101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:30:01.83 ID:KgUBnGFH0
彼女はまた嬉しそうに小さく笑う。
…彼女のその笑顔を見る度に、ある事を自覚していく俺が居た。
「あの…さ」
少し前を歩く彼女に声をかける。
「はい? なんですか?」
柔らかく振り向く彼女。
黄色のワンピースの裾がフワッと舞った。
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:33:20.38 ID:KgUBnGFH0
「…宿題、できたよ」
決意を込めて。
勇気を持って。
俺の言葉に彼女の雰囲気も変わる。
その姿は凛としていて、妙に闇に映えた。
「…よーやく、分かりましたか?」
その笑顔。
俺はその笑顔に。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:36:55.33 ID:KgUBnGFH0
一世一代の大勝負。
正に舞台・ザ・清水。
小学生の頃、初恋のアヤちゃんに告白した時の返事は「息すんな」だったけど。
でも、もう一度だけ勇気を出せ。
俺は、このコともっと一緒に居たいと思ってるんだろう?
だったら、その気持ちを吐き出すだけでいい。
がんばれ。おれ。
「俺は」
106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:38:43.68 ID:KgUBnGFH0
「君が好きだ」
…時が止まった。
何も音が聞こえない。
風の流れも感じられなかった。
一瞬が何時間にも感じられた。
精神と時の部屋かと思うほどに。
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:43:00.39 ID:KgUBnGFH0
「……えへへ…っ…」
その沈黙を破ったのは彼女のはにかみ。
「…センパイ?」
俺が聞いた中でも一番甘やかな彼女の響き。
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:44:04.95 ID:KgUBnGFH0
「嬉しいんですけど…」
けど!?
「宿題は、何であたしがセンパイをデートに誘ったか、じゃなかったですか?」
あ。
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:48:21.78 ID:KgUBnGFH0
「…もしこれがテストだったら三角ですよ? センパイ」
そうやって小さく笑う彼女。
俺はもう顔から血が出そうだった。
先走りとかカウパーってレベルじゃねーぞ。
…ん? でもちょっと待て。
「…三角?」
111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:53:04.73 ID:KgUBnGFH0
「…はい、三角ですっ」
そう言い、近寄ってくると不意に俺の手を取る彼女。
その小さな白い手は暖かかった。
「あと、えと、その」
俺はドギマギして何も言い出せずに。
小柄な彼女は俺の胸ぐらいまでしかなくて。
その俺の胸にそっと重りがかかる。
彼女のつむじはやっぱり綺麗な形をしていた。
「…これから、末永く、よろしくお願いします」
112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:55:31.15 ID:KgUBnGFH0
彼女の言葉は俺の骨を揺らすように、全身に響いて。
血管が普段の3倍の量で仕事をしていた。
「う…ぁ…」
「…センパイ?」
間近で俺を見上げる彼女。
その彼女の綺麗な瞳を夜の街が照らしていた。
「…や、なんか恥ずかしすぎて呼吸困難になりそうだった」
「…えへへっ、恥ずかしいこと言ってごめんなさいです」
そうやって小さく笑う彼女の顔は真っ赤で。
きっとたぶん恐らく、俺の顔も真っ赤で。
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 16:56:54.61 ID:KgUBnGFH0
「…でもさ、なんかズルくね?」
ある事に気付いた。
「はい? なんですか?」
「なんか俺だけ言わされた感がある」
そうなのだ。
俺は彼女の口からハッキリと聞いていない。
ヘタをすれば、あやつられたぐらいの勢いで。
116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:00:00.14 ID:KgUBnGFH0
「あれ? そーでしたっけ?」
彼女は誤魔化すように笑って。
「まーまー、いいじゃないですか。ほらっ、早く帰りましょ?」
俺の手を引く。
だが俺はガンとして動かなかった。
「イヤだ。言ってくれるまで帰らないもん」
「いやいや、もんって…」
呆れたような彼女の笑顔。
「もー…、センパイは意外と子供っぽい所があるんですね? これも新発見です」
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:03:20.48 ID:KgUBnGFH0
彼女は俺の新しい部分を発見する度、そういって嬉しそうに笑う。
その笑顔を見るのも嬉しい事ではあったが、それよりも俺には急務があった。
「ほら、早く。言ってくれ。さぁ、言うんだ!」
俺、調子乗ってね?wwwwwサーセンwwwww
「ううー…」
顔を真っ赤にして困る彼女。
…やっぱり可愛いんだぜ?
119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:06:07.40 ID:KgUBnGFH0
「じゃあー…言います…けど。」
「…けど?」
「…その…顔見られたくないんで…抱き付いても、いいですか?」
彼女は言葉よりも早く俺の胸に抱き付いていた。
…積極的なのか消極的なのか分からないが、俺が嬉しいのは確かだ。
その体は俺の胸にすっぽりと収まってしまうぐらい小さくて。
ムヤミヤタラと保護欲をかきたてられた。
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:08:48.34 ID:KgUBnGFH0
「…言います、よ?」
俺の胸に向かって話しかける彼女。
吐息が熱い。
それ以前に俺の体が熱いんだろうか。
「…その…あたし、は…センパイ、が」
それは小さな声だったけど。
俺は全身を使ってその声を聞いていた。
「…好き………です」
俺はすかさず脳内S級フォルダにその音声を100万回保存した。
121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:10:53.95 ID:KgUBnGFH0
「うー…」
再び顔を上げた彼女は何だか泣きそうな顔をしていた。
「…どーしたよ?」
「…センパイに凌辱されました」
いやいや、凌辱て。
「…嬉しかった。ありがとう」
素直に礼を述べる俺。
122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:14:02.13 ID:KgUBnGFH0
「…うぁー…もー…。センパイ、言わなくても、気付いてたんでしょ?」
彼女の恨みがましい声を聞くのも初めてだ。
「いや、そうかなって思ったけどさ。やっぱり本人の口から聞きたくて」
だってさ。やっぱり言われたいもんじゃん?
「むー…センパイはイジワルですね」
そうやって唇を尖らす彼女。…アヒル?
「…キライになった?」
123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 17:19:33.58 ID:KgUBnGFH0
「…いえ」
そっと俺の手を握る彼女。
この小さな手を、俺はこれから何度握り返すんだろう。
それはまだ分からない。
「…なんだかあたし、イジワルなセンパイも好きみたいです。常識的じゃないですけどっ」
それはまだ分からないけど。
人生初デートの日。
それは人生初めての恋人が出来た日。
138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:34:35.95 ID:KgUBnGFH0
あの日から三ヶ月が過ぎた。
彼女は付き合いだしてからも変わらず、穏やかでよく笑った。
その笑顔を見る度にどんどん彼女を好きになっていく自分を自覚していた。
でも初めてなんだぜ?
DQN風に言うなら初めてカノジョ↑が出来たんだぜ!?
そりゃあ調子にも乗りますよ。
天下布武っすよマジ。
俺の時代始まったなってぐらいの勢いで。
俺は浮かれていた。
そりゃあ、人生で一番ってぐらいに。
―だから、気付けなかったんだ。
139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:39:35.78 ID:KgUBnGFH0
「セーンパイっ?」
昼飯時になるとアイツが俺の教室まで迎えに来てくれる。
それはいつもの日課になっていた。
「おい、嫁が来たぜwwwww」
友人達のひやかしもさすがに堂に入ったものである。
付き合いだしてからの一週間は二人して照れまくっていたが、最近ではそれがむしろ心地よくさえなっていた。
どうよ、俺のカノジョ↑
可愛くね?www
もう見せびらかしたいね。
地球上の全人類に宣伝して回りたいぐらいの勢いっすよwww
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:41:22.52 ID:KgUBnGFH0
「うぁー! 嫁とか言うのはダメですーっ!」
「式には呼んでくれよwwwwww」
友人達のからかいに彼女が顔を赤くして暴れている。
アイツも最初は上級生のクラスという事で借りてきた猫みたいにおとなしかったが、
最近では俺の友人たちとも軽口を叩けるぐらいにまでなったようだ。
142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:43:57.91 ID:KgUBnGFH0
「そんじゃ、行くか」
「はいっ」
二人並んで校庭のベンチまで歩く。
そこはいつも二人で食事をしている場所だった。
「うおー…さすがに暑くなってきたなー」
「そーですねー。そろそろ中で食べるようにします?」
ベンチは真夏の日差しに焼かれ、結構な熱をもっていた。
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:47:44.69 ID:KgUBnGFH0
「や、いいよ。お日様の下で食べるオマエの弁当って美味いし」
「あー…、センパイ、またあたしを恥ずかしがらせようとしてますね?」
コイツの事を知るにつれて色んな事が分かってきた。
初めて会った校舎裏ではあんなに ガンガンいこうぜ だった割に、人見知りだったり。
恥ずかしがり屋なクセに、たまに恥ずかしい事を言う。
「いえいえ、俺は正直な感想を言ったまでですよ」
「そんなコト言ってもオカズは良くなりませんよ?」
そうやって小さく笑う彼女を隣に、日差しを浴びて二人仲良くメシを食う。
そんな日常に俺は幸せという存在を身近に感じていた。
144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:49:24.66 ID:KgUBnGFH0
だがしかし!
ここで大いなる問題がひとつだけある。
そう。
俺たちはこうやってラブっぽい空気を醸し出しているが、その実、特に何もしていない。
そりゃ確かに弁当は作って来てくれるし、休みにはデートしたりもする。
だがぶっちゃけ、未だにキスもしてない。
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:52:06.65 ID:KgUBnGFH0
それは俺がずっと女のコとあまり関わって来なかった事が問題なんだろう。
…あと認めたくないが俺がチキンな事とか。
だってアレだぜ!?
意外と、家に帰ったら突然ネコミミメイドが家にいて「ご奉仕します、ご主人様」な展開じゃないんだぜ!?
どうやってそういうムーデェイ?な空気を作ればいいのか、俺にはさっぱりわからず。
ハウツー本とかも読んでみたが、全く参考にはならなかった。
146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:53:59.77 ID:KgUBnGFH0
そんなワケで俺たちは今時のカップルにあるまじく、
未だにキスもしていないというプラトニック路線を突き進んでいた。
この線路からはどうやって降りればいいんでしょうか。
大手町あたりで乗り換えられないでしょうか。
俺は最近彼女と居ると、正直その事ばかり考えていた。
147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:57:22.81 ID:KgUBnGFH0
「あー。センパイ、また何か考え事してますね?」
そうしてコイツは妙に聡い所がある。
俺が何かを悩んでいたりすると、それを敏感に感じ取ってくる。
それは美徳でもあるが、たまに玉に瑕だ。
「いやいや、特になんもねーですよ?」
「むー。ホントかなぁ? センパイ、最近あたしといると考え事がしてる時が多いですよ?」
148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 18:59:34.36 ID:KgUBnGFH0
それは申し訳ないとは思うし、彼女に心配させる俺はダメな相方だとも思う。
だが、この問題だけはコイツに相談するワケにはいかなかった。
【オマエとキスとかしたいんだけど、どうすればいい?】
って俺はバカか。
そんな事、死んでも聞けるワケが無かった。
153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:07:02.78 ID:KgUBnGFH0
「あ、そだ。センパイ、今度の休み、ヒマですか?」
そんな俺の心情を知ってか知らずか話を逸らしてくれる。
そのさりげない優しさが身に染みた。
「お、どっか行く?」
「はい。前から行きたいと思ってた所があるんですっ」
なんだか妙に気合が入ってるな。
そんなに行きたかった場所なんだろうか。
「ん、どこ?」
「むふふー。それは当日のお楽しみですっ」
そうやってイタズラっぽく微笑む彼女。
「…あ、それと…もしかしたら、場所以外にももうひとつ、お楽しみがあるかもですよ?」
その笑顔は妙に意味深だった。
154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:11:36.83 ID:KgUBnGFH0
そうして来たる休日。
俺たちはひとつのアトラクションの前に立っていた。
「…プラネタリウム?」
「はいっ、そーですっ!」
今日は出会った時から妙にテンションが高い。
普段からあまりテンションの抑揚の無い彼女からするとそれは珍しい事だった。
「…星、見るのか?」
「はいっ、星を見るんですっ!」
だろうな。だろうさ。
プラネタリウムでボーリングをしたという話は今の所聞いた事が無い。
「…星、好きだっけ?」
「はいっ、もう超好きですっ!」
…なんだこのハイテンション。
すいません、今日はちょっと付いていけないかも知れないです。
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:17:58.04 ID:KgUBnGFH0
そうして妙にハシャぐ彼女を隣に受付を通る俺たち。
思った通りというか、なんというか。
客は見事にガラッガラだった。
「ほら、センパイ、はやくはやくっ!」
彼女が俺の腕を引っ張って席に座らせる。
だが、その場所は妙に隅っこだった。
「…あれ? でもプラネタリウムって真ん中の方が見やすいんじゃね?」
「センパイ、分かってませんね? こういうのは、ちょっと遠目に見るぐらいがいいんですよ?」
そうやって笑う彼女。
…だが、その見慣れた笑顔には妙な違和感を感じた。
…いや、今日は朝からおかしいと思う。
でもそんなに星が好きだったんだな、ぐらいにしか思っていなかった。
でもあまりにも見慣れたその笑顔の違和感だけは。
ハイテンションだけじゃ説明がつかないような気がしたんだ。
そうして。
その予感は的中する。
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:23:39.90 ID:KgUBnGFH0
≪ただいまより、上映を開始致します…≫
辺りが急に暗くなり、色っぽいおねーさんの声が響き、静かな音楽が流れ出す。
「お、始まるのな」
「えへへ、なんだかワクワクしません?」
「…正直、かなり」
俺はさきほど感じた違和感の事も忘れて、見事に童心に帰っていた。
子供の時にじいちゃんの家で見た満天の夜空が頭をよぎる。
上映される内容はその夜空以上で。
俺はその光景に心を奪われていた。
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:27:09.71 ID:KgUBnGFH0
上映時間も10分ほどを過ぎただろうか。
初めは彼女も感嘆の声を上げていたが、この厳粛というか、荘厳というか。そんな雰囲気に呑まれたのか静かに星を見上げていた。
「…ん。」
そして俺は右手に暖かな温もりを感じた。
それは慣れた温度で。だからこそ何も考えずに握り返す。
そうして事件は勃発する。
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:30:18.42 ID:KgUBnGFH0
「…せんぱい?」
彼女の声がした。
それは当然だ。隣に座っているんだから。
でも今の声は。
ありえないぐらい近くから聞こえてきた。
「…ッ…ちょ、おま…!?」
静かに叫ぶという器用な事をこなす。
横を見れば、彼女は俺の席に身を乗り出して、完全に俺に体重をあずける形になっていた。
「ど、どうしたっ…?」
164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:34:06.37 ID:KgUBnGFH0
「…んー…なんていうか。ムード満点、じゃありません?」
シレっとした笑顔。その顔は校舎裏の時とよく似ていた。
「え、その、あの、だなっ」
俺はその不意打ちに完璧にテンパっていた。
そりゃ抱きしめた事だってあったさ。
でも、今は、彼女の顔がすぐ間近にあるんだぜ!?
コイツは小柄だから、抱きしめたってその顔は俺の胸ぐらいだ。
けれど、今は座っているから。だから、その顔がすぐ側にあって。
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:39:28.84 ID:KgUBnGFH0
「普通こういう時って…カップルだと、どうすると…思います? …常識的に、考えて」
甘い、囁き。
「…っ…!」
俺は、チキンで。
間近で見るその大きな瞳は闇を吸収するかのように光を帯びていた。
でもだからこそ、その瞳の中に普段の彼女には見えない感情を見つけることも出来る。
…それは、不安。
166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:42:08.65 ID:KgUBnGFH0
【あたしは結構緊張してるのに、センパイが緊張してないのはズルイです】
初めてデートした時のあの言葉が思い出される。
コイツはいつも笑顔だから。
不安とか、恐れとか、苦悩とか。そういった人に心配をかけるような表情を笑顔で塗り固めてしまうから。
…だからこそ、こんなに近くでそれを目撃するまで、気付けなかった。
…彼氏、失格、だな。
167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:45:50.41 ID:KgUBnGFH0
「…いい、のか?」
「…そーゆーこと聞くのは、ルール違反だと思いますよ?」
初めて抱きしめた時と同じあの香りが。
甘い香りが俺の全身を包んでいた。
「…それも、常識的ってヤツ?」
「…はいっ」
そういって彼女は、小さく、笑う。
俺の好きな笑顔で。
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 19:50:28.81 ID:KgUBnGFH0
そうして。
客の居ない、暗がりのプラネタリウムで。
俺たちの距離は初めて零になる。
「…んっ…」
唇が離れたとき、やっぱり彼女は恥ずかしそうに微笑んでいて。
だけれど。俺の勘違いでなければ。さっきまでそこにあった不安は消えているようだった。
「…センパイ?」
「…んー?」
おねーさんの声が遥か遠くに聞こえていた。
俺の五感はどうやらコイツに占領されちまったみたいだ。
「…えへへっ…なんだか恥ずかしいですね?」
「…うむ。かなりな」
170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 20:01:15.89 ID:KgUBnGFH0
「…でも、センパイ。 三ヶ月はちょっと待たせすぎですよ? …これも常識的に考えてですけれど」
「…チキンで、すいません」
暗がりにイタズラっぽく笑う彼女は。
俺の目に、今までで一番可愛く映った。
187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 20:45:31.32 ID:KgUBnGFH0
プラネタリウムからの帰り道。
デートした後は彼女の家まで送っていくのが通例だった。
「でもよー」
「はい、なんですか?」
二人手をつなぎ、夜道を歩く。
その温もりはいつもと変わらなかったけど。
その心の距離はいつもより近い気がした。
「…正直、確信犯じゃなかった?」
俺は思っていた疑問を彼女にぶつける。
189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 20:48:51.59 ID:KgUBnGFH0
「…なんの事ですか?」
俺がそう聞くと彼女はいつもの笑顔だったけれど、やっぱりその笑顔にはかすかな違和感。
…なんとなく思ってたことだが、コイツは相当嘘が上手い。
自分の感情を全部笑顔にしちまってるからだ。
でも俺だって伊達に三ヶ月彼氏をやってきたワケじゃないんだぜ?
その笑顔の裏側に軽くキョドってるコイツを見つけた。
「いや、プラネタリウムって場所といい、席選びといい、朝からのテンションといいさ。
…もしかして今日、キスしようって思ってなかった?」
192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 20:53:43.53 ID:KgUBnGFH0
「…あたしにはなんの事かさっぱりですよ?」
「ホントか? だって、あの時も三ヶ月は待たせすぎとか言って…」
「…センパイ。それ以上言うと、センパイのチキンっぷりを追求しだしますよ? 常識的に考えてw」
その声は明るく。笑顔も完璧だったけど。
なんとなく戦慄を覚えた俺は、戦略的撤退を試みる。
「あー…そ、そうですね。あの、気のせいでした、はい」
コイツはその小柄な体に似合わず、めちゃめちゃでっけぇ人物なのかも知れない。
俺がチキンなだけって説はおいといて、だ。
195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 20:58:01.02 ID:KgUBnGFH0
そうこうしている内に彼女に家の前に着く。
「着いちゃい、ましたね」
「…うむ。着いちゃいましたね」
そこで手を振ってじゃあねって言って、お別れ。
それはいつもの出来事だけど、なんだか今日は妙に名残惜しい。
「…センパイは、嬉しかった、ですか?」
俺が帰る素振りを見せないでいると、彼女が急に斬り込んで来た。
197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 21:01:08.94 ID:KgUBnGFH0
「…何が?」
「もー、この流れだったらアレしかないじゃないですかっ」
そう言い、彼女は小さな手で自分の唇を二回触る。
…その唇は柔らかそうに揺れた。
「…はい、嬉しかった、です。非常に」
なんか俺、コイツの前だとメチャ弱くね?
これが惚れた弱みってヤツか?
199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 21:02:55.82 ID:KgUBnGFH0
「非常にですか。それは良かったです」
満足そうな笑顔で。
「でも、センパイは知らないと思いますけど」
イタズラっぽい笑顔で。
「あたしだってものすごく嬉しかったんですよ?」
最終更新:2007年07月12日 05:18