違和感みたいなものはずっとあった。

 言葉にならない疑問符が、アタマに浮かぶことがあったのだ。だけど、私はそれを無視し続けた。そんなことあるはずがないと自分に言い聞かせてきた。
 なのに今、違和感はカタチとなって、私の視線の先でせつなげに息を乱している。私がこうして見ていることなど、まぶたで光るラメ粒ほども想像していないに違いない。
 そうでなければ、廊下からでもはっきりと判る淫靡な吐息をピンクに彩る唇から小刻みに吐き出すなんて真似、できるわけがない。下手なメイクを施した顔をだらしなくゆがませて、よだれと喘ぎ声を溢すなんて真似、できるわけがないのだ。

 アイツは、私が先週買ったばかりの黒のひらミニからみっともなくふとももを放り出し、淫らな顔よりだらしなくよだれを垂らす性器を露出させ、揃えて買ったピンクのキャミの胸元をはだけさせて突起を撫で回しながら、いやらしい目つきでノートパソコンを眺め、ときどき、思い出したように性器を擦っている。
 その行為の名前を私は知っている。何度も何度も私が空想の中でさせてきたその行為を私は知っている。恥ずかしいその名前を知っている。
 それが今、私の視線の先で、私の部屋の中で行われている。そう理解した瞬間、アタマの中は真っ白になり、血がせわしなく駆け出し、それを制御する心臓はそれ以上に荒々しく暴れ始める。知らず知らず咥えた親指を彩るマニキュアと、それを挟み込む口紅が、アイツがしているものと同じだと気がつき、私の鼓動はますます早くなる。多分、息も荒い。

 アイツに気づかれないようにと思えば思うほど、私の興奮は高まっていき、立っていることさえもままならない。ゆっくりゆっくり、音を立てないように慎重に慎重を重ねて座り込む私の姿はある意味、アイツ以上に滑稽だ。
 でも、気づかれるわけにはいかない。私が空想の中で繰り返し見た光景が、目の前にあるのだ。途中で終わらせるなんてこと、あっていいわけがない。
 ますます荒くなりそうな息を唾と一緒に飲み込んで、私はアイツをじっと見る。

 買ったばかりのウィッグの巻き毛を汗ばんだ色白の頬に張り付かせ、布団の上だと言うのにビビットピンクのウェッジサンダルを履いていて、ご丁寧に、その脇には隠しておいたはずのバイブやディルドーまで転がっている。
 口にすることがはばかられるあの言葉が、何度も何度も私のアタマの中を行き来する。数え切れないくらいパソコンを使って検索した言葉が、アタマ一杯に広がっていくのが分かる。
 アイツは今、私になって自分を慰めているのだ。ノートパソコンに並ぶ文字を追いかけ、口からこぼれる淫らな息と声を隠そうともせず、淫らで激しい女装オナニーをしているのだ。


 私は荒くなる息を押し殺して、アイツを見る。
 格好にはえらく不似合いな小さな乳輪の周りを這うようにこね回す人差し指を器用に動かし、ミニを持ち上げるように勃起した性器を握る手を不器用に動かして、アイツは喘いでいる。
 思い出したように手に取ったバイブを、アイツは口元へ誘う。女が男にそうするように、いやらしく唇を開き、男の性器を象ったそれを、口に含む。
 そこには、オトコとしての尊厳などありはしない。あるのは、淫らな雌の本能だけだ。
 涙ぐんだ目を堅く閉じ、目尻にたまる涙を拭いもせず、ただ、ひたすらに鳴き声を上げ、頬をすぼませながら、左手で握り締めたそれを喉に押し込むように顔を上下させる。
 一生懸命に首を動かしてアイツは何を想像しているのだろうか?

 私のブラトップで無い胸を覆い、私のショーツで大きな性器を覆い、私のキャミを着て、私のミニを穿き、私のサンダルを履いて、巻き髪がゆれるウィッグまで被って女になり、私のファンデとチークで顔を染め、私のアイブロウとアイライナーで目元を彩り、私のシャドウとラメでまぶたを光らせ、私の口紅とグロスを使って艶やかに光らせる唇で私のバイブを咥えて誰を想像しているのだろうか? 私のペディキュアが光る指先は何を想ってくの字に曲がっているのだろうか? 私のマニキュアで色づけた指先は、誰を想って性器をいじっているのだろうか?
 ……分かるのは、それが、私ではないということだけだ。
 無性に腹が立った私は、アイツが気づくことを承知で、その姿を携帯カメラに収めた。
 音がした瞬間、アイツは泣きそうな顔をして何か言いかけたけど、うっかり私が顔を緩ませたから、結局言わなかった。笑みの意味を、理解したのだろう。

 ――この日から、私は姉から彼氏へ変わった。


 目の前で、アイツが凍りついたように固まっている。

 無理も無い。姉の部屋で女装して自慰行為に励んでいたら、部屋の主である姉が突如ドアを開けて入ってくるなんて体験、頻繁に起こるとは言いがたい。
 でも、それは私も同じだ。
 家に帰って部屋のドアを開けたら、弟が女装して自慰をしていたなんて体験、求めて出来るものじゃない。
「……何してんの?」
 ついさっき、自慰行為にふけるアイツを撮影したケータイでその姿を確認しながら、一目瞭然であるはずのことを、わざわざ問いかけてみる。
「ごめん……」
 私のニヤけた目つきから逃れるように目をそらして、アイツが力ない言葉を吐くと、顔の動きに合わせてウィッグの巻き毛が可愛らしく踊った。
「何それ? 何してたの? って、聞いてるでしょ?」
 目を逸らしたアイツの顔を覗きこみ、目に言葉を投げかけるように問いかける。と、アイツは口紅とグロスが過剰に塗りつけた下唇をかみ締めて黙り込んだ。……いい反応だ。
 こうでなくては、いじりがいがない。私はこみ上げる感覚を堪えずに言葉に乗せる。
「私の部屋で、ナニ、してたの?」
 含み笑いを隠さずに、もう一度問いかけてみる。
 それでもアイツは答えない。いい反応には違いないけど、これでは埒があかない。
「ふーん……」
 私は手元のケータイを閉じてバッグに仕舞うと、一歩、部屋を出る。
「判んないんだったら、誰か別の人に聞くしかないね。写真、あるし」
「あ……」
 私は階段を降りて、外へ向かう素振りを見せてやる。
「やめて……」
 後から、微かな声が聞こえる。だけど、私はそれを無視して階段を降りていく。親がいたら、怒られそうなくらい大きな音を立てて。
「待って。お願い……」
 振り返ると、ずり落ちそうなウィッグを気にしながら、泣きそうな声を上げて犬のように四つんばいで駆けてくるアイツが見えて、思わず笑ってしまった。
 その姿が、今のアイツには、妙にお似合いだったから。


「お願いしますでしょ?」
 滑稽な姿を視線で撫で回すように見つめてから、少し、声のトーンを落としてみる。
 ぴくり、と、アイツの肩が強張った――ような気がした。
「お願いします……」
 身につけている服のせいか、泣きそうな中、無理やり声を出しているせいか、アイツは、消え入りそうな少女の声にも似た、細い声で囁いた。
「ん~……」
「お願い、します……。おねがい……」
「何してたの?」
「お姉ちゃんの、服、着てたの……」
「ふーん……。そういうの、何て言うんだっけ?」
「え……?」
「男のクセに、かわいい服着ちゃってさぁ? そういうの、何て言うの?」
「あの」
「アンタ、今、何してんの?」
「えっと……」
 その言葉を口にすることにためらいがあるのだろうか。アイツは私の求める言葉をなかなか口にしようとしない。
「言いたくないんだったら、別にいいけどね」
「あっ! まって……」
「嫌。こんな面白いこと、独り占めするのもったいないじゃない? 誰に言おっかなぁ」
 私は心にも無いことを口にして、アイツの言葉を要求する。……本当は、こんな愉しいこと、他人に分けるつもりなんて、あるはずがない。しかし、今のアイツにとって、この言葉がどれほどの重みを持っているのかは、容易く想像できる。
 それに、私は何となく知っている。アイツが今、私にどんな言葉を期待しているのか。


「やっぱ、私の友達かなぁ? それとも、アンタのクラスメイトとかがいい?」
「やっ、やあぁッ! やめて……。おねがい……。言うから、言わないで……」
 泣きそうな声を通り越して、涙声と言っても良さそうな声を上げて、アイツは食い下がる。
 怯えた目からこぼれ落ちそうな涙が可愛いと言ったら、アイツは、何て言うだろうか?
「じょそう……。女装してたの……」
「何で?」
「えっ?」
「何で? 好きなの?」
 一瞬、目を逸らしてから、もう一度、私の笑みを確認するように恐る恐る私を見て、アイツは、かすかに頷いた。
「何が好きなんだっけ?」
「じょそう……」
「聞こえない。ちゃんと人に話す声の大きさで言って」
「女装……」
「女装が何?」
「好きなの……」
「ダレが?」
「あ、ぅ……」
「男のクセに女装が好きなヘンタイはだぁれ?」
「あの……」
 アイツは、困った顔で私を見たり床を見たり、落ち着きなく視線を動かして口ごもる。
 だけど、私は確信している。あれほど熱い自慰行為に浸っていたのだ。想像の中で、アイツはオンナになりきっていたに違いないし、その名前にだって、私は心当たりがある。
「……言いなさい」
 鋭い言葉でアイツの心を貫くつもりで言ってやった。
「わたし……」
「わたしが何? ちゃんと全部言わないとダメ」
「わたし、女装が、好きなの……」
「私の目を見て言って。……ちゃんと大きい声で言ってよ?」
 言葉を繰り返すアイツの息が、幾分か荒くなってきているのは、泣いたからだろうか? それとも、そうではない別の理由あってのことだろうか? あのカオを見れば、誰だって判る。


「それで? 女装が大好きなヘンタイちゃんは、私の部屋でナニしてたの?」
「えっ?」
 私が求めている答えが本当に判っていなかったのだろうか? アイツは少しびっくりしてからそれに思い当たったように、口をつぐんだ。だけど、私はそれを許さない。降りたばかりの階段を登り、アイツを見下ろして言う。
「私の服着て、私の化粧品使って、男のクセに女の子のカッコして、何してたの?」
 アイツは、私の目を見たり、逸らしたり、せわしなく視線を動かしてから、目を逸らしたまま言った。
「エッチなこと……」
「エッチなことって何? ちゃんと言えるでしょ?」
「あっ……」
 ぺちっ! と、頬を両手で挟みこまれ、アイツが甘い声を漏らした瞬間、身体の中をひとすじの電流が流れていくような感覚に襲われた。
 ぞくりとするこの感覚、まぎれもなく、私が求めていたものだ。想像の中で幾度となく繰り返し、夢に見て、焦がれていた感覚だ。
「エッチなことって何!? 言いなさい?」
「わかりません……」
「アンタ、まだ立場判って無いワケ?」
 私が先ほど撮影したてほやほやの写メを突きつけると、アイツは観念したように言った。
「ぉ、おなにぃ…」
「何? 聞こえない」
「オナニー……」
「聞こえないってば!」
「オナニーしてたの!」
「ただしてたんじゃないでしょ!?」
「お姉ちゃんの服着て、オナニーしてたの!!」
「ふーん……」
「…………」
「アンタは、女の子のカッコしてオナニーしちゃうのが好きなヘンタイなんだ?」
「…………」
「こんな短いスカート穿いて、ホント、ヘンタイねぇ?」
 廊下へ登り、その役目を全く果たしていないひらミニの端をつまみ上げてみる。
「やっ……」
「なにヤらしい声だしてんの? はっずかしぃ」
「やめて……」
「だめ」
 顔を逸らして泣きそうな顔をしていても身体は正直だ。アイツの性器はこんな状況なのに先ほどから変わらずの隆起を見せていて、いやらしい染みを作っている。それが可笑しくて、愉しくて、ついつい、私の笑みの色は濃くなる。
「おいで」
「はい……」
 手招きして部屋へ向かうと、アイツはご丁寧に四つんばいになったままついて来た。意図的になのか、無意識なのか。素質があると言わざるを得ない。
 同じ姉弟で、こうも違うものなのだろうか? 私はこみ上げて来る笑いを堪えながら、四つんばいで着いて来るアイツに下着が濡れていることを悟られないように気をつけて、部屋へ向かった。


 ドレッサーの椅子に座って見下ろす視線の先でアイツはそうすることが当然だとばかりに四つん這いを続けている。
 ついさっきまで弟だったアイツが、私の衣服を一式身につけ、ウィッグやサンダルまで身につけていやらしいメス犬に成り下がっている。
 これで、笑みが浮かばない方がどうかしている。
「ふふふ。さて――」
 私が口を開くと、キャミの肩紐が片方ずり落ちたままの肩がぴくりと反応した。


「今、どんな気分?」
 こみ上げる笑みを隠さず、むしろ大げさに浮かべて言う。
「はずかしい……」
「ドコ見てるの? こっち見て言ってよ」
 そう言うと、アイツは目だけを動かして私を見上げたけど、目が合った瞬間、視線を逸らした。
 こみ上げる恥辱に支配されて顔を歪める様子が、言葉にならない感覚を呼ぶ。
 私が求めていた感覚が身を焦がしていくのがよくわかった。
 心のブレーキを破壊してしまいそうなこの感覚に身を任せ、感情の赴くままにアイツと戯れることができるのだから、当然だ。
 アイツの息も随分と荒いが、私も相当だろう。
「女装してオナニーしてるところ見つかって、問い詰められる気分はどう?」
 少し手を伸ばし、アイツの顎を掴んで目を見つめて言うと、アイツはこの期に及んで目だけを逸らして答えた。
 初めてだというのに、どうすれば私が悦ぶのかを心得ているようにさえ見えた。
「はずかしい……です」
「へぇ~。さすがメス犬ね。言葉がわかんないんだ?」
「うぅ……」
「それとも、こんな風にイジめられることを想像してた?」
「ちがっ!」


 慌ててこちらを向いたアイツの顔を覗き込みながらゆっくりと顔を近づけ、アイツの瞳に映る私自身を見つめるようにもう一度言う。
「今、どんな気分? 目を閉じちゃダメよ? ほら、答えて」
 アイツの目の中で私が快感に打ち震えるのを眺めながら、過剰に口紅を塗りつけた唇が言葉を紡ぐのを待つ。
「はずかしいです……」
「ふーん」
 顔を離し、足を伸ばしてアイツが穿いているひらミニを少しめくってみる。
「やあぁ」
「ほら、じっとして」
 そのままスカートを持ち上げ、パンツをじっくりと眺める。
 見るまでもなく、アイツの性器は喜びに打ち震えてよだれをたらしていて、私のお気に入りのパンツをこれでもかというほどにびしょ濡れだ。
「…………」
 黙ったまま、アイツの目を覗き込む。
「うぅ……」
「目を逸らさないで。閉じてもダメよ? ほらこっち見て」
「ううぅぅ……」
 私の言葉に反応する高い呻き声に混じっている感情は恥辱のものに違いないけど、だけど、もう半分が喜びのものだということはこのパンツが目や口以上に雄弁に語っている。
「アンタのココは、恥ずかしいとこうなるの? それって、ヘンタイだよね?」
 小刻みに首を振っているのは言葉を否定しているからなのか、それとも喜びに打ち震えているからなのか。
 本当はパンツの中に聞いた方が早いのだろうけど、それじゃあ、面白味がない。
「うーうー言ってないで何か言ってよ? つまんないじゃない」
「もうだめ……」
「ホントは、いっつもこういうコト想像してたんでしょ? 私の服着て、メイクして、ウィッグまでかぶってエロ小説読んで、いじめられるところ想像してたんでしょ?」
 その答えは、聞くまでもなくすぐ横のノートパソコンが伝えている。
「ほら、ちゃんと自分で言ってみて」
「あああ……。ごめんなさい……」
 涙声と言っても大げさではなさそうな声に、体が震えた。
「だーめ。ちゃんと言いなさい」
「してました……」
「何を?」
「いじめられるところ想像して……。あの、おなにぃ、してました」
「ただしてたんじゃないよね?」
「お姉ちゃんのカッコして、いじめられる想像して、おなにぃしてました」
 百点満点で言えば、七十点くらいだろうか?


「へぇ……。メス犬なだけじゃなくて、マゾなんだ?」
 メス犬が、首を大きく振り回しながら鳴いた。……多分、喜んで。
「女装ヘンタイの、メス犬マゾ野郎だね」
 スカートを戻し、ゆっくり立ち上がってアイツを見下ろす。
「ほら、自分で言ってみて? いっつも想像の中で言ってたんでしょ?」
「んあああっ! はぁっ……! はっ! んはっ!」
 息を荒げて首を振り回すメス犬めがけて、矢継ぎ早に言葉をぶつける。
「ほら、早く言いなさいよ。ヘンタイ野郎、女装野郎、メス犬野郎、女装狂いのマゾメス野郎。……なに感じてるの? アンタ本当のヘンタイね? ほら、早く言いなさい。自分で言うの。感じるんでしょ? こんなこと言われるのがスキなんでしょ? もっと言われたいでしょ? ヘンタイ、ド変態――」
「ああ……。ごめんなさいごめんなさい。女の子のカッコしていじめられるのが大好きな変態です。お姉ちゃんのカッコするのが好きな変態ですぅ!」
「それだけじゃないでしょ? そうやってオナニーするのがたまらなくスキなんでしょ? いつもどんないやらしいコト想像してたの? ほら、思い出してみなさいよ? いやらしい顔して言ってみなさいよ 命令よ。女装オナ好きの淫乱メス犬野郎っ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。お姉ちゃんのカッコして、いやらしいこと命令されて、お姉ちゃんになりきってオナニーして……」
「したいでしょ? いつもやってるみたいにオナニーしたいんでしょ? ほら、いつもみたいにちゃんとお願いして? どうせ何回もやってたんでしょ?」
「もうだめもうだめ、おなにーさせてください、おねがいします」
「女装オナニーさせて下さい。お姉さま」
「じょそうおなにーさせてください、おねえさまっ!」
「いっつもこんなコト想像してたんだよね?」
「そうですっ。もうだめ、もうだめ……」
「すれば? 写真撮ってあげるから、いつもみたいにオナれば? 女装して、私に見られて、言葉で嬲られてコーフンして、オナりなさいよ。ヘンタイマゾ犬野郎っ!」
 ――この言葉を合図に、メス犬が弾けた。


「んああああああああああぁぁっ!」
 片手で性器をこすり上げ、もう片手で全身の性感帯という性感帯を代わる代わるなで回す。
 乳首を転がしたり、首筋をたどったり、鎖骨を撫でてみたり、脇腹をくすぐってみたり、浅ましく快感を求める姿は発情したメス犬そのものだ。
「……ヘンタイ」
 もう、言葉が届いているのかもわからないけど、私は淫乱なメス犬に一番ふさわしいと思った言葉を投げかけながら、次々にその痴態をケータイに収めていく。
「いつもしてたんだよね? 想像の中でこんな風にいじられてたんだよね?」
 言いながら、目についたバイブを手に取る。
「私になりきっていやらしいこと言われるのが大好きなんだよね?」
「んふっ! んんんっ! ごめんなさいごめんなさい……」
「ヘンタイ、ド変態っ! 淫乱女装オナ狂いのメス犬野郎っ! 私が見てる前で女装してオナニーしてイキなさいっ!」
 そして、よだれをまき散らしながら、うわごとのように言葉を呟く唇にそれを突き刺した。
「んぐっ! んふぅぅーーーーーーーーーーーーーっ!」
 淫乱なメス犬の放った性のほとばしりが、何度も何度も、放放物線を描いた。
「んふっ……かわい」
 うつろな目でおなかを上下させるペットだか彼女だか弟だかわからない私だけの可愛いアイツの顔を、そっと撫でた。

(終わり)

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最終更新:2013年04月27日 18:15