キッチンに立って肉じゃがを煮込みながら左手を見る。
飾り気の無い白金のリングが薬指に輝く。
今は見えないが、その内側にはD to Mと刻まれている。
“大祐から美樹へ”を意味する頭文字。
私の本名は芳樹と書いてヨシキと読ませる。
美樹と書いてミキと読ませるのは大ちゃんがくれた妻としての名前。
それを見る度に、幸福と少しばかりの申し訳なさで涙が零れそうになる。
自分には生涯縁の無いと思っていたもの。
三日前に愛する人から贈られたもの。
生涯を捧げる誓いのしるしが、今左手にある。
時計を見ると午後5時半。そろそろ旦那様、大ちゃんが仕事を終える頃だ。
晩御飯は肉じゃがと小松菜のお味噌汁ときんぴらごぼう。
きんぴらと肉じゃがは出来上がっているから、後は大ちゃんが帰って来てからお味噌汁に豆
腐を入れるだけだ。
火を止めて、寝室にあるサイドテーブルの一番下の引き出しから浣腸器を取り出す。
本当のことを言えば、浣腸はすごく苦しいし体力を消耗するからあまりしたくない。
口に出してもらって飲むほうが幸せを感じる。
でも、男の子ならやっぱり入れたい筈だと思う。
それで大ちゃんが気持ちよくなってくれるのなら、私は我慢できる。
トイレで何度も注入しては出してを繰り返して、ようやく水が濁らなくなる頃には30分が
経っていた。
まるで一日寝込んだような倦怠感が体の芯にある。
脂汗で前髪が額に張り付いているけど、それをかきあげるのも億劫だ。
シャワーを浴びて汗を流し、無駄毛の処理をする。
脱毛が進んで大分薄くなったけど、それでもまだ女の子みたいに綺麗とは言えない。
近くで見れば、産毛が女の子よりもずっと太い。心底自分が男であることに嫌気が差す。
鏡で見る体も、首から下は完全に男だ。
広い肩幅、胸囲はあるのに薄い胸、くびれの乏しいへそ周り。
そしてなにより、股間にぶら下がる赤黒い肉棒と、皺だらけのたるんだ皮袋。
気持ち悪い。いっそ引きちぎってゴミ袋に叩き込んでやりたい衝動に駆られる。
いつまでも自分の体に絶望していても始まらない。
体を拭いて、昼の間着ていたジーンズとポロシャツを洗濯機に入れる。
白のブラとショーツはネットに入れてから洗濯機に入れる。
寝室の鏡台の前に座り、ファンデーションで髭を隠す。
大ちゃんはスッピンでいいと言うけれど、それは男のひとの考え方で女の感じ方じゃない。
どんな時でも好きな人の前では最善の自分でありたいのが女というものだ。
ファンデーションと、ほんの少しのチークとアイラインでスッピン風のメイクを作る。
これだけで中性的な顔立ちが女性寄りになるのだから安いものだ。
あざとくならないようにこのあたりで切り上げ、今夜の衣装選びに移る。
時計を見ると、もう七時を回っていた。
そろそろ大ちゃんの乗った電車が駅に着く頃だ。急がないと。
浣腸器を使ってローションを直腸に注入する。
前以て仕込んでおけば、冷たいローションに気分を盛り下げられることも無い。
それにローションが泡立つと、出し入れするたびにいやらしい音がして大ちゃんが喜ぶ。
これは塗っただけじゃ分からない。
今日は何を着て抱いてもらおうか。
昨日はスカートが膝上丈のセーラー服だった。一昨日はナース服。
一昨昨日は初夜(勿論二人にとっては初めてではなかったけど)だから裸だった。
やっぱり女として抱くからには、女の子の服の方が大ちゃんは興奮するらしい。
服次第でオチンチンの反応が違って面白い。
大学時代に初めて大ちゃんの家に来た時に、チアガール物のDVDがあったことを思い出す。
あの頃はただの友達で、まさか大ちゃんとエッチ出来るなんて思わなかった。
決めた。今日はチアガールのコスプレでしてみよう。
箪笥から衣装と一緒に黒の下着とソックスを出す。
レースのブラは75のAでパッドが一枚入っている。
脇腹と背中から皮下脂肪をかき集めて乳を作り、なんとかカップに収める。
ここまでしても、まったく谷間が出来ないのがあまりにも情けない。
思わず溜息が出る。
どんなに「おっぱいは大きさじゃない」と言っても、それは元からある程度大きい人の理屈だ。
パッド入りの胸を触ってみると、掌が浮くか指先が余るかのどちらか。
大ちゃんはそのままで良いと言ってくれるけど、満足しているわけが無い。
パイズリ出来る位とまでは言わないから、せめてパッドが必要ない程度には大きくしたい。
一つ大きく溜息を吐いて、無理矢理気分を変える。
同色の紐パンを右側だけ結び、睾丸を付け根の窪みに押し込んで竿を後ろに回す。
右手で股間を抑えたまま、左手で左腰の紐を引いて生地を密着させ、右手を抜いて紐を結ぶ。
これで恥丘に見えないことも無い。
本来ならこの上にレオタードを着てからスパッツやブルマを穿いて、さらにアンスコを穿くこともあるらしい。
コスプレとしては実用性にかけるので、今日は直接紺色のブルマを穿く。
プリーツスカートの生地は黒で、ウエストとボックスプリーツの内側の生地がオレンジになっている。
シャツの身頃は白で、襟と袖、裾が黒い生地になっていて、境目にオレンジの縁取りがある。
着姿を鏡に映すと、胸の平らかさとくびれの乏しさがいくらか誤魔化せたように見える。
これなら大ちゃんも少しは欲情してくれるだろうか。
エプロンを締め、キッチンで念入りに手を洗う。
肉じゃがとお味噌汁を暖めなおしながら豆腐を切っていると、チャイムが鳴った。
私が玄関に出るのと大ちゃんが鍵を開けて入ってくるのはほとんど同時だった。
「ただいま」
優しいバリトンの声が耳をくすぐる。
私より拳二つは高い大ちゃんの頭が、今は少し下にある。
紺のスーツ、白いシャツ、黒い革靴と鞄、短く切りそろえられた黒髪、ほのかに香る汗の匂い。
どこにでもいそうなひと。
私を愛してくれるただ一人のひと。
「おかえりなさい」
ちゃんと今日も無事に帰ってきてくれた。それだけのことで、涙が出そうになる。
涙声になっていなかっただろうか。
こんなことで大ちゃんに心配させちゃいけない。
私に鞄を渡すと、大ちゃんは廊下に座って靴を脱ぐ。
ちゃんと靴紐を緩めて、靴べらを使って脱ぐ。
節くれだった指がしなやかに動いて靴に触れる度に、その靴にさえ嫉妬しそうになる。
人にも、物にも優しいのは大ちゃんのいいところだと思う。
でも、それでも嫉妬してしまう。
私だけを大事にして欲しいという嫌な気持ちが鎌首をもたげてくる。
大ちゃんの大きな背中を眺めてその嫌な気持ちを振り払う。
その背中には一昨昨日につけた爪痕が、首筋には歯形が今もおそらく残っている。
私が謝ると、大ちゃんは「感じてくれたみたいでちょっと嬉しい」とはにかんだ。
「俺を傷つけていいのはおまえだけだ」とも。
それを思い出すたびに、私はこのひとにとって特別な存在なのだという自信が沸いてくる。
「なあ、美樹」
「はっ、はい」
大ちゃんが靴にシューキーパーを差し入れ、廊下に立って私を見下ろす。
ちょっと驚いて敬語になってしまった。
「はい、ただいまのチュー」
大ちゃんの厚くてしっかりした唇が私のおでこに触れる。
思わず肩が震え、小さく声が漏れる。
唇同士でしたわけでもないのに、私はそれだけで感じて動けなる。
大きな手で頭を撫でられると、目を開けていられなくなり、息が荒くなってしまう。
大ちゃんに女にされてから、私の体はもう自分の意思では動かせなくなった。
いつでも大ちゃんの思うがままに動くように調教されてしまった。
でもそれは不便ではなく、むしろ幸福だとさえ感じている私がいる。
私の全てはこの人のためにのみ存在しえるのだ。
掌で優しくぽん、と叩かれると、金縛りが解けたように体に自由が戻る。
「今日はチアガール?可愛いな」
可愛い。そう素直に言われると面映い気分になる。
「うん、そういえば大ちゃんこういうの好きだったなと思って。
ご飯にするから待っててね」
そう言って私はキッチンに戻る。
というのは建前で、大ちゃんに褒められたのが恥ずかしくて逃げ出したかっただけなのだけれど。
大ちゃんは今夜もおいしいおいしいと言ってご飯を食べてくれた。
こうして食器を洗っていても思わず頬が緩む。
「美っ樹っちゃ~ん」
洗剤を全て流して一つずつ食器を拭いていると、後ろから大ちゃんが抱きついてきた。
ひゃう、と変な声が漏れ、思わず食器を取り落としそうになる。
「だ、大ちゃん……?」
つんとした汗の匂いの中にある、僅かに甘い男のひとの匂いが鼻腔をくすぐる。
まずいなぁ。エッチのスイッチが入っちゃいそうだ。
「んー、エプロン締めたチアガールってのも良いなあと思って。
ごめんな。ちょっと我慢できない」
大ちゃんは私が食器とタオルを置くのを待って、私の左手を取った。
そのまま肩越しに薬指を舐め始める。
「ん……あっ!」
大ちゃんの唇が指輪を嵌めていたところに触れたとき、背筋に電気が走ったような快感を覚えた。
指輪は濡らさないように今はポケットに入れている。
まさかただの指フェラで声が出るとは思わなかった。
「んっ……ちゅぱっ……。ほら、俺のも舐めて」
目先で大ちゃんのごつごつした左手がひらひらと踊る。
薬指の指輪が蛍光灯の灯りを受けて閃く。
言われるままに私は右手でその大きな左手を掴み、口元へと持っていく。
指輪に一度口付けると、あとは止まらなかった。
じゅる、ちゅぱ、と大きな音を立てて執拗に薬指だけをしゃぶり続ける。
あるときは根元まで咥え込み、またあるときは舌先で舐める。
一番感じるのは指輪に触れたときだった。
暖かい金属の感触を感じると背筋を貫くような快感が走り、さらに指フェラに没頭していく。
大ちゃんはしばらく私の指フェラを愉しむと、やわやわと舌を動かし始めた。
始めは全体を嬲るように動かしていたけれど、次第に動きが速くなっていく。
その間も私の奉仕は加速していく。
ところが、途端にその余裕がなくなった。
「は……ん、ゃ……あっ」
大ちゃんが薬指の根元周囲を舌先で転がすように舐め始めたのだ。
舌の動きに合わせて、ぞくん、ぞくんと断続的な快感が襲ってくる。
もう私の奉仕は止まって、ただ咥えているのが精一杯だ。
「やっ、はっ…んっ、あっ……にゃっ」
私がただ喘いでいる間にも大ちゃんの責めは速くなり、立っているのも辛くなる。
大ちゃんが唇を耳に近付け、小さな声で呟く。
「美樹ばっかり気持ちよくなってずるいなぁ……。
ねぇ、もっと俺のも舐めてよ」
「ごっ、ごめんなさっ、……んんっ!」
私が奉仕を再開しようとすると、大ちゃんが根元を唇で挟んで強く吸ってくる。
あまりの快感の強さに腰が逃げて、大ちゃんの股間にお尻を押し付ける格好になる。
大ちゃんのオチンチンは、もう完全に勃起していた。
お尻が当たっているのは分かっているはずなのに、大ちゃんは敢えて無視して責め続ける。
私の口の中はいつの間にか奉仕すべき薬指に蹂躙されていた。
舌は裏表問わず撫でられ、それに反応して絡めようとすると逃げられて歯茎や上顎を撫でられる。
「あっぅ、やっあっあっ、ふゃっあっ!」
恥ずかしげもなく喘ぎ、尻を夫の股間に擦り付ける。
膝はがくがくと震え、大ちゃんの右腕に抱えられていなければ立っている事も出来ない。
目は開いていても何も見えず、音は聞こえていてもそれが何を示しているのかわからない。
今は触覚と嗅覚と味覚しか働いていない。
大ちゃんの動きが、匂いが、味が、その全てが私を高みに押し上げる。
「噛んでもいいか……?」
「うん……、うん!」
わけも分からずただ首を縦に振り、身を委ねる。
痛みと言うには穏やかな、圧力と言うには鋭い感触が薬指から伝わる。
それは強くなっては弱くなりを繰り返し、少しずつ力を強くしていく。
背筋にはその度にびりびりと快感が走り、私の思考力を奪っていく。
かわりに腰のあたりには、ずん、と重いものが溜まっていく。
快感に耐え切れずに、愛する人の指が口中にあることも忘れて歯を食いしばる。
そして前歯に伝わる硬い骨の感触。
それにさえ快感を感じ、顎の力は一層強くなる。
ほぼ同時に私の薬指にも締め付けられるような痛みが走る。
すると腰の辺りにあった重いものがはらりと解けるように消え、全身に力が入らなくなって崩れ落ちる。
「はぁっはぁっはぁっ、はぁっ、はぁ、はぁ、はぁー……」
前のめりに崩れ落ちたはずだったが、大ちゃんに抱えられていたおかげで倒れはしなかった。
床にへたり込んで息を整えていると、大ちゃんに頭を撫でられる。
「すごいな。指フェラだけでイッちゃうんだ。随分エッチになったんじゃない?」
「ちっ、違っ!これは、薬指で、大ちゃんだから……!」
そう弁解してから、却って恥ずかしいことを言っていると気付く。
顔が真っ赤になっているのが分かる。
俯いて何も言えずにいると、ひょいと抱き上げられる。
「ちょっ、大ちゃん!?」
大ちゃんは何も言わず、どっかどっかと大股で寝室に入る。
私を抱き上げたまま、ダブルベッドに勢い良く腰を降ろす。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。そこまで言われちゃあもう止まらんぞ」
大ちゃんは私を股の上に座らせ、後ろから胸を揉んでくる。
先程絶頂を迎えたばかりの私にとっては、着衣のままでも十分な刺激となる。
大きな掌、骨ばった指、男らしさの象徴のような手が私の胸をまさぐる。
その見た目とは裏腹に、その動きは優しくしなやかだ。
「はぅ、んっ……ぅやぁ」
エプロンの上からではろくに確認できない私の胸を掌で掬う。
大ちゃんの手が大きいことを差し引いても、指先が随分余っている。恥ずかしい。
掌で乳首を包み、8の字を書いたり円を描いたりして私の胸をもてあそぶ。
気持ちいい。気持ちいいけれど、物足りない。
「腰、動いてるよ」
耳許でそう言われて、初めて自分がお尻を擦り付けていたことに気付く。
「あれ?止まっちゃった」
白々しい。そんなことを言ったら私が我慢するのを分かって言っている。
普段はすごく優しいのに、エッチの時の大ちゃんはすごく意地悪だ。
どうせこの後も、「入れて欲しかったらおねだりしてごらん」とか言うに決まってる。
でもそれはあまり嬉しくない形で裏切られた。
「俺の愛撫が足りないのかな。ごめんね。もっと気持ちよくしてあげる」
大ちゃんはそう言うと、上衣の下に手を差し入れる。
裾が捲れあがって、くびれの無い脇腹が覗く。
大ちゃんの手はすぐには胸に行かず、おなかを撫でさする。
「やっ、やだっ!恥ず、かしい……よぉ……」
エプロンの脇から、上衣によって隠されていた脇腹が大ちゃんの目に晒される。
見せたくない。胸もそうだけれど、胴から腰にかけてのラインは誤魔化しきれない男の証。
ブラで誤魔化せる胸の方がよほどマシだ。
「なんで?エプロンから覗くお腹とかすっごいエッチで可愛いよ?」
大ちゃんの唇が首筋に触れる。ぞくぞくした快感が腰の少し上から背筋を昇ってくる。
嫌なのに、くびれの無いウエストを見られるのは本当に嫌なのに、唇一つで私の体から自由は失われる。
私の意志とは裏腹に、息は荒くなり、歯の根は合わなくなる。
嫌だ。これじゃあまるで感じているみたいだ。いや、みたい、じゃない。多分実際に感じている。
男の部分を見られて感じているなんて、お嫁さんじゃない。
キスが気持ちよすぎて喋れない。涙が出てくる。
大ちゃんの手が胸に伸びる。ブラを上にずらし、さっきより強く胸を揉む。
ブラで嵩上げされていた胸は一層平らかになり、情けない有様になる。
恥ずかしいし、申し訳ないけれど、お腹で感じるよりはずっといい。
乳首を摘まれて引っ張られると少し痛い。皮が伸びて膨らみが出来るのが少し嬉しくもあるけれど。
「また腰が動いてきたね。それじゃ、そろそろイかせてあげよっか」
入れてもらえる。犯してもらえる。その期待はまたもや裏切られた。
大ちゃんは右手で乳首を摘んだまま、左手でスカートの裾を持ち上げる。
そしてブルマに手を差し入れてショーツの紐を左側だけ解き、私の最も醜い部分に触れる。
「や、らぁ……、はぁっ、やめ……へぇ……」
私の精一杯の抵抗は、却って大ちゃんを煽る結果しか招かなかった。
ブルマから取り出されたそれは赤黒く、大きく、グロテスクで、先端からは先走り汁が迸っていた。
こんなにも気持ち悪いものが自分の肉とは思えない。思いたくない。
それなのに、それは大ちゃんの手の動きに敏感に反応して、絶頂の瞬間を今か今かと待ちわびている。
感じたくないのに感じてしまうのがこんなにも嫌悪感を伴うものだなんて知らなかった。
「ほら、先っぽが膨れて、今にもイッちゃいそうだよ」
大ちゃんの唇が首から離れる。いくらか体の自由が戻る。
両手で大ちゃんの左手を必死に掴む。
「やだ……やだやだやだ、やだやだやだやだやだやだやだやだやだぁっ!」
やっとまともに喋れた。堰を切ったように涙が出てくる。
嫌だ。これじゃあ大ちゃんを困らせてしまう。どうにかして止めないと。
「美樹?ごめんな?痛かったか?」
大ちゃんの右手が乳首から離れ、遠慮がちに頭に置かれる。
ああ、やっぱり困らせてしまった。これじゃあ、大ちゃんに嫌われちゃう。
「ごめっ、なさい……。大丈夫、気持ち……いいの。気持ちいいのから、嫌なの。
でも……私は、大ちゃんのお嫁さんだから……オチンチンは、触られたく、ないの……」
大ちゃんは、ゆっくり頭を撫でながら黙って聞いてくれている。
「ごめんね……おっぱいはペタンコだし、お腹だって太いし、結婚式も挙げられないし、
それに、赤ちゃんも産んであげられない……。 これじゃあ、つまんないよね……」
不思議だ。
いつもは頭を撫でられるとどきどきして、エッチな気分になって体が動かなくなる。
それなのに今は、一撫でごとに落ち着いていって涙が退いていく。
ああ、やっぱり私は大ちゃんが好きだ。大好きだ。
だからこそ、嫌われたくない以上に、大好きな人には満たされていて欲しい。
「ねぇ、大ちゃん。浮気しても、良いんだよ……?たまには女の子も欲しいでしょ?
私、我慢するから。赤ちゃんも、作っていいから。だから、好きでいても……良い?」
大ちゃんの手が止まる。やっぱり男の子じゃあ女の子には勝てないんだろうか。
「美樹、指輪出して」
大ちゃんの声が冷たい。怖い。嫌われるだけなら良い。
もともとあるはずの無かった関係だ。諦めもつく。
でも、好きでいることすら拒絶されたら、私はどうすればいいのだろう。
おそるおそるエプロンのポケットから指輪を取り出す。
大ちゃんはそれを荒々しく奪うと、私の指を無理矢理ねじ込んだ。
「なあ、『結婚は人生の墓場だ』って言うだろ。墓場ってな、良いもんだなあと、俺は心底思ってる」
大ちゃんのぶっきらぼうな声が耳を打つ。それはつまり、
「いいか?俺はお前が思ってるよりずっとお前に惚れちまってるんだ。
やれって言われたって他の女なんか抱けねえよ。」
左の薬指を力強く掴まれる。
舐められた時とは違う、腹の底を締め付けられるような、切ない快感を感じる。
だめだ。今日は何をされても涙が出てきてしまう。涙腺が壊れてしまったみたいだ。
「でも、ごめんな。お前も気持ちよくさせたいと思ったけど、やり方が悪かった。
どうすれば気持ちいいか、教えてくれるか?」
大ちゃんの気遣いが心にしみると同時に、より一層の申し訳なさを感じる。
好意を無碍にしてしまったことに、その愛を僅かでも疑ったことに。
「うん……、私こそ、ごめんね。
私はね、大ちゃんが気持ちよくなってくれるのが、一番気持ちいい。
身体じゃなくてね、心が……、気持ちいいの。
『ああ、私でも女の子の代わりが出来るんだ』って、凄く嬉しいの。
だから、あのね……?女の子にするみたいに、して欲しい……」
薬指が開放される。それを名残惜しむ間も無く、ブルマの下に左手を差し入れられる。
お尻を撫でられ、涙で滲んだ視界が急に鮮明になる。
上半身が倒れそうになるが、右手で胸を直に掴まれて身動きが取れなくなる。
「やっ!あっ……!」
下には弱く優しい刺激が、上には強く痛みさえ伴う刺激がもたらされる。
全く対極の刺激なのに、どちらも気持ちよくて思考が蕩けてゆくのを感じる。
「優しくできなかったら、ごめんな」
「ふあっ……あああ……はうぅ……」
大ちゃんの指が入ってくる。まだ濡れていないから、突っ張って少し痛い。
それでもオチンチンに比べればずっと細い指は、ずぶずぶと根元まで埋まってしまう。
入り口に硬い金属が触れたことから、薬指が入っているとわかる。
「ほら、美紀の好きな薬指」
大ちゃんの触れているところが熱い。
熱したナイフをバターに突き入れたように、理性が溶け出していく。
指を出し入れされる度に、関節が引っかかって入り口の辺りが熱くなる。
「よだれ、出てるよ」
「ぁ、や、やらぁ……」
唾液を飲み込もうとしても、大ちゃんが指を動かすだけで舌がうまく動かなくなって飲み込めない。
それでも歯を食いしばって、せめて零すまいとしていると、お尻の中で薬指を曲げられる。
「ひんっ!ひゃぁう……!はっ……!ふわっ……!」
鉤状に曲げられた指でお腹を中から背中側に圧迫される。
指が中で動くと、指先の触れているところがむずむずする。
前立腺を突かれているときの感覚とも違う、重く持続する快感。
動きに合わせて声が出るのを抑えられない。
やだ、よだれが零れちゃった。
今はそんなことどうでもいいはずなのに、凄く恥ずかしいように感じる。
ぐちっ、ぬちゅっ、とお尻から音がする。
指を曲げたまま出し入れされたせいで空気が入っている。
中を綺麗にしたとは言っても、いくらか臭いがする。
「や、やらっ……!や、め……!臭い、から、んゃぁっ!」
恥ずかしいのに、大ちゃんはやめてくれない。
それどころか、私の抗議を妨害するように責める。
「ん?いい匂いだよ?」
そう言って大ちゃんは指を引き抜いて鼻を鳴らす。
「うぅ……、変態ぃ……」
入れられている時は苦しいとさえ感じるのに、引き抜かれると途端に名残惜しくなる。
私も大概、変態だ。
うつぶせになって、ブルマから半分顔を覗かせているお尻を高く持ち上げる。
右手でお尻を割り開くと、大ちゃんの指によって緩められた穴が口をあける。
自分でしておいてなんだが、身体の中を見られるというのはやっぱり恥ずかしい。
視線で身体の中まで犯されているような気がして、こうしているだけで興奮が高まる。
この体勢だと大ちゃんの顔がよく見えないのが少し寂しい。
「ねぇ、お願い……。入れて……?」
待ちきれなくなって、つい自ら腰を揺らしてねだってしまう。
顔は見えないけれど、大ちゃんがにやついている様がありありと想像できる。
恥ずかしいけれど、大ちゃんが喜ぶならそれもいいかと思える。
大ちゃんの両手が私の腰を掴む。
唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
それがどちらのものだったのかはよくわからない。
私はただ期待感に陶然とすることしか出来なかった。
あたたかい、瑞々しい感触がお尻の穴に触れる。
もう今にもはちきれそうだ。
ぐい、と腰を引き寄せられる。
同時に肉茎が力強く前進してくる。
漏れ出たローションで充分に濡れていたそこは、いつもより一回りは大きい肉棒を容易く飲み込む。
よだれがだらだらと顎を伝うのがわかる。
熱い。お腹の奥がかっかと熱くなって、自分の輪郭さえあやふやに溶けてしまったようだ。
それなのに、大ちゃんの触れている部分だけはやたらと鮮明な快感を伝えてくる。
大ちゃんの肉棒が更に前進し、直腸の奥に、こつん、と当たる。
脳天まで鉄の杭で、あるいは雷で貫かれたような感覚に襲われる。
腰が勝手に痙攣する。
私の腰は逃れようと左右にのたうつのに、大ちゃんは腰の前進をやめてくれない。
結果的にS字結腸を亀頭でこね回されることになる。
快感は留まることを知らず、それどころか動くごとにその強さを高めていく。
もう自分が感じているのか苦しんでいるのか、喘いでいるのか泣いているのかも判然としない。
ふと、大ちゃんの腰がわずかばかり引かれる。
快感の波が一段落し、まともな呼吸が出来るようになる。
「大丈夫か?白目剥いてたぞ」
大ちゃんの左手が腰から離れ、ベッドに着いていた私の左手に重ねられる。
かちり、と指輪の触れ合う音が骨を通じて伝わる。
貫かれるような快感ではなく、じんわりと、お風呂に浸かっているような快感に包み込まれる。
「ら、らい、ひょう、ふ……。らから……、もっろ、ひれ……?」
自分でも何を言っているのかわからない。こんな有様で大丈夫も何もあったもんじゃない。
それでも大ちゃんは、ゆっくりと腰を前後し始めた。
とん、と腰が打ち付けられるたびに、快感に身体を貫かれる。
引き抜かれる際には、左手を中心に快感に包み込まれる。
その相乗効果で、私は快感のさらなる高みへと押し上げられる。
大ちゃんの腰の動きが速く、深くなる。
自然、腰を打ち付けられる際の快感は鋭く、大きくなる。
「ひゅき……ひゅきぃ……!」
自分としては「好き」と言ったつもりだったが、果たして正しく発音できただろうか。
「ちょっ、美樹……それ反則……!」
大ちゃんのオチンチンがぷくりと膨らむ。
もうイキそうになってる。いつもよりずっと早い。
それだけ感じてくれたということなら、これに勝る悦びは無い。
お腹がきゅぅんと切なくなって、知らず知らずお尻が締まる。
「ひゅき…、ひゅき、ひゅき、ひゅき、ひゅきっ、ひゅきっ、ひゅきっ、ひゅきっ!」
もうだめだ。さっきからずっとイキっぱなしで、好き以外のことが考えられない。
大ちゃんの両手に力が入る。左手も、腰も、ぎりぎりと締め上げられて骨が悲鳴を上げている。
「ごめ……っ、美樹、も……出……!」
大ちゃんの手に、より一層の力が入る。
私の腸内でオチンチンがひくひくと震え、じわりと暖かいものが広がる。
ああ、私でイッてくれた。そう身体で理解すると、腰の奥から弾けるような快感が広がり、私の意識は途切れた。
次の朝、私が起きたのは大ちゃんが仕事に行った後だった。
寝起きの呆けた頭で前日の夜に何があったかを思い出して七転八倒し、サイドテーブルにある
「仕事に行く。何処も痛くないか?愛してる。大祐」
と書かれたメモを見て不覚にも涙を漏らす。この素っ気無さと正直さが大ちゃんらしい。
同棲中も、結婚してからも心のどこかにあった負い目が、「愛してる」の一言で氷解するのを感じる。
きっとこれから死ぬまで、私は女に生まれたかったと思い続けるのだろう。
でもそれでも私は、「大ちゃんの妻だ」と自信を持って言うのだろう。
それが私の、大ちゃんの想いに対する誠意だ。
さて、今晩は何を食べさせてあげようか。
了
最終更新:2013年04月27日 18:42