楽しい学校生活


九月も最終週に入り、少しづつ涼しくなってきた。
夏休みが終わる時はみんな憂鬱だったろうけど、僕は特にそうだった。
理由は単純、いじめられっ子だからだ。

僕は橋村みずき。今年中学生になり、5月という半端な時期に転校してきた。
小柄で気が弱く、女子のような名前と外見。学校には知人も友人もいない。
こんな僕がいじめられっ子になるのは仕方ないのだろうか。気づけば小突かれ、からかわれるのが日常となっていた。
はじめはクラスの不良っぽい人たちからいじめられ、その後、彼らが飽きたのか別の人たち
――今まさに僕をいじめている人たち――にターゲットにされた。
このグループは最初の人たちより数段タチが悪い。
優等生グループで教師陣の信頼もあり(そもそもイジメを黙認する先生ばかりだけど)
2年、3年の先輩までいて、やることも1年生の不良よりずっとえげつなかった。
夏休みが終わり、また苛められる日々…そして今日、今までのいじめより数段ひどい命令をされた。
僕の中学生活が真に屈辱まみれとなる最初の日だ。

僕は空き教室でいじめっ子に囲まれ正座していた。
「反省してるかな?自分の立場は分かったかな?」
3年生のリーダー格、華村裕子さんが子供を諭すように聞いてくる。
「はい、すいません。今後、生意気な態度はとりません」
相手の機嫌を損ねないように必死に答える。
ここ数日、いじめには毅然とした態度で臨むべきとの一般論を信じて、
命令にさからい強気な態度で反抗していた。
でも、それでどうにかなる人たちではなかった。
反抗した結果、散々暴力をふるわれ、人前で服を脱がされ、お尻に鉛筆やお菓子を入れられ、
心身ともにいじめ抜かれて僕は屈服した。
いま、プライドを捨ててとにかく許してもらおうとしている。
「うん、じゃ許してあげるけど…」
「言葉だけじゃだめだね」
裕子先輩の言葉を裕人君が続ける。この2人は姉弟で、裕人くんは1年生だ。僕のクラスメートでもある。
2人とも穏やかな口調で話すけど、決して優しいわけではない。逆らえば容赦なくいじめてくる。
「逆らう気が無いって事を証拠つきで示しな」
同じくクラスメートの秋沢いずみさんがさらに続ける。でも、証拠って言われても…
よく見ると周りの人がみんなニヤついてる。何をする気なんだろう。


「そ、ちゃんと態度で示すのが大切なの。だからこれで示して」
裕子先輩が僕に紙袋を渡す。中を確認すると女性の下着が入っていた。
白にピンクのリボンがついた揃いのブラジャーとショーツ。まさか…
「明日からそれを着てきてね」
そ、そんな。なんて事を思いつくんだろう。
これはあまりにも恥ずかしい。
「もし着てなかったら反抗の意思ありとみなして…どうしようかな?
 うふふ…おちんちん…に傷をつけちゃおうか」
「ひっ!」
反射的に自分の股間を手で押さえる。
『おちんちん』と口にする時、わざとらしく小声になり恥らった仕種を見せる。
おどけた言い方をしてるけど、この人は本当にやりかねないと思わせる何かがある。
「お返事は?」
「は、はい」
慌てて答える。思わず言ってしまった。何とか交渉して他の事にできないかと考えるけどもう遅い。
「じゃ、約束だよ」
「たのしみだなぁ」
「朝チェックするからね」
そんな事を言いながら、みんな帰っていく。
本当にこれを着なければいけないのか。
しかも『明日から』って言ってた。『明日以降も』って事なのだろうか。
やっと解放されたけど、明日からのことを思うと気が滅入る。


翌朝、学校へ行く準備をしながらまだ躊躇していた。
母さんはもうとっくに出勤した。母子家庭なので家には僕一人だ。
おかげで女性用下着を着けようとして思い悩むなんて姿は見られなくて済む。
改めて下着を見てみる。上下ともに色は白。
ブラジャーはカップ部分にピンクの縁取りがあり、フロント部中央と肩紐の付け根にピンクのリボンが付いている。
ショーツもフロントにピンクのリボンつきだ。
やっぱり恥ずかしい。でも着ていかなかったら何をされるか…
意を決して、ショーツに足を通す。
トランクスと違い、肌にくっつく感触がある。
でも締め付けられる感じではなく、柔らかな肌触りだ。その感触に少し興奮してしまう。

続いてブラジャーにとりかかる。背中でうまくホックがとめられない。
しばらく悪戦苦闘したのち、前でホックを止めてから回転させればよいことに気づいた。
こちらは胸が少し締め付けられる感じがする。肩に掛かる紐の感触もタンクトップなどよりずっと強い。
苦しくはないけれど、今までに経験したことの無い感触で気になる。
すぐに服を着るつもりだったけど、鏡に映った自分の姿が目に入ってしまった。
その瞬間、ものすごい羞恥心が襲ってくる。
華奢なせいかそれほど違和感は無い気がする。でも、胸がないためブラジャーのカップが
浮いていることが一目でわかり滑稽だ。
おまけに、ショーツの前が思いっきり膨らんでいる。認めたくないけど僕は勃起していた。
鏡に映った姿は『変態』と言われたら全く否定できないものだった。


この格好で学校に行くと思うと泣きそうになってしまう。
ワイシャツを着て、胸の膨らみがそんなに目立たないことを確認して安心したのも束の間、
鏡で確認するとブラジャーが透けて見えることが分かってまた気分が落ち込む。
Tシャツを着ることも考えたけど、いじめっ子の機嫌を損ねることを恐れてやめた。
ズボンを穿き、ブレザーを着ればさすがに下着は全くわからなくなる。
それでも全く落ち着かない。特にブラジャーを着けた肩と胸の違和感を無視できず、憂鬱な気分で家をでた。
学校までの道中、みんなが僕を見ているような気がしていた。
制服の下が見えるはずも無いのに、恥ずかしくて俯きながら歩き、ようやく学校へ到着する。

下駄箱で靴を履き替えていると、いずみさんが手招きしていることに気づいた。
「おはよう……ございます」
情けないけど同級生に敬語で挨拶する。
「おはよう、ちゃんと着てきた?」
楽しそうな表情で聞いててくる。『可愛らしい笑顔』の見本みたいな顔で、僕をいじめる相手だと
分かっていても惹きつけられてしまう。その質問内容は今すぐ逃げたくなるものだけど。
「…はい」
僕は蚊の泣くような声で答える。その答えを聞いて、いずみさんはさっきより意地悪い笑顔になる。
「そっか…いやぁ、みずきとの共通点が増えてうれしいなぁ。」
ニヤニヤしながらそう言って歩き出す。いつもの空き教室に向かっているみたいだ。


「ねぇ、みずき。あたしのブラ透けてないかな?」
歩きながらそんな質問をしてくる。実際、微かにだけどブラジャーは透けて見えていた。
「あ、あの、透けてます」
「う~ん、透けちゃってるか~。やっぱ人に見られると恥ずかしいんだよねぇ。わかる?」
「は、はい」
「え、わかるの?もう経験済み?」
「あ、いえ、その、透けて見えたら恥ずかしいだろうなと…」
「ふーん、経験ないのに軽々しく分かるとか言ったんだ?アタシの悩み相談に適当な返しを。
酷いなぁ、ブラを着けてる仲間なのに…経験させてあげないといけないかなぁ?」
そんな!無茶苦茶な理屈だ。どう答えても僕をいじめる気なんだろうけど。
いずみさんのブラジャーが見えた興奮と、
同じ下着を着用している自分を揶揄された恥ずかしさとで顔が熱くなる。
同時に股間も熱くなるような感覚がある。それが一層羞恥心を煽る。
気持ちが昂ぶる余りうまく喋れず、かすれた声で謝る。
「…あ、ごめんなさい!で、できれば経験したくないです」
「そうだよねぇ。でもこれからずっとブラしてるんだし、それは難しいんじゃない?」
「きょ、今日だけじゃ…許してもらえないんですか?」
無理かなと思いつつ、一縷の望みを託し、恐る恐る聞いてみる。

実は僕がいじめられてた当初、いずみさんは止めに入ってくれたことがあった。
それに、友達が全然できない僕に積極的に話しかけてくれた人でもある。
根は優しい人だと信じてる!

「うん。裕子先輩がどんなつもりか分からないけど、アタシが許さないからね」
希望を託した相手から直々にいじめる宣言。しかも僕と同級生だから3年間解放されない可能性…
完膚なきまでに希望を打ち砕かれ、沈んだ気分で目的の教室に辿りついた。


教室には既にイジメグループの人たちが集合していた。
裕子先輩がいつものように笑顔で話しかけてくる。
「おはよ、みずきくん。約束守ってくれたよね。じゃ、早速服を脱いで」
「は、はい」
逆らえないのは分かっている。でも、みんなの視線を一身に浴びるとそれだけで恥ずかしくなり、
なかなか服を脱ぐ決心がつかなかった。
「あら?焦らすにしても脱ぎながらにしてほしいなぁ。私たちの手で脱がしてあげてもいいけど、
手を煩わせた分、お仕置きポイントが貯まっちゃうよ?」
優しそうな表情と楽しそうな声で僕を脅してくる。
しかし、名前から大体想像つくけど「お仕置きポイント」って何だろう?
とにかくこれ以上躊躇していられない。上から順に脱いでいく。

ワイシャツを脱いでブラジャーが露になった時点で周囲がざわめく。
「ぷっ」てわざとらしく吹き出したり、「可愛い~」って声が上がったり。
この時点で逃げ出したかったけど、そのままズボンも脱ぎ完全な下着姿となる。
怒られるかもと思いつつ、両手を前に回して少しでも隠そうとする。
せめて勃起したペニスだけでも隠したい。
「うわぁ、最低。変態がいるわ~」
「ほんとに着てくるかぁ。プライドとか無いのかな」
「いや、似合うよ。オカマっぽいし、これがみずき本来の姿だよ」
ギャラリーから好き勝手な声が上がる。恥ずかしくて涙目になり俯く。
一方、股間のペニスはすごい勢いで上向いてる。うそだ、これは何かの間違いだ…


「うん、私たちに逆らう意思は無いんだね。とっても可愛いよ、みずきくん。
あ、まこちゃん、これしまっといて」
裕子先輩が傍らの金城誠先輩に指示する。
さっきは気づかなかったけど、裕子先輩は右手にホチキス、左手にハサミを持っていた。
さらに、近くの机にはペンチ、ニッパー、裁縫道具が置いてある。
昨日の「おちんちんに傷をつける」という言葉が脳裏に浮かんでくる。
…もし僕が指示を守ってなかったら何をする気だったんだろう。
いや、あれは脅すための道具だ。使い道はそれだけだ。そう思い込もうとしたけど血の気が引いていく。
それにあわせて勃起していた僕のペニスが静まる。
女性下着を着て勃起したなんて恥ずかしすぎるから、せめてもの救いだ。

「今のポーズもセクシーだけど、次は手を頭の後ろに回して。顔もちゃんと上げてね」
やっぱり隠したままで許してもらえるわけがなかった。
言われたとおりのポーズをとり、下着姿がみんなにはっきりと晒される。
恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが自分でもよく分かる。

「あれ?さっきより小さくなってない?ねぇ、勃たせようよ」
裕人くんが目ざとく気づき提案する。
「う~ん、そうね。誰がやる?」
「じゃぁ、僕が…と言いたいけど…はるか、勃たせな」
裕人くんが隣にいた小川はるかさんに命令する。
突然言われたはるかさんは戸惑いを隠せない。
「えっ!?何をしたら…」
「言わなくても分からない?ま、いいや。最初は君のパンツ見せて。そのあと、ちんちん弄ってあげればいいよ」
小川さんは僕より前からこのグループにいじめられてる。
女子だから、こういうイジメは僕以上に深刻だと思うけど、解決の兆しは全く無い。
彼女を助けようと先生に相談したのも、この人たちにいじめられるようになった一因だ。
しかも結果は「悪ふざけが過ぎた」で済まされてしまい、どうにもならないと思い知らされただけだった。
そんな苦い現実を思い出していると、小川さんが僕の前まで来ていた。彼女も顔が真っ赤になってる。


「どうしてもやらないと駄目ですか?」
質問というより、懇願に近い口調で小川さんが裕人くんに尋ねる。
裕人くんはお姉さんとよく似た微笑を浮かべ答えた。
「男子トイレの使い心地は良かった?」
全く答えになってない回答で、彼女が受けたいじめの一端が垣間見える。
そして、それはそのまま脅しとなる。
逆らえないと悟った小川さんは顔を真っ赤にしたまま、僕の前でスカートを脱いだ。
薄紫色の彼女のショーツが露になる。
前面に同色の大きなリボンがあり、生地はよく見ると花柄があしらわれている。
彼女の下着が見えた瞬間、心臓と脳に衝撃のような感覚が走り、鼓動が激しくなる。
見てはいけないと思っても、つい目が向いてしまう。

小川さんはおとなしくて地味目だけど間違いなく美人だ。
しかも性格に似ず背が高く、肉感的な体つきをしている。
僕は女子の下着姿を生で見た経験なんてほとんどない。体育の着替えで少し見えた事がある位だ。
そんな僕が小川さんのような人の下着姿を見ると、当然、ペニスは反応し大きくなっていく。
それを見て、また周囲から笑い声が上がる。


「見ただけでも大体フル勃起だね。とりあえずそのまま続けて」
裕人くんの指示に従い、小川さんが僕の股間に手を伸ばしてくる。
遠慮がちに(というか触りたくないだろう)僕の睾丸部分をなでてくる。
女子に無理やりこんな事をさせるなんてまずいと思い、彼女の手を押さえようとすると
「誰が手を下ろす許可を出したの?」
裕子先輩が少しだけ低めの声を出した。反射的に手を頭の後ろで組みなおす。
僕の道徳はあっさりと恐怖に負けた。
小川さんの手により、僕の股間にくすぐったさとむず痒さが入り混じった感覚が生まれる。
もう完全にペニスはMAXサイズになっている。ショーツ越しに反り返った形がわかりそうだ。
彼女の手は股間の付け根から少しづつ上方に動ていき、
女性用下着の中から存在をアピールする僕の「男の証拠」を優しく撫でていく。

自分でするのとは全く違う感触に思わず腰が引けてしまう。
僕の動きに合わせて彼女の手も動いてくる。
だんだん尿意に似た、でも明らかに異なる感覚が高まってくる。
「ん、んぅ、あっ…あ、あのもうダメです。やめてください。」
息を乱しながらとっさに口走った。自分の想像以上に喘ぎながらの言葉となる。

「そう。何がダメなのか聞きたいけど、それは無粋かな。ん、もういいよ、はるかちゃん」
裕子先輩の言葉で小川さんの手が離れる。彼女はスカートを拾い、もといた場所へ戻る。
僕は頭の後ろで手を組んだまま、ショーツを穿いて完全に勃起した姿を見られた恥ずかしさに耐えていた。
ふと自分の股間に目をやると、ショーツが濡れている事に気づいた。
「っ!!?」
顔から火が出るなんてものじゃない。ハッキリと眩暈がするのを感じる。
みんなが僕を嘲笑の眼差しで見ている。涙が少し零れる。


「さて、朝のチェックはこのくらいでいいかな」
裕子先輩の言葉で少しだけ気が落ち着く。やっと解放してもらえる。
「じゃ、解散前にお仕置きタイムね。あ、たいした事しないから」
安心させて地獄へ落とす。まだ解放じゃないみたい。
「えっと、お仕置き対象は服を脱ぐときにぐずぐずした事と
勝手に手を下ろそうとした2つくらいだね。
30秒くらいでいいかな。まこちゃんと…正孝君よろしく!」
誠先輩と2年の佐伯正孝先輩が僕の両脇に来る。何をするのかと身構えていたら、
2人が僕の腕に自分の腕を絡ませて、ガッチリと抑えてきた。
「よほど運が悪くない限りなんでもないよ。みずき、かに座だろ。今日は運いいらしいよ」
佐伯先輩がそういって、教室の出口に向かっていく。
この格好のまま教室の外に出すつもりだと気づき、僕の顔は青ざめる。

「ちょ、や、やめてください。佐伯先輩お願いします」
「だめだって。裕子先輩の指示だし。」
必死で頼み込むけど、受け入れてもらえない。
裕子先輩に逆らえないという風に言っているけど、この人自身も助けてくれる気はないだろう。
人柄をよく知っているわけではないけど、他の人たちと同様に僕をいじめることがすごく楽しそうだ。
「誠先輩!お願いです。助けてください!」
「…ごめん、無理。裕子に頼んで」
この人は良く分からない。誠先輩は僕に同情的に見える。
誰かを苛める姿を見たこともなくこのグループでは異端のように思える。
でも、裕子先輩に逆らえないみたい。

「裕子先輩!ごめんなさい!許してください」
半泣きで懇願する。
「うふふ……だめ」
満面の笑みであっさり却下する。
「お、お願いします。いっそ裸にしてください」
「うふ…ふふっ…やだ」
笑いがこらえきれないのか、小刻みに震えながら答える。心底楽しそうだ。
そんな裕子先輩とは対照的な気持ちと表情をした僕は、
抵抗むなしく教室の外へ連れ出された。


2人に連れられて教室前の廊下で立たされる。
腕を捕まれているので、体を手で隠すこともしゃがんで隠すこともできない。
その状態でこの教室につながるT字路に正対させられる。

「うぅ、やだ、嫌です。やめてください」
無駄と分かっていても口に出す。
「大きな声だすと人来ちゃうかもしれないよ。30秒ここにいるだけだから」
誠先輩が耳打ちしてくる。僕は観念して声をだすことをやめる。
ここは校舎はずれの一角で人が来る可能性は低いだろう。
ただし、そのひとつ前の曲がりまではそれなりに人の往来がある。

廊下を流れる冷たい空気が僕の肌を撫で、今の自分の格好を自覚させる。
教室とは違う広がった空間が羞恥心を掻き立て、不安感を倍増させる。
「誰か来て見られたとして、俺らにいじめられたなんて言わずにこれは遊びです、
その格好はみずきの趣味ですって言えよ」
佐伯先輩がニヤついた表情で言ってくる。


どうか、だれも来ませんように。そう祈った直後、こちらへ向かう足音が聞こえてきた。
僕は本気で人生の終わりが迫ってるような気になる。
無理にでも教室の中に引っ込もうとするけど2人の先輩に抑えられ全く動けない。
心臓の鼓動が激しくなる。足音はどんどん近づいてくる。
もしこの格好を見られたら…

状況的に僕がいじめられてるというは理解してくれるはずだ。
でも、たぶん僕を助けてくれる事はない。
このイジメグループは非常に強い勢力だ。
優秀な上に外見もよく、なんていうか華のある人たち、各学年の人気者たちが集まっている。
それでいてやることは残酷だから、他の生徒たちからは恐れられてもいる。
裏でネチネチいじめるのも上手いけど、
それ以上に表立っていじめることも躊躇ないように見えるのが恐ろしい。
おまけに華村姉弟といずみさんは、こんな公立校にいるのが不思議なほどの名家の子だ。
単に裕福なだけではなく、様々な権力を持った家だという噂を聞いた。
そんな人たちにわざわざ敵対するような人はいないだろう。

それに…もし助けてくれる人がいたとしても、やっぱり今の格好は見られたくない!


いっそ「こっちに来ないで」と大声で叫ぼうか。
でも、それで大事になったら状況が悪化するとしか思えない。
僕は目を瞑り顔を伏せる。せめて顔を見られる事を避けたい。僕だと分からなければいい…
そんな風に半ばあきらめたところで先輩たちが教室へ向かっていく。
どうやら30秒過ぎたみたいだ。
誠先輩はさっさと教室に向かってくれるけど、佐伯先輩がわざとらしくゆっくりと歩く。

結局、通路を誰かが横切るタイミングとほぼ同時に教室へ入った。
その瞬間、安堵の余り全身から力が抜けがっくりと崩れ落ちる。
「あら、みずきくん疲れちゃったの?それにちょっと泣いちゃったかな?
今度こそ解散だから安心して。楽しい時間をありがと。それじゃ、お互い勉学に励もうね」
そういって裕子先輩たちは教室から出て行く。

「ごめんね、みずきくん。服はここに置いとくよ」
誠先輩は出て行く前に僕のところへ服をもってきてくれた。
「気休めにならないかもしれないけど、いくら裕子でもいきなり人前で
晒し者にするようなことは無いはずだから、あまり気に病まないで。
俺から余り酷いことしないようにも言っておくからね」
やっぱりこの人は同情的だ。なぜかと考えて真っ先に思いつくのが容姿だ。
僕が言うのもなんだけど、誠先輩は女子と見紛う外見をしている。
そんなところで僕に仲間意識を感じて、助けようとしてくれているのかもしれない。
ただ、裕子先輩へ言ってくれても効果の程は疑問が残るけど。


誠先輩も出て行き、残ったのはいずみさんと裕人くん、小川さん、弓削恵さんだ。
小川さんを除いた3人が1年生のいじめっ子主犯格と言っていい。
僕が服を着るとみんな空き教室から出ていく。
1年教室棟へ向かう途中、恵さんから突然股間をつかまれた。
「おぉ、しっかり勃ってるね。でも、前から思ってたけどみずきのモノってちっちゃくない?」
こんな風にからかわれるのが僕の日常だ。

「答えろよ~。答えないとこれからブラ男ってあだ名で呼ぶぞ」
「……小さい方だと思います」
「そうだよね。アンタ男らしくないし、おっきかったらおかしいよね。
トランクスより今日のパンツの方が似合ってるし」
なにも言えず俯いてると、裕人くんが僕の肩を抱きくっついてきた。
彼と恵さんは僕の体をよく触ってくる。触るというか弄ぶと表現した方が適切かもしれない。
「はいはい、僕のみずきにあんまり触らないで。ブラ男ってあだ名はいいかもね」
「裕人、『僕のみずき』ってホモっぽい。大体アンタには小川がいるじゃん?」
「僕はホモじゃないよ。それに、はるかは女でみずきは男だから全く別だよ。
ご飯だけでもおかずだけでも満足できないでしょ?」
なんかよく分からない例えで勝手な理屈を言っている。それとホモじゃないというなら離れてほしい。
そこへいずみさんが割って入ってきた。
「大人気だね、みずき。あんた可愛いからねぇ。で、ブラ男ってあだ名どう?」
そんなことを言いながら僕のブレザーの前を開き、ブラジャーで膨らんだ胸を触ってくる。


「いっ、嫌です。お願いだから下着のことは人にバレないようにしてください」
「どうしよっかな。みずきの態度次第だねぇ。アタシたちの機嫌を損ねないようにね」
「はい、気をつけます。……あの、胸を触るのもそろそろ許してもらえませんか?」
教室が近くなり、人通りが増えてくる。このまま触られていると、ブラジャーがバレてしまうかもしれない。

「ふふ、ちょっと物足りないな」
そう言いながらも手を離してくれる。すぐにクラスが別れる通路に差し掛かった。
恵さんだけはクラスが違う。別れ際、彼女が耳元で囁いてきた。
「いずみの言う通り、アタシたちの機嫌を損ねたらダメだよ… さて、せっかく提案したあだ名を却下されたアタシは大変不機嫌です。だから、罰としてアンタをブラ男って呼んでやるよ。じゃね、ブ・ラ・男」
それはあだ名の提案というか、僕がペニスの大きさについて答えなければそう呼ぶって話だったのでは。
そんなことを突っ込めるわけも無く、許しを請う間もなく恵さんは自分の教室へ行ってしまう。
僕をからかって楽しんでるだけだろう。いきなりバラしたりしないはずだ。
そう思わなければ心の平静が保てなくなる

「みずき、教室入る前に自分の格好をおさらいしておこうか。アンタは男なのにブラジャーして女物のパンツ穿いてるんだよね。1年1組風紀委員としてはどうしたらいいか悩むとこなんだけど」
いずみさんから改めて自分の下着を指摘され僕の顔は真っ赤になる。


「いっ、言わないで…ください」
まともに彼女の顔を見られず、上目遣いになりながら懇願する。
「そんな風に見られると弱いなぁ。よしよし授業中は何もしないよ。
さ、今日も1日頑張ろうか」
そう言って僕の頭に軽く手を置いたあと、なんだか満足げな顔で自分の席に向かっていった。

「風紀委員ならさっきまでの行為とか、『あれ』を何とかしてあげればいいのにね」
裕人くんが、風でまくれるスカートを必死に抑える小川さんを指さして言う。
彼女のスカートはしゃがんだり背伸びをすれば下着が見えそうな短さだ。
1年生としてはありえないスカート丈は勿論、裕人くんたちの命令だろう。
それを笑って見ている裕人くんは学級委員であり、イジメとかクラスの問題に対処する筈なんだけど。

僕も小川さんのようにみんなの前で辱められるようになるのだろうか。
女性下着を着けた姿を人目に晒されるなんて考えたくない。
ただ服を脱がされるよりずっと恥ずかしい。
不安で一杯のまま自分の席につき、その日の授業に臨んだ。


いずみさんの言葉通り、授業のある時間帯は何もされなかった。
4時間目が終わり、今また空き教室で僕は下着姿となっていた。
裕子先輩達の指示で様々なポーズをとらされている。

「ごめんね、みずきくん。早く帰りたいと思うけど、私たちに午後の授業を乗り切るための活力を頂戴ね」
今日は1年生は午前で授業が終わるので、もう下校時間となっている。
上級生は昼休みの時間だ。
授業をサボる先輩達ではないので、あと10分少々で終わるはずだと思い恥ずかしさに耐える。
同級生のいずみさんたちには僕をいじめる時間がたっぷりある事はとりあえず考えない。

今は腰に手をあて、少し前かがみのポーズだ。
何かの雑誌で水着を着たモデルが同じようなポーズをとっていた気がする。
「可愛いね~。そういう格好似合うよ」
言葉だけ見ればほめ言葉だけど全く嬉しくない。
「ねぇ、みずきくん。今、自分が何を着ているか言ってみて?『下着』なんて簡潔な答えは求めてないよ」
ブラジャーとショーツを穿いていることを口にさせる気だ。
もう散々恥ずかしい姿を見られたけど、より一層惨めになる気がする。
見られるのとは別種の恥ずかしさを感じてしまう。それを分かって指示したのか、単なる思いつきなのか
いずれにしても言わざるを得ない。


「し、しろ、白いぶ……ジャーと、白い、じょ、女子用のパンツです」
上手く喋れず、途切れ途切れになりながら答える。
周囲で誰かが「変態」といった。予想していた野次だけど、それでも耐え難い屈辱を感じる。
「ピンクのリボン付っていうのも言って欲しかったけどね。今どんな気分?」
「……恥ずかしいです」
他に言い様がない。
こんな答えで大丈夫か不安に思ったけど、裕子先輩は満足そうにうなずく。
「うんうん、そうだよね。君の顔からも良く分かるよ。そういう表情が私を癒してくれるんだよ~」
人の苦しむ様を見て癒されるだなんて。
人として何かが間違ってる!
でもこの場にいるのはそんな人ばかりだ。

「裕子、授業時間も近いし、もういいんじゃない?」
ここで唯一の真人間、誠先輩が助け舟を出してくれる。
「ふぅん、まだ時間は充分あると思うけど。足りない分はまこちゃんが癒してくれるのかな? じゃ、そろそろお開きにしましょうか」
なんだか含みのある目つきで誠先輩を見ながら裕子先輩が答える。


やっと終わったと思い、普通の姿勢に戻った僕にいずみさんが声をかけてきた。
「みずき、最後にさ、朝とおんなじポーズとって。で、ちょっと腰をクネらせてみて」
朝のポーズって、頭の後ろで手を組んだ格好のことかな。
完全に体をさらけ出すことになるから、いろんなポーズの中でもトップレベルの恥ずかしさだ。
でも、僕に拒否権はない。
言われた通り、朝と同じポーズをとり少し体を傾けて腰を横に突き出すようにする。
「ふふっ、セクシーだね。そのまま目を閉じて」
いったい何がしたいんだろう。不安に思いつつも目を閉じる。

次の瞬間、何か光ったのを感じた。
目を開けると、いずみさんがデジタルカメラを持っていた。
「なっ、何を!?」
「写真撮った」
事も無げに言う。冗談じゃない!
慌てていずみさんの方に駆け寄る。
「い、いやっ、消してください」
「やだ」
「消して!お願いです!!」
いずみさんの手からカメラを奪おうとすると、彼女はカメラを持った手を高く上げた
僕の身長ではとどかない。それでも必死に跳んで奪おうとする。
勢い余って着地際にいずみさんにぶつかることも構わず何度も繰り返す。


「あん、やっ、やだ、みずき強引すぎるよ。女の子にはもっと優しくして」
茶化してくるけど、半ばパニック状態の僕は構っていられない。
卑屈になりきっている普段の僕では考えられないことだ。

何回繰り返しただろう。少し疲れて動きが鈍ったところで彼女が口を開いた。
「はい、ストップ。優しくしてくれないと写真ばら撒くぞ。
それとも今からその格好で連れ回されたい?」
その言葉で一気に頭が冷える。
冷静に考えると、のしかかったり足を踏んだりと結構えらいことをしてしまった。
ど、どうしよう。謝るだけで許してくれるかな。
「ご、ごめんなさい」
「ん、そうそう。素直でいれば写真ばら撒いたりしないから。だからもう何枚か写真撮らせて」
こうなるともう何もいえない。この後、様々なポーズの写真を撮られた。

もともと逆らえなかったけれど、写真という弱みを握られたことで決定的になる。
この先、写真で脅されてさらに恥ずかしいことを強要されるのだろうか。
どうしよう。どんどん深みにはまり抜け出せなくなっていきそうだ。

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最終更新:2013年04月27日 20:06