男女装女男2話・初めては甘酸っぱく

(「男女装女男」シリーズ)

「お兄ちゃん。また梓お姉ちゃんの所に行くんでしょ?」
「うん」
 朝、起きて1階に降りると、寂が聞いてきたので素直に答えた。朝の食事をお腹
に収めて、2階の自室へ帰っていく。
 梓との待ち合わせ時間まで何しようかな、とうきうきした心で考えていたら、妹
が襲来した。
「なにさ」
「じゃじゃじゃじゃーんっ!」
 寂が手に持っているのは、梓に買ってもらった苺柄のシャツとチェック柄のジャ
ンパースカート。あと、四角い箱。空気を読むに化粧品だと推理。
「いや、いや、やめろ寂っ」
「へー……お兄ちゃんは恋人に買ってもらったのを無下にするほど酷い人なんだ。
梓お姉ちゃん泣いちゃうね」
「卑怯だぞ」
「いいよ、私梓お姉ちゃんに電話してくる。お兄ちゃんが、梓お姉ちゃんが選んだ
服を着てくれないって」
 耐えろ。耐えろ僕。ここで負けてしまったら兄として屈辱の極みだ。寂は部屋の
外に出て、ゆっくりと木製のドアを閉めて……
「わかったっ、分ったからっ!」
 にやりと嗤って部屋に戻ってくる寂に、僕は自分の敗北を確信した。

 ※

「やっぱり……お兄ちゃん……なめてる? 化粧する必要ないよ」
 妹の部屋で三面鏡の前に座ると、いきなりそんなこと言われた。
「って言われても」
 個人的にはいつも普通に身体を洗って頭を洗って顔洗っているだけなんだけど。
三面鏡に映る妹が妙に苛ただしげだ。
「むぅ……やりたい放題できそうだったのに弄ったら壊れそう……なにこの生きる
芸術作品。物理法則完全無視じゃん。日々丁寧にスキンケアしている女の子達の思
いはどうなるのっ!?」
 知りません。
「成績優秀容姿端麗スポーツ万能っ! ああっ天は何故に三才をこの人に与えたも
うたかっ」
「寂だって成績優秀だし綺麗だしスポーツできるだろ」
「私は成績全国トップクラスなのであってトップでは在りません。それに去年はミ
スコン、梓お姉ちゃんに持って行かれたし――っ」


「梓の外見は可愛いじゃなくて凛々しい、の方だと思うけど。異端はこの年齢にな
ると特別扱いされるから」
「む、じゃあ中身はどうなの」
「可愛いよ。もちろん世界中の誰よりも」
「だめだこいつ早く何とかしないと……」
「することが無いなら僕はもう行くよ?」
「言葉遣いっ!」
「……行ってくるわ。あと宜しくね」
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
 危うく扉に頭をぶつけるところだった。
「お、ぉ、お……」
 お姉ちゃん、とまで言葉が続かない。と言うか、言いたくない。言ったら認め
ちゃうような気がする。
「どうしたのお姉ちゃん?」
 寂はニヤニヤと嗤っている。そこで、気にしちゃ駄目だと思った。
「何でもない……わ」

 ※

 定刻の1時間15分前に駅前で、僕と梓は合流した。
「考えることは一緒だな」
「うん」
 大半の店が開く15分前なので、特に何処にも行く予定がない。これなら最初か
ら梓の家にお邪魔した方が良かったかも知れない。
「やっぱり、女の子の服着ている方が栄えるよ、ツグは」
「もうっ、梓はこれだから……」
 トラウマでさえも、梓に褒められると心地よい。これが“恋”なのか、と漠然と
感じた。
 学校からは遠く離れているので、ここだと誰かに見つかる心配もない。堂々と僕
たちは表通りを歩けるのだ。このときばかりは、自分の容姿に感謝する。
 誰かに見られる度に、自分が変態がかっているのを理解するけれど、梓と一緒に
居られるのなら、どうだって良いと思えた。それほどまでに、僕は幸せだった。
「喫茶店でも行くか?」
「行きましょうか」
 途中、梓が腕を出してきた。腕を絡めて欲しいらしい。


「――ばか、調子乗るな」
「やっぱ駄目か」
 “男の子”になりきっている梓と違って、流石にそこまで“女の子”になりきれ
ている訳ではないので、口調はともかく、態度は無理だ。実際、口調も大分無茶し
ているから、寂辺りが尾行していたら怒られるに違いない。
 それも梓は分っているらしく、笑っただけで、別に無理矢理ということは無いみ
たい。経験者というのは実に頼りになる。

 そんなわけで喫茶店へ。先週と同じ店だった。昼食までの間食なので、注文した
のはコーヒーとトースト1枚。なのに梓はモーニングセットを注文した。
「朝食べてないの?」
「ああ」
「お昼食べられないわよ?」
「大丈夫。無理して入れる」
 無理して戻されたら大変なのはこちらです。スクランブルエッグにトーストにと、
小さなテーブルを埋めていく料理から、香ばしい匂いが立ちこめる。
「やらないからな」
「私はそんなにがめつくないわよ……」
「涎垂らしてるくせに」
「うそっ!?」
 慌てて右手で口の周りを撫でるが、液体は一滴もない。梓が腹を抱えて笑い出し
た。
「ほんっと、ツグは……あはははは」
「あーずーさーぁー」
 そこで僕の分のコーヒーとトーストが届いたので、立ち上がりそうになったのを
堪える。
「もーっ」
 鬱憤を晴すために、コーヒーにミルクと砂糖を入れるよりも先に、トーストにか
じりついた。塗られたバターとジャムの加減が絶妙で、結構おいしい。これから帰
りがけに寄ろうかな、とか考えてしまう。
 梓にとっては寄りつくこともない街なのに、こんな店を知っているなんて。
ちょっと負けた気分がする。
 コーヒーにミルクとスティックシュガー1本を注ぐ。スプーンでくるくるとかき
混ぜて、口に含む。……何というか、自分が今入れた分を、入れることを前提にし
て作られた味だと思った。その道のプロじゃないので語彙は単純だけど、素晴らし
い味だってのは確かだ。店に行列ができないのが不思議なくらい。
 先週は色んな事で梓に申し訳なかったので、この味を楽しめなかったのが悔し
かった。


「よく調べたね、梓」
「なにが?」
「この店」
「凄いだろ」
 と、梓は胸を張ってきた。梓ほどにもなると、無い胸は気にならないらしい。と、
最近読んだ小説の一節の逆を思った。
 コーヒーを置いて、もう1回トーストにかじりつく。なんとなしのこの時間が楽
しかった。
「あー、ちょっとツグ」
「何?」
「もう1回コーヒー飲んでみてくれ」
「良いけど、なんで携帯を取り出してる……のよ」
「いいから、いいから」
 梓に急かされて、私は携帯を警戒しながら、コーヒーを再び口に含む。やっぱり
と言うか、高い音が鳴った。店内の人々がこちらを向く。
「ほら、見てみろ、様になってるぞ」
「店の人に迷惑よ?」
 お構いなしに、今取った写真を見せてくる。迷惑そうに顔を顰めているお客さん
(+店の主人)にぺこぺこと頭を下げながら、携帯の画面を見る。なんで僕が謝ら
なくちゃならないんだろう。
「な?」
「――――」
 これが、僕? と言うお決まりの言葉も口から出なかった。えっとですね。どれ
位可愛いかと言うと、梓の次くらい。自分でもびっくりだ。
 コーヒーのカップに口付けている様は、光の加減もあって、深窓の令嬢のような
雰囲気を醸し出している。苺柄でもお嬢様っぽくなるんだな、と意外な発見。そう
言えば。
「この服って幾らくらいしたの?」
「上下と中も合わせて5万か6万くらいだったかな。レシート残ってると思うけど
……」
 高い。高すぎる。
「ユニクロ辺りので良いのに……」
「それじゃ服がツグに負けちゃうじゃないか。と、あったあった」
 梓は財布――珍しく女の子らしいデザインだ――から、レシートらしきモノを取
り出して、僕に見せてくる。
 見てみると、値段は確かに、5桁だった。消費税が4桁とか初めて見た。


「あ、ありがと……」
「彼氏の役目は彼女に貢ぐ事だからな」
「か、彼氏は私よ」
 梓の言い方にちょっとかちん、と来たので自分の財布からなけなしの札束を取り
出す。5000円無いと思う。
「代金なら要らないけど」
「な、ならせめてこの喫茶店の分……」
「足りないぞ?」
「うそっ!?」
 これだけあって足りないとは。慌ててメニューを見直す。商品名の右にある値段
は。
「あーずーさーぁー」
「あはは……じゃあ、ここは彼氏に貢いでもらうことにするか」
 梓が、残りの分に手をつけ始めたのを見て、僕もトーストにかじりついた。

 ※


 昼下がり。健全な少年少女とはほど遠く、僕は梓の家にお邪魔していた。変わっ
ているのは、先週に比べて1冊増えているジャンプだけ。
 先週と同じように正座で座布団に座る。梓はベッドに座った。親友は話さなくて
も空気が気まずくならない、と聞くけど、あれはきっと本当だと思う。だって、僕
の心臓はずっと高鳴りつづけているのだから――。
「ツグ、そんなに緊張するなよ」
「う、うんっ!」
「……」
 梓が無言でこちらへ寄ってくる。かかる圧力、プレッシャー。摺り足もかくやと
いう正座移動で逃げる。
「な、なにさ……!」
 口づけられた。だと分ったけど、予想外の一撃に何も出来なかった。目の前に、
梓の閉じた目が見える。
「……どうだ、落ち着いたか? ……あれ、おーい?」
 キスし終わったあと、梓が手を振ってくる。それが、とても遠いことのように思
えた。言葉も口に出来ず、視線は虚空を見つめている。分っているのに、分ってい
るのに身動きがとれない。
「大丈夫かー?」
 大丈夫じゃない。こんなに大変だ。放心して冷めたと思った身体の熱がぶり返す。
「う、……ぅん」
 頑張って答えると、にこにこ笑顔で梓が髪を撫でてくる。顔を直視していられな
いので視線を逸らす。これじゃ梓が言ったように僕が彼女で梓が彼氏じゃないか。
「あずさ……」
「何?」
「平然と聞くなっ!」
 こっちが精一杯声を振り絞っているのに、梓はへらへら笑ってる。完璧舐められ
てるじゃないか。
「あの……うん」
「なんだよ、はっきり言え」
「分ってるくせにっ」
「分らん」
 笑って言う事が「分らん」とか巫山戯てる……っ! こ、これは寂と同じだ僕を
虐めるための巧妙トラップだほんの少しささやかにとかどっかのトラップ名人が言
ってたけど2回目じゃないかーっ!
「言ってくれたらなんでもしてやっても良いぞ。足もぞもぞさせちゃって可愛いな
ツグは」
 ほら行為って分ってるじゃない……わざわざ足の事まで言及して、僕を虐めて何
が楽しいんだよぅ……。


「言っちゃえ言っちゃえ」
「し、したい」
「何を? 何をしたいって?」
 そこまで言わせるのかっ
「せ、せ……せせせ」
「はいはい、せ?」
「せ、性行為……」
「オレエイゴシカデキマセーンニホンゴワカリマセーン」
「せ、セックスしたいっこれでいいかっ!」
「なんだ早く言えよ」
 2連敗。2連敗の重みが肩にかかる大気圧のその上に乗っかった気がする。
 正座摺り足(命名僕)で、ベッドの近くにまで移動する。恥ずかしいアソコを見
せないようにして、ベッドに上る。
「ったく、見えても恥ずかしくないだろ」
「お……私は恥ずかしいのっ! 梓もうちょっと女の子らしくしてよそんな卑猥な
事ばっかりっ!」
「自分は全然エロくないと」
「あったりまえだ……でしょっ」
 いかん。ちょっと(普遍的な意味で)興奮すると言葉遣いが変になる。落ち着け、
落ち着け僕。
「よし、なら試してやる」
 梓 が 襲いかかってきた。
 次美 は 落ち着こうと している ため 逃げられない !
「ちょ、梓タンマっ」
「五月蠅いツグは俺を怒らせたっ」
 ベッドの上で、うつぶせの僕をひっくり返して、梓が乗っかってくる。腕は自由
だけど、足が押さえつけられて動けない。
「じゃ、ツグがどれだけ淫乱でどMなのか、教えてやる」
 残忍な笑み。僕は、先ほどの発言は間違ってないと思ったけれど、口に出したこ
とを後悔した。
「……大好きだよ、ツグ」
 軽いキスを頬にされて、梓は僕のスカートをめくり上げて、パンティをずり下げ
る。
「こんなに大きくなってるのに、自分はエロくないなんて言うんだもんな」
 ジャンパースカートをわざわざ折って、僕にソレが見えるようにして梓は言って
きた。


「ツグは胸が弱いんだよな」
「あずさっ」
 ボタンに忍び寄る手を止めようとするものの、軽く回避される。簡単に全部外さ
れた。
「へえ、パッド入れてるんだ、どんな感じする?」
 ふにふに、と、ブラジャーの上から揉んでくる梓。パッドなのに、胸に甘い快感
が襲ってきた。
「いや、待ってあず……ふぁっ」
 止められずに雪崩れてくる快感に、身をよじらせる。梓は気をよくしたみたいで
揉む速度を速くしてきた。
「な? ツグは淫乱だろ?」
「ち、ちが……ふぅぁっ」
「嘘は良くないぞ?」
「ひん……うそじゃ、ないぃ……あはぁっ」
「ツグは素直じゃないなぁ……ん」
「はむっ」
 本日3度目のキス。今までの2回とは違い、とてもとても深いキス。
「ぺろ、くちゅ、ぺちゃ、――はぁ」
 熱い吐息をかけあう。梓の頬が朱くなっているから、多分僕も朱くなっているん
だろうな、と思った。
「駄目だな、俺の方が淫乱みたいだ……次美、何とかして……」
 甘えるように僕に倒れこんでくる。……自分でも、僕が彼女なのか梓が彼女なの
かよく分らなくなってきた。
「……うん」
 シャツの中に手を入れ、胸の辺りまで手を伸ばす。ブラジャーじゃなくて、布の
感触がした。
「え、サラシ?」
「なに……悪いの?」
 どうやら、梓は興奮する(性的な意味で)と女の子らしくなるみたいだ。目も柔
らかくなって、ツグ、って呼ばないし、世界……じゃなくて梓不思議発見。違うか。
 サラシを撫でていくと、結び目があった。蝶々結びで少し可愛かった。片手でな
んとかほどいて、サラシを外していく。
「次美……はやくぅ」
「ちょっと待ってよ」
「こらっ、言葉遣い……」
 片手では殆ど無理なので、両手でする。梓はこんな状態でも、僕の事を気にする
位だった。


「終わった……わ」
 シャツからはみ出ている包帯が、ずいぶんとエロティックな感じがする。僕と梓
は揃って天井を向いている、何とも奇妙な状態だ。
 梓のシャツの中へ手を滑らせて、さっきされたように胸を揉む。
「ん……はぁ……」
 左手はそのままで、右手を梓の下半身に滑らせる。ズボンに手を入れて、あそこ
に手を伸ばす。
 ――くちゃり。
「え、……」
 既に濡れている。梓の顔を見てみると、こちらに向かってバツが悪そうに微笑ん
でいた。
「ごめんね」
「先週の僕……私みたいよ」
「むっ……」
 失言だったらしい。柔らかくなっていた目が鋭くなる。梓は僕のアレに両手を添
え、擦り始めた。
「ひ、ぁ……だめ、だめだってぇ……あぁんっ」
 梓を愛撫する事なんて、すぐに吹き飛んでしまった。1度扱かれるだけで、言葉
にすることも出来ない快感が身体中を襲う。
「つぐみ……やっぱりいんらんでどMだね」
「わたしは、ぁん……ふぁ、ちがっ……あはぁっ」
「じゃあ、どうしてこんなに言葉責めされてたりするのに、喘いでいるのかしら?
 ……ああ、手っ取り早く足で確かめて見ましょうか」
 梓は右の靴下を脱いで、素足で僕のアソコを責め始めた。さっき以上の快感が流
れて、脳を焼いていく。
「あ、それ……はぁっ……」
「やっばり感じてるじゃない」
 梓が上半身を起こして、首だけ回してこちらを見つめてくる。いつものように…
…いつもより優しく、柔らかに笑みを浮かべている。
「先週みたいに言ってみてよ。『次美のおちんちんを梓のおまんこに突っ込ませて
腰を振らせて下さい』って」
「言う……もんかぁ、っはぁっ」
 女言葉になってるせいか先週より梓が酷い気がする……っ。でも、僕は先週と同
じように、情けなく理性の箍を外されて行っている。
「じゃ、じゃあ勝負ね……私と次美どっちが早いか……ふぁ……」
「あず……さ?」
 目を疑った。自分の上で、梓が自慰をしている。両手で自らのアソコに手を伸ば
し、ぐじゅぐじゅと弄っている。


 快感でのぼせそうな頭で、梓が我慢出来ないことを知る。恋人に我慢させて、何
が男なのか。と至らない脳みそで結論づけた。
「……つ、つぐみぃのおちんちんをあず……ぁあっ……あず、さの……」
「あはは、はゃく……ひぁっ……言っちゃいなさいよぉぅ……もうひわいなこと言
ってるくせに……」
 それで、僕はどろどろに溶けてしまった。
「あずさのぅ……ぉまんこにつっこませてこしをふらせてくださいぃっ」
「はい、よくいえました」
 あずさも我慢できないらしく、ズボンと下着を膝辺りまで下げただけで、すぐに
僕のモノをアソコにあてがった。
「つぐみ……」
「あずさ……」
 互いの名前を呼び合う。どろどろに溶けた眼光で見つめ合う。そうして、あずさ
は目を閉じて、一気に腰を下ろした。
「――っ」
 ぶち、と言う音が聞こえた気がした。あずさが顔を顰めている。
「あずさっ」
 わずかに戻る理性で、僕は声を上げた。
「だい……じょ……ぅぶ」
「ぁ――――っ゛!!!」
 喘ぎが声にならなかった。1回上下にピストンされただけなのに、自分は戻りか
けた理性を、またどっかにやってしまった。
 赤色がかった愛液が結合部から漏れている。膣が僕に絡みついて、離そうとしな
い。あずさも中もゆっくりと上下運動しているだけなのに、どちらも狂いそうなほ
ど気持ちいい。
 知らず、僕は腰を跳ねさせていた。
「つぐ――――みっ!?」
「あずさ、あずさっ」
 理性がトんで、僕は半分おかしくなった。性行為は愛を確認するモノだと思って
いたのに、いつの間にか、快楽ばかりを求めている。
 ――いや、多分。これで正しいんだと思う。詭弁かも知れないけれど、リセイが
飛んだ、ホンノウの中だけでも、梓への愛が自分の中に確かに感じられるんだから。
なら、やっぱり、言葉にしないと。


「あずさっ……ぁ、んはっ……あのね、あのねっ」
「な、なに……ふぁあんっ……つぐみ……っ」
「あいしてるっ!」
「わたしも、わたしもあいしてるっ!」
「でる……っよ」
「うん、きて……っ」
 ――どく、どくっ、どくっ……どく……っ

 ※

「ごめんなさい」
 情事の後を処理して、僕はベッドに腰掛ける梓に平伏した。
「なんでだよ」
「なんでもとにかくごめんなさい申し訳ありませんでした」
「ツグ、そんなに謝るな。俺は嫌じゃなかった」
 梓が朱くなるので、僕まで朱くなった。
「でも子どもできたら」
「そんときゃ色々要るな。乳母車とかガラガラする奴とか。頑張って働けよツグ」
「……」
 余りにも梓が陽気なので、あっけに取られてしまった。
 これでは僕たちは梓の言うとおりアダルトビデオ顔負けのい……変態さんじゃな
いか。
 デートの終わりみたいに、またしようね(はあと)、なんて言えるはずもなく。
後の事は、覚えてない。

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最終更新:2013年04月27日 17:41