暗い階段を駆け上がる。 超高層ビルに入り、3時間休むことなく上層を目指し、留まることがなかった足には相当な疲労があった。 見つかるわけにはいかない。見つかってはならない。 そのため、監視カメラのついたエレベータを使うわけにはいかなかった。 二段飛ばしで階段を上り、ビルの最上階を目指す。 ここは何階だろうか、階段を何段上ってきただろうか。 体はすでに疲れきって、上るという行為に集中できず、無駄な思考を繰り返す。 「……ッ!」 階段の最後の段差に足を引っ掛けてしまい、踊り場に倒れこんでしまった。 早く立ち上がり、また階段を上り、一秒でも速く辿り着かなければ…… その想いとは裏腹に重くなった体は立ち上がろうとしない。 少し休憩が必要だろうか。そう考えた時、誰かが俺を呼んだ気がした。 その声の主は俺のそばに駆け寄り、横たわった俺の体を揺さぶり続けるが、 荒げた呼吸のせいか、うまく言葉を発せないでいた。 -大丈夫、心配ないよ。少しこけただけだから- そう伝え、安心させたかった。 安心させたかったはずなのに…… 揺さぶられる体の感覚はなく、俺を呼ぶ声はもう聞こえない。 かろうじて揺れる視界に彼女を捉えた。 ここで終わる。 不意に頭を過った考えに戦慄した。 どうしようもない絶望感。 抗えきれそうもない、強烈な眠気に襲われる。 俺は死を覚悟し、最後の力を振り絞った。 そして、終わる中、必死に俺を呼び続ける彼女を捉えた。 そこで俺の意識は絶命した。
最終更新:2012年07月16日 03:01