初給料で買ったもの

「ほんとにいいのか?」
いきなりの申し出に、律は驚いていた。

俺は初めて給料というものをもらった。
親に「いい加減バイトしなさい」と、いわれたのもあった。
しかし、クリスマスにちゃんとしたプレゼントをあげられなかったのが悔しかった。

「欲しいもの買ってやる!」
「じゃあ、新しいドラムセット」
「却下」
「欲しいもの買ってくれるっていったじゃんかぁ」
「予算というものを考えてくれ」
「ちぇ~」
正直、このむくれっツラに「わかった!」って言ってしまいそうになる。
しかし、ドラムセットなんぞ明らかに予算オーバーである。
「悪い。予算を決めさせてくれ」
「いくら?」
「う~ん・・・15,000円」
「そんなにいいのか?」
「それぐらいなら何とかなるよ。今まで1ヶ月3,000円で生活してきたんだし」
俺超頑張った。携帯代払ったら、残りは5,000円だ。
でも、何とかなるだろう。

そんなこんなで、律の欲しいものを探しに出かけることになった。

「あ~、これもかわいいなぁ」
まずは服屋だった。かれこれ2時間いる。
服屋にこんなに長くいられる人を尊敬してしまう。
「あんまり良いのないから別の店いこうぜ」
紺だけ長くいてこれだ。まぁ、いつものことである。もう慣れた。

次は楽器屋だ。いつも寄っているいつもの店だ
俺もギターを弾くからノリノリである。
まぁ・・・律達みたいにバンド組んでやってるわけじゃないけど。
中高生は絶対通る道・・・だと思う。
「このドラムセット欲しいなぁ。欲しいなぁ」
「そんなにねだられても無理ですよ」
「んな事わかってるよぉ」
そんな上目遣いでねだられたら・・・
「と・・・とにかく無理なものは無理!」
「ちぇ~。そうだ、ドラムスティック買わなきゃ」
「そんなんで良いのか?」
「これは自分で買うって。これは消耗品だし」
ちっ。安く上ったと思って喜んじまったじゃねぇか・・・

CD屋・・・ファンシーショップ・・・結局何も買わなかった。

「律さ~ん、結局なにも買ってないじゃないですか」
「ふふふ・・・実は最初から欲しいものなんて決まってたんだよ」
最初にそこに言ってくれ・・・そんな言葉は我慢した。
「じゃあ、それが売ってるところに連れてってくださいな」
「おどろくなよぉ」
いたずらっ子っぽく笑う律。この笑顔で、今日のすべてを許せてしまう自分が悲しい
あぁ・・・神様ありがとう・・・こいつと出会わせてくれて。

律の後をただ着いていく。そしてついたのが・・・
「ここなのか?」
「驚いただろ?時間もないしさっさと入ろうぜ」
なんとそこは、金券ショップだった。なぜ・・・ここに・・・?

「すいませ~ん。これ15,000分ください」
律が指差したのは、旅行券だった。
「ちょっ!旅行券って」
「まぁ、いいからいいから。支払いよろしくね」
わけもわからないまま支払いを済ませた。
旅行券って・・・俺達にはまだ早いだろ・・・
いや・・・毎年行ってる合宿用か?
そんな事を考えながら家路についた。

「旅行券なんてどうすんだ?合宿に行く為のか?」
「ん?これは、おじさんとおばさんに渡して」
頭の上に「?」が数え切れないぐらい浮かぶ俺。
「どうせ母の日なんか渡してないんだろ?父の日もさ」
「母の日と父の日・・・そういやそんなのもあったな・・・」
「初めてもらった給料だろ?おじさんとおばさんの為に使わなきゃ」
律はにっこりと笑いながらそう言った。
「お前のは・・・」
「来月もらうからいいよ♪渡すときに私の名前は出しちゃダメだからね。家に着いたらメールするからな!」
そのまま走って行ってしまった。ったく、いつもこんな感じだ。
しょうがない・・・。律の為に頑張るか

その晩、夕食後に、自分の部屋に戻る間際に渡した。
親父は目を丸くし、お袋は泣いていた。
そんな両親を見るのが恥ずかしくて、逃げるように部屋に戻った。
はぁ・・・来月はいくらの物を買ってあげればいいだろう・・・
最終更新:2010年05月25日 15:02
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