて骨を折ったのですが、もうすっかり部屋の中を
歩き回れるようになっているのです。


「まあ、嬉しいわ!……でも、どうか無理はしないよう、ちゃんとあなたが見てさしあげ
てね」
 このお優しい言葉を父が直接聞いたならば、それこそ心臓が止まってしまうほどに感激
することでしょう。
 ベッドに横になったお嬢様に毛布をかけ、わたしは椅子に腰かけます。
 お聞かせするのは、父から聞いたわたしの故国のおとぎ話です。
 お嬢様は、王子様がお姫様を助ける話よりも果敢なお姫様の冒険譚の方がお好きなよう
で、今宵も海賊と戦いを繰り広げるシーンでは、時折菫色の瞳を金色にひらめかせながら
聞き入ってくださいました。
 わたしが「今日はここまで」と締めくくっても、しばらくうっとりと目を閉じていたお
嬢様は、そのお美しさとあいまってそれこそお人形のようです。
 わたしが黙っていると、ほうと薄紅の唇から甘い溜め息がこぼれました。
「…あなたにこうして素敵なお話をしてもらえるなんて、あたしはとても幸せだわ」
「いいえお嬢様。わたしも父も、あなたやあなたのお父様から余りあるほどの恩恵にあず
かってますわ…こんな、物語ではお返しできないほどに」
 戦乱で妻を失い、まだ幼子だったわたしを連れ逃げ出した船が難破し、見知らぬ大陸に
ほうほうの体でさまよっていた父を森で救ってくださったのが、今の旦那様です。
 旦那様は父に、この館に生涯尽くすことを条件に温かい食事と部屋を与えてくださいま
した。
 それも、わたしがこうしてお優しい方にお仕えすることまで!
「もう、あなたはいつもそればっかり!眠くなってしまうわ……ねえ、頭を撫でて」
「はい、お嬢様」
 仰せのままに、ゆるくウェーブした美しい御髪にそっと手のひらを当てます。わたしの
父ももう頭に白いものが多くなってきていますが、この艶としなやかさは生まれながらの
銀髪である証です。
 そして、少し眠たそうだけれど甘えるようにわたしを映してくださる菫色の双眸。わた
しは物心ついてから、お嬢様と旦那様以外にこのような瞳を見たことがありません。


 いつもならじきにお休みになるのですが、お嬢様は少し頬を染めて小さくささやかれま
した。
「……ねえ、あなたもベッドに入ってくれる?」
 わたしの方が二つ年上で背も高いとは言え、十四になるレディーらしからぬ発言とその
内容にわたしは面食らいました。
「その…お嬢様?」
「着替えなくて良いわ。お昼寝の時間メイドがしてくれたみたいに、腕枕をして欲しいの」
 いよいよわたしは困ってしまいます。そんな、大きいとはいえお嬢様のお休みになるベ
ッドで、あまつさえそんなことをするだなんて…
「………」
「あたしが大きくなったら、あたしがあなたのお母上になるわ。だから今は、あなたに私
のお母様になって欲しいの」
 切ないおねだりに、使用人であるわたしは従うしかありません。わたしが黙ってレース
の付いた制帽を外すのを、お嬢様はニコニコとしてご覧になってます。
 フリルのついたエプロンを脱ぎ、紺のメイド服の裾を申し訳程度に払います。万が一を
考えて、白いスタンドカラーのブラウスはそのままです。
「ありがとう!ねえ、早く!」
「もう…少しだけですよ」
 嬉しそうにお嬢様が引き上げた毛布の隙間に入れば、待っていたかのようにお寝間着に
包まれた身体が飛びついてきます。覚られない程度に腰を引きながらおそるおそる細い首
と羽根枕の間に片腕を差し込み、お嬢様のおっしゃるとおりにしました。
「ああ…あなたの手って、なんてこんなに大きくて温かいのかしら!」
 うっとりとわたしの肩へ顔をすり寄せてくださりますが、密着したお嬢様のお胸とかけ
られた言葉に、わたしはドキンとしてしまいます。
「…他の方と違って、寝心地がよろしくないでしょうに」
「いいの。あたしはあなたの腕が好きよ」
 ああ、お嬢様の甘いミルクのような匂いが、わたしの顔に、首筋にかかっています。く
らくらしながらその美貌から目を逸らせば、白いネグリジェの襟ぐりから覗く、膨らみ始
めのお胸がわたしのそこに当たってたわんでいるのが視界に入ってしまい、いよいよどこ
を見ればよいのかと困ってしまいました。


「あなたの髪って、とても好きよ」
 不意に顔を寄せられ額にキスされます。肩口で切り揃えたわたしの髪はさえない赤茶で
、夜目にもまばゆい銀髪のお嬢様に褒められるほどのものではありません。
「お日様の匂いがするわ。それからとても…美味しそうな匂い」
 それでもこうして冗談めかしてほほ笑まれるのも、この髪型を褒めてくださるのも、お
嬢様であり旦那様なのです。
 幸せに我を忘れて、ベッドの中のお嬢様を抱き寄せそうになりましたが、わたしはぐっ
と堪えて、お嬢様の頭を預かっていない方の手でそっとお手を取ります。その間もスカー
トの中では太腿をぴったりと合わせて、お寝間着越しのお嬢様のおみ足がわたしの足の付
け根に当たってしまわないよう神経を集中させています。
 この甘い拷問はどのくらい続いたのでしょうか?わたしの顔にキスの雨を降らせてくだ
さったお嬢様が、ふとあくびをされました。
 ちっちゃなピンク色の舌と…真珠でできているかのような、お可愛らしい牙を覗かせて
から、吐息混じりにお嬢様は呟かれます。
「ああ……ねえ、あたしが大きくなっても、こうして一緒に寝てくれるかしら?…」
 ほとんど夢うつつといったご様子ですが、わたしは力強くうなずきました。とろんとし
た瞳が、ちらちらと燐のような光を放っているのを、わたしの両目はしっかりと捉えてい
ます。
「もちろんですわ、お嬢様」
 「お気に召すままに」とささやけば、愛らしいお顔で満足げにほほ笑まれました。
「約束よ……」
 慣れない夜更かしもここまでが限界だったのか、天使のような笑顔のままお嬢様は眠り
に就かれたようです。
「おやすみなさいませ、お嬢様」
 わたしはお嬢様を起こさぬよう、そうろりと腕を抜きベッドから下りました。
 お嬢様の肩に毛布を掛けてさしあげてから、腿の半ばまで捲れ上がってしまったスカー
トを直します。
 手早くエプロンを付け、腰で蝶結びに。制帽をかぶれば、この部屋に入った時と見た目
だけは変わりません。


 明かりを消し、音をたてないように部屋を出て扉を閉めます。そして、
 一目散に駆けだしました。
 はぁ…はぁ、はあ……っ!
 飛び込むのはわたしにあてがわれた侍女の控え室。当然誰もいないそこには、お嬢様の
部屋にお邪魔する前に用意しておいた、水を張った木桶があります。
 ああ、やっぱり良かったと内心ホッとしつつ、わたしの両手は紺色のメイド服の裾を掴
みました。
 はしたなくスカートを引き上げ、白い下着を下ろせば…ああ、わたしの、恥ずかしいと
ころがすっかり上を向いています。たっぷりとしたドレープを描く布の上からでは、よほ
ど注意しなくては分からなかったでしょう。
「……ふ、ぅ…っ」
 下着を抜いて裾を咥え、もつれる指を叱りながらエプロンを剥ぎ椅子にかけます。スタ
ンドカラーのブラウスの釦を全て外せば、緩んでしまった肌着の隙間から柔らかい布切れ
がこぼれ出てしまいました。
 お嬢様のお胸を受け止めていたそこがなくなれば…ピンと硬くなった胸先以外には何の
出っ張りもない身体が覗きます。
 平らな胸と淫らな男根を持つわたしは、本来ならばこのような格好でお嬢様のおそば近
くにお仕えするなんて、あってはならないのです。
 これもすべて旦那様のお取り計らい…わたしを信頼してくださって、大切なお嬢様を預
けてくださっているのです。万が一にも、間違いがあってはいけません。
 ですから先程のようなことがあっても、わたしはなんてことない顔をして、お嬢様がお
休みになるまで腕の中のたおやかな身体に、柔らかな肌に耐えねばなりません。
 湯殿で洗わせていただいたお嬢様の、御髪と同じ銀色の淡い茂みを思い、黒々としたそ
こから起き上がったわたしの…その、男根はピクンと透明な露をにじませます。
 あまり遅くなっては、この後に差し障ります。黒い革靴とレース編みの白靴下を脱ぎ捨
て、わたしはしゃがみ込んで熱く太くなったそこを握りしめました。
 ここに、もしお嬢様の白魚のようなお手が触れてしまったらどうなったことでしょう。


 旦那様と父以外の殿方を知らないお嬢様のことだから、「あたしも大きくなったらでき
るかしら?」とでもおっしゃるのかしら?
 ああ…お嬢様ったら!
「…ふ………ふふ…っ」
 思わず笑みをもらしつつ、わたしの手は男根を握ったまま上下に動きます。いやらしい
露を塗り広げられて、クチクチと小さな、はしたない音をたててそこは、そしてわたしは
喜びました。
 羽根枕よりもずっと柔らかで、蜂蜜をたっぷり入れたミルクティーよりもずっと甘い甘
いお嬢様を思い、身体中の熱が一ヶ所に集まってゆきます。
「く……ふぁ、あぁ……っ…」
 ずっと咥えていた服の裾をきれいな方の手で掴み、両膝を立てた脇に流します。汚して
しまわないよう両手で限界の近いそこを包み、わたしは時間を気にしつつも、お嬢様の残
り香を求めて肩口に鼻先を寄せます。
 ここにさっき、お嬢様のお顔が、唇が……
「…ぁ……っあ、お嬢様ぁ……っ!」
 あっけなく弾けてしまったそこは、ビュクビュクと白く濁ったモノを吐き出します。慌
てて膝をすり寄せ手のひらで受け止めたのですが、へっぴり腰で木桶の元まで行く途中に
幾筋か足を伝ってしまいました。やはり靴下も脱いで、正解でした。
 水に浸した柔らかい布で丁寧に拭い、下着を上げるのですが…たぶん、旦那様はすべて
お見通しでしょう。
 こんな風に、わたしがはしたない真似をした夜には、どんなに誤魔化そうとしても血が
滾っているのですって。
 初めてそれを知られた日には、今までこの館に来た不埒な殿方と同じ運命をたどるのだ
と、わたしは覚悟して目をつぶり、旦那様の息が再び喉にかかるのを黙って受け入れてま
した。
 しかし、与えられたのは甘い甘い接吻。
 「淫らなお前の血は、とても旨い」と金色に輝く瞳を細め、旦那様はにっこりと笑いか
けてくださいました。
 いつか…いつかわたしも、旦那様やお嬢様のようにしていただけるのかしら?
 永遠に等しい命をいただけるのかしら?
 もしそうなったら、ずっとずっと、お二人に可愛がっていただけるのにと、おそれ多い
夢を胸に秘め、わたしは今宵も旦那様の寝室の扉に手をかけるのです。

 (おしまい)

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最終更新:2013年04月27日 15:27