禍福は糾える縄の如し




<ゲーム「マージ ~MARGINAL~」を知らない人へ>
 いわゆるPCエロゲーが原作です。もっとも、シナリオは「久遠の絆」や「エンジェリックセレナーデ」、「F」の小林且典氏なので、それなりにしっかりしてますが。
 「天涯孤独で童顔・受け体質の勤労学生、糾(アザナ)くんには、実は資産家の祖父がいたことが判明。祖父亡きあと、相続した山奥の洋館を見に行くと、そこは5人のメイドさんたちによって管理されていた。
 美人揃いの彼女らに薦められて、しばし館に逗留するうちに、メイドさんズがいずれも人間ではなく精霊(妖怪?)だと判明。でも、優しくて美人だから、ま、いっかー、とお気楽な糾きゅんだったが……」
 というのが大筋です(間違ってはいないよね?)。
  • メイド1:マージ・フォイエルバッハ。内気で恥ずかしがり屋だが主人公にはなつく。実は強力な狼の精霊。
  • メイド2:エリカ・ブラウン。猫娘。気まぐれで脳天気で享楽的でおバカさん。ご奉仕するにゃん。
  • メイド3:アメリア・フォスリーゼ。堅物で無表情な美人。館の警備担当。本体は人形の付喪神。
  • メイド4:フィン・テンニエス。メイド長。慈愛(と数%の悪戯心)に満ちた金髪美人さん。古い狐の精霊。
  • メイド5:フォニーム・テンニエス。フィンの娘。愛称はファム。ママをとられると思って糾にキツく当たるツンデレ。
 作中でも、とあるルートで女の子顔な中学生(推定)・糾タンのメイド女装イベントがあり、さらにPS2移植の際にはわざわざイベントCGまで起こされてますが、それについてのIFストーリーが、以下の話です。



 あらあら、珍しいですわね、この館にお客様なんて……。
 あ、失礼致しました。お客様、どうぞこちらへ。雨が止むまで、当館で雨宿りをしてらしてくださいな。
 まぁ、小説家のタマゴさんなんですか? アイデアを探しての旅行中に、この山に迷いこんだ? それはそれは……。
 え? あ、はい、わたくしはこの館のメイド長ですけれど……そんな若いのに偉い? あら、こう見えても、メイドとして働くようになってから、結構長いんですのよ。
 それに、わたくし、このお屋敷と住人のみなさんが大好きですから。毎日楽しくお仕事させていただいてますわ。 
 小説のモトになるような話、ですか? 困りましたわ~、何分こんな山奥のお屋敷ですから、毎日そう変わったことが起こるわけでは……あぁ、そうだ。
 お客様、お気に召すかどうかわかりませんけど、この屋敷で数年前に起こった、ちょっとしたハプニングについてお聞かせ致しますわ。

  *  *  *


 (どーして、こんなことになったのだろう……)

 天璋院糾(てんしょういん あざな)は、ぼんやり考えていた。
 問題が起こったときは、まず5W1Hを整理して熟考しなさい……というのが、糾が育った孤児院の院長先生の教えだった。だから、まずは自分のおかれている立場を把握してみよう。

 いつか――いまは、この館に来て3日目の朝。雨がしとしと降ってて、ちょっと憂鬱。
 どこで――ここは、 プラエトーリウム・ソムヌス(眠りの館)と名づけられた洋館。糾の祖父が建てたもので、現在の相続人は糾、つまり自分の家ということになる。
 だれが――当事者は糾とフィン。あるいは犯人はフィンで、被害者が糾と言い換えてもいいかもしれない。
 なにを――服を、だろうか?
 どうした――着替えた、というより着替えさせられた、かも。
 そして、HOW(どのように)だが……これがさっぱりわからない。

 そこまで考えると、糾は深い溜め息をついた。

  *  *  *   

 その日は、前日からの雨がいまだ降り続いており、館の住人も、どことなく気だるい雰囲気にとりつかれていた。
 その点は、3日前からここに滞在している――もっとも、亡くなった祖父からこの館を受け継いだ以上、彼こそがこの館の主人だと言えるのだが――糾といえど、例外ではない。
 もっとも、中学を卒業したばかりで、春からようやく高校に通うことになっている身としては、こんな大きな屋敷の主という肩書きは、いささか重荷ではあったが……。
 「まぁ、糾さま、どうなされたのですか!?」
 そーっと、自室に入ろうとする糾を見つけたメイド長のフィンが、驚きの声をあげる。
 「えーと、ちょっと外に出て……」
 雨とはいえ小雨程度なので、気晴らしにちょっと庭を散歩してみようか、と考えたのがよくなかった。うっかりぬかるみで転んでしまい、朝着替えたばかりの服が、泥だらけになってしまったのだ。
 「早く、お着替えになりませんと……。あ、でも困りましたわね。糾さまのお洋服は、まだ乾いてませんわ」
 「ええっ!?」
 今の糾は、とりあえず風呂に入り、行儀が悪いがバスタオル1枚という格好で自室に戻った状態、いきなりピンチだ。
 「昨晩からの雨で、お洗濯物の乾きがわるくなってまして……」
 元々、今回は、相続した屋敷を見にくるだけのつもりだったので、糾は、それほど着替え類を持って来ていなかった。
 ところが、予想外にも屋敷は5人のメイドの手によって、きっちり運営されており、しかもそのメイドたちが―約1名を除いて―みな糾に好意的なため、非常に居心地がよく、つい春休みいっぱい滞在することを決めたのだが、思いがけない落とし穴だった。
 「か、乾燥機とかは?」
 「まぁ、糾さま……」
 チッチッチッ、とフィンが人差し指をたてて顔の前で振る。
 一応、この屋敷のメイド長であり、糾の祖父の代から仕えていた女性のはずだが、フィンの外見は非常に若々しい。そういう仕草をすると、可愛らしいとさえ言える。
 娘であるファムが糾と同年代なのだから、相応の年齢のはずなのだが……。
 「乾燥機なんて、邪道ですわ」
 「いや、まぁ、ボクもそう思うけど……」
 某北国の万能主婦よろしく、片手を頬に当てておっとり考え込むフィン。
 「でも、本当に困りましたわね。寝間着も、ついさっき洗ってしまいましたし……」
 これで、「とりあえず寝間着でダラダラ過ごす作戦」も不可能と判明した。
 「おじいさんの服とかは?」
 「先代様のお召し物では、大き過ぎますわ」
 糾は病床の彼しか知らないので実感は薄いが、確かに写真で見る限り、糾の祖父は、「ハイジ」のおんじばりに体格のよい男性だった。身長の点で同世代の女の子であるファムと同等、下手したら1、2センチ負けてるかもしれない糾としては、非常にうらやましい。
 身長だけでなく、全体に線が細い糾は、女の子に間違えられることもしばしばだった。電車で痴漢にあったことも1度や2度ではない。
 聞いたところによると、糾はどちらかと言うと母親似らしいので、仕方ないのかもしれないが……。


 「明日にでも、糾さまの私服を用意しませんと。でも、本日のところは……そうだわ!」
 パンッと、フィンは両手を打ち合わせた。
 「糾さま、少し小さいかもしれませんけど、動きやすい服がございますわ。仕事着なんですけど、よろしいでしょうか?」
 「うん、動きやすいものなら、何でもいいよ」
 春先とはいえ、標高が高いせいか、さすがに風呂上がりにバスタオル1枚では少し肌寒い。この際、ぜいたくを言う気は、糾もなかった。
 「少々お待ち下さいね」
 フィンは、糾を伴って自分の部屋に戻ると、いそいそとクローゼットを漁った。

 *  *  *

 フィンが仕事着と言ったのは、巧妙な罠だった。あるいは天然かもしれないが、この場合、どちらでも大差はない。

 確かに、動きやすいかもしれない。
 確かに、仕事をする際に着る服かもしれない。
 フィンは小さいかもと言っていたが、大きさもあつらえたようにちょうどいい。
 着心地だって、決して悪くはない。
 しかし……。

 「メイド服じゃないかぁーーーっ!!」
 「まぁ、写真に撮って残しておきたいくらい可愛らしいお姿ですわ(はぁと)」
 フィンが何だか不穏な台詞を呟いているが、あえて糾は気にしないことにした。
 しかし、どうして着替えているときに気づかなかったのだろう?
 (――ん? そう言えば……)
 着替えているときの記憶が定かでない。
 「……フィンさん、また"力"を使いましたね?」
 「あら、何のことでしょう?」
 ジト目でニラんでみるものの、さすがは”この”屋敷のメイド長、微塵も動じる気配はない。

 力――そう、この館で働くメイドたちは、みな普通の人間ではない。と言うか、人間ですらない。彼女たちの告白を信じるならば、精霊とか物の怪とか呼ばれる存在らしい。
 もちろん、にわかには信じがたいことだったが、実際、メイドのひとりエリカがいきなり頭から猫耳を生やす場面を目撃したり、何かと糾に突っかかってくるファムに木の葉で化かされたりした以上、糾としても信じざるを得ない。
 何せ目の前のフィンには、頭に生えた狐耳を触らせてもらったりもしたのだ。

 屋敷の庭掃除&庭園の手入れ、さらに外回りの警護担当のマージは狼の精霊。
 屋敷内の警護と、力仕事担当のアメリアは古い人形の精霊。
 屋敷内の清掃一般と風呂掃除担当のエリカは猫の精霊。
 そして、おもに台所で腕をふるい、メイドたちを束ねるフィンは、狐の精霊だった。当然、幻術や目くらましで人を化かすのは、お手のものだ。

 とはいえ、彼女達はみな、糾の祖父に絶大な恩義があるらしく、その関係でか糾にも敬意と親愛の情を込めて接してくれる。
 パッと見も、ふつうの(と言うには、いささか全員美人過ぎたが)外国人のメイドさんにしか見えないので、糾も普段はそんなことを意識したりはしないのだが……。
 母性的だが、意外にお茶目なフィンは、たまにこうやって糾に悪戯することがある。大方、妖狐得意の幻術を使って、催眠誘導でもしたのだろう。

 (まったく、フィンさんったら……)
 溜め息をついた糾の脳裏に、ふと疑問か沸き起こる。まさか……。
 「フィンさん、もしかして、このメイド服の下は……」
 ニッコリ微笑むフィン。
 「もちろん、女物ですわ(はぁと)」
 思わず自分の身体に手を当てて、糾はそのまま硬直した。
 「今すぐご用意できるのが、ファムちゃんのお下がりだけでしたので」
 「しかも、これ、ファムの!?」
 ガックリとorzな姿勢で崩れ落ちる糾。
 「あぁ、ご心配はいりませんわ。それはお古ですので差し上げます」
 「いや、そういうこと言ってるんじゃなくてね」


 こんな所をたとえばファムなんかに見られたら……。
 糾の背中を冷たい戦慄が駆け抜けると同時に、ドアが開くのはお約束である。
 「マム(お母さん)、台所のスープ、そろそろいいみたいだよー!!」
 フィンの部屋にとびこんで来る金髪娘。
 「「「…………」」」
 瞬時にして、部屋の空気が凍りつく。
 (うわ、マズい……ファムがどう反応するか、わかんないよォ)
 「変態!」と言ってシバかれるか、指を指して大笑いされるか……。
 あえて見なかったことにされる、というのが比較的マシな対応だが、それはそれでかなり心理的にイタい。
 しかし、糾の予想はいずれも外れた。
 「なーんだ、誰かと思ったら、糾か」
 いつもと変わらぬ口ぶりで、ファムはそう漏らすと、ジロジロと糾のメイド服姿を鑑賞する。
 「ふーん、意外と似合ってるんじゃない」
 (へ!?)
 あまりに平穏なファムの対応に、内心拍子抜けする糾。
 だが、ふと、ファムが生まれて以来ほとんどこの家から出たことがない、ということを思い出す。
 (も、もしかして、メイド服を着るほうが、ふつうと思ってる?)
 あるいは男女による服装の違いというものを明確に理解していないのかもしれない。
 一応、糾の祖父やその客人たちくらいは見たことあるはずだが、「大きくて頼もしいおじいちゃん」(ファム談)と、きゃしゃで頼りない糾を、同じ”男”というくくりで見れないのかも……。
 (うぅ……助かったような、屈辱のような……)
 「あらあら、もうできたの。それじゃあ、少し早いけど、お昼ご飯にしましょうか」
 そんな主な思いも知らず、娘以上にマイペースな母は、糾のほうを振り返り、
 「とういうワケですので、糾さま、食堂にいらしてください」
 と腕をとった。
 「え!?」
 食事をするということは、この屋敷に住む者が全員食堂に集まるということであり、せっかくのご飯なんだからメイドのみんなもいっしょに食べようと提案したのは初日のボクだけど。
 いやそのこと自体は何ら問題はないけど、いまの現状をみんなに見られることは大いに問題なワケで……。

 混乱した頭を整理しきる前に、気がつけは糾は食堂の椅子に座っていた。
 その結果――
 「くぅ~ん、ご主人様ぁ」
 「おぉっ! 糾さま、可愛いにゃ!!」
 萌え転がり身悶える狼1頭と、大はしゃぎな猫1匹。
 ――この屋敷には、ダメな感性の女性しかいないのだろうか?
 「――糾様、主の趣味に口を出す気はございませんが、外ではご自重ください」
 微妙に斜め上に誤解したアメリアの忠告だけが、糾にとってむしろ救いだった。

 *  *  *

 せっかくのフィン特製のスープとマフィンの味もよくわからないまま昼食を終えて、糾は早々に自分の部屋に引っ込んだ……と言うより引きこもった。
 「うぅ……結局、みんなに見られちゃったよォ」
 まだ午後になったばかりだと言うのに、激しく精神が疲労している気がする。
 もっとも、現実問題として替えの服はほかにないのだし、みんなも糾のことを笑ったりしなかったので、いくぶん気が楽にはなったが。
 ――というか、約1名を除いて、大好評というのは、いかがなものか?
 ただ、これで変にコソコソしたら、隠れたりしなくていいのが救いだ。


 ようやく落ち着いてきた糾は、改めで自分の身なりを点検してみた。
 首から下を確認しながら、ワンピースというものの裏地が予想外に気持ちのいい物だと、糾は初めて気がついた。
 デリケートな女性の柔肌に触れるものなのだから当然と言えば当然だが、男物の服とはと比較にならないくらい触感がやさしい。
 フィンいわく仕事着なのだが、確かに動きやすくて機能性も見た目よりはいい。
 マンガやゲームでありがちなミニスカメイドではなく、ふくらはぎあたりまでスカートで隠れるトラッドなメイドスタイルなのは、不幸中の幸いというべきか。
 ただ、それでも下がスカートなのは、足元がスースーするので、少なからず違和感はあった。何も履いていないようで少々落ち着かないのだ。

 違和感と言えば女性用の下着もそうだ。
 ショーツはまだ我慢できる。元々ブリーフ派だし、男性用水着なんかも基本的には同じ形だ。もっとも、これほど、やわらかで肌ざわりのよい下着を着けたのは、初めてだったが。
 問題はブラジャーだった。自分がブラを着けていると意識しただけで、なんだか変な気分になりそうだった。これもまた、フォニームのお下がりらしいが、胸囲が合わなかったので、1度も使っていない新品とのこと。
 いくらなんでも、こんなものまで自分からは着けないだろうが、糾を着替えさせる際に、フィンがさりげ無くワンピースの下に装着させていたのだ。無論カップに入る膨らみはないのだが、胸囲の関係でちょうとぴったりのようだった。
 (て言うか、男の子のボクがつけてもピッタリだなんて……ファムの胸って……) 
 そこから先は言わぬが花である。
 さらにその上からスリップを着け、さらにメイド服を着ているようなのだ。
 「これじゃあ、うかつに服を脱げないよ……」
 ふと思い立って、姿見の前に立ってみる。
 「だいたい、男のボクがメイド服着たって似合うわけ……」

 ――メチャメチャ似合っていた。
 美女&美少女揃いなこの館のメイド達と並んでも遜色ないほどの、愛らしいメイドさんが、鏡の中にたたずんでいたのだ。
 「こ、これが…ボク……?」
 思わずお約束な台詞を漏らしつつ、鏡の中の”少女”に見とれる糾。

 クセのない濃緑色の髪にホワイトプリムが揺れている。
 肩の膨らんだ特徴的な黒のワンピースは、しなやかな身体を彩り、その上に羽織ったフリルたっぷり純白のエプロンが華やかさを添えている。
 足元は白のショートブーツ。ヒールが高くなっている靴をはくのは初めてだが、よく足になじみ、歩く際も不便には感じなかった。

 「……ハッ! ぼ、ボクは今、何を!?」
 1分間ほど、鏡の中の自分を眺めていた糾だが、唐突に我に返った。

 目をしばたたかせ、視線を逸らしたものの、すぐに吸い寄せられるように、鏡に映った自分の姿を見つめる。
 ことさら意識したことはないものの、どちらかと糾は自分の貧弱な体躯や女顔が好きではない。少なくともナルシーな気分に浸ったことはなかったが、こうやって女物の衣裳を着てみると、まったく未知の感情が湧いてくるのを感じる。

 次第に頬が赤らみ、目元が潤んでくる。それがまた、鏡の中のメイド少女によりいっそう可憐さを付け加えていた。
 そのまま、鏡を凝視すること十数分。

「――そうだ、ボクは、こうしていてもいいんだ!」

 数百回、思考と感情のループを回すことで、何やら”悟り”を開たらしい。
 こうして、メイド長のちょっとした悪戯心から始まった騒動は、屋敷の運命を思わぬ方向に転がしていくことになるのだった。



以上。覚醒した糾タンが次回は大暴れ!?
……ウソです。おにゃのこ覚醒しても、しょせんは総受けなコなので。むしろ、いぢられまくりかも。
どうも私が書く男の娘は、覚醒しちゃうと女性化傾向が著しいのですが、続けてもよいでしょうか?



禍福は糾える縄の如し(中編)



 半泣きで部屋に入った時とはまるで異なる、自信に満ちた――しかし、同時に優雅で女らしい足取りで、ドアから歩み出る糾。

 「いいえ、今のボクはこの館の継承者・天璋院糾ではありません」

 ――は? 

 「いまのボクは、一介のメイド少女。強いて言うなら……そう、"あさな"とでも呼んでください」

 ……地の文にツッコミまで入れるとは、どうやら彼、いや"彼女"は本気でさとりを開いたようだ。

 * * * 

 やや速足の歩みにつれて、ふわりと翻るスカートの裾が心地よい。
 クセのない柔らかな髪の毛の上を飾る白のヘッドドレスの感触が心地よい。
 きゃしゃな体に適度にピッタリとフィットしながらも、優しくつつむ下着の肌触りが心地よい。
 (ああ、どうしてこんな素敵なモノをボクは嫌っていたんだろう?)
 いや、正確には嫌っていたわけではない。むしろ、好きだった。
 フィンさんとファムが着ているトラッドな作りの黒のメイド服は、オーソドックスだからこそ、飽きがこない不変の魅力にあふれている。
 マージやエリカが身につけている、胸元の大きく開いたデザインの濃緑色のメイド服も、活発で胸の大きな彼女たちの魅力を十二分に発揮させていると言えるだろう。
 アメリアさんが身にまとうスリットが入った黒と紫のメイド服も、この館を守る彼女の役職にふさわしく、またクールな彼女の表情をいっそう引き立てている。
 そんなさまざまなメイド服をまとった彼女達に囲まれて、この館で過ごす毎日は、ボクにとってはこれまでにない安らぎと喜びをもたらしてくれた。
 でも……。
 ボクは、そこに一抹の寂しさを感じていなかったか?
 お祖父さん亡きあとのこの館の後継者として歓迎され、大事にされながらも、どこか彼女立達とのあいだに、薄い壁のようなものを感じてはいなかっただろうか。
 もちろん、違いはあるだろう。
 人間と精霊。
 男と女。
 でも、そればかりではなかった。
 ──そう、彼女達が、ボクを"主"として敬えば敬うほど、"家族"が欲しいボクの内心は悲鳴を上げていたんだ。
 そもそも、6歳のころから孤児院で育ち、13歳からひとり暮らししているボクは、家事や身の回りのことを、他人にやってもらうことに慣れていないのだ。
 それが、今日偶然にもこの服を着ることで、ボクが感じていた違和感の正体を知ることができた。
 なら……このチャンスは活かさないとね?

 * * * 


 メイド長のフィンは、台所で夕飯の下ごしらえをしている最中だった。
 「さて、こっちのブイヨンの準備はこれでよし、と」
 小皿にとった出汁の味見をして、にっこり笑うフィン。
 「あとは茹でたジャガイモを潰さないと……」
 「手伝いましょうか?」
 「あら、お願いできるかしら。その間に、わたくしはレバーペーストを作ってしまうから」
 忙しげなフィンは振り返ることなく、手伝いの申し出を受け入れた。
 「はい。じゃあ、先に皮を剥いてしまいますね」

 グツグツグツ……
 ジュウジュウ……。
 シャリシャリシャリ……

 台所に調理作業の音だけが、小さく響く。
 しばらくの後。
 「──はい、全部剥けましたよ」
 20個近いジャガイモの皮が、すべてきれいに剥かれ、クリームイエローの美味しそうな中身を見せている。
 「ありがとう助かった…わ……」
 こちらも一段落ついたフィンは、お礼を言いかけて、心の中で急速に違和感が膨れ上がった。
 ちょっと待て、一体誰が手伝ってくれたのだろう?
 マージは決して料理は苦手でないが、この時間は外で見張りをしているはずだ。
 不器用なエリカには、とうていこういう細かい作業は任せられない。
 アメリアは、味付けはともかく刃物の扱いには慣れてはいるが、几帳面な彼女の場合、もっと時間がかかるだろう。
 娘のファムならうれしいが、残念ながらイモの形がもっと歪になるはず。
 となると……。
 「何をしてらっしゃるのですか、糾様!」
 そこには、金属製のボールとマッシャーを手に、ジャガイモを潰そうと準備する、メイド服を着た彼女らの主の姿があった。
 「え? なにって材料から見てマッシュポテトを作ろうとしてるんだけど……もしかして違った?」
 キョトンとした顔で聞き返す主の姿に、一瞬、自分のほうが何か間違っているかのような感にとらわれるフィン。
 「いや、そうではなくて……」
 「あ、もしかしてコロッケにするつもりだったとか?」
 「い、いえいえ、マッシュポテトで合ってますわ」
 「そう。なら、よかった」
 ニコッと笑った主がゆっくりとポテトをこね始める様を、ほわんとした気分で見ていたフィンだが、ハッと我に返る。
 「そうではなくてですね、ご主人様に、メイドの真似事をさせるわけにはいかないという……」
 「でも、これ、仕事着なんだよね?」
 ニッコリと先ほどとは微妙に異なる感情を笑顔に乗せつつ、フィンに問いかけてくるメイド姿の少年。ピラッとスカートを摘まんで持ち上げて見せる。
 「え? ええ、確かにそう申しましたけど……」
 とてもいい笑顔の少年に、なぜか気押されで歯切れが悪くなるフィン。
 「メイド服を着てする仕事と言えば、やっぱり、掃除に洗濯、お料理といった家事じゃないかな?」
 「え、ええ、それに間違いはありませんけど……」
 「じゃあ、いいじゃない」
 「いえ、ですから……」


 「フィンさん。元はと言えば、フィンさんがこの服をボクに着せたんだよ?」
 珍しく他人の発言をさえぎる少年の言葉に、フィンはグッと詰まる。
 「それに……言いたいこともわかるけど、元々ボクは一人暮らしで何でも自分でやってきたからね。何もしないっていうのはどうにも落ち着かないんだよ。むしろ退屈すぎて死んじゃうかも? だから……そう、このメイド服を着ているあいだだけでいいんだ。ボクにもみんなの仕事を手伝わせてくれないかなぁ。なんだったら、新米メイドが入ったと思って、こきつかってくれて構わないから」
 そんな風に捨てられた子犬みたいな瞳を主から向けられては、断るなんてことができるはずもない。
 しばしの思案ののち、フィンはフウッと深いため息をついた。
 「──洗濯物が乾いて元の服を着られるまでですよ?」
 「それじゃあ……」
 パアッと明るくなったメイド少年の顔を見て、フィンは苦笑する。
 「ただし! 新米さんには厳しく指導しますからね」
 「望むところです、メイド長! メイドでいるあいだはボクのことは天璋院糾とは思わなくてけっこうです。そうですね、"あさな"とでも呼んでください」
 「ハイハイ、じゃあ、早速、マッシュポテトの続きをやってくれるかしら、あさなちゃん?」
 「はい、わかりました♪」

 * * * 

 フィンの手伝いのあとも、新人の"あさな"は屋敷内のさまざまなところに現れて、"先輩"メイドたちと仕事に参加した。
 マージと一緒に花壇の花に水をやり……
 エリカとともに風呂場の掃除をし……
 ファムと一緒に階段の手すりを磨く。
 さすがに、館内警備担当のアメリアについては手助けすることはなかったが、それ以外の仕事については、各担当者に負けない出来栄えでメイド達を感服させる。
 主に首ったけのマージやエリカはともかく、意外なことにあのファムも、"あさな"を拒否する姿勢を見せることはなかった。
 じつは彼女は、母がらみの感情以外にも、突然現れた糾が主人顔でふんぞり返って何もしない(あくまで彼女の主観である)ことも、気に入らなかったらしい。
 それが、彼女達と同様にメイドとして働くのなら、文句なしということなのだろう。むしろ、"あさな"の歳に似合わぬ家事スキルの高さに(素直に口に出すことはなかったが)感嘆の念さえ抱いているようだった。
 「年の近い同僚」として、ふたりの関係は昨日までに比べて格段に良好なものになっていた。
 さらに、あさなからの提案で、互いのことを「ファムちゃん」「あさなちゃん」と呼び合うようにしてからは、僅かに残っていた棘さえなくなり、まるで昔からの親友同士のような意気投合ぶりを示す。
 ――そう、夕食のあと、ファムが「あさなちゃん、汗かいたから一緒にお風呂入ろ!」と誘うほどに。


 さすがの"あさな"も、一瞬、素の糾に戻って躊躇した。しかし、せっかく出来た"親友"の上目づかいのおねだりに抗しきれるはずもなく、結局それを承知してしまう。
 パパッとメイド服を脱ぎ捨ててスッポンポンで風呂場に駆け込むファムと、もぢもぢしながら服を脱いで畳み、胸元までタオルを巻いておずおずと風呂場に入るあさな。ふたりを比べたり十人中九人までが、後者の方が女らしいと断ずるだろう。
 「お、お邪魔しまーーす……」
 「きゃはは、何、それ、あさなちゃん? ここ、別にあたしの部屋じゃないわよ?」
 「う、うん、何となく……」
 ふたり並んで浴槽に入る。
 入るまでは、あれほどドキドキしていたあさなだったが、覚悟を決めると自分でも驚くほどリラックスできた。
 「うーーん、やっぱり、お風呂って気持ちいいね」
 「風呂は命の洗濯、だっけ? ……それにしても、あさなちゃんの肌ってすべすべで綺麗ねぇ。髪の毛もサラサラで真っ直ぐだし」
 「そ、そんなこと……ファムちゃんの方が色白いし、金髪だし……」
 申し分ない美少女のファムに褒められると、さすがに照れ臭い。
 「そりゃ、あたしはあのママの娘だモン! でも、あたしの髪、結構クセが強くて、朝梳かすのとか大変なのよ」
 「ああ、髪の毛が長いと大変そうだよね。でも、色々な髪型に出来るから、ちょっと羨ましいかも」
 「ん? あさなちゃんも長くしてみたいの? じゃあ……」
 一瞬ファムが目をつむり、口の中で理解不能な言葉を呟いたかと思うと、ざわりとあさなの髪がうねる。
 「え!?」
 「う、うそ……」
 強力な妖力を持つ母のフィンならともかく、まだ子供のファムでは大した力は使えない。
 いまのだって「髪の毛が速く伸びるおまじない」に近いレベルで、せいぜい明日目が覚めたら数センチ伸びてる、くらいのはずなのだ。
 しかしながら、ファムの"力"を受けたあさなの髪は、ゆっくりと、しかし目で見てわかるほどの速度で伸び始めたのだ。
 フロントはそれほどでもないが、サイドやバックの伸び方は尋常でなく、背中や腰を通り越して、ほとんどお尻あたりまで来そうな長さだ。
 急激に伸びたぶん色素が足りなかったのか、元からのほとんど黒に近い緑から、ハッキリ濃緑色といってよい色味の髪の毛になっている。
 「うわぁ~、伸びたわねぇ。うん、でもこれなら、色々な髪型にできるわよ」
 "力"を使った本人が他人事のように言うのはどうしたものなのか?
 実は、あさな──糾自身も(本人はまだ知らないが)人間の男性とドライアード(樹精)の女性のあいだに生れたハーフであり、いわゆる精霊力に恵まれた体質であるために起こった"事故"だったりするわけだが。
 「ちょ、ちょっと長すぎない?」
 文字通り丈なす"緑の黒髪"を裸身(一部はタオルで隠しているが)にまとわりつかせたあさなの姿は、まるで美しい森の妖精(ニンフ)そのものだ。
 母方の血を考えれば無理もないが、この光景を見ても誰も「性別♂」とは信じないだろう。
 「まぁ、ここまで長いと、確かに普段の生活だと面倒かもね。心配しなくてもあとで切ってあげるわ」
 思いがけないほど「上手く効いた」術に気をよくしたファムは、ご機嫌でそう答える。
 「それより、長い髪の洗い方を教えてあげるから、ここに座って座って」
 床屋は別として物心ついて以来、髪の毛を他人に洗ってもらう経験などないが、さすがにこれだけのロングヘアの扱いは想像もつかない。
 「じゃ、じゃあお言葉に甘えて、お願いするね、ファムちゃん」
 「オッケー」
 その後も、「艶々でストレートなあさなちゃんの髪、やっぱりいいなぁ」とファムが羨んだり、交代で背中の流しっこしたりと、お約束なお風呂イベントが続く。


 「くぅー、肌の白さはさすがにあたしのほうが上だけど、きめ細かさはあさなちゃんの勝ちかぁ」
 微妙に悔しそうなファムの様子に苦笑するあさな。
 「そんなに違いはないと思うけど……それにファムちゃんの方が、その胸は大きいし」
 最後の部分だけ声にちょっと残念そうな響きが混じっている。
 どうやら、さきほどからのファムとの一連の「女の子同士のスキンシップ」の結果、すっかり自分が生物学的には「♂」であることを忘れているらしい。
 「あは、確かに、あさなちゃんはペッタンコだもんね~」
 自分が明確に勝っている部分があると知ったファムは、嬉しそうだ。
 「まぁ、これからよ、これから。あさなちゃんだって、すぐに大きくなるわよ」
 「そ、そう? そうなるといいけど……」
 言った本人も言われた本人も、その言葉が後日実現するとは、思ってもみなかっただろう。いや、すでにあさなの性別を両者とも失念していたから、案外本気だったかもしれないが。

 * * * 

 風呂からあがったあさなは、先ほどの約束どおり、ファムの部屋に来て彼女にいろいろと髪型をいじられることとなった。
 ちなみに、ふたりの服装は、ファムが薄桃色のシルクのネグリジェ(ちょっとベビードール風に丈が短い)。
 一方、あさなは、ファムが貸してくれた白いコットンのネグリジェで、対照的にスカートの裾がくるぶし近くまである。もちろん、下着も女物だ。
 本来の"糾"であれば、ファムのその姿や自分の格好に、恥ずかしさのあまり真っ赤になって固まりかねないのだが、おんなのこ(男の娘?)モード覚醒中のあさなは、きわめて自然にふるまっている。
 傍目からは、ふたりはどこからどう見ても「仲の良い思春期の女の子たち」にしか見えなかった。
 「さて、と。そろそろ乾いたみたいだから、色々いじってみるわね」
 「う、うん、お願いします」
 「じゃあ、まず最初は……オーソドックスにポニーテイル!」
 あさなの長い髪を後頭部のやや高めの位置でひとまとめにして、大きめの空色のリボンで結わえるファム。
 「へぇ、結構いい感じね。さすがにもうちょっと髪は切ったほうがいいと思うけど」
 「うん、そうだね」
 鏡の中の少女は、普段の内気なあさなと微妙に異なり、少しだけ活発そうに見える。
 「じゃあ、次はツーサイドテイルね」
 いわゆるツインテールと云うヤツだ。細めの赤いリボンでまとめてみる。
 「うーん、似合わない、わけじゃあないと思うけど……」
 愛らしい印象を与えることは確かだ。しかかし……。
 「そうね、確かにちょっと子供っぽすぎるかも」
 彼女達の年代で、これが似合う子も少なくないのだろうが、残念ながらあさなにはイマイチ、しっくりこない。
 「じゃあ、今度は、オーソドックスに三つ編みとか……ププッ!」
 確かに悪くはないが、あまりにベタだ。ついでに伊達眼鏡をかけさせれば典型的な文学少女の一丁上がりである。
 「ひ、ひどいよ、ファムちゃ~ん!」
 「ご、ごめんごめん。いや、似合ってるとは思うのよ。でも、普段とのギャップが」
 まぁ、確かにあさなに知的なイメージは合わないかもしれない。
 その後もいろいろ検討し実験してみた結果、「後ろでひとつの大きめの三つ編みにして、体の前に持ってくる」というのが、一番しっくりくるようだった。
 「ふわぁ……ちょっと疲れたわね」
 「うん、ゴメンね、ファムちゃん」
 「なーに言ってんの。あたしから髪の毛いじらせてって言ったんじゃない。さ、遅いから今日はもう寝ましょ」
 「う、うん、おやすみなさい……」
 あさなは、自室に帰って寝るつもりだったのだが、ファムに強く乞われて、今日だけは一緒のベッドに入ることとなった。
 本来の糾なら、いくら年齢のわりにお子様だからと言っても、同年代の女の子と同じベッドで寝るとなれば、ドキドキして眠るどころの騒ぎではないはずだ。
 確かに、あさなも多少は落ち着かない気分ではあるものの、それは傍らに人がいること自体についてであり、それもすぐに収まる。
 こうして、温かなファムの体温を感じながら、あさなもまたゆっくりと眠りにつくのだった。



以上。
──百合にすらならない健全ぶりですが、それもココまで。次回のあさなちゃんは(ピーッ)が(ピーッ)してエロエロな目にあう予定。週末投下予定なので、よろしければしばのお待ちください。
ちなみにキャラ画像は以下とかで確認可能。
http://www.oaks-soft.co.jp/princess-soft/marginal/chara.html

<オマケ>
 暗闇の中で、少女は傍らで眠る"親友"に声をかける。
 「あさなちゃん……もう、寝た?」
 穏やかな寝息を確認するとともに、むくりと体を起こし、"彼女"の顔をじっと眺める。
 「あさなちゃんは……本当は糾なんだよね」
 こうして間近で見ていても、この娘が本当は男の子だなんて想像もつかない。
 「マムは、「糾様の服が乾くまで」って言ってたけど……」
 幸か不幸か今夜も雨が続き、洗濯物は乾いていない。だから、たぶん明日いっぱいは、"あさな"はそばにいてくれるだろう。しかし……明後日は?
 「──ダメだよ。あさなちゃん、いなくなっちゃイヤだ」
 周囲にいるのが皆自分より年上の女性ばかりであり、今まで「妹」扱いしかされてこなかったファムが、初めて見つけた同世代の対等な友人。
 "彼女"を失いたくなかった。
 見かけ以上に心が幼い少女は、どうしたら"親友"を失わずににすむのか、闇の中で一心に考えを巡らせ始めるのだった。

 <ヤンデレ風の引きで、次回につづく?>



禍福は糾える縄の如し(後編)


 「あ、れ……」
 夜明け前にふと目を覚ましたあさなは、同じベッドで寝ているはずのファムの姿がないことに気づく。
 「ファム、ちゃん……?」
 ベッドの上に身を起こしたあさなは、いつの間にか、自分が昨日と同じメイド服をまとっていることにも気づいた。
 「ヘンだなぁ。昨晩は、ファムちゃんに借りたネグリジェに着替えて寝たはずなのに」
 そればかりか屋敷全体の雰囲気がおかしかった。
 どこか落ち着かず、鼓動が速くなるような、熱に浮かされたような感覚に襲われる。
 「だれ、か……誰かいないの……?」
 おそるおそるファムの部屋から出たあさなは、廊下の曲がり角の向こうから聞き覚えのある女性の声が聞こえてくることに気づいた。
 「マージ! エリカ!」
 心細さのあまり、大喜びで駆け寄ったあさなは、しかしそこで思いがけない光景を目にすることになる。
 そこには、互いのメイド服をシーツ代わりに床に敷き、半裸の下着姿のままからみあう、ふたりのメイド達の姿があったのだ。
 「え……?」
 事態をあさなが把握する前に、牝狼と牝猫、しなやかな野生の獣2頭が"彼女"に襲いかかった。
 「ちょ、ちょっとマージ、何を……」
 「くぅん。イイことですよぉ、あさなさん」
 言い終える前に、マージの声が耳元から聞こえた。
 (そんな、今目の前にいたのに!?)
 銀髪の少女の姿を見失い、とっさに振り向くあさなだったが、その首筋にあまりに快美な感触が走る。
 少女がその柔らかな指先でツツーーッと撫で上げたのだ。
 「ひゃぅっうんっ」
 自分でも赤面するほど甘い声が唇からこぼれる。
 「なっ、なに、これ……っ!」
 自分がその甘い感触を求めそうになっていることにあさなは狼狽した。
 「んふふ、可愛い声。やっぱり、あさなさんは女の子になるのが正解なんですよぉ~」
 耳元で囁くマージの吐息とともに、霞のように首筋から、暖かい波動が広がり、身体全体が火照ってくる。
 「あさなぁ~、エリカたちと一緒にあそぶにゃん?」
 甘い囁きとともに、今度は反対の耳たびをエリカにやわらかく噛まれる。
 ――ぞくり。
 限りなく優しい甘噛みなのに、それがもたらした暴力的ともいえる衝撃に、一気に膝の力が抜ける。
 「かわいぃにゃあ。こんなに敏感になっちゃうのにゃ」
 「あ、あ、あぁ……」
 さっきから、何が起きているのか判らない。
 身体中の柔らかい場所を、ふたりの細い指先が服の上からスリスリとこすりたてる。
 その感触だけで、全身にいてもたってもいられないほどの掻痒感を呼び起こされ、同時に火がついたような羞恥心が身を焼き焦がすのだ。
 「な、なに……これ、何な、の……」
 「すごぉーい。あさなさん、眼がとろぉんってなって、よだれ、たれてちゃってますねー」
 ちゅるん。
 たまらない甘露が唇に触れる。
 マージの柔らかい唇が、あさなの口元をねぶっているのだ。
 「エリカはこっちにゃ!」
 リボンタイをほどいて、エリカの手が胸元に忍び込んでくる。
 牝猫の指が、今まで誰にも触れられた事のない、触られることなぞ思いもよらなかった、あさなの小さな蕾の頂を探る。その蕾を触れられただけで、全身へと微弱な電流が流れていくようだった。
 それは、ひどく淫らで狂おしいほどの焦慮感。
 これ以上耐えられないと悲鳴を上げそうなのに、同時にもっと欲しくて欲しくて、それさえもらえるのなら何だってしたくなってしまう、禁断の果実。
 体の深奥の疼きが止まらない。この刺激がもらえるなら、なんだって捧げてしまいたくなる。
 (あああっっ! な、なにこれぇ……背中がっ! 腰がっ! ゾクゾクするの。
 いいっ……き、気持ちいいよぉっ! 怖いっ、やだ、なになにこれなにっ!)
 「や、え、エリカぁ……うぅ……はぅっ」
 制止の言葉を言い切る前に、マージに唇を塞がれ、唾液を口中に流し込まれる。
 たえきれずにあさなは、その甘い蜜を飲み下すしかなかった。
 喉元を熱い液体が滑りおりていくのを感じるとともに、あさなの体から、くたっと力が抜ける。
 「うんうん、だいぶ素直になってきたにゃ。じゃあ、お胸の方も吸ってあげるにゃ」
 (あああっ、お胸? やんっ、ダメ……それ以上されたら、ボク、ヘンになっちゃうよぉ。
 でもこれってぇ、胸の刺激が、そのまま背筋までに届く様なこの感覚は……あ、だめ、お胸を吸われると、うんと気持ちよくて……く、る……)


 ――ボーン、ボーン、ボーン!

 どこからともなく聞こえる柱時計の音ともに、あさなはハッと我に返った。
 見れば、どこにもあのふたりのメイドの姿はない。
 先程までのは幻かとも思ったが、乱れたあさなのメイドと、襟元からリボンタイが外されていることだけは事実だった。
 「う……そ。何、これ……」
 力なくへたり込んでいるあさなの背後から、カツカツカツという足音が聞こえてくる。
 ギクリと後ろを振り返ると、そこには常に感情に流されない冷徹な紫衣のメイド――アメリアの姿があった。
 「―いかがなされましたか、あさな様」
 「あ……」
 そのいつもと変わらぬ落ち着いた声音に、思わず安堵の声が漏れるあさなだったが、彼女はその時気づくべきだったのだ。
 ――昼間のアメリアは、決して"彼"のことを"あさな"と呼ぼうとはしなかったコトに。
 「―なるほど。つまり、あさな様は、淫らな妄想に浮かされて廊下の真ん中ではしたなくも自慰に走られていたわけですね」
 「ち、ちが……」
 「いえ、自慰自体は恥じる必要はありません。人形の私ならいざ知らず、人間であるあなたにとっては、その種の欲望は生きていくうえで必要不可欠なのですから」
 相変わらずデリカシーには欠けるものの、理路整然としたアメリアの言葉に、ホッと息をついたあさなだったが、安堵するにはいささか早過ぎた。
 「―しかし、屋敷の中で所構わずと言うのは困ります。風紀の乱れもありますし、警備担当の私の責任問題になりかねません」
 アメリアは、ぐいっとあさなの腕をつかむと、手近な部屋へと引きずり込んだ。
 「ですから、僭越ですが今から、あさな様にお仕置きと教育を施させていただきます」
 見かけは華奢なのに信じられないほど力のあるアメリアの手が、あさなの体を抱え上げると、手近なベッドに腰を下ろし、膝の上にあさなを横たえた。
 「お、お仕置きって……もしかして……」
 「ええ。お尻叩きです」
 平然とあさなの危惧する事態を宣言するとともに、アメリアはあさなのスカートをめくりあげ、その白桃のようお尻をあらわにする。
 「―この館のメイドとして恥ずかしくない、リッパな淑女になれるように、躾けてさしあげます」
 その宣言と同時に、彼女の左手があさなのお尻をそっと撫で、白いショーツを膝まで下ろす。
 指先がお尻の割れ目をなぞり、 手のひらはお尻の頬の部分を愛撫する。
 ビクリと震え、顔を伏せてそれを悟られまいとするあさなの髪をアメリアは優しく掴んだ。
 そのまま引っ張って上げさせたあさなの顔を覗き込み彼女に問いかける。
 「―お返事は? 『わたしは、はしたないメイドです。お尻ペンペンして、キチンと躾てください』と言わないとダメでしょう? 言えますよね?」
 いつも以上に冷酷なその瞳で覗き込まれて、あさなの背筋にゾクゾクするような恐怖と快楽が走っていく。
 (そ、そんなこと言ったら……本当にメイドさんになっちゃうよォ)
 そう思っているのに、我慢できなかった。
 「お尻……ボクのお尻ペンペンして、躾てくださいっ!」
 ペシン!ペシンっ!と、お尻を叩かれる音が響く。お尻が熱い。
 それほど強く叩かれているわけではなく、優しく、撫でる様な叩き方が余計にイヤラシく感じられた。
 その度にあさなの股間のものは、触られてもいないのにムズムズと疼き、 あさなは尻を振らずにはいられなくなってきていた。
 「―どうかしましたか? お尻を頻繁に動かされて。よもや、こんなふうにオシオキされて、お尻叩かれて、その事に快感を感じてらっしゃるのではないでしょうね?」
 あさなを叩く合間に、彼女の指先がまたお尻の割れ目をなぞる。
 膝の上で顔を上げさせられ、 アメリアにじっと見つめられながらそれをされていると、あさなはなおさら尻を振らずにはいられなかった。
 (ああっ、は、はずかしい……!)
 軽くとは言え、すでに20回以上もスパンキングを受けているのだ。
 あさなの敏感な尻肉は、ジンジンと痺れ、熱を持ち、さらなる刺激を待ちわびて蠢く。


 「―わかりました。この程度では、役不足ということですね。では……」
 アメリアの細いが力強い指が、一瞬あさなの股間に触れる。
 その感触を味わう前に、ねっとりとした先走りを指先に付着させた彼女の人差し指が、あさなの菊の花へと滑り込んできた。
 (あ……そこだめっ、き、汚いよぉっ! ああっ、でも、いい!)
 触られてるのはお尻の中のはずなのに、太股の外側までもがゾクゾクとふるえる。
 (いいっ! お尻、気持ちいいっ!)
 「うああっ、はぁっ、うっ」
 「苦しいですか? しばらく我慢してください」
 「はぁうっ!」
 さらに中指までもを後ろの穴へと突き入れられて、あさなは苦痛とも悦楽ともつかない悲鳴を漏らした。
 (あっ! またっ! お尻が、おしりがぁああ!)
 「大丈夫です、ゆっくり入れてますから………」
 その言葉どおり、じんわりとあさなの体内に侵入するアメリアの指は、苦痛とそれに数倍する快美感を、あさなの肉体にもたらしていた。
 (ふわわっ、入ってくる、入ってくる、入ってくるよぉ~)
 次第に意識が朦朧としてくるあさな。
 (あ、あ、あ、あ、あ、いま……奥……まで……
  ぼ、ボク、本当に"女の子"にされちゃうんだっ……
  ――恐い、恐いっ! 恐いけど……ゾクゾクして、気持ちっ良過ぎるのっ!)
 「ああ、ファムちゃん、助けて……」

 ――ボーン、ボーン、ボーン、ボーン!

 あさなが小さな声でそう呟いた瞬間、柱時計が鳴り、再びあさなは無人の部屋へと取り残された。

 「ひっく……一体どうなってるの……」
 訳がわからないまま、疼く体をもてあましながら館の中をさ迷うあさな。
 「ぐす……ファムちゃぁん……」
 あまりの熱に耐え兼ねて、手近な部屋――それは偶然にも本来のあさなの部屋だった――に入り、ベッドに腰かける。
 はだけられた胸元から右手をさしいれて乳首をいらうあさな。左手はスカートの上から尻の辺りをさ迷っている。
 「呼んだかしら? あさな」
 「えっ!?」
 あさなは弾かれたように顔を上げた。
 いつの間にか、あさなの目の前にファムが、いつものメイド服を身にまとい、いつものように悠然とたたずんでいる。
 一方のあさなは頭が真っ白になってしまったのか、乱れた服装を直そうともしていない。
 その呆けた様子がおかしかったのか、ファムは微笑する。
 「そんなに驚かないでよ。アタシの名前を呼んだのはあさなでしょう?」
 「あ……」
 その言葉を聞き、ようやくあさなの時間が動き出した。。
 「ちっ、違うの、これは……」
 「何が、違うの?」
 ファムは笑いながらあさなに覆いかぶさるように腰を屈めた。
 「あさなが一人遊びしてたこと? いいえ違わないわよ、だって……」
 くに……
 「ひぁン!?」
 「ほら。痛そうなくらいに乳首が勃起しちゃってる」
 メイド服越しにあさなの胸に触れる。彼女の言葉どおり、薄い胸板の上でつんつんと突付けば確かな弾力がファムの指を押し返した。その度にあさなは甘い喘ぎをあげる。
 「ひぅっ……ふぁ、ファムちゃん……っ!」
 「……だぁめ」
 指を噛んで喘ぎ声を抑えようとするが、その手はファムの指に絡めとられてしまう。
 ファムが更に体重を前に倒すと、あさなの首筋にファムの熱い吐息がかかった。
 ファムも明らかに興奮していた。
 「ふふっ、いい匂いだわ。発情しきっちゃって……」
 「ぁ……あぁっ……ご、ごめんなさい……ボク……んんっ!?」
 「……悪い子」
 ちゅ、と首筋に口付けられ背筋を反り返らせながらも、あさなは瞳を潤ませる。
 赤らんでいる首筋に、頬に、ファムはついばむようなキスを何度も何度も繰り返した。
 「ふぁ、あ、あぁ……っ!」
 「とんでもなく敏感ね。全身性感帯みたいなものかしら……まぁ、アタシがそうなるよう仕向けたんだけどね」
 はむっと、耳朶を甘噛みすると、あさなはぴくんと痙攣する。


 「ひんッ!?」
 口をだらしなく半開きにし、荒く呼吸を繰り返すあさなの耳を、ファムの囁きが甘く揺らす。
 「こんなにはしたなく感じまくっちゃう子には……レディになるためのお仕置きが必要ねぇ?」
 「ぁ――っ」
 「そこに仰向けになって脚を開きなさい、あさな」
 ぴくん、とあさなの肩が震えた。
 ファムの命令に従い、寝転がって両足を大きく開く。
 ファムはあさなの足の間にしゃがみ込んでショーツを引っ張り下ろすと、唾液を入り口だけでなく中にも塗り込んだ。
 「ふぅっ、うぐっ」
 あさなは初めて体内をこねくり回されたにも関わらず、ビクビクと足を痙攣させている。
 下唇を噛み締めるあさなの反応を楽しんでいたファムは、薄く微笑んで体を起こすと、自らもスカートをたくしあげて、その股間をあさなの目の前にさらす。
 「これ、なーんだ?」
 「え……うそ、ファムちゃん?? これって………おち………」
 「ふふ、あさなのために、特別にこしらえたのよ。さ、舐めて」
 あさなの顎を左手で引き寄せ、妖力を凝縮させた擬似男根を口に押し付ける。
 「その中途半端な状態のまま放置してもいいの? それが嫌なら、口を開けなさい」
 あさなは目を堅く閉じて口を開けた。
 「あら、それじゃ駄目よ。あさなは女の子でしょ? ちゃんと見ながらしないと。怖がらなくてもいいわ、咥えるのも気持ちいいはずだから」
 あさなは目を開け、恐る恐る唇を寄せて先端を咥えた。
 「喉の奥ぎりぎりまで飲み込むようにしてね。あとで、これがあさなのエッチな穴に入ってくるんだよ? それを想像しながらしゃぶってみて」
 あえてファムから腰を押し付ける事はしない。あさなが自分の意志で快楽を求め、溺れるようにさせるためだ。
 「………はむっ」
 自分の中に入ってくると聞かされたあさなは一気にそれを飲み込み、ファムは驚いて一瞬腰を引きかけた。
 初めてとは思えないほどに深いディープスロートだ。
 「………(やっぱり、あさなには素質があったのね) さ、そのまま前後に頭を動かして、口の中全体で擦るようするの。自分が入れられてる姿を想像してごらんなさい」
 あさなは、ファムのアドバイスに素直に頷き、ゆっくり、そして徐々に早く動き出した。 
 その動きが振動となって伝わり、ファムの股間に心地良く響いた。
 「あ………あぁ、上手、よ……はぁ……はぁ……」 
 懸命に擬似男根をしゃぶるあさなの姿が、ぴちゃぴちゃと湿った音が、ときおりすする涎の音がファムを一気に興奮状態に引き上げた。
 「むぐぅっ!」
 あさなの悲鳴は頭を押し付けられて、喉を突かれたからだ。
 哀願するように見上げるあさなに、なおさら可虐衝動を刺激されたファムは背筋をぞくぞくさせながら命令した。
 「はぁ…はぁ…休んで良いとは言ってないわよ………つ、つづけなさい」
 その声を聞いたあさなは目をとろんとさせ、再び動き始めた。
 動きながら視線を上げ、ファムの熱を帯びた視線を浴び、まるで彼女の所有物となったかのような不思議な幸福感に包まれていた。
 そして変化が訪れる。
 「ふぐぅっ………んんっ………んむっ………んんっ………んむっ………んんっ………」
 目を閉じたあさなは、ファムの突き込む動きに合わせながら鼻声を漏らし始めたのだ。
 「あはは………はぁ………もしかして……おしゃぶりながら感じ始めちゃった?」
 ファムは驚きながらも、なお一層あさなが愛しくなる。
 抜こうとする動きに逆らってまでしゃぶり続けるあさなを、半ば無理矢理引き剥がすと、再び仰向けに押し倒す。
 うっとりと見つめるあさなに、上からファムが優しく微笑みかけた。
 「さあ、その疼きを癒してあげる。力を抜いてね」
 「は、はい……あっ! ああっ、あぁーーーーーーーーッ!」
 返事を待たずに侵入した擬似男根が、あさなの心を支配される悦びで満たしていく。
 ファムはくすくすと笑い、ゆっくりと腰を前後に動かした。
 「妖力を使ってるから大丈夫だと思うけど痛かったら言ってね」
 「はいっ、あふっ……だい、じょうぶっ」
 「そう? ならいいけど。もしかして気持ちいいのかしら? どこが気持ちいいの?」
 ファムはギリギリまで引き抜いて、再度密着するまで押し込む。


 「はぁっ、あっ、いっ、入り口っ、もっ、なかっ、もっ、ぅんんっ、っはぁっ、ぜんぶっ!」
 あさなが答えた瞬間、ファムが大きく動いて中をエグる。
 「あらあら、欲張りさんね。じゃあ……」
 早く浅い突き込みが数回繰り返され、一度だけ深く侵入してくる。
 かと思えば、体ごとあさなの上にのし掛かり、結合部を密着させたまま体から下りる動きで擬似男根をうねらせる。
 また、ある時は、力強く腰を打ち付け、パンパンと柔らかい肉がぶつかりあう音を響かせる。
 「うああっ! ああっ! やっ! だめっ! あああっ! あああっ! あああっ!」
 それを受けるあさなは、ファムが生み出す悦びの波動の虜になっていた。
 「ふふっ、どう? オチンチンでする時よりもいいでしょ?」
 「そ、な、こと……した、こと……ないッ!」
 激しくゆさぶられながら、あさなは答えようとした。
 「へぇ~、年頃のオトコノコって、Hなことを我慢できないって聞いてたけどな。
 じゃあ、やっぱりあさなは、正真正銘女の子なんだよ……その証拠に、ホラ!」
 「ひぃああっ! ああっ! ふうぅっ! いっ! ぃんんっ!」
 ピッチを挙げられてより一層艶めかしい喘ぎを漏らしてしまう。
 あさなは、いまや激しく突き上げられる悦びに完全に目覚めてしまっていた。

 と、そこでピタリとファムは動きを止め、擬似男根を引き抜く。
 「え……ファムちゃ、ん? どうして……」
 「ふふ、選ばせてあげるわ、あさな。これまでのことは一夜の夢と忘れて、いつもの日常に戻るか。
 それとも、このまま永遠にメイドとなってこの館でアタシたちと一緒に暮らすか。
 もちろん、前者を選ぶなら、ここまでで御仕舞い。でも、後者を選ぶんなら……わかるわよね?」
 ニタリと微笑むファムの顔は、あさなと同年代とはとても思えぬ妖艶さに彩られていた。
 「ぼ、ボク……い、さ……」
 「ん? 何て言ってるの? 小さくて、よく聞こえないわ。それから、当館のメイドは言葉づかいも上品でないとね。
 ボクじゃなくて、「わたし」か「わたくし」って言いなさい」
 あさなは一瞬きゅうっと目を瞑ると、次の瞬間、パッと目を開いて大きな声で叫んだ。
 「わ、わたし、ずっとずっとこの館にいたい……ファムちゃんと、みんなと一緒に暮らしていきたいです!
 だから……わたしのお尻の穴もっとほじってっ! めちゃくちゃにしてくださいっ!!」
 「うふふ、よくできました……いいわ。あさなの願いを叶えてあげる。貴女のいやらしい穴、めちゃくちゃにしてあげる……!」
 ずにゅーーっ!
 再び、ファムがその擬似男根をあさなの尻穴に打ち込んだ。
 「いいっ! ああっ! あんっ! もっと! ああっ、もっとぉっ!」 
 ファムに首筋にキスされて仰け反り、指先で乳首を擦られて悲鳴の様な嬌声をあげる。
 支配され、翻弄される"女"の悦びが、あさなを絶頂の渦へと叩き込む。
 抱きしめられる温もりと、胎内を貫く太さが、これまでの価値観の全てを壊し、今やあさなはそれしか考えられなかった。
 いつしか腕はファムの首に絡みつき、足を大きく開いて全身で迎え入れている。
 「こんなに足開いちゃって……可愛い。ねえ、あさな。オチンチンから出したことない子が、先に後ろだけでイクとどうなるか知ってる? 完全に女になっちゃって二度と立たないんだって。どう、試してみよっか?」
 「ああっ! はぁっ!いいっ! それで、いいのっ! 男になんて戻りたくないっ!」
 「あは、後悔しないわね? 知らないわよ」
 ファムはあさなの体をベッドに押しつけると、より一層激しくグラインドを繰り返した。
 「ぃやあああああっ! なにっ! なに、これ! すごい! すごいぃーーーーッ!」
 「ほら、イっていいわよ! 射精なんかよりもずっと気持ちいいから! さ、イキなさい!」
 ――ズンッ!!
 「かはっ! ――あっ! ――っいい! くぅーーーーッ!」
 直後。 大きく震えたあさなは、ピンと立った股間のモノから精液を漏らすことなく果てた。

 * * * 


 ボーン、ポーン、ポーン、ポーン、ポーン、ポーン……。

 柱時計が6回時を告げるのと同時に、自分の部屋のベッドで目を覚ます、あさな。
 「うーーん……」
 ベッドに半身を起こして伸びをする。窓から差し込む陽の光の明るさに、白いネグリジェ姿のまま、窓辺に駆け寄り、シャッとカーテンを開く。
 「わぁ、今日はいい天気みたい」
 気持ちのいい朝の空気を吸い込んで完全に眠気を覚ますと、夜着を脱ぎ捨てて、「いつものメイド服」に袖を通す。
 姿見で全身をチェックしながら、胸元のリボンを結ぶ。
 「うーーん、最近ちょっと胸元キツくなってきたかなぁ」
 これまでは、ずっと親友のファムと同じサイズのメイド服でよかったのだが、最近少しずつ胸が大きくなってきたせいか、多少窮屈な感じもする。
 (ファムちゃんは「うらぎりものぉ~」って怒るかもしれないけど、しょうがないよね?)
 大体、遺伝的には、あのフィンさんの娘なのだから、ファムだってこの先成長する見込みはまだまだあるのだ。
 「うん、できた」
 鏡の前でクルンと一回転してみせる。フワリとスカートが広がる感じが、あさなは大好きだった。
 「それじゃあ、今日も一日、お仕事頑張りますか!」
 緑色の長い髪をポニーテールにまとめたメイドの少女は、元気よく自室の扉を開けた。

 * * * 

 ……って感じなんですね。
 ウフフフ、どうです、お客様、参考になりましたか?
 あら、ちょうどいい所に来たわ。
 「なんでしょうか、フィンさん?」 
 このアラシの中、雨宿りにいらしたお客様なの。客間にご案内してさしあげて頂戴……あさなちゃん。
 「はい、承知致しました。さぁ、お客様、どうぞこちらへいらしてください」

 ――プラエトーリウム・ソムヌス、そこは眠りの館。
 主としてふさわしき者の訪れを待って、今日も「6人」のメイド達が手入れを欠かさず、快適な居住環境を保っていると言う……。

  • fin-



以上。最後の「あさなちゃん」ですが、館に留まるうちに母方のドライアドの血が発現したのか、全体にきゃしゃで女らしい曲線を描くようになって、パッと見には完全なメイドさんですが、一応、下は残っています。
(ファムの言う通り、興奮しても立ちません。ただしカウパーはダラダラ垂れ流しです)
かなりマニアックな駄文にお付き合い、ありがとうございました。

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最終更新:2013年06月05日 21:40