「じゃ、プール行こう」
ここは夏休みの文芸部。
扉を開けるなりそう言い放った部長以外、扉を開けるのは後にも先にも僕1人しかいなかった。
水着なんて、と言いかける僕に先んじて放られるバッグ1つ。

――あぁ、なんて哀しいほどに計画的なヒトなんだ。
だからこそ、弱小文化部の分際で部室なんて持てるんだけど。
今はその行動力が恨めしい。
だって最早、この僕は抗おうとも思えなくなってるんだから。
バッグの中身が例え女子用だったとしても。

プールには、僕らの他には誰もいなかった。
今ばかりはこの部長の用意周到さに呆れながらも感謝する。
部室がある幸せもあるけれど、水浴びできる幸せもあるのだ。

僕のは旧型、部長のは白縁のついた競泳型。共にスク水。
文芸部長のくせに運動が得意なスレンダー体型で、水着姿を見るのは初だったけれども似合ってると思った。
僕の方は、部外でもからかわれる通り不健康そうな色白で、今日も部長に「いかにも文学少女だねー」とか言われてる。
それがどういうことかって言えば、つまりこの時僕はまだ、スク水焼けするということに全く気づいてなかったんだ。

そして、もう一つ気づいてなかったことがある。
更衣室にある僕の着替えが、その時既に化けていたことに。
バッグから出してみると、襟の部分だけ別の生地になってるカットソーと、シフォンも涼しげな二段フリルのミニスカート。
見れば靴もなく、コーディネイトもばっちりな夏らしいサンダルがちょこんと揃えて置いてある。

珍しく今日はおしゃれしてると思ったら、こういうことかっ!

「遅いぞー、そんなにあたしのスク水が気に入ったかー?」
無造作に更衣室に入ってきた部長は、実に楽しそうだ。
当然、僕のTシャツとハーフパンツを着てしまっているけど、ショートカットの部長には、正直僕より似合ってると思う。
「じゃ、遊びに行くから。先に部室で待ってるze!」

返事も聞かない、振り返らない。
けれど、そこが僕は大好きだ。
苦笑しつつ、部長が香るブラとショーツを身につける。
身につけるごとに、僕のどっかが壊れていく。
部長に合わせて、大好きな部長にボクがコワされていく。

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最終更新:2013年04月27日 21:00