704 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:06:47.62 ID:HL5QyLz70
「…それはもう…、どうしようも無い、事、なのですか?」
「…はい。…ごめん…ごめん…なさいっ。
ずっと、ずっと言おうって…思ってたのに…っ…。
言い出せなく、って…センパイが…センパイが優しかった…からっ。
優しくしてくれた…から…言えなく…てっ…。」
「…俺は。俺はオマエの側に居たいよ。
どうなったって…かまやしない。それでもオマエの側に居たい。
それだけじゃ、ダメなのか?」
722 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:19:15.44 ID:HL5QyLz70
「ダメですっ!」
彼女の小さな叫び声。
病室に小さくこだまする。
「…ダメ…です。それは、それだけは絶対…、ぜったいダメ…、ですっ」
「…なんで、だよ」
彼女が空を、見上げた。
窓枠に切り取られた四角い世界。
けれどその世界はどこまでも広がっていて。
何故だかそれが羨ましかった。
「あたしは…あたしは、今まで…、
色んな人に迷惑をかけて、生きて来た、から。
だから…、なるべく、迷惑かけないようにって…、困らせないようにって…、そうして…、来た、から。
それなのに、なのに、最後に、最後の…最後に、
一番、大好きな…人を、いっぱいいいっぱい困らせるなんて…、絶対に…絶対に、ダメ、です。」
涙交じりだったけれど。それは絶対的な強さを持った、強い、強い声だった。
724 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:20:49.96 ID:HL5QyLz70
それは彼女の生き方。
それは悲しい処世術。
それは彼女の誇り。
…そんな彼女だから、俺も好きになった。
…そして、今、この時も。どんどんと彼女の事を好きになっていく自分が分かる。
…けれど。だからこそ。
………その誇りを汚す訳には、いかないんだ。
731 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:24:52.90 ID:HL5QyLz70
「…そっか」
「…はい、ごめん…、なさいっ…」
「…すまん。無理に聞いちまった」
「…んーん。センパイは…いつだって…優しかった…ですっ」
「…たぶんだけどさ。…オマエより優しい人には…当分、会えねーよ」
「…そんな事、無いです…ってば。 センパ…イ? 何を期待…して、そんな事、言ってるんですか?」
二人して、空ばかり見ていた。
下を向いたら、もう二度と、上を向けないような気がしていたから。
735 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:31:08.99 ID:HL5QyLz70
「…手、握ってくれると、嬉しい、です」
彼女がポソリと呟いた。
本当は抱きしめたかったけれど。
それを彼女は恐らく望んでいない。
今までずっとチキンだっただろ?
今までずっと彼女に頼ってばっかだったろ?
…だったら最後ぐらい。最後ぐらい、男、見せようぜ。
「…ん。」
小さな、白いその手を。
とても小さな、白い綺麗なその手を。
握り締める。
741 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:36:04.52 ID:HL5QyLz70
「…なんかさ。オマエの手、握ってるとさ」
「…はい、なんですか?」
「校舎裏の事、思い出すよ」
「…えへへ、あれは今思い出しても恥ずかしいですね」
「…オマエさ。恥ずかしがり屋な事とか、人見知りな事とか、あん時、全然見せなかったよな」
「それはもー、勇気、フルチャージでしたからっ」
742 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:39:43.23 ID:HL5QyLz70
「…それから初めてのデートに行って」
「…センパイの答えは三角でしたね?」
「…ぶっちゃけ、あん時さ、俺から言わせようとしてなかった?」
「…あたしが、そんな事するワケないじゃないですか、やだなーもう」
「…本当に?」
「…ホントは、言ってくれたらすごい嬉しいなーとは、思ってました」
744 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:42:00.79 ID:HL5QyLz70
「…プラネタリウムの時もそーだったし…オマエって結構策士?」
「…えへへー。どうでしょうかね?」
「………」
「………」
「…あの、さ」
「……はい、…なん…ですか?」
752 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:48:21.20 ID:HL5QyLz70
「…俺、オマエの事、ずっと好きかも知れない。それこそ一生」
「…っ…!
えへっ…えへへっ…やだなぁ…センパイ。
…そういうことは…滅多に言っちゃダメ、なんですよ? …常識的に、考え…て」
「…オマエは?」
「…ヤ…だな。言いたく。言いたく、無いのに。なんで言わせようと、するんです…、か?」
「…やっぱさ。最後ぐらい、言って欲しいじゃんか」
「…もー…センパイは…やっぱり、イジワル…ですねっ?
…じゃあ…一度、一回だけ、ですから…ね?」
「…あぁ」
「…一回だけ、だから…。
だから、ごめん…なさい。許して欲しい…です。
あたしもッ…あたしも、センパイが…、一生…一生、好き…です…よ…っ…?」
755 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:51:48.49 ID:HL5QyLz70
「…あのさ」
「…はい、なん…ですか…?」
「…俺ら、最高に幸せなカップルだったよな」
「……はいっ…!」
そうして。
俺たちはきっぱりと。
別れたんだ。
766 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/07/12(木) 04:58:17.41 ID:HL5QyLz70
それから二ヶ月が過ぎた。
あの日から、俺は魂が抜けたようで。
アイツの事ばかり、考えていた。
今まで毎日のように会っていたのに会えないのが辛くて。
会いたくて。会いたくて、どうしようもなかった。
…でもアイツは、こんな気持ちのまま、戦ってるんだ。
…それを、邪魔しちゃいけない。
…アイツとの約束を、破る訳にはいかない。
780 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:07:04.08 ID:HL5QyLz70
そうして、ある日の深夜。
電話が。鳴った。
…母君から、だった。
「…お久しぶり、です」
「…えぇ。お久しぶりですね」
「…あの…俺…」
「…ううん。何も。言わないで下さい。
あなたは、あのコに掛け替えの無いものを与えてくれたと思うから」
そうして手渡されたのは、一通の手紙。
「…これ、は?」
「…あのコが、あなたに、と」
それは小さな、白い封筒で。
とても小さな、白い綺麗な封筒で。
797 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:21:32.85 ID:HL5QyLz70
震える手で、封を、切る。
…そこにはあの頃と全く変わらないアイツの文字が並んでいた。
【セーンパイっ。お久しぶりです。元気、してますかっ?
それと、ですね。こんな手紙、お母さんに頼んでごめんなさいです。
本当はすごく迷ったんですけど、でもそれだとチキンなセンパイは引きずってしまうと思ったからw
だから、ちょっとだけズルしちゃってもいいですか?w
あのね、センパイ。
センパイはは自分の事でよく悩んでいたけれど。
センパイは本当はすごく優しくて、そっと心を暖めてくれるような人なんですよ?
このあたしが言うんだから間違いないですっ。
…だから、そんなセンパイと一緒に居られて、あたしは本当に幸せでした。
センパイと知り合えなかったら、あたしの青春、すっごく灰色だったと思いますもんw
あの日、センパイがあたしの事好きでいてくれるって言ってくれて…本当に、本当に嬉しかったです。
でも、だから。そんなあたしを幸せにしてくれた優しいセンパイだから。
だからこそ、センパイには、幸せになって欲しい。
誰かの事を。あたしじゃない誰かの事を、幸せにしてあげて欲しいです。
あ、これは、あたしからの、宿題ですからっ。
常識的に考えて今度は三角じゃ許さないですよ?w
じゃ、センパイっ。
ちょっとだけお先に失礼しますね。】
806 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:27:46.39 ID:HL5QyLz70
【追伸: 天国で待っています 】
「ッッッ…!!!! うぁ…ッッッ……ああああああッッッ!!!!」
俺は母君の前で。
ひと目もはばからずに泣いた。
全身の水分が流れ出てしまうのでは無いかというほどに。
頭の中はグルグルと色んな事が混ざり合っていた。
けれど。
心の中心ではたったひとつだけ。
くすぶる事の無い、たったひとつの、想い。
俺も。オマエに会えて、良かった―――
813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:29:46.74 ID:HL5QyLz70
それからいくつかの星が巡り。
ある男が家族に看取られて死んだ。
827 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:36:06.26 ID:HL5QyLz70
「…よぅ、久しぶり。」
「はいっ、お久しぶりですっ」
「随分、待たせちまったかな?」
「いえいえ。結構あっという間でしたよ?」
「そうなのか? 俺にしたら結構長かったんだけどな」
「あー、昔の彼女を思い出して泣いた夜もありましたねぇ?w」
「…ってなんでオマエ知ってんだよっ!」
「…あれ、ホントだったんですか?」
「…ッー…なんかオマエ、しばらく見ない間にあやつりレベル上がってね?」
「そりゃもー、日々精進ですから。でもこのスキル、特定の人にしか発動しないんですけどね?w」
838 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/07/12(木) 05:47:01.33 ID:HL5QyLz70
「じゃ。ま…、行きますか」
「…はい。行きましょっか」
それは、心より穏やかで。
「でもさー。オマエだってさっさと行っちまったクセに、なんだかんだで待っててくれたんだろ?」
「うー…そりゃまぁ、そう…ですけど。」
「被告人、それは何故なのかね?」
「うぁー! なんかイジワルレベルが上がってますー!」
「いいから、ほら、答えろよ?w」
それは、俺が大好きだった笑顔。
「むー…、センパイのイジワルに耐えられるのはあたししか居ないからですっ! 常識的に考えてっ!w」
終
最終更新:2007年07月12日 05:48