昔々というほど昔でもなく、最近というほど最近でもない時代のあるところに、
金糸の髪とアメジストの瞳のたいそうイタズラ好きで聡明な美しき女王と、
濡れたような黒髪で、どこか可愛らしい印象の少しおつむが足りない純朴な王様がいました。

女王様は女王様らしくどSで王様は少し困っていましたが、王様はMなので結局はラブラブです。

これは、そんな二人のある日の出来事。



「ねぇ、今度のパレード用に服を新調しましょうか」

女王様は王様に問いかけているようではありましたが、
実のところ王様には女王様の発言に対する拒否権はないので、ただ女王様の言葉を肯定しました。

「そうだね、国民にみすぼらしいところは見せられないものね」

「ありがとう。そう言ってくれる思って、実はもう仕立て屋を呼んでるの」

女王様は実に仕事の早い方でした。

女王様が手のひらを打ち鳴らすと、一人の男が恭しく現れます。

「さ、どんなものがあるのか見せてちょうだい」

どうやらこの男が仕立て屋らしく、どこからか綺麗な服を何着も取り出して見せてくれました。

金色で光沢のあるドレス。赤いビロウドのドレス。空色の絹のドレス。
どれも女王様に似合いそうです。

「わあ、どれも綺麗だね」

「えぇそうね……」

このとき、女王様は何か面白そうに口端を吊り上げて微笑んでいましたが、
王様の視線はドレスに注がれていて気づくことはありません。

女王様は、仕立て屋が次に取り出したドレスに目を止めました。

「あぁ、それがいいわ」

仕立て屋の手の中にあるのは、真っ白でふわりとしたドレス。
レースがふんだんに使われていてとても上品です。

「あぁ、綺麗なドレスだね、とても似合いそうだ」


王様は嬉しそうに女王様に微笑みかけましたが、女王様は訝しげな顔で王様を見ました。

「……ドレス?何を言っているの?あれはあなたのための服じゃない」

「え?」

そう言われて王様はもう一度仕立て屋の方を見ましたが、
仕立て屋が持っているのはどうにもドレスにしか見えません。

女王様は王様にドレスを着ろと言っているのでしょうか。
王様は訳が分からず、女王様と仕立て屋を交互に見るばかりです。

「……僭越ながら、王様」

仕立て屋が口を開きました。

「私が扱う服達は実に特殊な服でして……見るものが見れば立派な男ものに見えますが、
なんともうしますか……学の足りないものが見るとドレスに見えるのです」

「……え、えぇぇええ!」

実に不思議です。
本当にそんな服があるものなのでしょうか。

女王様が、王様を見て心配そうに言いました。

「あなた、あれがドレスに見えるの?」

その言葉は王様の心に深く突き刺さりました。

つまり、あなたは馬鹿なのかと聞かれているのと同じです。

「いや、そんなわけないさ。実に格好いい服じゃないか!うん、その服を頂こうか」

王様は見栄をはりました。
どうみてもその服は真っ白なドレスにしか見えないのに。

それもそのはず、だってその服はただのドレスなのですから。
そう、これは女王様のイタズラです。

女王様は微笑んで、仕立て屋にお金を支払いました。
ドレスの値段よりも随分多めにつつんで。

「……さぁ、試着をしましょうか」

女王様は、ドレスを抱えて王様と寝室に入りました。

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最終更新:2013年04月27日 18:34