315 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 22:57:57.77 ID:KgUBnGFH0
そういって部屋を出て行った彼女を見送った後、
主の居ない部屋で俺はどうしたらいいか全く分からなくなっていた。
無駄に部屋の電気を消したり付けたり。
くそ、まぶしいんだよ。
無駄に天井の模様を眺めてみたり。
たまにかおにみえてくることってあるよね。
無駄にスクワットをしてみたり。
ふー、きょうは5かいもできたな。
316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 22:58:13.36 ID:KgUBnGFH0
っていうか何すればいいんだ!?
こういう時、熟練のイケメンならどんな行動をするんだよ。
あ、アレか。タバコとか吸えばいいのか。
いや、まてよ、それは終わった後じゃないのか。
って終わった後ってなんだよ!
終わった後って、何が終わったってんだよ!
いやいやいやいやいや、落ち着け、深呼吸だ。
すーはーすーはー
あ、何か甘い匂いがする。
これってアイツの匂いじゃん!!
あぁ、なんか俺ストーカーくせぇwwwwwww
320 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 22:59:16.26 ID:KgUBnGFH0
5分ぐらいだろうか。
ひとしきり電波を放出したあと、ベッドに座り込む。
何故ってそれ以外にやる事が無いからだ。
ここに来て初めて、ようやく落ち着いて部屋を見渡してみた。
…なんつーか、本当に女のコ、って感じの部屋だな。
色彩といい、小物といい。
でもヌイグルミ類が無いのはちょっと意外かも知れん。
そうして、気付いた。
机の上に置かれた小さな箱。
その中に、見覚えてのあるモノが飾られていた。
324 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:02:25.95 ID:KgUBnGFH0
「…あの時の、ペンダント」
初めてのデートの時。
道端のドレッドから買った安物のペンダント。
その安物のペンダントが、几帳面にデコレートされて、鎮座ましましていた。
…まるで、大切な宝物のように。
…疑問には思ってたんだ。
一度も付けてる所、見た事ないなって。
だが、それは実際に付けてみたら、あまり気に入らなかったかと思っていた。
…これじゃ、付けられないよな。
327 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:05:21.70 ID:KgUBnGFH0
なんだか俺は心があったかくなったような気がして。
その箱をそっと手に取ろうとした。
けれど。
その時、俺の指先に何かが触れる。
……なんだ?
…箱の裏に、何かある。
330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:08:20.90 ID:KgUBnGFH0
箱を持ち上げると、何かが倒れてきた。
…それは紙の袋で。
…それも大量に机の上に広がる。
…それら全てにアイツの名前が書いてあった。
332 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:09:37.50 ID:KgUBnGFH0
俺は一瞬頭が固まる。
…なんだ、これ?
…大量の紙袋。
…ジャラジャラした音。
…アイツの名前。
……なんだ、これ?
334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:11:22.71 ID:KgUBnGFH0
だが、固まってしまった俺の思考回路に急にドシンと大きな音が響く。
何かが倒れたような音。
それも軽いものじゃない。
ある程度、重量があるもの。
そう、それはまるで。
…まるで。人が倒れたような。
344 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:13:51.23 ID:KgUBnGFH0
「…ッ!?」
我に返った俺は彼女の部屋から飛び出す。
だが、構造が分からない。
風呂ってどっちだよ!?
俺はとりあえず玄関に向かって走る。
そうして、見つけた。
351 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:18:22.90 ID:KgUBnGFH0
風呂と思しき場所。
その扉を無遠慮に開け放つ。
そこには。何度も抱きしめた、白い、白い小さな体。
透き通るようなその白は、風呂の青いタイルの中で浮かび上がって見えた。
「おいっ! どうしたんだよっ!?」
浴槽にもたれるように座り込んでいた彼女を抱き起こす。
その白が俺の目を焼く。
「…はぁっ…はっ…ううっ…はっ…!」
…意識が、ねぇ。
369 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:22:13.90 ID:KgUBnGFH0
…なんだよ、これは。
なんだよ、この展開は。
なんでこんな事になってんだ!
なんであんなに薬が出てくるんだよッ!!
「クソッ!」
俺はその場にあったバスタオルを手に取ると、彼女を包み。
そのまま抱え上げ、彼女の部屋に走る。
…なんで、なんでこんなに、軽いんだよ…ッ。
376 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:24:40.26 ID:KgUBnGFH0
「おい、大丈夫かッ!? 聞こえてるかッ!?」
「はっ…くっ…ッ…はっ…はっはっ…、…くうっ…!」
呼吸が、やけに浅い。
それに、痛がっている。
それが、どこなのか、俺には分からない。
俺には何も出来ない。
それだけは分かった。
「待ってろ、今、救急車呼ぶからっ!」
398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:34:50.25 ID:KgUBnGFH0
電話を切った後。
俺はアイツに服を着せようか迷ったけど、結局動かさない方が良いと思い、やめた。
その代わり、体を丁寧に拭き、布団で包んでやった。
…こんな時になんてくだらない事考えてんだって思うだろ?
…でもよ、やっぱり、この小さい身体は、誰にも見せたく、無かったんだ。
俺以外の、誰にも。
ヤケにうるさいサイレンが、近付いて来ていた。
404 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:40:10.27 ID:KgUBnGFH0
それからどれだけ時間が経っただろうか。
一緒に救急車に乗り込んで、病院まで急いで。
車の中で彼女の手を握って、必死に話しかけたけど。
彼女は痛がるばかりで。
俺には、何も、何も。
病院に着いた彼女は、そのまま手術室に運ばれていった。
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:42:29.12 ID:KgUBnGFH0
一時間?
二時間?
三時間?
時間の流れる感覚も分からず。
俺はただ、待合室に居た。
俺にはそこしか居場所が与えられなかったから。
頭の中が、きもちわるいぐらいに彼女の事ばかりを思い出していた。
校舎裏。
ペンダント。
プラネタリウム。
その全てに、彼女が居た。
417 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:44:32.50 ID:KgUBnGFH0
「…あの」
誰かの声がする。
「…あの。すみません」
…あぁ、俺に。話しかけていたのか。
「…何か、用、ですか?」
カサカサに乾いた声が聞こえた。
それは俺の声によく似ている。
440 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:51:28.64 ID:KgUBnGFH0
声のした方を見ればそこには女性。
年の頃は30代だろうか。
「あぁ、やっぱり。初めまして、あの子の母です」
よく見れば彼女は背が低く小柄だった。
…親ゆずり、なんだな。
「ハジ、初めましてっ! 俺、いや、僕はっ!」
…何言ってんだ俺。落ち着けよ。
450 :◆H48DEEqQ8g:2007/07/11(水) 23:55:08.68 ID:KgUBnGFH0
「いえ、あの子からよく聞いていますよ、先輩さん?」
そう言ってその人は穏やかに笑った。
それはドキッとする笑顔で。
アイツによく似ていた。
いや、アイツがよく似ているのか。
「…彼女は、どうなりました?」
「えぇ、あの子なら落ち着きました。
あなたに会いたがっていますよ」
463 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/11(水) 23:58:51.76 ID:KgUBnGFH0
世界が、色を取り戻す。
同時に頭が軽く揺らめいた。
…あぁ、そうか。
今まで気付いてなかったが、俺は極度に緊張していたんだな。
…こんな時まで、大したチキンだ。
「…良かった、です。」
搾り出せた声はたったそれだけで。
自らの語彙力の無さに軽く鬱る。
476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 00:05:22.53 ID:HL5QyLz70
「ごめんなさい、心配させてしまったわね」
「いえ、いいんです。彼女が無事なら」
俺がそう答えると、その人は俺の近くに腰を降ろす。
「…少し、お話、してもいいかしら」
こうして少し喋ってみるだけで品の良さが伝わってくる人だ。
…アイツ、意外とお嬢様だったのかも知れない。
「あ…、はい」
「ありがとう。 …ふふっ、でも、あの子に怒られてしまうかも知れないわね?」
…それがどういう意味なのか深く考えないようにした。
488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 00:12:03.41 ID:HL5QyLz70
「どこから…話したらいいのかしらね?
あなたに会う事があったら、たくさん話したい事があったものだから」
穏やかに笑う女性は、なんだか俺の事を優しい視線で見てくれているようだった。
それから色んな話を聞いた。
生まれつき身体が弱かった事。
それなのに、身体に対する不満や愚痴を母親にさえ、一言も言わない子だったという事。
でも、やっぱりどこか引っ込み事案な子に育ってしまい、あまり友人と呼べる人は居なかったという事。
けれど、俺と知り合ってから明るくなったという事。
俺との話を嬉しそうにしていたという事。
…胸が、熱い。
最終更新:2007年12月09日 22:44