「…すまない」
「いきなりだね。でもわかった」
「君なら俺なんかよりいい人が見つかるよ、きっと」
「もう…別れよう」
それが学生時代を含め四年間付き合った弓子との最後の会話だった
その後まもなく、仕事が手につかなくなり、辞表を出した
今ではつらい思い出だらけの東京…息をするのも苦しい…俺は実家に帰った
親父は既に他界している。母と姉は快く迎えてくれた
「二年ぶりの自分の部屋か…」
俺は昔のことを思い出した。この部屋で幼馴染と大喧嘩した時の事を…
「俺、東京の会社に就職するんだ」
律「え……?」
「だからもう、この家にはいなくなるんだよ」
律「え?この前はこっちで就職するって言ったじゃん!」
「すまん」
律「あーそう、そういやこの前の女の人と仲良くしてたよな?」
「それは…そんなのどうでもいいだろ」
律「よくねーよ!そういう事ですかそーですか!」
「だから違うって言ってるんだよ!!!」
図らずも律を怒鳴ってしまった
律「う…うう…○兄のバカヤロー!」
俺は後悔した、律の笑顔に助けられた時もあったはずなのに…
それに俺の本心は…
結局引越しのときも律は全然姿を現さなかった
「そんな部屋に帰ってきたんだな、俺」
翌朝
「なあ姉貴、律ってどうしてるんだ?」
姉「りっちゃんは高校生だよ、二年生かな、なんで?」
「いや、なんでもない」
姉「りっちゃんてお前にベッタリだったもんね、将来結婚するのかと・・・」
と言い終わる前に母が姉に何か言う。どうやら俺が弓子と別れたことを気にしているようだ
「どうでもいい話なのにな…」
もはや俺には弓子だの仕事だのどうでもいい話だ。ただ毎日無益に生きるだけ
そんなある日、律がウチに来た
律「ひさしぶりだね、○兄!元気だった?」
「ああ…うん、律は少し大人になったな」
律「そう?それよりほら、昼飯だぞー」
「ああ、頂くよ。それと…今までごめん」
律「何が?これはアタシが作ったんだから残さず食えよな!」
「はいはい」
そんな日々が続いた
律は元気に学校生活を送っていること
部活では部長もやっていると
昔と変わらず元気な律だった
俺と律は昔のように一緒に出かけたりした
どうにか昔に戻ろうと
律「きれいな夜景だね」
「来て良かったろ?そうだ、律に渡したいものがあるんだ」
律「え、何?」
「開けてみろよ」
律「きれいな指輪…」
「俺指輪とか全然わかんなくてさ、姉貴に聞いたりして大変だったよ。気に入ってくれたか?」
律「うん、とても…でもこれは受け取れないよ」
「何故だ?」
律「○兄はまだ心にあの人を宿してる。女の私にはわかるんだ…」
「違う!それは違うぞ!」
律「嘘だ!」
「俺は、俺は前から律が好きだった!それは今でも変わらないんだよ!」
律「じゃあなんで時々ボーっとして遠い目をしてるんだよ!昔の○兄じゃないよ!」
「俺は律にちゃんと謝りたかったんだ!二年前、そして二年間すまなかった、許せるなら許してくれ!」
律「その事はもういいよ…でもあの女の人は」
「弓子とは正式に別れた。もう会うことも無い」
律「…」
「それに律はまだ当時中学生だったよな、俺だって男なんだぜ」
律「えっ?」
「仮に中学生とそんな関係になっちまったら大変だろ?俺はお前を大切にしたかったから…」
律「だからって他の女の人とか…」
「それは謝る。そして俺の心の中にはずっと前から別に大切な人がいる、と本心を打ち明けた。それで別れたんだ」
律「……!」
「律、とにかくこれは受け取ってくれ。いやならこのまま川に投げてもいいから」
律「うう…○兄!ずっと…ずっと前から○兄の事が大好き!大好きで苦しいくらいに!」
「俺もだよ、律。仕事もこっちで何とかするよ、だからもうどこにも行かないから」
律「離さない!もう離さない!」
「これから二年間で開いちまった距離を少しずつ埋めていこうな、律?」
律「う…うん!」
その後の俺と律の仲は、まあ相変わらずといった感じだ
どちらかといえば俺が東京に行く前に戻った感すらある
だが、帰ってきた当時の不自然さは無い。自然な感じだ
弓子の方もいい人が出来たらしい。電話で明るく振る舞っていたのは俺への気遣いか
いずれにせよ俺には出来過ぎた女だった
それはもちろん律にも同じ事が言えるんだが…
律「うわ…寒いな今日は」
「ああ、そうだな。じゃ、ほら」
律「なんだ、手なんか出して?」
「手を繋げば暖かいだろ?」
律「うわ似合わねー!○兄のガラじゃないぞー」
「うっせえ!俺はお前とこうしたかったんだよ!」
律「あっそ」
「あっそ、とか…まあいいけどよ」
律「だからさ、○兄は押しが弱いんだよ…ほら!この方が暖かいぞ!」
「お、おいこら!腕組むとかさすがに…」
律「あったけー!暖房として一家に一台ほしいな?」
「一生やってろ」
律「指輪、ありがとうな…ほら、似合ってるか?」
「そりゃ俺の愛する律だもの、似合ってるに決まってるだろ…」
律「ベタなセリフだなぁ」
「悪いか!俺は口下手だからもてないんだよ!だから安心しろ!」
律「いやーこれなら安心できますねー」
「まったく…」
律「私たち遠回りしちゃったね…でも、これから今までの遅れを取り戻そうよ…」
「もちろん、俺たちはこれからだよ」
完
最終更新:2009年10月02日 16:13