・・・・・・カッ、カッ、カッ・・・・・・
人気の消えた深夜の城下街を、『あたし』は、興奮に震えながらあてもなく散歩する。
黒いローブの下には女物の下着、それも隠すべき部分が切り抜かれた、
本来の役目を全く果たしていない無用のいやらしい品だ。
生れつきの黒髪を燃えるように真っ赤なカツラで覆い、眼鏡で顔をささやかに隠す。
これが今のあたし。女顔の『ぼく』じゃない、オンナの『あたし』、
柔らかな物腰の若騎士ではなく、露出マゾの変態女。
そんな趣味が、もし、バレたらどうしよう。
王子を守る近衛騎士の地位も一瞬で吹き飛んで、誰も彼もが
あたしを軽蔑し、罵声や唾や石を降らせるだろう。
そんなことを夢想しながらあたしは、みなぎったペニスを
濁った先走りでぐしょぐしょにしていた・・・・・・
「フィム、ちょっといいかな?」
護身のための剣の稽古を終えた王子が、ニヤニヤ笑いで聞いてくる。なんか嫌な予感。
王子がこういう言い方をするときは、たいてい厄介な用件を告げてくるからだ。
「はっ、はい、何でしょうか?」
先程までやっていた木剣での打ち合いで乱れた息を整えながら
ぼくは王子に尋ね返した。
「なんかね、聞いた話なんだけどさ」
金髪をクリクリいじりながら言葉をつづける。息は全く乱れていない。
剣の腕はまだ素人に毛が生えた程度だが身体能力は13歳にして、というより
人間としては異常ともいえるレベルで、稽古のときは常にその凄さに舌を巻かされる。
王子いわく、まだ手加減しているそうだ。本気でやると、剣術を教えてもらう前に
ぼくを失神させてしまいそうだからとか。
これでも秀才と呼ばれてきただけに、その言葉を聞いて悔しかったが
同時に王子の怪物さも理解できたので、まあ納得はいった。
「・・・どのようなお話でしょうか?」
わずかな不安を押し隠し、話の先をうながす。
「真夜中の城下街にね、出るらしいんだよ・・・・・・・・・痴女が」
「ち、痴女、ですか・・・」
息が詰まる。
血の気が引いていくのが驚くほど鮮明にわかる。
「何でも黒ローブを羽織って、下はいやらしい下着姿らしいよ」
王子はおかしそうに言葉を続けた。
「フィムは聞いたことない?」
上目使いで僕と目を合わせてくる。そんなことまで知れ渡ってるのか。
にしても王子は一体誰からそんな話を聞いたのか。いや、それより・・・・・・
「どしたの?」
「いっ、いえ・・・・・・・・・思い出してみましたが、そんな噂はとんと聞いた事が」
・・・・・・なぜ、ローブの下がいやらしい下着だとわかるのか。誰にも見せてないのに。
「これは勘だけどね」
王子が右手人差し指を立てて、推理らしきものを披露し始めた。
「きっとその痴女は、女性じゃなく女装した男性、それも二十歳前と若いね。
恐らく騎士団かあるいは傭兵部隊に所属してると見た。もしかしたら、
ボクは会ったことがあるかもしれない。どうかなこの予想?」
僕は何も言えなかった。ただ破滅の足音を聞いていた、はずだった。
「あくまで予想だけどね。でさ、もし・・・・・・もしもだけど、
君がその人物に会うことがあったら、夜に、ボクの寝室に来るよう伝えてほしいんだ」
驚愕に目を見開いた僕を気にも止めずに王子はこう言った。
「・・・・・・僕の穴奴隷になってもらうためにね」
・・・ぼくは、ただ頷くしかなかった。股間を期待でガチガチにしながら・・・
最終更新:2013年04月27日 18:49