たまにはいいか

「律、走るぞ!」
律「わかった!」

ひどい雨だ
バケツをひっくり返すとはこういう雨を言うんだろうか
傘なんか役に立たない
せっかく放課後久々に律と待ち合わせしたのに…

「ふーっ…ここなら雨宿りできるだろ」
律「しかしひどい雨だねー、しばらく止まないんじゃないか?」
「ああ…」

喫茶店の前の軒下で雨宿りをすることにした

律「これからどうする?これじゃ身動き取れないぞ?」
「そうだな…駅前まで行けば某有名コーヒー店があるけど行くか?」
律「んー…あのさ、ここ入ってみないか?」
「ここか?俺入った事ないけど…よし、わかった」

ジャズが流れる店内は大人の雰囲気だ
客層も会社員など大人が殆どの落ち着いた感じの店だった

律「とりあえず座ろうぜー」
「よっしゃ、って…ブラウス雨で透けてるぞ?」
律「な、なに言ってんだよ!見るなよスケベ!」
「スケベとかなんだよ、教えてやったのに…ほらよ!」

律は寒さで微かに震えていた
俺は自分の制服のジャケットを律に掛けてやった

律「こ、こんなの○○らしくねーし!」
「他の奴に律のこんな姿見せたくないからな…」
律「か、からかうな!バカ…」
「い、いいから頼むもの選べよ」
律「そうだな、悪いな…せっかく気を使ってくれたのに」
「へえ~…律だってらしくねーし」
律「う、うるせー」
「俺はコーヒーでいいや、律は」
律「じゃあ私は紅茶!」
「ケーキか何か頼めよ、ご馳走するからさ。バイト代も入ったし」
律「いいのか?あんま無理するなよ」
「無理してないっつーの。そのくらい格好付けさせろよ…」
律「そっか、じゃあ遠慮なく」
………

店員「お待ちどうさまでした。コーヒーと紅茶とモンブランでございます」
「あ、はいはい」
律「いただきまーすっ!」
「…結構うまいコーヒーだな。隠れた名店だぜ」
律「うめぇ~!」

キラキラした目でモンブランと格闘する律
それを見てるだけでこっちは満腹だ

「律は俺の学校の制服も似合うな」
律「な、なんだよいきなり…」

俺はふと律と同じ高校だったら、と思った
だがとてもそんなことは言えない
律にも夢があるだろう
心を惑わすようなことは言えなかった

「ここ静かだな。同じ学校の奴らも来ないだろうし」
律「そうだなー。たまには落ち着いた店ってのも悪くないな」
「って俺たちが少々騒がしくなりつつあるぞ」
律「やば…少し声のボリューム下げるか」
「まあこのくらいなら平気だろ。気にするなんてらしくない」
律「らしくない、か。なあ?私達ってここではどう見えるんだろうな?」
「彼氏と彼女、かもな」
律「な、何言ってんだよ!」
「ほら…声が大きい」
律「あ、ごめん…」

俺は勇気を振り絞って律に言った

「律…手、出してみろ」
律「んー?ほいっ」

ガキの頃以来に律の手に触れた
いつも強がってる律とは裏腹に小さな手だった
それに雨で冷えていたせいなのかまだ冷たかった

「手、冷たいな」
律「うん、でも○○の手は大きくて暖かいな」

平静を保ってるような素振りを見せる律
だが律の鼓動がドキドキと伝わってくる
俺だってもう爆発寸前だが

「手が冷たい人は心が温かいんだぞ」
律「それこの前言ってた子がいたなぁ」
「俺は心が冷たいって事さ」
律「ん…そんなことないよ。それは私がよく知ってる」
「照れるじゃねーか…」
律「やーいテレてるテレてる!」

「…何かガキの頃の事思い出したよ…」
律「何を?」
「律とこうして出かけたりしたことさ」
律「そうだなー、懐かしいね…」
「律に引っ張られて…あちこち連れ回されて」
律「なんだよー、その迷惑そうな言い方は」
「そんなことないって、俺楽しかったんだぞ」
律「あの頃に戻りたい?」
「どうかな…戻りたい気もするけど。でも今の律も…おっと」
律「なんだ~?律姉さんに惚れちゃったか?ふっふー!」
「ち、ちげーよ」

俺はとっくに律に惚れてるんだよ…気付けよ…

…………

店員「ありがとうございましたー」

律「あ、制服返すよ。ありがとうな」
「どういたしまして。雨、だいぶ弱くなったな」
律「これなら傘無くても平気だなー」
「うん、でもごめんな。結局どこにもいけなくて」
律「いいって!それよりさ、ウチでアルバムでも見ないか?」
「よっしゃ!じゃ律の家まで走るぞ!」
律「あ、待って!捕まえたっ!」

律に思い切り手を捕まれる

律「自分だけ走ってったら駄目だろ!それー、走るぞー!」
「お、おいそんなに引っ張るなって!それに秋山さんに見られたりしたら…」
律「なーんだ?ひっとして澪のこと…こんにゃろー!」
「いてて!違うっつーの!」
律「多分…澪は知ってると思うよ…」
「ん?何か言ったか?」
律「なんでもない。さ、早くしろよー!」


いつか俺の本当の気持ちを伝えないとな…
でも今はこんな関係もいいかな?
変わらない俺と律
でも何か進歩があった気がする
雨…ありがとう
たまにはいいか…こんな日も
最終更新:2009年10月09日 09:54
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。